2015_12
21
(Mon)16:11

1章 第19話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第19話 【紡がれる命】

今回で一応1章は最終話となります。
次回からは新しい章に入り、新しい物語が始まります!
お楽しみにー。

では、続きを読むからどうぞー。









【紡がれる命】







3人が急勾配の階段を再び登り、広場まで上がる
既に日は高く、ぽかぽかとした気持ちの良い日だった

昨夜、リリムがエインのために
彼が手を使わないでも荷物袋を背負いやすいように背負い紐をつけてくれ
身体に固定しやすいよう親指だけで止められるベルトをつけてくれた
彼女はこういう事が得意なのだ
リリムは少しでもエインの役に立ちたかった、本当はそれだけだったのだが
彼はとても感謝してくれて、何度もお礼を言っていた

エインの剣は握り部分が無くなり、鍔も一部壊れていた
もはや剣として使う事はできず、死の谷に置いてきている
外で丸腰になったのは何時以来だろう、彼はそんな事を考えていた
自身の左手を見て、下唇を噛み締める
しかし、霊薬は手に入れた、これで世界が救える
そう思うと、彼の心は晴れていった

聖域へと足を踏み入れ、神の存在を肌で感じる
先頭にリリム、その後ろにエインとイエルが続き、生の神の前へと行く
彼等は膝をつき、頭を垂れる

「ただいま戻りました」

《・・・・ぶじでなによりです・・・・》

「霊薬とはこちらでいいのでしょうか」

リリムは神を見上げ、その手に握っていた小さなクリスタルの瓶を両手で掲げる
中で赤い液体がチャポっと音を立てる

《・・・はい・・よくやりました・・・》

神の言葉が響き、リリムの手から霊薬が離れ、中空へと浮いていく
それは生の神の前まで行き、白い光を放ち始める
クリスタルの小瓶が膨張していく
5センチ程度の大きさだったそれは、どんどん大きくなり今は50センチ近い
更に膨張を続け、縦70センチ、横40センチほどの巨大な瓶へと変わる
その中には赤い液体がたっぷりと入っていた

《・・・このくらいでいいでしょう・・・もっていきなさい・・・・》

巨大化したクリスタルの小瓶はもはや壺とも言える大きさだ
ゆっくりと静かに地面に降り、ゴトッと言う低い音を立てる

《・・・・すべてのものに・・・ひとしずくずつあたえなさい・・・》

「ありがとうございます」

3人は再び頭を垂れる
エインの荷物袋から荷物を取り出し、空にした袋に霊薬を詰める
リリムとイエルの二人がかりでもやっとの作業だった
重さにして約80キロはあるだろうか
革袋が破けないよう、底にもベルトを回し、エインの身体にがっちりと固定する
神の前でそんな作業が続き、しっかりと固定されたのを確認したエインは立ち上がる
かなり重いが、鍛え上げられた彼には動けないほどではない
3人は聖域を後にし、帰路につく


80キロ近い重さはこの険しい道のりでは大きな障害となる
そのため思うように進む事ができない
そして、一番の問題の箇所へと辿り着く・・・
階段を下り、死の谷を抜け、生命の泉の先、崖である
たった1本のワイヤーが張られており
彼等はそれにぶら下がり何とか渡っていたのだ
今回は背中に80キロ近い物を背負っている
背負うのは唯一の男であるエイン、だが彼の右腕は二の腕から先が無い
残る左手は親指以外の指は残っていない
ワイヤーをしっかりと掴む事すらできない彼にとって
この80キロという重みは大きな障害だった

「エイン・・・行けますか?」

リリムが心配そうに彼の顔を覗き込む

「はい、何とかしてみせます
 それより、今回は君を運んであげる事ができない・・すまない」

頭を下げる彼を見てリリムは慌てる

「全然いいんですよ!元々自分で渡らないといけないんですから」

イエルも、そうさね、と笑って言う
今の彼女は手に革のグローブをしており、自身でこの崖を渡る気満々だった

「私だってこの程度本当は楽勝なんだ
 皆、巫女様巫女様ってうるさいんでね、任せてただけなんだよ」

そう言ったイエルは、ひょいっとワイヤーを掴んでさくさくと進んで行く
あっという間に渡り切り、対岸で座っている
続いてリリムがゆっくりとだが渡って行く
彼女は法衣からはみ出す太ももを隠すのに必死だ
そのため進む速度はかなり遅い
時折エインに対し、いいって言うまで絶対こっちは見ないでくださいね!と叫んでいた

しばらくして彼女が対岸に到着し、エインに合図を出す
やっとか、とエインが軽いため息を洩らして、崖の方へと顔を向け
勢いよく立ち上がり、霊薬がしっかりと固定されているか再確認する

「よし」

彼はザンギの革の鎧の一部をワイヤーに巻きつけ、そこに肘をかける
足をワイヤーに絡ませ、ゆっくりと滑るように進んで行く
ワイヤーの先、フック部分がギリギリと音を立てる
いつ外れるかとヒヤヒヤしながら、慎重に、素早く進んで行く
腕に、肩に、足に掛かる重さは尋常ではない
彼の額から汗が流れ、それが目に入り、片目が閉じられる
ワイヤーと革の鎧が擦れ、僅かに焦げたような臭いが漂う
必死に進み、やっとの思いで渡り切り、ぷはぁっ!と大きく息を吐き出した
大きく肩で息をして、横向きに倒れ込む

「お疲れ様です」

リリムが彼の元へしゃがみ込み、タオルを渡す

「お水は要りますか?」

「頼む」

リリムが水筒の蓋を開け、彼にゆっくりと飲ませる
ふぅと大きなため息をついた彼は言う

「頭から少しかけてくれないか」

リリムは彼の頭から水を少量かけていく
目を瞑り、気持ちよさそうにしているエインの横顔を見ながら
彼の横顔に見とれていると、彼がこちらを見てくる

「・・・リリム?これ以上は水が勿体無い」

彼の言葉でハッとなる
慌てて水筒の蓋を締め、ハハハと乾いた笑いを洩らす
見とれていたのがバレていないかドキドキしていた

「ありがとう、それじゃ行こう」

エインが勢いよく立ち上がり、親指しかない手を差し伸べる
その親指を握り彼女は微笑む

「はいっ♪」





一行はカナランの聖都コムラーヴェへと向かっていた
道中、再びスナッチャーの群れに襲われたがリリムが一瞬で片付ける
そのスナッチャーの皮を剥ぎ、エインの背負い紐の内側へと縫い付ける
多少でも肩などが痛くならないようにだ
彼の肩や腰は背負い紐やベルトが擦れ、血が滲んでいた
80キロという重さは短時間なら彼には何も問題はないが
この長い旅、そして険しい道では彼の身体を傷つけていく
リリムは彼に故郷のエルフの塗り薬を塗り、そこへ包帯を巻く
これを1日2回はしていた
いつもイエルはその光景をじっと眺めており
二人の微笑ましいやり取りに頬が緩んでいた

そして、彼等はやっとの思いでコムラーヴェへと到着する

正門で待ち構えていた検問官を一瞥しながら彼等は聖都へと足を踏み入れる
火と死の巫女、エインの凱旋に街が賑やかになり始める
一人の女性が六神広場にある公園から騒がしい方へと目を向ける
彼女の目に入ってきたのは先頭にエイン、その後ろにリリムとイエルがいた
大急ぎで彼等の元へと駆け寄る

『エインッ!』

片手を大きく振りながら走ってくるのは、ミラ・ウル・ラシュフォードだった
彼女はドラスリア国内だけではなく、他国も巡り始めた頃だった
そして、怪我や病気に苦しむ者達の支援をしていた
今は丁度コムラーヴェを訪れており、戦争孤児に食べ物を配っていたところだ
彼女の行いに賛同する者は多く、今では大きな流れになっている
一部の利権狙いの貴族の支援などもあり、大勢の者が救えていた

「ミラ様!?」

エインが驚き、足を止める
そこへ彼女が駆け寄り、ふふっと小さく笑う
彼女は青空のような水色のワンピースを着ており、長く綺麗な金髪が風になびく
その髪を片手で押さえながら彼女は微笑む

「おかえりなさい」

ミラの表情は旅の中でも見た事がないほど柔らかく、優しさに満ちていた
その時、ミラはエインの手を見て眉間にシワが寄る

「貴方・・・その手は・・・」

エインは苦笑しながら親指で頭を掻く

「少しばかり失敗しました
 しかし、世界を救う方法は手に入れました」

彼の顔に後悔の色は無かった

「やっぱり貴方は凄いわね」

二人が話しているところにイエルが口を挟む

「ちょっといいかい、先を急ぎたいんだ
 アンタも一緒に来な、歩きながら話そうじゃないか」

こうして4人は大聖堂へと足を進めるのだった
その道で、この旅であった事や、ミラの近況などをお互い話す
ミラはエインの背負う霊薬を見つめ、心の底から喜ぶのだった

大司祭エレアザル・オシニスの私室へと案内される
エレアザルは彼等の帰還を両手を広げて歓迎し、すぐに旅の話を聞く
一通り説明を終え、エレアザルが霊薬を見つめて言う

「これをラルアース全土に・・・さて、どうしたものでしょうか」

彼は自身の白く長い髭を触りながら悩んでいる
そこへ、ミラが席を立ち発言する

「わたくしのしている活動を利用してはいかがでしょうか」

エレアザルも彼女の活動は耳にしている

「是非そうさせていただきましょう」

ミラは霊薬を預かる事となった
全ての者に1滴ずつ、途方もない事だが彼女はとても嬉しかった
今まで以上にやる気を出し、人脈、財力を惜しまず使い
ラルアースの人々に霊薬を与えていった
全ての者に行き渡るまでに2ヶ月近い時間を要する

こうして、ミラは世界を救った尊者と呼ばれたのであった
リリムとイエルはこれまで以上に崇拝され、火と死の神信者は爆発的に増えた
霊薬を持ち帰ったエインは英雄と呼ばれ
爵位の第4位、子爵の称号を与えられる事となる
ミラには爵位の第2位、侯爵の称号が与えられた








月日は過ぎ、世界には平穏が訪れていた




イエルはいつもの巫女の仕事をこなしている
巡礼者達に挨拶をし、彼等の頭に手を当て、祈りの言葉を唱える
それ以外の仕事と言えば、魔法武具への魔力の付与だ
これには物によっては1ヶ月かかるものもある
こういった忙しい毎日へと戻って行くのだった

そんな彼女は実は結婚を夢見ている乙女だったりもするのだ
多忙な毎日で出会いもろくになく、そもそもカナランにはドワーフが少ない
友達のドワーフ達は既に結婚している、それが彼女を焦らせていた

「・・・こうなったら人間でもいいかね」

そんな言葉を洩らすが、周りの司祭達にはその意味は伝わらない
旅の途中はそんな事を考える余裕が無かった
しかし、平穏な日々が戻り、迫り来る年齢という巨大な壁を再確認する
エインとリリムを見ていて羨ましかったのもある
彼等はとても微笑ましく、イエルにもそんな相手が欲しかった
そんな事を考えていると、次の巡礼者の団体が訪れる

「・・・仕事しなきゃね」

ハァと大きなため息を洩らして、彼女は巡礼者達の元へと向かうのだった




マルロは共同火葬の大穴を埋め終え
石碑が立つのを見届けてからカナランへと戻っていた
少女である彼女も、イエルと同じように巫女の仕事は山のようにある
死の概念を取り戻した幼い英雄、地の巫女マルロ・ノル・ドルラード
そんな彼女を一目見ようと色々な国から人々が訪れるのは自然の流れだろう

マルロは嫌な顔一つせず彼等に手を振り、祈りの言葉を唱える
今のマルロはとても人気があった
昔のマルロはそれほど人気はなかったのだ
それは彼女が無表情で、無口で、無愛想だったからだ
近寄りがたい雰囲気があり、誰もが声すらかけなかった
それが今は笑顔を向け、手を振り、自ら話しかけてくれる事もある
そんな変化のあった彼女の人気が上昇するのは当然だった

「地の神の加護があらんことを」

巡礼者の団体に祈りの言葉を唱える
特に魔法効果がある訳ではないのだが、それを受けた者達は歓喜していた
やっと巡礼者達の波が終え、一息つける
うーん、と伸びをして空を見上げる

「クガネさん、私がんばってますよ」

これは彼女の癖になってきている
空を見上げ、クガネに頑張っている事を伝える
そうして、クガネに嘘をつきたくないという思いで少女は本当に頑張るのだ

「ちょっと出てきますね」

司祭達にそう言い、マルロは大きな籠を手に小走りにある場所へと向かう
六神広場から放射線状に広がる道の1つを早足で進む
その突き当たり付近にある古びた一軒家へと入って行く

「みんなさーん、元気にしてますかー」

マルロが入ってきた事に気づいた者達が彼女へと駆け寄る

「マルロお姉ちゃん!」

4~7歳くらいの子供達、12名が彼女を囲む
子供達は戦争孤児だ
ここはカナランが戦争孤児達に提供した家の1つ
マルロは毎日ここに通い、パンやミルクなどを届けていた

「押さないでください、ミルクがこぼれちゃいますよ」

マルロは大きなテーブルに籠を置き、中からパンとミルクを取り出す
それを子供達に配り、一緒にお昼を食べる
これは彼女のお金で買った物だった
本来であれば国が援助するのだが、マルロは自分でしたかったので断った
巫女という立場は下級貴族程度の稼ぎはある
マルロは幼いながらも稼ぎはいいのだ

「いつもありがとう、お姉ちゃん」

最年長の子供が笑顔でお礼を言ってくる
それに彼女は笑顔で応え、パンを頬張る
この時間がマルロにとっては幸せな時間となっていたのだった




ミラは霊薬を配り終え、今はドラスリアの自宅へと帰って来ていた
彼女はある事を考えていた、それはエインの事である
彼は死の神を復活させる旅で右腕を失い
霊薬を手に入れる旅では左手の大半を失った
自分に出来る事は無いだろうか、それを考えていたのである

ミラにとってエインとは、本当の英雄なのだ
彼こそが称えられるべき人物だと思っていた
侯爵なんていう称号を貰った自分、子爵という称号を貰ったエイン
彼女は自身より遥かに世界に貢献した人物の評価が低い事が不満だった
そこで、彼女は自分が彼を評価しようと思ったのだ
それは想いではなく、形として、である

「やっぱりあれしかないかしら・・・・うん、そうしましょう」

それから彼女は何日も部屋に篭もり、あるものを書き上げる
それを手に部屋を勢いよく飛び出し、召使いに声をかける

「馬車を用意してちょうだい、大至急ですわ」

それだけ言い、彼女は自室へと戻る・・・そして、武装をする
オリハルコンのライトアーマーを身に纏い
腰にはミスリルのレイピアを下げ、髪を結い、大きな鏡で自身の姿を見る
うん、と1度頷き、部屋を後にする
玄関の大きな扉を抜け、外には豪華な馬車が止まっていた

「ラーズ首都までお願いしますわ」

馬車は大急ぎで駆け、数日かけてラーズ首都へと到着する
ミラの向かった先は鍛冶工房だった
ここはドワーフの経営する大きな工房で
ラルアースで右に出るものはいないとされる名工のドワーフがいる
彼女のオリハルコンのライトアーマーを作ったのも彼だ
彼の作る一品物の装備はどれも素晴らしい出来で
更に、古代技術や魔法技術を応用した物まで作り上げる
そんな彼にミラは用事があったのだ

「お久しぶりですわ」

「ん?おう、あんたか」

指がゴツゴツとした肌の焼けた老いたドワーフが振り向く

「また面白いもんでも持ってきたのか」

前回の面白い物とはオリハルコンだった
彼はオリハルコンなど加工した事もなく、大喜びで引き受けたのだ

「えぇ、今度はもっと凄いものですわよ」

「そいつはいい・・・で、何を作れってんだ」

ミラはニヤリと笑い、彼に大きな紙の筒を渡す
それは図面だった

「ほう・・・これを作れって事か」

「えぇ、もちろんできますわよね?」

「誰に言ってやがる」

老いたドワーフは長く白い髭を触りながら思考を巡らせる

「材質は」

「それはこちらで」

彼女は自身のライトアーマーを脱ぎ、彼の前へと置く
こちらも、と腰にあるレイピアも彼の前へと置く

「ちょっと修整するがいいか」

「はい、構いませんわ・・・その代わり、最高の品をお願いしますわ」

「任せておけ」

それから連日連夜、工房に金属を叩く音が響く事となった





リリムはネネモリで巫女の仕事をしていた
彼女の一日は朝のお祈り、朝食、巡礼者の相手
昼食、武具への魔法の付与、そして、夕食の後に自由時間となる
今はこれにもう少し足される事となっていた

今は朝、お祈りを終えた彼女は隣の家へと向かう
ドアを2回ノックして彼が出てくるのを待つ
押したら開く扉が開き、彼が顔を出す

「おはよう、リリム」

「おはよう、エイン」

エインはリリムの元で暮らしていた
両手が使えなくなった事により
彼はドラスリアの騎士として戦う事はもうできない
そして、彼はリリムを守ると誓っている
だから、ここネネモリで暮らし始めたのだった

今はこのネネモリで荷運びの仕事をしている
リリムが作ってくれた背負い籠に荷物を入れてもらい
それを届けて、籠から荷物を受け取ってもらう
そういう仕事をしていた

英雄であり、子爵である彼は、国から多額のお金を貰える立場だが
彼はそれを全額戦争孤児や被災者達に寄付していた
自分が食べれる分だけあればいい、そう言った彼は働き始めたのだ

「ご飯できてますよ、食べますか?」

「ありがとう、一緒に行こう」

リリムの後ろにエインが続き、彼女の家へと向かう
二人で朝食を取る、これが今のリリムの日常だ
彼の使うフォークやスプーンは親指だけで持てるよう特殊な作りになっている
これもリリムが作ったものだ、彼女は本当に手先が器用なのである
いつものように朝食を一緒に食べ、エインは仕事へ向かう
それを見送ったリリムは巫女の仕事へと向かう
こんな毎日が幸せで、リリムは頬が緩みっぱなしだった

しかし、ネネモリには今大きな問題があった
それは、森が一部枯れてきているのである
虫や動物の死体が大地を覆い、光の届かなくなった大地は弱り
そこに生える木々は枯れていった
それが、かなりの大規模で起こっていたのだ
今は国を上げてその対応に追われている日々である
戦争により多くの男手を失った今、それはとても大変な事だった

忙しいが、平穏な、幸せな日々をエインとリリムは噛み締めていた








これはエイン達が霊薬を取りに行っている頃の話である


ラーズに戻ったハーフブリードは家へと帰っていた

「疲れたー!」

シルトがソファへとダイブする
それを見たサラが言う

「シルトさん、鎧脱いでから」

「はい・・・脱いできます」

そう言って彼は地下へと降りて行く
シャルルは椅子に腰掛け、テーブルへと突っ伏する

「疲れたー!もうやだー!」

その向かいにジーンが座り、本を開く
ラピはその横に座り、肩にいるドラゴンのウェールズをテーブルに乗せ
この旅のために用意した干し肉の残りをあげる
むしゃむしゃとそれを食べるウェールズはとても嬉しそうだった

鎧を脱いできたシルトが家に来る前に買った食材を手に台所へ立つ

「何か食う?」

「食べる!」

シャルルが元気よく答え、ジーンが本を閉じる

「私は触媒が劣化しないうちに実験に入るからいい」

「了解了解、他は?」

「私も食べようかな」

「私も」

ラピとサラが答え、シルトは4人分の食材を用意する

「作っておくから、片付けておいてね」

はーい、と3人が答え、彼女達は旅の荷物を片し始める
しばらくして食事が出来、4人でワイワイと食べた
ジーンは部屋に篭もり、何かの魔法実験を始めている
夜になり、寝室を実験場としてるため、シャルルはサラと一緒のベッドで寝る
その横のベッドでラピが寝て、シルトはいつものソファで寝ていた
皆が寝静まった頃、ジーンは実験を続けていた

「もしかして・・・これを使えば・・・うーん」

一人でぶつぶつと呟きながら実験をしている

「・・・・ダメだ、あれが足りないんだ」

そうして夜は深けていく


そんな日が何もない平穏な日々が続いた
世界に霊薬が配られている頃
シルトは朝早く起き、皆の朝食を作っていた
そこへジーンがよたよたと歩いてくる

「おつかれさん、今日も徹夜?」

「うん、でももう少しで出来そう」

「今度は何を実験してるの?」

「んー、新しい精霊召喚?」

「まじか、すごいな・・・・あ、飯食う?」

「うん、もらう」

ベーコンの焼けるいい香りが食欲をそそる
その匂いに釣られるようにシャルルが起きてくる

「いいにお~い」

眠そうなシャルルが目をこすりながら台所に引き寄せられていく
その後ろにサラとラピもいた

「もうちょいだから待ってね、その間に顔洗ってきな」

「は~い」

ふらふらと浴室にある洗面台へと向かう
少しして朝食が用意され、皆で食べる

「今日ちょっと軍本部行って来るよ」

「ん?なんで?」

ラピが不思議そうに聞いてくる

「ロイさんの届けないと」

「あぁ・・・そっか」

そう言い、ラピはジーンの顔を見る
ジーンはいつも通りに黙々とご飯を食べていた
しばらくして皆が食べ終え、洗い物はシャルルに任せて家を出る

今日のシルトは鎧は着ていない
手には小さな手帳のようなものがあり、それはロイが彼へ託した物だ
彼はそれを手に、小走りに軍本部へと向かう
受付でハーフブリードのシルトですと名乗り、あっさり通される
彼が案内された場所は軍の指揮官クラスが集まる場所だ
そこにいた一人、中佐と呼ばれた男が彼の元へと寄ってくる

「何用でしょうか」

端正な顔立ちの男は礼儀正しい雰囲気を醸し出している

「ロイ・ホロウ少佐からこちらを預かって来ました」

シルトは彼に手帳を渡す
ラーズの国旗が描かれたそれを見て、彼は下唇を噛む
黙ってそれを受け取り、両手の力が込められる

「そうですか・・・彼は・・・・」

「はい、残念ながら」

「届けて頂き、感謝致します」

彼は敬礼をし、シルトはいえいえと小さく両手を振る

「それじゃ僕は失礼しますね」

さっさと帰ろうとした彼を中佐が呼び止める

「待ってください、ロイの最後をお聞きしても?」

「はぁ・・・・まぁ・・・」

「言いたくないようでしたら構いません」

「あまり言いたくはありませんね」

「そうですか・・・分かりました、ありがとうございました」

中佐は深くお辞儀をする

「それじゃ失礼します」

シルトはそそくさと軍本部を後にする
敷地を出たところで大きくため息をし、ゆっくりと歩き始める
何となく真っ直ぐ帰る気になれず、彼は横道に入り、適当に散歩をする
だいぶ歩いただろうか、城壁付近まで来ており
辺りはスラム街と呼ばれる地域になっていた
シルトもここの生まれなのだ
少し懐かしさを感じながら彼は歩く

「あんま変わってないな、ここも」

キョロキョロと辺りを見ながら歩いていると
日陰になり薄暗い細道の横で倒れている少女を見つける
彼は駆け寄り、その子を見て驚く・・・頭には大きな猫のような耳があったのだ
そう、彼女はハーフキャットだ
なんでこんな場所に?しかもこの姿は・・・・

その少女を抱き上げ、彼は自宅へと向かうのだった






スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック