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2017_10
12
(Thu)21:59

5章 第2話

オリジナル小説 『カタクリズム』
5章 第2話 【かくれんぼ】

思ったより文量行かなかったなぁ…という訳で更新です!
今回はサラとシャルルのお話がメインです(*´∀`*)

では、続きを読むからどうぞー。



【かくれんぼ】






「シャルルって好きな人いるの?」



サラの一言が忘れていた古い古い記憶を呼び起こす

あれはいつだったっけ……確か10歳を過ぎた頃だったかな?
あの頃のアタシは人間が好きになれなかった
だって、いつも変な目を向けてくるし、身体を触ってくる奴もいた
そんな相手を好きになれる訳ないでしょ?

それでも笑顔でいないともっと酷い目に合わされてしまう
だからアタシは笑顔を絶やさなかったんだ
少しでも気に入られるように、少しでも穏やかに生きれるように……


でも、1人だけ違う人がいたの


ある日、サラが連れてきた人…2等級冒険者、不動のシルト
なんであんな有名人がアタシ達の家にいるのかとビックリした
それよりもサラが人間の男の人と話している事の方がビックリしたけど

あの日以来、シルさんはサラに剣を教えるためにウチに通ってくれた
週5日くらいは来てたかな?あの頃のシルさんって暇だったのかな?
ま、それはいいとして、あの頃のアタシはシルさんを疑ってたんだ

だってアタシ達に優しくするメリットがないでしょ?
人間はいつだってアタシ達に酷い事をしようとしてくる
酷い事をしてこない人間はアタシ達を利用しようとしてくる
そのどちらかしかいないと思い込んでた

でも、サラが自分から連れてきた人を無下にも出来なくて、
あの子が何かを始めようとしているのを止める事はしたくなくて、
アタシはシルさんがいるのを受け入れたんだ

ハッキリ言うと、シルさんを小児性愛者(ロリコン)だと思ってたよ
でも、どれだけ観察してても、シルさんは変な目を向けて来なかった
それでもアタシはまだ疑ってたの、人間はいつもそうだったから

もしサラに変な事したらぶっ殺してやろうと思ってた
アタシじゃ勝てないのくらい分かってたけど、
サラを逃がすくらいなら何とか出来る…と思いたかったんだ
だからアタシはいつでも果物ナイフを隠し持ってたの

そんな日々がしばらく続いて、
サラが稽古で足に怪我をしちゃった日があった
捻っただけだったみたいだけど、サラは自分では歩けなくて
シルさんが抱き上げてアタシ達のベッドまで運んでた
丁度そのタイミングでアタシが帰ってきたんだ


ついに本性を現した!そう思った


アタシは果物ナイフを後ろ手に隠しながら、
足音を立てずにシルさんに近づいた
シルさんはサラをそっとベッドに寝かせ、笑顔を向けて頭を撫でてる

嘘だ!あの顔も全部嘘なんだ!
まだアタシは気づかれてない、この距離ならいける!

一蹴りで一気に間合いを詰めて
隠し持ってた果物ナイフでシルさんの脇腹を思いっ切り刺した
シルさんはサラに剣を教える時はいつも鎧は着てないから、
5センチはある果物ナイフは根本まで刺さってた
今も忘れない、あの感触……気持ち悪かった

でもね、シルさんは笑顔のままサラの頭を撫でて、
それからアタシの頭も撫でたんだ……

「大丈夫だよ、サラを治してあげて」

そう言ってシルさんは笑顔を向けてきたの

頭撫で

アタシは震える手で果物ナイフを握り締めたままだった
怖くて、怖くて、怖くて…手が放せなかった

その手をゆっくりと外してくれて、
サラに気づかれないようにアタシの手についた血を綺麗に拭いてくれた
それでまた笑顔を向けてくるんだ「サラをお願いね」って

サラに見えないように脇腹を押さえながらシルさんは出て行って
残されたアタシはただ呆然としてた
床を見ると、シルさんの血の跡が出口へと続いてる……

それを見てアタシの視界がぐにゃりと歪んだ
涙が溢れてきて、その場でうずくまって泣いちゃった

サラは心配してたけど、多分気づいてない
アタシがシルさんに許されないことをしてしまった事を……

この時アタシは気づかされたんだ
シルさんは他の人と違うんだ、って
信じていい人なんだ、って

疑ってた自分が恥ずかしくなった
してしまった事の罪悪感に胸が張り裂けそうだった

・・・・・

・・・



あれから数日シルさんは顔を出さなかったの
そんな事はサラに剣を教え始めてから初だったと思う

あの頃のアタシは毎日サラに見つからないように泣いてたのを覚えてる
謝りたかった、どうしても謝りたかった
だからアタシはシルさんを必死に探したんだ

2日ほど探し回ったけど見つける事が出来なくて、
半ば諦めかけた時にふと思いついたんだ、あそこなら、って
ハーフキャットであるアタシは近寄るだけで怒られちゃうから、
その発想自体が頭の中からすっぽりと抜け落ちてた

シルさんはラーズ教会で生の魔法による治療を受けてるんだ
アタシに刺された傷を治すために……

教会に入れないアタシは外でシルさんを待ってた
何時間待っただろう…昼過ぎからここにいるけど、もう陽が落ち始めてる
そろそろ諦めて帰ろうかと思った時、シルさんが出てきた

姿を見た瞬間、また涙が溢れちゃって
その場にしゃがみ込んで恥ずかしいくらい思いっ切り泣いちゃった
アタシに気づいたシルさんは駆け寄ってきてくれて
第一声にこう言ってくれたんだ

「どした、大丈夫か?どこか痛いの?」

彼の心配してくれる声がアタシの耳に届いてたけど、
溢れる涙は止められなくて、言葉を出そうとしても上手くいかなかったの

痛いのはシルさんじゃん、何でアタシの心配してんのって感じだよね
でもシルさんってそういう人なんだ、うん、知ってる
アタシの醜い感情なんて全部勘違いだった
これじゃアタシが嫌ってた人間よりアタシの方が全然酷いよ

自己嫌悪で潰れそうになっていると、彼は優しく頭を撫でてくれた
ゴツゴツとした手が耳に触れる度にこそばゆくて、
でも嬉しくて、温かくて、もっと涙が出てきちゃった

思わずシルさんに抱きついて、彼の胸でわんわん泣いちゃって
泣き疲れて寝ちゃったんだよね、ははは…今思うと恥ずかしいな

起きたら自分の家のベッドで寝てた
サラが言うにはシルさんがおんぶしてきてくれたみたい
その時の事はあまり覚えてないけど、広い背中だけは少し覚えてる

その日の夜、アタシはベッドの中でシルさんの事を考えてた
優しくて、温かくて、強くて…他の人間とは全く違う
アタシはシルさんの事を……

「…シルトさん」

隣で横になってるサラの声がしてアタシはビクッと身体を強張らせた
見るとサラは寝てた……寝言か、驚かさないでよ~、もう
そんな理不尽な文句を心の中で呟き、アタシはサラの寝顔を眺める

サラは…シルさんが大好きなんだね
すやすやと眠る彼女の頭をそっと撫でるとアタシの頬は緩む


アタシは……シルさんをどう思っているんだろう?


いい人だとは思う
たまに怖い時もあるけど、それはいつもアタシ達を守る時だけ
なんていうか…お父さん?いないから分からないけど

いくら考えても答えは出ず、気がつけば夢の中へと旅立っていた

・・・・・

・・・



それから3日が経った頃、
シルさんが沢山の食材を抱えてウチに来た

「どうしたの?それ」

アタシは気になって聞いてみたんだ、そしたら

「ん、こないだサラと約束してね、ご飯作ってあげるよ」

「ごはん?」

そんな約束など聞いてなかったアタシにはよく分からなかった

「シャルル、火おこせる?」

「え、あ、うん」

初級の火の魔法で小さな火ならおこす事が出来る
これはシルさんから教わった魔法の1つだ
彼自身は魔法を使えないらしいけど、沢山の魔法を知ってた
それを全部アタシに教えてくれたんだ

アタシが火をおこすと枯れ草が一気に燃え上がり、かまどに火が入る
すぐに細枝などを焼べて行き、薪を入れて火を安定させた

「ありがと、んじゃササっと作っちゃうね」

そう言ってシルさんはテキパキと料理を始める
その様子をサラと二人で好奇の眼差しで見ていた

「あ、これ洗ってきてくれる?」

アタシ達が食べた事のない野菜の数々をザルに乗せて渡してくる
サラと二人でそれを少し離れたところにある川に洗いに行き、
二人でどんなご飯が出来るのか想像しながら洗っていた

当時のアタシ達の発想など貧困で、
具の無いスープや干し肉くらいかと想像していた
干し肉ですらアタシ達にとってはごちそうだったんだけどね

二人で洗い終えた野菜を抱えて家へと向かうと、
このスラム街では嗅いだ事もないような食欲をそそるいい香りがしてきて
アタシ達は顔を合わせ、笑顔になって家の中に飛び込んだのを覚えてる

その匂いは魚や海老や貝などの水産物を
塩で包み込んで蒸し焼きにしてる料理だった

水産物…それはラルアースではドラスリアでしか手に入らない食材
そのため、かなり高級食材に分類されるモノだ
もちろん当時のアタシ達は食べたことなどなかった

よだれが出そうになる芳醇なその香りに胸を踊らせ、
今か今かと料理が完成するのを待ち侘びた

「二人の好みが分からんかったから、今日は色々作るぞ」

「「おー!」」

そう言ってシルさんは野菜を雑に切り、大きな鍋に入れていく
野菜に軽く焼き目がつくまで炒めたら
鍋に先程蒸し焼きにしていた魚から出た汁を加え、
そこに水を大量に加えて、更に見知らぬ黒い板?みたいのを入れていた

「それなに?」

「これ?昆布って言ってね、海で採れる美味しい物だよ」

「へー!」

弱火のまましばらく置き、先に入れた昆布を取り出す

「え?それ出しちゃうの?」

「うん、これは出汁を取るために入れたから」

「だし?」

「ん~、美味しくなるための隠し味、みたいな?」

「ほぇ~」

アタシは何を言ってるのか分からなかったが、
多分すごい事なのだろうと理解した
だって、食材を味をよくするために使い捨てるのだから
そんな勿体無い事は当時のアタシ達には想像も出来ないことだ

「ね、それすてちゃうの?」

「え…ん~、捨ててもいいけど、食べてみる?」

「いいの!?」

「熱いから気をつけなね」

シルさんは昆布を小さく2つに切ってアタシとサラにくれる

「わー、ありがと」

「にししっ」

パクっと口に含んだ瞬間、口の中いっぱいに広がる香りが鼻を抜け
脳天まで響くかのような衝撃がアタシ達を貫いた

『おいしー!!なにこれなにこれ!』

「うんうん、おいしい、はじめてたべた」

もっと食べたかったが、シルさんがそれを許してくれない

「あまり食べないの、もっと美味しい物作ってるからお腹減らしておきな」

アタシ達は渋々我慢した…というのは嘘だ
シルさんの目をかいくぐって昆布の小さな切れ端を2つ頂戴する
それをサラと分けて、二人で口に含んで噛まずに飲み込まずに味わっていた

次々に料理は完成してゆく
それはどれもアタシ達の知らないモノだった

大きな豚肉の塊を厚めにスライスしてニンニクをたっぷり使って焼いた物や、
生の野菜を食べやすいサイズで切り、酸味のあるソースをかけた物、
大きく切った野菜がゴロゴロと入った温かい白いスープ、
魚介類の塩蒸し、ふわふわのパン、ほかほかの真っ白なお米
更には紫色の果実の飲み物や、オレンジ色の果物まであった

夢でも見た事ないような豪華な料理の数々が並んでいた

「じゃ、食べようか」

『おー!』

「わー」

「待った待った、食べる前は?」

「「?」」

アタシ達は何も知らなくて首を傾げたっけ
それにはシルさんはため息を洩らして、優しい口調で言ってくれた

「食べる前には"いただきます"って言うんだよ」

食材を作ってくれた人や、食べられる幸福に感謝しないとね、と彼は付け足す
アタシとサラは顔を見合わせてから頷き"せーの"の掛け声で言う

『いただきます!』
「い、いただきます」

夢でも見ているかのような気分だった
どれもアタシ達の食べたことのない味ばかりで、
どれも想像を遥かに超える美味しさで、
今まで食べてた物が本当に食べ物だったのか疑ったくらいだ


涙が出た


それは嬉しさからなのか、悲しさからなのは分からなかった
でも、サラもアタシも泣きながら食べていたのを覚えてる

この日、アタシ達は本当の意味での"美味しい"を初めて知ったんだ

アタシは特に肉が気に入った
がつんと来る肉の味、口いっぱいに広がる肉汁、
ニンニクのピリッとした辛味と豚肉の甘み…ほくほくの白米との相性は抜群だった

サラは野菜が気に入ったようで、ずっとポリポリと食べてたのを覚えてる
あれはちょっと小動物みたいで可愛かった

夢中で食べて、気がつけば吐きそうなくらい食べてて、
でももっともっと食べたくて無理をしようとしてた時、
シルさんに怒られたんだっけ

「いつでも作ってあげるから無理しないの」

アタシはその言葉を忘れない
アタシ達にとって"いつでも"って無かったんだよ、知ってる?シルさん

明日なんて分からない、その日を生きる事で精一杯だった
そんなアタシ達に"いつでも"をくれたんだよ
次があるんだ、って…期待していいんだ、って

嬉しかったなぁ……幸せってああいうのを言うんだと思うの
アタシはそう感じたし、サラもそうだったみたい


この頃、アタシの中でシルさんへの感情が小さく揺れ始めてた


・・・・・

・・・



今日は"チェシャ"には珍しい護衛の依頼だった
ある商人さんの取引先へ向かう道中の護衛ということだったけど、
アタシ達の姿を見た商人さんは自分の用心棒と勝負をしろと言ってきた

サラとアタシは頑張って戦った
人間の大人の男の人と戦うのは怖かったけど、サラは負けてなかった!
アタシは何も出来なかったけど、実力が認められて雇ってもらえる事になった
その日はいつもより少し多い報酬に喜びながら二人で帰ったんだ

家に戻ったらシルさんが待っていて
またアタシ達にご飯を振る舞ってくれたよね
シルさんは本当に"いつも"をくれたんだ

アタシの中で不思議な気持ちが育っていくのが解った
でもそれはその日の夜に……

「シルさんホントいい人だよね」

「うん」

サラは帰ってしまったシルさんをいつまでも見送るように外を眺めてる

「お父さんってああいう感じなのかなぁ」

アタシは前から考えてた事をサラに打ち明けてみた

「そう・・・なのかな?」

やっぱサラも分からないみたい
仕方ないよね、アタシ達に両親はいないんだから

「サラはシルさんどう思うの?」

「え・・・なんだろう・・・お父さんとかとはちがう気がする」

サラはあっさりとそう断言した
それはアタシにとって衝撃的な一言だったんだよ
アタシの気持ちとは違うんだ、そう思えた

「そっか、サラはシルさん大好きだもんね」

「ん?うん」

そう、サラはシルさんが大好き
それはアタシの思う好きとは違う好き……だと、思う

「にしし、それじゃ寝よっか」

誤魔化すように笑って、もう寝てしまおうと思った

「うん」

灯りを消して、手を繋いで一緒の布団に入る
サラはすぐに寝てしまったけど、アタシは眠れそうになかった


アタシの想いは…サラと違うのかな……


そこで気づいちゃったんだ
アタシはサラが大切、シルさんも大切、二人共大好き
それは紛れもない真実、アタシの本心

それでね…気づいちゃったんだ……

アタシがもしサラと同じ"好き"になったら
シルさんはどちらかを、ううん、もしかすると二人共ダメかもだけど、
選ばなきゃいけなくなっちゃうでしょ?

もし…もし、サラが選ばれなかったら……アタシには耐えられない
もし、アタシが選ばれなかったら、サラはどう思うだろう…って
だからアタシは決めたんだ


この"始まらなかった初恋"は胸の奥底にしまおう、って


もう二度と表に出すのはやめよう、って
それは嫌じゃなかったんだよ、だって二人が大好きだから

それから長い時間を3人で過ごして、
胸の中にあった気持ちはアタシの心に溶けて消えて行った

今考えるとシルさんを、とか想像も出来ないけど
それよりも、サラがやっと自覚してくれて嬉しいんだ


アタシは二人が大好きだから


サラもシルさんも幸せになってほしい
出来ればその傍にアタシもいたい、ずっと一緒にいたい
それが今のアタシの本心

・・・・・

・・・



夜の闇に覆われた大森林の中、焚き火の明かりだけが二人を照らしている
ゆらゆらゆらゆらと…

「シャルル…?」

サラが心配そうにシャルルの顔を覗き込む

「あ、ごめん、ちょっと考え事してた」

にししと笑って誤魔化すが、気づかれてないかな?
大丈夫…だよね、アタシは上手くやってる

「好きな人かぁ、アタシはまだそういうの分からないかな~」

「そうなの?」

「うん、今はそれよりも魔法覚えたいしね!」

「そっか」

サラは少し残念そうに、でもホッとしたように言う

「ね、サラ」

「うん?」

「シルさんの事、大好き?」

「……うん」

恥ずかしそうに顔を染め、俯きながらも彼女は答える
その愛らしい姉妹を思いっ切り抱きしめたくなるが、
アタシはこの言葉を彼女に贈らないといけない

「絶対見つけ出して連れ戻そうね」

「うんっ」

サラの表情はパッと明るくなり、目尻に少し光るモノが見える

そう、これでいいんだ
アタシの幼い頃の想いなんて知らない方がいい


この隠恋慕(かくれんぼ)はアタシの一人勝ちだ


サラに迷いが生まれたら嫌だから、
それじゃ幸せになれないから、だからこれで良かったんだ
自分の選択は間違っていなかった、そう確信できた

なら後は簡単だよね、アタシに出来る限りサラを応援すればいい
それがアタシ達にとって幸福な未来に繋がると信じているから……

「そう言えば、サラってシルさんのどこが好きなの?」

「え…ぜ、全部?」

「あはは、ベタ惚れだねー」

顔を真っ赤にして俯くサラの肩に手を回して続ける

「アタシは応援してるよ、いつでも頼って!」

「うん、ありがと、シャルル」


二人の長い夜はもうすぐ明ける……


・・・・・

・・・



翌日、世界を凄まじい振動が襲う
地震の類ではなく、ドンッ!と1度だけの激しい揺れだった
だが、耐震構造などしていなかった家などは倒壊し、甚大な被害が出ている

この振動の原因は、1等級冒険者・月光のリーダー
月華のシウの発動した四神結界によるものだ

突如として現れた巨大はドーム状の結界に人々は驚いた
だが、その中でうごめく悪魔達を目にし、人々は歓喜したのだ
悪魔の脅威は去った、誰もがそう思っていた
この結界の外に700にもなる悪魔達が存在する事など知らずに…

「凄まじい揺れしたが、皆は大丈夫だろうか?」

エインは皆の状況を確認するため見渡している
ここが森の中なことが幸いしたのか被害は無く、皆無事のようだった

「はい、大丈夫です」

リリムは倒れた荷物を直している
その横でアシュやプララーも手伝っており、
オエングス、イエル、マルロは食料の確認をしていた

そして…ミラは孤立していた

先の告白がまだ後を引いており、微妙な空気が流れたままなのだ
自ら歩み寄る事も出来ず、受け身になるしかないミラは、
このもどかしさに歯をギリっと噛み締めていた

「ミラさん、こっち手伝ってくれますか?」

そんなミラにいつでも声をかけるのはリリムだ
彼女の一言に何度救われているか判らない

「はい、今行きますわ」

何とかこの状況を打破しなくてはいけない
そう思っていてもキッカケが無いのだ

黙々と作業をこなし、旅は再開される

徐々に雪も深くなってきたため、アムリタが近い事が分かる
馬車の車輪を外し、ソリに切り替えて雪道を進んで行く
平原より遥かに移動速度が落ちるが仕方ない

何度目かの野営の夜
エインがオエングスの元を訪れていた

「どうかしましたか」

「はい…お願いがあって来ました」

「なんでしょう?」

オエングスはマリアンヌから授かった赤いマントを正し、
エインを正面から真っ直ぐ見つめて彼の言葉を待つ

「弟子にしてくださいませんか」

「弟子…ですか?」

「はい」

突然の提案に彼の美しい眉間に一瞬シワが寄ったが、
彼は笑顔でこう答える

「えぇ、構いませんよ、私でよければ、ですが」

「ありがとうございます」

エインは深いお辞儀をするが、すぐにオエングスに言われる

「堅苦しいのはやめましょう、師弟と言っても私と君は戦友だ」

「ありがとうご……ありがとう」

ニコっと笑顔になるオエングスの顔は本当に女性と間違えそうなほどだった

それから野営の度にエインはオエングスから剣技を学んだ
そして、内に秘める魔力の、神との繋がり方を学んだ
まだまだ思うようには出来ないが、ほんの少しだけ分かってきた気がしていた

「ちょっとエイン君の魔力を見せてもらうよ」

そう言ってオエングスはエインの顔に手を添え、
瞳を閉じて集中してゆく……

「なるほど…今の君は風と火の性質が強いようだ」

「風と火…ですか」

エインは自身の左手を見ながら言うが、
さっぱり分からないのだ…自分に魔法…いや、魔力を操る姿が想像出来ない

「やってみようか」

「はい!」

「少し待っていてくれ」

オエングスは踵を返し、エインに背を向け行ってしまう
しばらくして戻ってきた彼の横には火の巫女イエルがいた

「イエル様、どうして…」

「彼に呼ばれてね、手伝ってくれってさ」

「はぁ…そうですか」

エインは疑問だらけの顔でオエングスを見る
すると、彼は笑顔でこう言った

「無理矢理鍵を開けるから、巫女様に手伝ってもらおうと思ってね」

「鍵…ですか?」

「あぁ、君の中にある魔力の栓とでも言った方がいいかな
 それをこじ開けさせてもらう…最悪死ぬかもしれないけどいいかい?」

彼は爽やかに、一寸の迷いも悪気も無く言う

「…死ですか」

「大丈夫さね、あたしがいるんだ、いざとなったら無理矢理閉じるさね」

「は、はい」

正直心配だ、何でもかんでも無理矢理ばかりじゃないか

「君に1度魔力というモノを体験してほしくてね
 やはり言葉よりやった方が分かりやすいだろう?」

「はぁ…確かにそうかもしれません
 正直教わったモノは全然理解出来てませんでした」

「そ、そうか、全然か」

オエングスが頬を掻いて困ったように眉を下げる

「それじゃ、いくよ」

「はい」

オエングスは自身の右腕に魔力を込める
それは巫女であるイエルの目から見ても膨大な量だ
正直、巫女である自分以上の魔力量なのは間違いない

彼の右手の平がドンッとエインの胸に当たり、ぐぐっと鷲掴みになっていく

「……っ!?」

エインは何だ?何もないじゃないか、そう思った瞬間、
心臓を鷲掴みにされたかのような激しい胸の痛みが襲う

『ぐっ、ああああああああっ!』

「耐えてくれ」

『ううう、ぐっ……がはっ』

「いくよ」

オエングスは腕をグリっと回し、その瞬間エインの目と口から血が流れる

「がはっ」

彼が手を離すと、エインは胸に手を当てたままフラフラと2歩後ずさり、
彼の銀の右腕がカタカタと震え出す

刹那、黄金とも真紅とも言える炎が彼の銀の右腕に宿った

「ぐっ…くぁ…はぁはぁ……これが、魔力…」

片膝をつき、荒い息で呼吸をするエインの銀の腕は燃えている
だがそれは熱くなく、どこか優しさすら感じる炎だった

エイン神炎

「これは驚いたね」

イエルが目をパチクリとしながらエインへと近づき、その炎に手をかざす

「熱く…は無いね、アンタ大丈夫なのかい」

「は、はい…なんとか」

エインは呼吸を整え、少しずつ落ち着きを取り戻してゆく

「成功かな、これで理解出来たかな?」

オエングスは笑顔でそう言う…この人は本当に厳しい人だ

「はい、何となくですが…」

「今はそれでいいよ、いずれそれを自分で出せるようになってもらうからね」

「はい」

オエングスは再びエインへと近づき、右手に魔力を込めた

「よっ」

彼は軽い感じでエインの胸に手を当て、グリっと捻る

「う、うああああああああああっ!………くっ、はぁはぁ」

激痛と同時に炎は消え、ドッと疲労感が襲ってくる

「プララー君に言って治療してもらって休むといい」

「は、はい」

エインがテントへと戻り、プララーの治療を受け始める
残されたイエルとオエングスは少し話をしていた

「どうでしたか、巫女様」

「ん~、そうさねぇ……あんな炎は見たことがない、ってのが感想かね」

イエルは先程炎に触れた手を見ながら言う

「火の巫女様でも知らぬ炎…と」

「あぁ、あんなのは知らないね、熱くもなく、火傷もしない
 しかも詠唱も何も無しであれだけの炎が発生した
 それがどれだけ異常か、アンタでも分かってるんだろう?」

イエルに言われてオエングスは苦笑する
正直、こうなる事はおおよそだが想像出来ていた
だからこそイエルを呼んだのだ

「イエル様」

「なんだい」

「神炎をご存知ですか?」

「そりゃね、あたしゃ火の巫女だよ?」

「私は使徒になり、世界に触れ、様々な事を知りました
 その1つが"神炎"です……その名の通り神の炎であるそれは、
 悪のみを焼き尽くす炎だと知りました」

「そうさね、あたしでも使えない炎さね」

「彼の……あれは、そうなのではないでしょうか」

イエルは黙る、オエングスの言っている事は分かる
だが、簡単にあれを神炎だと認めたくないのもあるのだ…火の巫女として

「……アンタがどこまで知ってるか知らないけど、
 神炎ってのは神だけが使える炎なんだよ、分かってんのかい」

「はい」

「じゃあ、何かい、エインが神だとでも言うつもりかい」

「いえ、彼は人です」

オエングスは俯いて黙ってしまう
そんな彼を見てイエルは大きなため息を吐き、彼の脇腹を軽く小突く

「いい男が辛気臭い顔してんじゃないよ、ったく」

「す、すみません」

「仮にあれが神炎だとして、彼に使いこなせるのかい?」

その問いには答えにくかった
オエングスは知っているのだ、エインに勇者としての才が足りない事を…

「今は何とも言えません…ただ、そうあってほしいと思っています」

「そうかい」

イエルはオエングスの尻を2回バシバシと叩き、歯を見せ笑った

「じゃあ、アンタが頑張りな!」

「はい、そうですね」

オエングスは誓う…彼を、エインを強くする、と
彼の中の複数の可能性を見た瞬間からオエングスは決めたのだ
彼を立派な勇者に育て上げる、と



自身の左手で何度も握り拳を作り、彼は誓うのだった



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