2016_01
26
(Tue)17:34

2章 第11話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第11話 【アブソルータ・モルト】

小説家になろうの方も思ったより好調で嬉しい限りです。
今回の話もいよいよクライマックスが近づいてきました。
2章は今の話が終わっても少し続きます!お楽しみ~。

では、続きを読むからどうぞー。









【アブソルータ・モルト】







サタナキアから力を貰い、枷の外れたアモンが立ち塞がる
先ほどまでのアモンですらギリギリの戦いだったシルトは絶望する
しかも、この化け物を倒したとしても奥にいるのはあのサタナキアだ
正直なところ、シルトは勝てる気がしていなかった
今は逃げた方がいいんじゃないか?そういう考えも頭をよぎる
しかし、それは許されないだろう

チッ、珍しく舌打ちをしたシルトは右手の盾に意識を集中する
反射・・・常闇・・・王・・・・そんな言葉が頭に流れ込んでくる
反射なんかしないじゃないか!心の中で愚痴を洩らす
だが、ジーンは魔力の流れは感じると言っていた、使い方が違うのかも、と
皆は新しいアーティファクトを使いこなし始めている
ラピは妖精という驚異の存在を呼び出していた
サラは足があんなになるまで双角獣のブーツを使ったのだろう
シャルルも融合魔法の片鱗を見せていた
ジーンは魔力が大幅に増え、精霊を2体呼んでも平気になったらしい
シルトは自分だけが何も変わっていない事に苛立っていた

「シルトよ、どうした?心が乱れているようだが」

「やっと倒したのに復活されたからな」

「ははははは!すまないな、ここからが本当の殺し合いだ」

「やなこったって言ったっしょ、アンタだけ死んでくれ」

「そう言うな、私はお前を同種と思っているのだ」

「同種?」

「貴様、先ほどの戦い、楽しんでいたであろう?」

「・・・・・」

シルトは何も答えない、いや、答えたくなかった
アモンの言う事は当たっていた、アモンという強者と出会い、楽しかったのだ
ギリギリの戦闘、命のやり取り、そういうものを無意識で求めていた
だが、それはさっきまでの話だ
シルトにとって最優先にすべきは仲間の命、強者との戦いなど二の次なのだ
そして、彼は彼なりに余力を残して戦っていたのだ
後ろに待ち構えるサタナキア戦のために・・・・
その計算が大幅に狂ってしまったシルトに戦闘を楽しんでいるほどの余裕はなかった

「まぁよい・・ここからは魂の削り合い!ゆくぞ!!」

アモンの篭手と脚鎧の紫の炎が勢いを増す
シルトは常闇の盾を構え、心の中で呟く、城壁防御と
身体が僅かに沈み、不動の名が示す通り、城壁のごとき防御体勢に入る
アモンが大地を蹴り、地面が炸裂する
その勢いは先ほどまでの比ではない、サラとまでは行かないが、恐るべき速度だ
シルトはそれを予想しており待ち構えていた

ドゴォォォォォンッ!!

「なっ・・・がっ!」

拳が盾に触れた瞬間、爆発が起きた、それを防いだシルトの身体が浮き上がる
彼の右手に持つ盾が衝撃に負け、彼自身にぶち当たる
盾の上部が彼の喉に当たり、シルトは口から血を吐き出した
そして、彼の身体は浮き、2メートルほど後ろへと吹き飛ばされる
尻もちをついたシルトはまともに呼吸ができず、口から血を吐き出しながらむせる
それを見てシャルルが慌てて駆け出す

アモンの追撃が迫っていた
シルトは座ったまま常闇の盾を地面に刺し、全体重を駆ける
そして心の中で反射!と強く念じる

ドゴォォォォォンッ!!

しかし、彼の願いは聞き遂げられず、盾を通して物凄い衝撃が伝わってくる
大地に刺さる常闇の盾が地面をえぐり、彼の身体を後方へと押していく

キィィィィィィンッ!!

その時、遠くから耳鳴りのような高音が鳴り響く
シウの放った3属性の矢だ
シルトに更なる追撃を仕掛けていたアモンは矢に気づき
腕をクロスし防御体勢に入る
矢はアモンの篭手に当たり、ギギギッと削るように回転しているが
アモンはそれを弾き飛ばす

シャルルがシルトの背後に行き、片手を喉に、片手を右腕に当て魔法を唱える

「根源たる生の灯火よ」

急速に痛みが緩和され、シルトは呼吸ができるようになる

「シャルル!危ないから下がって!」

シルトがシャルルを押すように腕を動かすが、彼女はそれを止めた

「直接じゃないと回復が間に合わないからやだ!」

「やだって・・・危ないから!」

「やだ!」

そんな二人のやり取りを、アモンは見ていた

「もういいか?」

「「へ?」」

シルトとシャルルがアモンを見て固まる

「もういいのか?」

「ちょ、待って!」

「・・・・う、うむ」

アモンは腕を組み、二人を見下ろし、待ってくれている

「シャルル!いいから離れて!危ないから!」

「やだって言ってんじゃん!回復追いつかないんだよ!!」

「だからって生の魔法使いが最前線って無茶苦茶な」

「うっさい!!」

「シャルルの服じゃ1発くらえば死ぬよ?!」

「わかってるよ!だから避ける!」

「んな、無茶な」

「このままじゃシルさんが死ぬじゃん!」

二人の喧嘩が続いていると、突如ドゴンッ!と激しい音が鳴る
二人が見上げると、そこには苛立つアモンの顔があった

「いい加減にしてもらおう、これ以上戦いを汚すな」

額には血管が浮き上がっており、相当怒っているようだった

「くそっ、分かったよ」

「うんっ!」

諦めたシルトが立ち上がり、盾を構え直す
シャルルはシルトの後方2メートルの位置で杖を構えた
アモンも構え直し、再び戦いの火蓋が切って落とされた

アモンの一撃をシルトは常闇の盾で受け、その爆発を右へ受け流す
その度に右腕に尋常じゃない痛みが走るが
シャルルがシルトを挟んでアモンのいない方へと回り込み、シルトに触れて回復を流し込む
そこへシウの矢が放たれ、アモンが篭手で防ぐ、そんな攻防が続いている

アモンがシャルルとシルトの間に割り込み
シルトへと蹴りを放つ、それを何とか盾でガードするが
シルトは横へ1メートルほど滑り、その右腕は痺れて握力が無くなる
そこへアモンの左の拳が放たれようとしていた

タッ・・タッ・・

アモンが背中と肩に妙な感触が走る
振り向いたアモンは、何かを視界に捉え目で追う・・・それは自分の上を飛び越えて行った
青い髪の少女はぴょーんっとアモンを踏み台にし飛び越え、シルトの後方へと着地する

「踏み出しにした・・・だと」

アモンはこの青い髪の少女を侮っていた
着地すると同時にシルトの右腕に触れ、回復をかけている少女を見て、アモンはニヤける

「面白い!面白いぞ!女!」

にしし、と歯を見せ笑う少女を見て思う
この娘も戦闘を楽しむタイプか、そしてあの身のこなし、只者ではないな
アモンは心底嬉しくなっていた、これほどの強者達、これほどの逸材と出会えるとは
魔界でもアモンをここまで楽しませてくれる相手はそうはいない
久々の本気の戦いに、アモンは高揚していた

それを遠くから見ていたシウが1つ息を吐く

「これじゃダメだね・・・プラン・壁」

シウがモカ、ハラー、シダモ、マタリに作戦を伝える
4人が同時に詠唱を始めた

「地よ身を守る壁となれ」

「疾走する風よ」

「全てを包み込む大いなる水よ」

「滅びの刃を」

1つの身体能力上昇、2つの防御強化、1つの攻撃強化魔法が掛かる
つま先を地面にトントンと当て、身体の感覚を確かめる
そしてシウは一気に駆け出した

シルトがアモンの右手の拳を盾で防ぎ、爆発を右に弾くと、アモンの左の拳が迫る
そのアモンの顔に矢が迫っていた
アモンは顔だけを後ろに下げるようにして矢をかわし、身体が止まる
矢が飛んで来た方へと目を向けると、シウが4メートルの位置まで迫っていた
シウが跳躍し、アモンの顔目掛けて矢を放つ
それを身体を逸らし回避し、右の拳をシウへ向けて放つ
シウは空中で身体を横に回転するように捻り、その拳をギリギリでかわす
そして、アモンの顔まで5センチの位置で矢を放った
アモンの顔面に直撃し、小さな傷ができ、血は出るが刺さりはしない
着地したシウはアモンの懐に入り、身体を反り、弓を真上に向け、アモンの顎へと矢を放つ
その一撃はアモンの顎を捉え、一瞬だが怯む
矢の衝撃で上を向いているアモンはシウを見ずに左脚の蹴りを放つ
それをジャンプし回避したシウはアモンの胸を蹴り後ろへと跳躍する
空中で身体をくるりと回転し、2本の矢を放った
アモンはそれを篭手で防ぐが、そこへシルトの突きが放たれる
今は塞がっている胸の穴目掛けて放たれた突きは寸でのところで篭手で弾かれる

アモンは3メートルほど距離を取り、笑い出す

「ははははは!!いいぞ!いいぞ!!私の求めていたのはこれだ!!」

左手を前に突き出し、右拳を腰の横に構え、重心を下げる
アモンの右拳の篭手の紫の炎が勢いを増してゆく・・・

「シャルル!横へ!」

シルトの声でシャルルが横へと飛ぶ
シルトは常闇の盾を大地に刺し、右肩を盾の裏に当て
両足を開き、地面に突っぱるように踏ん張る

「私の魔器の本当の力を見せてやろう・・・」

アモンの右拳の篭手以外の炎が消え、右拳の炎は更に勢いを増す
そして、炎は紫から黒へと変わっていった

「これを使うのはいつ以来か・・・嬉しく思うぞ、シルトよ」

「・・・そりゃどーも」

こりゃ食らったらアウトだな・・・シルトはそう思っていた
どうする?避けるか?避けれるのか?城壁を解除するか?
一瞬の思考だったが、その一瞬はこの極限の戦いでは命取りだった

アモンの足元の大地が弾ける
突き出された左手で狙いを定めるように、右の黒い炎の宿る正拳突きを放った

迷っていたシルトはほんの一瞬だが判断が遅れる
ヤバい!間に合わない!は、反射!慌てる心でそう唱え、彼は目を瞑り盾を持つ手に力を込めた
彼が唱えると同時に黒い炎の拳が常闇の盾に当たる

バィンッ、ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!

激しい爆音が轟く
しかし、シルトには一切の衝撃が来なかった

「あれ?」

盾から顔を覗かせ、目をパチパチとしながらアモンを見る・・・
爆発の煙でよく見えないが、アモンは確かにそこにいるようだ
なぜ拳を放たなかったんだ?シルトが不思議に思っていると
煙が風に流され、アモンの姿が現れる
黒い炎が宿った拳はアモンの胸に突き刺さり、止まっていた

「がふっ」

アモンが口から紫の血を大量に吐き出す
少し遅れてから彼の背中が炸裂し、大量の血が吹き出した
アモンの右拳は常闇の盾に触れた瞬間、盾に魔法陣のようなものが出現し
その力の流れが真逆へと向かった
突然の事に反応できなかったアモンは、自身の拳をその胸に受ける

「このような術を隠していようとはな・・・・この局面まで使わぬとは・・・見事」

大量の血を吐き出すアモンはよろよろと下がって行く
そして、アモンは霞む視界の隅に光を見る・・・それは眩い光だった
光の中に立つのはシウ、彼女の手元が激しく輝いている

シウの左手から光の矢が何本も何本も出現し、重なっていく
それは50本の矢の集合体、それが1本になっていた

「イの矢・・・・いけっ!」

そして矢が放たれた
シウの手元から伸びる矢が、まるで1本の長い槍のようになり、アモンの顔面へと迫る

「女・・・貴様も見事なり・・・」

アモンは口元が緩み、目を瞑る
そして、イの矢によりアモンの額は貫かれ、5センチにもなる大穴をあけた

ズーン

アモンが後ろへと倒れ、胸と額からは大量の血が溢れている
シウ、シルト、シャルルは肩で息をしていた
ジーンがシルトとシャルルに駆け寄り、二人に回復魔法を唱える

「シャルル無茶しすぎ、私には無理するなって言うのに」

「それはそれ!これはこれ!」

「なにそれ・・・」

ジーンが呆れながら二人を回復していた
シルトとシャルルは笑顔になり、和やかな時間が流れる
しかし、そんな時間は一瞬で終わりを迎える・・・サタナキアが動き出したのだ

すーっと空中を進み、アモンの上で停止する
腕を組んだままゆっくりと地上へと降り立ち、アモンの顔に片足を乗せる

《醜態を晒すなと言ったはずだが?》

静かな怒りの篭った声が脳内に響く
アモンは薄れゆく意識の中、血を吐き出しながら必死に謝罪しようとする

「ごふっ・・・も、申し訳あり」

ドゴォンッ!

サタナキアはアモンを顔を踏み潰し、彼の頭はトマトのように潰れる
そして、アモンの頭を潰した足は大地に刺さり、半径6メートルの大地がバコッと陥没する
陥没に巻き込まれ、ジーンとシルトとシャルルがよろめく
直ぐ様距離を取り、目の前にできた直径12メートルのクレーターの外へと出る

「相変わらず無茶苦茶だな・・・」

シルトが冷や汗を拭いながら愚痴をこぼす
ジーンがごくりと唾を飲み、シャルルの顔からは笑顔が消える
少し離れているシウ率いる月光達はサタナキアの力を目にし、恐怖していた

「あ、あんなの人間が勝てるわけねぇ」

マタリが逃げようとすると、モカが彼の腕を掴み、動きを止める

「逃げるな!契約は守れ!」

『ふ、ふざけるな!あの脚力見てもわかんねぇのか!!』

マタリがサタナキアを指差し吠える

『30センチ程度の踏みつけであれだぞ!?
 アイツが暴れたらどうなると思ってやがんだ!!絶対死ぬだろ!!』

その瞬間、ゴウッと言う音と共にマタリの身体が紫の波動に飲み込まれる
それはサタナキアの人差し指から放たれていた
以前シルトを吹き飛ばしたものに似ている波動だった
波動が消え、それが通った大地は黒く変色し、マタリはどこにもいなくなっていた
足首から下だけを残して・・・・そう、彼は足首から下以外は消えたのだ、跡形もなく

《我を指差すとは何様だ》

月光達が恐怖から数歩下がっていく
ハラーの股は濡れ、湯気が上がっていた

《くだらん、この程度の相手に手こずるとは・・アモンを過大評価していたか》

ゆっくりとクレーターの外へと歩くサタナキアに恐れ、誰もが動けなかった
彼がクレーターから出て、首だけを月光へと向ける
シウは大きく飛び距離を取ると、サタナキアが指をパチンッと1回鳴らす
先ほどまでシウがいた辺りの空間が捻じ曲がり、視界が歪む
その捻れに巻き込まれたモカとハラーの上半身が歪む
そして、歪みが戻ると同時に彼等の上半身はちぎれ、その上半身はぐちゃぐちゃになる
どしゃっと地面に落ち、血溜りを作り、辺りに血と内容物の臭いが立ち込める
シダモは腰が抜け、尻もちをつき後ずさる
目の前の光景が信じられないとでも言いたそうな顔で

サタナキアは恐怖や絶望をする者を殺すのが大好きだった
快楽にも似た感覚を味わい、サタナキアの顔が緩む
そして、ゆっくりとシダモに向かい歩を進めた







ラーズ軍の激戦はまだ続いていた
残る悪魔は6体、一方ラーズ軍は49000まで減っている
ラピの魔力は残り僅かになり、回復が追いつかなくなってきていた
ラーズ軍の生の魔法使い達も必死に怪我人を治療しているが
悪魔は1撃で複数の兵士達を吹き飛ばす
その1撃を食らった者達は皆瀕死の重症を負い、仲間の兵に引きずられ、後退してゆく
即座に治療のできる高位魔法を使える者はごく僅かしかおらず
戦いは泥沼と化し、消耗戦となっている
疲れを知らない悪魔と、疲れきっている人間では戦況は悪化する一方だった

今回の戦争に参加している2等級冒険者チームは
「スニーク」「明けの明星」「クラッカー」「レイダー」「ノービス」
期待されていなかった彼等の活躍は予想以上だった
彼等の活躍により11体の悪魔が肉塊となる
しかし、悪魔との激戦が続き、スニークとレイダーは半壊している
明けの明星に至っては全滅していた
現在はスニークとレイダーの生き残りが即席のチームを作り、悪魔1体と対峙している
クラッカーも1体の悪魔を受け持ち、ノービスは2体の悪魔を相手していた

「もう魔力がないぞ!」

「わかってる!」

「くっそ!剣が折れた、誰か代わりの剣をくれ!!」

「早く治療を!!」

「もうダメだ・・・立てねぇ・・・」

「いい加減にしろ!やらなきゃやられるだけだぞ!!」

必死に悪魔を相手にしている冒険者達はラーズ軍の援護を受けてはいるが
魔力や装備の限界もあり、劣勢になってきていた
焦り、恐れ、苛立ち、そういったものが彼等の心を乱していく
乱れた心は隙を生み、一人、また一人とその命の灯火を消していった

ノービスのリーダー、ネス・・・30過ぎの熟練の剣士だ
彼等のチームは初心を忘れないようノービス(初心者)と名乗っていた
ネスは2等級の中でもそれなりに名の知られた男である
「ビビリのネス」それが彼の異名だ
何事も慎重に、念入りな下準備をしてから行動するタイプであるネスは
冒険者仲間達からはバカにされ、こんな異名で呼ばれるようになっていた
しかし、今この戦場でラピを除くと彼ほど頼りになる冒険者はいないだろう
彼等ノービスは冒険者達が倒した11体の内5体を倒しているのだ
そして、今現在2体の悪魔を受け持っている
それが出来るのは、ネスの用心深さのおかげだった
彼は過剰なほどの治療薬や魔道具などを揃えている
そして、生存を優先する戦い方により、チームで重症を負っている者はいなかった

「深追いはするな!」

ネスが叫び、メンバーがそれに合わせて動く
長年組んできている仲間だからこそできる阿吽の呼吸のようなものだ
まともにやりあっては勝てない、ネスはそう感じていた
白銀のラピが展開する七色の空間、ここから出ては自分達に勝ち目はない
ネスは七色の光の中央にいる少女へと目を向けた
ハーフブリードの噂は嫌というほど聞いている
聞く話の大半は、にわかには信じがたいものばかりだった
だが、目の前に広がる光景を作り出している少女を見て認めざるを得なかった
悔しさが認めるのを否定するが、圧倒的な差がそれを肯定する
自分達との格の違いを・・・・

「範囲から出るな!1等級の力、利用させてもらおう!」

悪魔を引き寄せ、七色の光の中で戦う
この中では悪魔の動きは遅くなり、彼等の動きは早くなる
そして、悪魔は僅かながらダメージを負っていき、彼等は僅かながら傷が癒えてゆく
能力上昇自体は大幅なものではない、悪魔の動きが鈍くなるのも大幅なものでない
しかし、両方が効果を発揮する事で、それは大差となる
方や継続的にダメージを受け、方や継続的に回復をしていく
これもまた大きな効果ではないが、対になる効果は両者の差を埋めていく
絶対的な差は、今では届かなくはない差になっていた

ネスは腰の革袋から小瓶を取り出す
香水の瓶のようなそれは、中には透明の液体が入っていた
彼は蓋を親指で弾くように外し、ガラスで出来た蓋は地面へと落ち、砕け散る
小瓶をダーツの矢のように構え、それを一気に悪魔の顔を目掛けて投げつけた
瓶は回転する事なく、中身は瓶の中に留まったまま悪魔の顔へと向かっていた
ノービスの仲間が注意を引き、悪魔は小瓶が飛んで来るのを気づいていなかった
そして、目の上辺りにぶつかり、ガラス製の小瓶は割れ、中身が顔へと降り注ぐ
右目に透明の液体が入り、悪魔は目を押さえて苦しみ出す

グォォォォ!

この小瓶に入っていたのはただの水だった
しかし、1つだけ普通でない点がある、それはこの水の産地だ
嘘か本当か、四季が入り乱れる泉の水らしい
ただの水のくせに銀貨12枚という大金を払ったのには理由があった
それは、ハーフブリードの噂でその泉の話があったからだ
ネスは1等級である彼等の噂を半信半疑で聞く反面、憧れてもいたのだ
彼等の冒険した未開の地、その泉の水と聞いて、つい買ってしまった1品だった
だが、何故今それを使ったのか、理由は1つだった
四季が入り乱れる泉、それは生命の泉と言われている
目の前にいる悪魔は、彼等の傷が癒える銀の粒子でダメージを負っている
すなわち、回復効果のありそうなこの水が効くのではないかと思ったのだ
銀貨12枚という大金のため、飲んだ事すら無いのだが

そして、効果はあった

悪魔の右目は溶け、顔はただれ、もがき苦しんでいた
この水を買った時は仲間から無駄遣いだと怒られたものだが
ほれ見ろ!と言わんばかりにネスは勝ち誇り、片手を挙げる
その手を一気に振り下ろし、彼は叫ぶ

『今だ!』

仲間が剣や槍や斧で悪魔の身体を斬りつける
刃は悪魔の身体に深く入り、その肉は裂け、血が吹き出す
1撃を入れると、彼等はすぐに引き、距離を取った
これが彼等が大怪我を負わず戦えてきた戦法だった

斬りつけられた悪魔は膝から崩れ落ち、その動きを止める
そこへラーズ軍の槍隊が一斉に突きを放つ
8本の槍が悪魔の身体に刺さり、悪魔は断末魔の悲鳴を上げた

「や、やったぞ!これで後5体だ!!」

オオオオオオオオオオオオオォォ!!

ノービス側で勝ち鬨が上がる頃、スニークとレイダーの即席チームは壊滅していた・・・
上手く連携が取れず、思うように動けない彼等は3等級程度の実力しか出せていなかったのだ
そんな彼等では1体の悪魔すら受け持つのは難しい
あっと言う間に一人、また一人と倒れて行き、今では立っている者はいなかった
相手がいなくなった悪魔は辺りを見渡す
そして、その目が一人の少女を捉えた・・・ラピだ
七色の光の中心、その光を作り出している妖精を引き連れる少女を・・・

言葉を発する事はないが、この悪魔にも知能はある
あの少女、ラピを殺せば有利になる事くらいは分かった
スニークとレイダーの即席チームを壊滅させた悪魔は
ラーズ兵をなぎ払い、七色の光の中央へと走り出した

『まずいっ!!女神をお守りしろ!・・ファランクスッ!!』

小隊長の一人が叫び、陣形が大幅に変わってゆく
ラピの盾になるように人の壁が出来、最前列には大盾持ちがずらりと並んだ
これはファランクスと呼ばれる密集陣形である
最前列を大盾持ちが並び、その後方から長槍持ちが突く
数という人の波で相手を圧倒する陣形だ

悪魔が最前列の大盾にぶつかり、2人の兵が宙を舞う
その空いた穴にすぐさま後ろの大盾持ちが滑り込み、穴を埋める
こうして出来た人の壁は容易く崩す事は出来ない
そして、足止めを食らった悪魔は長槍により徐々にだが傷ついていく
銀の粒子によるダメージも合わさり、悪魔は徐々にだが弱っていった

何人の兵士が死んだだろうか、もう数えるのも億劫だ
それほどの死体の山が築き上げられている
しかし、数という暴力で1体の悪魔を少しずつだが追い込んでいった
600名近い死者が出た頃、悪魔の動きは鈍くなり、ついにその膝を大地につける

『かかれーーー!!』

その合図で数十の長槍が悪魔の身体へと突き刺さる
悪魔は自身に刺さる槍を掴み、その腕力で槍を持つ男ごと放り投げる
男は宙を舞い、4メートル以上吹き飛んで、大地に叩きつけられる
ボキッと嫌な音がし、男は動かなくなった
それと同時に、悪魔の身体も動かなくなっていた

人が空を舞い、落ちていく・・・・そんな光景をラピは目を潤ませながら見ていた
もう人が死ぬのは嫌だった、でも自分には戦う力はない
援護する、回復する事しか出来ないラピは自分の胸に手を当てる・・・
感じる魔力は残り僅か、回復魔法なら後数回、聖獣召喚なら1回が限界だろう
ラピはどうしようと自問する
普段ならシルトやジーンに作戦を聞くところだが、今はいない
今は自分で判断し、自分で行動しなくてはならない
目を閉じ、頭の中を整理して、どうするべきかを考える
しかし、ラピの頭に浮かぶのはハーフブリードの皆の笑顔だった
その大切な仲間が傷つき、必死に戦っている
私も負けてられない!ラピは拳に力を込め、目を開く

「小隊長さん、1つおねがいがあります」

「はい、なんでしょうか」

「悪魔を範囲から追い出してください、おねがいします」

「はっ!完了次第お伝え致します!」

小隊長は敬礼をし、伝令係へとそれを伝える
伝令係が悪魔と対峙している者達の方へと走り、徐々にだが陣形が変わって行く
しばらくして、ピーという笛の音が響く

「女神よ、完了したようです!」

「わかりました、ありがとうございます!」

女神と呼ばれる事に慣れつつある自分が少しおかしいが
ラピは顔を引き締め、本を開く
パラパラと本をめくり、お目当てのページを開き、目を閉じた
中指がぽわ~っと淡く光り、中空に文字を綴る

「カントより・・・・・おいでませっ!」

両手を広げた瞬間に足元に魔法陣が現れ、それが上昇していく
全身を通りぬけ、ラピの頭上2メートルくらいで魔法陣は回転し、中空に穴を作った
穴は真っ黒な世界へと通じ、そこからぬっと銀色の狼のような獣が姿を現した
雷をまとった聖獣は、グルルと唸り、ラピを一瞥し、指示を仰ぐ

『ディナ・シー!』

ラピが叫び、空中を舞うディナ・シーが舞い降りる

「エペタム!」

ディナ・シーを指差し、エペタムに目を向けた
エペタムは中空を駆け、ディナ・シーの元へと近寄って行く
自身の元へ来たエペタムをディナ・シーは撫で、微笑んで応える

ウォォォォン!

エペタムの遠吠えが響き、身体から雷が放たれる
それはディナ・シーの手の中へと集まっていき
小さな雷の球とも言えるものが出来上がっていった
両手で大切そうにそれを持つディナ・シーは、空に浮かぶ天使の輪まで上昇していく
そして、その雷の球を抱き締め、彼女は微笑んだ
その瞬間、彼女から舞い落ちる銀の粒子を伝うようにエペタムの雷が拡散されていく
この範囲にいる全ての者に、エペタムに雷が降り注いだ

エペタムは身体能力上昇の強化魔法を使える、この雷にはその効果があった
それは通常の強化魔法とは比にならないレベルの効果で
爆発的に身体能力を上げる効果を有している
それがディナ・シーにより拡散される
若干効果は下がっているが、直径200メートルにいる全ての者が体内から凄まじい力を感じる
七色の光の範囲に居た者は既に身体能力上昇の効果を受けていたが
重ねがけされるように更なる力を得る

ラピは笑顔になり、その視界が霞む
ぐらりと世界が歪み、ラピは倒れ込んだ
近くにいた小隊長が咄嗟に抱え、その小さな身体を持ち上げる
とても軽く、とても小さな身体に、小隊長は驚くが
この少女のおかげで今勝利を手にしたかもしれない、そう思っていた
そして、彼は声高に叫ぶ

『勝利の女神は我らの元に!』

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!

4万以上の男達の勝ち鬨が轟き、空気が震える
その声はラーズ首都やハーフブリード達にも聞こえていた







サタナキアは歩を進めていた
迫り来る圧倒的存在に、シダモはガタガタと震え、涙が溢れる
その恐怖に満ちた顔を見て、サタナキアは快楽にも似た感覚を得ていた

《くっくっく・・・・お前はいい顔をするな、気に入ったぞ》

「あ・・・・あぁ・・・・・」

シダモはもはや言葉すら話せないほど恐怖していた
目から、鼻から、口から、股から水分を垂れ流し、歯がガチガチと音を立てている

《お前には一風変わった死を与えてやろう・・・》

サタナキアは立ち止まり、ジーンを睨み、手招きするように手を動かす
その瞬間、ジーンの身体は引き寄せられ、見えない鎖のようなもので縛られる
ジーンはサタナキアの背後の宙に浮き、その身体が締め付けられる

「くっ・・・あっ」

苦しさに声が洩れたジーンを一瞥し、ニヤリとする

《お前に死んでもらっては困るのでな》

そう言い、サタナキアは両手を組む
シウは嫌な予感がし、全力でサタナキアから距離を取った
サタナキアは何語か分からぬ言語をぶつぶつと口走り
身体の周りには黒い文字のようなものが浮かび上がる
それは線のように連なり、サタナキアの周りをくるくると回っていた

《アブソルータ・モルト》

サタナキアの組まれている両手から黒い光が漏れ出す




そして、辺り一帯は死に包まれた




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