2015_12
08
(Tue)13:02

1章 第14話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第14話 【真実】

やっと時間が進みます!
年内に1章ラストまで書き上げたいですね~。

では続きを読むからどうぞー。












【真実】








死の谷での死戦、ゴーレム戦から1週間が経とうとしていた
負傷者達の傷は癒え、意識を取り戻していた
一部の者の装備は使い物にならなくなったが
目的地は目の前だ、今更引く事はできない
覚悟を決め、一行は生と死の聖域へと足を進めるのだった

辺りを警戒しながら死の谷を進み、一行の前に現れたのは巨大な階段だった
何段あるか数えるのも嫌になるくらい続く階段である
その作りは自然に出来た物ではなく、石を切り取り、平らにしたような綺麗な物だ
上は霧がかかっていて見通す事は出来ず、何段あるかまでは分からない
横幅は10メートルほどで、1段1段の幅は40センチほどだろうか
角度は40度ほどで、結構勾配は厳しい
その上には何が待ち受けるのか、彼等は恐る恐る足を進めた

「これ上るのー?」

ラピが上を見て嘆く

「みたいだね」

ジーンが淡々と返す
その横でシャルルはがっくりと肩を落としている

「頑張ろ」

サラがシャルルの背中を押して一緒に上っていた
まだ上り始めだというのにこれだ
確かにこの階段を目の前にすれば誰でも嫌にはなるだろう
しかし、文句を言いながら上っているのはハーフブリードだけだった
それから半刻は上っただろうか、あまりにも先が見えない事で皆が不安になっていく
体力を温存するため、一旦休憩を取る事となった

「しかし、これはいつまで続くんだ」

ガゼムが目を細めながら上を眺め、額の汗を拭う
彼の鎧はゴーレム戦でダメになり、今は鎧は着ていない
その大盾も変形し、ただの鉄くずと化しているが何とか持ち歩いている
それは部下のダリルもそうだった
彼等はゴーレムの最初の砲弾のような突進で跳ね飛ばされ、潰れたのだ


「クガネさん、大丈夫ですか?」

マルロが心配してくる
彼が目を覚ましてからというもの、マルロは付きっきりだ
クガネはゴーレム戦でマルロを庇い、巨大な砲弾のような突進をその身で受けた
そして彼の半身は潰れ、意識を取り戻したのは先日の事だ

「なんともない、人の心配より自分の心配でもしていろ」

9歳の少女にはこの階段は厳しそうだった
クガネは自然とマルロの心配をしている自分への違和感に悩む
俺はこんな奴じゃなかったんだがな・・・最近は口癖のようになってきた言葉を心でぼやき
腰に下げた水筒をあけ、水を一口飲み、それをマルロへと差し出した

「マルロも飲んでおけ」

マルロがそれを受け取り、じっと水筒を見つめている
その顔は僅かにだが上気しているようにも見えた

「い、いただきます」

何かを決心したかのような覚悟のこもった声で言い
コクッと一口だけ飲み、マルロの顔は真っ赤になる
顔はだらしなくニヤけ、ふふふ、ふふふ、と笑いが漏れている
そんな少女の態度にため息を洩らし、クガネは天を仰いだ


ガリア・ケルヌン、彼もゴーレム戦で負傷した一人だ
彼はゴーレムによって弾かれた爆炎のダガーが頬をかすり、顔が吹き飛んだのだ
先日、目を覚ました彼はなぜ自分が倒れていたのかすら分からなかったほどだ
そんな彼は一人で上ってきた階段の下を見ている
その先に見えるのは先程までいた死の谷
上から見るとこんな風になってるんだなぁと彼はただ眺めていた

ブロス・ラジリーフ、ドラスリアの宮廷魔導師である彼に体力は無い
ここまで上った事により肩で息をしているほどだ
彼もゴーレム戦で負傷した者の一人である
彼の着る高級そうな薄緑のローブは血で汚れ、今では半分は焦げ茶色に変色している
血が固まり、バリバリとしており、着心地は最悪だ

エール・ボア・エンジュ、生の魔法使いである彼も負傷者の一人だった
そのふくよかな身体はゴーレム戦で半分以上潰れ、原型を留めていなかった
それが今ではすっかり丸みを帯びた身体に戻っている
彼の持っていた水晶はゴーレム戦で砕け、今は何も手にしていない
薄くなった頭からは滝のように汗をかいていた

エンビ・ルルラノ、エルフの魔法使いである彼も負傷者だった
その顔や身体は再生され、完全に元の美しさを取り戻している
彼の持っていたショートワンドもゴーレム戦で折れ、使い物にならなくなった
そんな彼は今は魔導書を手に持っている、これはエルフの秘術書だ
彼は聖獣を召喚する事が出来るには出来るが、魔力が少ないので維持ができない
そのため普段はこの秘術書は使わないのだ

アズル・ルゴス、彼もまたゴーレム戦での負傷者の一人だ
彼の上半身は吹き飛び、肉塊と化した
それが今では完全に再生され、元に戻っている
しかし、鎧はぐちゃぐちゃになってしまったので捨ててきた
今の彼は上半身裸で、その自慢の筋肉を露わにしている
彼の持つ大斧は、ゴーレムを叩いた時に刃が欠けているが
今もそれを大事に抱えている


エインは右腕の調子を確かめていた
完全に元に戻り、もう何も問題は無さそうだ
しかし、右手の篭手は使い物にならなくなったので置いてきた
そして、彼の家宝であるミスリルロングソードも潰れ、折れてしまったのだ
今は代用品としてロイからスチールロングソードを借り受けている
そんな彼の元へ、ミラが歩いて来た

「もう腕はいいのかしら?」

彼女を見て微笑み答える

「はい、おかげさまで」

そんな彼の笑顔に一瞬ドキッとし、目を逸らしてしまった

「わ、わたくしは当然の事をしたまでですわ」

ミラの態度が微笑ましく、エインは更に笑顔になっていく
彼のその態度に徐々に腹を立て、ミラが言い放つ

「貴方には死の巫女を救っていただかないといけませんことよっ!」

つんっとミラはそっぽを向いてしまう

「はい、自分・・・・俺は、彼女を救ってみせます・・・必ず」

彼の眼は静かに燃えていた、その眼を横目でチラッと見てミラは一安心する
また濁った眼をしているようなら叱ってやるつもりだったのだ

「頑張りなさい」

ミラは優しい声でそう言い、踵を返す
一行は再び階段を上り始めるのだった




あれから半刻は経っただろうか
ついに霧の先、階段の終わりが見え始め、一行の足は軽くなる
休む事なく上へ上へと上り、ついに頂上まで辿り着く
頂上は拓けており、一行はやっと急勾配から解放され安堵のため息を洩らす
視界の先には、これまで見てきたクリスタルの祭壇より
遥かに大きく広い祭壇が広がっていた

しかし、その光景は今までのそれとは違う
これまでの神の祭壇は水が水面に落ちた時に出来るような王冠のような形だった
だが、ここの祭壇は同じクリスタルだが全く違う
荒々しく尖り、四方八方に突き出している

直径100メートル近い広場は全てクリスタルで出来ており
光を反射して七色に輝いていた
クリスタルは透けており、地面の下には雲海が広がる
足がすくみそうになるが、ここは旅の目的地、生と死の神の聖域
誰一人臆する事なく足を進める、目の前にいる神と対峙するために・・・
そして一歩、祭壇へと足を踏み入れた瞬間、全員がある感覚を感じる

それは絶対的強者の存在

恐怖、暖かさ、懐かしさ、嬉しさ、それら全てが同時に押し寄せてくる
その異様な感覚に足が止まりそうになるが、誰も止まりはしなかった


広場の中央に見えるのは黒い闇、2メートルほどの闇が浮いている
それは一瞬たりとも同じ形を維持しておらず、その中心は吸い込まれそうな黒だった
中心の闇からとめどなく闇が溢れ出る、それは2メートルほどで消え
その一角だけを闇が覆っている
トヒル火山で見た時と同じ、死の神だ

死の神の隣、10メートルほど離れた位置に浮く存在
人間の胎児とも言えるその姿は、僅か3センチほどで
これまでの神の知識が無ければ見つけられないほどだった
目は開かれておらず、皮膚はなく、赤い
ヘソと思われる場所からは尾が伸びており、それは中空で途切れている
まだ形が確かではなく、何の胎児なのかは判断が出来なかった
胎児の周りには薄い透明な膜が貼っており、その球体の中でゆらゆらとしている
これこそが生の神である


死の神の足元、そこに横たわる存在に気づき、エインが駆け出した

『リリム!!』

彼に続き、リヨンも駆け出し、皆も彼等に続いた
一行は死の神の前まで行き、横たわるリリムを見つめる
その顔は安らぎに満ちており、傷や汚れ一つなく美しさを保っていた
しかし、その顔や身体からは生気は感じられず、ただ静かに横たわっている
エインはリリムを抱き起こしたいが、そこには死の神がおり
彼女の手前3メートル、これ以上近寄れずにいた
その時、神の声が響く

《・・・・ひとよ・・・よくここまでたどりつきました・・・》

トヒル火山で聞いた声とは別の声
ガドゥンガンでヒミカが生の巫女に選ばれた時と同じ声
それは生の神の声だった、それが全員の脳に直接響く

《・・・・ししんのかけらを・・・もってきたのですね・・・》

ししんのかけら?アズルが不思議そうな顔をするが
イエル、マルロ、エインが神の宝玉を取り出すのを見て、四神の欠片か!と気づく
生の神の言葉はたどたどしく聞き取りにくいのだ

《・・・わたしのもとに・・・》

3人は宝玉を持ち、生の神の前へと歩いて行く
それを胎児のような神、生の神に差し出す
彼等の持つ宝玉は手から離れ、空中に浮かび上がり
生の神の周りを包む薄い膜の手前で止まる
そして、宝玉はドクンッドクンッと脈打つように輝き出す

《・・・かけらに・・・ちからをあたえます・・・》

そう言い、生の神が白く光り出す
この光りを浴びた一行は体内から恐ろしいほどの生命力を感じる
疲れは一瞬で消え、身体の痛かった部分から完全に痛みが消える
溢れ出る生命力と、四神とは遥かに違う、桁違いの力を目の前にし
全員は瞬きすらできないほど動けなかった

生の神は徐々に光を強め、その光に呼応するように四つの宝玉も輝き出す
青、緑、赤、茶、色々な光が混ざり、それをクリスタルが反射し
目は開けていられなくなる
しばらくして光が収まり、一行が目にしたのは先程までの宝玉ではなかった
全ての宝玉はその大きさが3倍に膨れ上がり
直視できないほどの眩い光を放ち、その溢れる力を感じさせる

《・・・・これを・・・かれに・・・・》

かれ、とは死の神の事であろう
巨大化した宝玉はエイン、イエル、マルロの手にゆっくりと降りてくる
触れた瞬間、熱いような、痛いような、温かいような、気持ちいいような
そんな不思議な感覚が手から伝わってくる
3人は生の神へと頭を下げ、ゆっくりと落とさないように死の神の元へと行く
彼等が辿り着き、その宝玉を死の神へと差し出そうとした瞬間、声が届いた


《・・・・待て・・・・》

それはトヒル火山で聞いたのと同じ、死の神の声だ

《・・・それを我に渡すという意味を・・・・分かっているのか・・・》

火山の時よりも遥かに弱々しく、今にも消え入りそうな声で言う

「意味・・・とは、どういう事なのですか?」

エインは素直に聞いてみる

《・・・・我の復活・・・すなわち・・・世界に死が溢れる・・・》

「それを取り戻すため、自分達はここまで来ました」

エインはリリムを一瞥し、死の神を見据える

《・・・今・・・世界には・・死が存在しない・・・・それは知っているな・・・》

「はい」

《・・・・ある時・・・ある場所で・・・1つの物病みが生まれた・・・》

「物病み?」

《・・・その物病み・・・放置すれば・・世界は滅んだ・・・》

エインの眉間にシワが寄る

《・・・・我はその全てに死を与えた・・・患う者・・・・患う物・・・全てに・・・・》

「そんな事が・・・」

《・・・・我はこの愛する世界を・・・救いたかった・・・しかし・・力を使い果たした・・・》

「それで死の概念が消えたのですか」

《・・左様・・・そして・・我の復活・・・それは・・・理の復活・・・
 ・・・これまで救われなかった命は・・・・全て死に絶える・・・》

「救われなかった命が・・・死ぬ?」

《・・・左様・・・・死が存在しない間・・・死んだ者は・・・全て死に絶える・・・》

『えっ!?』

大声を出したのはジーンだった、一同からもどよめきが洩れる
死の神は弱々しくも続けた

《・・・人は争い・・・殺し合った・・彼らもまた・・・死に絶える・・・
 ・・・・・・・寿命を超えた者・・・それもまた・・・・死に絶える・・・》

「そ、それは、死ぬような傷を負った者や本来なら死んでる者達が
 死の神が力を取り戻すと同時に全て死に絶えるという事でしょうか?」

ロイが混乱しつつも何とかまとめて聞いている
そうではないと淡い期待を込めながら

《・・・・左様・・・》

その答えは残酷なものだった
ロイは膝から崩れ、頭を抱える
自分達の未来が無いのを知り、数名が崩れ落ちる
ジーンは座り込み、膝を抱え、頭を埋める・・・その肩は震えていた
ハーフブリードの面々ですら、彼女のそんな姿を見た事が無かった
シャルルが駆け寄りジーンの頭を優しく撫でる
サラとラピも歩み寄って、大丈夫?と心配そうに声をかけていた
シルトは少し離れ、神とジーンの様子を真剣な表情で交互に見ていた

《・・・・それでもなお・・・復活を・・望むか・・・・》

「ま、待っていただきたい!」

ロイが慌てて死の神を制す

「話し合う時間を・・・お与えください・・・」

《・・・好きにするといい・・・》

そう言い、神は黙った
一行は一旦祭壇から離れ、階段付近の広場まで戻る
今知った真実は全員にとって衝撃であり、話し合いが行われる事となった





彼等は悩んでいた
神を復活させるためにここまで旅をしてきた
しかし、神が復活すれば彼等の大半は死ぬのだ
そして、戦争を繰り返してしまった人類もまた大勢が死ぬだろう
彼等の決定によって、人類だけでも数十万の命が死に絶える
今、その決断を迫られていた

「まさか・・・こんな事になるとは・・・」

ロイは頭を抱え、うなだれながら呟いた
ガゼムは彼の肩に手を置いて言う

「やむを得ないだろう・・・死を取り戻すとはそういう事なのだ」

この旅で皆を引っ張ってきた二人の空気は重く、沈んだものだった
それは他の者達もそうだ

「すまないが、確認を取らせてくれ
 死の消失後、1度でも死を体験した者は挙手を願いたい」

ガゼムが皆を見渡しながら聞こえるように声を上げる
それに反応し、のそりのそりと手が上がってゆく
今、手が上がった者達は


ドラスリア王国
サーガ家当主の弓士・・イシュタール・セル・サーガ
宮廷魔導師の風の魔法使い・・ブロス・ラジリーフ
3等級冒険者の刀使い・・サイガ
3等級冒険者の大鎌使い・・イルガ

宗教国家カナラン
神殿盾騎士団長・・ガゼム・アン・ダイト
神殿盾騎士団・・ダリル・ロッヂ
生の魔法使い・・エール・ボア・エンジュ
教会守護隊の槍士・・カイル・リムシブ

自然国家ネネモリ
元盗賊団頭領・・クガネ
エルフの水の魔法使い・・エンビ・ルルラノ
斧使いの戦士・・アズル・ルゴス
弓士・・ガリア・ケルヌン
メイス使い・・リヨン・スッケルス

商業国家ラーズ
ラーズ軍の少佐・・ロイ・ホロウ


以上14名である

「すまない、もう手を下ろしてもらって結構だ」

半数以上が手が上がった事に一同は落胆していた

「今後の事だが・・・決を取りたいと思うのだが、どうだろうか」

「決とは?」

ダリルが聞いてくる

「神を復活させる選択をすれば大勢が死ぬ
 それは国に残してきた仲間や家族もそうだろう
 しかし、世界は虫の驚異により、徐々にだが滅びが迫っている
 神を復活させなくても、いずれ世界は滅ぶだろう・・・
 そこで、神を復活させるか否か、ここにいる者で多数決を取ろうと思う」

ガゼムの言葉が皆の胸をえぐる
一同は目を伏せ、答えが出せずにいた
そんな状態を見て、ガゼムが更に提案をしてくる

「では、1日考える時間を作るのはどうだろうか」

慎重に考えてほしい、とガゼムが続ける
それに一同は同意し、各々好きな場所で休み、考える事となった





ブロス・ラジリーフは空を見ていた、茜色に染まりつつある空を
彼は幼い頃から勉強勉強の日々で、エリートになる事だけを考えて生きてきた
やっとの思いで手に入れた地位、宮廷魔導師
それは魔法使いの中でもエリート中のエリート
それが今や、何の因果かこんな辺境の地で薄汚れたローブを着て空を見ている

「やむを得ない・・・・か」

独り言を呟き、自身を戒める
彼は頭がいい、このままでは世界がどうなるかは容易に想像がつく
その先に待つ地獄のような未来すらも

「私は充分生きたかな」

年齢によりシワの増えた顔が緩み、更にシワを作っていく
一つ心残りがあるとすれば、故郷ドラスリアに残してきた家族だ
妻と3人の子供がいる、子供達はもう成人しており、結婚した子もいる

「孫の顔が見てみたかった・・・・」

そこまで言い、彼の頬に涙が伝う
彼は空を見ていた・・・・一人、静かにじっと見ていた





サイガとイルガが二人で階段の頂上に座っている
そこからの景色を眺めていた

「兄ちゃん、僕ら死んじゃうね」

「そうだね、仕方ないね」

しばらくの沈黙が流れる

「痛いのかな?」

「痛いのは嫌だな」

再び沈黙が流れる

「兄ちゃんと一緒に死ねるならいい」

「俺もイルガとならいい」

お互い見つめ合い、笑い合う
少しして、再び二人で景色を眺める

「すごい冒険だったね」

「うん、楽しかったね」

それからはずっと無言で景色を眺めている
彼等のその手は強く握り合っていた






マルロを除く、宗教国家カナランの一行が集まっていた

「俺は死の神のため、この命が燃え尽きる事に何のためらいもない」

「自分も同意見です」

ガゼムとダリルが拳を合わせ、頷き合う
そこにエールが口を開く

「私も神の復活には賛成です、それ以外の道はありませんから・・・」

そんな彼等の言葉をイエルは黙って聞いている

「俺の命もここまでかぁ~・・・ま、しゃ~ないかっ」

カイルが寝転がりながらぼやく
そんな彼にガゼムが言う

「俺達の命は世界を救う、それほど嬉しい事はないじゃないか」

「そうなんだけどねぇ~」

カイルが、あぁ~あ、と声を洩らす

「どうしたんだ」

「いやね、ここ数ヶ月ご無沙汰じゃん?最後に女抱きたかったなぁ~ってね」

そんな緩い言葉にイエルが吹き出す

「はっはっは、それじゃ私が相手してやろうかね?」

冗談っぽく言うと

「流石に巫女様はちょっと・・・・ねぇ?」

「私じゃ不満だってのかい」

イエルが意地悪に言うと、カイルは乾いた笑いを返すだけだった

「冗談はさておき、本当に皆・・・すまないね」

イエルが真剣な表情で言う
それに答えたのはガゼムだった

「巫女様がご無事で何よりでした、本当に良かった」

彼女は唇を噛み締め、俯いた

「私は生の神をこの目で見れたので、心残りはありませんよ」

エールが笑顔でそんな事を言う

「確かに、この目で神々を見られる日が来るとはな
 まぁ・・・だいぶ神々の像とは違ったがな?」

がははは、とガゼムが大声で笑う
それに釣られて一行は笑っていた





エンビ・ルルラノは一人で荷物を弄っていた
エルフである彼の荷物は独特な物が多い
そこには人間に見られてはいけないような秘術などの類いもあった
それを処分しているのである

彼は死を受け入れていた
この先、数百年という時間を生きれるはずの彼がだ
何故彼が死を受け入れたかと言うと、それはエルフという種族のためだった
エルフは森に住む、それは虫と共存していると言ってもいい
この死の消失した世界で、虫の驚異に晒され
一番の被害を受けるのがエルフと言えた

彼はエルフの代表の命令で今回の旅に参加している
正直、彼は森を出たくはなかった
しかし、エルフという種に誇りを持っている彼は、種を守るため旅立ったのだ

そんな彼には一つだけ気がかりな事が残っている
気がかりの正体、それはハーフブリードのジーンだ
ハイエルフしか使えないとされる精霊を使役する存在
一見、彼女の見た目は人間のそれだ
しかし、火口で風が吹いた瞬間見えたその耳だけは僅かに形がおかしかった
あれはエルフ特有のものである可能性が高い

エルフという種族に誇りを抱いている彼にとって
ハーフエルフという存在は許せなかった
その可能性が多大にある彼女を、エンビは憎しみすら抱いているのである
しかし、ここで彼女に挑み、命を奪おうとしても叶わない
ハーフブリードというチームの強さを目の当たりにしたからだった
そこで彼は1つ思いつく
荷物を手に持ち、ある少女へと歩み寄る

「ララノア様」

突然声をかけられ、驚いた表情でラピが振り向く

「どうしたのー?」

「これを故郷に・・・頼みます」

そう言い、手に持つ革袋を差し出す

「うん・・・いつになるか分からないけど、ぜったい届けるね」

「ありがとうございます・・・それともう1つ」

彼はラピの耳元へと顔を寄せる

「ジーンなる者にはお気を付けください、奴はハーフの可能性が御座います」

「え?いいんじゃない?」

「は?」

ラピの呆気ない態度にエンビは素っ頓狂な声を上げる
純粋に不思議そうな顔でラピは言う

「ハーフじゃダメなの?」

「それは・・・・」

「なら私のチームほとんどダメになっちゃうよー?」

「失言でした、お忘れください」

エンビは頭を下げ、下がる事とする
ラピは何が言いたかったんだろう?と不思議そうにしていた
元の場所に戻りながら、ジーンを睨みつける
だが彼女は膝を抱え、俯いていた






ガリア・ケルヌンは不幸な青年だ
彼はいつも孤独だった
今も一人、隅の方で座っている
自分が死ぬという実感が無く、ただぼーっとしていた

「人生こんなもんか・・・何もなかったなぁ」

家族もなく、友達もなく、恋人もいない
言い換えれば、誰も悲しむ事がないって事か
と、前向きな発想すら出てきた

「この旅は、おとぎ話の勇者みたいで楽しかったな」

皆を見渡し、僅かにながら微笑む

「騒がしかったけど、ちょっと嬉しかったな」

彼は孤独だった、だからこそ、この大所帯が心地良かった
皆を見る彼の目には、普段の暗い雰囲気はなく、優しさと嬉しさが満ちていた






アズルとリヨンが酒を飲んでいる
ガドゥンガンで分けてもらった貴重な酒を開けたのだ

「死の神が復活なされる!これほど嬉しい事はない!」

リヨンは上機嫌にジョッキを振るう

「おいおい、酒がこぼれちまってるぞ」

アズルは笑いながら友を見ている
おっとっとっと、とこぼれた酒すら舐めるようにリヨンが酒をあおる

「俺は死ぬってのがよく分からんが、ネネモリの皆が助かるならそれでいい」

アズルはジョッキを両手で持ち、その酒を見つめて言う
彼の物悲しい表情にリヨンも緩んだ頬を引き締める

「あぁ、助かるとも、世界は救われるんだ」

「そうか、ならいいかっ!」

ジョッキをぶつけ合い、一気に飲み干す
彼等は日が落ちても飲み続け、そのまま寝てしまった






一角にエイン、ミラ、イシュタールが集まっていた

「何故私が死ななくてはいけないのだ!」

イシュタールが嘆く
エインは顔を伏せ、ミラは冷たい目線を向けている

「世界を救う旅に選ばれた英雄だぞ?!この私が何故!!」

彼は普段隠している感情を露わにし、紳士らしさの欠片もない
これが本性なんだろう、とミラは冷めた目で眺めていた

「エイン、貴様は死なぬからいいよなぁっ!」

エインは顔を伏せたまま答える

「自分は本当に死なないのでしょうか?」

「・・・なに・・・」

イシュタールの勢いが止まり、一瞬間を置き、エインは続ける

「自分はゴーレム戦で大怪我を負っています
 それに火山では重度の火傷も負っています
 先程は判断できず挙手できませんでしたが・・・
 神が復活した後、本当に自分は死なないのでしょうか?」

「貴方は死なないわ」

ミラが即答する

「根拠はなくってよ、そこは聞かないでちょうだい」

そう言い、彼女は横を向いてしまう
ミラの言葉に僅かにながら希望が見えた気がして頬が緩む
そんな二人を見て、震える男がいた

「何故お前等が生き残って、この私が死なねばならぬのだ!!」

ミラが振り向き、凍てつくような視線を向ける
その視線にイシュタールが一歩引く

「貴方は既に死んでいるの、今この瞬間まで生を得ていた事に喜びなさい」

ミラの容赦ない言葉がイシュタールの心を砕きそうになる、が・・・
彼の今まで我慢してきた感情が爆発する事となる

「この小娘が!好き放題言いやがって!!」

イシュタールはミラに襲い掛かった
彼の手が届くかどうかのところで、ミラのレイピアが彼の喉元で止まる
不滅のレイピアの先端が僅かに刺さり、喉から痛みが伝わってくる
そこで彼は一切動けなくなった

「小娘が・・・なんのつもりだ」

「あら、分からないかしら?貴方も家畜程度の頭しか無いのかしら」

その言葉にイシュタールが激怒する
素手で喉元のレイピアを掴み、血が出るが、無理矢理振り払う
そのまま力任せにミラを押し倒した
突然の彼の行動にミラは反応が遅れてしまう
もろに背中から倒れ、彼の体重も加わり、呼吸ができなくなった

「小娘が!お前を犯してやる!!どうせ私は死ぬんだからなぁっ!!」

狂人じみた笑顔を浮かべ、涎を垂らして言う
彼がミラの身体に手を伸ばした瞬間

『ぅぐあぁぁぁぁっ!』

スチールロングソードが彼の手の平を貫く
一瞬遅れてから痛みで悶え、剣は抜け、転げまわる
解放されたミラは無残に転げまわる彼を一瞥し、エインへと顔を向ける

「ありがとう・・・助かりましたわ」

そんな彼女に笑顔を向け、彼は言う

「いえ、当然の事をしたまでです」

大丈夫ですか?と手を差し伸べ、ミラはその手を取る
その瞬間、彼女はドキッとする
一瞬、ある女性の事を思い出し、ふふ、と笑みを洩らした

「如何なさいました?」

上機嫌なミラに不思議そうにエインが聞いてくる

「いえ、死の巫女はこんな感じだったのかと思いまして」

ふふ、と笑いながら言う
リリムが?とエインにはさっぱり理解できなかった

「なんでもありませんわ、気にしないでいいわよ」

ミラが小悪魔のような笑顔を向ける
エインがミラを起こし、手を離し、彼女を見て何が何やらと悩んでいると
先程まで騒がしく転がりまわっていたイシュタールの声が止む

「お前等・・・許さん・・・・殺してやる!!」

5メートルほど離れた位置で彼は弓矢を構えていた
弓とは距離が近ければ近いほど回避不能になっていくのだ
彼の弓の腕はそれなりに高い、この距離で外す事は無いと言っていい

「死ねえええええ!!」

イシュタールの声が裏返り、その矢が放たれる
エインは一切反応出来ていなかった
彼の胸へと放たれた矢の先端が胸当てに当たった瞬間
その矢は上から叩き落とされる事となる
5メートルの距離からの矢を叩き落とすなど狙って出来るものでは無い
ミラは当てずっぽうでレイピアを振るった
その斬撃は偶々間に合い、偶々当たったのだ

エインのライトアーマーの胸当てに傷を作り、矢は地面へと落ちる
その瞬間、ミラがイシュタールとの距離を詰めた
イシュタールは矢が落とされるなど想定しておらず、動揺していた
ミラの接近を許してしまったのはそのためだった
そして放たれる神速の三段突き、それは彼の両肩と頬をかすめる
彼にはその突きが1発も見えなかった
しかし、ほぼ同時に3ヶ所から痛みが走り、身動きは取れなくなる

「今のはわざとかすめたのよ、次は無いと思いなさい」

ミラがレイピアを向けたまま続ける

「貴方もドラスリアの貴族なら、世界のため、家のため、死になさい」

「家の・・・ために・・・?」

震えながら彼は言う、その目には涙がたまっていた

「そうですわ、貴方は世界を救う英雄
 サーガ家はラシュフォードの名において保護され、その地位を約束しましょう」

「本当ですか・・・・本当に私の家は安泰なのですか」

「えぇ、ラシュフォードの名に誓いますわ」

ミラに頭を垂れ、ありがとうございますと泣いて感謝する
腐っても彼は1つの貴族の当主だ
誇りや見栄の世界で、家系を続かせ、大きくしていく事が何よりも大事なのだ
三大貴族の頂点のラシュフォード家が地位を約束してくれる
それほど彼にとって嬉しい事はなかった

「先ほどの無礼は水に流しましょう・・・頭をあげなさい」

ミラはレイピアを鞘にしまい、優しい声で言う
彼女の言葉で頭を上げ、イシュタールは涙を流しながらミラを見る

「貴方に問います・・・・神の復活に賛成しますか」

イシュタールは涙を拭う事もなくそのまま答えた

「・・・はい」

頭を下げ、号泣する
いい歳の大人の号泣を、ミラは優しい眼差しで見守っていた




そして夜は深けてゆく・・・




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