2016_02
01
(Mon)17:48

2章 第12話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第12話 【一か八か】

風邪引いたりで更新が遅れました。
今回は少し書き方を変えてみました!
上手く行ってるかは分かりませんが、どうでしょう?

では、続きを読むからどうぞー。








【一か八か】







夜の闇よりも深い黒い光が辺り一帯を包み込んだ
月明かりすら届かぬ、完全なる闇の世界が訪れる

ジーンは肌を締めつける見えない鎖の痛みなど忘れ、闇が広がっていくのをただ見ていた
完全なる黒、完全なる闇、何も見通す事はできない
それはサタナキアの前方に扇状に広がっていた
吸い込まれそうなその黒に、ジーンの歯がガチガチと音を立てる
そして・・・その音すらも目の前にある闇は飲み込んでいた
時間にしてほんの数秒だっただろうか、しかしとても長く感じていた
唐突に闇はそんなもの無かったように一瞬で消え、視界が開ける
そこに広がる景色は一変していた・・・

石や土で構成されていた大地は全て砂へと変わり
木々は灰となり、白く変色している
尻もちをついていたシダモの身体もまた真っ白に変色していた

先ほどまで闇が包んでいた空間へと空気が集まっていく
まるで、ぽっかりと空いてしまった穴に水が流れ込むように・・・
風が起こり、シダモの身体がボロボロと崩れ、服だけを残して宙に舞っていく
シダモの身体は塵となり飛散し、消えていった
灰となった木々も飛散し、森の一角はその姿を消していた
目の前に広がる光景は・・・砂漠・・・そう呼ぶのが適切だろうか
サタナキアの眼前に広がる一帯は死の大地と化した


絶対的な死(アブソルータ・モルト)


それは大地を、空気を、生命を死滅させる魔法
闇を浴びた全てのものは死を与えられる
死の巫女リリム・ケルトの使う究極魔法、即死魔法に酷似した魔法だった
しかし、その黒い光を浴びてもなお、生命を維持する者達がいる
それはシルトとシャルルだ
彼等は一変した景色をキョロキョロと眺め、身体に異変が無いかペタペタと触っている

「な、なんだ?今の」

「なんとも・・・ないよね?」

「うん、多分」

「あ!サラ!」

シャルルがハッとしたようにサラが寄りかかる木の方へと目を向けた
そこにあったはずの木は無く、大地は砂へと変わり果てているが
真新しい赤いコートを着るサラは横たわり、寝息を立てていた
良かった・・・胸を撫で下ろし、鋭い視線でサタナキアへと振り返る
サタナキアの顔には先ほどまでの余裕に満ちた表情はなかった

《バ・・・・バカな・・・何故生きている》

動揺するサタナキアの額には僅かに汗が浮かび上がる

《下等生物である人間ごときが生きれるはずは・・・・まさかっ!》

何かに気づいたサタナキアは背後に浮かぶジーンへと目を向け
その目に縦一直線の筋が走り、片眼に魔法陣のようなものが浮かび上がった

《人であるお前等が何故生きているのか驚いたが・・・そうか、そういう事か》

ジーンの魔力の深淵を覗き、サタナキアは笑い出す

《くっくっく・・・しかし、やはり不思議だな》

振り向いたサタナキアはシルトへと目を向け口を開く

《お前等、神の果実を口にした事があるな》

「神の果実?」

そんなの食べたっけ?とシャルルを見て聞くが、シャルルは首を横に振る
しかし、ジーンには1つだけ心当たりがあった

「せ・・・生命の泉の・・・くっ」

見えない鎖に締めつけられるジーンは痛みに顔が歪み、言葉が続けられなかった
だが、その言葉だけでシルトやシャルルは気づく

『あー!あったあった!』

『あれかー!!』

"あれ"とは、シャルルが生命の泉を通り抜ける時に辺に生える木からもぎ取った赤い果実
ウェールズが毒見をし、それを皆で一口ずつ食べたのだ

《口にした者はその生命力に耐えられず絶命する・・・お前等は何故生きている》

神の果実とは、本来であれば神への供物とされる物である
生命の泉にはニンフが育てている神への供物が幾つも存在していた
その1つが赤い果実、神の果実だったのだ
生命の泉の水で成長し、その内に秘める生命力は膨大で
普通の人間では一口食べるだけで全身から血が吹き出し、絶命するだろう
以前、霊薬を取るために生命の泉に潜ったザンギが血を吹き出し死亡したのはそのためである

《まさか・・・・お前等がそうだとでも言うのか》

サタナキアは一人で納得し、ギリっと歯を噛み締める
シルトとシャルルは何の事やらさっぱり分からず、ただ動けずにいた
その時、拘束されているジーンの視界の隅に一つの影が動いていた




シウは走った、とてつもない魔力と嫌な予感を感じて
サタナキアの両手に集まる魔力は尋常ではない、それをシウは感じていた
何かまずいものがくる、それだけは分かっていた
全力で駆け抜け、木々の生い茂る森へと入っていく
枝が頬をかすり痛みが走るが、お構いなしに彼女は走った

そして、後方が黒い光に包まれる

それは森の中に広がる闇よりも深く、全てを拒み、飲み込むような黒だった
シウは振り返った、その光に吸い込まれるように
彼女は目にする、たった5メートル先の木々が闇に飲まれていくのを
足がもつれ、転んでしまい、つばの広い帽子が宙に舞う
その闇は彼女の手前2メートルの位置で止まった・・・助かったのだ
闇が消え、視界が開けると、そこに広がるのは白く変わり果てた木々と、砂となった大地だった
闇があった空間に風が引き寄せられるように発生し、木々が塵へと変わり消えてゆく・・・

「なんなのこれ・・・」

信じられない光景を目にし、彼女の口から言葉が洩れる
木々が塵となった事により、シルト達の姿が視界に入った
どうやら彼等は無事なようだ、しかし、仲間であるシダモは木々と同じように塵へとなっていた
どうして?それが彼女の頭の中に真っ先に浮かんだ言葉だ
どうして彼等は平気なの?と、その疑問が頭をぐるぐると回る
だが、今はそんな事はどうでもいい、大事なのは彼等が生きている事だ
よく分からないけど良かった、モカ達は失ってしまったけど、彼等がいれば勝てるかもしれない
そう思い、立ち上がったシウはもう1つの選択肢を思いつく
逃げる、という選択肢を・・・だが、彼女はすぐにその考えを振り払う

「ダメだ、あの子達を置いては行けない」

あの子達とは、サラとシャルルの事だった
シウはハーフキャットであるあの二人に強い想い入れがあったのだ

その理由は・・・・

その時、彼女の耳にサタナキアとハーフブリードの会話が聞こえてくる
彼女の大きな耳がピクピクと動き、向きを変える
赤毛のボブカットの上部には、猫のような大きな耳が生えていた
そう、彼女はハーフキャットだったのだ
耳はつばの広い大きな帽子で隠し、尻尾は腰に巻きつけ、シルクの布で隠していた

世間のハーフキャットという半亜人の扱いは奴隷以下だった
シウは幼い頃に偏見という暴力を沢山受けてきたのだ
そして、彼女はハーフキャットである事を必死に隠し生きてきた
それがどうだ、ハーフブリードにいるあの二人は
堂々とハーフキャットである証拠の耳と尻尾を露出し、その実力で1等級まで上り詰めた
自分とは違う二人の生き様に、彼女は胸を打たれていた

先日、ハーフキャット達が囚われていた娼館が何者かに襲撃された話も聞いている
たった一夜で館は壊滅し、全てのハーフキャット達は解放された
その後、エルフの里に引き取られ、人権や仕事すら与えられたと聞く
それを成し遂げたのが彼等との噂を耳にしていた
だから今回の依頼を即答でOKしたのだ・・・報酬が良かったのも事実だが

そんな彼女達を置いて自分だけ逃げるなんて事ができるだろうか
いや、できない・・・シウは右手にある弓に力を込め、身を屈めて走り出していた
損得で動く事が多い彼女にとってはありえない行動だっただろう
だが、この時のシウは無意識で身体が動いていた
同胞を助けたい、ただそれだけを願いを胸に




シウがサタナキアに気づかれないよう砂の山に身を隠している
それを目視したジーンは力の限り声を張り上げた

『私の心臓を狙って!!』

背後から突如叫び声がし、サタナキアは振り向く
痛みに耐えかねて死を望んだか?そう思っていた
しかし、その考えは的外れに終わる事となる

シウは弓を構えていた、狙いはジーンの心臓だ
ジーンの狙いを察し、彼女は即座に動いていたのだ
彼女の左手に光の矢が何本も重なってゆく・・・その数は5
多いかな?少ないかな?シウは迷うが、先ほどのサタナキアの魔法障壁の強度を思い出す

シウ弓

これでも足りないくらいかも・・・賭けてみよう
ごくりと唾を飲み込んだシウは更に5本の光の矢を重ねる
10の矢が重なり、眩い光を放っていた

「ソの矢・・・いけっ!」

10の矢が連なり、3メートルほどの槍のように伸びていく
それは一直線にジーンの心臓へと向かった
サタナキアの顔の横を通り、ジーンの心臓に・・・・は刺さる事はなかった
ジーンの胸の数センチ手前で矢は何かにぶつかり、光の矢が弾け飛んでいく
1つ、2つ、3つ、4つ、次々に矢が弾け、9の矢が当たった時
ジーンの身体を縛り付ける見えない鎖が姿を現す

パリンッ!

ガラスの割れるような音が響き、ジーンの身体を縛る鎖が断ち切れる
鎖が無くなった事により、ジーンの身体はふわっと落下を始めた
そして・・・10本目の矢は彼女の身体に深く突き刺さっていた

「うっ」

ギリギリのところで身体を逸らし、心臓への直撃は避けるが
矢は左の腋の下辺りに3センチほど刺さり、消えてゆく

「根源たる生の灯火よ」

着地と同時に回復魔法を詠唱し、傷口を強く押さえ、ジーンは駆け出す
サタナキアはシウのソの矢やジーンを止める事は容易だったが
必死に抗う人間を見て、内から湧き上がる衝動に駆られていた
助かったと思わせてから絶望に叩き落とす快感を得たい衝動に・・・
サタナキアはニヤリとしながらジーンの走る姿を見つめ、舌で唇を舐める

シャルルが駆け寄り、回復魔法をかけようとするが、ジーンはそれを手で制し
ハーフキャットであるシャルルにしか聞こえない程度の小声で言う

「シャルル、魔力は取っておいて・・・風樹魔法をお願いしたいの」

シャルルの大きな耳がぴくんと動き、ジーンの冷や汗まみれの顔を覗き込む

「まだちゃんと使えないよ?」

「使えないじゃないの、使って、じゃないと私達は全員死ぬ」

「・・・・・わかった」

シャルルは左手に持つ両手杖に力を込め、ジーンに対して大きく頷いた
使えなければ全員死ぬ、それは途方もないプレッシャーだった
しかも、成功したのはサラを解呪した時くらいなのだ
この危機的状況でジーンはやれと言う、なんて無茶苦茶な・・とも思う
でも、シャルルにはそれほど切羽詰っている状況なのも理解していた
今自分がやらなくちゃ!そう思い、シャルルは指輪に意識を集中する・・・

「できるだけ大きな風を起こす魔法をお願い」

「・・・・わかった、少し時間ちょーだい」

目を瞑るシャルルの横顔を見て、ジーンが頷き、それからサタナキアへと顔を向ける

「ねぇ、サタナキア」

左腋下から来る痛みを堪えながらジーンが言葉を紡ぐ

「アナタは人の絶望が大好きよね?」

見抜かれたようで僅かに苛立つが、この女が何を言わんとしているのか知りたくなる

《・・・・それがどうした》

乗ってきた!ジーンは内心ガッツポーズをしたいくらい嬉しかった
しかし、そんな感情は顔に出さず、淡々と続ける

「私達の全力を見せてあげる、それを受けてみなさい」

これは賭けだ、普通ならこんな提案には乗ってこないだろう
しかし、サタナキアはプライドの塊であり、絶望する人間を叩きのめすのが好きなようだ
さっきジーンが逃げるのを見逃したのもそのためだろう
これまでの戦いを経て、ジーンはサタナキアの性格を分析していた
それを逆手に取り、挑発するつもりなのだ
なかなか反応を示さないサタナキアに追い打ちをかける
いや、ある意味これが決め手とも言えるだろうか

「怖いの?」

チッと舌打ちをし、一瞬悩んだ後でサタナキアはニヤリとする

《いいだろう、お前等の全力とやらを見せてみよ、そして絶望を知れ・・くっくっく》

そう言い、サタナキアは腕を組んで待つ事とした
下等生物ごときが我が魔法障壁を破れるとも思えん
この娘が使うのはたかが下位精霊だ、その程度で何ができよう
1枚の障壁を破れたらいいとこだろう
全力を出し切らせ、その上で叩き潰す、その時の恐怖に歪んだ表情を想像し
サタナキアは愉悦に浸っていた

ジーンは計算通り事が運んでいる事に内心ガッツポーズをし、シルトに手招きをする
小走りで駆け寄ってきたシルトの耳に口を寄せ、小声で話す

「今から私とシャルルで魔法を放つから、それが当たったらシルさん突っ込んで」

「ふむふむ」

「多分アイツは焦って魔法撃ってくるから、さっきの反射を使えばいけると思う」

「タイミング合うかなぁ・・・正直まだ掴めてないんだけど」

「成功しなきゃ私達全員が死ぬだけ」

「だよね、やってみるよ」

「お願い、それともう1つ」

「ん?」

「門へ押し込んで、後は私がやるから」

「おっけー」

ジーンはシルトの耳から口を離し、シウへと顔を向ける
シウが察したように駆け寄り、ジーンの横へと立った

「シウさんにもお願いがあるの」

「なに?」

「さっきに会話は聞こえてた?」

「うん、大体は」

「シルさんが突っ込んだのをありったけの力で援護して欲しいの」

「勝算は?」

「これしか私達が生き残る道は無いと思う」

「わかった、任せて」

シウは3歩ほど後ろへ下がり、片膝をついて弓を構える
何かを使うつもりなのだろう、それを見たジーンは僅かに微笑み、そして正面を見据えた
その目線の先にはサタナキアがニヤリとしながら両腕を組んでいる

これから行うのは理論上では可能だけど、全てはシャルルに掛かっている
大規模な風を起こしてくれないとこの作戦は成功しない
それが覚えたての彼女にできるだろうか・・・ジーンは少し不安になりシャルルを見る
そこには普段の騒がしさの欠片もない、集中しているシャルルの横顔があった
シャルルは私の知る中で一番才能のある子、それは努力という才能
身体の異変にいち早く気づく才能、そして、諦めない才能
初めて会った頃は下に見ていた、でもシャルルは私には無い力をどんどん手に入れていく
そんな彼女の成長には驚かされてばかりだった
今では対等に思っている、誰よりも認めている相手になっている
シャルルならやってくれる、ジーンはそう思わせてくれる何かを感じていた

しばらくしてシャルルが立ち上がり、目を見開く
勢いよく杖を自身の前に突き刺し、両手を杖の先端へと充てがう

「いけるよ」

シャルルは一言だけ言い、魔力を込め始める
頷いたジーンは10メートルほど離れた位置に移動し、両手を広げて目を瞑る

「おいで・・・サラマンダー、ウォーターウンディーネ」

両手をパチンッと1回ずつ鳴らし、その音が反響していく
ジーンの左手側には小さな炎が出現し、右手側には小さな水の玉が出現した
それ等は次第に大きくなり、弾けた
全長6メートルを超える炎のトカゲと、3メートルほどの青い裸体の女性が現れる
2体の精霊は互いを睨み、その後、ジーンを見て命令を待った

「全魔力を解放、弾けろ」

ジーンは両手をクロスさせるように振り、それに合わせて2体の精霊が動き出す
キュゥゥゥンという高い音が響き、サラマンダーとウンディーネの身体が光り始める


その光景を眺めているサタナキアはほくそ笑んでいた
やはり下位精霊ではないか、あの程度の力で何をするというのだ
無駄な足掻きを・・・あの女の絶望を知った時の顔が楽しみだ

《くっくっく・・・》

これから味わえる最高の快楽に思わず笑いが洩れ、その光景を見つめていた


サラマンダーとウンディーネは宙に浮き、30メートルほど上っていく
今では形を保っておらず、巨大な火球と、巨大な水球と化している
巨大な球と化した二つが眩い光を放ち、ぶつかり合った
その瞬間、激しい光りが降り注ぐ

『シャルル!!』

ジーンが叫び、シャルルが魔力を解放する
彼女の髪や服がバサバサと揺れ、その両手から杖にかけて白い雷がバリバリと走っている

「大気を揺るがす大いなる風よ、生の力もて大樹とならんっ!」

風樹

シャルルを中心に突風が発生し、それが彼女の周りをぐるぐると回り始める
シャルルの身体からは白い雷が洩れ、それが風に吸い込まれ、風は竜巻へと変わってゆく
横にいたシルトは慌てて距離を取り、シウも大きく後ろへと飛び退いた

ゴオオオオオオオオオオォォ!

暴風が吹き荒れ、竜巻は巨大化していく
その内側には白い雷がバリバリと蛇のようにうごめき、上へ上へと登って行く

ボウゥゥゥゥゥゥンッ!!

上空でサラマンダーとウンディーネがぶつかり合い、大爆発が起きる
それは水蒸気爆発というやつだ
辺り一帯に水蒸気が飛散し、視界は白くなる
しかし、その水蒸気は全てシャルルの作る竜巻へと吸い込まれて行った

『シャルル!お願い!!』

ゴオオオオオオオオオオォォ!!

ジーンの声は暴風の音でかき消されるが、シャルルの耳には届いていた
彼女はにしっと歯を見せ笑い、全魔力を杖へと込める


『ベント・アルボォォォ!!』


シャルルの髪から、身体から白い雷が次々に発生し、竜巻へと突き刺さる
竜巻を貫通し、大木のようになっていた竜巻からは白い雷の枝が生える
それはまるで大樹のような姿だった
白い雷を受けた竜巻は急速に成長していく
その高さは雲まで届き、巨大なうねりとなっている
砂が巻き上がり、目を開けている事すら困難になる
そして、水蒸気が舞い上がり、雲を大きくしてゆく
竜巻はピシィッと音を立て白い枝を増やしていく
天にも届く大樹は一瞬たりとも同じ形は維持せず、蛇のようにうねっていた


サタナキアはそれを見て驚く、何だこの魔法は、と
彼も見た事がない魔法だったのだ
そして、何故精霊を無駄遣いしたのだ、と
しかし、彼は僅かにだが喜んでもいた、人間という下等生物がどこまで見せてくれるのか

《ふはははははは!!いいぞ!もっと我を楽しませろ!!》

久々に胸が高鳴る、この感覚はいつ以来か!
目を大きく開き、幅6メートルにもなる大樹を見つめ笑っていた


シャルルの風樹魔法によりジーンの作り出した水蒸気は巻き上げられ
空にあった雲は急速に成長していく
更に、風樹魔法により上昇気流が作り出され、雲は雷雲と化す

ゴロゴロゴロ・・・

夜の闇に雷光と雷鳴が轟いていた

「このくらいでいいかな・・・シウさん、シルさん」

シルトは剣をしまい、盾を両手で構えていた
その後方でシウは片膝をつき、固定砲台のように弓を構える
その二人が頷くのを確認してからジーンは右手を前に突き出す

「お願い、魔力よ持って・・・・・・・おいで!ウンディーネ!!」

パチンっと指を鳴らし、その音は反響するように数回続いていく
上空6メートルの位置に小さな水球が発生した
それは徐々に形を変え、大きくなっていくが
いつものように瞬時に巨大化し、弾けるわけではなかった
ゆらゆらと揺らめき、不安定な形を形成している

「うっ・・・・いっ・・けーー!!」

魔力の消耗に耐えられないジーンは両膝をついて右手を上へと一閃する
彼女の鼻や口からは血が流れていた
彼女の右手の動きに合わすように不安定な水球は空へと上ってゆく
それは糸のように細くなり、遥か上空まで行き、肉眼では捉えられなくなる

その時、シャルルの作り出していた風の大樹は飛散し、消えてゆく
その中から現れたシャルルは、パタリと真横に倒れ、気を失う

「サタナキア・・・覚悟しなさい」

ジーンは苦しさを我慢しながら少しでも余裕のある素振りで言う
そんなジーンを見てサタナキアは笑っていた

《ふははははは!女!これからどうするというのだ!我を楽しませてみろ!!》

挑発が成功してる、いける!
ジーンは勝利を確信し、最後の仕上げをする
ふらっと立ち上がり、その上げている右手を一気に振り下ろす



『降雷!』



ズガガガーーーーン!ドドーーーーーーンッ!!

一瞬視界は真っ白になった
それは太さ2メートルにもなる雷が落ちたからだ
上空に発生した雷雲から、ジーンの最後の魔力で作り出した水の糸を伝い
サタナキアの頭上へと全ての雷が降り注ぐ
それは1発や2発ではない、連続でサタナキアへと降り注いだのだ

ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン!

1枚、また1枚とサタナキアの障壁は音を立てて割れてゆく

《なっ・・・に!これは!!》

ガシャーン!

最後の障壁が割れ、サタナキアは上を見上げた
数回しか破られた事のない障壁が下等生物である人間に糸も簡単に破られる
下位精霊しか使えない相手に破られたのだ、それはサタナキアには信じがたい光景だった
そして、彼の瞳には白い世界が広がった・・・

ズガガガガーーーーンッ!!

7発目である最後の1発の雷がサタナキアの身体を包み込む

ドゴーーーーーーーンッ!!

《ぐがっ!》

サタナキアの身体が宙に舞い、3メートルほど吹き飛ぶ
受身など取れず、サタナキアの身体は大地に叩きつけられ、転がってゆく
そこへシルトが常闇の盾を前に構えながら走り出す

『うおおおおおぉ!!』

上半身を起こしたサタナキアが見たのは迫り来る大盾だった

《くそっ!人間ごときがぁぁ!!》

右手を前に出し、魔力を込める・・・その瞬間、紫と黒の斑な波動が放たれた

『反射しろおおお!!』

心で念じるだけでいい反射をシルトは大声で叫んだ
それは願いにも似たものだった
タイミングは今だ掴めていない、これも一か八かなのだ

バインッ!!

一瞬盾に魔法陣が現れ、波動はその向きを変える

《くっ》

波動をその身に受け、サタナキアの身体は何回転もし、転がってゆく

《がはっ!》

口から血を吐き出し、片膝をつき、立ち上がろうとした時
シルトの後方に眩い光りの壁を見る


『百夜!(びゃくや)』


シウが放った100本の光の矢が壁のように迫っていた
それは弧を描きシルトの頭上を超え、サタナキアへと降り注ぐ
サタナキアは両腕を胸と顔を防御するように組んだ

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

まさに矢の雨が降り注いだ
サタナキアの身体中に光の矢は刺さり、赤黒い血が流れる
矢の雨が止むと、サタナキアは叫び、両腕を払う

《こんなもので我が倒せるものかっ!!下等生物がぁぁ!!》

『くらえーーーーっ!!』

サタナキアが両腕を払い、前を見ると、そこには黒い壁が広がっていた
夜の闇とも違う、光りすら飲み込まれそうな黒
一瞬何が起こっているのか理解が出来なかった
しかし、その後一瞬で理解させられる事となる

バゴッ!

何かが顔面に直撃し、鼻が折れる感覚がする
シルトが常闇の盾で思いっ切り殴りつけたのだ

《ぶほっ》

3歩、4歩と後退していくサタナキアの視界の隅に黒い金属のようなものが見える
咄嗟に振り向いたサタナキアは"それ"を目にする

《まさかっ!》

"それ"とは異界の門だった
そう、彼は気づいていなかったのだ
この全ての攻撃が彼を門へと押し込む作戦なのを

『もういっちょーーー!!』

後ろを見ていたサタナキアはその声で振り向く・・・再び黒い壁が迫っていた

シルトVSサタナキア

バゴッ!!

《ぐぅっ》

また1歩・2歩と後退してしまう
シルトの常闇の盾による打撃は当たる瞬間に城壁防御を発動し、その重さを数倍に上げていた
そして、サタナキアの右足が門へと入る

『ジーンさん!!』

シルトが叫ぶ、だがその前からジーンは準備をしていた

「帰りなさい、サタナキア」

ジーンの足元に描かれた五芒星が輝き
サタナキアの胸や腰に刺さっている鎖がギュルギュルと音を立てて動き出した
それは門へと引き込まれるように動き出す

《くそがっ!!》

サタナキアは門を両手で掴み、引っ張られる身体を繋ぎ止める

『さっさと帰れぇぇぇぇぇっ!!』

門を掴む両手にシルトの常闇の盾での一撃が入る
サタナキアの指は曲がり、激痛が走った
そして、サタナキアの身体は門へと吸い込まれてゆく

《人間ごときが!人間ごときがぁぁ・・・・・・》

サタナキアの身体が完全に門の中へと消える
その瞬間、鎖は断ち切れ、門が締まっていく・・・

ギギギギギギ・・・ゴウンッ

ゆっくりと門は大地に沈んで行き、その姿を完全に消した
そして、静寂が訪れる
それはとても長かったようにも思える

「お・・・終わったぁ」

シルトが大の字に倒れ込む
ジーンもシウも座り込み、乾いた笑いが込み上げる

「ははっ・・・終わったよ、終わった」

「そうだね、終わったね」

「はははっ・・・生きてるよ」

「「あははは」」

3人は笑い合い、脱力感が襲ってくる

「もう動きたくないわぁ、帰って寝たいなー」

シルトが寝転びながら星空を見て言う
ジーンはやっと肩の荷が降りたおかげか、微笑みが戻っていた
シウはふらふらと立ち上がり、シャルルの抱き起こしていた
それに気づいたジーンが手伝う
シルトも立ち上がり、彼はサラの元へと向かった

シャルルの身体をジーンとシウで支え
シルトはサラを背負い、歩き出す
激戦を終えた彼等は、まさに満身創痍だった






遠くから勝ち鬨が聞こえる
どうやらラーズ軍も勝利したようだ
シルト達がふらふらとしながら首都への道を歩いていると
ラーズ軍がお祭り騒ぎのような活気で彼等を迎える
その騒ぎの中心で、何かがぴょんぴょんと跳ねていた

「あはははっ」

長い耳の白髪の小さな女の子がラーズ軍の男達に胴上げをされ、はしゃいでいる
シルト達が来ると兵が道を開け、胴上げをされるラピへと真っ直ぐ向かう事ができた

「ラピ、何やってんの・・・」

「ひゃぁ」

呼ばれて気づいたラピは素っ頓狂な声を上げる

「何この騒ぎ・・・」

「あ、いや、これは~・・・その~」

ラピが困り、頬を掻いていると
男達が動き、階段を形成する

「女神よ!我等の背を足場にしてください!」

「め、女神・・・?」

「あははは、いやだな~、女神だなんて~」

照れるような仕草のラピだが、その顔はまんざらでもない
一人のラーズ兵に手を添えられ、ゆっくりとラーズ兵の背を踏み、降りてくる

「うわぁ・・・・これはひどい」

シルトの冷たい目線が向けられる

「うん、これはひどいね」

ジーンも続き、シウもうんうんと頷いていた
先ほど目を覚ましたシャルルがラピを見て笑い出す

「あはは!ラピが女神とか!あはは!!」

サラもこの騒ぎで目を覚まし、そんなラピの扱いにクスクスと笑うが
笑う度に走る痛みに顔を歪ませる

「サラは笑わない笑わない、身体に響くぞ」

「うん、でも・・・ふふっ」

どうやら我慢できないようだ

「私が女神じゃ悪いのかー!」

「悪くはないけど・・・ぷっ、ねぇ?」

一行はうんうんと頷いている

「くっそー!私の大活躍を見てたらそんな事言えないんやからね!」

そこへラーズ兵の一人が声を張り上げて言う

『そうであります!ラピ・ララノア様は我らの勝利の女神!
 女神の力が無くては我等の犠牲者は数倍にはなっていたはずであります!』

「へ、へぇ・・・そうなんですか」

『はっ!!』

「良かったね?女神さま・・・ぷぷっ」

「くそー!バカにしてるだろー!」

「「「「あははは」」」」

先ほどまでの激戦が嘘のように皆が笑っていた
やっと平和が訪れたのだ・・・・そう実感するシルト達であった





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