2015_11
26
(Thu)14:50

1章 第11話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第11話 【亜人】

いやー、本当は戦闘をもっともっと描きたかったのですが、
容量の都合上割愛に・・・1話を20kb前後にしたいんですよー。
今回の分量で26kbでっす!

では続きを読むからどうぞー。











【亜人】








一行はラーズ首都を離れ、亜人の領域へと向かっている
首都とは違い、舗装などされていない道を馬で駆け、既に30時間は経過していた

「そろそろ休憩にしよう」

ガゼムは皆の顔色を見てそう判断する
ここまで一日以上馬を走らせ続けている、皆の疲労は一目瞭然だった
いくら急ぐ旅とは言え、これでは馬が人が持たない

「そうだな」

ロイは手綱を引き、馬の速度を落とし、皆に止まれの合図を出す
それぞれ馬を止め、下馬した
一行はそこで野営の準備を始める
枯れ木を探す者、テントを設営する者、見張りをする者
食事の用意をする者、長い旅を経て、それぞれの役割は決まっていた
しかし、料理担当が一人減っている

「誰か一人貸してもらえないかね?」

人手が足りないんだ、とイエルが訴える
そう、料理を担当していたリリムが居なくなってしまったからだ
リリムはこの旅が始まった当初は料理が一切できなかった
巫女である彼女は料理など作った事がなかったのだ
食べた者が苦虫を噛んだような顔になるヒドい料理が完成した事もあった
しかし、彼女は努力し、イエルから料理を学び、上達していった
元々才能があったのかもしれない、彼女の料理は瞬く間に上手くなり
彼女が作った料理が出されると、一部の男達が飛びつくほどにまでなったのである

「そうですね・・・では、誰か料理ができる者はいるか」

ガゼムは皆を見渡す
男達は視線を逸らすので、ハーフブリードの女性陣へと目が向く
だが、彼女達は一人の男を見ている、シルトだ

「シルト殿、料理ができるのか?」

ハハハと乾いた笑いをし、頭を掻いている

「シルさんの料理は美味しいよ♪」

「うんうん」

「下手なお店で食べるよりずっといいね」

「うちの料理担当なのー」

彼女達がシルさんがいいよ!と推してくる
この男は料理もできるのか、と男達は感心していた

「では、お願いしてもいいだろうか」

「ほいほい、了解です」

そう言い、シルトは腕まくりのポーズをしたとこで、あっとした顔をする
彼はフルプレートメイルだ、腕まくりなど出来る訳がない

「あの~・・・このままでやるんですかね?
 これ着るの物凄く大変なんですけど・・・」

そんな彼をイエルが下から舐めるようにその漆黒の鎧を眺め
やれやれと首を振り

「不動の旦那には簡単な事をしてもらうから、そのままで構わないよ」

「どもども、助かります」

ぺこぺこと頭を下げ、薄ら笑いを浮かべている
イエルはこれまでの彼等の働きを見ているから不快感は感じないが
それを知らぬ者が見たら不快になってもおかしくないほどに低姿勢な男だ
1等級なんだからもっと胸を張ってもいいのにねぇ、イエルはそう思うのだった
そんなやり取りが行われている時、突然大声が響く


『お前は何をやってたんだ!!』


皆が声の方へと目を向けると、そこには倒れたエインの姿があった
その横にはリヨンが振るったであろう拳を震わせている
殴られたエインは口の端が切れ、血が流れていた
しかし、彼は口を開こうとしなかった

「なぜ!なぜ!巫女様が!・・・リリム様がおられないのだ!!」

リヨンはエインの腹部を蹴り、エインは転がっていく
呼吸が難しくなり、ゲホゲホとむせている

「お前は守ると言ったな!では何故、巫女様がいない!!」

リヨンはエインをボールのように何度も何度も蹴り飛ばす
その度、エインの苦痛の悲鳴が小さく洩れる
見ていられなかったミラが彼等に近寄るが、エインはそれを手で制す
そしてミラに目を向け、静かに首を横に振った

「何とか言ってみろ!!」

腹部へ、つま先を立てた蹴りがめり込む

「がはっ」

エインの口から血が吐き出される、先ほど切った口からのものではない
数名がリヨンを止めに走る、が

『来るなっ!!』

エインが叫び、その目は開かれ、彼の気迫に押され一同が止まる
その後、彼は再びゲホゲホとむせる、その咳には血が混じっている

「お前・・・なんのつもりだ、助けを乞えばいいではないか」

リヨンは無表情でエインを見下ろす
何とか呼吸を整え、真っ直ぐ彼を見てエインは答える

「・・・リリムの件は俺のミスだ、責任は俺にある」

『ミスで許されるかああああ!!!』

リヨンはメイスを抜き、振りかぶる
エインは目を閉じ、その後に起こるであろう事柄を受け入れた
しかし、メイスは振るわれなかった

「なっ」

リヨンは驚愕する
音も無く、自分の背後に立つ男がいたのだ、クガネである
彼は暗殺のプロ、音もなく行動する事には長けていた
彼によりメイスが握られ、その動きを止められている

「なんのつもりだ!貴様!」

「ぴーちくぱーちく、やかましいんだよ」

そういうクガネの目には殺意すら感じる
その目に恐れ、リヨンは一歩離れようとするがそれは許されなかった
クガネに胸ぐらを掴まれる

「あの場に居なかったお前に何が分かる
 道中でくたばってたお前に何を言う権利がある
 文句を言う暇があったら、てめぇのやれる事をやれ」

バッと手を離し、クガネは後ろを向き、去って行く
リヨンは呆然とし、その言葉をどう処理するか迷っていた

死の神という存在が現れた瞬間から全員が動けなかった
それは下山組であるクガネ達もそうだった
四神とは違う絶対的存在感、衰えた力ですらあれなのだ
その存在感は山の麓に居たクガネ達も感じられるほどで
あんなものに人程度がどうこうできる訳が無い
それを見もしない、感じもしない奴がぐだぐだ言うのが彼は腹が立った
まるで自分が責められているような気さえしたからだ

リヨンは膝から崩れ、頭を抱え
巫女様、リリム様と声を洩らし、泣き崩れる
そんな彼の背をエインは見ている事しかできなかった
そこにマルロがゆっくりと近寄って来て
リヨンの頭に手を置き、優しく言葉を紡ぐ

「リリムさんは助かります
 神が無闇に命を奪うとは思えません
 死の神はリリムさんを救いに来たと言いましたよ
 だからきっと大丈夫です、リリムさんは助かります」

その言葉にすがるように、マルロの手を握り、リヨンは号泣する
そんな彼の頭を笑顔で優しく撫でる少女だった

マルロの言葉はエインの胸にも刺さっていた
エインは胸の奥に熱くなるものを感じた
そして決意する、リリムを助ける、今度こそ守る、と


その後、エインはシャルルに治療される
思ったより怪我が酷かったようで、後でリヨンはシャルルに怒られる事となった
治療を受けているエインにリヨンが歩み寄り

「すまなかった・・・・・力を・・・貸してくれ」

頭を下げた、下げた頭からは涙がポロポロと地面に落ちている

「頭を上げてください、この命に賭けて、リリムは救い出します」

リヨンはしわくちゃになった顔を上げ、すまない、と彼にもう1度頭を下げた





翌朝、出立前にロイより皆に伝える事があると集められた

「すまない、聞いてくれ」

なんだ、なんだ、と一同が集まり、彼に注目する

「先日の火山での戦闘では同士討ちが多発していた
 そこで、各国、または組みやすい相手と組み、各個撃破のような形を取ろうと思う
 そして、各グループが攻撃してる敵に対しては他は支援に回るよう決めようと思う」

ここまで異論はあるだろうか、そう言い彼は見渡す

「では、これから亜人の領土へと入る
 戦闘は極力避けたいが、やむを得ない場合は戦う事もあるだろう
 今後、この作戦で行動するよう頼む」

一同が頷き、彼等は出立する
2時間ほどして山岳地帯へと入り、そこで全員が馬を降りる
ここからは隠密行動となるため、馬がいては目立ってしまうからだ

亜人の領土、この山岳地帯は険しい山々が連なり
人は滅多な事がない限り近寄らない
全体的に草木は少ないが、一部の山には果物らしき実のなった木々もある
しっかりとした道らしい道はないが、おそらく亜人達が通っているであろう跡はある
一部だけ地面が剥げ、わずかに色を変えた道、獣道のようなそれだ

一行は獣道を進む
先頭はクガネだ、隠密行動と言ったら彼が一番優秀だろう
慎重に、しかしゆっくり過ぎず進んで行く
4時間ほど進んだ時に先頭のクガネが立ち止まる

「くせぇな」

クガネは辺りを見ている

「何かいるのか?」

ロイが尋ねるが、クガネはそれを手で制す
変化した空気を感じ取り、ロイは後ろの者達に音を立てるな、と合図を出す
クガネは地面に耳をつけ、目を瞑る

・・・・・・・・ド・・・・・・・・・ドド・・・・・

僅かな揺れを感じる、数までは分からないがそれなりに大きな生物だ
おそらく亜人だろう

「近いぞ、どうする」

「戦闘は避けたい、隠れてやりすごそう」

「ふっ、それができればいいがな」

一行は獣道を離れ、岩陰へと隠れる
数分して皆の耳にも音が聞こえ始めた
それは四足歩行の獣が走るような音、ドドッドドッとリズミカルに大地を蹴る音
その足音は隠れている岩から50メートルほどの場所で止まる

「オイ、臭ワナイカ」

「エェ、臭イデスネ」

「複数ノ人間ノヨウダナ、マタ性懲リモナク攻メテ来タカ」

一旦戻ルゾと言い、音は遠ざかって行く
息を止めていた者達から、ぷはぁと大きな息が洩れる

「・・・・何の亜人だった」

ロイが様子を伺っていたクガネに聞く

「ワータイガーが3匹だな」

「やはりそうか・・・見つかってしまったようだな」

「奴らの鼻は俺達の100倍はいいからな、隠れても無駄だ」

見つかった事により作戦を変更しなくてはならなくなり
ロイとガゼムが話し合いを始める

「追って倒すか?それならまだ見つかった事にはなるまい」

「奴らの足には到底追いつけないぞ」

「そうか・・・くそっ」

そこでマルロとイエルが彼等の元へと来る

「あの、話し合いはできないのですか?」

「そうさね、あちらさんには生の巫女もいるんだろう?」

「しかし、巫女様・・・あやつ等は亜人ですぞ」

「亜人にも知性があり言葉も話す・・・人です、何の違いがありますか?」

そんな少女の言葉にガゼムの言葉は詰まる
ロイがガハハと笑い、ガゼムの背を叩く

「巫女殿の言う通りかもしれん、思い切って話し合ってみるか」

皆はどうだろうか、とロイが一同へ意見を求める
数名から反対意見も出たが、大半の者は同意した

冷静に考えれば分かる事だ、まともにやりあえば勝てない事は明白である
それなら僅かでも可能性の残る、対話という方法を選択するのは懸命な判断だろう
では、何故反対意見が出るのか、それは亜人への偏見だ
亜人は蛮族、対話など無理な存在、獣と同等、そういう偏見があるのだ
それは人類にとっては常識のように広まった認識である

一行はワータイガーの向かった方へと獣道を進み始めるのだった











山の中腹にある、おおよそ500人程度の集落の一角で
まだ幼さの残る少女は川から水を汲んで来ていた

「ウンッショ・・ウンッショ・・・」

体格に合わない、人間の大人がすっぽりと入りそうな大きな桶を抱え
尻尾でバランスを取り、ふらふらと歩く
ふらつく度に、なみなみと入った水がチャポっと音を立てこぼれる
そんな少女の丸い耳がピクピクと動く

「ヒミカ様~!私ガ、オ持チシマス!」

ヒミカと呼ばれた少女は声がした方へと向き、走ってくる雄を目にする
ヒミカはこの集落の族長である生の巫女レンウの孫だ
そう、ここは亜人の集落ガドゥンガンである
雄はヒミカに駆け寄り、手に持つ大桶をひょいっと奪い取る

「別ニ良イノニ・・・ソノクライ私デモ持テルヨ?」

「コノヨウナ仕事ハ、私達ニオ任セ下サイ!」

むすっとし、ヒミカは諦める
いくら族長の孫とは言え、特別扱いはしてほしくないのだ
しかし、周りの者達はそれを許してはくれない

「デハ、失礼シマス」

そう言い、ワータイガーの雄は大桶の重さなど感じないようにさっさと去って行く
彼女は尻尾をフリフリとし、それを見送る

ヒミカはワータイガーだが、その姿は他とは全く違う
それは色だ、彼女はワータイガーでも珍しい純白の毛を持ち、その瞳は銀色に輝いている
それ以外は小柄な事を除けば一般的なワータイガーと同じである

ワータイガーとは、太い尻尾、太く長い腕
その全身はふさふさと毛が生えており、世に言う虎柄が全身を走っている
背丈は雌であれば180センチ前後、雄であれば230センチ前後となる
その顔は、鼻が潰れ、横に大きく広がっており、瞳は黄金のように輝き、丸く大きい
口は人で言う頬骨辺りまで裂けており、前へと突き出ている
その口には鋭い牙が並び、上に2本、下に2本、他より大きな牙が見える
太く鋭い爪が生えており、手の平の大きさは人の顔ほどあるだろうか
そこには可愛らしい肉球があり、ぷにぷにとしている
全身の毛の下には猛々しい筋肉の壁があり、その力は優に人の5倍はあるだろう
獣である虎が二足歩行で歩いているようだと言えば分かりやすいだろうか
彼等は動物などの毛皮をなめし、腰巻などにしている
これが一般的な成人のワータイガーである

ヒミカはまだ幼さの残る少女だ
大人のワータイガーのような筋肉も無く、毛も柔らかい
牙や爪もまだしっかりとしておらず、丸みを帯びていた

やる事がなくなり、ヒミカは集落を散歩する事にする
あちこちでヒミカ様と挨拶をされ、その度に笑顔と手振って返す
ガドゥンガンには亜人が暮らしている、それはワータイガーだけでは無い
力の弱い亜人、ウェアキャットなどもいた

ウェアキャットとは簡単に言うと二足歩行の猫だ
顔つきもほとんど猫のそれで、細く、しなやかな身体をしている
全身を覆う体毛は色々な種類がおり、真っ白の者から斑な者まで様々だ
珍しいが、中には長毛の者もいる
爪は鋭いが細く、あまり戦闘向きではない
細い身体に力は無く、人と大差はなかった
しかし、彼等ウェアキャットには人を遥かに凌駕する脚力、バランス感覚を有している
力の弱いウェアキャットは人に追われ、ここまで逃げてきたのだ
それをワータイガー達が保護したのだった
保護される対価としてワータイガーよりも若干多くの仕事をしていた

日向ぼっこをしているワータイガーやウェアキャットを眺め、ヒミカは目を細める
彼等は基本的に働かない、気分で生きてる者が多い
寝ている時間の方が長いくらいだろう
中には己を鍛えるため鍛錬する者も希にいるが、それは極少数だ
必要な時に狩りをし、必要な時に水を汲み、必要な時に服を作る
そんな自由気ままな生活を送っていた

この生活が確保されている理由は個々の能力の高さもあるだろう
個々で食糧や水も調達でき、生きる分には困らないからだ
そして、病や怪我などは生の巫女である族長が癒してくれる
その安心感から彼等の自由な生活が生まれたとも言えた
更に、ガドゥンガンには英雄がいる
彼の存在は皆に大きな安心を与えていた

「ン?何カアッタノカナ?」

ヒミカの耳がピクピクと動き、集落の入口辺りから外を見つめる
足音が聞こえるのだ、それも大急ぎで走っているようである
少しして駆けて来た者が視界に入る
その瞬間、ヒミカの尻尾がフリフリと揺れ、その顔が緩む

『シャチーーーー!』

愛らしい肉球のついた手をぶんぶんと振り
駆けて来る者、英雄シャチがそれを見て彼女の元へと来る

「ヒミカ様、今ハ急ギマスノデ失礼」

ヒミカ様モ族長ノ家ヘオ越シ下サイと頭を下げ、シャチ達はドドッドドッと駆けて行く
残されたヒミカはしょぼくれるが、何があったのだろうと村の外に目をやり
思い出したように自分の家、族長の家へとトテトテと駆け出す


「失礼シマス」

土壁と藁の屋根で出来たような家の入口に扉はなく、すだれが掛かっているだけだ
それを押し退け、シャチは中へと入る

「如何ナサイマシタ、シャチ殿」

中から優しい声が響く、それは老婆のような声だ
薄暗い部屋の中、中央に動物の毛皮で出来た布団に横たわる人物がいた
彼女は生の巫女レンウ、この村の族長だ
老いのせいか毛並みは悪く、筋肉も落ち、皮膚はたるんでいる
しわくちゃの顔をしているが、その目は黄金に輝き、未だ力を宿している

「ハッ、人ガ攻メテ来タヨウデス」

顔だけをシャチへ向け、レンウは微笑む

「ソウデスカ、貴方ニ任セマス」

そう言い、レンウは天井を見つめ、目を瞑る

「ハッ、必ズヤ撃退シテミセマス」

目を瞑ったまま、レンウは独り言のように呟く

「何モカモ敵対スル必要ハアリマセン、時ニハ対話モ道デスヨ」

「ハッ」

シャチは頭を下げ、家を後にする
ちょうど家を出た所で再びヒミカと出くわす

「シャチ・・・何カアッタノ?」

心配そうにシャチを覗き込む少女の顔がそこにあった

「ヒミカ様、人ガ攻メテ来マシタ、ドウカ中ヘ」

入口から横に逸れ、中へと手で促す
ヒミカはそれに従い、入口に立つ

「ヒミカデスカ、入リナサイ」

中から小さな聞きなれた声が聞こえ
ハイ、と返事をし、彼女は家の中へと入る

「オ婆様、体調ハ如何デスカ」

ヒミカはレンウへと近寄り、その枕元へと行く
レンウは目を開ける事もなく、微笑みで答えた

「モウスグ、私ノ魂ハ神ヘト献上スルノデス」

「・・・ハイ」

ヒミカは暗い顔になる
しかしレンウは微笑み、とても嬉しそうに言う

「ヒミカ、コレハ悲シイ事ジャナイノデスヨ」

「・・・ハイ」

「コノ世カラ死ガ消エ、私ノ魂ハ神ヘト捧ゲラレズニイマス」

「・・・ハイ」

「ソレハ、トテモ悲シイ事ナノデスヨ、ヒミカ」

「・・・ハイ」

レンウは目を開き、ヒミカを見つめる
その目は力強いようでとても優しい目だった

「死トハ大切ナモノデス、ソウヤッテ命ハ巡ルノデスヨ」

「・・・ハイ」

「来ナサイ、ヒミカ」

レンウはその身体にかかっている毛皮を少しだけずらし、ヒミカを招く
ヒミカはすすすっと身体を滑り込ませ、レンウの胸へと顔を埋める
優しく頭を撫で、ヒミカの身体を包み込んだ




シャチは雄達をガドゥンガンの中央にある広場へと集めていた
昼寝をしていた者も起こされ、今は広場で雄叫びを上げている
雌や子供達は家へと避難させられ、中から広場の様子を伺っている
ガドゥンガンの広場に集った雄

その数、221名

一つ一つの雄叫びが共鳴し、今では大きな渦のようである
その中でも一際大きな雄叫びを上げる者が手を上げそれを止める
220名にもなるワータイガーの雄全員が彼を見る・・・ガドゥンガンの英雄シャチだ

シャチは彼等の中でも特別な存在だった
身体も他の雄達から比べると一回りほど大きく
何度も死線を乗り越えた証である無数の傷が身体中に走る
圧倒的最強であり、戦士の中の戦士、まさに英雄だった

この220名の中には戦闘に特化したワータイガーは15名しかいない
他は普段狩りをする程度の普通のワータイガーだ
そして、彼等は武器を持たない、己の拳、牙、爪で戦うのだ
しかし、シャチはその右手に異様な姿の小刀を持つ

ガドゥンガンで最強である者だけが持つ事を許された小刀・破岩(はがん)
刀身には、絵の具を水に垂らした時にできるような積層模様が刻まれている
刀身の長さは30センチほどで、片刃の小刀だ
持つ部分はナックルのように指を差し込むように出来ている
各指の部分は尖っており、そのまま殴る事も想定された作りになっていた
そう、これはワータイガー用に作られた武器であり
人にはサイズが大きすぎて上手く握る事が出来ないだろう
そして、破岩はアーティファクト武器である
死の魔法により、名の通り岩すらも簡単に破壊する力を使用者に与える
これはワータイガーの宝であり、その時代ごとの最強の雄が手にしてきた武器である
その破岩を掲げ、皆に聞こえるよう大声で宣言する

『ガドゥンガンノ戦士達ヨ!人ハ愚カニモ、再ビ攻メテ来タ!!』

一斉にガオオオオオォッ!という雄叫びを上げ、一瞬で静かになる
そしてシャチは言葉を続ける

『我等ニ敗北ハ許サレナイ!!』

ガオオオオオォッ!

『ソノ拳デ、ソノ牙デ、ソノ爪デ、奴等ヲ血祭リニ上ゲテヤレッ!!』

ガオオオオオオオオオォッ!一際大きい雄叫びが鳴り響く
それに続き220名の雄叫びが響き、全員が自身の分厚い胸板を叩く
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!それはまるで戦の前の太鼓のようだった








23人は獣道を辿り、亜人の集落ガドゥンガンへと向かっていた
辺りには太さ40センチほどの背の高い針葉樹が生えている
木々に葉は少なく、生えている間隔も広く、光を遮るような事はない
この辺りの林は手入れをされている様子がある
それは、亜人の集落が近い事を彼等に告げていた
一行が慎重に足を進めていると、遠くから無数の獣の吠える声が聞こえてくる
その異様とも言える雄叫びに皆が足を止めた

「おいおい、奴等やる気満々じゃねぇか」

クガネの頬を冷や汗が流れる
隣にはマルロがおり、彼女は怯え、その手に持つ黒曜石の杖を両手で握り締めている

現在の隊列はこうだ
先頭にクガネ、マルロ、ガゼム
その後ろにミラ、エイン、イシュタール、カイル
その後ろにはエール、ブロスがいる
彼等の右後方に少し離れた位置に、ロイ、シルト、サラが並び
その後ろにはラピ、シャルル、ジーンがいる
エール達の左後方にアズル、ダリル、サイガ、イルガが並び
その後ろにリヨン、イエル、エンビ、ガリアがいる

本来であればマルロは後方の方がいいのだが、彼女の意思で先頭へと立っていた
それは彼女が亜人との対話を望んでいたからである
自らの行動でそれを示し、亜人に理解してもらいたいのだ
しかし、先ほどの無数の雄叫びは9歳の少女には厳しいものだろう
明らかな敵意の込められたそれは、少女を震え上がらせ、心を挫くには充分だった

『各員、戦闘用意!』

ロイが叫ぶ、そして全員がそれぞれの武器を手に取る

『対話が困難な場合、戦闘に移る!それまでは耐えてくれ!』

それなりに開けた場所に陣取り、亜人を待ち構える
雄叫びがどんどん近づいて来るにつれ、大地が揺れ始める
そして、亜人・・・ワータイガーの群れが視界に入る

「チッ・・・なんて数だ」

ガゼムの愚痴がこぼれ、前面へとその大盾を構える

『一旦奴等を止めるぞ!その後、対話を試みる!』

ガゼムは隣にいる小さな少女に優しく声をかける

「マルロ様、我等が勢いを止めますので、後は頼みます」

私の後ろに、とガゼムが半歩前へ出る
しかし、マルロは隠れようとしない

「いえ、私が止めます」

そう言い放ち、即座に彼女は詠唱を始める
手に持つ黒曜石の杖が淡く光り、下から湧き出る力により法衣や髪が揺れる
マルロは杖から手を離し、その杖は彼女の手前で直立のまま静止する
そして両手を広げ、その両手には60センチほどの魔法陣が現れる
左右にいたクガネとガゼムは1歩ほど彼女から離れ、それを見守る

「堅牢なる大地の鎧よ」

静止する黒曜石の杖の光りが増す
そして、パンッと両手が合わさり、音を立てる
その瞬間、魔法陣は消え、大地は先ほどまでの地響きとは違う振動をあげる

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

横15メートル、奥行50センチ、高さ2メートルほど大地が迫り上がり
彼等の前に壁として出現する
しかし、中央の一点のみは開かれており、マルロだけが壁の先を見通せた
これは地の魔法でも最高位にあたる魔法、巫女以外で使える者はごく僅かしかいない
その最高位魔法であっても、巫女であるマルロにとっては容易い魔法となる
彼女にとってはこの魔法でも、せいぜい中位程度なのだ


突如現れた壁に先頭を走るシャチは驚く
そしてその壁の中央にある隙間に立つ少女に目が行く

「アンナ小サナ少女ガコレヲ?・・・・・マサカッ!地ノ巫女カッ!!」

それに気づいたシャチは全員に止まれの合図を出す
221名にもなるワータイガーの群れは一斉に止まり、土煙を上げる
先ほどまで響いていた地鳴りや雄叫びが止み、静寂が辺りを包む
そして、少女の声が静寂を破る

『お話がしたいです!』

その言葉にワータイガーの群れから動揺の声が洩れる
それに答えたのはシャチだった

『人ハ信用デキヌ!ソウ言イ、不意打チヲスルノデアロウ!』

『しません!私達は対話を望んでいます!』

シャチの顔にシワが増える、悩んでいるのだ
あの少女が嘘を言ってる感じはしない・・・だが、相手は人だ
それを信じて良いのか判断できずにいた
その時、壁の隙間からキラリとしたものが見えた
その切っ先はシャチを捉えており
少女の後ろにいる鋭い殺意の視線を放つ男に目が行く・・・エインだ

「ヤハリ・・・罠カ・・・」

ガオオオオオオオォッ!!シャチの雄叫びが轟く
それを合図に群れは波のように動き出す

「まずい!奴等は殺る気だ!」

ガゼムはマルロの前へ出て、壁の隙間をその大盾で塞ぐ

「どうしてっ・・・!」

マルロが悲痛の叫びを洩らす

『総員、戦闘準備!!』

ロイが叫び、魔法使いは詠唱を始める
その瞬間、ガゼムの大盾に凄まじい衝撃が伝わる

「ぐぅっ!!」

大盾に全体重をかけている彼の足がズズズと大地をえぐり、後退して行く
壁と大盾の隙間から鋭い爪が顔を見せる
それと同時に壁を乗り越え、6体のワータイガーが飛んで来る

「獣風情が、人をなめるなよ」

詠唱を終えたブロスの風の魔法が炸裂し
2体のワータイガーは吹き飛び、壁の向こう側へと消える
エンビの放った水の魔法の水球が1体の顔面へと直撃し、勢いがなくなり、真下へ落ちる
1体は飛びかかりながら爪を振るい、それはシルトの盾により防がれる
もう1体の爪もダリルの大盾により防がれる
そして、残る2体は・・・隊の中央へと降り立った

降り立った1体の背中にカイルの槍が刺さるが
そんな事には物ともせず、ワータイガーは反転し、上段からの鋭い爪を放つ
それはカイルのスチールハーフプレートを糸も簡単に切り裂き
左鎖骨から腹部まで4本の線に一気に切り裂き、その腹からは臓物がはみ出る
そしてカイルはその場に倒れ込んだ

もう1体の降り立ったワータイガーにはサイガとイルガが同時攻撃を食らわした
サイガの刀は脇腹を切り裂き、イルガの鎌はうなじから肩へと食い込む
しかし、ワータイガーは怯まない、その両手でサイガとイルガの頭を鷲掴みにし
二つの頭をシンバルのように思いっきり叩き合わせる
サイガとイルガの顔は潰れ、血が吹き出し、力なく崩れ去る

次々とワータイガーが壁を超え、襲い掛かろうという時
乱戦の中央、上空に突如巨大な炎の玉が出現する
それは激しく渦巻いており、その熱は辺り一帯に広がる

「紅蓮に染まりし業火よ」

イエルの火の魔法だ
彼女の中でも上位に存在する魔法であり、巫女にしか使えない魔法の1つだ
その火球は徐々に巨大化し、直径8メートルにもなる
触れた木は一瞬で消し炭と化し、上部の方で折れる
それを見たワータイガーは怯え、壁の向こうへと身を隠す
戦闘に特化していない雄達はそれに怯え、足を止める
シャチはそれを壁の向こうから見ていた
あんな規模の火の魔法をシャチは知らない

「ナッ!・・・・火ノ巫女マデ居ルト言ウノカッ!!」

シャチは考える、地と火の巫女までいると言うのはおかしいと
これまで襲ってきた人間は普通の戦士と魔法使い程度だ
巫女が二人も来ている事はそれほど異常な事態なのだ
彼が悩んでいたところに壁の向こう側から1本の線が走る

それを作り出したのはクガネだ
彼の腕にはめられた機械のような物、それはドワーフの作り出した一品で
火の魔法が込められた小さな筒を使い、先端にフックのついたワイヤーを発射する物だ
彼はその筒を3本だけ持っていた
それを使い、機械のような物・フックショットを放つ
フックが木に刺さりしっかりと固定される
それを確認したクガネは火の筒を取り出し、別の筒を装填する
その筒は風の魔法が込められており、ワイヤーを一気に巻き取る
この風の筒もクガネは3本だけ所持していた
クガネの身体は宙に浮き、一気に木へと跳躍する
一瞬で木の地上6メートルほどまで辿り着き
横にあるボタンでワイヤーを切り離し、爆炎のダガーを構え、木を蹴り滑空する
目標は敵の指揮官・シャチだ

突如、上から現れた男に驚愕し、シャチは破岩を構える
一瞬の出来事だった、互いのスピードは互角だっただろうか
爆炎のダガーと破岩はぶつかり合い、火花を散らす
しかし、落下スピードを加えた力でもクガネは勝てなかった
彼は吹き飛ばされ、マルロの作り出した壁へと叩きつけられる
シャチはそれを追撃しようとしたところで、自身の持つ破岩が爆発し、体勢を崩す
破岩は損傷していないが、その予想していなかった爆発の衝撃は凄まじかった

「貴様モ宝刀持チカッ!」

宝刀とはワータイガーのアーティファクト武器の呼び名である
シャチが怯んだ一瞬を逃さない者がいた
彼はクガネが飛び出した瞬間に、ガゼムが塞ごうとしていた壁の隙間をくぐり抜け
そこをこじ開けてようとしていたワータイガーの頭を踏みつけ
壁の向こう側へと行き、そのまま一気にシャチへと距離を詰めていた
そして、疾雷と言われる突きが放たれる
彼のその瞳には殺意だけが込もっていた
その眼を見て、シャチは吠える

「ガオオオオォッ!!」

過去に見てきた人間どもの眼だからだ
体勢を崩しながらも、シャチはその突きを破岩でいなす
が、いなしきれなかった
その剣は太い腕へと深く刺さり、刺された箇所からは激しい熱を感じる
シャチが腕を振るう事で剣は抜け、エインは剣と共に吹き飛ばされる


『まってくださーーーーーーーいっ!!」


突如、少女の叫び声が戦場を駆ける

『皆さん武器を下ろしてくださいっ!!争ってはいけませんっ!!』

その叫びに一瞬だが戦場は止まる
全ての者が手を止め、声のする方へと注目する
上空に浮かぶ火球は消え、イエルが仕方ないねぇとため息を洩らす
火球が消えた事により、ワータイガーの群れにも動揺が走った

『私達は争う理由がありませんっ!世界を救いたいだけなのですっ!!』

少女は涙を溜め、精一杯の声を絞り出して叫ぶ

『おねがいしますっ!話を聞いてくださーーーーいっ!!』

マルロの言葉に皆が止まり、彼女の元へと自然と集まる
ワータイガー達はどうしていいか分からず、シャチへと目を動かす
クガネとエインも壁の隙間を抜け、マルロの元へと行く
壁を超えてきたワータイガー達は壁を迂回し、シャチの元へと集まる

再び、壁を挟んでの睨み合いとなった

マルロはその場にぺたんと座り込み、良かった、と泣き出している
シャチはそんな少女を見て、ある少女を思い出す
それは族長、生の巫女レンウの孫娘ヒミカだ
姿などは一切似ていないが、何故か彼女とだぶる
そこでシャチは生の巫女レンウの言葉を思い出す


・・・・何モカモ敵対スル必要ハアリマセン、時ニハ対話モ道デスヨ・・・・


その言葉が脳内で繰り返され、自身の不甲斐なさに苛立ちを覚える
先ほどエインに刺された傷を拳で殴り、痛みを自身の戒めとする

『戦士達ヨ!!コノ人間達ヲ、ガドゥンガンヘト連レテ行ク!!
 ソレマデ、一切ノ手出シハ禁ズル!!』



こうして、戦いは終わり
一行はワータイガー達に連れられ、ガドゥンガンへと行くのだった






スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック