2016_01
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(Sat)16:45

2章 第8話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第8話 【限界線】

さぁ、再び物語が大きく動き出しますよー。
これから楽しくなってくるはずです!多分、きっと、おそらく!

では、続きを読むからどうぞー。









【限界線】






朝日が眩しくなる頃、ハーフブリードはラーズ首都への道を行く
澄み切った空気が心地よく、足取りは早まる
仲間達の様子を伺う・・・あの戦闘からそのまま強行軍で進んでる事もあり疲労が色濃く見えた

「ここらで少し休もう」

シルトは皆に提案し、近場の岩に荷物を置く
今回手に入れた中で一番大きな獲物は金色の巨大な両手斧だ
その重さはかなりのもので、シルトで無ければ運べなかった
それに加え、石像に破壊されたミスリルウォーシールドも回収している
大荷物を抱えての移動は想像以上に体力の消耗を早めていた

魔力の使いすぎか、ジーン、シャルル、ラピの顔色は悪い
その中でも特にシャルルの顔色が優れない
ドラゴンゾンビ戦で生の灯火を使いすぎたのだろう
生の灯火とは一般的な生の魔法の中では上位に入る魔法だ
遠距離での効果は無いに等しいが、直接触れる事で患部を急速に再生させる魔法だった
それをドラゴンゾンビ叩き込み続けたのだ、魔力消耗は尋常ではないだろう
そして、最後にシャルルの使った魔法、魂の再生
一般的な生の魔法では最上位とされている魔法で、瀕死の者すら救える事もある魔法だ
しかし、その消費魔力は生の灯火の比ではない
普段からは想像も付かないほど静かなシャルルを見て
彼女達にはラーズまで魔法を使わせない方がいいだろう、彼はそう思っていた

ゴソゴソと荷物を漁るサラが目に入り、シルトは声をかける

「どったの?」

「うん、あのブーツ履いてみようかと思って・・・サイズ合うかな?」

「どうだろ・・・合うといいね」

「うん」

サラがブーツを取り出し、履いていたレザーブーツを脱ぐ
彼女は綺麗なタオルで足を拭き、バイコーン(双角獣)のブーツに足を入れる
サラの足には少し大きいようだった
しかし、不思議な事にそのブーツは彼女の足に合わせサイズが変わっていく

「わ、ぴったりになった」

「おー、すごいね」

「うんうん」

嬉しそうに尻尾を揺らし、目を細めていた
トントンとつま先で地面を蹴り、感触を確かめている
サラの真新しい赤いコートと、そのバイコーンのブーツは似合っていた

「どう?」

「んー、少し走ってみる」

そう言い、サラは数歩離れて前傾姿勢を取る
その様子を皆が注目している
シルトの後ろでラピがジーンに聞いていた

「あのブーツってそんなにすごい魔法かかってるの?」

「うん、大丈夫かな・・・」

ジーンの予感は的中した
サラが一歩走り出すと、それはまるで閃光のようだった
大地が弾け、土砂が巻き上がり、土煙を上げ、サラが一瞬で姿を消す
10メートルほど先でサラがゴロゴロと転がっていた
たった1歩、そのたった1歩で一瞬で10メートルも進んだのだ
皆が目を見開き、口をあけていた
遅れてシャルルが駆け出し、サラへと向かう
それに続き、皆もサラの元へと走った

「いててて・・・何なのこれー」

サラが起き上がり、髪やコートを叩きながら愚痴をこぼす
シャルルが大丈夫?と心配しているが、サラは2回頷く、どうやら平気なようだ

「今、サラの動き見えた人いる?」

シルトは皆の顔を見ながら確認を取る
彼自身、目で追うのがやっとだったのだ
今まで素早い人間は沢山見てきた、だがサラの1歩はそれを遥かに凌駕していた
そう、あのエインの疾雷と言われた突きの突進すらも
彼は一瞬だが恐怖したのだ、あの早さで動く人が存在したら勝てるのか?と
そして、1つの不安が彼の中に生まれていた

「全然見えなかった、赤い光みたいな感じー」

「うん、私もそんな感じに見えたかな」

「え?私は見えたけど」

どうやらシャルルだけはハッキリと見えていたらしい
ハーフキャットとは動体視力も良いのだ
シルトの動体視力も相当なものだが、流石に彼女達には及ばない
このやりとりを経て、シルトの不安は和らいでいく
しかし、念のためサラに聞く事にした

「サラ、目はスピードについていけてる?」

「うん、まさかあんなに早いと思わなくて間に合わなかっただけだよ」

「そっか、これでサラは化けるかもな」

「化ける?」

「僕を超えるかもしれないって事だよ」

「それはないよ」

彼女は断言した、あまり自己主張をするタイプではないが時折こういう場面がある
その大半はシルトが絡んだ話の時だ
彼女から向けられる絶対的な信頼はシルトにとって僅かにだがプレッシャーにもなっていた

「そっか、でも使いこなしたら凄い武器になるよ、がんばっ」

「うん!」

その後、サラは何度か走り込み・・・というより1歩なのだが・・・を繰り返していた
力の加減が上手くいかないようで苦戦しているようだ

シルトも盾を試してみようと思い、右腕でそれを持つ
頭の中に言葉が浮かび、その1つを呟く・・・反射、と

「ラピ~、僕に小石投げてみて」

「え?いいの?」

「うん、思いっ切りでもいいよ」

「ふへへ、だってさ!みんなで投げよう!」

「ちょ、皆とか待って」

しかし、彼の言葉は届かない
皆が近くにあった石を手にし、それを構える
ジーンは2センチほどの小石で、ラピも同じくらいだ
だが、シャルルの石は小石と呼ぶには大きすぎた、それは7センチはあるだろうか

「シャルルさん?落ち着こうね?」

「えー!だってシルさんに攻撃できるなんてレアじゃん!」

「ま、まぁいいけど・・・怪我しないでね」

「おっけー!」

彼女達はほぼ同時に石を投げ、ジーンとラピの小石が先に盾に当たる
コンコンッと小さな音を立てて石は弾かれ、地面に落ちる
その後、ゴンッと低い音を立ててシャルルの放った石が真下に落ちる

「あれ・・・反射なんてしないじゃんこれ・・・どうなってんだ?」

「壊れてるとか?」

「えー・・・まじか・・・でもアーティファクトだからミスリルより硬いし良いのかな・・・」

「魔力は感じるから壊れてないはずだけど」

「じゃあ使い方が違うのかな?」

「そうかも」

それからシルトは反射反射と連呼しながら色々試すが魔法が発動している様子はなかった
しかし、彼の中で疲労感が蓄積されていく・・・それは魔力を行使している証だった

休憩し、魔力がある程度回復したシャルルもアーティファクト装備を試すようだ
彼女は右手の中指に薔薇の指輪をはめ、薬指に王冠の指輪をはめている
二つの指輪はチェーンで繋がっており、彼女が動く度にシャラっと小さな音を立てる

「生と風かー・・・風使った事ないからなー」

シャルルがこめかみに人差し指を突き立て、目を瞑り、考え込む
そこへジーンが歩み寄り、彼女に声をかけた

「言い忘れてたけど、それ・・・生と風の融合魔法が使える指輪だよ」

「え?融合?」

「うん、火の巫女の溶岩魔法みたいなもの、あれは火と地の融合ね」

「融合・・・融合・・・・」

シャルルの眉間にシワがより、うーん、うーん、と唸っている
そして、突然ぽんっと手を叩き、目を輝かせる

「風樹(ふうじゅ)魔法にしよう!」

「え?」

ジーンが呆気にとられ固まる、悩んでいたのはそこ?と

「にしし!風樹魔法を使うぞー!」

シャルルは両手杖を構え、目を閉じ集中する
彼女の指輪が光り始める

「あ・・・・来たかも・・・」

魔法とは特定の呪文が無ければ発動しない訳ではない
実は呪文とはイメージを固定しやすくするための言葉でしかないのだ
新しい魔法を覚えるという事は、そのイメージを固める必要があった
そして、そのイメージを固めるためには神への信仰が最短とされているのである
最短と言ってもその道は険しい、曖昧なイメージでは曖昧な魔法しか発動はしない
そのため、普通の人には1属性の魔法しか使えないのだ
シャルルは今、生と風の融合のイメージが降りてきたようだった

「風樹魔法!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何も起きなかった

「あっれー?」

「もっとイメージしやすい言葉を選んだ方がいいんじゃないかな?」

ジーンの助言にむすっとするが、渋々その案を受け入れる

「風を生む大樹よ・・・」

薔薇の指輪が白く輝き、王冠の指輪が青緑に輝く
シャルルの髪や服がバサバサと揺れ、辺りには土煙が上がり始める
突然風が起こり始め、ラピやシルトやサラもシャルルを見る
彼女の前方5メートルほどの位置に小さな竜巻のようなものが出来ていく
その竜巻からは白い雷のようなものが発生していた
ピシッという音を立てる度に白い雷が竜巻から枝のように生え
それは小さな木のようにも見えた
しかし、それはふわっと拡散し消えて行く・・・

「あぁ~、消えちゃった」

「でも惜しいとこまでいってるよ」

「うん!そうだね!」

シャルルが笑顔になり、もう1回やるぞー!と気合を入れている
だが、ジーンがそれを止めていた・・・今は魔力回復しなきゃ、と
シャルルがむすーっとつまらなそうに座る
その光景を目に、シルトは苦笑していた
彼はシャルルの後方、少し離れた位置にいるラピに目を向ける
ウェールズがラピのピアスに頬ずりをしており、ラピもくすぐったそうにしていた
スズランのピアスが朝日を浴びて煌めいている

「私もやってみようかなー」

ラピがウェールズを下ろし、ピアスをぴんっと指で弾く
シャルルが体をのけぞり、ラピを見る
その横でジーンもラピの様子を見ていた
弾かれたピアスから不思議な鈴の音のようなものが辺りに響く
綺麗な音が鳴り響くと同時に彼女の周りに銀色の粉のようなものがキラキラと舞う

「温かい・・・・・・・おいでませっ、ディナ・シー」

目を瞑り、両手を組んでラピは言う
いつものように元気よく言うのではなく、優しくお願いするように・・・
銀の粉はくるくるとラピの周りを回り、頭上へと集まっていく
光が強まり弾けると、15センチほどの少女が姿を現す
頭はピンクの花のようであり、目は全眼で黄色かった
花びらで出来たようなワンピースを着ており、可愛らしい印象を受けた
その背には蝶のような羽根があり、パタパタと止まる事なく羽ばたいている
全体的に黄緑色の少女は銀の光を放っており、キラキラと光の粒が舞い落ちる

「おおー、かわいいー」

おいでー、とラピが呼び、ディナ・シーが彼女の腕に座る
ディナ・シーは目をパチパチして、足をぶらつかせて微笑んでいた

シャルルがラピへ駆け寄り、見せて見せてー!と興奮している
ジーンは小さな少女を見て記憶と照らし合わせるが、該当するものは思い浮かばない
サラもとことこと歩いてきて、かわいいーと微笑んでいた

「ラピラピ、この子は聖獣なの?精霊なの?」

「ううん、どっちでもないみたい」

「ほー?」

「この子は妖精、お花の精みたいー」

「かわいいー!」

「うんうん、かわいいー、いいなー」

妖精と聞いてジーンの顔色が変わった
彼女の膨大な知識の中で妖精という単語を検索する
該当は1件、聖獣の上位に存在する精霊とは異なる存在、それが妖精だった
聖獣とは妖精界と呼ばれる次元に住む魔力の身体を持つ生命である
その妖精界を総べるのが妖精と呼ばれている
妖精もまた魔力の身体を持ち、聖獣より遥かに強い力を持ち
その鱗粉は絶大な癒しの効果がある霊薬と言われている
精霊もまた魔力の身体を持つ存在ではあるが、全く異なるものなのだ
ジーンが呼んでいる精霊達は基本的には妖精界と並行世界の境界にいる存在
一応妖精界側ではあるが、限りなく並行世界に近い場所に存在すると言われている
そして、先日召喚したサタナキアはその並行世界の存在だ
彼女はその並行世界の門を開ける事に手こずっていたのだ
自身の魔力では足りず、バジリスクの瞳などを用いてこじ開けたのである

「ラピ、魔力の消耗は大丈夫なの?」

「え?うん、この子は聖獣より魔力食べないみたい」

「そうなんだ・・・召喚方法の差なのかな
 強制的じゃないから?いや、ピアスのおかげなのかな・・・」

ぶつぶつと独り言を言っているジーンをよそに3人は妖精を囲んでキャッキャと騒いでいる
シルトは盾の反射が発動しない事に焦りのようなものを感じながら彼女達の元へと行く

「皆、半刻くらいしたら出発するよ、ちゃんと休んでね」

「「「はーい」」」

「ジーンさん?」

「え?あ、うん、分かった」

考え事を始めるとジーンは集中しすぎてしまう癖がある
彼女は1つの事しか出来ないタイプなのかもしれない
それはジーンの長所であり短所であった

少しの休憩を挟み、彼等はラーズ首都へと早足に歩を進める
前方の大空に黒い煙が立ち込めているのを目にしながら・・・・・






プルスラスが去った後すぐにラーズ軍本部では緊急召集が行われていた
会議室にはドゥヴェルグを始めとする関係者各位が再び揃う事となった
室内の空気は異常なほど重い、それもそうだろう、初めて首都が攻撃を受けたのだ
中央通りでは大規模な火災が起き、軍本部の一部は焼け
斜面にあるドワーフの住居やバリスタが2機破壊された
今は警ら隊や軍によって火災は沈静化してきてはいるが、被害は甚大であった

「中将が敗北したのは間違いないのか?」

ドゥヴェルグの怒りの篭った低い声が室内に響く

「そのようです、城壁の見張りが確認しております」

「一人も帰って来ないのはどういう事だ」

「それが・・・辺りは火の海、一人残らず・・・」

「チッ・・・首都を襲った例の魔物の仕業か」

「おそらくは・・・」

ドゥヴェルグは長い髭を触りながら思考を回らせる
たった1体の魔物に1700もの兵が殺されたというのか、馬鹿な
しかも、それがサタナキアという魔物の部下でしかないと言うではないか
馬鹿げている、何もかも馬鹿げすぎていて頭が痛くなってくる
自身の認識にの甘さに苦汁を飲まされた気分になる

「組合長、冒険者はどうなっている」

ラーズ冒険者組合長ヒューズ・ウォールが立ち上がり書面に目を通す

「現在、2等級冒険者チームを5組確保したところです」

「そやつらで今回の敵を倒せるとでも?」

ドゥヴェルグの鋭い眼差しがヒューズの目に刺さる

「いえ・・・・それは・・・・」

ヒューズの背中に嫌な汗が流れる

「ハーフブリードはどうなっている」

「はい、それが先日ラーズ首都を早足で出立したとの報告が上がっております」

「ふむ・・・」

「ま、まさか逃げたのか!?」

議員の一人が声を荒げるが、ドゥヴェルグの視線を受け黙り込む

「奴等が逃げるとでも思っているのか?ありえんな」

「はい、私もそう思います
 彼等は困っている人を見捨てる事が出来ないような人物達です」

「先日、ネネモリで炎上した娼館・・・ハーフキャットの件か」

「はい、部下の調べによりますと彼等の犯行という線が濃厚かと思われます」

「その件は罰するつもりはないぞ」

ドゥヴェルグは果実酒をぐびっと一口飲み、言葉を続ける

「奴等が戻り次第最前線に出させろ、金ならいくら詰んでもいい」

「はい、そのように伝えます」

「それと・・・だ」

「はい?」

「月光に依頼はできぬか」

室内が一気にざわつく
月光とはラルアースに存在するもう1つの1等級冒険者、ネネモリに属するチームだ
リーダーであるシウのワンマンチームとも言えるチームだが
その実力はハーフブリードを凌ぐとも言われている
月華のシウ・・・それがシウの異名だった
彼女の持つアーティファクトの弓が由来である
満月のような黄金と、夜のような黒が合わさった弓だった
一度に200もの光の矢を放つとも言われる女性だ
元は魔法使いだった彼女は特に目立った才のある人物ではなかった
それがたった1つのアーティファクト武器を手に入れた事により大きく変化する
あっという間に1等級という前人未到の地位を手に入れ
その後も、その名にふさわしい働きをしている

「しかし、あれはネネモリの・・・」

「今はそんな事を言っている場合か?」

「ですが・・・」

「冒険者である以上、依頼はできるはずよな」

「はい、しかし他国の冒険者に、しかも1等級となると話は変わってきます」


『ハーフブリードは敗れたのだぞ!状況を理解しろ!』


ドゥヴェルグが力強くテーブルを叩き、ジョッキの果実酒がこぼれる

「・・・・分かりました、国1番の早馬を走らせ、依頼をしてみます」

「金貨1000枚用意しよう、それを持たせて、その場で前金として渡せ、いいな」

「はい」

また一口果実酒を飲み、大きなため息を吐き出す

「少将、今首都の兵は如何程いる」

「ハッ!おおよそ8000になります!」

少将と呼ばれた男が立ち上がり、敬礼をしながら声を張り上げる
彼の手やこめかみの辺りには汗が見え、その緊張が伺えた

「国境付近以外の兵を全て集結させろ、全軍ぞ」

「ハッ!・・・・え、ぜ、全軍でありますか?」

「2度も言わせるな、全軍ぞ」

「ハッ!」

「少将はもう行け、少しでも早く兵を集めろ」

「ハッ!失礼します!」

小走りで退室し、廊下を駆ける足音が聞こえる

「ここにいる者達だけにはハッキリ言おう」

全員が息を飲みドゥヴェルグに注目する

「我が軍はただの時間稼ぎぞ、全軍を持ってしても、な」

皆の顔に動揺の色が広がる

「・・・・といいますと?」

「あの魔物を倒せるのは1等級だけぞ
 兵がいくらいようと時間稼ぎにしかならん」

「・・・・・・」

室内に更に重い空気が漂う・・・誰もが薄々は気づいていたのだ
今回の魔物は桁が違う、と

「全軍を持って首都の防衛に入る、城壁だけは超えさせぬ
 城壁を限界線とし、我が国ラーズの底力を見せる時ぞ!」

ドゥヴェルグは立ち上がり、バンッとテーブルを叩く
彼に続き全員が立ち上がり、無言で頷いた

『これ以上奴等に好き勝手させぬぞ、いいな!』

『『『『『ハッ!』』』』』

こうして会議は終わり、ラーズの慌ただしい日は続く
首都防衛にあたっていた8000の兵は正門から外へ出て
サタナキアのいる場所の500メートル手前に陣を作っていた
簡易的なものだが砦も作り、侵攻を防ぐための柵も用意した
そして、続々と近辺にいる兵達が集まり、その数は膨らんでいった
たった半日で集まった兵は3万を超えていた





一方、サタナキアはバルバトスに続きプルスラスの敗北に苛立っていた
空中で足を組み、座るように浮かぶサタナキアは足元で頭を垂れるプルスラスを見下ろしている

《お前・・・我が力を与えたのに敗れた、だと?》

「も、申し訳ありません!虫けらの奴等は思ったより文明が発達しているようでして」

《我が言い訳を聞きたいとでも思っているのか?》

「はっ!申し訳ありません!」

《まぁよい・・・お前の力を過信していたまでの事・・・我の采配ミスよ》

プルスラスの梟のくちばしがギリっと音を立て、拳に力が入る
その光景を見て、サタナキアはほくそ笑む

《悔しいか、ならばチャンスを与えよう》

「はっ!ありがたき幸せ!」

《バルバストよ》

「はっ!」

サラに滅多斬りにされ、首を切断されたはずのバルバトスがそこにいた
そう、奴等は魔力の身体でできている精霊なのだ
それすなわち、サタナキアが魔力を分け与えれば復活できるという事である

《お前の枷も外してやる・・・今度こそ奴等を殺せ》

「はっ!この命にかえましても!」

サタナキアは両手を合わせるように近づける
両手の5センチほどの間に紫の雷のような玉が生成されていく

ジジ・・・・ジジッ・・・・・ジジッ・・・・

手をパンっと合わせ、玉を押し潰す
そして再び離れてゆく手の間には先ほどの雷が蛇のように這っていた

バリバリバリバリ・・・

《・・・・来い》

「はっ!」

サタナキアが両手を広げる、紫の雷は両手から伸び、繋がっている
その両手でバルバトスの頭部を挟み込んだ

『ギャギャギャギャガァ!ギョゲゲゲゲゲッ!』

バルバトスの言葉にもならない叫び声が上がり
紫の雷は彼の身体を走り、全員から焦げるような臭いが漂う

《どうだ、枷は外れたか》

「・・・・・は、はっ!ありがとうございます!!」

全身から溢れ出る力を感じ、バルバトスの表情が醜く歪む

《42の悪魔を連れ、お前等二人で人間どもを皆殺しにしてこい》

「「はっ!」」

《魔界で3魔将と恐れられたその実力、しかと見せてみよ》

「「はっ!!」」

バッ!と二人は姿を消し、その場にはサタナキアとアモンだけが残っていた

《アモンよ、お前も戦いたいのではないか》

「はっ!あの者達を倒すほどの強者、確かに興味はあります」

《くっくっく・・・お前なら枷を外さぬまま勝てるであろう?》

「やってみない事には何とも・・・」

《ふはははは!では奴等があの二人を倒し、ここまで来たらお前一人にやらせてやろう》

「ありがたき幸せ」

深く頭を下げ、アモンはサタナキアに心から感謝をする
アモンは心底サタナキアを崇拝していた
その絶大なる力、魔界でも指折りの実力者である彼の元に従える喜び
アモンは力を求めていた、そして、それをサタナキアは与えてくれた
今はこの世界に召喚された枷により力は半減しているが
それでも昔のアモンでは得られなかった力を有している

アモンはサタナキアにとっても特別だった
与えれば与えるほど力をつけていく、底の見えない強さを秘めている
それがサタナキアにとっては嬉しく、そして利用価値が高かった
アモンの力はバルバトスやプルスラスの比ではない
奴等が二人がかりで掛かっても勝つ事は出来ないだろう
それでもサタナキアにとっては大した事はないのだが
部下の中では圧倒的なアモンの力を信頼し、利用していた

《忌々しいあの女の苦痛に歪む顔が早く見たいものだな・・・くっくっくっくっ》






ラーズ首都の外側に5万の兵が集まった頃
たった250メートル先には42の悪魔と2体の魔物、バルバトスとプルスラスがいた
44対50000、数だけでは圧倒的だが、人間側に余裕はなかった
先ほどから睨み合いが続いている
流石の魔物達も5万の兵には攻めあぐねていた

その頃、ハーフブリードが自宅へと戻って来る

「ちょ!屋根焦げてんだけど!」

「わー!ホントだ!何これー!」

先ほど通ってきた中央通りの惨状を目にし、大きな火災が起きた事は分かっていたが
彼等の家は中央通りから少し離れているので油断していた

「ちょっと勘弁してよ~、武具買ったばかりで金無いのに・・・」

シルトが両手両膝をつきガックリとしていると、そこへ一人の女性が歩いて来る
先日訪れた冒険者組合の女性だった

「お戻りになられましたか、早急に依頼したい仕事が御座います」

シルトは立ち上がり、真剣な顔で彼女を見て言う

「わかってます、受けますよ、そのために帰って来ましたから」

「報酬の交渉はしないのでよろしいのですか?」

「あ、それはします」

ペコペコと頭を下げ、にやけ顔になるシルトが組合員の女性と交渉を始める
シャルル達は家の中へ入り、室内が無事かを確かめている
どうやら室内に大きな被害は無かったが、寝室だけがびしょ濡れだった
おそらく火災を消した時の水が焼け落ちた屋根から入ったのだろう

『私のベッドがー!服がー!!』

シャルルが頭を抱えてうなだれる
ジーンは研究材料が水浸しになり困った顔をしていた

「と、とにかくシャルルは服洗おう?」

「うん・・・わかった・・・」

サラとシャルルは一緒に浴室へと向かう
ジーンは使えそうな研究材料を選別し、乾かして使えるものは吊るしている
ラピはその手伝いをしていた

交渉を終えたシルトが家へと入ってきて、巨大な両手斧や壊れた盾を地下室へと置いてくる
寝室を覗き込んだシルトはその惨状に顔を歪ませる

「うわぁ・・・こりゃ床板張り替えかなぁ・・・」

居間へと移動し、いつも寝ているソファに腰をかける
深いため息をし、天井を仰いでいると
服を洗い戻ってきたシャルルが暖炉の前で服を乾かし始める
今、彼女は前まで着ていた服を身につけている
しょんぼりとする彼女の横にジーンが座り込み、大事な研究材料を一緒に乾かしている
ラピとサラも居間へ来て、テーブルにある椅子へと腰をかける

「皆、ちょっと聞いて」

唐突にシルトが手を叩き、注目を集める
彼は立ち上がり、皆の見やすい位置へと移動する

「さっきサタナキア軍の討伐依頼受けてきたよ、報酬は1200金貨」

「おおー!すごい!」

「うんうん、大金だねー」

「ただ、後払いだってさ、ラーズも復興やらで金無いみたい」

「まぁそこはしかたないよね」

「1時間ほどしたら出るよ、準備しておいてね」

「えー!服乾くかなぁ・・・」

「そこは我慢だね」

「うっさい!ジーン!はげろ!」

シャルルがジーンに肘を入れ、ジーンがよろめいている

「それと、今回は月光との共同作戦になるってさ」

「月光?1等級の?」

「そそ、ネネモリの月華のシウさん達だね」

「わー、会ってみたかったから嬉しい」

サラが上機嫌になる
月光の噂はよく聞く、その中でも月華のシウの英雄譚はよく耳にしていた
女性なのにワンマンチームでやっているシウにサラは憧れていたのだ

「シルさん・・・私達勝てるのかな」

ラピが心配そうに聞いてくる
あの大敗を思い出し、恐怖しているようだった
シルトはラピの元へ行き、笑顔になり、頭を撫でる

「大丈夫、僕らは新しい力を手に入れたから、もう負けないよ」

「うん・・・がんばるね」

「おっし、皆!気合入れて行こう!」

「「「「おー!」」」」




ハーフブリードが最前線に立つ頃には辺りは暗くなり、月明かりが照らしていた
ラーズ軍は全軍集結し、その数は6万にもなっている
6万の肉の壁はラーズ首都を守るよう陣取られ、サタナキア軍を包囲していた
その先頭に立つのはハーフブリード、彼等の背中は兵達の士気を上げるには十分だった
まだ月光は到着していないが、いつ戦闘が始まってもおかしくない状態だった
長い睨み合いが続き、先にしびれを切らしたのは魔物側であった

プルスラスが宙に浮く
伝令係が警戒するよう大声を上げ、全軍に緊張が走る
プルスラスの口から金のラッパが現れ、それを口に当てようとした時
3つの光がラーズ軍の左翼から飛んでくる
それを首を逸らす事でかわそうとしたプルスラスは驚愕した
3つの光の矢はギュインッと方向を変え、プルスラスの右目に2つ、頬に1つ刺さった

「ぐっ」

刺さった矢はふっと消え、それが魔法的な物であるのが分かる
プルスラスは矢が飛んできた方を残る左目で見た
フクロウの眼を持つ彼は夜の闇など関係なく見渡せる
その視線の先には満月を背に大きな木の上に立つ一人の線の細い女が見えた
女は大木から飛び、空中で体を捻る
そして、その体勢のまま矢を放つ、今度は6本だ
光の線となる矢はその軌道が曲がり、吸い込まれるようにプルスラスの顔を捉える

ドドドドドドッ

全ての矢がプルスラスの顔に刺さり、両目を潰される

『ぎゃああああ!な、なな、何者だっ!!』

プルスラスの叫び声がこだまする
10メートル以上の高さからふわっと着地した女は物凄いスピードで大地を駆け、弓を構えた
空に浮かぶ満月のような黄金と、夜の闇のような黒い翼の生えた弓を・・・
帽子からはみ出る赤いおかっぱ頭が風に揺れ、彼女が弓を引く
左手で弓を持ち、何も持っていなかった右手から光の矢が出現した
彼女の赤い眼が月明かりを反射し輝いたように見えた瞬間
矢が放たれ、同時に1本の矢は11本の矢に分かれる
扇状に広がるようにしてから1点に集まっていく、それはプルスラスの顔面に、だ

ドドドドドドドドドドドッ!ボシュッ

11本の光の矢がプルスラスの顔面に刺さり、その勢いで頭が吹き飛ぶ
空中で血を吹き出し、ふわっと落下してきたプルスラスは
どしゃっと水音を立てながら大地に叩きつけられ、ピクピクと痙攣する
遅れてプルスラスの頭が大地に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる
バルバトスは信じられないものを見たような顔をしていた
42の悪魔達にも動揺が広がる

そして、ラーズの6万の兵達は一斉に勝ち鬨を上げた

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

ザザーっと土煙を上げ滑り、止まった女は片手で髪を整え言う




「何者かだっけ?わたしはシウだよ」







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