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2018_01
25
(Thu)13:18

5章 第7話

オリジナル小説 『カタクリズム』
5章 第7話 【エイン・トール・ヴァンレン】

明かされるエインの秘密……お楽しみに!

では、続きを読むからどうぞー。




【エイン・トール・ヴァンレン】






「25年ほど前の事です」

エインの母メノッサは懺悔のように語り始める
ヴァンレン家の過去を、エインを愛せなかった理由を……

・・・・・

・・・



穏やかで暖かい春の陽射しを感じながら、
昼前に洗濯を済ませた私は、息子であるダンに昼食を食べさせ、
いつもの通り教会へ向かう準備をしていたのです

当時の私は全ての神々に祈りを捧げる事が日課だったのです

全ての神を崇めるなどおかしいと思ったでしょう?
神によって教えが違い、それ等は合わせてしまうと矛盾があります
ですが、私には選べなかったのです

昔から私には不思議な力がありました
魔力を操る力……魔法の力です
それだけなら100人に1~2人はいるでしょう
ですが、私は少し変わっていたのです

私には六神全ての声が聴こえたのです

ハッキリとした御言葉ではありませんでした
しかし、確かなものとして感じられたのです……神の存在を

私は神々を崇拝しました
様々な恩寵を与えくださる神々は、世界に無くてはならぬ存在
そんな神々に感謝をするのは私にとって至極当然の事だったのです

ですが、教会へ向かう準備をしていると、
黒いローブの一団が現れ、私は麻袋を被せられ、連れ去られました

彼等のローブには獣か何かの血で、
【666】と書いてあったのを覚えています

666……噂に聞いた事がありました

彼等は悪魔崇拝者……邪教エウアの信徒
神々を憎み、敵対するとされる悪魔を……
悪魔達の神、邪神エウアを崇める者達です

必死に抵抗しましたが抗う事は出来ず、
私は運ばれて行きました……ですが、場所はどこか解ったのです
それは毎日通っていた場所だったからです

そう、教会……私は教会へと運ばれ、
そこで…………彼等に穢されました……何度も、何度も……

神々に祈りを捧げ続けたこの場所で、
私は悪魔に魂を捧げる彼等に穢され続けたのです

私は神々を恨みました、憎みました

何故助けてくれないのですか
何故私はこんな目に合わねばいけないのですか
何故神々は私を見捨てたのですか……

長い長い時、私の身体は穢され、
自我が壊れかけた頃、誰かが助けてくれたのです

一瞬で邪教徒達の首は跳ねられ、私はその血を全身に浴びました
気を失う前に一瞬見えた、水を操る彼女が誰だったのか判りませんが、
今思うと神々の御使いだったのかもしれません

その後、私は家の者に救出されましたが、
壊れた心が直る事はありませんでした

あれからと言うもの、連日連夜、私は悪夢にうなされました
決まっていつも同じ夢……白い、純粋なまでに白い少年が佇む夢
白い少年は私に微笑み、手を差し伸べる
いつもそこで目が覚めていました

そんな日々が数ヶ月続き、
私が妊娠している事が判ったのです

旦那は、口には出しませんでしたが、複雑そうでした
息子のダンは弟か妹ができると喜んでいました
私は……判りませんでした

私の心は壊れたまま……考える事を拒絶していたのです

そのはずなのに……
不思議と「この子は産みたい」と口にしていました

何故そう思ったのかは判りません
まるで神々の意志のような何かが私を突き動かしていました
1度は憎んだはずの神々の……

悪夢は続いていましたが、ついに出産の時が来たのです
その日は酷い嵐で、激しい雷の音を覚えています

二人目という事もあり、難なく出産する事が出来ました……が
私にはあの子が産まれた瞬間に見えたのです

目の前の景色が歪み、ねじれ、そこから白い腕が伸びてくるのを

その場にいる誰にも見えていないようでした
ですが、私にはハッキリと見えたのです
白い腕は息子の頬を撫で、私の子は初めての声を上げたのです
私よりも早く私の子に触れたのです……あのおぞましい腕が……
そこで私は思ったのです

この子は悪魔に、邪神に愛されている……と

後日、村の家畜が原因不明の死を遂げました
皆は疫病かと恐れましたが、それ以降は何事もなく、
嵐のストレスか何かか、と皆は話していました

私は、私だけは判っていました

それはストレスなんかじゃない
それはあの邪神のせいだ、と………

あの子が産まれた日、邪神は息子を愛するため現れました
その影響が家畜達にも出たのです
私には確信めいたものがありました


おぞましい邪悪なる神に愛されし子……
それが私の息子【エイン・トール・ヴァンレン】なのです


私は怖かった、かの邪神が、エインが……
この子に罪が無いのは判っているのです
ですが、私にはどうしても愛する事が出来なかった

エインは成長すればするほど心を閉じて行き、
息子が何を考えているのか判らないのが恐ろしかった
次第に私は……エインを避けていました

あの子もそれを察したのでしょう
自ら私に近寄ることはせず、旦那やダンに懐いていました

エインが7歳になる頃、私の心は未だ治ってなく、
旦那がエインを連れてネネモリに薬を買いに行ったのです
ダンはその少し前から国境付近の小競り合いの戦に出ていて、
家には珍しく私一人でした

何もせず、何も感じず、無意味に浪費していく日々……
私は毎日ここで……テラスで日を浴びながら居眠りをしていたのです
そこへ、ダンが戦から帰って来ました

「母さん、こんな場所で寝ては風邪を引きますよ」

息子が私を抱き上げ、寝室まで連れて行ってくれました
この頃の私は自分で歩くことすらままならなかったのです

「こんな、枯れ木みたいになって……俺が、俺が……」

ダンは泣いていました
あの子は親想いのいい子に育ってくれてたのです
私は久しくダンの顔すらまともに見ていなくて、
久しぶりに触った息子の手は大きく育っていて、
涙が流れたのを覚えています

私は息子の胸で泣きました
この7年間感じていた想いを吐き出しながら……

「俺が母さんを救います、だからもう安心してください」

息子は私を落ち着かせ、ベッドに寝かせてくれました
私は泣き疲れたのか、そのまま眠っていました

起きたらダンの姿はどこにも無く、
あれは夢だったのか、と僅かな寂しさを感じながら、
私は何もない無意味な日々に戻っていったのです

旦那とエインが戻ってきたのはそれから数日後でした
帰り道で野盗に襲われ、従者は全て殺されたそうです
幸い、旦那とエインに怪我はありませんでした
通り掛かった剣士様に助けていただいたそうです

エインは一目で判るほど様子が変わっていました

帰ってくるなり棒を手に取り、それを必死に振り、
旦那に「剣を教えてください」と頭を下げていました
あの子に何があったのかは判りませんが、
その姿は私の心の氷を砕いた気がしたのです

必死に頑張るあの子は輝いて見えて、
それは私の中で"普通の子"のように映ったのです

私はエインを愛する事はできませんが、
普通の子として扱う事は出来るようになったのです

それから数日が経ち、ダンが帰って来ました
ダンは……戦で片足を失っていました
しかし、ダンはそんな事は気にもしていなくて、
弟であるエインに剣を教え始めたのです

「いつかお前が家族を守るんだぞ、エイン」

「はい、兄上」

今まで放っておいたツケを払うかのように、
ダンはエインを溺愛しました
その二人の姿に、私の心は少しずつ癒やされていったのです

・・・・・

・・・



「……私はエインを、この手に抱いた事が無いのです」

胸に秘めていた想いを吐き出したメノッサは涙を流す
それは誰のための涙なのかは判らないが、
リリムは彼女の頭をそっと包み込み、共に涙した

「私は死の巫女です……
 メノッサさん、貴女の悲しみや恐怖を"殺す"事は可能です」

リリムの言う"殺す"という意味が判らず、
メノッサは彼女を見上げて問う

「それは、どのような事をなさるのですか?」

「私の魔法で記憶の一部を殺す事が出来ます
 それが正しいのかは判りません……
 ですが、その悲しみや恐怖に耐えられないのであれば……」

メノッサは少しの間、目を閉じ、考える

「……私は、エインを愛せるようになるのでしょうか」

その手は震えていた

「それは貴女次第です
 私はキッカケを与えるだけですので……」

「……そう…ですね」

迷っているメノッサと、それを見守るリリムは、
夜の調べを聴きながら見つめ合っていた

「1つだけ……この魔法はとても危険なものです」

「危険?」

「はい、加減を間違えると他の記憶すら殺してしまいます」

「………」

「魔法を使うメノッサさんならご理解いただけると思いますが……」

「えぇ、もちろんです」

魔力コントロールの難しさはメノッサも判っている
消したい記憶だけをピンポイントで殺す事など可能なのだろうか?
そう思ってしまうほど難しい魔法なのは明確だった

"記憶を殺す"などという魔法は聞いた事すらない
それは恐らく死の巫女だけの魔法……究極魔法なのだろう
目の前にいるのは、あの"死姫(しき)"なのだから

こんな機会(チャンス)は二度と来ないかもしれない
もしかすると、エインをこの手に抱けるかもしれない
ダンやフノッサと同じように愛せるかもしれない

不安、恐れ、期待、渇望……そして、メノッサは決意した

「……お願いします」

「はい」

リリムは笑顔を向け、準備に取り掛かる
テーブルをどかし、メノッサの背後に立ち、両手を構える

「我、死の目なり……」

リリムの詠唱が始まると同時に、
彼女を中心に直径10メートル近い魔法陣が出現する
自分を包み込む巨大な魔法陣にメノッサは目を奪われ、
その優しくも寂しい光を感じていた

「我、死の耳なり……我、死の手足なり……」

詠唱が進むに連れ、リリムの目からは光が消え、
相反するように魔法陣の光は強まり、
夜の闇を払うその光に気づいた者達がテラスへと出てくる

「リリム……」

「あれは……究極魔法なのですか?」

エインとフノッサは魔法陣に入らない位置で止まり、
その中心にいるもう一人を見て驚く

「母上?!」

「お、お母さま!」

ダンやヴォーダンも姿を現し、ヴァンレン家が揃う

「何が起きている」

「俺にもサッパリ……なぁ、エイン、どういう事なんだ」

ダンの問いにエインが答えられる訳もなく、首を横に振るだけだった
アシュ、プララー、イーリアスも駆けつけ、
全員がリリムとメノッサに注目していた

光はシグトゥーナ村全体に届くほど輝き、
村人もチラホラと外に出てくる

「紡がれし想いを、死せる印を持って破壊する」

リリムの詠唱は続く……
それはマルロやイエルの究極魔法よりも遥かに長かった

「泥の中に迷いし魂を救うため、
 限り有る者に、永遠の決別を
 無限に続く連鎖を断ち切らん……」

長い長い詠唱は続き、リリムの額に汗が光る

「求めしは剣、求めしは鎚、否……」

リリム11

涙を流すリリムの両手の間に現れた夜の闇よりも黒い光は、
渦を巻くようにねじれてゆく

「求めしは針……見えざる想いを断ち切らん」

それは1本の髪の毛のように、細く細くなってゆく

「あの針みたいの……とんでもないわね」

プララーが目を疑うかのようにそれを凝視するが、
見れば見るほどハッキリと判る

「何がだ?俺にはよくわかんねーな」

アシュの問いにはプララーは答えなかった
いや、答えられなかったのだ

高魔力の魔法とは、本来その魔力に比例して巨大化してゆく
だが、今目の前にある高魔力の塊はどうだろうか
髪の毛1本ほどの細さしかないのだ

その凝縮度は尋常ではない

あの髪の毛は魔力量だけで言えば、
マルロやイエルの使った究極魔法と同等かそれ以上だ
その膨大な魔力があの小ささに留まっているのが異常なのである

魔力を見る目を持つプララーにとって、
あの髪の毛は魔力が濃すぎて目がやられそうなほどだった
直視が出来ず、目を伏せる

それはフノッサもまたそうだった

「これが死姫……これが死の巫女さま……すごい……」

無意識にエインの手を握り、彼にすがるようにその光景を見つめる
エインはフノッサの手を握り返し、リリムを見る
彼女の目から耳から血が流れ、痛々しい姿になっていた

「否、否、否……細く、細く、細く、鋭く、鋭く、鋭く……」

3回ずつ繰り返し、魔力の毛のようなものは更に細くなってゆく
次第に肉眼では捉えることは出来なくなり、
チッ、チチッ、チッと妙な音が鳴り始める
すると、リリムの形成する魔力の毛の上下で景色がズレる

「あれは……空間が…切れてるのか?」

とても小さな範囲だったが、景色がズレていた
リリムの作り出した魔法は圧縮されてゆき、
極限まで細くなり、世界の限界圧縮度まで達したのだ
そして、耐えられなくなった世界は断たれた

「メノッサさん……行きます」

「……はい」

メノッサは目を閉じ、両手を組んで祈った
リリムはゆっくりと両手で彼女の頭を包み込み、
高密度の魔力の毛はメノッサの頭へと入ってゆく

「………っ!」

頭に、脳からくる痛みが走る

『動かないで!』

リリムの叫びでメノッサは必死に堪え、歯を食いしばった
皆はその光景を息を呑んで見守る

「…………見えた」

しばらくしてからリリムの目は大きく開かれ、彼女は唱える……

「想いを、願いを、隠り世へと導かん」

魔法陣は更に巨大化し、一瞬でリリムへと収縮し、消える

「ラ・ヴォイ・ア・ラ・シェロ」

辺りは闇に覆われ、視界は閉ざされる
数度瞬きをすると闇は消えており、
何事も無かったかのような静寂が訪れていた

「お、終わったのか……?」

「何があったんだ」

ダンやヴォーダンはびっしょりと汗をかいていた
それはこの場にいる誰もがそうだっただろう

そして、リリムはロウソクの炎のようにその身体は揺らぐ
即座にエインは駆け寄り、彼女の身体を支えた

「リリム、大丈夫か」

「エイン……見ていたのですね……大丈夫で……す…よ……」

目、鼻、耳、口から血を流すリリムは気を失い、
椅子に座るメノッサもまた気を失っていた
エインはリリムを抱き上げ、メノッサはプララーが寝室へと運ぶ

皆は二人が目を覚ますのを静かに待っていたが、
朝日が上っても目覚める事はなく、皆は解散し、仮眠を取る

二人の看病はプララーとヴォーダンがする事となり、
彼等の疲れと眠気が限界になった頃、エインとフノッサが入れ替わる
そして、陽が落ち始め、空が赤く染まった頃にリリムが目を覚ました

「リリム、大丈夫か」

「……へ?あ、はい」

一瞬状況が理解出来なかったリリムは目をパチパチとするが、
昨夜の事を思い出した彼女は辺りを見渡し、隣のベッドで顔は止まる

「メノッサさんは……」

隣のベッドで眠るメノッサを見つめ、
自分の究極魔法が失敗していないかと心配になるが、
昨夜を思い出し、それは無いと確信する

……大丈夫、失敗はしてない

リリムがそう思った時、メノッサもまた目を覚ました

「メノッサさんっ」

リリムの目は潤み、胸の前で両手を組み、
神に感謝の言葉を伝え、メノッサへと笑顔を向ける

「巫女様……フノッサに……エインも」

メノッサは少し混乱しているようだったが、
次第に意識は覚醒し、優しい笑顔を皆へと向けるのだった

「お母さまっ」

フノッサは母に抱きつき、母は愛しい娘の頭を撫でる
その光景を部屋の隅からエインは優しい笑顔で見ていた

「……エイン」

「はい?」

突然呼ばれ驚いていると、母は微笑みながら手招きをした
その行動に戸惑い、エインは立ちすくむ
彼が生まれてから一度もそんな事をされた記憶はないのだ

「おいでなさい、エイン」

「は……はい」

恐る恐る、ゆっくりとエインは近づき、
母に抱きついていたフノッサは二歩ほど離れ、
二人の様子を見守る

フノッサも気づいていたのだ
母がエインに近寄る事を避けている事を……
その母が、兄を呼んでいる
ヴァンレン家では、その光景はとても"異様"だった

エインは一歩離れたところで止まり、膝をつく

「……なんでしょうか、母うっ……え……」

膝をついたエインに飛びつくようにメノッサは抱きつき、
その頭を両腕で包み込み、髪に頬ずりしながら泣いていた

「エイン……エイン……エイン………愛しい我が子」

産まれたばかりの赤子を初めて抱くかのように、
優しく、慈愛に満ちた抱擁……

「は、母…上……あの、その」

リリムは、あれほど慌てたエインを見たのは初めてだった
おかしくてクスッと笑ってしまいそうになるのを必死に堪え、
親子の初めての抱擁を見つめていた

長い長い一方的な抱擁が続き、
パニックになっていたエインも落ち着きを取り戻し、
触ってはいけないものにでも触れるかのように、
エインは恐る恐る母の背に腕を回す

「……母上」

「……エイン」

母の温もりを知り、息子は初めて母の愛を感じた
息子の温もりを初めて感じ、母は本当の愛を知った

その光景をリリムとフノッサは涙を流して見つめていた

・・・・・

・・・



彼女達が目を覚ましたのを知り、皆が集まった
そこでリリムから事情が説明され、皆は納得したようだったが、
フノッサだけは複雑な表情をしていた……

そんな彼女は、寝室へ戻ろうとするリリムを呼び止め、
夜風が少し肌寒いテラスへとリリムを誘う

「巫女さま」

「はい?」

「この度は、お母さまを救っていただき、感謝致します」

フノッサは頭を下げた
少女の目からは涙がポツポツと零れ落ち、
床の板に小さなシミを作ってゆく

「いいのですよ、これも死の巫女の役目ですから」

少女の肩に手を置き、リリムは微笑む
顔を上げたフノッサはその笑顔を見てため息を洩らすのだった

「な、なんですか?」

また喧嘩を売られるのかと思い、リリムは少し警戒した……が、

「いえ……敵わないなって思って」

フノッサの表情は穏やかなものだった
彼女はその小さな胸に手を当て、瞳を閉じて語り出す

「巫女さまは……リリムさんはお母さまだけじゃなく、
 私が心から愛するエイン兄さまも救ってくれました」

やっぱり愛してるんだ、とリリムは思ったが、
口を挟まず彼女の言葉に耳を傾ける

「お母さまの心の傷は、私達家族が何をしても無意味でした」

唇を噛み締め、グッと手に力を込め、目を開く
その真剣な、真っ直ぐな瞳を向けられたリリムは姿勢を正し、
少女の本音を真摯に受け止める

「お父さまもダン兄さまも……何年経っても出来なかった
 それは私も……私はエイン兄さまが好き、大好き、愛してる
 そんなエイン兄さまを避けるお母さまが少し苦手でした……」

うっすら涙を浮かべ、少女の顔は歪む

「どうして私やダン兄さまを愛するように愛してはくれないの?
 どうしてエイン兄さまだけ……ずっとそう思っていましたわ」

一粒の涙が零れ落ち、それを拭い、彼女は言う

「そんなお母さまの癒えることのないと思っていた傷を、
 貴女は……1日……たった1日で癒やしてしまった
 悔しかった!妬ましかった!羨ましかった!
 でも……でも、それ以上に私は……嬉しかった」

もはや流れる涙を拭う事はせず、彼女は続ける

「あんなに嬉しそうなお母さまを私は知りません
 あんなに嬉しそうなエイン兄さまを私は……私は……」

言葉に詰まり、えずくように泣く彼女を静かに待ち、
リリムはこの少女……フノッサへの認識を改めていた

「……ぐすっ……愛してるの……エイン兄さまを……
 だからっ!……だから、私は貴女を認めるしかなかった!」

少女は何かが吹っ切れたかのように穏やかな表情へと戻る

「そう、認めるしかなかった……巫女さまはすごいですわ
 世界で一番素敵なエイン兄さまの隣に……相応しいと思いますわ」

「え……」

「私は……巫女さまを……リリムさんを認めます
 貴女こそエイン兄さまの隣が相応しいですわ
 ううん、貴女以外であってはいけないのです」

「わ、私がですか?」

「はい……悔しいけど、嫌だけど、認めますわ」

フノッサの心は今までにないほど晴れていた

「私はエイン兄さまの実妹、それは理解してますわ
 でも、それでも、私はエイン兄さまを愛してる
 だから他の女になんて渡したくない、渡す気もない!」

彼女の言葉からは強い意志がハッキリと感じられる

「それでも……貴女だけは……
 死の巫女さまであるリリムさんだけは、認めざるを得ません」

「フノッサさん……もしかして貴女は死の神を崇めているのですか?」

「……はい」

リリムは胸の前で手を組み、神に祈りを捧げる
そして、目の前にいる少女に微笑んで見せた

「ね、フノッサさん
 私が死の巫女だからって遠慮する事ないんですよ?」

「してませんわ、そんなもの」

「ははは……そうですね」

思い返してみると確かに遠慮なんて無かったと苦笑する

「私は貴女が巫女さまだからなんて思ってませんわ
 ……少しはありますけど、それはそれですわ
 私はエイン兄さまのあの笑顔を作れる貴女を認めたのです」

「笑顔…ですか」

「悔しいけど認めない訳にはいかないじゃないですか
 エイン兄さまを心から愛する妹として……愛する者として……」

プイッと横を向き、頬を膨らませる少女は、年相応の幼さが見える
その姿を見たリリムは笑顔になり、彼女と仲良くなりたいと思った

「だから、私はリリムさんを認めます……正妻として」

「へ?」

「だから、正妻として認めてあげますわ」

「せ…いさい?」

せいさいってなんだろう?とリリムは頭を捻る
理解したくなく、考える事をやめるかのように、思考は停止していた

「そうですわ、正妻です
 まさか、エイン兄さまともあろう御方が1人の妻で満足するとでも?」

「え?え??待ってください、ちょっと待って」

「なにか?」

リリムはパニックになり、あわあわとし始めるが、
少女の困惑した顔を見て、彼女が本気でそれを言っているのだと気づく

彼女が慌てるのも無理はない
彼女の故郷「ネネモリ」では一夫多妻制度は一般的ではないのだ
禁止という訳ではないが、恥ずべき行為とされている

更にエインとフノッサは兄妹なのが問題だ
ネネモリでは二親等間の婚姻は認められていない

「確かに死の神の教えでは多妻制度は認められていますが……」

「えぇ、ドラスリアもそれは認めてますわ」

「でも、でも、え~~~!
 ほ、ほら、フノッサさんは実妹じゃないですか」

「それが何か?死の神もドラスリアも兄妹の婚姻は認めてますが?」

死の神は、六神教の中でも自由な宗教なのである
基本的に禁則は無く、唯一の禁止されているのが「無益な殺生」である

他の神の教えは……
地の神と火の神の教えでは一夫多妻や二親等間の婚姻は認めていない
水の神、風の神、生の神の教えではむしろ推奨しているほどだ

「いや、そうなんでしょうけど……ああああっ」

頭を抱える
目の前の少女は本気だ、それは間違いない

「私は第二夫人で我慢してあげますと言っていますの」

ダメだー!この子、微塵も諦めてない!
しかもすっごい上からだー!

「私も実妹との婚姻はエイン兄さまにとって
 世間の評価はマイナスになるのでは?と危惧していましたの
 でも、リリムさんが正妻に納まれば全て解決ですわね!」

まるで勝ち誇ったように無い胸を張り少女は言う

彼女が危惧するのは当然だ
いくら宗教や国に認められているとは言え、
兄妹での婚姻は貴族の間では【恥】とされているためである

結婚相手が見つからない者が、
血を絶やさぬための最終手段として兄妹で済ます
その認識が一般的なのである

「そ、そうですね……ははは」

今は反論しないでおこう、する気力が無い
この子は真剣に悩んで、本気でそうしようと決めたんだ
誰よりも愛する人の2番になる、って……

「これから仲良くしてくださいまし、リリムさん」

そう言い、フノッサは手を差し出す
リリムはその手を力なく掴み、
当事者であるエインを置いて珍妙な約束が交わされた



この日の夜、リリムは布団の中で一晩中悩むのだった


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C.O.M.M.E.N.T

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