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2018_03
05
(Mon)05:48

5章 第8話

オリジナル小説 『カタクリズム』
5章 第8話 【開戦の狼煙】

久々の更新です。
右手負傷中につき、更新頻度は下がりまーす。

では、続きを読むからどうぞー!



【開戦の狼煙】






眠れぬ夜が明け、リリムはフラフラと起き上がる
昨夜のフノッサとの約束を思い出して、
複雑な気分になりながらも朝の身支度を始める……

ナンディンと呼ばれる牛の仲間の魔獣がいる
数こそ少ないが、とても危険な魔獣であり、
過去にネネモリの小さな村が1つ壊滅させられた事もある
その危険な魔獣…ナンディンをリリムが討伐し、
手に入れた乳白色の毛で1つの櫛を作った

その櫛で髪をとかすと、魔獣の魔力が作用しているのか謎だが、
不思議と髪のツヤがよくなるため、貴族達にも人気があった

そんな最高級の櫛で髪をとかし、1本の細い三つ編みを作り、
持ち歩いている花飾りの中から1つを選び、頭に付ける
そして、着物を羽織り、帯で止めてから着崩した

これは彼女なりのお洒落だ

リリムが死の巫女となったのは幼い頃だが、
当時の彼女は与えられた法衣をきちんと着ていた

しかし、彼女も女の子である

思春期になる頃にサイズが合わなくなったという理由で、
法衣を新調する事となった時、彼女は注文を出したのだ
その頃、ネネモリで流行り始めていた"ある着物"にしてほしい、と

普段は我儘など言わない彼女のお願いだ
大人たちはすぐに彼女に合う最高級の物を用意した
だが、リリムはそれを気に入らなかった

選んだのは年寄り連中だ
ハッキリ言ってしまえば……婆臭いのである
同年代の女の子達が可愛らしい服を着ているのを見て、
彼女も思うところがあったのだ

そして、彼女は自分で着物を手直しし、
あえて着崩す事でそれなりに見えるようにしたという訳だ

胸が見えかけているその姿を見た大人達から怒られもしたが、
彼女は着物の中に黒い腹掛けを着用する事で大人達を黙らせた
その腹掛けには地の魔法がかけられていたためである

これはリリムが自腹で買ったものだ
魔法の装備など一般人では手の届かない額だが、
死の巫女であるリリムであれば買えなくはなかった

耐衝撃の魔法がかけられた腹掛けを中に着る事で、
肌の露出は減り、更に身を守る効果も上がる
大人達はそれでも着崩す事にいい顔はしなかったが、
あの腹掛けの価値を知るからこそ、文句は言えなかった

そんな腹掛けの横から手を挿し込み、
胸を下から軽く持ち上げるように位置を整える

「うーん…少しキツくなってきたかな……」

太っては…いないよね?と脇腹や二の腕を摘んで確かめる
うん、大丈夫…それじゃ胸が大きくなったのかなぁ

自分ではその変化はよく分からず、
再び腹掛けの横から手を差し込むと、コンコンと扉が鳴った

「はい」

リリムが返事をすると、扉の向こう側から声が聞えてくる

「おはようリリム、入っていいかい?」

「エ、エイン?!どど、どうぞ!」

こんな朝早くからエインが来るとは思っていなかった彼女は、
動揺し、腹掛けから手を抜くのを完全に忘れている

「お邪魔するよ」

静かに入ってきたエインは、リリムの姿を見て一瞬固まり、
僅かに頬を染め、無言で後ろを向いた

え?え???

リリムには状況が理解出来ず、
自分に変なところがあっただろうか、と目線を下へ向けると……
まるで服に手を入れ、自分の胸を揉んでいるかのような状態だった

「あ、あああ!ち、ちち、違うんですよ!エインっ!」

「あぁ、分かっているよ」

「ほ、本当に違うんですよ!」

「分かっているよ」

顔を真っ赤にして訴えるが、
エインの返答はいつも通りの単調な喋り方で判断が出来ない

「うぅ…もう、大丈夫です」

リリムが半泣きでそう言うと、エインはゆっくりこちらを向いた
その顔は僅かにだが赤いままだ……いや、耳は真っ赤だ

「あの、実は、ちょっとキツくなったかなって、その」

「ん?何がだい?」

リリムが何を言い出したのか解らなかったエインは素直に聞いた
だが、それがリリム自身自爆した事を気づかされた

「あ、な、なんでもないです!
 と、ところで……エインはどうしたんですか?こんな朝早くに」

「あぁ、リリムに大事な話があってね」

「大事な……話……?」

この時、リリムの脳は通常の5倍の速度で動いていた

え?大事な話?だ・い・じ?何?何???
もしかして、もしかするの?
え、どうしよう、え、え、待って、どうしよう!

落ち着いてリリム、焦ってはダメ
冷静になるのよ、私
相手はエインよ!あのエインよ!

そう、期待しちゃダメ…うん、期待しちゃ……ダメ

それじゃ何の話だろう?
急に怖くなってきた……どうしよう

などと、リリムが一人で色々考えていると、
落ち着き無く表情が変化する彼女を見ていたエインは首を傾げる

「どうしたんだ?」

「え?!あ、なんでもないですよ、ははは」

「そう…か」

エインは1度咳払いをし、椅子に座り、リリムの方を向く
彼女もそれに合わせてベッドに座り、姿勢を正した

「リリム」

「は、はい」

不安と期待で頭が混乱するが、
今は話を聞かなくちゃ!とリリムは気を引き締める

「………感謝する」

エインは深く頭を下げる

「え?」

目をぱちくりとさせ数秒考え込む
そして、1つの答えにたどり着き、リリムの頬は緩んでいった

「感謝なんて……いいのですよ、あれも私の仕事ですから」

「それでも…感謝する……ありがとう」

エインは顔を上げず、そのままの姿勢を維持していた

「顔を上げてください、ね、エイン」

彼女がそう言うのならばと顔を上げると、
そこには慈愛に満ちたリリムの笑顔があった

「……リリムは」

「?」

「綺麗だな」

「はへ?ひっ?!」

意味の分からない声を上げ、リリムの全身は真っ赤に染まる

「す、すまない、変な意味に取らないでくれ、他意はないんだ」

エインも慌てており、自分が何を言っているのか解っていない

「た、たた、他意?」

「あ、いや、その……」

彼は頭を掻き、困ったように眉を下げてはにかむ

「その…リリムは…こ、心の綺麗な人なんだな、と」

「……心?」

「お、俺は何を言ってるんだ、すまない、忘れてくれ」

こんなに慌てたエインは昨夜ぶりだ
そんな彼の姿を見てリリムはクスクスと笑い出す

「ふふふ、エインでも慌てる事があるのですね」

「からかわないでくれ」

彼の耳は真っ赤に染まり、それを見たリリムは頬が緩む

あぁ……私はこの人が本当に大好きなんだなぁ

想いを再確認し、自分の気持ちに嬉しくなり、
尚更彼を愛おしく想う

「私は死の巫女として当然のことをしただけです
 エインが喜んでくれるのは嬉しいのですけど、
 これは私にしか出来ないお役目ですから……ね?」

彼の気持ちを考え、気を使わないように言うと、
彼はそれでは納得出来ぬ様子で考え込んでしまう

「それじゃ、エイン」

「ん?」

「今回のは貸しって事でどうですか?」

「貸し…か、そうだな、それがいい」

「それじゃ、貸しです♪」

「あぁ」

こうして二人は笑顔になり、一緒に朝食へと向かうのだった

・・・・・

・・・



陽が高くなってきた頃、
エイン達はもう出立の準備を済ませ、馬車に乗るところだ
久々の実家でゆっくりしたいところだが、
今はそんな時間の余裕は無いのだ

ミラの姉、ラシュフォード長女であるノルからの命がある
それは、遊撃隊としてカナラン側から回り込んだ奇襲攻撃だ

ノルはラシュフォード傘下の貴族達をまとめ上げ、
ドラスリア軍に匹敵するだけの兵を集めた

報酬は二大貴族であるライネル家とトレルド家の領土の分配だ
ラシュフォードは奪った領土は要らないと宣言したのだ
これほど魅力的な報酬はあるだろうか

マルロ、イエル、ミラの3名もまた遊撃隊として、
別ルートでドラスリア城を目指す手筈となっている

彼女達こそ城を落とす本命だ
二人の巫女の力で城を一気に落とそうという作戦である

そして……オエングスはノルに一瞬で力を見抜かれ、
彼は単騎で戦場を撹乱するという大役を与えられた

本来、他国の戦争に加担する気はなかったが、
巫女奪還という大事な使命があるため断る事もできず、
オエングスは渋々了承した

既にラシュフォード軍とドラスリア軍は、
主戦場となる平原へと兵を進めている

ドラスリア地図


開戦の狼煙は上がったのだ


時間はあまり残されていないだろう
エインは皆の準備が済んだのを確認し、
見送りに来ている家族へと顔を向けた

「それでは兄上、イース君をお願いします」

「あぁ、分かってる」

「父上、母上……行って参ります」

軽く頭を下げると、父であるヴォーダンは片手を上げる事で応える
母メノッサは笑顔を向け、彼の手を握り1粒の涙をこぼした

「……母上」

「無事、戻ってください」

「…はい」

名残惜しそうに手を放し、放したその手をエインは胸に抱く
兄と両親に目で別れの挨拶を済ませ、
隅っこでもじもじとしていた少女に顔を向けた

「フノッサ」

「はい!エイン兄さま!」

エインが声をかけると、
待ってましたと言わんばかりに小走りに寄ってくる

「母上とイース君を頼むぞ」

「はい、おまかせください…命に替えましても」

「それは駄目だよ、フノッサ」

「……?」

「俺はフノッサが死んだら悲しい、分かるね?」

「エイン兄さま……」

その言葉をうっとりとした表情で噛み締め、
胸の奥へと大切にしまい込む

「だから死ぬな、分かったね?」

「はい!」

「フノッサの魔法は皆を守れるはずだ、頼んだぞ」

「この愛に誓って」

愛?…あぁ、家族愛という事か、変わった言い方をするな
などとエインは勘違いしているが、
そんな彼の心は知らずにフノッサは満面の笑みを浮かべていた

「では、出発しよう」

馬車に乗り込み、エインの掛け声で馬車は動き出す
リリムが手を振るが、フノッサは彼女など眼中になく、
手綱を握るエインにしか視線を送っていない

少女の代わりにイース…イーリアスが手を振り返し、
リリムは苦笑しながら馬車の奥へと消えた

馬車が見えなくなってもまだフノッサは見つめている
その横顔をイーリアスは静かに見つめていた

・・・・・

・・・



一方、カナランでは……

サラは軽やかな足取りで屋根から屋根へと移動する
目的地は聖都コムラーヴェで一番高い建造物…教会だ
彼女は僅かに聞こえたあの音の正体を知るために向かっていた

正直、教会に行くのは気が引ける
彼女はハーフキャット…半亜人である
教会とは亜人を最も毛嫌いしている人達が集まる場所だからだ
だが、あの音の正体が気になる彼女は足を進める

あの音は……いや、あの声は……

そして、再びあの声が風に乗って聞こえてくる
即座に足を止め、目を瞑り、音だけの集中する……が、
やはり街の中では雑音が多く、その声を拾う事は出来なかった

念のため辺りを見渡し、怪しいところは無いか探るが、
これといったものも見当たらず、
ゆっくりとした足取りで屋根の上を移動して行った

教会の近くまで来ると入り口に人集りが出来ている事に気づく

「……あ」

その中心にいる人物が誰か解り、サラは加速する

『おかしいでしょ!なんでダメなの!』

聴き慣れた大きな声が聞こえてくる
人集りの中心にいたのは自分と同じハーフキャット…シャルルだ

「すみません、通してください」

サラが人混みに入って行くなど前では考えられなかったが、
今の彼女には目的がある…どうしても叶えたい願いがある……
彼を見つけるためならこのくらいどうと言うことはないのだ

「シャルル」

「あ!サラ~、聞いてよ~」

声をかけるなりシャルルは不満を漏らす
どうやら半亜人(ハーフキャット)であるシャルルは、
亜人を教会に入れる訳にはいかないと言われたそうだ

それは仕方ないよ、いつだってそうだったもん

以前のサラならそう思っていただろうが、
今のシャルルは水の巫女であり、神の使徒なのだ
そんな彼女が門前払いされるのは不当だ、そう彼女は思った
そして、サラはシャルルに「大丈夫だよ」と言って前に出る

「チッ……また半亜人か」

司祭らしき男が舌打ちをする
だが、サラは慣れているため不快感は顔には出さない

「失礼します、私はラーズの1等級冒険者、
 ハーフブリードのサラ・ヘレネスと言います」

「1等級……」

辺りが一気にざわつき、大半の人間が彼女達の正体に気づいた
だが、最初から1等級と知っていた司祭は顔色一つ変えていない

「1等級が何用か」

高圧的な態度のままサラを見下して言う

「彼女…シャルル・フォレストが水の巫女である事はご存知ですか?」

淡々とした口調で言うと、司祭の眉間にシワが寄る
明らかに不愉快といった顔だ

「ふんっ、知っておるわ、それがどうした」

「教会は神の代行者である巫女に対し、
 このような不当な扱いをなさるのですか?」

「ぐ……」

人集りは「確かに…」「巫女様になんて事を」と、
徐々に教会の対応への不満を漏らしだす

「私達はハーフキャットですが、同じ人類です
 そこに何の違いがあるのですか?何を恐れているのですか?」

「サラ……」

シャルルはこんなに強く意見を言う彼女を見た事がなかった
今のサラはまるでシルトを見ているかのような、
心から頼りに出来る"強さ"があるように思えた……この時までは

「しかし、亜人を教会へ入れることは……」

『まだそんな事をっ!!』

サラが怒鳴り声を上げ、地面を強く蹴る
彼女の右足の下の地面が弾け、石や砂が飛び散った
その石や砂に注目していた司祭は、
ある物が目の前に迫っている事に気づかなかった

"それ"は彼の眼球まで1センチほどの所で停止する……

サラが抜剣し、ミスリルロングソードを構えていたのだ
誰もがピクリとも動けず、ごくりと唾を飲み込んだ
すると、サラの頭にポカッと何かがぶつかる

『こらっ!サラ!何してんの!』

叩いたのはシャルルだ

「早く剣を引く!謝る!」

叩かれた頭をさすりながらサラは剣を引き、
耳と尻尾は力なく垂れ下がる

内心、シャルルは驚いたのだ
あのサラがこんな風になるとは思っていなかった
気弱だったサラが頼りになる強い子になった、
一瞬そう思ったが、それは間違いだった

こんなのはシルさんのような"強さ"じゃないよ…サラ……

『あ・や・ま・る!!』

シャルルが拳を構えるとサラはビクッと身体をこわばらせ、
渋々といった感じだったが司祭に頭を下げた

「ごめんなさい」

サラがそう言うと、シャルルはすぐに抱きつき、
尻尾に尻尾を絡ませて言うのだ

「よくできました!」

シャルルは「やっぱサラはいい子だー」と頭をこねくり回す
この強引さが少し困ったものだが、
サラはそんなシャルルが大好きだった

「ね、おっちゃんも許してあげてよ」

シャルルがニカッと笑顔で言うと、
司祭は冷や汗を拭いながら頷いた

騒ぎが一段落したところで、教会の入り口が開く

「何の騒ぎだ」

出て来たのはカナランの大司祭エレアザル・オシニスその人だ
事実上カナランのトップの登場に、群衆は一気に下がってゆく

「あ、お髭のおじいちゃん!やっほー!」

シャルルがぶんぶんと手を振ると、
それに気づいたエレアザルの目が大きく開かれる

「これはこれは、巫女様ではありませんか」

「あ、もう知ってるの?」

「ほっほっほ、当然ですとも、老いぼれでも大司祭ですぞ?」

白く長い髭を触りながらエレアザルは笑う
それに釣られてシャルルも笑い出すが、
サラはその横で苦笑していた

「1等級から巫女が出たともなれば世間は大騒ぎです
 貴女達が思っている以上にそれは広まっていると思っていいですぞ」

「そっかー、なんか照れるね、にししっ」

シャルルが照れ笑いをしていると、
先ほどまで苦笑していたサラは踵を返し言う

「もう大丈夫そうだから私は行くね」

「どこ行くの?」

「ん、上…かな?」

それに釣られて皆が上を眺める
そこにはそびえ立つ教会しかなかった

「失礼ですが、紅焔(こうえん)のサラ殿」

「はい?」

エレアザルは上を見ながらサラに聞く

「どのように上がるつもりですかな?」

「壁を蹴って登るだけですけど……」

彼女のその発言にその場にいた全員が驚いた
常識的に考えて普通は出来ないからだ

「え、サラ、壁登れるの?」

「できるよ?」

平然とそんな事を言う
何故彼女にこんな技術があるのか、それはシルトの一言から始まる……

・・・・・

・・・



「サラは軽いんだから僕と同じ戦い方を覚えてもダメだよ」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「サラはその身軽さを伸ばした方がいい
 僕には難しい動きもサラなら出来るはずだから」

・・・・・

・・・



彼の教えに従い、サラは自身の身軽さを鍛えたのだ
そして、習得したのが"壁蹴り"である

以前までは壁を数歩登れる程度だったが、
今のサラにはアーティファクト装備、双角獣(バイコーン)のブーツがある
これを利用すれば登れない壁などほとんど無いに等しかった

「こほんっ……サラ殿」

エレアザルはサラのその常識はずれの発言に、
僅かに動揺しながら咳払いをした

「はい?」

「わざわざ壁を登らずとも、中から上がっては如何ですかな?」

「……私、巫女じゃないけどいいんですか?」

「貴女達は世界を救った英雄、更に1等級冒険者です
 これほどの大英雄を無下に出来ましょうか?
 否、この老いぼれにはそのような恐れ多い事は出来ません」

そう言い、髭を触りながら笑うエレアザルは、
今までの人間とは少し違うように感じられた
流石は一国の頂点に立つ人物だ、と関心しながら、
彼の後に続き、サラとシャルルは教会へと足を踏み入れる

半亜人が教会に足を踏み入れる、それは前例の無い事だった

彼女達を見た信徒達からは動揺の声が広がり、
普段は厳粛な空気に包まれている教会内は騒然とする

だが、先頭を歩くエレアザルが1度大きな咳払いをし、
歳の割に鋭い眼光で射り、教会内は静まり返る

高い天井、規則正しく幾つも並ぶ長椅子、
様々な絵が描かれた色鮮やかなガラス、
細部にまで拘っている彫刻の数々……

そして、正面に堂々とそびえ立つ1本の巨大な柱

この柱には六神全てが彫られており、
教会を訪れる全ての者がこの柱……御柱(みはしら)に祈りを捧げていた

塵ひとつ落ちていない磨かれた石の地面を進み、
重く分厚い扉の前へと来る

エレアザルは何かの魔法を唱え、鍵をさし込む
魔法の知識があるシャルルにもその魔法が何なのか解らなかった
ガチャリと低い音がし、扉が開く

扉の向こう側は螺旋階段があり、
至る所に神々が描かれた絵画が飾られていた
1枚1枚が名画と呼ばれる類のものだろう、その価値は計り知れない
これだけの名画があるなら魔法の鍵にも納得がいく

螺旋階段は下にも続いている
サラとシャルルは何となくだが下から嫌な感じがしていた

薄暗いせいもあるだろう
単に教会という踏み込んではいけなかった領域に、
少しばかり緊張しているのもあるかもしれない

「あ、お髭のおじいちゃん」

「なんですかな?」

「アタシ、ちょっとあの柱に祈り捧げたいの」

「願ってもない事です、巫女様の祈りならば大歓迎ですとも」

そう言いエレアザルは笑顔になる
シャルルは彼に連れられ御柱へと向かう
そして、水の神と生の神の彫刻の前に跪き、祈りを捧げた

トタトタと小走りにサラの元まで戻り、
その姿を見た信徒達は不快感を顔に出す
教会内は走ってはいけないのだ

彼女は巫女だが、信徒達にとっては亜人への偏見が勝っていた
そのため、些細な粗相が彼等には不愉快に思えてしまうのだ

再び螺旋階段の間へと向かい、エレアザルに続き、階段を上る
ぐるぐる、ぐるぐると何処までも続く螺旋階段は軽く目が回る
息一つ切らさず上ってゆく目の前の老人に関心しながら、
二人は後について行った

しばらく上ると、少し広い空間へと出る
そこは教会にそびえ立つ1番高い塔のような建造物の、
展望台とも言える部屋だった

「こちらでどうですかな?」

「ありがとうございます」

サラは御礼を言い、東側の窓から街を見下ろす
シャルルは高い場所が楽しいようではしゃいでいた

「ごめん、シャルル、ちょっと静かにして?」

「ん、わかった!」

それからは静かに窓から景色を眺めているが、
シャルルの耳と尻尾は落ち着きなく動いていた

サラはしばらく音を拾おうと集中するが、
例のあの声は聴こえず、南側の窓へと移動する
そして、西、北と移動し、耳をすますが……結果は駄目だった

うーん…ここじゃ高すぎるのかな

サラがそう感じていると、シャルルがこんな事を言い出す

「ね、お髭のおじいちゃん」

「はい、なんでしょう、巫女様」

「どうしてこの教会全体を風の魔法で防音してるの?」

その一言にエレアザルが一瞬だけ眉を動かしたのをサラは見逃さなかった
シャルルの言うことが合っているという証拠だろう

「流石は巫女様、よくお分かりになりましたね」

「にしし、ね、ね、どうして?」

シャルルに疑心など一切なく、純粋な好奇心からなのだろう
だが、サラは違う、シャルルの言う事実が教会への不信感を抱かせる

「何、簡単な理由ですよ
 我々は深夜も祈りを捧げ続けています
 近隣に民家もあります故、防音にしているのです」

「へー、教会も色々考えてるんだー」

シャルルは納得したようだが、サラは疑っていた

何か引っかかる……何がだろう……

考えても答えが出ることはなく、
胸にもやっとしたものを抱えながらサラは教会を後にした

「教会すごかったねー!」

「うんうん」

「見晴らしよかったー!楽しかったー!」

「そうだね」

サラは胸に引っかかる何かを考えていて適当な相槌を打つ
そんな彼女を見て、シャルルは突然抱きついた

「サラ」

「な、なに?どうしたの?」

「にししっ、もう大丈夫?」

「え……」

何が?と考えるが、サッパリ分からない

「なんかね、最近のサラは……無理してるなーって」

「……そうかな?」

「うん、してるよ、分かるもん
 何年一緒にいると思ってるの?にししっ」

シャルルは笑顔を作るが、その笑顔は少し寂しそうだった
その笑顔でサラは自身を振り返る

あぁ……私は冷静じゃなかったかもしれない……

「ごめん、シャルル」

「ん、気にしないで」

「私……シルトさんの代わりに頑張らなきゃって……」

「うん、分かってたよ」

「でも上手くできなくて……」

「うん」

「私じゃシルトさんみたいになれないのかな……」

サラの目に涙が滲み、袖口でぐしぐしと拭う

「当たり前じゃん、サラはサラ、シルさんにはなれないよ」

その一言がサラの胸に深く刺さる

「でもね、なる必要なんて最初からないんだよ
 サラは大好きな人になりたいの?違うでしょ?」

「……うん………一緒にいたい」

「にししっ!なら、シルさんになろうとしない!ね!」

その言葉が、自分の中にある棘を抜いてくれた気がした
焦りや不安からくる苛立ちを和らげてくれた
何となく、救われた気がした

「ありがと、シャルル」

「いいってことよー!」

二人は笑顔で手を繋いで宿まで向かう
この穏やかな時間をあの人とも一緒に過ごしたい
サラは想いを再確認し、必ず見つけると心に誓うのだった

「それにしても不思議な魔法だったなー」

「ん?鍵の?」

「ううん、風の方、あんな魔法あるんだなー」

そんな独特な魔法だったのだろうか
魔法について疎いサラには全く分からなかった

「だって、音を風に乗せて逃がす魔法だよ~?変わってない?」

「風に乗せて……?」

「そそー、不思議だよねー」

風に……何だろう、まただ、また何かが引っかかる
風に……風に音……声……ッ!?

「シャルル、私用事出来たから先に行ってて」

「え?」

サラは即座に壁を登り、物凄いスピードで教会へと舞い戻る……
彼女の後姿を見つめながら、シャルルはただならぬ気配を感じ取り、
ジーンとラピとの合流を急いだ



あの声が、人間の秘める黒よりも黒い闇に導く事を、
彼女たちはまだ知らない


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