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(Sun)22:14

1章 第12話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第12話 【生の巫女】

亜人編、思ったより長くなりました・・・(´・ω・`)
イマイチ上手く描けてるか謎ですが、
書きたい事は全部入れてみるつもりです!

では続きを読むからどうぞー。












【生の巫女】







ワータイガーと人の一行がガドゥンガンへと到着し、半刻が過ぎた
代表者としてマルロ、イエル、ガゼム、ロイ
ミラ、エイン、エンビが族長の家へと招かれる
そこにはシャチとヒミカも同席する事となった

「人ノ勇者達ヨ、ヨクオ越シ下サイマシタ」

生の巫女レンウは上半身を起こしており、それをヒミカが支えている
レンウは自身で起き上がれないほど衰弱していた

「お招きいただき、ありがとうございます」

マルロが頭を下げ、レンウの前へと座る
少女に続き、彼女の後ろに代表者達が座った
シャチはレンウとヒミカの横に控え、破岩は仲間に預け、所持していない
代表者達も武装は解除しており、ここにいる全員が丸腰だ

「コノ度ハ、何用デ参ラレタ」

喋るのもやっとに見える老婆のワータイガーの目が細く開かれる
その目には未だ消えぬ力が宿っているが、その奥には深い優しさも感じられる

「はい、私達は死の神を救う旅をしています」

レンウの目が僅かにだが開かれる
そして何かを納得したように2回ほど頷いた

「ソウデスカ、一族ノ者ガ無礼ヲ働キ、失礼シマシタ」

そう言い、レンウはゆっくりと頭を下げる
それを見て、マルロも頭を下げた

「こちらも危害を加えた人がいます・・・謝るのはこちらもです」

レンウとマルロは頭を上げ、お互い微笑んだ
そこでイエルが口を挟む

「貴女は・・・生の巫女でいいのかい?」

エェ、とレンウは答えた
ガゼムは驚き、拳に力が入る

「そうかい、私は火の巫女イエル・エフ・リートってんだ」

イエルでいいよ、とレンウに微笑む

「私は地の巫女マルロ・ノル・ドルラードです」

マルロは小さな頭をペコリと下げ、レンウとその横にいるヒミカへと微笑む

「私ハ生ノ巫女レンウ・・・モウスグ巫女ノ座ヲ降リル者デス」

二人の巫女が驚愕する
ヒミカは暗い顔になり、その顔をレンウの肩へと埋める
そんな孫娘を一見し、レンウは続ける

「私ノ命ハ、既ニ終エテオリマス」

マルロの目が潤み出す

「私ノ魂ハ神ノ元ヘ行ケズ、現世ニ留マッテオリマス
 貴女達ハ、ソノ原因ヲ解決スル為ノ旅ヲシテイルノデスネ」

レンウの寿命は既に終わっているのだ
死の消失により、ただ生きながらえている状態だった
それを彼女は嘆き、悲しみ、神の元へと行きたがっているのだ

「はい・・・それで地の聖域へと行きたいのです」

マルロは俯き、今にも目から涙がこぼれ落ちそうだった
そこでずっと黙っていたシャチが口を開く

「貴様達ヲ聖域ヘ行カセル訳ニハイカナイ」

「なぜだ!」

ガゼムが拳を地面に当て、抗議する

「神ノ聖域ヲ守ルノガ我等ノ役目、目的ガ何デアレ、通ス訳ニハイカン」

ガゼムは歯に力を込め、ギリギリとしている
そんな彼を見ながらシャチは続ける

「通リタクバ、一騎打チデ俺ヲ倒シ、力ヲ示セ」

ソレガ我等ノ掟ダ、と続ける

「その役目、自分に任せていただきたい」

突如エインが口を開いた
隣に居たミラは驚き、彼の顔を見る
その表情には普段の彼の力強さとは全く違ったものを感じる
強いて言うならば・・・・殺意、それが彼を支配していた
今までとは違う気配だが、それまでに見せた事の無いほどの真剣さを感じる
何かにすがるような、そんな気にさえさせる表情だった
鬼気迫る彼の状態に全員が驚き、話し合おうとする、が

「お願いします、自分にやらせてください」

その声は淡々としたものだ

「ホゥ、貴様ガ相手カ」

シャチはエインを睨みつける、それをエインは冷めた目で返す
まるでシャチなど眼中にないかのような瞳で

「デハ、表ニ出テヤルトシヨウ」

そう言い、シャチは立ち上がる
ガゼムとロイが、彼でいいのか?とこそこそと話すが
既に流れはエインとシャチの一騎打ちという事になっていた

「任せてください、すぐに終わらせます」

エインはそう言い、立ち上がる
一同がそれに続き、族長の家を出る
彼等を見送るレンウの目には寂しさと悲しさが宿っていた





広場に出て、事情を説明し、エインに武器を渡す
彼は家宝のミスリルロングソードを強く握り、広場の中央へと足を進める
そこにはシャチが破岩を構え、待ち構えていた
二人を囲むようにワータイガー達が円陣を組み
その一角に人間達である彼等も混ざる

「エイン君ならあるいは・・・」

ガゼムの独り言にロイが頷き、彼を信じようと肩に手を置く
二人を囲むワータイガー達が自身の胸を叩き、太鼓のような音を奏でる
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!その音はどんどん大きくなり、徐々にテンポを早めていく

エインは剣の切っ先をシャチへ向け、重心を低くし構える
4メートルほど離れた位置にシャチが破岩を前に突き出すように構えている
エインの狙いは喉元だ、本気で殺しに行くつもりだった
その目には殺意が溢れ、普段のエインでは想像できないほど恐ろしい顔をしている

「貴様ニ問オウ・・・何ノ為ニ戦ウ」

そんな彼にシャチが聞く
エインは冷めた口調で答えた

「守るためだ」

その言葉にシャチの顔が歪む

「守ル・・・・ダト・・・?」

「あぁ、俺は全てを守りたい、今度こそリリムを守りたい」

シャチの鋭い牙がギリギリと音を立て、顔にはシワが寄る
怒りを現わにしたワータイガーの英雄の気迫は凄まじいものだった
しかし、エインは冷静に、シャチを殺す事だけを考えていた

「貴様ノ言葉ハ薄ッペライ、何ガ守ルダ」

「・・・・・・」

「貴様ノソレハ、タダノ殺意デハナイカ」

「・・・・・・」

「殺意デ何ガ守レル」

「お前を殺せばリリムを救う道が開ける、それで充分だ」

「クックックック・・・・トンダ愚カ者ダナ」

シャチは笑い、構えを解く
その瞬間、エインは一瞬で駆け出す、疾雷の突きだ
しかしそれは空を斬る事となる
目標を見失い、エインは足で勢いを止め、辺りを見渡す

シャチは恐ろしい速度で駆け出していた

それはエインにではなく、周りを囲む者達の一角へ向けて一直線にだった
それを追うようにエインも駆け出す、最初の一歩を踏み込んだ時、事は起きる

「・・・・ひっ」

女の小さな声が洩れた、それはミラである
彼女の喉元には破岩が突きつけられ、ぴくりとでも動けば喉が切れそうなほどだ
ミラは一歩も動く暇すら与えられず、一瞬で喉元に小刀を突きつけられた

「全テヲ守ルノデハ無カッタノカ?」

『一騎打ちではないのか!!』

エインが怒りを現わにし、叫ぶ

「貴様ハ何モ見エテイナイ、ソレデハ身近ナ者ヲ失ウダケダ」

「・・・っ!」

エインは俯き、火山での出来事を思い出す
死の神がリリムを殺し、その亡骸を持ち去ったあの時を
そして、何もできなかった自分を

「貴様ハ全テヲ守ルト言ッタ、シカシ、貴様ノ目ニ写ルノハ何ダ?」

言い返す事ができなかった
エインは剣を下げ、その手は僅かに震え出す

「何ヲ焦ッテイルノカハ知ラヌガ、目ノ前ノ命ヲ見落トシテハイナイカ?」

エインの手から家宝のロングソードが滑り落ち、カランカランッと音を立てる

「ドウシタ、ソノ殺意デ守レルノデハ無カッタノカ?」

「俺は・・・・」

「貴様ノ言葉ハ薄ッペライ、本当ノ守ルトイウ意味ヲ学ンデカラ言エ」

エインは崩れ落ち、その身体は震えていた
シャチはミラの喉元から破岩を離し、スマナカッタ、とミラに謝る
喉をさすりながらミラは首を横に振った

そしてシャチは背中を見せ、去って行く
広場の中央に一人、膝をつき、震える男を置いて





エインとシャチの一騎打ちを終え、観戦していたワータイガー達は散り
それぞれの仕事や昼寝の再開など、いつもの生活へと戻って行った
広場の一角で人の一行は集まり、今後について話し合っている

「どうしたものか・・・あれに勝てる奴はいるのか?」

「うむ、シルト殿かクガネならあるいは・・・」

ロイとガゼムの視線がクガネへと向く

「俺はそんな面倒は御免だ」

そう言いクガネはどこかへと歩いて行く
チッとガゼムが舌打ちをし、シルトへと視線が集まる

「僕じゃ無理ですよ、1対1で勝てる気はしませんよ」

ロイは彼の態度にまだ余裕が残るのを感じ取り、再び聞く

「本当に無理だろうか?エイン君を圧倒した君なら可能性はあるのではないか?」

「いやいや、あの人とは昔やった事があるんですよ」

なに!?とロイとガゼムの両目が大きく開かれる
薄ら笑いを浮かべながら彼は続ける

「その時はラピが居なくて4人だったんですけど、本当にギリギリでした
 4人掛りで何とか片腕は落としましたが、僕だけじゃ勝てる気はしません」

「そうか・・・それほどの相手なのだな・・・」

そこでアズルが口を挟む

「こっそり地の聖域に向かっちまうのはどうだ?」

「いや、無理に突破すれば戦闘は避けられんだろう」

「そうか・・・」

完全にどん詰まりだった
そこへ、ワータイガーの小さな少女が駆けて来る

「アノォ・・・オ婆様ガオ呼ビデス」

それを伝えに来たヒミカを見たラピの息使いが荒くなる
そろりそろりとヒミカに近寄り、背後から彼女の頭や顎下を撫で回す

「もふもふー!」

ヒミカは驚き、逃げるが、もふもふ待ってー!とラピに追い掛け回される
逃げ回るヒミカは、同じくらいの背丈のマルロの後ろへと隠れた

「ラピさん、怖がってますから・・・」

「え!?なんで!」

マルロの法衣を掴み、小さくなるワータイガーの少女の目には涙が浮かんでいる

「ほら、ラピ、離れて離れて」

シルトとサラに脇を抱えられ、連行されるラピだった





人の代表者達は族長の家へと再び招かれた
マルロを先頭に先ほどと同じ場所に座り、深くお辞儀をする

「度々スミマセン」

いえ、とマルロが首を横に振る
レンウは横たわったままで話を続ける

「今コノ時、二人ノ巫女ガコノ地ヲ訪レタノハ
 マサニ運命デショウ・・・ドウヤラ、ソロソロ時ノヨウデス」

全員が不思議そうな顔をする、何の時なのだろうと
その時、レンウの身体は僅かに光を帯びて、薄暗い部屋を照らす

「これは・・・」

皆の目が開かれ、その光景を見守る
部屋の隅に待機していたシャチがレンウの元へと行き、膝を折る

「オ務メ、オ疲レ様デシタ・・・・」

シャチは片手を拳にし、床へつけ、深く頭を下げ、そのまま動かなくなる

「アリガトウ・・・シャチ」

レンウの顔は満足しているようにも見える
その優しい笑顔から光が離れ、中空へと移動していく
光の抜けたレンウからは力強さは無くなり、ただの衰弱しきった老婆へと変わる
光は中空で漂い、ゆらゆらと形を変えていた

「これは・・・巫女様の世代交代か・・・・」

「では、次の巫女が選ばれるのか?」

「あぁ、それは神がお決めになる、いつ誰になるかは分からない」

ガゼムが光を見つめたまま、説明を続ける

「俺もこの光景を目にするのは初めてだが、聞いた話と酷似している
 巫女様から光が離れ、宙に舞い、天へと帰るとされているのだ」

そして光は徐々に上昇していく
それは天井の藁をすり抜け、更に上へ上へと登って行った
代表者達は外に出て、その光を追う
光は天へと上り、一瞬眩い光を放つ
目がくらみ、顔をしかめるが、しばらくして目が慣れる
再び目を開いた時、ガゼムは驚きの声を上げる

「バカな・・・・光が消えない・・・だと」

そう、レンウから抜け出した光は未だ天にあり
ゆらゆらと形を変えながら漂っている

「なぜ消えない、これも死の消失の影響なのか?」

「分からない・・・こんなのは俺も聞いた事がない」

一同が空を見上げ、ただその光を見つめる
ワータイガー達も同じように空を見上げ、祈るように頭を下げる者もいた
そして突如、声が響く


《・・・・みこよ・・・・わたしのみこよ・・・・》


脳に直接届く声が響き、全員が空を見上げる
しかし、ワータイガーのほとんどの者は聞こえてないようで不思議そうな顔をしている

《・・・・わたしの・・・あらたな・・みこよ・・・・》

『新たな、だと!?』

ガゼムが大声を上げ、キョロキョロと辺りを見渡す
誰が巫女に選ばれるのだ!?ミラか?ハーフブリードか?
そして天に浮かぶ光から一筋の光が射す

「・・・・エッ?」

それはマルロの後ろに隠れていたヒミカの身体を包み込み、眩い光を放ち始める
マルロが数歩離れ、ヒミカを見つめる

「おめでとう」

優しい笑顔を向けてくる
しかし、自分が置かれている状況が受け入れられなくて理解できない
困惑したヒミカは辺りをキョロキョロ見るが誰も助けてはくれない

《・・・・あなたをあらたなみことします・・・・》

その声に彼女は天を見上げる、光がゆっくりと降りて行き
ヒミカへと続いている光の道を進む
それはゆっくりとヒミカを包み込み、彼女はその内から溢れる力を感じる

「コレガ・・・・巫女ノ・・・・」

光はヒミカへと吸い込まれ、次第に消えてゆく
ワータイガー達が一斉に駆け寄り、ヒミカを囲むように集まる

『ヒミカ様ガ生ノ巫女ニ!!』

彼等はガオオオオオオオオオォ!!と一斉に雄叫びを上げる
新たな巫女が再び同族に誕生した事に大はしゃぎだ
しかし、その中で一人、シャチは複雑な表情だった









これは10年ほど前の話になる

その日は激しい大雨と強い風が吹き荒れており
視界も悪く、最悪の天候とも言えた
前日、人間が5000の兵を連れ、ガドゥンガンの山の麓まで攻めて来た
その中には魔法使いらしき者も多かった
ガドゥンガンの者達は雌雄関係なく戦に赴き、睨み合いが続いた
450対5000、人類側が圧倒的のようだが
ワータイガーと人間という差が、この圧倒的数の差を埋めていた
それが前日の事である
日付が変わる頃から雨が強まり、強風が吹き荒れた
睨み合いが始まってから4時間が経過している
視界は悪くなる一方だった

「レンウ様、先手ヲ打ッテモ宜シイデショウカ
 コノ視界デハ奴等ノ発見モ遅レ、奇襲ガ出来マス」

ここは人との戦争に向けて作られた簡易テントの中である
シャチはレンウの前へ跪き、その答えを待つ

「再三ノ呼ビ掛ケニモ応ジナイ様子、仕方アリマセンネ・・・シャチ殿ニ任セマス」

レンウは少し寂しいような悲しいような顔をし、天を見上げる
彼女は争いが好きではない
人間に対し、この4時間で何度も帰るよう言っているのだ
しかし、人は攻めてくるのだ、それは止めなくてはならない
部族のため、神の聖域を守るため

「ハッ、オ任セ下サイ」

そう言い、シャチは頭を下げ、テントを後にする
先陣を切るため、部隊の先頭へと向かうところで声が掛かる

「・・・・シャチ」

か弱い声だ、ワータイガーらしからぬ綺麗で澄んだ声が彼の耳に届く
聞きなれた声に振り向き、彼女を見る

「・・ヒウ」

ヒウと呼ばれた雌はシャチに駆け寄り、彼の胸へと飛び込み、尻尾を絡ませてくる
それをシャチは手で引き剥がし、半歩距離を取る

「ナリマセン・・・ココデハ他ノ者ノ目ガ」

「・・・・ソウデスネ・・・ゴメンナサイ」

ヒウは俯き、残念そうな顔をし、その尻尾は力無く垂れ下がる
が、聞きたかった事を思い出し、シャチに問う

「オ母様ハ何ト?」

「俺ニ任セテ下サッタ、コレヨリ先陣ヲ切ル」

そう、ヒウはレンウの娘である
本来であれば彼女は他部族の長と婚姻を結ぶはずだった
しかし、その縁談が決まりそうな時に身ごもる
相手の長は怒り、縁談は破棄となった
その当時、ガドゥンガンには食糧が足りず、困りきっていた
他部族、ガドゥンガンよりも大きな部族からの支援は棚からぼた餅だったのだ
それが破棄となったのだ、それは部族として危機的状況となる
それを引き起こした者を断罪するはずだった
しかし、族長の娘であるヒウは一向に口を割らなかったのだ
彼女の腹が大きくなり、出産が近づいた頃
シャチがとある狩場を見つける、それによりガドゥンガンの食糧難は劇的に解決された
食糧難が解決した事により、ヒウの相手の問題はうやむやになり
ある昼の事、ヒウは真っ白の元気な雌の赤子を産み落とす
結局父親の名前を彼女は口にしなかった

「ソウ・・・・気ヲ付ケテネ」

貴方ナラ大丈夫ダロウケド、と舌を出し、おどけて見せた
そんな彼女に慣れない笑顔を向け、シャチは歩き出す
彼の背中は大きく、その内にはたくさんのものが背負われている
ヒウはそんな彼の背中が大好きだった

シャチには守るべきものが多かった
レンウ、ヒウ、ガドゥンガンに残る部族の子供達
そして、地の神の聖域である
彼はその全てを守りたかったのだ

「コレヨリ、人間ニ奇襲ヲ仕掛ケル!獣士隊ハ俺ニ続ケッ!!」

獣士隊とはワータイガーの中でも己を鍛え上げた者達からなる部隊である
その数は15しかいない、だがその戦闘力は計り知れなかった
獣士隊からグルルルルと唸り声が上がり、シャチに続く


辺りは大雨と暴風により視界は最悪だ
この雨と風により匂いも消え、人の位置は掴めない
だが、それは人にも同じ事が言えるだろう
この最悪の状況を利用し、ワータイガー達は奇襲を仕掛けるつもりだった
しかし・・・それは人も同じであった

獣士隊は山の斜面を利用し、迂回して、一気に駆け下りる
先頭は英雄シャチ、その手にはアーティファクト武器・破岩が握られている
斜面を一気に駆け降り、その目に人の姿を捉え、跳躍する
彼の跳躍は高さ5メートルを超え、その距離13mにもなった
人はまだ気づいていなかった、側面から飛んで来る獣を・・・
音もなく突如現れたワータイガーの英雄は着地と同時に二人の兵の首を落とす
そのまま止まる事なく次々とその爪と破岩により人の首を跳ねる
その爪で払えば簡単に頭が飛び、その刃を振るえば簡単に人は両断された
人の叫び声が響き、敵襲を知らせたのは8名ほど殺された後だった

英雄に獣士隊が続き、まだ準備の整わない人間達を次々と狩る
隊の中腹からいきなり襲われた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げた
この大雨と暴風により指揮は届かず、一方的に虐殺される事となった

『人間共ヲ皆殺シニシロッ!!』

一斉にガオオオオオオオオォッ!!と大きな雄叫びを上げ
雄叫びはワータイガーの本隊にまで届き、それを合図に本隊が動き出す

獣士隊が襲ったのは魔法使いの一団だった
これは偶々だった、視界の悪い中ではどこに敵の魔法使い部隊がいるかは分からない
運が良かったのだろう、そして獣士隊は一気に魔法使い部隊を壊滅に追い込む
獣士隊により既に200名以上の魔法使いが死んでいる
今回の掃討作戦の要である魔法使い部隊が壊滅し、人間の士気はダダ下がりだ
そこへワータイガーの本隊が攻め込み、人間の前衛を糸も簡単に切り崩す


そんな一方的な戦闘が行われている頃


人間の魔法使い3名と手練の傭兵8名の少数精鋭部隊が闇に紛れ移動していた
彼等が目指すのはワータイガーの本隊、その指揮官レンウだ
まともにやりあえば被害は甚大になる、なので指揮官を潰す作戦だった
険しい道を迂回し、慎重に進む
そして本隊の後ろへと回り込み、設営された簡易テントをその目に捉える

「あれだな・・・頼む」

魔法使いの一人が頷き、魔法を詠唱し始める

「夜の静寂(しじま)よ」

これは死の魔法、音を殺す魔法だ
対象者の周囲は先ほどまで五月蝿かった雨や風の音は消え、完全な静寂が訪れる
そこで発せられた音を殺す魔法だった
しかし、その効果はおおよそ20秒しかない

彼等は駆け出し、音もなくテントへと向かう
テントを一気に剣で縦に切り裂き、3人が中に滑り込み、入ると同時に剣を突き出す
そこにいたワータイガーは突然の事に驚き、振り向くのがやっとだった
3本の剣は彼女の胸に2本、脇腹に1本、深く刺さる
彼等はその刺さった剣を同時に捻る
彼女の胸や腹に信じられないような激痛が走り、意識が遠のく

「・・・・ャチ・・・ヒミカ・・・」

音が戻り、ワータイガーの最後の言葉が一瞬だが聞こえた
それと同時に複数のぶつかり合う金属音や叫び声が聞こえてくる

「チッ・・・どうやら本隊同士がぶつかったようだ、撤退する」

彼等は頷き、切り裂かれた隙間から身を滑り込ませ闇に消えて行く
テントに残ったのは胸部を2ヶ所、腹部を1ヶ所刺され、血が溢れ、倒れる女性
彼女の呼吸は小さくなり、そして止まった



人間の本隊は撤退を始めた
その逃げる姿にワータイガー達は勝どきを上げ喜ぶ
ガオオオオオオオオオオォッ!!

奇襲を成功させたシャチ達、獣士隊は皆に称えられ、本隊へと帰って来た
シャチは真っ先に族長・生の巫女レンウのいるテントへと向かう
複数あるテントの中で、端から2番目のテント、そこの中へと入り
膝をつき、拳を地面に当て、頭を下げる

「只今戻リマシタ」

「上手クイッタヨウデスネ、ゴ苦労デシタ」

レンウは微笑み、彼を労う
その時、テントへ駆け込む一人のワータイガーがいた

「失礼シマス!」

彼は即座に膝をつき、頭を下げる
そんな彼の無礼な態度にシャチは腹を立て、鋭い目線で睨みつける
その目線に恐怖するが、レンウが続ケナサイと促し、彼は口を開いた

「ハッ!ヒウ様が・・・オ亡クナリニナリマシタ」

シャチの目は大きく開かれ、咄嗟に彼の喉元を掴む
軽々と持ち上げられ、呼吸のできなくなった彼は暴れる

「貴様・・・何ヲ言ッテイル」

カハッと呼吸のできない彼は苦しみ、喉を掴まれた手を外そうと必死だ

「シャチ、離シナサイ」

普段優しいレンウの声とは明らかに違う声がシャチへと届き我に返る
手が離され、むせる彼は喉をさすっていた

「失礼シマシタ・・・シカシ・・・」

そこで再び彼を睨む
何とか呼吸を整えた彼はレンウを見て再び口を開く

「先ホドノ戦闘ノ中、人間ノ奇襲部隊ガ本陣マデ来タヨウデス・・・
 隣リノテントニテ、ヒウ様ノ遺体ヲ確認イタシマシタ」

その言葉を聞いたシャチはテントを飛び出る
そして隣りのテントの入口の布を剥ぎ取るように開け、それを目にする

「ソンナ・・・・嘘ダ・・・・」

中には3ヶ所を刺され、血まみれになり、動かなくなった女性・・・ヒウがいた
シャチは震え、恐る恐る彼女に近寄り、両膝を地面へとつける
そっと彼女の頭を抱え、手に触れた瞬間その冷たさにゾッとする

「嘘ダ・・・・嘘ダッ!!」

シャチは彼女を力強く抱きしめ、大粒の涙を流す
美しかった彼女の声や毛なみは失われ
そのフリフリと絡んで来た尻尾は力無く垂れ下がり、今は動かない
抱きしめた時に伝わる彼女の温かさは無く、とても冷たかった


ガオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォンッ!!


その日、一番の大きな叫びが響き渡る
その叫びには悲しさと辛さが込められていた








ヒミカが生の巫女に選ばれた日の夜は広場で盛大な宴が開かれた
ガドゥンガンをあげての大宴会だ
ワータイガー達は歌い、踊り、酒を飲み、大騒ぎだ
ガドゥンガンの片隅でシャチは星を眺めていた
その目は悲しそうで、普段の彼からは想像もつかないほど弱々しいものだった

「ヒウ、オ前ノ娘ガ巫女様ニナッタゾ・・・」

彼の独り言は一人の少女へと届く

「シャチ・・・オ母様ノオ話ヲシテ?」

純白の毛をしたワータイガーの少女は彼の横へ座り、彼を見上げる
少女を見て、胸に熱くなるものを感じながらシャチは口を開いた

「ヒミカ様、主役ガコンナ場所ニ居テハイケマセン、早ク戻ラネバ・・・」

シャチの言葉をヒミカは手で制し、星空を見上げる
彼もそれに習い、星空を見上げた

「シャチは何時モソウヤッテハグラカスノネ」

「ソンナ事ハ・・・」

「ナゼナノ?オ母様ノ事ハ好キデハナカッタノ?」

「イエ、ヒウ様ヲ・・・・・・慕ッテオリマシタ」

「ナラナゼ話シテクレナイノ?」

「俺ハ・・・目ノ前ノ人間ニカマケテ、彼女ヲ・・・ヒウ様ヲ守レマセンデシタ」

スミマセンと少女に頭を下げ、彼は悲しそうに星を見上げる

「・・・ナラ、オ父様ノオ話ヲ聞カセテクレナイ?」

シャチナラ知ッテルノデショウ?と彼女は顔を向けてくる
答えに困り、シャチは黙る
そんな彼にヒミカはぷんぷんと怒り出し

「モウイイ!シャチノバカッ!」

少女はてとてとと広場へと駆け出す
そんな少女の後ろ姿にヒウの面影を重ねていた



宴は続いていた
人である彼等も混ざり、飲めや歌えや大騒ぎだ
リヨンとアズルとエールはワータイガーの雄と飲み比べをしている
ガゼムとロイは二人で今後を話し合いながら飲んでいた
シルトは丸焼きの肉を頬張りながらワータイガー達に囲まれている

「オ前サンガ、シャチ様ノ腕ヲ落トシタ猛者カ?」

彼を舐めるように眺め、本当ニコンナ奴ガ?とワータイガー達は笑う
そんなワータイガー達にペコペコと頭を下げ、苦笑するシルトだった



シャルルとサラはウェアキャットの女性に話しかけられる

「アンタ達、ハーフね?」

「うん!」

シャルルが肉を頬張りながら元気よく答え、女性は一瞬怯む

「大森林の・・・あそこで生まれたのかい?」

サラの表情が暗くなり、シャルルの表情から一瞬笑顔が消える
それで察し、ウェアキャットの女性はため息をつく

「やっぱりそうなのね・・・人間って奴はヒドい生き物だね」

「そんな事ありませんっ!」

意外にもサラが反論した
そんな彼女の豹変ぶりに一番驚いたのはシャルルだ

「人間にもいい人は沢山います・・・多分」

サラは勢いがなくなり、語尾は小さくなっていった

「アンタの言う、いい人ってのはアレかい?」

ワータイガー達の雄に囲まれ、あれこれ聞かれている漆黒の鎧の男を指差す

「シルトさんは誰よりも優しい人です」

サラは先ほどまでの自信の無さそうな気配はなく
自信たっぷりに胸を張って言う

「私達みたいな半端者を、ちゃんとした人として扱ってくれます」

「そうだねー、シルさんはいつもそうかも!」

うんうん、とサラは頷き、シャルルと二人で笑い合う
そんな彼女達を見て、ウェアキャットの女性の顔が緩む
本当ならハーフである彼女等の事は嫌いなのだ
人間が無理矢理生み出したウェアキャットへと冒涜とも言える存在
それが彼女達なのだ、それを見て良い気分であるはずがない
しかし、彼女達を見ていると、そんな事すらどうでもよくなるような
そんな幸せそうな顔をされては、不快感などどこかへ行ってしまうのだ

「アンタ等はいい人間と出会えたんだね」

「うんっ!」
「はい」

二人が微笑み、ウェアキャットの女性もまた微笑んだ



ラピはワータイガー達に飛びつき、もふもふー!と戯れている
エルフの少女など初めて見た者が多く、ワータイガー達にお手玉のように弄ばれている
沢山の亜人達と戯れるラピは心底幸せそうで
そんな彼女の態度にワータイガー達も心を許していた



広場へ戻ってきたヒミカは、ある少女を見つける、マルロだ
初めて会った時に向けられた笑顔が気に入り、ヒミカはマルロが好きになっていた
この集落に同じ年頃の女の子が居ないせいもあるだろうか

「コンバンワ」

ヒミカがマルロの元へ行き、声をかける

「こんばんわ」

マルロは笑顔で応え、ヒミカも笑顔になる・・・が、彼女の横にいる男に目が行く
その男、クガネはヒミカを見る事なく、不機嫌そうに酒を飲んでいた

「オ邪魔デシタカ?」

「え?そそそ、そんな事はないですよ!」

マルロが隣にいるクガネを一瞬見て、頬を赤く染め慌てる
そんな彼女の態度に不思議そうな顔をし、クガネへと目を向ける
彼は気にした素振りも見せず、黙々と酒を飲んでいた
それからもチラチラとクガネを見るマルロを見て、ある事に気づいた
マルロの耳元に口を近づけ囁く

「マルロチャンハ、ソノ人ガ好キナノ?」

「えっ!?・・・・いや、あの、その、違います!!」

マルロは真っ赤になり大慌てである
そんなあからさまな態度を取られて気づかない者はいない
ヒミカはニヤニヤとし、ソッカーソッカーと鼻歌交じりに去って行く
そんな彼女をマルロは追い、違いますからねー!と必死に否定していた



ガドゥンガンの外れでエインは一人、星を見ていた
そこへ肉と果物の飲み物を持ってミラが来る

「貴方も少しは食べなさいな」

そう言い、彼の横へとそれを置く
そこで彼の手に握る物へと目が行った、それは剣だった

「・・・なぜ剣を?」

その手は震えており、まともに握れていなかった
エインは震える手をもう片方の手で押さえ、口を開く

「先程はすみませんでした、自分の不注意でミラ様を危険な目に・・・」

「貴方はバカですの?」

ミラが怒りを現わにする
そんな彼女を見て、エインは驚く

「本当にバカですのね、どうしようもないじゃない、あんなの」

「しかし・・・」

「しかしも何もありませんわ、貴方は今まで通り手の届く者を助けなさい」

それしかできないでしょう?とミラが言う

「それでは今までと同じじゃないですか」

「少なくとも今の貴方よりはましですわ」

その言葉にエインは再び驚く
今の俺は今までと違うのか?それ以下になっているのか?
そう考えてた彼に彼女は続ける

「貴方は何でも一人でやろうとしすぎなのよ
 他人を助ける事ばかり考えず、助けられなさい」

「助けられる・・・?」

「そうですわよ、貴方は周りが見えて無さ過ぎですわ
 このわたくしを誰だと思っているのかしら?ミラ・ウル・ラシュフォードですわよ?」

彼女は手を自身の大きな胸に当て、胸を張る

「貴方一人で全てを守ろうなんて傲慢ですわよ」

そう言い彼女は後ろを向く
ちゃんと食べなさいね、と言い残し、去って行った

エインはミラの言葉を、シャチの言葉を、マルロの言葉を思い返す
リリムは自分が守ろうと自らその大役に立候補した
己に足りないものを補おうと力を欲した
神はリリムを救うと言い、彼女を連れ去った
彼女を救い出そうと目の前の敵を排除しようと必死に戦った
そんな色々な事を考える、エインは何かが引っかかっていた
しばらく考え、何となくだが分かった気がした

「そうか・・・俺は誰も信用していないんだな」

何でも自分で自分で、と何時もやってきた
自分が守らなくては、自分が倒さなくては、そう思い込んでいた

「そうじゃなかったんだな・・・一人じゃ限界がある」

リヨンが力を貸してくれと頭を下げた
どれほど俺が憎かったか、その相手に頭を下げてでもリリムを救いたかったんだ

「俺は間違っていたんだ」

エインはミラの置いて行った肉を喰らい、果物のジュースを飲み干す
そして立ち上がり、手に持つ剣に力を込める
そこには震えなどなかった






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