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2018_03
24
(Sat)14:57

5章 第9話

オリジナル小説 『カタクリズム』
5章 第9話 【邪曲】

ついに開戦!お楽しみにー。


では、続きを読むからどうぞー!



【邪曲】






首都ドランセルを出た2等級冒険者チーム"ミョルニル"は、
最短ルートで主戦場へと向かう本隊とは別ルートを取っている

元々彼女達に与えられた任務は、ラシュフォード三姉妹の暗殺である
わざわざ危険を犯してまで戦場に乗り込む必要はないのだ
そのため、彼女達は南に大きく迂回し、
ラシュフォード軍の背後に回り込むのが狙いだ

狙うは三姉妹の首のみ

最悪、巫女達の足止めさえ出来れば夢の1等級だ
敵が巫女だろうが疾雷だろうが、今のウチらの敵じゃねぇ
ウチらには"とっておき"があるんだからな

ニールは革の胸当てに縫い付けた深い緑色の鱗に目をやる
それは王太后エレナより授かった"竜の逆鱗"だ
仲間のリグレットが言うには途方もない魔力があるらしい

そのリグレットはユニコーンの角を首から下げており、
弟であるエイグットはバイコーンの心臓をポーチに詰め、
二人はハーヴグーヴァの墨で身体中に呪術的な文様を描いていた

これらの魔道具は2等級では絶対に手に入れられない代物ばかりだ
1つ1つが数百から数千金貨はする代物である

冒険者は装備を整える事が何よりも最優先だ
それは命へと直結するからである
そのため、こういった消耗品である魔道具に、
装備以上の大金を割く余裕は無いのだ

しかし、ハーヴグーヴァの墨は別だ
その存在自体が伝説の類であるこの魔道具は、
使用すれば永続的に効果があるとされている

リグレットとエイグットは既にこれを使用しており、
伝説の通り、永続的な魔力強化を得た
膨大な魔力量に寝込んだりもしたが、数日で身体に馴染み、
今ではその魔力を使いこなしつつある

「にしても、すげぇな、そりゃ」

ニールがリグレットとエイグットを見ながら言う
彼女が言う"すげぇ"とは、ロワ姉弟の見た目である

「しょうがないじゃない、消えないんだもの」

リグレットが少し不満そうに頬を膨らませながら言う

ハーヴグーヴァの墨の効果は永続的である
それは噂程度には知っていたが、
漆黒の墨で描かれた文様は身体に染み込む事もなく、
そのまま描かれたままなのだ

「で、でも、効果はすごいですから……」

弟のエイグットは苦笑いに言う
彼もこの文様がずっと描かれているのは少し嫌なようだった

「貴方はいいわよ、男の子なんだから
 私なんて女の子よ?これじゃお嫁に行けないじゃない」

「姉さんはもう女の子って歳じゃ…」

その瞬間、弟を思い切り蹴飛ばし、馬から叩き落とす
落馬したエイグットは3回ほどバウンドし、停止した

「痛たた……姉さんひどいよ」

土を払いながら立ち上がり、馬上の姉を睨む

「あら、ごめんなさい、つい」

その姉は口元を手で隠しながらクスクスと笑っていた

「つい、じゃないよ!死んだらどうするの!?」

馬に乗りながら文句を言っていると、
その様子を見ていたニールが大笑いをしていた

「何を言っているの、エイグット
 今の私達がこの程度で死ぬとでも思っているのかしら?」

「それは……そうなんだけど」

納得いかない様子のエイグットは、
大きなため息を吐き出し馬を走らせる

「お前ら緊張感無いな~
 ま、そのくらいの方がいいのかもだけどな!あはは!」

ニールが笑いながらこの先に待つ戦いを思い浮かべ、
僅かな不安とその先に待つ栄光を夢見てニヤける

「そういう姉御も余裕そうじゃない」

「しゃーないだろ?早くこいつを使いたくてうずうずしてんだ」

革の胸当てに縫い付けた逆鱗を一叩きし、歯を見せ笑う
その瞬間、リグレットの目が大きく開かれ、
手で二人に止まれと合図を出す

「どうした」

「これは……はぁ…ツイてないわね……よりにもよって死姫(しき)だわ」

がっくりと肩を落とし、ニールを見る
すると、彼女はこれまでに見せたことが無い笑みを浮かべ、
その目は獲物を見つけた獣のようでもあった

肉眼ではまだ確認できない距離だが、
リグレットの優れた魔力を見る眼にはハッキリと見えている
この先に待つ膨大な魔力を有する存在……死の巫女の姿が

「数は?」

エイグットが姉に尋ねると、
眉間にシワを寄せ目を凝らし、彼女は言う

「4人かしら……死姫ともう1人魔法使いがいるわ」

「おそらく生の魔法使いですね」

「だろうな」

生の魔法使いはチームにおいて要、必ず1人は居るはずだ

「って事は後の2人のどちらかがラシュフォードか?」

「だといいですね……」

ニールとエイグットが話し合っていると、
リグレットの様子がおかしい事に気づく

「待って……何かしらこれ……」

「どうした?」

リグレットは顔をしかめ、考え込んでいた

「姉さん、どうしたんですか?」

「えっとね、なんて言ったらいいのかしら……
 よく分からない人がいる……魔法使いじゃないとは思うのだけど」

「なんだそりゃ」

リグレットが判断できないなんて今まで無かった
それほど彼女の眼は優秀なのだ

しかし、その眼を持つ彼女ですら理解できない存在、
それがあの死姫と共にいる……これは厄介な事になりそうだ
ニールは気を引き締めると同時に、不思議な高揚感を味わっていた

「火の魔法使い…違う、風?……も違う……
 何なのかしらコイツ、こんな色は見たことがないわ」

リグレットがこれ以上眼を酷使するのを止め、
目頭を揉みながらニールに言う

「姉御、気をつけて」

「あぁ、分ぁってる」

ニールは馬から降り、荷物を馬に乗せる
身軽になった彼女は巨大なハンマー"ミョルニル"を振り回し、
軽い準備運動を始めていた

普通は馬に乗っている方が有利なのだが、彼女の場合は違う
彼女の武器は重量があるため、馬の動きが鈍るのだ
そのため、彼女は地上戦を得意としていた

「どうせ避けられないんだろ?」

「そうね…巫女の探知能力がどの程度か分からないけど、
 見つからずに通るのは無理でしょうね……」

手綱を木に結び、辺りを見渡し戦略を練る
簡単な作戦を二人に伝え、後は臨機応変に、
それがいつものミョルニルだ

「よーし、お前ら、いっちょやるぞ!」

「えぇ」

「はいっ!」

アーティファクト武器ミョルニルを担いだニール・グレイヴ、
ハーヴグーヴァの墨で強化されたロワ姉弟は臨戦態勢のまま進む
目標は巫女一行……そして、ラシュフォード三姉妹だ

・・・・・

・・・



首都ドランセル南東、ラシュフォード邸南西に位置する平原
今回の戦争の主戦場となる平原だが、
両陣営は2キロメートルほど距離を取り、にらみ合いが続いていた

ドラスリア軍7万に対し、ラシュフォード軍は5万

数で言えばドラスリア有利だが、
この程度の戦力差は戦略でどうとでもなるとノルは考えていた
むしろ、思ったよりも兵を集めてきた王太后に関心しつつ、
戦場という遊び場を提供してくれた彼女に感謝を贈る

戦場に似つかわしくないドレスを身に纏い、
軍の中央最前線に立つ彼女は隣にいる妹へと声をかける

「愛しい妹ケイ、"あれ"の準備は出来ていて?」

「あぁ、問題ないぞ、姉さま」

妹から聞きたかった言葉を聞けたノルは、
扇子をバッと広げ、口元を隠してほくそ笑む
その横顔を見たケイは引きつった笑顔を浮かべていた
今の姉の顔は人様に見せられたものではない

「よろしい……そろそろ始めましょう」

ノルが赤い旗を揚げると同時に、
100メートル間隔で配置されている兵が赤い旗を揚げてゆく

すると、陣形が変わり始め、
前列に待機していた大盾持ちは下がり、代わりに騎馬が並ぶ
大盾持ちはノルとケイのいる中央へと移動し、
後方から歩兵により投石機が運ばれてくる

先ほどまでの陣形は、敵の突撃に備えてのものだったのだ
ドラスリア軍もまた同じ陣形を取っている
これは同じ国の軍なのだから当然と言えた
しかし、ラシュフォード軍は攻撃的な陣形へと変わってゆく……

練度の高いラシュフォード軍は陣形の変更が早く、
寄せ集めのドラスリア軍はまだ動いてすらいなかった
貴族の連合であるドラスリア軍は指揮系統が上手く回っていないのだ

その点、ラシュフォード軍は全て傘下の貴族であり、
その兵は全てラシュフォード軍と言える
この練度の違いが決定的だった

そして、指揮を取るのはノル・スク・ラシュフォードである

彼女が緑の旗を揚げると、
投石機に魔法使いが4名ずつ配置される
そして詠唱が始まった……

「ダン=ド=リオンの綿毛のごとく」
「春風の猛り、一つ、二つ、三つ」

魔法使い達は投石機に装填された巨石に風の魔法をかける
その頃、やっと動き出したドラスリア軍は、
投石機を前へと出す作業に手こずっていた

今かけられた魔法は巨石を軽くする魔法と、
風により三段階で勢いを増す魔法である
ラシュフォードお得意の超長距離投擲用の魔法だ

上級8章の魔法を使用するため、一般的ではない戦術だが、
ラシュフォードの魔法部隊はそれだけ層が厚いのである

ノルは次に赤と緑の旗を掲げる
すると、後方の兵から頭の上で手渡しである物が運ばれてくる
それはすぐに投石機の後ろまで届き、地面へと置かれた

"それ"は途方もなく長かった

巻かれた布束のようだが、長さが尋常ではない
ラシュフォード軍の端から端まである長さである

様々な柄や色の布が繋ぎ合わせられており、
中にはシルクのような高級な物まである

……その巨大な布は独特な悪臭を放っていた

これはノルがケイに集めさせたカーテンである
ラシュフォード傘下の貴族からかき集め、繋ぎ合わせた物だ
その大きさは、縦400メートル、横600メートルを優に超える

布の一部には金属で出来た輪がついている
そして、巨石にはフック状の金属が埋め込まれていた
兵達が一斉にフックに輪を通し、がっちりと固定し、
自分達が巻き込まれないよう下がる

終わった部隊から旗が掲げられ、
ノルは全ての準備が終わった事を確認し、再びほくそ笑む

彼女はドラスリア軍を一望した
どうやら投石機の準備が整いつつあるようだ
しかし、騎馬がまだ最前列に並びきっていない

なんと練度の低い事か……愚鈍にも程がある

しばし様子を見て、時が来るのを待つ
慌てるドラスリア軍に吹き出しそうになってしまうが、
今は我慢しておこうと扇子で顔を仰いだ

っと、忘れてはいけない命令があった
と手を叩き、1人の騎馬を呼ぶ

「例の聖騎士殿に準備させなさい
 タイミングは任せる、好きなだけ暴れなさい、と」

「ハッ!」

騎馬は大急ぎで北へと向かい、すぐに姿が見えなくなる
その後ろ姿を見送り、彼……オエングスを思い出す

・・・・・

・・・



数日前、ラシュフォード邸

エイン達が旅立ってから数日経っており、
ミラ、マルロ、イエルの3名は、
ラングリットとオズワイドの赤狼の二人と共に
ひっそりと出陣したのが先日の事だ

巫女2名が少し心配だが、
あの二人の狼に任せておけば、おそらく大丈夫だろう

そして、残されたオエングスはノルと対面していた

「何故私だけ残されたのですか」

「あら、そんな事も分からないの?聖騎士も大した事ないのね」

「私への侮辱は甘んじて受けましょう……
 しかし、この薔薇の紋章を謗(そし)る事だけは黙っていられませんよ」

静かな睨み合いが続く
この場に他の誰かがいたら気絶していたかもしれない
それほどの殺気が部屋中に満ちていた

「いいでしょう、非礼を詫ます」

意外にも折れたのはノルだった

「こちらこそ失礼した、女性へ向けるものではなかった」

オエングスは軽く頭を下げ、胸の薔薇の紋章に拳をあてる

「ふふ、貴方も分かっているからしたのでしょう?」

「……えぇ、そうですね」

二人は互いを探り合っていた
彼等にしか分からない世界がそこにはあった

「オエングス殿」

「はい」

「貴方の神器(しんき)を見せていただけるかしら」

オエングスは少し悩んだが、腰に差す2本の剣を外す
それを両者の間にあるテーブルへと置き、ゆっくりと手を放した

「ベガルタとモラルタです」

「へぇ……とっても綺麗ね」

ノルは触る事はせず、顔を近づけて見ていた

「こちらが地…と、水かしら」

彼女の一言に驚きを隠せなかった
この女、どこまで"見えている"んだ

「こちらは火と……風ね」

「……よい眼をお持ちのようですね」

彼女の顔はニタァと崩れ、満足げな顔になる
その表情にオエングスは恐怖を覚えた

「ありがとう、良い物を見せていただけたわ」

「いえ……」

2本の剣を腰へと戻し、小さなため息を洩らす
この異様な気配を放つ女相手に武器を手にし、ホッとしたのだ
あのオエングスが、である

「最初の質問に戻りましょう
 何故貴方だけ残されたか……簡単ですわ
 貴方には特別な力がある、それは軍にも匹敵する」

そうでしょう?と彼女は言う

「そこまで"見えている"のですか」

「うふふ」

底が知れない女だ……どこか邪悪さも感じる
一番警戒しなくてはいけない相手は彼女かもな……

「貴方には遊撃を任せたいのです
 とにかく戦場を混乱させてくださる?」

「構いませんが…それは貴女でも出来るのでは?」

オエングスは核心をついた
さぁ、どう出る……と身構えていると、彼女はクスっと笑った

「わたくしは総大将、分かります?勝手は出来ませんわ」

「それは、自由さえあれば"出来る"という事ですか」

しばしの沈黙の後、ノルはソファに身を預け、
不敵な笑みを浮かべて言う

「貴方に隠しても意味がなさそうだし……いいでしょう」

・・・・・

・・・



数日前の事を思い出しながら敵陣を眺めていると、
やっとドラスリア軍の騎馬が整列したようで、
進軍が開始されようとしているところだった

だが、ラシュフォード軍はまだ動いていない
先に準備が出来ていたのにも関わらず、だ
何故、彼女は動かなかったのか……
その答えは、ドラスリア軍はその身を持って気づく事になる

プォーという角笛が鳴り響き、ドラスリア軍は前進を始める
ゆっくりとその様子を眺めながらノルは黒い旗を掲げた

両軍の距離はまだ1500メートルほどあるため、
通常の投石機では届く距離ではないが、
ラシュフォードの超長距離投擲には近いくらいなのである

戦場を舐めるように見つめたノルは、勢いよく旗を振り下ろす
その瞬間、1枚の巨大な布が固定された投石機は、
ほぼ同時に全てが放たれた

弧を描く事無く斜め上に直進する巨石に引っ張られ、
巨大な布はまるで空飛ぶ旗のように広がり、
一帯をその影が覆い、ドラスリア軍は空を見上げた

遥か彼方から飛来した巨大な旗は軍の中心近くまで到達し、
巨石はバウンドしながら兵を巻き込んでゆく
そして、広がった布は人をなぎ倒しながら進んで行った

この時、布の下に入ってしまった兵は2万近くにも及んだ

ドラスリア兵は慌てて布を切り裂き、
顔を出そうと必死になるが、そこで彼等は気づいてしまった
この布から漂ってくる異臭に……

『あ……あ、油だ!!』

一人が叫ぶと同時にドラスリア軍はパニックに陥る
大慌てで抜け出そうとするが、
あまりにも巨大な布の範囲から出る事など困難だった

ワインを片手に持ち、グラスを回して香りを楽しみながら、
慌てるドラスリア軍を眺めてノルの頬は緩む
一口だけワインを飲み、彼女はこう言った

モカc

「放て」

投石機のように固定砲台となっている大型弩砲から、
先端が轟々と燃え盛る長槍が放たれ、
抜け出そうと必死なドラスリア軍の元へと飛んでゆく

燃え盛る長槍は1人の兵を貫く
この兵士は運が良かったと言えるかもしれない
彼はその1撃で即死出来たのだから……

長槍の炎は巨大な布に引火し、
炎は一瞬で広がり、2万の兵は火の海で溺れる事となった
断末魔の叫び声が轟き、次第に声すら消え、
ただただ恐怖が戦場を支配した

"炎旗作戦"

ノル・スク・ラシュフォードが提案した必勝法の1つだ
彼女はこの作戦を最初に思いつき、
すぐに妹たちに命令したのだ、"カーテンを集めよ"と

「第二射、用意」

2本目の巨大な布が後方より運ばれてくる
先程放たれた物より遥かに小さいものだが、
縦200メートル、横300メートルはあるだろうか

「投石機(カタパルト)、前進」

炎により大混乱のドラスリア軍の指揮系統は崩壊しており、
ラシュフォード軍が前進している事に気づけた者は少なかった
両軍の距離が1キロメートルを切った頃、
トドメを刺すかのような容赦の無い第二射が放たれる

今度は投石機が放たれると同時に火のついた矢も放たれ、
空中で巨大な旗は燃え、まるで空が燃えているようでもあった

その1撃でドラスリア軍の4000の兵は炎に包まれ、
開戦して僅か15分足らずで25000近い戦死者が出ていた
それも全てドラスリア軍からである

人の焼ける、焦げる臭いが漂い、
戦場は一気に地獄と化していた

逃げ出そうとするドラスリア軍は矢の雨を受け、
その大半は地に伏せる事となった

『撤退!撤退ーッ!!』

後方に待機していたドラスリア軍の将が叫び、
生き残った4万の兵はゆっくりと下がって行く
それを包囲するように5万のラシュフォード軍は陣取っていた

炎旗作戦が開始された頃……

少し離れた位置で見ていたオエングス・オディナは、
その人と思えない残虐行為に反吐が出るが、
ノル・スク・ラシュフォードという人物を思い出し、
彼は神に懺悔し、ベガルタを抜く

「神よ……私をお許しください」

・・・・・

・・・



数日前……

「貴方に隠しても意味がなさそうだし……いいでしょう」

そう言ってノルは自身の胸の谷間に手を差し入れる
豊満な胸の谷間から現れたのは半分に割れた仮面だった

「その黒い面は……?」

真っ黒な仮面は顔も描いておらず、ただ黒い
顔半分しか隠すことが出来ない半分の面を、
彼女は何故懐にしまっていたのか……

「起きなさい、アザエル」

その瞬間、彼女の面に邪悪な顔が浮き上がり、ケタケタと笑い出す
尋常ならざる量の魔力が面から放たれ、
ベガルタとモラルタがカタカタと鳴っていた

「それは……神器なのか」

「どうかしら?魔器という物かもしれませんわよ」

「魔器……悪魔の持つという武器か」

オエングスは静かにベガルタへと手を伸ばし、
抜剣はせずに少し身構える

「身構えなくてもいいわよ、
 貴方に何かする気ならとっくに殺してます」

眉一つ動かさず平然とそう言う彼女の言葉は真実味があった
この女ならやるだろう、確信めいたものがある

「おやすみなさい、アザエル」

彼女の一言で仮面から顔が消え、
先程までビリビリと感じていた魔力も消えている

「貴女は…神の使徒なのか?」

「残念ながら、わたくしは妹(ミラ)のように神の声は聞こえませんわ」

「では、何故神器を使える」

「さぁ……何故かしら?」

彼女は笑って誤魔化すが、オエングスは真剣そのものだ

「神に聞くが、いいですか?」

「どうぞ」

オエングスは2本の神器を抜き、クロスさせて置き、
祈りを捧げるように手を組み、目を瞑る

「神よ……どうか御言葉を……」

祈るオエングスを見るノルは、
どこか小馬鹿にしているような様子だ
だが、それも少しの間の事だった

《……導きし者……汝の問いに答えよう……》

ノルの頭に初めて神の声が届いたのだ

「こ、これが……神ですか?」

「はい、死の神の御言葉の最中です、お静かに」

「………ッ」

歯をギリッと噛み締め、神とやらの言葉を待つ

《……未来の名を持つ女……》

未来…?女ならわたくしの事かしら?
分からない、分からない、このわたくしが分からない!

ノルの口角は上がり、美しい顔は醜く歪んでいた

《……女…お前は魔に魅入られている……》

「…くくっ……あははは!起きなさい!アザエル!」

突然笑いだしたノルは仮面を目覚めさせ、その手に取る
即座にオエングスはベガルタを抜剣した

「神よ!これが魔だと言うのですか?!」

そう言い、彼女は仮面をつけた
顔の左半分が黒く邪悪な顔になり、右半分は醜く微笑む
左半分の顔はケタケタと笑い、天井を見上げていた

《……アシエル…目覚めよ……》

死の神の言葉が届くと同時に、ノルの付ける仮面に変化が起きる
右側に白い仮面が出現し、ノルの顔は覆われた

「ッ!?」

両手で必死に外そうとするが非力な彼女では無理だった
そして、白い面に顔が浮き出る……
穏やかな表情のそれは、ゆっくりと目を開き、
チラリと左を見る、右側のアザエルもまたアシエルを見ていた
寄り目をしているような、少し可笑しい見た目だが、
互いを確認した仮面は正面を天を仰ぐ

《……女、それが本来の姿だ……
 …お前は魔の部分しか目覚めさせられなかったのだ……》

それはお前の中に闇があるからだ、と神は言う

《……女、お前に試練を与えよう……使徒となる試練を……》

「面白そうですわね」

ノルは両肘を抱くように立ち、
まるで神の挑戦を受けてやるといった態度だった

《……この戦いの間に、アシエルを自らの力で目覚めさせてみよ……》

「分かりましたわ」

あっさり試練を受け入れ、彼女は仮面に手を当てる

「おやすみなさい、アザエル、アシエル」

すると、仮面から顔は消え、カポッと彼女の顔から外れる
彼女の頬は軽く赤らみ、呼吸は僅かに乱れ、
汗で貼り付いた髪が妙に色っぽい

「うふふ、楽しくなってきましたわ」

今まで彼女の中に信仰という概念は無かった
神という存在は知っていたが、確認した事が無いため、
居ないという認識だったのだ

彼女は神など信じていなかった、もちろん宗教もだ

それがどうだ、この一瞬でそれは覆ってしまった
これほどの知的興奮はいつ以来だろうか
先程交わした会話を分析し、
神という存在を知ろうと思考を巡らせる……が、

「私は貴女を信用した訳ではありません
 仮に貴女が神々の敵となった時は、
 我が刃が貴女の首を落とす事をお忘れなきよう」

オエングスの言葉で思考は乱れ、苛立ちを覚える
普段はここまで感情が揺れる事などなかったのだが、
神という存在を知り、どうも興奮しているようだ

「分かりましたわ
 でも、今は…巫女を取り返すのでしょう?」

「えぇ、そのためだけに私はここに居ます」

「なら話が早いわ、わたくしの作戦、聞いてくださる?」

・・・・・

・・・



「神よ……私をお許しください」

オエングスは神に懺悔してから馬を走らせ、
彼はドラスリア軍の北側から単騎で突撃をする
前方の集団は二大貴族トレルド家率いる6000の軍勢
だが、今の彼に人数など関係ないに等しかった

彼は既に使徒として覚醒している
それは、人を超越したという事である
そんな彼に6000の兵で相手になるだろうか?

答えは簡単……否である

仮に2万でも勝てる事は有り得ないだろう
神の使徒とはそれほどの力を有しているのだ
その力をノルに見抜かれ、戦場を撹乱する役目を与えられた

この力を手に入れたオエングスは、
一般人に向けてこの力を振るう事を躊躇っていた
だが、風の巫女奪還という使命があるため、
心を鬼にして彼は剣を振るう覚悟する

「せめて……人らしくッ!」

彼は神器開放はせずに一騎駆けを行う
彼に気づいたドラスリア兵は矢の雨を降らすが、
全て叩き落とされ、彼の勢いは衰える事はなかった

そして、6000の兵を二つに割くように突っ込んでゆく

オエングスの特攻により、
ドラスリア軍の一翼は混乱へと叩き落とされた

6000の兵を突破したところで踵を返し、
再び突撃しようとした時、彼の馬が3本の矢を受け倒れる
飛び降りたオエングスは苦しむ馬を楽にしてやり、
盾を背中の留め具に引っ掛け、モラルタを抜いた

ベガルタを縦に、モラルタを水平にし、
まるで十字架のように構え、彼は祈りの言葉を唱える

オエングス十字

「神よ……この身に加護を与えたまえ」

2本の剣は淡く光り、彼の髪や赤いマント、
白銀の鎧も僅かに発光し、その姿は遥か遠くからも確認出来た

そんな彼を遠くから見ていたのはノルだ

予定通りトレルド家を抑え込んでくれているが、
神器開放していない事には少し苛立ちを覚えた
ノルには理解出来ないのだ、手加減をする意味が

苛立つノルの横にいた妹のケイは、
彼女の持つグラスにワインを足し、背中を軽く叩く

「姉さま、せっかくの戦争だ、もっと楽しもう」

「そうね…ありがとう、愛しい妹」

素直にありがとうと言う姉は珍しく、
少し気持ち悪いが、ノルが再び笑顔になったのでよしとしよう

ケイは長年の経験で知っているのだ
このノルという女を怒らせてはいけない、と

以前、ノルを不愉快にさせたある貴族がいた
後日、その貴族は一家皆殺しにあったのだ

犯行は野盗の仕業とされたが、ケイは気づいていた
その野盗を手引きしたのがノルであると……
その後、野盗はノルの部下によって捕まり、
即時、斬首刑となっている

証拠を残す事をよしとしなかったのだろう

ケイは知っている
この程度の事は日常茶飯事だと
姉を、この女だけは怒らせてはいけないのだ

血縁である自分ですら簡単に切り捨てる
そう思える何かが姉にはあった

だが、ケイの気遣いはこの後無駄となる



予想もしていなかった来訪者の登場によって……


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