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(Fri)15:05

1章 第15話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第15話 【復活】

やっとここまで来たなぁって感じです。
後4~5話で1章が終える予定です!
良かったら最後までお楽しみくださいませ~。

では続きを読むからどうぞー。










【復活】









日も落ち、夜も深けた頃

ハーフブリードとロイのラーズ一団は遅めの晩飯を準備していた
ここは長い階段の遥か上、生と死の神の聖域が目の前に見える広場である
辺りに警戒するものが無いので、シルトは鎧を脱ぎ、料理をしていた
今夜の献立は干し肉のスープと乾燥したパンと少量だがサラダもある
すぐに出来上がり、スープの良い香りが漂う
夜は空気が冷たくなり、温かいスープは何よりも嬉しかった

「冷めないうちに食べちゃおう」

シルトが鍋からスープを分け、それぞれのカップへと注ぐ
サラとシャルルはふーふーと息を吹きかけ冷ましていた
彼女達は熱いのが苦手・・・猫舌なのだ
ハーフブリードの面々にロイを交えた囁かな食卓
その中で一人、沈んだ表情のままの者がいた・・・・ジーンである

「ジーン殿、スープが冷めてしまいますぞ」

ロイがそう言い、ジーンの近くへとカップを置く
そのカップは湯気をあげ、食欲をそそる良い香りが漂ってくる
カップを一瞥したジーンは小さく頷き、それを手に取った

「では、いただきましょう」

ロイがパンッと手を合わせ、皆がいただきますと声を合わせる

「ほいひ~♪」

シャルルが熱そうにしながら唸る
その横でサラも温まるねーと微笑んでいる

「これがシルト殿の料理か、あれだけの食材でよくこの味が・・・」

ロイがスープをまじまじと眺め、頷いていた
シルトは自分の作った料理に満足そうに首を縦に振っている
ラピはパンを小さく千切り、肩にいるドラゴンの子供へと分け与えていた
そして、ジーンは・・・・一口も食べていなかった

「ジーン、折角シルさんが作ってくれたんだから食べろっ!」

シャルルがジーンに詰め寄る
ジーンの手に持つカップを彼女の胸に押し付け、はよ食べろと催促する

「・・・わかったよ」

ジーンはスープを口に入れた途端、涙を溜める
そんな彼女の横にシャルルは座り、ジーンを見ずに語り出す

「こんなところでシルさんのご飯食べれるとは思わなかったね」

ジーンはシャルルの横顔を涙を溜めた瞳で見つめている

「今回は色々あったね、知らないとこたくさん行けた」

「・・・そうだね」

「変な神様にもたくさん会えたね!」

シャルルがにししと歯を見せ笑う

いつも喧嘩腰に色々言っているが、彼女はいつでもジーンを見ていた
最初はライバル心からだっただろうか
自分よりも遥かに優れているジーンに嫉妬し
シャルルは血のにじむような努力をした
それでも追いつけない悔しさに涙した日もあった

しかし、いつも見ていると、完璧なようなジーンにも欠点がちらほら見えてくる
それは彼女が効率を求めてしまう結果なのか、後で後悔する事が稀にあるのだ
そんな時、シャルルは必ずと言っていいほどジーンの力になっている
ライバルのようでお互い支え合う、良い関係なのかもしれない

笑っているシャルルの横顔を眺め、ジーンはある事に気づく
この子は私を励まそうとしてるんだな、と
何の脈略も無い話だが、シャルルなりにジーンを励まそうとしていたのだ
シャルルの気持ちが嬉しく、ジーンは優しく微笑む

「ありがとう、もう大丈夫だよ」

笑っていたシャルルは驚き、目を丸くし

「そっか、よかった!」

太陽のように明るい笑顔を向ける
それからはゆっくりとした食事の時間が過ぎていった
他愛ない話やくだらない冗談を混じえて・・・・




先程までジーンが落ち込んでいた理由、それはロイの事だった
今日聞いた死の神の言葉はジーンの胸に深く突き刺さった

・・・・・死が存在しない間・・・死んだ者は・・・全て死に絶える・・・・・・

この神の言葉が意味するもの
それは、ジーンの手によってロイが殺されたという事実だった

トヒル火山にて、ジーンの召喚した土の精霊グノーム
グノームは巨大な魔獣ゴトビキを投げ飛ばし、ロイを巻き込み、火口へと落ちた
その時、ロイは背中を強打し、内蔵が破裂、即死だったのだ

あの時はそうするのが最善だと思っていた
それはどんなに無残に死んでも再生するからだ
全滅という最悪の事態を避ければ何とでもなる、そう考えていた
それは間違っていないと確信していた
しかし、結果はこれだ・・・その浅はかな行動がロイを死に至らしめた

他の選択肢は無かったの?
ロイさんを殺さず済む方法だったら他にいくらでもあったのでは?
自問し、彼女はあの時の事を思い出す


そういう事言ってるんじゃないの!
仲間を傷つけたんだよ!?少しは反省しなよ!!


火山でのシャルルの言葉が今になって胸に刺さる
ジーンは崩れ落ち、ロイを殺してしまった罪悪感に潰れそうになっていた

「私が・・・私のせいで・・・・」

かき消えそうな小さな自責の言葉が溢れる
うずくまり、膝を抱えて頭をその膝に埋める
そんな彼女を皆が心配してくれた

一行の話し合いが終わり、多数決を取るという事が決まり
各々が1日考える時間を与えられる
それからしばらくして、日が落ちた頃、ロイが彼女の元へと歩いて来た

「ジーン殿・・・大丈夫ですか」

ロイの声にハッと顔を上げる
普段のクールで綺麗な彼女からは想像もできない顔をしていた
涙や鼻水で汚れ、目は真っ赤になり、白い肌は更に青ざめている
変わり果てた彼女に驚いたロイは彼女の前にドカッと尻を着き、座り込む

「せっかくの美人が台無しですぞ」

はっはっは、と笑いながら言う
笑うロイの顔を見て、ジーンの目に再び涙が溜まる
彼女は頭を膝に埋め

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

何度も何度も謝る・・・その声は震えていた
ロイは困った顔をし、頭を掻きながら答える

「ジーン殿、頭を上げてくれませんか?それでは俺が困る」

困ると言われては頭を上げるしかなかった
ジーンはしわくちゃになった顔を上げ、嗚咽する
シャルルが背中をさすり、サラとラピは少し離れて見守っていた

「俺は気にしてなどおりません
 元々その覚悟でこの旅に来ました、悔いはありませんよ」

ロイが優しい笑顔を向けてくる
その笑顔がジーンにとってはとても辛かった
えづくように泣き、その頭をシャルルが撫でている

「ジーン殿がいなければ、被害は拡大していた
 もっと大勢が死んでいたかもしれない、貴女は間違ってなどいないのですよ」

ロイはこれまでの旅で見た数々の精霊の力を思い出す
それはどれも圧倒的なもので、強大な魔獣達を簡単に葬ってきた
時には道を作ってくれた事もあった
この旅でのジーンの貢献度は計り知れないのだ

ジーンが僅かにながら落ち着きを取り戻し、口を開く

「それでも・・・私がっ!ごめんなさいっ」

頭を地面にこすりつけるように土下座する
彼女の元へと近寄り、ロイは肩へ手を置いた

「いいんですよ、俺は貴女を恨んでなどいない
 死の概念が戻り、世界は救われる
 そのための犠牲になれたのなら本望です」

彼女を起こし、両肩を掴んでロイが言う

「ありがとう、ジーン殿がいなければこの旅は成功していなかった、本当にありがとう」

ジーンの顔が歪み、再び涙を流す
彼女の涙を、この旅で色が変わってしまったタオルで拭いてあげる
ロイがこの旅に出立した時は真っ白だったタオルだが
何度も使い込み、洗ってはいるが変色してしまったのだ
そのタオルで彼女の涙や鼻水を拭いている

「ほらほら、美人が台無しですぞ、はっはっは」

ロイが口を開いて笑い、ジーンもぎこちない笑顔を返した
今の彼女にはそれが精一杯だった・・・・

こうして彼等は遅い時間に食事となったのだ




食事が終え、ラーズの一団は談笑していた

「しかし、1等級とは恐ろしいものだな」

「ん?恐ろしい?」

シルトが不思議そうな顔をする

「いや、失敬、俺は最初は君達を信用してなかったのだ」

「うわー、傷つくわー」

シルトは棒読みで言う、それにハッハッハと笑いロイが続ける

「噂に聞く1等級の話はどれも信じられるものではなくてな
 それがどうだ、この目で見てみると、そんな噂話など小さい事のようだ」

「はぁ・・・噂話ってのは盛られるもんだと思いますがね」

「俺もそう思ってたのだ、それが君等ときたら・・・目を疑ったぞ」

「どもども」

ロイは夜空を眺め、しばらく黙り込む
自然とハーフブリードの面々もそれに釣られ、夜空を眺める

「きれいだねー」

「うんうん」

「そうだな・・・本当に綺麗だ・・・・この美しい世界を救えるのだな」

ロイが星を見たまま言い、それに皆が笑顔になる

「おっと、そうだった、シルト殿」

ロイが突然シルトに顔を向け、荷物袋を漁り始め
何かを取り出し、彼に差し出す

「これを受け取ってほしい・・・餞別ってやつだ」

シルトが革袋を受け取り、紐を解く
その中には金貨がたくさん入っていた

「おぉ、こんなに?ってこれ国からの報酬とは別のやつですか?」

「あぁ、今回の旅で余った金だ、内緒だぞ?」

口の前で人差し指を立て、ロイが悪戯っぽく笑う

「ありがたく頂戴しますね」

シルトは紐をキツく締め直し、それを自身の荷物へと入れる

「それと、これを頼む」

ロイが小さな手帳を渡してくる
それにはラーズの国旗が描かれていた

「これは?」

「ようは俺の身分証だ、これを軍本部へ頼む、それで伝わるはずだ」

「わかりました」

手帳を荷物へと入れ、忘れないよう心に刻む

「感謝する」

ロイはそう言い、頭を下げた
シルトは、いえいえと手を振り、薄ら笑いを浮かべている
そこへラピが歩いて来た

「シルさーん、私もうねるよー」

目をこすり、眠そうにしている

「ほいほい、風邪引かないようにね」

そう言い、毛布を1枚ラピへと渡す
おやすみーとラピはふらふらと歩いて行き、毛布に包まり寝息を立てる
そんな彼女を見て、ロイが呟く

「こう見るとただの少女だな・・・
 白銀と言われる由縁もこの目にしたが、本当に君等は不思議だな」

白銀とはラピの異名である
彼女の白い髪や、彼女が主に使う銀色の狼の聖獣エペタムから来ている
小さな少女から放たれる魔法陣の光と、彼女の髪が煌き
そこから現れる銀色の狼、それが彼女を"白銀のラピ"と言わしめた

「変わり者の集まりですからね」

「はっはっは、違いない」

ロイはラピを起こさないよう小さく笑う
再び満天の星を眺め、ロイはこの綺麗な世界を脳裏に刻んだ








一行の野営している場所から50メートルほど離れた場所に二人いる

長身の男は寝転がり、星空を眺めていた
その横には小さな少女が足を伸ばして座っている
男は星を見る趣味などはないが、今は見ていたい気分だった
少女は彼から離れたくなかった
沈黙が二人の間を支配している・・・かれこれ何時間になるだろうか
日が沈み、それからずっと黙っている
しかし、重たい空気は無く、何故かその沈黙が心地よく感じるほどだ
少女マルロは横にいるクガネを見つめていた
そして、この長い沈黙を破ったのはクガネだった

「マルロ、腹はすいてないか」

突然声をかけられ驚くが、マルロは自身のお腹に手を当て考える
どうやらお腹は空いているらしい

「少し・・・お腹がすきました」

「こんなもんしかないぞ」

彼は硬い干し肉を差し出す
それを受け取り、かぶりつく・・・が、全く噛み切れる気がしない
その様子を見ていたクガネが鼻で笑い、自分も干し肉を咥える
クガネが噛み切ろうとしていないのを見て、マルロも諦める事にした
二人で硬い干し肉を咥え、笑い合う

「マルロ」

「はい」

「俺はお前に会えて良かった」

「・・・・はい、私もです」

マルロの瞳に涙が溜まっていく

「初めてだ」

「何がですか?」

「人を信頼できたのはな」

「・・・ありがとうございます」

マルロがギュッとクガネの服の裾を掴む
いつもならやれやれと思うところだが、今日のクガネは違った
少女の好きにさせたまま、彼は続ける

「マルロ」

「はい」

「お前の名前を教えてくれ」

「マルロ・ノル・ドルラードです、覚えてなかったんですか?」

「すまん」

やけに素直なクガネにクスッとする
そこで、マルロは前から聞きたかった事を1つ聞いてみる事にする

「クガネさんは・・・なんてお名前なのですか?」

「俺か?俺はクガネ、それだけだ」

むすっとし、クガネを睨む

「冗談だ、冗談・・・・俺の名前は・・・・」

クガネは上半身を起こし、マルロの耳元に口を近づけ囁く
彼の顔が近くに来た事により、マルロの顔は真っ赤に染まり
鼓動がうるさく、聞かれてしまわないか心配になる

「ウテルケ・タラニス」

彼はそう言い、二ヤっとしてマルロの頭にぽんぽんと手を乗せる
クガネは再び寝転がり、星を見上げる
マルロも彼の横に寝転がり、星を見上げた

「本名を教えたのはいつ以来だろうな」

「ずっとクガネさんだったんですか?」

「仕事上、明かすわけにはいかなかったからな」

「クガネって名前は何か意味があるのですか?」

マルロの素朴な疑問にクスッとする
笑いながら彼は答えた

「なぁに、大した事じゃないんだがな
 幼い頃、黒鉄のように強くなりたかったんだ」

「くろがね・・・それでクガネですか」

「簡単だろ?」

「はいっ」

少女はふふふと笑う

「名前は秘密だからな、言うんじゃねぇぞ」

「わかってます」

マルロは二人だけの秘密に上機嫌になり
彼女はクガネの横顔を見て、もじもじとしている

「・・・ウテルケさん」

キャーと小さな黄色い悲鳴をあげ、顔を両手で隠す
これにはクガネも呆れてため息を洩らす

それからしばらく静寂が訪れる

どれだけの時間が経っただろうか、夜も深け、空気がひんやりとしている
二人から離れた場所にいる一行が寝静まった頃、クガネが口を開いた

「俺は・・・・お前が生きていればそれでいい」

眠気と戦っていたマルロの耳に彼の言葉が飛び込んでくる
一瞬で目が覚め、クガネへと顔を向ける
彼はそっぽを向き、荷物から毛布を2枚取り出し、1枚をマルロへと放る
もう1枚を自身にかけ、ふんっと鼻で笑った
マルロの瞳に大粒の涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうになる
投げられた毛布をギュッと力強く握り締め、必死に耐えるのだった

「もう寝ろ」

「・・・はい」

マルロは毛布をかぶり、肩を震わせた
時折すすり泣くような声が聞こえるが、クガネにはどうする事も出来なかった




そして夜は明け、朝が訪れる




酒を煽り熟睡した者、眠れず朝を迎えた者、各々が決意を胸に起き上がる
まだ日が登り始めたばかりで辺りは薄暗く
冷たい空気が張り詰め、空は淡い紫色をしている

「皆、答えは決まっただろうか」

ガゼムが一行の顔を一人一人見渡し、眉間のシワを深く刻む
彼は目を瞑り、ひと呼吸置いてから口を開く

「では、決を取る・・・・・・死の神復活に賛成の者は挙手を」

ゆっくりと、静かに全員が手を上げる
ガゼムは目を開き、それを確認する

「満場一致か、良いメンバーに恵まれたようだな」

もう下げてもらって構わない、とガゼムが促し
一行は生と死の神の聖域へと歩み出す
一歩一歩噛み締めるように、ゆっくりと向かった

神の祭壇へ足を踏み込んだ瞬間、先日と同じように神の圧倒的存在を感じる
一瞬怯みそうになるが、足を止める者はいなかった

一行が死の神の前、8メートルほどの場所に行き、3名が前へと出る
エイン、マルロ、イエルである
エインは水と風の宝玉を、マルロは地の宝玉を、イエルは火の宝玉をその手に持つ
巨大化したそれは恐ろしいほどの力の波動を感じさせ
触れている手が痛いような癒されるような不思議な感覚が襲う

エインは死の神の下に横たわる、昨日と全く変わらないリリムを見つめる
そして、彼等は4つの宝玉を死の神の前へと掲げた

《・・・・良いのだな・・・・》

「はい、私達の総意です」

マルロが地の宝玉を掲げながら力強く言う
彼女の目は潤んでいるが、それがこぼれ落ちないようギュッと我慢している

《・・・その覚悟・・・・しかと受け取った・・・・》

3人の手から神の宝玉が浮き上がる
マルロは手から離れて行く宝玉を見つめながら下がって行く
すぐ後ろにいたクガネの横へと行き、彼の手を・・・指先を握る
彼はそんな少女を一瞥し、再び神の宝玉へと目を向けた

宝玉は輝き、直視できないほどの光を放っている
その光は湾曲し、全て死の神へと吸い込まれていく
光が曲がるなど見た事のなかった彼等は息を飲んで見守った
全てを飲み込みそうな闇の中へと4つの光が入っていき
宝玉は徐々に形が崩れ、消えてゆく

全ての光が死の神へと注ぎ込まれた瞬間、闇がドクンッと鼓動のように膨れ上がる
2メートルほどだった死の神は10メートル近くまで広がった
そして神から発せられる存在感はこれまでの比ではない
それは完全なる恐怖、絶対なる死、虚無、そういった感覚だ

クガネは自身の指先を握る少女の手を強く握り返す
マルロは彼の行動に驚き、その顔を見上げると
刹那、彼がゆらっと崩れ落ちる・・・・その手を握ったまま・・・・

クガネが崩れ落ちると同時に他の13名もドサッと一斉に崩れ落ちた
ジーンがロイへと駆け寄り、彼の開かれた目を指で閉じ
手を組ませ、綺麗に寝かせてやる

「ぐっ!」

エインから苦痛の声が洩れ、彼の右腕はボロボロと崩れ落ち、消えてゆく
片膝をつき、その痛みに必死に耐えるが
苦痛に顔が歪み、額からは冷や汗が流れる
しばらくして痛みは消え、肩で息をし、自身の右肩を触ると
そこには、二の腕から先の右腕は無かった

マルロは握られたままの手を見る、クガネが初めて手を握ってくれたのだ
それは今も感じられる、強く強く握ってくれている
その場で両膝をつき、握られた手をもう1つの手で包む
彼女の小さな手ではクガネの大きな手を包み込む事は出来なかったが
両手で彼の手を感じ取る

「クガネさん・・・」

少女の目に大粒の涙が溜まり、すぐにポロポロと落ちる
それはとめどなく溢れ、少女の法衣を、彼の手を濡らしていく
いまだ強く握り合う手は涙に濡れ、朝日を反射していた

「クガネさん・・・・グガネざん・・・グ・・・う・・・・ぅあああああんっ!」

少女の悲しい泣き声が響き渡る
それを見ていたサラ、ラピ、ミラ、イエルが涙している
エインは右肩を押さえながら倒れた仲間を見て、歯がギリッと音を立てる
シルトは近場の人から一人一人の目を閉じさせ、綺麗に寝かしていた
彼の行動を見たエインもそれに習い、近場の者から始める
シャルルはジーンの元へと行き、ただ黙って彼女の後ろにいる
ジーンはロイを綺麗に寝かせ、その満足そうな顔を見つめて微笑む
彼女の瞳にも光る物があった


全員の目を閉じさせ、綺麗に寝かし、一列に並べる
いまだクガネの手を握り泣き続けているマルロ以外、皆が死の神の前へと行く

「神よ、願いがあります」

エインは死の神へと嘆願する

《・・・述べてみよ・・・》

「彼等の遺体を・・・・弔ってはくれないでしょうか
 自分達では下へ運ぶ事も叶いません・・・・お願い致します」

《・・・よかろう・・・・丁重に扱おう・・・・》

「ありがとうございます」

エインは深く頭を下げる、それに続き一同も頭を下げる
エインは頭を上げ、先程までよりも鋭い視線を神へと向ける

「神よ、もう1つ願いがあります」

《・・・述べてみよ・・・》

死の神の足元に横たわるリリムを一瞥し、エインは力強く言う

「リリムを、死の巫女を、返していただきたい」

《・・・・・・・・・・・・・・・》

沈黙だった、それはとても長かった
その沈黙が神の存在感を強調させる
復活した死の神の波動は絶対的死の恐怖、油断すれば膝が笑ってしまいそうだ
エインの額から汗が流れ顎まで行き、ポタリと落ちた時、神の言葉が響く

《・・・・よかろう・・・・》

エインの顔がパッと明るくなる
その瞬間、死の神は下がり、リリムの身体をその闇で包み込む
数秒して神が離れ、リリムの身体が再び見えた時
彼女の肉体には血の気が通い、生気が感じられた

『リリムッ!』

エインが駆け寄る、死の神の闇が頭すれすれの所で身体をすべり込ませ
そして彼女の身体を左手で抱き寄せ、その体温を、鼓動を感じる

「生きてるっ!」

ミラはエインの心底嬉しそうな顔を見て微笑んだ
死の神は上昇し、彼等が離れやすいようにしてくれる
エインはリリムの身体を強く強く抱き締めた
その時、リリムの目がピクリと動く

「リリムッ!」

エインは彼女を抱いたまま顔を寄せ、声をかける
その声に反応するように、リリムの瞳がゆっくりと開かれていく
ぱちぱちと瞼を何度も開き直し、目の前にあるエインの顔を見る
その距離、僅か10センチほどだ

「・・・・・へ?」

見る見るうちにリリムの顔は真っ赤に染まる

「リリムッ!良かった・・・良かったっ!」

エインの目に涙が溢れてくる、そして彼女を強く強く抱き締める

「え?えええええええ??!」

リリムの素っ頓狂な声が響く
手足をばたばたとさせ、リリムは頭から湯気が上がりそうなほど上気する

「あぁ!すみません」

何かを勘違いしたエインはリリムをそっと放す
彼の触れていた感触が無くなり、少し寂しい気持ちになるが
辺りをキョロキョロと見渡し、何が起こっているのか把握する
そして背後にいる力を取り戻した死の神を見て、彼女は涙を流した
両膝をつき、良かった、良かった、と呟いている
エインはそんな彼女に寄り添い、肩に手を置く
彼の顔を見上げ、リリムは満面の笑みを向ける
その彼女の美しさに、エインの胸はドクンッと1度大きく脈打つのだった






一同は神に倒れた仲間を預け、生と死の聖域を後にする
エイン、ミラ、マルロ、イエル、ハーフブリード、そしてリリム
10名はゆっくりと階段を下りて行った

マルロをクガネから引き離すのは大変だった
彼女は手を離そうとせず、泣き喚いた
クガネさんクガネさんと何度も叫び、手を伸ばし、必死にすがりつこうとした
シルトはマルロを抱え、それを無理矢理引き剥がしたのだ
そのまま聖域を出た頃、マルロは大人しくなり
降ろしてください、と感情の無い声で言い、階段へと一人で歩き始めた
それに続き、皆も階段へと向かったのだった

あれからマルロは一言も喋らない、無表情のまま階段を下りている
重たい空気が一同に流れていた
無言のまま階段を下り、死の谷へと入る

「リリム、身体は大丈夫だろうか」

エインがリリムの横を歩き、聞いてくる

「はい、どこも問題なさそうです」

自身の身体をペタペタと触りながら彼女は言う

「そうか・・・本当に良かった」

エインはあの時の笑顔を彼女へと向ける
その笑顔を見て、リリムも自然と頬が緩む

「エインこそ・・・・腕は大丈夫なのですか?」

彼は右肩に触れながら微笑む

「痛みはもうありません、大丈夫ですよ」

良かった、とリリムも微笑み、二人は見つめ合っている
ミラはその光景を後ろから微笑ましく見ていた

死の谷を抜け、生命の泉へと辿り着く
その先にある崖に張られているワイヤーを見つけ、一同はそこへと向かう
またこれを渡るのか、シルトは気が重かった
シルトの上にラピとマルロが乗り、渡って行く
渡りきったシルトは、こんなとこ二度と来るか!と愚痴を吐いていた
それから一人ずつ渡って行き、最後にエインとリリムが残る

「えー・・・これ渡るんですか?!」

「リリム」

エインが手を差し伸べる
その手を取り、どうするのかとエインの顔を見ていると
彼女の腕を自身の首へと回す
ぴったりと密着するようになり、リリムはわたわたとし始める

「離れないで、しっかり掴まっていてください」

エインは左手に硬いレザーメイルの残骸を握り
それをワイヤーに巻くように握る
そして一気に足を振り上げ、ワイヤーへと絡ませ、リリムと共にぶら下がる
高いところが苦手なリリムは必死にしがみついた
エインは手を滑らせるようにゆっくりと進んで行く
時間を掛け、何とか渡りきった二人は大きなため息をつく

「ありがとう、エイン」

それに微笑み応える
そして一同は先へと進む






マルロの状態が心配なのもあり、一同はカナランへと向かう事にした
荒地が続き、進むのが困難だった
何日も掛け、一同はカラナンまで後1日程度の場所まで来ている
見渡しの良い丘の上、今日はここで野営となった

「マルロちゃん喋らないね」

シャルルが心配そうにマルロを見ている

「仕方ないよ」

ジーンもマルロを見ていた

「私達に何かできないかな?」

サラがハーフブリードの皆に聞く
それにシルトが答えた

「大切な人を亡くした痛みは僕らじゃ無理だと思うよ」

彼の冷たい言葉には何か重みがあった

「そっか・・・」

サラが俯き、ラピは彼女の背中を撫でる
一同が重い空気に支配されている時、見張りのエインから声が届く

『魔物だ!』

その声で一同は武器を手に取る
エインは左手にロイから貰い受けたスチールロングソードを握った

現れた魔物は人を襲う獣型
四足歩行で、全長は2メートル半はある
鋭い牙には毒があり、獲物に毒を流し込み、動けなくなったところを喰らう
スナッチャーと呼ばれる魔物だ
強さ的には大した事はないが群れる習性があり、毒も相まって厄介な的だ

「5・・・7体か、多いな」

エインは自身の右肩を見て心の中で舌打ちをする
今の自分で皆を守れるだろうか、そんな不安がよぎったのだ
そんな彼の横へ、一人の女性が来る・・・リリムだ

「私に任せてください」

そう言い、彼女はネネモリの御神木から作り出された杖を前へと構える

「滅びの理りよ」

彼女の前に黒いような深い緑のような玉が出現する
それは直径20センチほどで、ゆらゆらと色を変えている
リリムは右手の拳の人差し指と中指だけを立て、その手を振るう
それに合わせ玉が高速で動き出す
彼女が指をクンッと曲げればそちらへと玉が飛んで行く
その早さは、人が全力でボールを投げた時よりも早いくらいだろうか

不思議な玉の出現に、魔物の動きは止まった
警戒しているのだろう
魔物の前に飛んできた玉は中空で停止している
そこでリリムは右手に強く握り拳を作る、そしてパッと手を開いた
その瞬間、玉は拡散し、5方向へと鋭い針のようになって伸びてゆく
破壊の針は一瞬で魔物を貫き、同時に5体を仕留める
刺さった箇所からボロボロと崩れ去り、魔物に穴があき
魔物が倒れると同時にその身体を切断していく
その間、針は不動のままだった

リリムは再び拳を作り、針は集まり玉へと戻る
指を二本立て、再び動かし始めると
5体の魔物が一瞬で滅んだ事に恐れ、残りの2体は逃げ始める
それを見たリリムは玉を止め、自身の元へと戻した
彼女の元へと来た玉は、目の前でフッと消え、最初から無かったようになる
これが死の魔法使いの極一部しか使えない上位魔法と言われる破壊魔法だ
リリムのそれは一般的な破壊魔法の比ではない威力と速度と射程だが

彼女が詠唱してからここまで、僅か17秒である

「ふ~、久々で緊張したぁ~」

汗などかいていないのに額を拭う彼女をエインは口を開けたまま見ていた
彼の視線が気になり、リリムは髪をいじる

「あの・・・そんな見られると恥ずかしいのですけど」

「あぁ、すまない・・・リリムは途方もなく強いのだな」

エインが彼女を見て、心底感心している

「そんな事ないですよ、私なんてそんな・・・」

エインに怖がられてしまったかな、とリリムは心配だった
彼は彼女へと近づき、片膝をつく

「死の巫女リリム、俺は貴女を侮っていた・・・申し訳ない」

「へ?」

リリムが驚き、声が裏返る

「片腕になり、力不足かもしれないが、今後も君を守らせてくれ」

エインは頭を下げたまま彼女へ嘆願する
その真剣な声に、リリムは複雑な表情になる

「私は・・・いえ、私も貴方を守らせてください、それなら構いません」

そう言い、彼女は笑顔を向ける
顔を上げたエインはその笑顔を目にして決意する
もう二度とこの笑顔を失わないよう誓うのだった






翌日、一同はカナランへと辿り着く





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