2015_12
03
(Thu)13:09

1章 第13話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第13話 【回帰】

はい、今回で長かった回想編終了で御座います。
1・2話から10話近く・・・結構掛かりましたね。
次回からはついに物語が進みます!!

では続きを読むからどうぞー。










【回帰】









宴の席で一人、黙々と酒を飲む男がいた、クガネである
彼はワータイガーには興味はない、好きでも嫌いでもないのだ
単に戦いたくはない相手、そのくらいの認識しかない
人間の中ではクガネは負ける気はしなかった
しかし、目の前にいるワータイガー達は人間の領域にはいない
こんな化け物じみた奴等と殺り合う事に意味がない
特にシャチとかいう奴だ、あれと殺り合って無傷でいられる気はしない
それほど大きなリスクを負う事をクガネは嫌がった
そんな彼の元に一人の青年が歩いて来る

「クガネ・・さん・・・お話があります」

その男を一瞥し、珍しい男が声をかけてきたものだと感心する
それはエインである
彼の目はここ最近の曇った目ではなく
何かを悟ったような、吹っ切れたような清々しさすらある

「・・・なんの用だ」

彼は酒を飲もうとしたが中が空の事に気づき、どうしたものかと悩む
木で出来たコップをテーブルへ置き、ため息をついて青年を見る

「お願いがあります」

真剣な表情で彼は言う
この男が俺に頼み事だと?何を言うつもりだ
クガネは思考するが答えは出なかった
そしてエインは口を開き、クガネはニヤりとする事となった





夜が明け、ウェアキャット達が宴の後片付けをしている
昨夜の騒々しさは無く、静かな朝を迎えていた
人の一行は再び広場へと集まり、片付けをする猫の亜人を眺めながら話し合う

「あのシャチというワータイガーを何とかせねばな」

「しかし、あれほどの強さ・・・何とかできるのか?」

「まともにやったら勝ち目はないだろうな」

珍しくクガネが会話に入ってくる
彼を見て、ガゼムとロイは妙な違和感を覚えた
そう、クガネが笑っているのである

「お前がやるのか?」

ガゼムはそんなクガネの態度に苛立ちを覚え、突っかかるように聞く

「いや、俺じゃない、そいつがやりたいとよ」

顎をしゃくり、昨日までの雰囲気とは全く違った青年を差す
その青年、エインの瞳に写るのは昨日までの殺意ではない
それは一言で言うなら・・・闘志
彼本来の強さとも言える瞳をしていた

「どういう事なんだ?エイン君」

「すみません、身勝手とは思いますが、また自分にやらせてもらえませんか」

お願いします、と彼は頭を下げる
そんな彼の雰囲気にミラは口元が緩む

「わたくしは賛成ですわ」

それに続き、ハーフブリードの面々も後押しする

「僕もいいと思います、彼の顔を見れば分かる」

「うんうん、昨日とは別人だね」

「エイン、がんばれー!」

「がんばれー!」

「勝算があるから言ったのでしょう?」

ジーンの問いにエインはただ力強く頷く
そして彼は再び頭を下げ、皆に言う

「今まですみませんでした、自分は間違ってました」

ほとんどの者が不思議そうな顔をする
何を謝っているんだ?と

「リリムを救うため、世界を救うため、皆さんの力を・・・貸して下さい!」

頭を下げたまま、彼は嘆願した
マルロやイエル、そしてハーフブリード達は笑顔になり
はい、いいよー、など彼に応えている
男連中も真っ直ぐな彼の態度に好感を得る

「仕方ねぇ、いっちょ貸してやるか」

アズルが力こぶを作り、歯を見せながら笑う
エインは頭を上げ、皆に笑顔を見せ
ありがとうございます!ともう1度だけ頭を下げた





宴の片付けが済んだ頃
広場にはワータイガー達が群がり、円陣を組んでいた
その中央にエインとシャチが再び対峙している
ワータイガー達の胸を叩く音が太鼓のように響き、徐々に加速する
それに負けじと人の一行からも熱い声援が送られていた

「ホゥ・・・貴様、一晩デ見違エタナ」

「貴殿に教わり、その片鱗を得ました」

ホホゥ、とシャチは唸り、顎に手を当てエインを観察する

「守るという意味への答えには届いていませんが
 俺は・・・間違っている事には気付きました」

「ドウヤラ、ソノヨウダナ・・・ナラバ、コレ以上ノ言葉ハ不要」

そう言い、シャチは破岩を前へと構える
エインも剣を抜き、切っ先をシャチへと向ける
胸を鳴らす太鼓の音が一層大きくなり
ガオオオオオッ!と雄叫びを上げる者も出る
負けるなー!というシャルルの声援はその雄叫び以上の大きさだ
そんなハーフキャットの声援にエインの口元は緩み、そして引き締められる
広場のボルテージは最高潮に達し、そして動き出す


先に動きだしたのはエインだった
疾雷の突き、その突進で一気に距離を詰める
シャチは微動だにせず、そしてエインの右腕から突きが放たれる直前、前回同様に姿を消す
今度のエインはその動きを捉えていた
シャチは身体を捻り、かわし、回転するようにエインの背後へと行く
そして破岩を振り上げ、エインの背中目掛けて振り下ろされようとしていた

バシュッ!!

何かが炸裂するような、射出されたような音がし
シャチの脇を何かが通る
それに目を奪われ、シャチの視線が逸れる
ソレは先日の戦闘である男が使った装置、フックショットだ
ガコンッ!とフックが地面に深く刺さり
フックから伸びるワイヤーはエインの左腕へと繋がっている
シャチは突然の事にそれに気を取られ、反応が遅れた
エインは身体を捻り、後ろを向きながら左腕の装置から小さな筒を取り出す
キュポンッとそれは飛び出て、右手に持つもう1つの小さな筒をカポッとはめる
そして剣の切っ先をシャチへと向けた

「グッ」

シャチの目が再びエインを捉えた時に切っ先が向いてる事に唸る

ギュルルルルルルルッ!!

ワイヤーが高速で巻き取られていく
その反動でエインの身体は宙に浮き、高速でシャチへと向かった
その凄まじい衝撃にエインの身体はミシミシと悲鳴を上げる
先ほどの突進の勢いがなくなる前に逆方向へと急激に引っ張られているのだ
その衝撃は凄まじいものだろう
エインの顔は苦痛に歪むが、その瞳だけは輝きを失わなず、シャチを捉えたままだ

咄嗟に破岩を構えなおすが間に合わない
エインの手に持つ剣の切っ先がシャチの脇腹へと届く刹那
シャチは尻尾を大きく横へ振り、その反動で身体を捻り、直撃を避ける
しかし、それは腹をかすめ、僅かにだが血が吹き出した

目標を失ったエインの身体はそのまま地面へと叩きつけられ
ズザザザーっとエインの身体を引きずり、フックの元へと運ぶ
フックに到達した瞬間、何とか装置の横のボタンを押し、ワイヤーを切り離す
倒れたまま振り向くが、シャチは構えを解き、エインに牙を見せ笑っていた

「見事ナリ」

腹部から流れる血を手で拭い、シャチは言う
一連の流れで静まり返っていた広場にドッと歓声が上がる
エインはよく分からず、辺りを見渡す
ワータイガー達はエインを人間ノクセニヤルジャネーカ!と称賛していた
倒れたまま呆気にとられているエインの元へゆっくりとシャチが歩み寄り
手を差し伸べる
彼はよく分からず手を取り、引っ張り上げられ起き上がる
そしてシャチはそのままエインの手を上へと上げる

『人間ノ勇者ニ喝采ヲ!!』

ガオオオオオオオオオンッ!!
ワータイガー達は一斉に雄叫びを上げ、彼の戦いを賛辞した






二人の一騎打ちを終え、一同は族長の家へと集まっていた

「先程ノ一戦、見事デアッタ
 貴様ノ力ヲ認メ、聖域ヘノ道ヲ開コウ」

「ありがとうございます」

エインは頭を下げ、ゆっくりと時間を置いてから頭を上げる
彼の頭が上がるのを見届けてから、ガゼムが口を開いた

「この先に魔物などはいるのだろうか」

シャチはそれに首を横に振る

「イヤ、居テモ鹿程度ダ」

「そうか、ならば負傷者の回復を待たず行くべきだな」

ロイが頷き、ガゼムと二人で話し合う
数名のみで聖域へ赴く事となり、残りの者はガドゥンガンに残る事となった
聖域へはシャチとヒミカも同行するようだ
話がだいたいまとまった頃、レンウが口を開く

「地ノ神ニ宜シクオ伝エ下サイ
 死ノ神ヲ、ソシテ、世界ヲ頼ミマス」

必死に声を出す老婆の姿はか弱く、簡単に消えてしまいそうだった

「はい、お任せください」

マルロがレンウに頭を下げ、一同は立ち上がる
ヒミカがレンウに駆け寄り、一度抱き締め、再び立ち上がった
それを見てから一同は家を出て、聖域へと向かうのだった



今回、聖域へと赴くのは
ガゼム、ロイ、ミラ、エイン、アズル、マルロ、イエル、シャチ、ヒミカである
残りの者は負傷者の看病をしたり、食料を確保したりしていた

今回の負傷者はサイガとイルガとカイルだ
サイガとイルガは頭が潰れている
しかし、カイルは左鎖骨から腹までが裂け、内蔵が飛び出していた
そのため、先日カイルの頭部はエールが潰す事となったのだ
カイルの端正な顔立ちが歪み、血肉の塊へと変わる
何度やってもこれは慣れないものだ、エールは心を痛めていた

聖域へと向かった一行が辿り着いたのは山頂付近にある洞窟
その中を松明の灯りだけで進み、壁に突き当たる

「ソノ壁ニハ触レルナヨ」

シャチがそう言い、先頭のガゼムが止まる

「では、ここが地の聖域なのか」

それにシャチは頷き、すぅーっと息を吸う
そしてガオオオオオンッ!と大きな雄叫びを上げた
その雄叫びは洞窟内で反響し、更に大きな音に聞こえる
ミラが耳を塞ぎ、顔をしかめている時、目の前の壁が突如消え去る
その先に現れたのは、他の聖域と同じクリスタルの祭壇だった
そしてそこに鎮座するのは・・・・


巨大なミミズだった


ガゼムの肩が激しく落ちる
そう、彼の信仰する地の神の姿は豊満な胸を持つ女神なのだ
それがこれである
全長20メートル近くあるだろうか
その太さは1メートルを優に超しているだろう
目や口らしきものは見当たらず、頭であろう場所の少し後ろ側の一部だけ色が違う
その表面はぬめぬめと光っており、時折どくんと脈打つように動く
それがとぐろを巻いて祭壇に鎮座していた

《・・・人よ・・・何用です・・・》

「ゴ機嫌麗シュウ御座イマス、神ヨ」

シャチが膝をつき、頭を下げる
ヒミカはそれを真似して横に並ぶ
人の一行もそれにならい、膝をつく

「ソノ前ニ、神ニ報告ガ御座イマス」

《・・・そちらの者の事ですね・・・》

シャチは隣のヒミカを見て、再び頭を下げ言う

「ハッ、コノ者ガ新タナ生ノ巫女トナリマシタ」

《・・・わかりました・・・世界のため・・・尽力なさい・・・・》

「ハ、ハイッ」

ヒミカの声は裏返り、緊張しているのが伝わってくる
彼女は神に合うのは初めてなのだ
そして、シャチが再び口を開く

「人間達ガ神ニ頼ミガアルヨウデス」

《・・・・その頼みとは・・・》

ミラが膝をついたまま口を開く

「私達は四神の力を借り受け、死の神を救う旅をしております」

《・・・しばし待ちなさい・・・・》

神はそう言い、長い沈黙が訪れる
時折どくんと神の身体が脈打ち、それを見る度にミラの顔が歪む
長い長い沈黙の後、再び神の声が脳内へと届く

《・・・・全てを理解しました・・・これを持って行くと良いです・・・》

そう言い放った途端、神の頭らしき部分の前方が激しく輝き、洞窟内を照らす
しばらくして光は収まり、そこには黄金のような、茶色のような玉が浮かぶ
その内には深い闇が潜んでおり、中は見通せない
その玉はゆっくりとマルロの手元へと降りてゆく

《・・・私の巫女よ・・・・そなたに託します・・・・》

「はい、必ず死の神を救います」

《・・・・この先に待ち受ける試練を乗り越えるのですよ・・・巫女よ・・・》

一瞬マルロは不思議そうな顔をしてから応える

「はい・・・肝に銘じておきます」

久々の自身の神との対話にマルロの頬が緩む
そして神は告げた

《・・・生命を得て・・・死に至り・・・聖域へと辿り着かん・・・》

覚えておきなさい、と神は言う

《・・・私は力を取り戻さねばなりません・・・もう行きなさい・・・・》

一同は立ち上がり、聖域を去る
全員が出た瞬間、岩の壁が出現し、再び洞窟は行き止まりになった
彼等はガドゥンガンへと戻り、神の宝玉を囲み、経緯を話す
その後、負傷者の回復を待つため、数日をガドゥンガンで過ごす


ある者はワータイガーより格闘術を学び
ある者は狩りを学び、ある者は亜人達に技術を教える
徐々にだが打ち解けていき、彼等は亜人に認められつつあった

「少シイイカ」

シャチに呼び止められたシルトは振り向く

「え?なんです?」

「アノ日ノ続キヲ所望スル」

あの日?と一瞬考え、シルトは答えを導き出す
それはとある仕事の最中に偶々出会ってしまった時の事だった
ラピの除くハーフブリード4名対シャチとレンウとの戦闘だ

「えー・・・サシで?」

「ウム」

「僕じゃ相手にならないですよ、シャチさんは強すぎる」

「アノ時ハ巫女様モ居タ、俺モ一人デハ無カッタ」

「んー・・・」

「頼ム、武人トシテ、貴殿ト戦イタイ」

シャチは頭を下げ、シルトは困った顔をする
なかなか頭を上げないシャチにシルトはハァと深いため息をする

「命のやり取りは嫌ですよ・・・?」

「感謝スル」

そして彼等は広場の中央で向かい合った
周りの者達が何かが始まる気配を感じ取り、集まり始める
人の一行のそれに気づき、広場の中央へと目を向ける
そこに立つ、二人の男を見て駆け出す者もいた

『不動とシャチがやるみたいだぞ!』

アズルの大声が響き、皆が広場へと集まって行った
既に広場は多くのワータイガーに囲まれ、胸を叩く音が鳴り響いている
ワータイガー達を掻き分け、エインは一番前へと出る
彼はどうしてもこの一戦を見たかったのだ
いまだ二人は対峙したまま一歩も動かない
その距離はおおよそ6メートルだ
ハーフブリードの面々からの大きな声援が飛び交う

シルトは右手の盾を胸の前に構え、肩幅より少し大きく足を開き
左手の剣は盾に隠すように構えている
エインはそれを見て、自分とやった時と同じ構えだと思い出す
彼の完璧なまでの受け流し、そして盾により見えない位置からの突き
あれほど恐ろしいと感じた攻撃はなかった
それを思い出し、身震いし、軽く頬を叩き
一瞬でもこの戦いを逃すまいと両目を大きく開く

一方シャチは破岩を前へ構え、軽くステップをしていた
エインとやった時にはしていなかった彼のステップ
そのステップは小さく、隙がない
いつでも動き出せるよう最善の状態を維持している
そこでエインは気づいた、シャチが自分には手を抜いていた事を
悔しかった、だが今はそれどころではない、この戦いを余すとこなく見たかった
そして、二人は動き出す


先手を打ったのはシャチだ
彼が大地を蹴り、土砂が舞い、土煙をあげ
たった1歩、それだけで一瞬でシルトの目の前まで距離を詰める
そして右手の破岩を振るう、その一撃は肉眼で捉えるのがギリギリなほどだ
シルトは身体を横に向け、盾を斜めに構え、その一撃をいなす
ギィィィィと金属が擦れる音が鳴り響き、シャチは僅かに体勢を崩す
そこへ、盾に隠れていた剣が姿を現し、突きが放たれる
シャチはそれを上体を逸らす事でかわし、その体勢のまま左手の拳を放つ
その拳はシルトがしゃがみ込む事で空を斬り、彼は下から盾を突き上げる
それがシャチの左脇へとめり込み、一瞬だが呼吸が止まる
更に追撃でシルトの突きがシャチの胸を目掛けて放たれた
その切っ先が胸を捉える間際、シャチは屈み、歯で剣を噛んで止める
シャチの口が切れ、血が吹き出す
ギギギギギと歯と剣の擦れる音が響き、動きが止まった

「くっそ!きったねぇ!!」

シルトの叫び声が響き、彼が剣を引き抜こうと足掻くが叶わない
そこへシャチの破岩が繰り出され、シルトの顔の目の前で止まる

静寂が辺りを支配していた
ワータイガーや人の一行は息を飲んでその戦いを見ていた
シルトは目の前で止まる破岩を見て、冷や汗を流す
そして一気に歓声が上がった

ガオオオオオオオオオオオオオオォッ!!

噛まれていた剣が離され、シャチが微笑み言う

「良キ戦イデアッタ」

「くっそー、やっぱ勝てないかー」

シルトが悔しそうにしているのをハッハッハとシャチが笑う
そして二人は握手をし、互いを称え合った

エインは彼等の戦いを見て、学ぶべき事が多かった
自分もあのレベルまで到達したかった
先日の一戦は不意打ちだったから1撃を与えられただけなのだ
もっともっと修行して、自分を高めないとな
そう誓うエインだった



マルロはクガネを探していた
クガネはいつも人目のある所には居なく、こうやっていつも探している
彼女はクガネに一人は寂しいと教えたいのだ
皆ともっと仲良くなって欲しいと願っている
それは自己投影とも言えるのかもしれない
ずっと孤独だった彼女だから、一人の寂しさを人一倍知っているのだ

「あっ」

クガネを見つけたマルロは駆け足で近寄る
ガドゥンガンの外れの眺めの良い場所にクガネは一人で座っていた
日が落ち始めており、辺りは茜色に染まっている
彼は誰かが駆け寄る気配を感じ、その足音で誰だか理解する
ハァと小さくため息をし、少女が来るのを待った

「クガネさんクガネさん」

「なんだ」

マルロはクガネの横へ来るなり、顔を覗き込んで来て名前を呼ぶ
そんな少女を見る事もなく、ぶっきらぼうに返事をする

「今日もお一人ですか?」

「見れば分かるだろう」

「皆さんとお話とかしませんか?」

「興味がない」

うーん、とマルロが悩み、あ!と何かをひらめく

「一緒に果物を食べませんか?凄く美味しいのがあるんですよ」

「甘い物は好きではない」

「そうですか・・・何が好きですか?」

コイツは何がしたいんだ、クガネには分からなかった
何故だかは知らないが、自分に対し好意を向けてくる少女を見る

「好きなものか・・・金と戦闘だな」

「お金・・・ですか」

「金があれば大概の事はできるからな」

「これでも私たくさん持ってるんですよっ」

巫女ですから、とその全く無い胸を張る

「欲しいですか?」

「お前に恵んでもらうほど落ちぶれちゃいない」

「そうですか・・・・なら、私と戦ってみますか?」

その瞬間、クガネの目つきが変わる
小さな少女を睨みつけ、本気かどうかを見定める
そんな彼の目線をモノともせず、マルロは無い胸を張る

「お前と殺りあう意味が無い」

「あ、殺し合いはしませんよ?模擬戦?です」

さっきのシルトさん達みたいのです、とマルロが言う
クガネは少女の実力を確かめたかった
以前、大森林で見せた少女の本当の力、あれは人智を超えている
それに自分が勝てるのかどうかが気になっていた

「面白い、後で泣いてもしらねぇぞ」

「泣きません!」

ふん、とクガネは鼻で笑い
腰の右側にある爆炎のダガーを抜こうとするが、手を止める
そして臀部側にある普通の苦無(くない)を抜く

「好きなだけ離れてから始めろ」

「はいっ」

マルロはとたとたと走り、距離を取る
おおよそ15メートルは離れただろうか
そこで振り向き、いいですよーと大声を上げる
クガネは苦無を構え、駆け出す
その瞬間マルロが呪文を詠唱する

「大地の戒めを」

それは一瞬で発動し、彼の駆ける足元が変形し始める
足を取られそうになるが、何とかかわし、跳躍しようとした刹那
クガネの右足は地面に飲み込まれる

「ぐっ」

声が洩れ、自身の足を見て舌打ちをする
そしてマルロの詠唱が続いた

「貫徹する大地よ」

そう言い放った彼女の前方の地面がドリルのように変わっていく
それがクガネへと迫り、彼は苦無を捨てる
腰から爆炎のダガーを抜き、自身の足を拘束する地面を小さく切りつけ
正面から迫るドリル状の大地をダガーでいなす
彼の足を拘束していた大地は小さく炸裂し、足が解放される
そしていなしたドリル状の大地は爆発し、パラパラと土埃を上げながら崩れ去る

「ククッ・・・・お前、想像以上だな」

クガネが笑う
彼は嬉しかったのだ、爆炎のダガーを使わされた事が
そんなクガネを見て、マルロも笑顔になる

「巫女ですからっ」

再び無い胸を張り、黒曜石の杖を構える
そこでクガネがダガーを腰へとしまう

「やめだ、やめ」

「え?」

マルロが素っ頓狂な声を上げ、彼を見つめる
そんな少女に彼は首を横に振り、後ろを向く

「・・・・マルロ、行くぞ・・・・美味い果物があるんだろう」

後ろを向いたまま彼がそう言い、少女は満面の笑みになる
急いで彼の横へと走り、横に並ぶ

「はいっ♪」






負傷者が回復した頃、人の一行は村を出立する事となった

『マルロチャーン!ラピサーン!マタネー!』

ヒミカが愛らしい肉球のついた手をぶんぶんと振り、二人に別れの挨拶をしている
この数日で3人は仲良くなったのだ
マルロはヒミカにとっては数少ない歳の近い存在であり
同じ巫女という立場からか、打ち解けるのは早かった
一方ラピとは、彼女がぐいぐい来るので自然と仲良くなってしまった
ちょっと撫で回されるのは苦手だけど

『またねー!』

ラピが目に少し涙を溜めながら手を振っている
マルロも手を振り、ヒミカとお別れをする
ヒミカの後ろにはシャチが立っており、彼はエインへと目を向けていた
そんな視線に気づいたエインは、ただ力強く頷き、頭を下げる
そして振り向く事なく歩き始めた








一行がガドゥンガンを後にして1週間が経つ
生命の泉を発見できず、山岳地帯を彷徨っていた

「ジーン殿、泉はどこだか分からんのだろうか」

ロイが息を切らしながら彼女に聞く

「うーん・・・多分もうすぐじゃないかなぁ?」

そうこうしてる時、目の前の視界が開ける

「これは・・・・」

目の前に広がるのは底の見えない崖だ
下の方は真っ暗な闇となっており、高さが全く分からない
対岸までは10メートルほどだろうか
その大穴とも言える崖は山を両断するように続いており
回り込む事は困難に見える

「・・・これでは進めんな・・・むっ?」

ロイの目が開かれ、おぉと声を洩らす
その声に一同が彼の目線の先、対岸へと向かい、理解する
対岸のその先、岩肌の多い山岳地帯で一際目を引く緑の木々が密集した場所が見える
そして、その中央には透き通るような美しい青の泉がある

「あれだな」

ガゼムが呟き、それに皆が頷く

「では、どうする、回り込むか?」

「数日掛かるが仕方あるまい」

ガゼムとロイがそんな話をした時にクガネが前へと出る
彼は崖の淵まで行き、その左腕を構える
そして腰から小さな赤い筒を取り出し、その左腕の装置・フックショットへと込める
その瞬間、バシュッと音を立て、フックが射出され、ワイヤーがギュルギュルと伸びていく
フックは対岸の大地へと深く刺さり、クガネはそれを強く引っ張り確認を取る

「ほら、さっさと行け」

顎をしゃくり、行けと合図をする
そんな彼にマルロが駆け寄る

「クガネさん、やっぱり優しいですねっ♪」

チッと舌打ちをし、小さな少女を睨みつけながら言う

「俺は回り道をして時間を無駄にしたくないだけだ、勘違いするな」

ふふふ、とマルロは笑い、上機嫌だ
そんな少女にため息をつき、クガネは諦める

フックショットのワイヤーを近場の大岩に絡ませ、キツく縛る
思いっきり体重をかけ、強度を確かめた後、一行は渡る事となった

まずはエインからだった
彼は手でワイヤーを掴み、足を絡ませ、ぶら下がるように進んで行く
しばらくして対岸へと辿り着き、次の人どうぞと大きな声を出す
一人ずつ、次々とワイヤーを使い対岸へと渡る
身軽な者は重装備の者の武具を受け取り、一緒に渡る
マルロは、ぶら下がったガゼムの腹に乗り渡る事となった

「マルロ様、お任せ下さい!この命に代えても対岸までお送りいたします!」

「よ、よろしくおねがいします」

ぶら下がるガゼムの腹にちょこんと乗り、ワイヤーを掴む
そしてゆっくりとガゼムは進んで行く
無事対岸まで渡り、ほっとするマルロだった
それに続いてイエルはダリルが運んだ
彼女を運ぶダリルは物凄い形相で、対岸へ辿り着いた時の彼は肩で息をしていた

最後にハーフブリードが残り、誰が先に行くか話し合っている

「シルトさんは先に行ってほしい」

「え?なんで?」

「なんでって・・・なんで分からないかなぁ・・・」

サラはため息をし、シルトを白い目で見る

「「シルさんのえっちー」」

とラピとシャルルが声を合わせて言ってくる

「えー!?なんで?どゆことー?」

シルトは困惑し、ジーンに助けを求める
そんな彼にジーンは淡々と答える

「ほら、女の子達を後ろから見たら・・・ね?」

「あぁ、なるほど」

ポンッと手を叩き、納得する

「じゃあ先に行くよ、ラピはどうする?」

「あ、私乗っていいの?」

「うん、いいよ」

ラピは非力なため、先程のマルロ同様、ぶら下がったシルトの腹の上へと乗る

「ぐはっ!重い」

シルトは全く思っていない事をわざと言う

「重いとはなんだー!私は軽いぞー!」

彼の上でワイヤーを掴みながらぴょんぴょんと跳ね、踵で腹を強打する

「落ちる落ちる、冗談だって」

シルトが笑いながらごめんごめんと謝る
ラピは、ふんっと鼻から大きく息を出し、腕を組みシルトの上に仁王立ちになった
そのままゆっくりと渡り、無事対岸へと辿り着く
続いてジーン、シャルル、サラと渡り、全員が渡りきった


一行は緑生い茂る泉の辺まで歩き、その全容を知り、驚嘆する
この泉の周りには四季が存在しないのだ
いや、四季が全て存在していると言えるだろうか
春の花が咲き、夏の果物がなり、紅葉した木々もあり、葉が落ち枯れ木となった部分もある
この不思議な光景を眺めながら、泉の横を通りすぎて行く
ミラは泉を覗き込み、透き通った水の底に何か光る物を見つける

「何かしら?あれ」

彼女が指差す場所をエインも覗き込み、その光る物を肉眼で捉える

「なんでしょうね・・・触らぬ神に祟りなしですから放置しましょう」

「そうですわね・・・今はそれどころではなくってね」

後ろ髪を引かれる思いを振り払い、ミラは足を進める
その頃、シャルルは近くにあった木にジャンプし、赤い果物を採る
それを服の裾でキュッキュと拭いている

「シャルル、それ食べるの?」

「うん!」

「大丈夫なの?」

「わかんない!」

「だよね・・・平気なのかな」

ジーンが、そうだ!と何かを閃いたようで
シャルルの果物を奪い、ラピの元へと歩み寄る
その果物をラピの肩にいる小さなドラゴンへと差し出す

「ちょっと、ジーンさん、何してるの」

ラピが怪訝そうな顔で言う

「え?毒見?」

「毒見ってー!!」

小さなドラゴンを隠すようにラピがジーンから離れる
しかし、ドラゴンはギャアギャアとその果物を催促していた

「うー・・・食べたいの?」

ギャアギャア

「しょうがないなぁ・・・」

ジーンが笑顔でラピに果物を渡し、それを持っていた小さなナイフで切り分ける
それをドラゴンへと与え、むしゃむしゃと美味しそうに食べ始める

「だ・・・大丈夫?」

ラピが心配そうに肩のドラゴンへと目を向ける
ドラゴンは嬉しそうにクーと鳴く事で答えた

「だってさ」

ジーンがシャルルに振り向き、笑顔を向けた

「ジーン、それはないわ」

シャルルが呆れ顔でやれやれと頭を振っている

「食べたかったんでしょ?」

「そうだけど・・・」

「食べないの?」

「食べる!」

ジーンはラピから果物を受け取り、シャルルへと手渡す
それにがぶりとかじりつく

「おいひーーー!!」

口に含みながら彼女が言う
皆がそんなに美味しいならと、一口ずつ貰う

「おぉ、本当に美味しいね、これ」

「うんうん」

「ホントだ、美味しいね」

「あまーい!」

わいわいと騒ぎながら彼等は足を進めていた



そして一行は生命の泉を通り抜け、その先にある断崖絶壁の前へと辿り着く
ここは死の谷と呼ばれる場所である
その壁は高さ30メートルほどはあるだろうか
ごつごつとした岩肌をしており、地面は荒れ果て、気を抜けば転びそうになる
壁には1ヶ所だけ横幅10メートルほどの道がある
彼等はその道を、岩壁に挟まれ光の届かない谷底を進んで行く
その先にある生と死の聖域を目指して
そして、その先に待ち受ける死戦など知らずに・・・






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