2015_12
19
(Sat)21:50

1章 第18話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第18話 【霊薬】

久々の戦闘です!いやぁ書きやすかった書きやすかった。
やっとここまで来ましたねぇ・・・。
次回で1章は最終回の予定です!(延びなければ)

では、続きを読むからどうぞー。









【霊薬】








死の谷を抜けた先で、生命の泉が見え始める
泉の周りには春の花、夏の果実、秋の紅葉、冬の枯れ木が並んでいる
1年という流れがここだけに集約したような、そんな不思議な光景だった
一行は枯れ木の間を抜け、泉の辺に辿り着く

「どこにあんだ?霊薬ってのは」

ザンギが辺りをキョロキョロと見渡しながらエインに聞く

「こちらです」

エインは先頭を歩き、春の花が咲く方へと向かって行く
泉をぐるっと回り込むように移動し、春の花々を背にして立つ
エインが泉の底を見て、目当てのものを見つけた

「あれです」

彼は左手で指差す、その先を一行が目で追う
この泉の水はとても綺麗で、透明度が高い
日の高いうちは泉の底まで見えるほどで、水深はおおよそ20メートルといったところだ
そこに光を反射し、キラキラと光るものが見える、おそらく霊薬だろう

「あれか・・・誰が行く」

オルトが皆を見ながら聞いてくる

「自分が・・」

そう言い、エインがライトアーマーを脱ごうとした時
ザンギが待て待てと彼を止める

「あんちゃん片腕じゃねぇか、俺が行く」

エインは自身の右腕を触る、二の腕から先がない丸みを帯びた腕を
自分の不甲斐なさに下唇を噛み締めた
そこへ、彼の右肩にそっと手を置く人がいた、リリムだ
彼女は微笑み、首を横に振る
彼女の手に自身の左手を重ね、エインは彼女を見つめる
手が触れ、リリムの顔が赤く染まっていく
赤くなる彼女の変化に気づき、エインも頬を染め、手を離し、横を向くのだった
そんなやり取りが行われてる横で、ザンギは革の鎧を脱ぎ
上半身は裸になり、靴も脱ぎ捨てる
背負っていた長い刀はモンジに預け、手足をぶらぶらと振り、首を回す

「おし、行くか・・・・・っと、その前に」

彼は小走りで泉の淵へ行き、水を胸と顔にパシャパシャとかけ始める

「おおぉ、冷てぇ」

オルトが彼に近寄り、何をしていると声をかけると

「準備は大事だぞ!」

彼は胸を張って言うのだった
それにはオルトも、そうか、とだけしか答えられず、彼の行動を見守る

「おっし、今度こそ行くぞ!」

髪をかき上げ、オールバックにした彼は勢いよく泉へと飛び込む
ドボーンという大きな音がし、水が飛び散る
見る見るうちに彼は深く潜って行き、あっという間に光る物を手にした
それからすーっと上がって行き、水面に顔を出す

「ぷはっ!・・・あったぞー!」

彼が右手を掲げ、その手には小さな瓶があった
大きさは5センチほどで、香水の瓶にも見える形をしていた
クリスタルで出来た小さな瓶は透明で、中には赤い液体が入っている
彼はすいすいと泳いで陸へと上がり
彼の元にモンジが駆けつけ、タオルを渡している
その横で、エインは抜刀して辺りを警戒していた
その後ろにリリムとイエルが立ち
少し離れた位置にオルトが巨大なハンマーを手に立っている

「ザンギさん、急いで装備を」

エインが彼を見ずに言い、ザンギは慌てて身体を拭き、服を着る・・・
が、彼は突然ゲホゲホとむせ始める
モンジが彼の背中をさすり、心配そうにしていた

「ザンギさん!?」

彼の様子に驚いたリリムが駆け寄ると、彼はゲホッ!と大きくむせる
そして彼の手前の地面に赤い液体が飛び散る
そう、彼は吐血したのだ

「なんだってんだ・・・こりゃぁ」

血を吐き出した事により、呼吸が整い、彼は恐れながら言葉を洩らす
その瞬間、彼の身体が僅かに膨らむ

「なっ?!」

彼の変化にモンジが驚き、一歩離れると
ザンギの目や耳や鼻など、穴という穴から血が流れ始める

「ザンギ・・・・」

モンジが手を伸ばそうとした時、彼は口から大量の血を吐き出し
ばたりと倒れ、ピクピクと痙攣する

「ザンギ・・・おら、だまされねぇど
 また、うそなんだべ・・・・ザンギ・・・うそなんだべ」

モンジの大きな手が彼の身体をゆすり、ゆさゆさと揺れる
しかし彼は動く気配はない、痙攣以外では

「ザンギ?」

モンジは過去にザンギにからかわれた事があった
それはよくあった事だ、その1つに彼の死んだふりがあったのだ
その時のモンジは騙され、本気で涙した
大男の涙にザンギは、安心しろ嘘だ嘘、と笑っていた
何でも信じてしまうモンジをからかうのが好きだったのだ

「・・・ザンギ・・・うそじゃ・・・ねぇだな」

モンジは理解した、彼が死んだという事実を
そして彼の目からは小川が流れるように涙が流れる
彼の遺体を抱き締め、モンジはすすり泣いていた

その時、泉から小さな影が7つ飛び出してくる
水面から3メートルほど跳躍し、地面へと降り立つ
それは魚のような生物だった
水かきのある手足が生え、背筋は真っ直ぐ伸びている
しかし、身体中に鱗があり、顔は魚のそれだった
首と思われる場所にはエラがあり、そこがパクパクと開いたりしている
目はギョロリとしており、大きく、丸い
全身が灰色のようなその魚は、尾ビレは二つに分かれていた
口は半開きになっており、そこに見える鋭い歯が顔を覗かせている

「アプカルル・・・だと!」

オルトが声を上げる
イエルが彼に、そりゃ何だね、と聞くと彼は続けた

「伝説上の生き物です・・・
 神の守護精霊とも言われています
 賢人とも言われる存在で、人々に知恵を授けるとも・・・」

「賢人ねぇ・・・そうは見えないけどね」

イエルが目の前の半魚人を見て引きつった顔で言う

「人、返セ、霊薬、返セ」

アプカルルの1体が口を開く
人の言葉ではあるが、音が曇っており少し聞き取りにくい

「それはできない」

エインは左手で剣を構える
まだ左手では剣の扱いに慣れていないがそんな事は言っていられない
その時、モンジの雄叫びが木霊する

ウオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!

彼は両手にメイスを握り、振るった
巨体からは想像もできないほど素早く、彼がメイスを振る度に風が起こるほどだ
しかし、怒りに任せて振るっているメイスは簡単に避けられてしまう
アプカルルは陸上でも案外素早いのだ

「コロスコロスコロスコロスコロス」

モンジは何度も同じ言葉を繰り返す
その顔は涙や鼻水が流れ、眉間にシワが寄り、眉と口角は下がっている
まるで泣いているような顔のまま、彼は怒り狂っていた
竜巻のように暴れ狂う彼のメイスが1体のアプカルルを捉える
魚の頭が吹き飛び、肉片が飛び散る
頭部を無くした胴体はその場に崩れ落ちた
その身体を他のアプカルルが掴み、泉へと放る

「私が行きます」

リリムが詠唱を始める

「滅びの理りよ」

彼女の前に黒いような緑のような玉が出現する
20センチほどの玉は分裂していき、3つになる
6センチほどの玉が3つ彼女の前に浮き、ゆらゆらと色を変えていた
リリムは両手の人差し指と中指を立て、手をクイッと振るう
それに合わせ2つの玉が動き出す
その玉はアプカルルの2体を捉え、胸部と頭部に6センチの穴を開ける
2体は倒れ、動かなくなった
動かなくなった仲間を別の2体が泉へと放り込む
水柱を上げ、アプカルルが泉に落ちると同時に
泉から1体のアプカルルが飛び出して来る

「チッ!増援か!」

オルトが舌打ちをして、ハンマーを振るう
それはアプカルルの胴体を捉え、腕を折り、吹き飛ばし、泉に落ちる

「溶焔の宝玉よ」

イエルの溶岩魔法が発動し、アプカルルの足元から溶岩が溢れ出る
1体の半魚人の身体が溶け、溶岩へと沈んでいく・・・
そこへ1体のアプカルルが駆け、溶けていく仲間の腕を取り、泉へと放り投げる
下半身が溶けてなくなった半魚人は中空で回転しながら泉へと落ちる
その時、泉から2体のアプカルルが姿を現す

「くっ!キリがないぞ!」

エインが半魚人の鋭い歯を剣で防ぎながら愚痴をこぼす

一番遠くから見ていたリリムはある事に気がついた
半魚人達は無理をしてでも仲間の死体を泉へと投げ入れている
そして時間を置いて放り込んだ数の増援が来る

「わかった!!」

リリムの大声が響き、一瞬だが皆が彼女を見る

「魚人を泉に入れさせないでください!どんな傷でも瞬時に治ってるんです!」

彼女がアプカルルの真実を見抜く
そういう事か、とエインとオルトはニヤけるのだった
そこでイエルが宝玉を掲げる

「溶焔の宝玉よ!!」

彼女の掛け声で泉の淵に溶岩の壁が形成されていく
それは高さが4メートル近くまでなり、横幅は20メートルにもなる

「私は動けないよ!守ってくんな!!」

イエルが叫び、オルトが彼女を守るように前へと立つ

「私もこの術の間は動けません、お願いします!」

リリムが玉を操りながらエインに言う
それにエインは頷き、剣を横へ構え、盾の代わりとする

6体のアプカルルは自分達の回復方法を悟られ、同時に攻めてくる
2体をエインが受け、2体をオルトが受け、1体はモンジが捕まえる
残る1体がリリムへと迫った時、エインが受けている2体を吹き飛ばし
彼女へと身体を向けるが、どう見ても間に合わない
彼女の操る玉は今は遠くにあり、戻すにも時間が足りない
リリムは焦り、後ろへと飛び退く
その瞬間、彼女の操っていた玉は消滅した

アプカルルが彼女へと迫り、リリムはそれを手に持つ杖で受ける
が、力の差があり、彼女は後ろへと吹き飛ばされてゆく
3回転ほどして何とか止まり、土で汚れた顔を拭う
彼女を追うようにアプカルルが走り出した時
そこへエインの疾雷の突きが放たれる

左手で放たれた突きはいつもの速さと威力はなく
魚人の硬い鱗に阻まれ、肩口に4センチほどしか刺さらない
刺さった剣を持たれ、投げ捨てられる
想像以上の力に、エインは剣を離してしまった
武器の無くなったエインは完全に無力だった
アプカルルがエインへと向きを変える、そしてその口を大きく開いた
鋭い歯が何本も並び、光を反射してギラリと光った
その刹那、エインの無くなったはずの右腕が黒い光に包まれる

「滅びの理りよ、その力を留め、形を成せ!」

彼の二の腕から先には黒いような深い緑のような色の腕が形成されてゆく
それは一瞬たりとも同じ色を維持せず、ゆらゆらと揺らめく

「死の祝福を!!」

リリムが倒れたまま詠唱していた
彼女の魔法によりエインの右腕は破壊魔法となる
そして、その腕には今となっては懐かしい感覚が戻ってくる
これは破壊魔法と死の祝福という魔法の合わせ技だ
死の祝福とは死の巫女にしか使えない魔法で
わずかの間だが対象者が死の魔法を操れるようになる魔法だ

目の前で起こっている現象にアプカルルは戸惑っていた

エインは右腕を動かし、握り締める
動く!心の中で叫び、目の前にいる魚人へと力強い眼を向ける
そして、放たれる、手刀による突きが

それはまさに疾雷の突きだった

魚人の胸を貫き、背中まで通り抜ける
当たった箇所はボロボロと崩れていき、魚人が事切れ倒れ込む
腕に触れている部分は崩壊していき、魚人が腕の太さで両断されていく
エインはリリムを見て微笑むが、リリムの顔はそれどころではなさそうだった

「後ろ!」

彼女が叫び、エインはハッと後ろへと振り向く
そこへ振り下ろされた魚人の腕が見える
咄嗟に右腕で防ぐような形になってしまう
だが、それは正解だった
魚人の振るわれた腕はエインの右腕に当たり、ボロボロと崩れ去る
自身の腕が崩れた事に驚いていると、そこへ胸へと手刀が突き刺さる
腕を抜いた瞬間、エインの右腕は消えてゆく

「ごめんなさい、10秒くらいしか維持できない」

リリムが肩で息をしながら彼に謝る
腕を形成する集中力と、死の祝福により削られる精神力はかなり大きい
巫女であるリリムですらこの10秒で疲労するのだ
彼はそんな彼女に首を横に振った

「助かった、やっぱり君は凄いな」

彼は笑顔を向けていた、その顔にリリムの表情も緩む
その頃、モンジが1体の頭を潰し
オルトは2体を叩き潰していた・・・・残るは1体
モンジが残る1体へとメイスを振るう、それは両方から叩き潰すようにだった
メイスとメイスに挟まれた魚人は潰れ、その内蔵や目玉が飛び出す
ドシャっと水音を含んで倒れた死体をモンジは追撃する
何度も何度もメイスで叩く、死体は地面にめり込み、ミンチになっていく
その時、彼のうなじにズキリと激しい痛みが走った

誰も気づいていなかった、いや、忘れていたのだろう
イエルが壁を作る前に、オルトのハンマーにより泉に1体落ちていた事を
そして、アプカルルは再生し、壁を迂回してそっと忍び寄ったのだ

鋭い歯が何本もうなじに刺さり、食い込んでいく
モンジはメイスを離し、かぶりつく魚人を両手で掴み
力任せに引き剥がし、全体重を乗せて頭から地面へと叩きつける
グチャ!という音が響き、魚人の上半身はミンチとなった

オルトが彼に駆け寄り、大丈夫か、と心配する
モンジはニタニタと笑いながら、ふらっと横へ倒れた
ドサッと音を立て、彼は笑顔のまま横たわる
彼の頭の周りには赤い水溜りが出来ていく・・・

「くそっ!」

オルトが膝をつき、大地を殴る
モンジのうなじは肉がえぐれ、血が吹き出していた
彼は笑顔のまま絶命し、その彼の視線の先にはザンギが横たわっていた


こうして神の試練は終わりを迎えたかに見えた・・・


突如、泉でドゴォン!!という爆音と共に巨大な水柱が上がる
そしてイエルの作っていた壁が壊され"それ"が姿を現した
"それ"は巨大な美しい女性だった
4メートルもあろう女性は、透けるほど薄い羽衣のみを身に纏い
美しい顔の上、頭には冠をつけていた
冠は四季折々の草花からなり、彼女の美しさを増している
そこから伸びる綺麗な長い金髪は、水に濡れてキラキラと輝いている
彼女はニンフと言われる神の使い、泉の精と言われる存在だ

「っ!!」

エインは巨大な女性を見上げ、声にならない声を洩らす
ニンフはエイン達を見下ろし、僅かにだが微笑んだ

「お前達、霊薬を持っていきたいの?」

彼女の綺麗な声が響く
それはまるでオペラのような、どこまでも通るような綺麗な声だった

「生の神より持ってくるよう頼まれました」

エインは先ほど手離してしまった剣を掴みながら答える
その答えに満足したのか、ニンフはフフフと可憐に笑う

「そう、なら私を倒さないといけませんね」

空気が変わる、重く伸し掛るような空気に
それと同時にリリムの詠唱が始まるが、ニンフがこれまでの優しい笑顔ではなく
とても冷たい、泉の底のように冷え切った目線を向け、彼女を止める

「死の巫女、慌てなくてもいいのよ」

ニンフはフフフと可憐に笑った
そして、エインに目を向け、再び口を開く

「アナタ、可愛いわね」

彼女はしゃがみ、その巨大な手をエインの顔へと近づける
エインは左手の剣を構え、剣でその動きを制す

「あら、嫌われちゃった」

ニンフは立ち上がり、フフフと笑う
そして、彼女の顔は一気に様子が変わる
鬼の形相というのがぴったりだろう、美しさの欠片もなくなった彼女は
般若のような顔でリリムを睨みつける

「お前が居なければ、この子は私のものになるのかな」

声も変わっていた、低く響くような声に
辺りの空気が一気に重くなる
ニンフはビリビリと肌で感じるほどの殺気を放っていた
その迫力はこれまでの魔獣の比ではない
それはまるで神にも近い力の波動、それを真っ直ぐ向けられたリリムは腰が抜ける
ぺたんと座り込み、ガタガタと震えていた
すぐにエインはニンフとリリムの間に立ち、切っ先を向ける
彼に気づいたニンフの表情は元の優しく美しい顔に戻り
先ほどまであった殺気は欠片もなくなる

「そんなにその子がいいの?」

それにはエインが即答する

「彼女は俺が守ります」

「そう・・・・」

ニンフは残念そうに後ろを向き、拗ねたような仕草を取る
そして、先ほどの殺気が溢れ出す
振り向いた彼女は般若のようで、エインはビリビリとその力を感じていた

「じゃあもういらない」

そう言ったニンフは拳を握り、エイン目掛けて振り下ろす
恐ろしい速度の拳を紙一重でかわし
拳は大地に当たり、土砂を巻き上げる
ニンフがゆらりと立ち上がる、彼女の殴った大地は陥没していた
あれをまともに食らったらひとたまりもない
一行は気を引き締める
しかし、リリムは腰が抜けてしまい、立つことすら出来なかった

オルトが巨大なハンマーを大きく振りかぶり、全力でニンフの右足へと振り下ろす
それは簡単に避けられ、大地へとドゴンッ!と突き刺さる
ニンフは右足を上げ、上から踏みつけるような体勢になった
その時、イエルの溶岩魔法が発動する

「溶焔の宝玉よ!」

彼女の呼び声で溶岩が大地より姿を現す
それはニンフの左足の一部を飲み込んだ
その熱にニンフの表情が更に醜く変わっていく

『ぐぎゃあああああ!』

後ろへと倒れ込み、左足を押さえ暴れまわる
あまりにも暴れるので攻めあぐねていると、ニンフは立ち上がり
顔を真っ赤にしてイエルを睨みつける
その迫力は先ほどリリムに向けたもの以上だった
流石のイエルでもそれには臆し、2・3歩後ずさり、尻餅をつく
彼女も腰が抜けてしまったようだ

「お前等は許さない」

ニンフは両手を前へと突き出す
突き出された両手の先に巨大な多重魔法陣が出現する
直径6メートル近いそれはイエルとへと向けられる

「この規模・・究極魔法クラスか!」

ハンマーを投げ捨てオルトは走る、イエルの元へと
切っ先を向けエインは走る、ニンフの元へと
オルトがイエルの法衣を掴み、投げ飛ばす
エインの左手の剣がニンフの溶岩によりただれた足先を突き刺す
すると、痛みによりニンフの狙いが僅かにだがズレる
そして、魔法は発動した

それは水の魔法だった

両手から音速で発射される水、その太さは直径50センチにもなる
下から上へとなぎ払うように発動した水の魔法はオルトを捉え
彼の右半身を消し飛ばす
痛みも衝撃もなく、突如右半身が吹き飛び、彼は戦慄する
一直線にえぐられた大地は深さ数メートルは消し飛んでおり
その威力が途方もない事が容易に分かる
倒れたオルトは血を吐き出し、身体からは血が吹き出す
だが、彼はまだ生きていた
あまりの激痛に、脳が痛みを感じないよう分泌物を出し
彼は痛みすらなく、ただ、動けず生きていた
しかし、出血が激しすぎる、次第に寒気が襲い、意識は薄れていった

ニンフは左足を刺しているエインを足を振る事で吹き飛ばす
エインはズザザーっと滑りながら止まり、再び切っ先を向ける

『リリム!!』

エインの叫び声が響き
先ほどの水の魔法を魂が抜けたように見ていたリリムが我に返る

『さっきのを頼む!』

それだけ言い、彼はニンフへと突っ込んだ
リリムは座ったまま慌てて詠唱を始める

「滅びの理りよ!その力を留め、形を成せ!」

エインの右腕に黒い光が集まってゆき、それが腕の形へとなっていく
しかしまだ動かす事はできない

「死の祝福よ!!」

リリムは膨大な魔力を彼の腕に注ぎ込む
彼の腕は黒や深い緑に輝き、触れる空気すらも滅んでいく
エインは指が動くのを確認し、左腕の剣で突きを放つ
それをかわすように左足をどかしたニンフだったが
その突きはエインのフェイントだった

彼はニンフの右足の膝裏を斬りつける
突然の痛みにニンフの膝が崩れ落ちる、そしてエインはそれを待っていた
直ぐ様、正面に回り込み、右腕の手刀を放つがそれは避けられる
ニンフは剣など気にしておらず、右腕だけを注意していたのだ
しかし、エインは左手の剣を突き出し、ニンフの胸へと突き立てた
その1撃は7センチ程度しか刺さらず、致命傷には程遠い
彼は必死に押し込むが、左腕では力が乗らない

そこにイエルの溶岩の拘束魔法が発動する
溶岩はニンフの両脚を包み込み、肉の焼けるような臭いが辺りに広がる
ニンフは痛みに叫び、手で必死に剥がそうとする
胸を刺すエインなど気にも止めず

エインはこれしかないと思った
右腕ではニンフの心臓には届かない、届くのは左手の剣だけだ
しかし、左腕では押し込む事はできない・・・なら!

「うおおおおおおおおおぉ!!」

彼は右腕を剣の柄頭へと押し当てる
右腕が触れた事により柄頭は崩れさり、握り部分へと進む
それでも彼は押し込む

『いっけええええええええええぇっ!!』

徐々に握りを破壊し、左手に迫る
それでも彼は押し込んで行く
左手の小指が崩れさる、激痛が走り、顔が歪むがそれでも彼は止めない
薬指が崩れ去り、中指も崩れ去った時、ニンフがまずいと気づく
しかし、それは遅かった、彼の突きの速度を舐めていたのだ
エインは左人差し指も犠牲にし、剣の鍔まで右腕は到達する
そして、右腕を伸ばしきり、彼の剣はニンフの胸を貫いた

血を吐き出し、ニンフが前に倒れ込む
それを何とか避け、エインは両膝をつき、左手の痛みに苦しむ
幸いな事に破壊魔法で滅ぼされた部分から出血は無かった
しかし、左手の親指を残し、手の大半が崩れ去った
呻き声をあげる彼に、リリムが這うように近づいた時


彼女は絶望を知る・・・・ニンフが立ち上がったのだ


自身の胸に深く刺さった剣をつまみ、抜き捨てる
そして、ニンフは優しく美しい顔に戻り

「よくやりました、人の勇者よ」

エイン達に対して微笑む
ニンフは手を振るう事で泉の水を操り、それが彼女の身体の周りを駆け巡る
一瞬で傷が治っていく・・・そう、ニンフは元々手を抜いていたのだ
傷一つない綺麗な身体に戻ったニンフは、再び彼等に微笑む

「霊薬を持っていきなさい」

苦痛で顔が歪むエインはニンフを見て言う

「っ・・・・いいのですか」

「はい、アナタ達は力を示しました、それは単純な力ではありません
 仲間を助ける力を示しました、それも自身の手を命を犠牲にしてまで」

彼女はエインの前に跪き、優しい笑顔を向ける
そして彼女はその手をエインへと伸ばし、その左手を指先でトンと小突く
不思議な事に一瞬で痛みは消え、傷口も綺麗に塞がっていた

「ありがとうございます」

エインは頭を下げ、微笑む

「やっぱりアナタ、可愛いわね」

そこで這うようにエインに向かうリリムを見てニンフは鼻で笑う

「あんなのがいいのね、私の方が可愛いと思うんだけど」

ニンフの視線の先にいるリリムを見て
必死に這う彼女に笑みがこぼれる



こうして神の試練は終わりを迎えた



3人の遺体を綺麗に並べ、ニンフにこの地に埋めてもいいかと尋ねると
それはできないと断られ、彼等は死の谷の入口で横に並べられる
運ぶのはニンフが手伝ってくれて、彼女は丁重に扱ってくれていた
その後、ニンフと別れ、一行は死の谷を進む
リリムの手には霊薬がしっかりと握られていた

今日は戦いの疲れもあり、そこで野営となる
イエルとリリムでテントを設営し、火を起こす
エインは自身の手の平の半分以上と親指以外の指がなくなった左手を見つめている
これでは剣は握れないな・・・彼はそう考えていた
悲しそうな寂しそうな顔で手を見つめる彼に寄り添うようにリリムはいた
自分にはどうすることもできない無力さを噛み締めながら・・・

そして夜は深けていった

翌朝、彼等は生と死の聖域へと足を進めるのだった





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