2015_12
23
(Wed)16:30

2章 第1話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第1話 【ハーフキャット】其の一

今回から2章がスタートしました!
物語は大きく変わります。
少々残酷な表現などが増えますがお許しを。

では、続きを読むからどうぞー。







【ハーフキャット】其の一








シルトがハーフキャットの少女を抱え、路地を歩く
薄暗い路地を抜け大通りへ出た時、辺りの人々から奇異の目を向けられる

少女の耳は大きく、猫のそれだ
薄汚れた灰色のワンピースを着ていて、靴は履いていなかった
淡いオレンジ色の髪をしており、肩辺りで雑に切られている
年齢はおおよそ12~14歳といったところだろうか
ハーフキャットは実年齢より幼く見えるので、それを考慮しての予想だが
痩せ細った少女はとても軽く、枯れ木のようだった

周りの視線を無視して彼は自宅への道を進んで行く
大通りから1本横道に入り、民家が並ぶ通りへと出る
その先にシルトの自宅、ハーフブリードの家があった

少女を抱き、両手が塞がっている彼は足で扉を2回蹴る
ドンドンという大きな音が室内に響き、シャルルとサラがビクっとする
彼女達の耳がピクピクと動き、玄関の扉へと視線を向ける

・・・・開けてくれー・・・

扉の向こう側から曇った音のシルトの声がする
それを聞いたサラが玄関へと向かう
ガチャリと扉を開き、シルトがその隙間に身体を滑り込ませる

「え?」

サラが彼の抱く少女を目にし、しばし固まった

「ちょっと通してね」

その言葉でサラは数歩下がり、彼と少女を通す
家の中に入ってきた彼とその手に抱く少女を
シャルルが目にし口を開けたまま固まっていた
シルトが少女をソファに寝かせ、呆けているシャルルに言う

「治療を頼めるかな」

「え?あ、うん!」

慌ててシャルルは少女へと駆け寄り、回復魔法を詠唱する

「癒しの息吹よ」

薄い緑色の息が少女の身体全体を包み込む
シルトは立ち上がり、玄関で棒立ちのサラの元へと行く

「ラピとジーンさんは?」

「ジーンさんは寝室、ラピは部屋じゃないかな」

「それじゃ、ラピ呼んで来て、僕はジーンさんを」

そう言った彼は寝室へと向かう、その後ろにサラが続き、客室へと入って行く
少しして、ラピとジーンと共に居間に全員が集まる

「その子は?」

ラピが少女を見ながらシルトに聞いてくる

「説明は後で、とりあえず治療お願い」

ジーンとラピが少女に近寄り詠唱を始めた
その様子をシルトとサラは黙って見守っていた

少女の状態を言葉にするのが嫌なほど酷かった
頬骨や右手首は折れており、肋にもヒビが入っている
顔は元の顔立ちが分からぬほど腫れており、歯は全部抜かれていた
耳には重りのついたピアスが付けられており、折れ曲がっている
身体中に擦り傷や打撲の痕があり、その身体はガリガリに痩せ細っている
そして、彼女の尻尾は根元から切断されていた

「シルさんちょっと席外してもらっていい?」

ジーンが彼に言い、シルトは頷き、外へと出る
少女の状態を思い返す、誰がこんな酷い事を・・・彼は腹が立っていた
胸糞悪くなり、彼は普段しない舌打ちをする
しばらく時間を潰すために近くの喫茶店へと向かうのだった

彼が外へ出たのを確認した後、シャルルが少女のワンピースを脱がす
現わになった身体は肋が浮き出ており、青アザがそこら中にあった
胸にはリング状のピアスが付けられており、片方は引きちぎられている
少女の陰部と肛門は裂け、血の痕が残っていた

それを見た彼女達は目を背けたくなる
しかし、治療は続けなければいけない
心が痛むが、早く痛みから解放してあげたい気持ちが勝り
シャルルは上位回復魔法を連続で詠唱する

「根源たる生の灯火よ」

彼女の手に青い炎が宿り、少女の尻尾の付け根とお尻へとあてがう
僅かにビクっと少女の身体が動き、落ち着きを取り戻していく

「陽光の暖かさを」

シャルルの手が黄金色に光り、少女の身体を照らす
みるみる内に青アザが消え、擦り傷は癒えてゆく
ジーンとラピは回復の効果を促進する補助魔法を継続していた
数時間に及ぶ治療が続けられ、目立った外傷は癒えていた
しかし、欠損した部分を戻す事は彼女達でも出来ない
日も落ちてきた頃、シルトが帰宅する

「ただいま・・・もう良いかな?」

彼が横を向きながら玄関から声をかける

「うん、さっき終わったとこ」

サラが彼を出迎え、居間へと向かう
そこにはジーンとラピが座っており、疲れた顔をしていた

「あれ?あの子とシャルルは?」

「二人なら客室だよー」

「そっか、おつかれさん」

居間を通り抜け、客室に向かう
彼の後ろにはサラが着いて来ていた
シルトは静かに扉を開き室内の様子を伺う
それに気づいたシャルルが手招きをしてサラと共に入って行く

「どう?様子は」

「うん、もう大丈夫・・・治せないとこもあったけど・・・」

仰向けに寝る少女の頭を優しく撫でながらシャルルは目を細める

「シルトさん、そろそろ説明してほしいんだけど・・・」

「あぁ、軍本部から帰る時にスラム街に寄ってね
 そこで倒れてたから連れて帰ってきただけだよ
 あのままじゃ死んじゃうだろうしね、神殿も多分見放すだろうし」

神殿とは各都市にある六神信仰の神殿であり、教会が運営している
そこでは治療を受ける事もできるのだ・・・普通であれば、だが
ハーフキャットという存在は人間の中では人権はほぼ無いと言っていい
重症のハーフキャットの少女が運び込まれたとしても治療は施されないだろう
シルトはそう判断して自宅へと連れ帰ったのだ
幸いな事にハーフブリードには生の魔法使いが3人もいるからだ

「そっか、シルトさんらしいね」

サラとシャルルは目を合わせ、微笑み合う
その時、少女がもぞっと動き、ゆっくりと目が開かれる

「サラ、ジーンさんとラピ呼んできて」

「うん、わかった」

サラが小走りで居間へ戻り、シルトはベッドの横へとしゃがみ込む
反対側にはシャルルがおり、少女の頭を撫でていた

「もう大丈夫だよ、怖かったね」

少女はシャルルの顔を見つめ、ぼーっとしている
自分と同じハーフキャットがそこにいて、少女は困惑していた
居間から3人が戻り、少女が顔を向ける
そこにはもう一人ハーフキャットがいた、サラだ
そして、ベッドの横にいるシルトに気づき、少女は恐怖に顔が歪む
毛布を被り、ガタガタと震えていた
シルトは立ち上がり、少し離れて行く

「サラ、代わりにお願い」

「うん」

先ほどシルトがいた場所にサラがしゃがみ込み
少女の震える手を取る

「人間の男の人はもういないよ、大丈夫」

サラには少女の気持ちが痛いほど分かっていた
男性を見て恐怖したあの顔、それが当時の自分と重なったのだ
サラの優しい声に少女が毛布から顔を出す
そこにいたハーフキャットの女性に安堵し、手を握り返してくる

「お名前とか教えてくれるかな?」

シャルルが優しく頭を撫でながら聞く
少女は小さく頷き、口を開いた

「わたひは・・・ハル」

歯の無い少女の滑舌はあまり良くなかった

「ハルちゃんか、私はシャルルだよ、よろしくね」

シャルルが微笑み、頭を撫でる
それにハルは目を細め、耳がピクピクと動き、気持ちよさそうにしている

「私はサラ、よろしくね」

手を握るサラを見てハルも微笑む
同族に囲まれ、久々に安心感を得たのだ

「良かったらお話聞かせてくれるかな?」

シャルルが優しく聞く、普段の元気一杯な感じはなく、とても柔らかな声で
ハルは頷き、語りだす

ハルというこの少女はある場所から逃げてきたらしい
それはサラとシャルルが産まれた場所
ドラスリアとネネモリの国境付近の大森林の中にある娼館
そこで受けた数々の酷い仕打ち、一緒に逃げた仲間の死
逃げた後に街の人々から受けた酷い仕打ちの数々
それらを全て語ってくれた

シャルルとサラは涙しながらその話を聞いていた
ラピも涙し、部屋の隅にうずくまっていた
その横にジーンが座り、ラピの頭を撫でている
シルトは一番離れた場所の椅子に座って、黙って話を聞いていた

「ありがとう、つらかったね・・・もう大丈夫だよ」

シャルルが微笑み、少女の頭を撫でる
ハルは安心感に満たされて、心に余裕が出来ていく
室内を見渡してシルトを見て固まる・・・僅かに身体が震え出す
そんな少女にサラが口を開く

「あの人だけは大丈夫、私達が保証する
 ハルちゃんを助けたのもあの人、シルトさんだよ」

「うん!シルさんはいい人だよ」

シャルルも笑顔でサラに続いた
二人のハーフキャットの説得もあり、少しだが警戒を解いた
そのやり取りをシルトはいつもの緩い雰囲気で見守る
しばらくして落ち着いたハルは寝息を立て始める
起こさないようにそっと部屋を出て、居間へと集まる

「シルさん、あの子どうするの?」

「しばらくは匿うよ」

「その先は?」

「んとね、1つ考えがあるんだ」

皆が頭に?でも浮かびそうな顔をする

「例の娼館、いい加減ぶっ潰そうかと思う」

皆が驚き、目を見開く
彼の表情は普段の緩さは一切ない、そこには怒り、憎しみ、殺意が込められていた
突然表情が元に戻り、彼は続ける

「彼女達を全員助けて、ネネモリに受け入れてもらおうかと思ってる
 僕らは世界を救った英雄って事になってるでしょ?
 それに、ネネモリには死の巫女さんとかもいるしね
 頼めば案外簡単にいかないかな?と思ってるんだけど・・・どうかな?」

「うん!良いと思う!!」

シャルルが眼を輝かせて賛同してくる

「私も・・・賛成かな、ちょっと怖いけど」

サラは娼館の事を思い出して、過去の恐怖を噛み締めていた
シャルルはそんなサラの肩を抱いて、大丈夫、と背中を撫でる

「私も賛成・・・あんなのってないよ」

ラピが涙が溢れる目をこすりながら言う
そして、ジーンは淡々とした声で言う

「いいよ、やるなら証拠残さないようにね?」

「もちろん」

シルトとジーンが目を合わせ、お互いニヤける

「それじゃ、ハルちゃんが落ち着き次第出発しよう」

「「「「おー!」」」」





2日が経ち、ハルは元の状態が信じられないくらい元気になった
今では朝からぴょんぴょんと跳ね回り、シャルルとサラと遊んでいる
髪はラピに綺麗に切りそろえてもらった
顔からは腫れや青アザは消え、本来の可愛さを取り戻している
たった2日だが、シルトが彼女のために作った噛む必要のない料理や
サラからしつこいくらい聞かされた事により彼への警戒心も無くなっていた

「ひるとさん!お腹すひた!」

「ほいほい、もうちょい待ってな~」

台所で料理をするシルトの後ろから何が出来るのか覗き込んでいる
サラが彼女の両脇を抱え、運んで行く

「邪魔しちゃダメだよ、こっちで大人しく座ってるの」

ハルのために買った新しい椅子に腰掛けさせ頭を撫でる

「はーひ!」

しばらくして料理が運ばれ、全員が食卓につく

「いただきまーす」
「「「「いただきます」」」」
「ひただひます!」

賑やかな食事を終え、皆が食後の紅茶と甘い物を食べていると

「明日、皆で旅行に行こう」

「りょこう?りょこうってなひ?」

「んとね、みんなでお出かけするんだよ」

「・・・・お外・・こわひ」

俯くハルの頭をシャルルが撫でる

「大丈夫だよ!お姉ちゃん達すっごく強いんだから!守ってあげる!」

「ほんと?」

「うん!絶対!!」

「じゃあハルもひく!」

こうして旅の準備を始めるのだった
その日の夜、シルトは寝室へ向かうジーンを呼び止める

「ちょっといい?」

「うん、どうしたの?」

「またジーンさん頼っていいかな、汚れ仕事だけど」

「うん、いいよ、あの子達にはやらせられないもんね」

「ありがと、助かる」

ジーンはひらひらと手を振りながら寝室へと入って行く

翌朝、一行は馬車を雇い、ネネモリへと向かう
初めての馬車にハルは大はしゃぎだった
今のハルはシャルル達の選んだ可愛い桜色のワンピースを着ている
白いフリルがついており、少女の魅力を引き出していた
横に白い花の装飾の入ったブラウンの革靴も買い与えた
ハルは靴を履いた事がなく、最初は違和感に顔を歪めたが、もう慣れたようだ
頭にはつばの広い麦わら帽子をかぶっており、その耳は隠されている
尻尾の無いハルは帽子をかぶっていればハーフキャットという事が分からない
それが少女を安心させたのだった

数日の馬車の旅が続き、一行がネネモリの首都イオマンテに到着する
イオマンテの大通りをそのまま通過し、一行は街から離れた家へと向かった
そこは死の巫女リリムの家、隣にはエインが暮らしている
リリムの家の前で馬車を止め、シルトがノックをする

「はい、どちら様ですか~?」

「ハーフブリードのシルトです」

中からドカ!バタン!と大きな物音がし、扉が開かれる

「ど、どうしたんですか?!」

慌てて出てきたリリムはスネをさすっていた、どうやらぶつけたらしい
家の中に通され、事情を説明する
リリムの表情はみるみるうちに険しくなっていった
今、ハルは外でシャルルとサラと遊んでいる
リリムが窓の外でキャッキャとはしゃぐ少女を見て、目が潤む
それを法衣の裾で拭い、キッと真剣な表情へと変わる

「分かりました、ハルちゃんはお預かりします
 それと、受け入れの件はお任せください、族長と掛け合ってみます」

「ありがとうございます
 あ、そうそう、この件に僕らが絡んでる事は内密で」

「え?はい」

よく分からず返事をしてしまう
こんな素晴らしい行動を秘密にするなんて、なんでだろう?とリリムは思っていた
彼等の英雄譚の1つになりそうなものなのに、と

「それじゃ、僕らは失礼します」

外に出た彼等はハルに告げる、ここにしばらく居てほしいと
彼女は反対した、それをシャルルとサラが説得するのに1時間は掛かった
2~3日で戻ると約束し、彼等は旅立つ
ハルは彼等の背中が見えなくなるまでずっと見つめていた





ハーフブリードは夜の闇に紛れて巨大な館へと近づいていた
そこはハーフキャット達が「作られている」場所
そして、その彼女達が娼婦として奴隷として働かされている場所
ハーフキャットは男が生まれればその場で殺される、商品価値が無いからだ
そのため、ハーフキャットとは女性しか存在していないのである
娼館の大きさは幅40メートル、奥行50メートルの二階建ての巨大な物だ
大森林の中、大きく拓けた場所に堂々と建っていた

「まずは見つからないように、静かに行くよ」

小声でシルトが作戦を説明する

「シャルルとサラとラピは彼女達を確保したら
 彼女達を連れてネネモリへ撤退
 ジーンさんと僕で敵を引きつけて時間を稼ぐから、頼むね?」

声は出さず皆が頷く

「それじゃ見つからないように窓から入ろう
 見つかったら救出優先だけど、自分達の命は大事にね」

皆が、うんうん、と頷き、ゆっくりと動き出す

外にいる見張りは入口に2人、巡回が4人、裏口に2人
窓から見えた奴等を合わせて、少なくとも20~30人はいるだろう
見張りは武装しており、ここが真っ当な場所でないのがありありと分かる
奴等はならず者か盗賊、そういった言葉がぴったりの風貌をしていた

静かに壁まで行き、中の様子を伺い、窓に手をかける
鍵が掛かっており、開かない
シルトは薄い紙切れを懐から1枚取り出す
それを窓の隙間に差込み、すっと上へ動かしていく
カチャン、と小さな音を立て、窓の鍵は外れる
静かに開き、中の様子を伺う・・・・見張りはいないようだ
サラ、シャルル、ジーン、ラピ、シルトの順で入り
一行はここに来る前に調べた情報を元に動き出す

旅へ出る前、シルトとジーンは調べ物をしていた
それはこの館を作った大工の事だ
そして、半ば無理矢理この館の図面を手に入れる
図面を見てジーンがおおよその配置を導き出す
今、それに従って行動をしていた

彼等の入った窓から廊下を進み、突き当たりを曲がった場所に地下への階段がある
目的はそこだった、シャルルやサラの言葉から彼女達は地下にいる事が分かっている
曲がり角まで来て、様子を伺う
階段の扉の前には見張りが1人、あくびをして立っていた
シルトが腰から2本のナイフを取り出す
見張りの男が再びあくびをした瞬間、1本のナイフを彼の喉目掛けて投げる
トスッという小さな音を立て、ナイフは深々と男の喉に刺さる
男は声をあげる暇もなく絶命した
そして倒れそうになったところをシルトが支え、音を立てずゆっくりと寝かす
男の首からはドクドクと血が流れ、血溜りを作っていく

地下への扉を開き、一行が地下へと早足で下りる
先頭はシルト、続いてジーン、シャルル、ラピ、サラの順だ
地下には見張りはいなかった
これだけ厳重に警備しているのだ、最深部であるここまで見張りを置かなかったのだろう
そこには檻にも似た部屋が続く
各部屋は鉄格子で隔てられており、地下全体が見渡せる
その中にはハーフキャットの幼子から大人まで、おおよそ50名がいた
剣で1つ1つの鍵を壊し、彼女達を解放していく

「安心してください、僕らは貴女方を助けに来ました、一緒に逃げましょう!」

僅かにだが歓声が上がる、それをしーっと人差し指を口元に当て制す
彼女達はそれに従い、黙って彼等の後に続く
シルトとサラが鍵を壊し、彼女達の足に繋がれている鉄球の鎖に剣を突き立てる
輪っか状になった鎖に剣の切っ先を差し込み、一気に体重を乗せる
パキンッという音が響き、鎖が断ち切れる
一番奥には扉があり、耳を当て中の様子を伺う
特に音はしなかったのでゆっくりと扉を開く
シルトが部屋へ1歩踏み込んだ瞬間、後ろにいるシャルル達を手で制す

「ここはいいから、彼女達をお願い」

そう言って彼は一人で部屋へ入り、扉をしめる
部屋は薄暗く、汚物などの悪臭が漂っていた
その中央には椅子があり、1人のウェアキャットの雄が座らされている
座らされているというのは縛り付けられているという事だ
彼の両目は潰され、牙は折られ、両手足は切断されていた
彼こそがハーフキャット達全員の父親だろう
奴隷の人間の女性と無理矢理交尾をさせられ、子を作らされていた
ただそのためだけに生かされている

「人のする事じゃないな・・・くそっ」

シルトは舌打ちをして、彼の元へと歩み寄る
人の気配にウェアキャットの雄は呻き声をあげる

「安心してください、助けにきました」

「うぅ・・・あぁ・・・・」

首を横に振る彼には舌が無かった、喋る事すらできないのだ
そんな彼の酷い状態にシルトの瞳に涙が溢れる

「・・・・貴方は死にたいですか?」

彼は何度も頷いた、弱々しく
潰れた目からは涙が流れていた

「・・・わかりました・・・・・・ごめんなさい」

シルトは腰の剣を抜き、一気に振り下ろす
彼の首が落ち、ゴトっと音を立てる
近くにあったボロ切れで剣を拭き、シルトは涙に濡れた目を自身のマントで拭く
そして彼は部屋を後にする
部屋を出たシルトは無理矢理笑顔を作り、3人に指示を出す

「サラ、シャルル、ラピ、後は頼んだよ」

「うん!任せて!」

「おっけー!」

「シルさんとジーンさんには強化魔法かけておくね」

ラピは本を開き、中空で指を動かし、文字を綴る
彼女の足元に魔法陣が現れる

「カントより・・・・おいでませっ!」

両手を上へと上げ、それに合わせ魔法陣も彼女の身体を通り上昇していく
中空で回転した魔法陣は黒い世界へと繋がり、そこから銀色の狼が顔を出す
僅かに雷をまとったそれは聖獣エペタムだ
彼女、ラピ・ララノアが白銀と呼ばれる理由の1つである聖獣だ

「エペタム、シルさんとジーンさんに」

二人を指差し、エペタムは二人へ小さな雷を落とす
彼等の中から力が溢れてくる

「これが強化魔法なんだ、初めて受けた」

ジーンが自身の身体を動かしながら色々確かめて頷いている

「それじゃ僕らが騒ぎを起こすから、3人は彼女達を連れて急いでね」

「おっけー!」

シャルルが親指を立てて歯を見せ笑う
サラの表情はかなり険しい、ここに戻ってきて恐怖が増したのだろう

「サラ、しっかりして」

シルトが彼女へ声をかけ、サラは小さく頷く

「ジーンさん、行くよ」

「うん、どこまでやっていいの?」

「最初は精霊はなしでお願い、まだ彼女達がいると思うから」

「了解」

階段を上がり、廊下へ出た時、交代に来た見張りの一人と鉢合わせる
シルトは一瞬で間合いを詰め、男の喉へと剣を深く突き刺す
しかし、彼の喉に剣が刺さる一瞬手前、男が大声をあげてしまった
そして、男は絶命し倒れる
シルトの表情は冷え切っていた、いつもの彼からは想像もできないほどに

「急いで」

彼の低い声が響く
その空気の変化にシャルル達は急いで外へと向かう
窓を開け、外へと飛び出す
それに続くようにハーフキャット達がどんどん外へと飛び出していった
シャルルが先頭で、ハーフキャット達が続き、ラピはエペタムに乗り
最後尾をサラが持っていた

「ジーンさん、とりあえず全部の部屋見るまで精霊禁止ね」

「了解」

彼女は手や首をポキポキと鳴らし身体をほぐす
そこへ野盗のような奴等が4人駆けて来る
シルトは奴等に向け走り出す
一人目の一撃をかわしながら首を跳ね、そのまま二人目の顎へと盾をかち上げる
盾は深く喉に突き刺さり、一撃で即死する
一瞬で二人殺された事により、残りの二人に動揺が走る
しかし、その動揺が彼等にとっては命取りだった
シルトの二撃目の斬撃が1人の首を跳ねる
そして流れるような動きで鋭い突きがもう1人の胸へと突き刺さり、貫通して壁へと刺さる

廊下での騒ぎにすぐ横の扉が開き、半裸の男が顔を出す
腰にあるナイフを投げ、半裸の男の眉間へと深く刺さり、男は絶命する
ジーンが部屋へと顔を入れ、中にいるハーフキャットの少女に手招きをする
少女はシーツを身体に巻き、歩いて来る

「助けに来たよ、急いで服を着て
 あそこの窓から真っ直ぐ走って、その先に皆いるから」

部屋から外を覗いた少女は状況を理解し、その顔はパッと明るくなる
大急ぎで服を着て駆け出す
それを見送ってからジーンは次の部屋へと足を進めた

シルトは台風のように暴れていた
彼の目には怒り、憎しみ、殺意、それしかない
現れる男という男を全て斬り殺した、数はすでに25人を超えている
返り血により赤黒くなった鎧とマント
鬼気迫るその顔はまさに鬼のようだった
死体だらけの道をジーンが進み
客を相手していた一人一人のハーフキャットに行くべき道を教えている
その時、窓から外を見張っていた男2人が入ってくる
手にはロングソードとショートアクスが握られている
振り向いたジーンはハァとため息をして拳を構える

「お前が侵入者か、結構いい女じゃねぇか」

「ひひ、こいつ犯ってもいいのか」

「いいんじゃねぇか、へっへっへ」

ロングソードを持った男がジーンへと近寄り、顔を寄せる
その瞬間、ジーンの前蹴りが男の膝に入る
足がピンと伸びた状態になり、筋を痛め、立っていられなくなる
倒れ込む彼の頭を両手で掴み、ジーンはジャンプするようにして膝を男の顔面へと食らわす
男の鼻や前歯が折れ、崩れ落ちそうなところに、ジーンの容赦ない追撃が入る
それは股間へと強烈な前蹴りだ
男の股間は潰れ、股辺りから血が滲む・・・既に男は死んでいた

一瞬で仲間が倒れ、もう1人の男は1歩後ずさる
そこへジーンが2歩助走をつけ飛び蹴りをかます
それは男の胸に当たり、男は吹き飛び、壁へとぶつかる
着地したジーンは一気に距離を詰める
一回転しながら左手で右手に包み込むようにし
その勢いのまま右の肘を男の喉元へと突き刺す
男の喉が潰れ、血を吐き出し、絶命する
息絶えた男達に冷たい目を向けパンパンと手を叩き、ジーンは歩き出す

シルトは1人の男を捕まえていた
彼の喉元へ剣を突き立て、尋問している
この男はハーフキャットの少女、いや幼女を犯していたのだ
幼女はその行為に耐え切れず、死んでいた
もしくは、死んだ幼女を死姦していたのかもしれないが

「お前等の雇い主を言え」

「そ、それだけは!」

「これ以上は言わないよ、言え」

彼は微笑んでいた
その笑みの異様さが恐怖を感じさせるには十分だった

「ド、ドラスリアの貴族だ!」

「貴族?誰?」

「・・・・」

「言え」

彼は再び笑顔になる
そして剣を少しだけ喉に刺す

「わ、わかった!わかったから殺さないでくれ!」

「早く」

「フィッツィ伯爵だ!」

「フィッツィ伯爵ね」

「もう言っただろ!離してくれ!」

「僕がいつお前を殺さないって言った?」

「は!?ふざけっ」

ドシュッという音を立て、彼の喉に深く剣を突き刺し、グリッと捻る
シルトは立ち上がり剣を振り、血を払う
幼女の死体に綺麗なシーツをかけ、その目を閉じさせる
涙したシルトは館の中を歩いて行く
彼の通った道には死体が溢れており、そこら中に血が飛び散っていた

ジーンは部屋を1つずつ確認している
逃げ遅れているハーフキャットがいないか見ているのだ
そこへまた1人、盗賊風の男が現れる
今度の男は190センチはある大柄で、彼の腕はジーンの腰よりも太い
男は武器を持たず、ジーンへと向かってくる
その顔は醜く歪んでおり、舌で口を舐めている
ジーンは構え、指をちょいちょいと動かし、男を挑発する
それに男は激怒し、大きく振りかぶり右拳を振るう
それをひらりとかわし、その腰のように太い腕を両手で掴む
相手の勢いを利用して大男を投げ飛ばす
背中と後頭部から落ちた男は視界がグラグラと歪む
そこへジーンが両手に小さな杭のような物を持ち男の太い首へと刺す
すぐに抜き、そのまま男の両目に突き立てる
目が潰れ、男が暴れる、ジーンは飛び退き、その様子を見守る
男が暴れる度に首の穴から血が勢いよく吹き出す
少しして男は痙攣しながら静かになっていく
ジーンはため息をつき、次の部屋へと向かうのだった

しばらくして、館にいた全ての男は彼等二人に殺された、総勢52名
どんなに命乞いをしようとシルトは許さなかった
ジーンは証拠を残すのは愚かと判断し、躊躇わず殺した
二人が館の入口で落ち合い、全員逃がした事を確認し、館に火を放つ
パチパチと燃え広がる炎を背に二人が話し始める

「フィッツィ伯爵が黒幕だとさ」

「フィッツィ・・・あぁ、ここから近いよ」

「そうなの?じゃあ行こうか」

「うん、今度は精霊使っていい?
 ワータイガーから教わった格闘技は少しは出来るけど疲れちゃって」

「おっけ、全部ぶっ潰そう」

二人は燃え盛る娼館を後にし
3キロほど離れたドラスリア領内にある豪邸へと足を進める

フィッツィ伯爵はドラスリアの中級貴族に当たる人物だ
財力だけで言ったら相当なもので、色々な人脈があるという人物だった
家には怪しい男が出入りしてるとの話もあり
異常なまでの数の護衛を雇っている事からも、きな臭い噂が絶えなかった


シルトとジーンは大森林を抜け
フィッツィ伯爵邸へと辿り着くのだった







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