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(Wed)17:51

1章 第2話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第2話 【死戦】其のニ

ついに戦闘です!戦闘は書くの楽しいですね。
この物語は途中から始まってるので少々戸惑うかもしれませんが、
あまり深く考えず続きを読んでみてくださいませ。
後々説明が入ったりしますので!

では続きを読むからどうぞー。











【死戦】其のニ






そびえ立つ岩壁に挟まれ、陽の光の届かない谷底を一行は走る
目標は眼前にある巨石、ミスリルゴーレムだ
隊列はガゼムが先頭を走り、少し右後ろにはダリル
左後ろにシルトが続き、シルトの少し左後ろにはハーフブリードの面々
隊の中程の前列はエインやミラ
その他近接装備の者達と続き、その後方には遠隔装備の者達
右側後方には魔法使い達が走り、左側後方にはクガネや巫女達が走る
二等辺三角系のような陣形だ
残り50メートルに差し掛かる頃"それ"が僅かに動きだした

「なっ!」

先頭を走るガゼムの驚いた声が洩れ、目を白黒させている
それと同時に全員がゴーレムの動きに気づき、足を止めてしまった

「おいっ!20メートルじゃなかったのかよ!!」

ガゼムの怒りのこもった視線をクガネに向け叫ぶ
そんな視線には目もくれず、クガネは臨戦態勢に入っていた
ガゼムがチッと舌打ちしたその時

ゴゴゴ・・・

低い音が響き渡る、表面に積もっていた土埃がパラパラと落ち
ゴーレムはゆっくりと身を屈める
突如起こった予想外の出来事に一同は動揺し、反応ができなかった
一部を除いては・・・・

「ヤバい、密集しないで!」

シルトが簡単な指示を出す
ハーフブリードの面々はシルトを見る事無く即座に距離を保ち
ゴーレムの動きを一瞬でも逃すまいと観察していた
シルトの声が僅かに届いたエインは横目でミラを見たところで目が合う
無言で頷くミラにエインも頷き、皆から離れるように少し距離を取った
その刹那、どごんっ!という爆発にも近い音が壁に反響するように響く
"それ"の蹴り上げた大地が炸裂するように土煙を上げ、土砂をばら撒いた

一瞬だった

本当に一瞬の出来事で、ほとんどの者が何が起こったのか理解出来なかった
土煙の中から現れた"それ"は巨大な砲弾のようだった
気づいた時には遅かった、距離はすでに20メートルを切っている
僅か2秒足らずで30メートル近くの距離を詰められてしまったのだ
もう回避はできない、そう判断したガゼムはダリルに目で指示を出し
二人で、厚さは3センチにもなる、身をも隠すであろう大盾
タワーシールドを前面に構え、二つの大盾をくっつけ大地に刺すように突き立てる
そして、盾の裏側に肩を押し付け全体重をかけ、両足を踏ん張った

「くそったれっ!!」

ガゼムの汚い言葉が轟いたその瞬間、彼の視界は一転する

ガゼム・アン・ダイトは宗教国家カナランの神殿盾騎士団長である
ダリル・ロッヂはその部下にあたる
彼らは武器を持たず、ただ盾になるためだけに日々鍛錬していた
ガゼムの持つ大盾はミスリル製であり
その分厚さも相まって価格は相当なものだろう
盾騎士団の誰もが憧れる、騎士団長のみが持つ事を許された大盾である
その大盾にはカナラン神殿盾騎士団の紋章が刻まれ
淵には金細工をあしらった美術品とも思える美しさだった

そして、その美しさはもうどこにも無い
へこみ、歪み、紋章はぐちゃぐちゃに形を変え、ただの廃棄物と化した
ガゼムとダインと共に・・・・

人が空を舞う
フルプレートを着た屈強な男達が、だ
フルプレートともなると一式で60kgにもなる
それを着た大柄の男が宙を舞ったのだ
高く、高く、ひねりを加えながら、頭や手足は本来曲がらない方向へと向いていた
ほとんどの者が目を奪われ、自然と中空を舞う彼らをただぼーっと見ていた

「・・ひっ」

どこかからか悲鳴とも言えない小さな声が洩れた
"それ"は止まっていなかった、巨大な砲弾と化したゴーレムである
軌道を右に曲げ、壁際にいた3人を巻き込む

エール・ボア・エンジュ、カナランの生の魔法使いである
小太りで温厚な彼は今はもうその体積は半分以下になっただろうか
壁にめり込み、潰れ、半身は無くなっていた

ブロス・ラジリーフ、ドラスリア王国の風の魔法使いである
彼は王国宮廷魔導師であり、着ていたであろう高そうな薄緑色のローブが赤黒く染まり
その顔や胴は原型を留めていなかった

エンビ・ルルラノ、ネネモリの水の魔法使い、エルフの男である
その美しい容姿は、すれ違った女性達がつい見惚れてしまうほどで
すらっと伸びた192センチという長身の彼はどこにいても目を引くものだった
それが今はゴーレムに轢かれ、目も当てられない状態だ

爆音を轟かせながら壁にめり込み、土煙を上げ止まったゴーレムを
一同は恐怖の眼差しで眺め、微動だにできなかった
その時、どしゃっと水音を含む物が落ちてくる
先ほど中空に舞ったガゼムとダリルだ
その音を皮切りに逃げ惑う者が複数出た

ゴーレムが動き出してからたった11秒
5名が戦闘不能になり、もはや作戦は機能していなかった

『立て直そう!!』

エインの大声が反響し響き渡る
逃げ出そうとしていた者の足が止まり、声の発生源へと視線を送る
エインは抜刀し、腰を低く構え、切っ先をゴーレムへと向けていた

「・・や・・・・いや・・っ」

エインの左隣からかすれるような声が耳に入る
視界の隅で捉えたミラの膝はガクガクと震え
嘘とでも言いたそうに首を振っている
綺麗な顔立ちが恐怖に歪み、瞳には涙を浮かべ
足腰に力が入らないのか腰が引けている
抜刀すらしていない彼女にエインは焦り、眼前の驚異から目を逸らし
ミラの腕を引っ張り引きずって行く

『ミラ様!しっかりしてください!!』

びくっとするが、それ以上は今のミラには届かない
腕を離した途端にミラは崩れ落ち、ぺたんと座り込んでしまった
言葉にもならない声を洩らし、両手で自分を抱きしめるように震えている
エインは迷う、このままミラをほっといては確実にやられる
しかし、自分もミラに構っていてはやられるだろう
そう考えていた時に、ガコッと岩が崩れる音と共にゴーレムは再度動き出した

「どうすればいいんだ・・・」

エインがつい洩らしてしまった独り言に答える者がいた

「俺がやる、お前はそいつをどこかへ捨ててこい」

エインの後ろからクガネが前へ出る
その後ろに小さい女の子、地の巫女マルロもいた
僅かに震えているが、クガネという存在がいるおかげか戦意は喪失していない
エインは頷き、剣をしまい
ミラを背後から抱え、少しでも距離を取るように引きずって行く

『おい!そこの双子!ああなりたくなけりゃ時間を稼げ!』

クガネが顎をしゃくる、もはや残骸と化したガゼムとダリルに向けて
それにサイガとイルガが反応し同時に頷く

サイガとイルガ、この二人はドラスリア王国の3等級冒険者だ
それほど功績を上げていないのでまだ3等級だが実力は2等級に限りなく近い
個々の能力はそれほど高くはないが、彼らは連携が完璧だった
一心同体のようなその動きで、数々のモンスターを倒してきた双子の兄弟である
見た目はそっくりだが、僅かに弟であるイルガの方が背は大きい
東洋風の黒髪で、大きな団子状に結っており、少し幼い顔つきをしていた
小柄で細身の彼らの目つきは悪く、世に言うジト目というやつだ

既にゴーレムは動きだしている

のっし、のっし、そういう表現が適切だろうか
そんな雰囲気で1歩1歩ゆっくりと歩く
先ほど逃げ出そうとした一人、ネネモリの戦士であるアズル・ルゴス
彼はその両手に巨大な斧(スチールバトルアクス)を構え、ゴーレムの前へと歩み出た
勝てる見込みは無い、何が彼をそうさせたのか・・・それはクガネの後ろにいる存在だ
自分よりも遥かに小さい少女、マルロが戦おうとしているのだ
両手に力を込め、恐怖で止まりそうになる足を踏み出す
ゴーレムがまた1歩、距離を詰めようとしたその時

「大地の戒めを」

黒曜石の杖を構えた小さき存在から放たれる声と共に
ゴーレムの足元の大地が盛り上がり、足に絡みつく・・マルロの拘束魔法だ
ゴーレムは一瞬身動きが取れなくなり
バランスを崩しそうになるが即座に立て直した
そして1歩踏み出す・・・あっけなく拘束は解かれてしまった

しかし、その一瞬が大きかった

アズルは大きく斧を振りかぶり、全力で振り下ろす
ガキーンッという金属同士のぶつかり合う音とともに斧は弾かれ、刃が欠ける
その流れで大きくバランスを崩し身体が横を向いてしまう
ゴーレムは胸辺りがほんの僅かにだが欠けて落ちた

だが、それだけである、一切のダメージは無い

バランスを崩したアズルにゴーレムの太く長い腕が振りかぶられる
その拳は人の頭以上は優にある
ミスリルという硬度を誇るそれはまるで大砲のようだった
見た目に反する速度の拳をアズルは防ぐ事はできない
これから自分に振りかかるであろう事柄を想像し、顔は歪み、頭は真っ白になる・・・

そして、弾けた

アズルの胸から上は吹き飛び、肉片が辺りに散らばる
濃厚な血の匂いと、内容物であろう酸っぱい臭いが辺りに漂い
僅かにだが静寂が流れた

「・・・あぁ・・・ぁ・・・・いやあああああぁっ!』

その光景を目にしたミラは絶叫した
抱えていたエインの腕を振りほどき暴れる
目や鼻や口からは水分が垂れ流れ、美貌は見る影もない
股辺りが濡れ、僅かに湯気をあげていた

エインは彼女の前に膝をつき、右手に軽く力を込める
パンっと乾いた音が響き、突然の事にミラの眼は丸く見開かれた

「無礼を働き申し訳ありません
 後でお叱りは受けますので、今はお許しください」

エインの熱く強い視線がミラの怯えた瞳に届く
じんじんとした痛みが左頬から伝わってきた

「貴女はドラスリアの貴族です、ならば戦ってください」

エインは子供をあやす様に優しく厳しい言葉を言う

「それが無理なようなら、せめて邪魔にはならないでください」

言い終わるとエインは立ち上がり、抜刀し、歩み出す
そんな背中を眺める事しかできない自分に苛立つ、惨めだった
悔しい悔しい悔しい悔しい!でも足腰に力が入らないのだ
歯をぎりっと噛み締め、俯き、眼にいっぱいの涙を溜め
ぐしぐしと裾で拭き、再びエインの背中に目をやる

その背中は大きく、勇ましく見えた





ミラが絶叫した頃、双子が前へ出ていた
サイガは右手のスチールカタナを中段に構え、
左手のミスリルコダチを下段に構え、ゴーレムの左に立つ
イルガは身の丈もある大きな鎌(スチールサイス)を横に構え、ゴーレムの右に立つ
動きに合わせ、位置を変え、かく乱している
ゴーレムにフェイントなどが効くのかは不明だが
サイガとイルガの動きに戸惑うようにゴーレムは攻めあぐねていた

「・・・大地の戒めを」

マルロの拘束魔法が再度発動する
それを受け、一瞬でも足の自由が効かなくなったゴーレムはマルロへと向きを変えた
こちらを向いたゴーレムを目にして、マルロが恐怖から1歩下がったその時

「溶焔の宝玉よ!」

マルロの迫り上げた土の更に外側の大地からドロリとマグマがにじみ出る
それは流れるように形を変え、ゴーレムの足へとまとわりつき
拘束を更に強固なものへと変えた

宗教国家カナランの火の巫女、イエル・エフ・リート、ドワーフの女性だ
彼女の宝玉はアーティファクト武器、ドワーフ族の秘宝である
火と地の巫女しか使えないという限定条件はあるが、とても強力な魔法
溶岩魔法を使う事のできる唯一無二の武器だ
火と地の融合魔法である溶岩魔法は、通常の魔法の比ではない威力がある
ドワーフである彼女は背は低く、手足は太い
赤黒い髪は乾燥してるのかパサパサしていた
お世辞にも綺麗とは言えない容姿だ

マルロは後ろにいたイエルを見て笑顔になる
イエルはマルロに口角を少し上げるだけで返し、宝玉に魔力を込める

「今だよ!盗賊の!」

イエルの声が届くよりも早くクガネは飛び出していた
重心を恐ろしく低くした、地を這うような走りで
それと同時にサイガ、イルガは飛び退く
ゴーレムは拘束された足をどうにか動かそうともがくが
そう簡単には外れてくれない
クガネがダガーを抜き、2歩ほど軽くジャンプし、最後に大きく跳躍する

『マルロっ!』

クガネの大声がこだまする
その声が届くよりも早くマルロは次の魔法を詠唱していた
クガネの跳躍が最高潮に達する間際
目の前に物凄い勢いで迫り上がる大地があった
クガネは歯が見えるくらい表情が緩み、目を細める
迫り上がった大地を蹴り、更に跳躍した
クガネの身体は現在4メートル近い高さまで達している
ダガーを上に構え、一気に振り下ろす、頭部らしき場所にある文字だけを目掛けて
その瞬間、ゴーレムは右手で文字を庇った

キィィィン!

金属が擦れ合うような甲高い音が響き
クガネは舌打ちし、すぐさまゴーレムの身体を蹴り、飛び退く
彼が着地する頃にゴーレムの右手で変化が起きた
僅かにできた擦り傷程度の傷が爆発し
ボンッという音とともに、ゴーレムの手が吹き飛ぶ
パラパラと音を立て、煙の隙間から指の無くなった手が現れた
それと同時にゴーレムの拘束は破られ、また動き出す

「あー!惜しいー!」

「うんうん、もうちょっとだったねー」

そんなのんきな言葉が聞こえる、シャルルとサラだ
ウェアキャットと人間のハーフの彼女らはずっと様子を伺っていたのだ
ハーフブリードの面々はそれぞれ一定の距離を保ち
あまり戦闘に参加する様子はない
そんな様子に苛立ちを覚えている人物がいた、ミラだ
しかし、人のことは言えないので何も言わずにいる
わたしくは無力だ、そう心で悔やんでいた




ゴーレムはマルロを目標にしたようだった
開幕と同じようにゆっくりと身を屈める
誰もが思った、またあの巨大な砲弾が飛んでくると・・・
全員が身構えている中、一人走る者がいた

俺はなんで走っている、奴の目標は俺ではない、なら何故俺は走っている
クガネは心の中で自問自答していた
ゴーレムを見、そしてゴーレムの先にいる小さい女の子に目が行く
マルロは目にいっぱいの涙を浮かべ
手に持つ杖が無ければ倒れてしまいそうだった
舌打ちをしたクガネは更に加速する

「俺はこんな奴じゃなかったんだがな」

そんなつぶやきを聞き取れた者はいない

「あ・・・あ・・・・」

マルロは言葉にならない声を上げ、ガクガクと震えていた
膝が笑ってまともに立っている事もできない
ゴーレムから目を逸らせなかった・・・恐怖、それだけが支配していた
たった9歳の女の子にこの状況は過酷すぎたのだ

そして、ゴーレムは動きだす

どごんっ!という爆発にも似た音を立て、大地は炸裂し
土煙と土砂をばら撒きながら一直線にマルロへと向かってきた
それと同時にマルロの身体が浮き上がる
突然の事に状況を理解できなかったマルロだが、何かが当たった感触はした
そちらの方へ目を向けると、そこにはクガネがいた


そして・・・彼は彼女の視界から姿を消した


先ほどまでマルロがいた場所を巨大な砲弾が通りすぎる
マルロは"それ"が通りすぎた位置の50センチ横のところに落ちた
ゴロゴロと回転し、天地が分からなくなるが、足に力を込めて何とか止まる
辺りを見渡し、今自分がどこにいるのかを確認すると
ゴーレムが一直線に通った道はえぐれ、大きな足跡が残っていた
その先にゴーレムがいる、壁に突っ込み、再度停止しているようだ
そこで思い出した、先ほど見たクガネはどこだろう?と
辺りを見てもクガネの姿は無い、不思議に思っているとある事に気がつく
ハーフブリードの面々が血の気が引いた顔つきで上空を見ている
それに釣られマルロも天を仰いだ


クガネがいた


6メートル近く上空、クガネの体は血を吹き出しながら回転している
左腕は潰れ、顔も半分近く潰れていた

マルロにはしばらく理解できなかった
なぜクガネがあんな上空にいるのか、なぜ血が吹き出しているのか
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ・・・
力が抜け、膝から崩れ落ちる
それと同時にマルロの前方3メートル先の地面にクガネの体は叩きつけられ
どしゃっと水音を含む音を立てる・・・彼はぴくりとも動かなかった

「・・・クガネ・・さん?」

マルロの震える小さな声が洩れる
赤ちゃんのように這いながら、恐る恐る近づく彼女を止める者はいなかった

「クガネさん、何してるんですか
 まだ戦闘は終わってませんよ、クガネさんが倒すんでしょう?」

震え、涙をこらえ、クガネの元へと這って行く
彼はもう動かない

「クガネさん・・・クガネさん・・クガネさん、クガネさん!」

名を呼びながら彼の元へたどり着いた彼女は何度も起こすように彼を揺らす
目からは大粒の涙がポロポロと落ち、クガネの顔を濡らし、血を洗い流していく

『グガネざんっ!!』

少女の絶叫とも言える声が響いた
少女は彼の胸に顔を埋め、泣きじゃくる

『うわああああああああん』

その泣き声は年相応の幼いものだった





陽の光が届かない谷底で、一方的な虐殺が繰り広げられていた
ごつごつとした岩肌には悲痛の叫びや絶望の嘆きが何度も反響し
その荒れ果てた大地には数々の血や汚物や涙を吸って所々色を変えている
数分前までの静寂が嘘のように、この地は地獄へと変貌を遂げていた

ガコッという岩の崩れる音がやけに響き"それ"は再び動き出す
この地を地獄へと変えた"それ"はゆっくりと振り向き、辺りを見渡した


残りは15名、その中でまだ戦意があると思われる者は13名になる
先ほどの2回目の巨大な砲弾による砲撃で2名が倒れた、一人はクガネだ
もう一人はネネモリの弓士、ガリア・ケルヌンという男である

彼は一団の中では若い22歳、強弓と言われるバトルボウを使用していた
彼は不幸だった、今までも、そして今も
幼い頃に両親に他界され、家族がいなくなり、友達もできなかった
そんな彼の唯一の救いは、弓の腕が良かった事だろうか
狙った的はほとんど外さず
狩りに出れば必ずと言っていいほど獲物を仕留めるほどだ

しかし、彼の不幸はこんなものでは相殺されない

好きな女には振られ、相変わらず友達もできず、いつも一人だった
今回の旅も半分押し付けられたようなものだ
だが、彼は利用されてると分かっていても
誰かに頼られるのが嬉しかった、関われるのが嬉しかった
だから我慢して今回の旅に参加したのだ
その結果がこれだ、不幸としか言い様がないだろう?

2回目の砲撃の時
ゴーレムはクガネを吹き飛ばし、彼の持つダガーも弾き飛ばされた
そして、常人では知覚できない速度になった爆炎のダガーが彼の左頬をかすったのだ
その後、彼の頬は爆発し、倒れた
これを不幸と言わずして何が不幸と言えるだろう
唯一の救いは、彼は頬を傷つけたのが爆炎のダガーだと気づかなかった事だろうか
気づいていれば僅かな時でも想像を絶する恐怖を感じた事だろうから・・・


ゴーレムは火の巫女イエルの方へと身体を向ける、次の狙いは彼女のようだ

「まずいっ!援護を!」

シルトは声を張り上げ走り出す
すぐ後にサラが続き、シャルルとジーンは左右に広がるように移動する
ラピは腰から魔導書を取り出し、本の中程を開き、聖獣の召喚を始めた
人差し指の先端が光を放ち、何かを綴るように中空に指を走らせる

「カントより・・・・おいでませっ!」

両手を広げた瞬間に足元に魔法陣が現れ、それが上昇していく
全身を通りぬけ、ラピの頭上2メートルくらいで魔法陣は回転し、中空に穴を作る
穴は真っ黒な世界へと通じ、そこからぬっと銀色の狼のような獣が姿を現した
僅かに雷をまとった聖獣は、グルルルと唸り、ラピを一瞥して指示を仰ぐ

「エペタム、いっけー!」

ラピはシルトとサラの背中を指差し、それに従いエペタム(聖獣)は中空を駆け出す

『エインくん!』

シルトは走りながらエインに聞こえるように大声を上げ
一瞬視線が合ったのを確認し、正面を見据える
エインは何も言わずとも眼を合わせただけで理解した
すぐさま走り出し、ゴーレムの右斜め前の角度に少し離れて位置取る
重心を下げ、切っ先と目線を合わせ、頭部にある文字を鋭く睨む

ゴーレムはゆっくりと歩いている
イエルはそれに合わせて数歩下がり、宝玉に力を込めた

「・・・溶焔の宝ぎょ・・っ!」

イエルの言葉は途切れ、目は丸く見開かれ、目の前に立つ存在へと動く
シルトがイエルとゴーレムとの間に立ち塞がったのだ
それに続き、サラもシルトの右側へと並ぶ
今まで戦闘に参加する気が無さそうだった彼らが現れ、驚いていると

「イエルさんはもっと離れて援護を」

シルトが指示を出してくる
彼の言う事だ、何か作戦があるのだろう
イエルは即座に判断し、ゴーレムに背を向け、走り出す
後ろを向くなど本来であれば自殺行為だが
背後にはあのハーフブリードの前衛2人が立ちふさがっているのだ
この旅で彼らの実力を見ていれば嫌でも信用してしまう
イエルは振り向く事なく走り、10メートルほど離れてから振り返る
その時、ゴーレム対シルトとサラの戦闘が始まった

「来るよ!」

サラは左手のミスリルカイトシールドを前面に構え、
右手のミスリルロングソードを下段に構えている
シルトは右手の硬化魔法の付与されたミスリルラージシールドを前面に構え、
左手のミスリルブロードソードを下段に構えている
左右を反転したような似た構えの二人だった

彼らの背後の中空にいる狼のような獣がウォーンと遠吠えを上げ
獣が発する小さな雷がシルトとサラの背中に落ちる
それを受け、彼らの体内から力が溢れてくる感覚が走る
これは聖獣による強化魔法、一時的に身体能力が跳ね上がる魔法だ

その瞬間、ゴーレムの左の拳が振り上げられた

「サラ!」

シルトが名前を呼ぶと同時に自らの盾を彼女の盾へとぶつけてくる
サラはぶつけられた勢いのまま身体を右へ逸らし、左腕を少し捻り盾を斜めにする
そこへ大砲のような左の拳が振り下ろされた
先ほどサラの居た場所の左側、盾のあった位置に拳は通る
シルトとサラの盾を、ギギギギッという金属同士が擦れる音を立てながら
火花を散らし掻き分ける・・・かすっただけでも衝撃は凄く
サラは盾に伝わる力のままに時計と逆回りに一回転し
その勢いのまま水平にロングソードをゴーレムの腕へと叩き込む・・が弾かれた
しかし、弾かれた事により回転が止まり、サラは元の構えへとすぐさま戻る
シルトは上手く受け流し、攻撃はせずにすぐ盾を構え直していた

イエルは信じられないような光景を目の当たりにしていた
なんだこの二人は、本当に人間か?そう思いたくなるほどだった
あれほど簡単に何人もやられた存在を相手に完璧に防ぎ切っている
特に目を引くのはサラだ
流れるような動きに無駄はなく、無意味に見える攻撃もその後に繋ぐ動作でしかない
いや・・・よく考えてみればシルトがサラを押したようにも見えた
それに何故彼は全く動かず受け流せたのだ?
どんな技が使われてるのかもイエルには分からなかった
パッと見はサラの華麗な立ち回りが目を引くが
シルトという不動の存在には底知れぬ恐ろしさを感じると同時に
微かな希望が見えた気がした

「溶焔の宝玉よ・・・っ!」

イエルの言葉を受け、溶焔の宝玉は赤く輝き、ゴーレムの足元からマグマが湧き出る
先ほどのマルロと同時に放った時よりも明らかにマグマの量が多い
辺りの気温が一気に上昇し、薄い霧のようなものが発生した
マグマは形を変え、ゴーレムの足だけではなく、下半身をも飲み込んだ
シルトはニヤリと顔を歪め、サラに指示を出す

「下がって!」

声がサラに届き、シルトとサラが一歩引いたその時
ゴーレムの左肩に巨大な水球がぶつかる
その巨石とも言える巨体を僅かに揺らし、弾け飛ぶ
飛散した水はマグマに降りかかり、ジュワーという音を立て湯気を上げる
そしてマグマは冷え、固まり、岩のように黒く変わっていった

水球を放った存在を確認するため、ゴーレムは身体を捻ろうともがくが上手く動けない
それを放ったのは青く美しい長髪で水色の肌を持ち
その胸は僅かに膨らみ、女性であるのが分かる
しかし、下半身は魚のそれの姿をしていた
四大精霊の1つ、ウォーターウンディーネである

聖獣の上位存在である精霊を召喚できる者など1人しかいない、ジーンだ
そんなジーンに続き、シャルルの詠唱が終わる
サラの左手の痺れが和らぎ、握力が戻っていくのが分かる
先ほどの受け流しの際の衝撃で左手が痺れ、盾を持ってるのがやっとだったのだ
それを見逃さず、シャルルは回復魔法を詠唱していた
これがハーフブリードの連携であり、強さである

『エインくん!』

エインを見る事無くもう一度シルトが叫ぶ
エインも頷く事も無く、切っ先に目線を合わせ、頭部の文字に狙いを定める
距離は4メートルほどまで近寄っており、その姿勢は異常なまでに低い

そしてシルトは剣を投げ捨てた
その光景にサラが驚嘆し、彼女の尻尾がピーンと立ち上がる

彼はゴーレムの下半身に潜り込むように身を屈め、両手で盾を上へと構えた
折角動けなくしたゴーレムの懐に入るなど、誰が考えても自殺行為だ
案の定ゴーレムは右腕を大きく振りかぶり、叩き下ろす
下にいるシルトを殴りにくいのか、下半身が拘束されたままのせいか
今までのような大砲のような拳では無い
少しゆっくりの、力の込もっていないような拳だ
しかし、人を押しつぶすには充分の威力だった

ガッ!ギギギィィィィィン!

激しい金属音が響き、シルトのラージシールドにその拳がぶつかる
シルトは盾を右に傾け、力の流れを大地へと向けさせようとする・・・が、予想以上に重い

「・・うっ!」

指が数本折れたような音を上げ、激しい痛みに顔が歪む
まずい、このままじゃ潰される、そう思った瞬間に身体が左側へと引っ張られた
サラが剣と盾を捨て、シルトの襟首部分の鎧を両手で掴み引っ張ったのだ
シルトの盾は彼の手から離れ、その衝撃に耐え切れず、宙に舞う
ゴーレムの拳は大地に刺さり、土煙と土砂を巻き上げる



その瞬間をエイン・トール・ヴァンレンは待っていた

エインあっぷ




ゴーレムは前かがみになり
頭部と思われる場所は2メートル辺りまで下がっている

エインの瞳に烈火のごとき闘志が宿る・・・・届く!!

大地を大きく蹴り、土砂が舞い散る
一歩目から最高速度にでも達していそうな、雷にでもなったような鋭い突進だった
剣を脇に寄せ、両手に力を込める
全身のバネを使い、ありったけの力を込め、前へ前へと突き出す
一度も眼を離さず見ていた場所へと向けて

ガガガッ!ギィィィン!

エインの剣は頭部の文字の窪みを捉え、削る、削る、削る
腕が押し戻されそうになるが、歯を食いしばり押し込む
腕が脚が悲鳴を上げるが御構い無しに力を込めた

『いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

エインの叫びが壁に反響しこだまする
そして・・・剣は頭部の文字を削り取り、そのまま突き抜けた
突然抵抗がなくなった事によりバランスを崩し、頭から転がり、大の字になる


そして、"それ"は動かなくなった


肩で息をし、大の字のまま動けずにいたエインは頭部の文字を見て目を細める
斜めに傷が入り、文字はかき消され、光も消えていた
やった、そう思った時だった
巨石とも言える身体は崩れ出す、それに気づいた時にはエインは動けなかった
数トンにもなる岩の塊が彼の上に落ちる

『ぐっ・・・うああああああああああああああ!』

ヴァンレン家の家宝であるロングソードとともに
彼の右腕は二の腕から先が潰れ、引きちぎれ、少し遅れて血が吹き出す
その光景を目にしたシャルルはエインの元へと走る
それに続き、ジーンやラピも駆け寄った


エインの呻き声が皆の耳に届く
今はエインを囲むように死闘を終えた者たちのほとんどは集まっていた
3人の回復魔法を受け、血は止まったようだ
ようやく落ち着いたのか、力尽きたのか
エインは意識を失い、寝息を立て始めたところだった

「終わった・・・な」

ロイが残骸となったミスリルゴーレムに目を向ける
それに釣られ皆もそれを見る
バラバラに崩れ落ち、今はもう動く気配は無い

戦いは終わったのだ




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