2016_01
22
(Fri)06:30

2章 第10話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第10話 【夜にかかる虹】

さぁさぁ熱くなってきましたよー。
2章も気がつけば10話、早いもんですねぇ。
このまま頑張って書き続けたいと思います!

あ、そうそう、小説家になろう、というサイトにも投稿しました。
リンクにありますので、良ければ1章を読み終えた方は、
評価をポチっとしてくれると助かります。

では、続きを読むからどうぞー。










【夜にかかる虹】







サラの怪我は思ったより酷かった

木から木へと飛び回る時に枝や幹にぶつかり、擦り傷や打撲が多数ある
その中でも特に酷い状態なのが両足と左肩だ
両足の親指と人差し指にはヒビが入り、膝から足首を支える腓骨と脛骨にもヒビが入っていた
左肩は、上腕骨頭が少し欠けているようだ
これは木々を飛び回る際に着地が間に合わず、盾を持つ左肩でぶつかったせいだろう
木々が弾け、折れるほどの脚力に骨は耐えられず、悲鳴をあげたのだ

シャルルとラピとディナ・シーによる治療が続けられていたが、サラが治療を止める

「シャルルはシルさん達の方へ行ってあげて」

骨折により熱が出て顔が上気しているサラは言う
シャルルは一瞬迷うが、無言で頷き、立ち上がった

「行ってくる!」

「うん」

「こっちは任せて!気をつけてねー!」

「うんっ!」

シャルルが走り出し、その背中をサラは見つめている
風樹魔法を習得しつつあるシャルルの戦力は必ず必要になる
バルバトス戦を経て、サラは確信していた
幼い頃はずっと頼っていたシャルルの背中に、サラは少し懐かしさを感じるのだった

しばらくラピとディナ・シーの治療が続き、歩く事ができる程度には回復する
足首を動かし、痛みが走るが動けなくはない

「ラピ、私はもう大丈夫だから、ラーズ軍の人達を守ってあげて」

「え、まだ途中だよ?」

「歩けそうだから大丈夫」

サラが立ち上がり、笑顔を向ける

「うーん・・・わかった、無理しないでね?」

「うん、ラピも気をつけて」

「サラもねー!」

ラピが大きく手を振り、ディナ・シーと共に来た道を引き返す
少女と妖精の後ろ姿を見送り、サラは剣を杖のように使いながら森の中を歩いて行く
今の自分に何が出来るかは分からないが
ほんの少しでも役に立てるならと、サラはふらつきながらも北へと向かう






月光の一行、シルト、ジーンの前には6メートルはあろう巨大な門と
門と鎖で繋がれる空中に座る8枚の蝙蝠の翼を持つ男、サタナキア
そして、その手前にはワタリガラスの頭を持ち、蛇の尾が生えるアモンがいる
距離としては10メートルはないだろう

アモンの肌は鮮血のような赤で、上半身は何も纏っておらず
胸や肩には黒く硬そうな毛がふさふさと生えている
その図太い腕の先、手には独特な形の篭手をつけていた
赤黒い篭手の上部には曲がりくねった角のようなものが幾つか生えていて
同じデザインの膝から足首まである脚鎧をつけている
アモンの尾の先には蛇の頭があり、それ単体で意思があるように動いていた

「奥の偉そうなのがサタナキア?」

シウが弓を下に構えながら言う

「そそ、相当ヤバいから気をつけて」

「そー、わかった」

刹那、シウがノーモーションで魔法の矢を放つ
それは1本だけで一直線にサタナキアへと向かった
この距離では見てから避けるには難しい速度の光の矢を
2メートルは離れていたアモンが一瞬で動き、片手の篭手でそれを阻む
矢は篭手にぶつかり、光が弾け、消えていった

「はやっ」

シウが驚いていた
元々効くと思って放っていないが、まさか横にいた配下に止められるとは思っていなかった

《あんなおもちゃ、防ぐ必要もないぞ?》

サタナキアがニヤっとしながらアモンに言う
サタナキアの声は脳内に直接響くような神と同じ性質の声だ
その声を初めて聞いたシウは恐怖し、1歩距離を取った
月光の魔法使い達も恐怖し、膝が笑う

「はっ!しかし、主たる御身に矢が向かうのを見過ごすわけには参りませんでした」

アモンは目の前にいるシウやシルト達など気にも止めず
サタナキアへと身体を向け、片膝をついて進言する
その無防備な背中にシウはすかさず矢を放つ
光は拡散し、4つの矢がアモンの後頭部へと迫った
刹那、アモンはぐるりと回転し、しゃがんだままの回し蹴りを放つ
4つの矢はアモンの脚鎧に当たり、弾けて消えていく

「背後を狙うとは汚い小娘め、サタナキア様の御前だぞ、無礼であろう」

アモンの怒りの宿った視線にシウは怯み、また1歩後ずさる
そして、アモンは再びサタナキアへと向き、一礼をする

《くっくっくっく、アモンよ、約束通り我は手を出さぬ
 コヤツ等はお前に任せよう・・だが、茶髪の女だけは殺すなよ?》

「はっ!」

《我を楽しませろ》

「はっ!」

ゆっくりと振り向き、シウへと鋭い目線を向ける
その目は主たるサタナキアへの無礼に怒りを現わにしていた
冷や汗が流れるシウとアモンの間にシルトが割り込む
右手に常闇の盾を構え、ミスリルブロードソードを下段に構え、立ち塞がる
その姿にアモンは僅かに微笑む、カラスの顔では笑っているかは分からないが

「まとめてかかってこい」

アモンは片手で手招きをし、構えもせず立っていた
その無防備な姿は、圧倒的な強さからの自信なのが伝わってくる
随分と舐められたもんだ、とシルトは心の中で苛立つ
しかし、シルトの手は汗で湿り、盾と剣を握りなおす
目の前にいる存在が圧倒的な力を持つのが肌で感じられるからだった

「僕が時間を稼ぐから、ジーンさんは回復を、シウさんは隙を狙ってください」

「了解」

「やってみる」

シルトはジリジリと距離を詰め、アモンまで4メートルのところで止まる
そして、心の中で城壁防御と唱えた
僅かにだが彼の身体が大地に沈み、右手の盾を前面に構える
目の前の黒い鎧の男を見て、アモンは違和感を覚える
一瞬何かが変わった、奴の身体が沈んだようにも見える
まるで途端に重くなったような、そんな違和感が感じられた

「面白い術を使う」

アモンが素直な感想を口に出す
そう、アモンはこの戦いが少しだけ楽しくなってきたのだ
目の前にいる黒い男の術に興味が湧き、アモンは自ら攻める事にした
どんな手を使ってくるのか期待しながら・・・

大地が弾け、アモンの身体が真っ直ぐシルトへと向かう
その早さはミスリルゴーレムの突進近くはあるだろうか
アモンは右の拳を引く、シルトは反射!と心で念じ、その拳を待ち構えた

ゴーーーーンッ

低い音が響き、凄まじい衝撃が伝わるが、鎧が地面へとその衝撃を受け流す
シルトの足は1歩も動いていなかった
アモンは驚き、目を見開く、そして男の顔を目にする、口角が上がる男の顔を
シルトは盾を右に逸らし、アモンの体勢が崩れる
そこへ、左手の剣(ミスリルブロードソード)の突きを放った
切っ先がアモンの脇腹を捉えるが、表面に小さな傷を作るだけで刺さりはしなかった

「なっ!」

それにはシルトも驚いた
これはシルトのいつもの必勝パターンなのだ
倒せないにしても深手を負わす事はできる
それが皮膚を少し傷つけた程度・・・なんという硬さだ、と

アモンは飛び退き、4メートルほど距離を取り、脇腹の傷を指でなぞった
ほんの僅かにだが血が流れており、それを指でこねるように伸ばし、内心ニヤけた

「人間、お前強いな」

「そりゃどーも」

全く効いてねぇじゃねーか!皮肉か!と内心愚痴を吐く

「私はアモン、貴様の名は何と言う」

「シルト」

「シルトよ、共に殺し合おうぞ!」

「やなこった、アンタだけ死んでくれ」

「はははははは!その余裕、強者である証拠!人間の世界にも貴様のような奴がいるとはな!」

余裕なんかねーよ!と心の中で愚痴をこぼすが口にはしない

「参る!」

今度はしっかりと構えを取り、アモンが踏み込む
4メートルという距離はアモンにとっては一瞬の距離だった
シルトは咄嗟に常闇の盾で防ぐが受け流せず、そのまま受けた
衝撃は足から地面へと逃げて行くが、その許容範囲を超える
シルトの身体がズズっと地面をえぐりながら下がって行き、アモンの拳を止めた
しかし、シルトの右腕には激痛が走っていた
ジーンが後方より中位の回復魔法を飛ばす、その効果によりシルトの痛みは緩和された
左手の剣を下段から上段へと振り上げ、それをアモンは上体を逸らす事でかわす
そこへ、シウの放っていた光の矢が5本、アモンの顔を目掛けて軌道を変え飛んでくる
篭手で3本の矢は防ぐが、残る2本の矢はアモンのこめかみと頬の辺りをかする
その後もシルトとアモンの攻防は続いていた

「おぅ・・・また外したっ!早すぎ!!」

シウが地団駄を踏み、途端に静かになり
その後、月光の魔法使い達へと冷たい目線を向ける

「プラン・撃」

彼女がそう言うと、4人の魔法使いが同時に詠唱を始める

「堅牢なる大地の守り」

「鋭く切り裂くかまいたちよ」

「出水の激流よ」

「滅びの刃を」

シウの身体が魔法の光で包まれてゆく
そして、彼女が弓を引くと、光の矢には青くなっており
先端は黒く、緑の風を纏っていた
防御魔法を1つにし、攻撃補助魔法を3つ重ねるという荒技である
暴発の恐れがあるので、本来は魔法の合成は使わないのが一般的だ
2属性を合わせるのすら熟練された技術が必要と言われており
3属性など暴発するのが目に見えていると言われるほどだ
しかし、シウは元魔法使いなのもあり、アーティファクトの弓が後押しして
3属性の攻撃補助魔法を1つの矢に無理矢理組み込んでいる

「不動の人、当たったらごめん」

シウは小さく呟くが、その声は誰にも届かなかった
弓を限界まで引き、キキキキッと弦が音を奏でる
手を離すと1本の矢は青い道筋を残しながら、緑の風を纏って一直線に飛んでゆく

シルトがアモンの右拳の1撃を盾で防ぎ、上に受け流す
そして、下からかち上げるような突きを喉元へと放った
アモンはその突きを真上を向くようにかわす
シルトの剣はアモンのクチバシにかすり、そこから僅かに血が流れたその時
キィィィィィィィンッ!!と耳鳴りのような高い音が鳴り響く
その音に嫌な予感がしたシルトが即座にしゃがみ込む
刹那、髪の先が切れ、宙に舞う・・・通り過ぎたのはシウの放った1本の矢だった
アモンの胸に矢の黒い先端深く刺さり、そのままズブブブと体内へと入っていく
矢は回転しており、ドリルのようにアモンの胸に穴をあけていった

「ぐほっ!」

アモンが口から紫の血を吐き出し、胸に手を当て3歩後ずさる
シルトは後ろを振り向き、シウを睨んだ
今のは僕に当たってたかもしれないぞ!と
シウの口元は緩んでおり、それが更に腹が立った
シルトがアモンへと目を戻し、直ぐ様城壁解除し追い討ちをかける
矢は消え、アモンの胸には3センチほどの大穴があくが、貫通はしなかった
そこへシルトの突きが放たれる、3センチの穴目掛けて

「笑止!!」

ゴォーーーーンッ!

アモンがその突きを両手の拳で挟み込む
全力で押し込むが、ギリギリと音を立てるだけで剣は動かない
その力比べがしばらく続いた時、シウの第2射が放たれる

キィィィィィィィンッ!!

一直線に胸元目掛けて飛んでくる矢を目にしたアモンは
剣を拳で挟んだままシルトを右へと投げ捨てる
ズザザーっとシルトが大地に転がると、シウの放った矢がアモンの胸へと迫っていた
アモンは身体を横に捻り、かわそうとするが右肩へと矢が深く突き刺さる
肉をえぐりながら進む矢を掴み、手から煙が上がる
握力で回転を止め、肩が貫かれるのは防いだ
己の肩から来る痛みと、ズタズタに切り裂かれ焦げた手を見て笑う

『ははははは!今日はなんという日だ!強者に二人も出会うとはな!!』

アモンは両手を広げ、大声で喜びを表現していた
その隙にシルトが立ち上がり、構え直す
その時、森の方で葉がガサッと音を立てる
一瞬そちらへと目を向けると、青い髪の見知った顔が飛び込んで来る
青い髪の人物、シャルルは森から出て来たまま全力で走り
綺麗な青と白の服に絡みついていた葉がヒラヒラと舞う
走りながら彼女は魔法を詠唱する

「根源たる生の灯火よ」

彼女の右手に青い炎が宿る
走ってくるシャルルに全員が呆気に取られていると
彼女はシルトの右肩をバーンッ!と叩き、そのままジーンの方へと駆けて行く
その瞬間、シルトの感じていた肩の痛みは急速に和らぎ、疲労感も和らいでいく
ザザーっと土煙を上げ、ジーンの横へと陣取ったシャルルが歯を見せて笑顔になる
そんな彼女の登場に、ジーンも僅かに微笑むのだった
彼女が来た事により、ジーンは1つ試したい事ができた

「シャルル、回復任せていい?」

「うん!いいよ!」

「頼むね、私はナイフ取ってくる」

「ナイフ?」

シャルルが首を傾げていると、ジーンが目線でそれを教える
それはサタナキアの後ろ、異界の門の足元、四隅に刺さるナイフだった

「え・・・あれ?」

ジーンは無言で頷き、シャルルが困った顔をする

「大丈夫なの?」

「うん、多分ね」

「無理はしないでよ」

「うん、ありがと」

ジーンは駆け足で真っ直ぐ門へと向かう
シルトとアモンの攻防が再開されているのを横目で見ながら・・・
シウは再びプラン・撃を命令し、4人から強化魔法を受けている
アモンは横目でジーンが走るのを目にしているが止めはしない
サタナキアから殺すなと言われている以上、下手に手を出せないからだ
そして、サタナキアは走ってくるジーンを鋭い眼光で睨んでいた
近くまで行ったジーンはサタナキアを見上げ、微笑を浮かべてこう言う

「何?手は出さないんでしょ?そんな事も守れないほど私が怖いの?」

歯をギリッと鳴らし、サタナキアの顔が歪む

《小娘が、図に乗るなよ》

「そこであの赤いのが倒されるのを見てなさい、次はアナタだから」

《下等生物風情が、アモンを倒せると思うなよ》

「その下等生物に強制召喚されて動けないのは誰かしらね」

ジーンが小馬鹿にしたように言うと、辺りの空気がビリビリっと震え出す
突如、サタナキアの足元がバコッと陥没し、割れた大地から岩が宙に浮き上がる

《小娘・・・その辺にしておけ、我も寛大ではないぞ》

その声に、その波動に、ジーンは心底恐怖する
だが、相手のプライドを利用して絶対に手を出さないようしないといけなかった
そうしなければ勝機の欠片もないのだから・・・

「わ、私は忙しいから、アナタはそこで大人しく見てなさい」

サタナキアから溢れる波動は収まり、宙に浮いていた岩が大地に落ちる
ジーンはサタナキアの横を通り、門の四隅にある4属性の紋章が刻まれたナイフを抜いて行く
それを手にし、腰のポーチからある札を4枚取り出す
札を糸でナイフに結びつけ、ジーンは4本のナイフを腰に差し、走り出す





その頃、ラーズ首都では・・・


一人の少年が焼け落ちた家が並ぶ夜の中央通りを歩いていた
少年の名はディズ、靴を片方しか履いていないまだ6歳の子供だ
彼は月明かりだけを頼りに自分の家を探していた
焼け野原となった中央通りに見知った光景はなく、自分の家が分からない
避難する時に家族とはぐれ、靴も片方無くしてしまっていた
片方の靴が無い事により、身体が裸足である左足の方へと傾いている
冷たい石畳で左足の裏がキンキンに冷え
時折右足の靴の上に左足を乗せ、暖かさを取り戻すまでじっとしていた
そんなゆっくりな足取りで中央通りを歩いている
しばらく歩いた彼はよく知った物を見つけ出す
自宅の隣にあった洋服店の焼け落ちた看板だ
黒焦げになっているが、その洋服店のロゴが僅かに見えていた
それを拾い上げ、辺りを見渡す・・・・左隣にあったはずの自宅の方を・・・
しかし、そこには自分の知る家は無かった
ただの焼け落ちた木材と焦げた石壁だけが残っている
石壁の隙間、木製の玄関の扉があったはずの場所を通り
自分の家だった場所へと入って行く

「わぁ・・・・」

そこに広がるのは真っ黒の世界だった
家具が食糧が焼け、炭と化している
ディズは自分の部屋があった場所へと向かった
そこにはあったはずのベッドはなく、彼の宝物が詰まったおもちゃ箱も無かった
だが、1つだけ残っていた物がある、それはブリキ製の騎士の人形だ
黒く変色しているそれを拾い上げ、彼は服の裾で綺麗に拭く
ピカピカにはならないが、少しは元の姿に近づいただろうか
それを見て、ディズの顔に明るさが戻る
少し上機嫌になったディズは騎士の人形を握り締め、再び家の中を歩き出す
両親の寝室へと足を運び、室内を見渡すが、真っ黒の世界だった
だが、その部屋の隅に1つ、白い物が目に入る
それは母親がいつもかぶっていた三角巾だった
ディズは小走りでそれを取りに行き、拾い上げる
パンパンと数回叩き、灰が舞い上がる
ディズはけほけほっとむせるが、綺麗になった三角巾を見て笑顔に戻った
ブリキの騎士と三角巾を手に、家を出る

ォォォォォォォ・・・・

家を出たところで遠くから歓声が聴こえてくる
その声に吸い込まれるようにディズは城壁の方へと足を進めた
月明かりしかない暗い路地を真っ直ぐ城壁へと向かって行く
少年の足では30分以上掛かっただろうか
城壁に近づけば近づくほど歓声は大きくなり、いつまでも鳴り止まなかった

オオオオオオオオォ!!

ディズは何故かは分からないがその声がとても気になった
城壁には近づいちゃダメだと親からいつも言われているが、彼の好奇心はそれに勝った
城壁にある梯子をやっとの思いで登り切る
登り終えてから下を見たディズはその高さに恐怖した
さっきまでは歓声が気になり気づかなかったのだ
2歩、3歩と後ずさり、城壁の上部にある壁へと背中が当たる
本来ここは見張りが立つ場所なのだ
ディズの身長ではギリギリ見渡す事はできず、その壁に手をかけ、身を乗り出した
この時、目の前に広がる光景を、彼は一生忘れないだろう


そこにあったのは虹だった


それはただの虹ではない、円形に広がる虹だ
直径200メートル、その中央には黄色い輪が浮いていた
それがまるで天使の輪のようで、そこから広がる虹のような光と
キラキラと輝く銀色の粒子が彼の目に、脳に焼き付いた

「わぁ・・・・きれい」

虹の下には数千のラーズ軍の兵士達いる
その中央にいるのは白銀の髪を持つ少女だった




夜の空が七色の光で覆い尽くされている
その光の下にいるラーズ兵達は内から湧き上がる力と、温かい感覚に包まれていた
キラキラと舞い散る銀の粒子が粉雪のようで幻想的な光景だった
その粒子が身体に触れる度、彼等の感じていた痛みが和らいでいく
七色の空の中央には光の輪があり、その真下に一人の少女が立っていた
少女の名はラピ・ララノア、エルフの少女だ
彼女は1等級冒険者ハーフブリードの一員である
この幻想的な光景の中、白銀の髪が煌き、彼女自身もまた神聖なものに見えた
そんな中、一人のラーズ兵が無意識で呟く

「女神だ・・・」

その一言は伝染していき、徐々に大きな流れとなる
あちこちでラピを女神と呼ぶ声が広がっていく

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!

小隊長の一人が声高に叫ぶ

『我等には勝利の女神がついている!恐れず戦えー!!』

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!

『女神を守れー!!』

男達が吼え、中央のラピは戸惑う

「へ?女神?私?」

42の悪魔との戦闘は一方的だった・・・しかし、ラピの援護により形勢は逆転する
下がりきっていた兵士達の士気は上がり、既に42の悪魔の内11体は地に伏している
しかし、ラーズ軍の死傷者は4000を超えていた

2等級冒険者達は5体の悪魔を引き受けていた
彼等もディナ・シーの七色の光の下に入り、押されていた戦況をひっくり返す
彼等の活躍により、更に5体の悪魔が地に伏した

『傷ついた者は女神の元へ!!』

救護班が傷ついた者を優先してラピの側へと運んでくる
彼等の苦痛が和らぎ、ラピを崇めるように見つめ、呟く

「女神さま・・・」

彼等の言葉がくすぐったくなり、ラピは顔を赤らめる
しかし、まんざらでも無さそうだ

「女神だなんて、くふふ」

だらしない表情になるラピは機嫌を良くし、ディナ・シーを呼び寄せる

『ディナ・シー!』

ディナ・シーが空中より舞い降り、ラピの頭上でくるくると回る
ラピはディナ・シーに両手をかざし、魔法を唱えた

『活性!』

ラピの両手が黄色く光り、黄色い光の玉を生成する
その玉がディナ・シーへと渡り、玉を両手で支え、上空へと上って行く
ディナ・シーは目を瞑り、黄色い光の玉を抱き締める
光は吸い込まれ、その身体が黄色く輝く
笑顔になったディナ・シーは再びくるくると回転し
上空の光の輪をなぞるように軌跡を描く
光の輪が太くなり、輝きを増すと、七色の光は黄色味を帯びていく
辺りは更に明るくなり、もはや昼のようでもあった

光を浴びた兵士達は急速に痛みが和らいでいく
そして、悪魔達は真逆にその光を激しく嫌がった

『女神の加護を得た我等に敵はいない!突撃いいいいっ!!』

残る悪魔26体とラーズ軍56000の激戦は続く・・・






森の中、ふらつく身体を剣で支えながらサラは歩く
やっとの思いで森を抜け、アモンと対峙するシルトの姿を捉える
その後方にはシャルルが陣取り、少し離れた位置に月光のメンバーが立っていた
サラの足は限界を迎え、その場に座り込む
座り込んだサラの視界の隅でジーンが駆けていた

『シルさん!隙を作って!』

ジーンが叫び、その声がシルトの耳に届く

「んな、無茶な!」

思わず愚痴をこぼし、目の前のアモンの拳を盾で防ぐ
アモンの拳は激しさを増し、防戦一方だった

シルトの余裕が無いのを感じたサラは剣に全体重をかけ、立ち上がる
剣は大地に刺さり、サラは手を離した
その手で自身の太ももを叩き、盾を背中の金具に引っ掛け、剣を引き抜く
重心を下げ、激痛の走る足に力を込めた・・・そして全力で大地を蹴る
土砂が舞い、爆発音のような音が響き、サラの身体は矢のように地を駆ける
大地を蹴った足は曲がらない方へと曲がり、激痛が走るが今のサラはそれを感じてない

アモンは目の前のシルトとの攻防でサラの存在に気づくのが遅れてしまう
アモンが目にした時は赤い閃光が通り過ぎた後だった
そして、左足の膝の裏から痛みが走る、サラの剣がアモンの左の膝裏を捉えたのだ
サラは止まる事ができず、ズザザザーっと地面を滑り、転がっていく
彼女の右手の親指は逆へと曲がっていた

アモンが、シルトが、誰もが彼女を見ていた
そして、彼女が叫ぶ

『今!』

それを理解したジーンが4つのナイフをアモンの足元へと放つ
アモンを囲むように刺さった4本のナイフには4つの札がぶら下がっている
その札は全て地の紋章が描かれていた
ジーンが人差し指と中指を立て、片手で構える

「動を禁ずる!」

札が燃え、アモンの四方を囲むナイフの刺さる地面が迫り上がる
それはアモンを足を膝まで飲み込み、動きを止めた
これは単発ではあるが、自身の使えない属性魔法を使用するための魔道具だ
札の値段、属性ナイフの値段からして、使うものは滅多にいなかった

『シウさん!』

アモンから目を離さず、構えを解かないままジーンが叫ぶ
シウはその言葉の前から既に構えていた

『避けて!』

シルトが横へ飛び、そこへ3属性が組み込まれた矢が放たれる

キィィィィィィィィィンッ!!

アモンの胸にある穴目掛けて矢は一直線に飛んでゆく
高速回転する矢は刺さり、肉をえぐりながら突き進む
そして、アモンの身体を突き抜けた
大穴からは血が吹き出し、ジーンの使った魔道具による拘束魔法が解け
アモンはそのまま後ろへと倒れる

ズーン

土煙を上げ、大の字に倒れたアモンはぴくりとも動かない

シャルルはサラの元へと走り、彼女の上半身を起こす
動かした事で激痛が増すサラの表情は苦しそうだった

「・・・あんま無茶しないでよ」

シャルルの瞳には大粒の涙が溜まっていた
サラは痛みで眉間にシワが寄っているが
何とか笑顔をしようと試みる・・・が、苦痛で顔が歪んでしまう

「・・いいよ、サラ」

シャルルが優しい声で言い、彼女の身体を支える
そのままシャルルに運ばれるようにしてサラは30メートルほど離れた位置に座らされた

「ここにいて、回復は後でするから我慢して、ごめんね」

「ううん、いいよ、早く皆の所へ行ってあげて」

「うん!」

「気をつけて」

「わかった!!」

シャルルは太陽のような笑顔をサラへと向け、すぐに顔を引き締め走り出す
その背中を見て、サラはまた懐かしい感覚を思い出す

「がんばって・・・」

かき消えそうな声でそう言い、サラは意識を失った




シャルルが前線に戻ると、アモンが音も無く立ち上がる

「冗談だろ・・・」

シルトの愚痴が静まり返っている辺りに響いた
アモンはそのままサタナキアの元へとフラフラと歩き、片膝をつく

「サタナキア様、この者達と全力で・・・枷を外して戦ってみたくなりました」

頭を垂れ、アモンは嘆願した

《ほぅ・・・それほどの相手か》

「はっ!」

サタナキアはシルト達を見渡し、最後にジーンの顔を見る
ジーンは臆する事なくその目を睨み返していた

《いいだろう・・・しかし、これ以上我の前で醜態を晒すな》

「はっ!この命にかえましても!」

サタナキアは両手を広げ目を瞑る、全身から紫の雷がバチバチと溢れ
それが両手の平へと集まっていく
40センチほどの2つの雷の球のようなものが出来上がり
それを胸の前で合わせ、1つにする、その大きさは60センチを超えているだろうか
その球を両手で握り潰し、開いた手の隙間には小さな真っ黒の球が見えた
2センチほどの漆黒の球はサタナキアの右手の平の上で浮いている
珠をアモンへと差し出そうとした時、シウが3属性を組み込んだ矢を放つ

キィィィィィィィンッ!!

サタナキアの頭部目掛けて放たれた矢は一直線に彼へと向かう
しかし、それを目にしているサタナキアはそれを全く避けようともしなかった
むしろ、笑っているようでもあった・・その表情にシウは恐怖する

矢は進み、サタナキアの1メートルほど手前まで行ったところで何かにぶつかる
ブィィンッ・・・何かにぶつかった魔法の矢は飛散し消え失せる
それは見えない壁とでも言おうか
矢がぶつかった事で一瞬だが魔法陣のような紋様が中空に見え、ジーンが目を見開いた

「魔法障壁・・・?」

ジーンの自問自答の声が洩れる
彼女の目には僅かにだが魔力の流れが見える
それは先日買った眼鏡により強化されており
肉眼では捉えられない魔力の流れを見る事ができた
そして、今ジーンが見たものは、サタナキアの前にある6枚の障壁である
肉眼では見えない、術式のようなものが描かれた魔力の壁
それが6枚も重なるようにあったのだ

《ほぅ・・・小娘には見えるのか、我の力が》

サタナキアがジーンを見てニヤけていると・・・

『女ァ!!』

アモンが激怒し叫んだ
ビリビリと空気が震え、殺意の篭った視線を一身に受けたシウは後ろへと飛び退く

《まぁ待て、アモンよ》

サタナキアがそれを制す

「はっ!見苦しい姿を・・・失礼しました」

直ぐ様アモンは頭を垂れ、サタナキアの言葉を待つ

《よい・・では、お前の枷を外してやろう・・・・これを飲め》

2センチほどの漆黒の球をアモンへと渡す
アモンはそれを両手で受け取り、両手で口へと運んだ
その球を口に含んだ瞬間、アモンのカラスの頭から紫の雷がバリバリと溢れ
それが次第に全身へと広がっていく・・・

『グオオオオオオオオオオォ!!』

アモンの叫びが響き、身体からは黒い煙が上がる
煙でアモンの身体は見えなくなり、叫び声は止んだ
焦げくさい臭いが辺りに漂い、一行は息を飲んでその様子を伺っていた
小さな風が吹き、アモンを包んでいた黒い煙が流される

そこに立っていたのはワタリガラスの頭を持つアモンではなかった
カラスの頭の変わりにあったのは、燃え盛る炎のような髪をし
もみあげから顎ヒゲが繋がっている黒い毛の鬼のような顔だった
その目は黒目がなく真っ白で、その牙は3センチはあるだろうか
カラスに比べたらだいぶ人間には近づいたが
鬼のようなその姿は以前よりも恐怖に感じられた
そして、アモンの腕と脚にある赤黒い武装が紫の炎に包まれる
メラメラと揺らめき、燃えていた

ゆっくりとシルト達の方へと振り向き、口を開く

「待たせてしまって申し訳ない」

ニタァと微笑むアモンの顔は喜びに満ちていた
久々に全力で戦える喜び、本当の命のやり取りができる喜び
そして、その強者を殺す事ができる喜びを感じ、満ち満ちていた

「さぁ、始めるとしよう」

アモンの殺気が辺り一帯を包み込み
先ほどまで対峙していた奴と同じとは思えないほどの力を感じた

「簡単に死んでくれるなよ」

そう言い、アモンは構えた





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