2016_02
06
(Sat)22:36

2章 第13話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第13話 【ハーフブリード】其の一

さぁ、今回から新しい話です!
個人的にこれすっごい描きたかった!!

では、続きを読むからどうぞー。










【ハーフブリード】其の一






トントントントンッ

外からはひっきりなしに金槌の音が聞こえてくる
男達の声で賑わい、ラーズ首都は普段とは違う活気に溢れていた
サタナキア軍との戦争を終え、今ラーズ首都は復興しようとしている
大勢の大工や魔法使い達が動員され、急ピッチに復興が進められていた
今回の英雄であるハーフブリードは軍の計らいで真っ先に家を直してもらった
費用は軍が立て替えてくれる手筈となってはいたが、それをシルトは拒んだ
理由は、軍に恩を売りたくなかったからだ
いいように使われて、戦争に駆り出されては仲間の命に関わるためである
新しくなった我が家に少し違和感を覚えながらも
少し広くなり、綺麗になった我が家に皆の心は踊っていた

「綺麗になったねー」

ラピが居間を走り回り、シャルルは寝室を確認していた
シルトは地下室を確認し、サラは客室を見て回っている
ジーンは変わらずマイペースに椅子に座って本を読んでいた

今回、改装ついでに増築し2階を増やす事にした
いい加減、ソファで寝るのを嫌がったシルトの案である
2階には2部屋あり、両方ともベッドルームとなっている
これにより、シルトは自身の寝室を取り戻す事となった
寝室を使っていたシャルルとジーンは2階に移り、もう1部屋にサラが入る事となった
2階には広いバルコニーもあり、日当たりもよく、開放的だ
増築費は金貨にして500枚、有り金全てを使った事になる

「それじゃ、荷物を部屋に運ぼうか」

各々が荷物を自室へと運び、真新しい我が家をどう使うか胸を踊らさせている
陽も高くなった頃、おおよそだが片付けも終わり、今は居間でくつろいでいた
本を読みふけっているジーンの肩をシャルルが揺する

「ジーン!ジーン!買い物行こっ!」

視界が揺れ、本を読めなくなったジーンは1つ息を吐き出して本を置いた

「わかったから揺らさないで」

「やったー!行こー!」

「じゃ、行ってくるね」

「「「いってらっしゃーい」」」

シャルルに背中を押されるようにジーンが外へと消えてゆく
二人を見送ると、ラピが席を立ち、ウェールズを手招きする

「ウェールズ、お出かけしよー」

アギャ

とことことウェールズが歩み寄り、ラピが両手で抱き上げる

「ちょっとお散歩してくるねー」

「ほーい、気をつけてね」

「いってらっしゃーい」

ラピはウェールズを肩に乗せ、出かけてゆく
外から聞こえる金槌の音や、大工の大声が聞こえるだけで
室内には静かな時間が流れている
その静寂を破ったのはシルトの一言だった

「やっぱダメだ・・・」

頭を抱え、何かを書いていたシルトが言葉を洩らす
紅茶を飲んでいたサラはカップを置き、シルトを見て言う

「どうしたの?」

「あ、何でもないよ、ちょっと用事ができたから出てくるわ」

「そう?わかった、気をつけてね」

「うん、留守番よろしく」

「はーい、いってらっしゃーい」

そそくさと出かけるシルトの後ろ姿を見送り
サラはどう暇を潰すかを考えていた・・・すぐにひらめき、席を立つ
自室に置いてある剣と盾と工具箱を持ち、それを居間へ置いた後に彼女は地下へと向かう
大きな錠が2つされており、そこへ太い金色の鍵を差し込む
ガチャと音を立てて鍵が外れ、分厚い鋼鉄製の扉がギギギギと鈍い音を立てて開く

「っしょ、と」

油をささないとダメかな?そんな事を考えながらサラは地下への階段を降りて行く
薄暗い地下室の片隅にお目当ての物があるのを見つけ、それに近づく
それはシルトの剣と常闇の盾だ
その2つを持って彼女は居間へと戻った
食卓であるテーブルにそれらを置き、ふぅと小さな息を洩らす

「よくこんな大きな盾使えるなぁ・・・やっぱ筋力の差なのかな?」

ほどよく筋肉のついた自身の二の腕を触り、ふにふにと硬さを確かめる
ちゃんと筋肉がついているのかイマイチ分からずサラは悩む

「・・・うーん、今度シルトさんの触らせてもらおうかな」

そんな独り言を呟きながら、彼女は席についた
どれから始めようか少し悩み、サラは自身の剣を手に持つ

「よしっ、皆が帰って来る前に終わらせちゃお」

工具箱から小さなハサミを取り出し
柄に巻かれている滑り止めの薄汚れた布の端っこを切る
するすると布を解き、柄部分をボロ布で丁寧に拭いてゆく
包帯のような真新しい滑り止めの布をキツく巻いていき、最後に小さくギュッと縛る
余った部分をハサミで切り、手に持ち2回ほど軽く振って感覚を確かめた

「うん、悪くない出来」

工具箱から砥石を取り出し、テーブルに置いた後に席を立つ
台所でコップに水を入れ、それをテーブルに置く
その水で砥石と刀身を濡らし、自身の剣の刀身部分を念入りに見る・・・

「・・・・あった」

刃こぼれを見つけ、そこを重点的に研ぐ事にした
シャ、シャ、シャとリズミカルな音が響き、サラの額に汗が滲む
ミスリルは腰を入れて研がなくてはいけなく、結構な重労働なのだ
数回研ぐ度に刀身を確認し、再び研ぐ・・・この作業が繰り返されていた
しばらくして満足できる仕上がりになった剣を見て、サラは大きく頷いた

「ふぅ・・・次はどれにしようかなぁ・・・」

剣を綺麗な布で丁寧に拭き、鞘へとしまう
一際目立つ存在である大盾、常闇の盾を持ち、念入りに調べた

「わぁ・・・これって傷一つつかないんだ」

僅かなヘコみすら無い盾の表面にサラは感動すら覚えた
何気なしにサラはグリップ部分に手を通し、構えてみる
その瞬間、頭の中に言葉が浮かんでくる

反射・・・・常闇・・・・・王・・・・・メ・・フィ・・・・

これがシルトさんが言ってたのか・・・背筋がゾゾっとするのを感じ
サラは咄嗟に常闇の盾をテーブルに置く
調べた感じだと一切の劣化は感じられず、この盾は手入れが必要ないようだった
先ほどまでとは違った汗をかく
サラはアーティファクトという未知の存在に僅かにながら不安を覚えていた
気を取り直してサラは自身の盾を手に取る
表面を見ると買ったばかりだと言うのに無数の傷がついていた

「もうこんなに・・・」

工具箱からヤスリを取り出し、表面にかけてゆく
服などに引っかからないよう平らにしておくためだ
えぐれた部分の出っ張りが無くなり、表面はなめらかになった
続いて、グリップ部分を調べる
この盾は分厚い革のグリップが金具で付けられている
その金具の1つが緩んできていた
工具箱から小さな金槌と小さな楔を取り出し、楔を金具へと当てる

コンコンコンッ・・・コンコンッ・・・

微調整しながらゆっくりと金具を直していく
その作業をしていると、ふと昔の事を思い出した

「昔はこれが出来なくて泣いてたなぁ・・・ふふ」

彼女は思い出に浸りながら作業を進めていた・・・








サラがまだ幼かった頃、シルトと出会い、彼女の人生は大きく変わった
当時のハーフキャットという存在は人として扱われない
それを彼は全く気にする様子もなく、普通の人として扱ってくれていた
次第に彼を信用しサラはお願いする・・・初めて自分から一歩踏み出た瞬間だ
そして、彼女は戦い方を教えてもらえる事となる
すでに日も落ち、厳しい修行は7日目が過ぎようとしていた

「いたた・・・」

手には複数のまめができ、それが破れ血が出ている
シャルルが仕事から帰って来て、その傷を癒そうとするがサラはそれを拒んだ
疲れて帰って来たシャルルにこれ以上の負担をかけたくなかったからだ
この当時、シャルルは4等級冒険者をやっている
荷運び、倉庫整理、ドブ掃除など、雑用ばかりをやって生計を立てていた
これは本来であれば冒険者のやる仕事ではない
しかし、チームを組んでおらず、力の無い彼女は護衛などの依頼は受けれなかった
そこで何でも屋のように雑用を冒険者として依頼を受けて報酬を得ていた
その額は通常の4等級に比べると遥かに低いが、その分依頼も多かった
最初はハーフキャットである事を嫌がられたが
いつも一生懸命なシャルルの姿に、次第に依頼者側も頼るようになっていく
リピーターの客が増え、生活は安定へと向かった
それでも貧乏だったのには変わりないが・・・

「膿んじゃうようなら言うんだよ」

「うん、ありがと」

ボロボロの包帯を手に巻き、サラはテーブルに置いた木盾を手に取る
取っ手部分を止めている釘が緩み、抜けかけていた
まめが痛む手で木槌を持ち、飛び出した釘を打つ

とんとんとん・・・がっ

「いたっ」

押さえていた手を木槌で打ってしまい、サラは目に涙を溜める
指には血まめができ、その指をくわえようとした時・・

「まって、サラ」

「え?」

シャルルがサラの手を取り、目を閉じた

「いたいのいたいの・・・」

シャルルの両手が淡く光り、サラの指先から来る痛みが消えてゆく

「とんでけっ!」

シャルルが両手を離し、上へ投げるように手を払う
先ほどまであった痛みはなく、血まめも消えていた

「ありがとう・・・魔法つかわせてごめん」

しょぼくれるサラに、シャルルは二カッと笑顔を向けて言う

「いいの!いいの!サラにはがんばってもらわないとね!」

シャルルは少し疲れたようで、先に寝るね~と横になった
数秒で寝息が聞こえ始め、サラは小さく笑う

「ありがと、シャルル」

小声でお礼を言い、サラはなるべく音が出ないようボロ布を挟んで釘を打つ
音を小さくする事で時間は掛かったが何とか直り、手に持ってみる

「よかった、なおった」

それを傍らに置き、木刀を手に取った
木刀は特に傷んでおらず、そのまま明日も使えるようだった

「これで明日もシルトさんにおしえてもらえる」

木刀を置き、サラは包帯を解き自身の手を見る
先ほどまであったはずの血まめは消え、更に手にあったはずの潰れたまめすらも消えていた
寝ているシャルルの姿を眺め、サラは笑顔を浮かべていた
その後、灯りを消してシャルルの眠る布団へと潜り込む
後ろから抱きつくようにシャルルにしがみつき、その背中に顔を埋めて寝るのだった・・・









家を出たシルトは走っていた
さっき家で何かを書いていたのは計算していたのだ、残りのお金と生活費を・・・
明らかに足りない生活費、家を新しくし必要になってくる費用
それらを考え、昔の自分のように皆にひもじい思いをさせたくないシルトは走っていた
復興が進む賑やかな中央通りを駆け抜け、正門から外へと出る
目的地は2キロほど先にある、彼は全速力で駆けていた

金がない、とにかく金がない、このままじゃまずい
シャルルとジーンさんは買い物行っちゃうし、また金が減る
今回のサタナキア討伐の報酬がいつ支払われるか分からない現状で
これ以上出費がかさむ事は家計のピンチだった
彼はそれを皆に悟られたくなかった、皆には何不自由ない生活をさせたかった
そのため今彼は走っている

普段から身体は鍛えているので2キロ程度の距離で息が切れる事はない
あっという間に目的地に辿り着き、周囲を見渡す
辺りにはサタナキアとの戦闘の痕跡が残ったままだった
そう、ここはサタナキアを召喚した例の場所である
一帯は砂漠と化し、森は一部無くなっている

ここへ向かう途中には戦争孤児達が戦場跡を漁り、何か無いかと探していた
まずい、まずい、まずい、とてもまずい・・・急がないと
彼は目的の物を必死に探す・・・そしてそれを見つけた

『あったー!!よっしゃー!』

木に引っかかるようにあったそれはサラの盾だ
以前、サタナキアから逃げる時にサラが盾を無くしていた
それはミスリルで出来たカイトシールド、その価値はかなりのものだ
彼はそれを売って生計を立てようと取りに来たのだ

「グリップ壊れてるけどミスリルは無事だな・・・これならかなりの値段になるか」

ホッと胸を撫で下ろし、シルトはその盾を手に首都へと戻る
彼の手に持つミスリルの盾を目にした孤児達は羨ましそうに見ていた
ごめんな、少年達よ・・・これは僕らのなんだ・・・そんな事を思いながら通り過ぎてゆく
首都へ戻り、そのままのリブ武具店へと歩を進める

チリンチリンッ

入口の扉にある鈴が鳴り、店内へと入って行く
カウンターには暇を持て余している店主、リブが立っていた

「ん、何の用だ」

いつものにやけ顔でシルトは手に持つミスリルカイトシールドをカウンターへと置く

「これ買い取って欲しいんだけど」

それを手に取ったリブは眉間にシワを寄せる

「ん・・・修理ではないのか?」

「買取で」

シルトは即答し、リブは「ん」と一言唸る
じっくりと鑑定し、リブは算盤を手に取る
パチパチと算盤を弾く音が響き、それをシルトへと向けた・・・買取額120金貨

「待って、120はないでしょ?それ900以上したよ?」

「ん、何を受けたのか知らんが表面の劣化が激しい
 こうなっては打ち直しだ、それを考えるとこれ以上は出せん」

「・・・わかった、120でいい」

本当は食らいつきたいとこだが背に腹は代えられない
今すぐ金がいるシルトは妥協した

「ん、買い取ろう」

そう言うとリブは店の奥へと消え、しばらくして袋を持って戻ってくる
袋をカウンターに置くとジャラッと音を立てる、おそらく金貨だろう

「ん・・・交渉成立だな」

「ほいほい・・・・あっ!そうだ、忘れてた」

「ん?」

「ここってアーティファクトって買い取れる?」

「アーティファクト・・・だと・・・無理だ」

「まじか、どこで買い取ってくれるかな」

「軍に持ってけばある程度にはなるはずだぞ」

「軍か・・・報酬すら支払わられてないしな・・・別口ないかな」

「ん・・・」

リブはしばらく考え込み、1つの案を思いつく

「組合に持ってけ、冒険者から希望者が出れば売れるだろう」

「なるほど、さんきゅー」

シルトはカウンターに置かれた袋を手に取り、店を後にする
ひとまず大きな金ができ、一安心した彼は復興が進む街並みを眺めながら自宅へと向かった
新しくなった我が家に着き、玄関の扉を開いて中へと入る
すると、居間で武具の手入れをするサラがいた

「お、やってるね」

「うん、おかえり、早かったね」

「ただいま」

先ほどまでの慌ただしい感じが消えたシルトを見て、サラは安心する
何があったかは分からないが、いつもの彼に戻った、それが嬉しかった

「皆まだ帰ってないんだ?」

「うん」

サラはシルトのミスリルブロードソードを弄りながら答えた

「あ、僕のもやってくれたんだ、ありがと」

「ううん、私がしたかっただけだから」

「そっか、ありがと」

シルトが笑顔をサラへと向けると、サラは目を伏せ赤くなる
ん?なんだ、何かまずい事言ったかな?シルトは少し心配になる
サラが黙々と作業を進めているのを眺めながらソファへと腰を降ろした

「そう言えば、家に二人きりなのも珍しいよね」

「え・・・う、うん」

どうもサラの様子がおかしい、僕が何かしたのだろうか
そんな疑問が頭をよぎるが、思い当たる節がない

「昔はよくあったよね、ここも大所帯になったもんだ」

「うん、そうだね」

それから二人は思い出話に花を咲かせる・・・







シルトとサラの出会いから3ヶ月が経とうとしていた
サラはいつものようにシルトに稽古をつけてもらっている

「サラ、相手の動きをよく見て」

「うん」

カンッ、カンッ

木刀と木盾のぶつかる音が響く
ここはシャルルとサラの自宅の横にある小さな庭だ

「ほら、脇が空いてるよ」

「ごめんなさい」

カンッ、カンッ、カンッ

「今の斬り上げは悪くなかったよ、その感覚を忘れないで」

「うん」

カンッ・・・・

「それじゃ、ちょっと休憩にしようか」

「うん」

てこてこと走っていくサラは綺麗なタオルを持ってくる
これはシャルルとサラの家にある一番綺麗なタオルだ
サラはそれを無言でシルトに差し出す

「ん?僕に?」

「うん」

「僕は汗かいてないからいいよ、サラが使いな」

「わかった・・・」

サラは綺麗なタオルをしまい、ボロボロの薄汚れたタオルで汗を拭った
その姿を見て、シルトが苦笑を浮かべる

「サラ、僕に気を使わなくていいんだよ」

「うん」

「僕は好きで教えてるんだから、ね」

「ありがとう・・・わたし、がんばる」

よしよし、とサラの頭を撫でてやると、目を細めて珍しく微笑むサラの顔があった
その笑顔を見てシルトは思う、まだ年相応の幼い子供なんだな、と
彼女達は親の愛を受けずに育っている、それは生い立ちを聞いたから知っていた
まさに地獄とも呼べる場所で生まれ、そこから必死に逃げてきた
シルトはそんな彼女達を放っておく事など出来なかった
最初は気まぐれで剣を教えるだけだった
それがここへ通う内に少しずつ変わっていく・・・・
いつしか彼女達の事を家族のように思えるようにもなってきていた
妹というか娘というか、そんな感じだ

「ね、サラ」

「?」

「何か食べたい物ある?」

「食べたいもの?・・・・わかんない」

「わかんないって、何かないの?」

苦笑するシルトをよそに、サラは真剣に考え込む

「うーん・・・うーん」

「思いつかない?」

「うん、高い食べものは買えないから、食べたことないから味がわかんない」

「そっか、じゃあ今度僕がご飯を作ってあげるよ」

「ホント?」

「うん、約束」

「うん!」

指きりげんまんをし、頭を撫でるとサラは嬉しそうに目を細める
どうやら頭を撫でられるのが好きなようだ
剣の稽古が上手くいった時は頭を撫でてやろうかな、そう思うシルトだった・・・・







シャルルはジーンと買い物に来ていた
家が広くなった事で足りない家具などを買う目的だった
手持ちはシルトから受け取った10金貨と8銀貨
何を買おうかとワクワクしながら上機嫌に進むシャルルの後ろをジーンが静かに続いていた

「ジーン!服見よー!」

「家具は?」

「後で見るよ!」

「そう、わかった」

二人は洋服店に入って行き、シャルルがこれどうかな?あれどうかな?と品定めをしている
それをジーンはダメ、似合わない、まぁまぁいい、と端的に答えている
その態度に若干不機嫌になったシャルルは店を出る

「服はいい!家具見る!」

「うん、そうしよう」

シャルルがズカズカと歩いて行くのを追いかけるようにジーンが続き
二人は家具店の前まで来る

「今度はちゃんと選んでよ!」

「さっきもちゃんと選んでたけど」

「ジーンのは言葉が足りないの!!」

「そうかな?」

「そうなの!」

ぷんぷんと尻尾を振りながら店内へと入って行くと
店主がシャルル達を出迎え、中へと案内する

「いやぁ、ハーフブリード様がいらっしゃるとはこれはこれは」

そんな店主の歓迎にシャルルの機嫌は上向きになる

「いらっしゃいましたー♪」

「今日は何をお求めですか?」

「えっとー、小さいテーブル1つと、衣装箪笥を1つ・・・だよね?」

「うん、そうだよ」

「です!」

「左様ですか、こちらへどうぞ」

店主の後に続き、店内の奥へと向かう
そこには小さなテーブルが何種類かあり、シャルルがどれがいいかなーと吟味している

「これいいんじゃない?」

「えー、高い」

「そういうのはあまり口にしないの・・・」

「ははは、お手厳しい」

店主が苦笑していた
シャルルは気まずくなり、苦笑いを浮かべ、頭を掻いていた

「お値段の方は勉強させていただきますよ」

「ホント!?やったね!ジーン!」

「良かったね」

にしっと太陽のような笑顔を見せ、シャルルが店主へと近寄る

「いくらになります?」

「そうですねぇ・・・英雄様に買って頂いたとなればうちの宣伝にもなりますし・・・」

ポケットから算盤を取り出し、パチパチと弾く

「このくらいでいかがでしょう?」

シャルルが算盤を見るが、シャルルには算盤の読み方が分からない
後ろにいるジーンに視線を向け、ジーンがシャルルの肩ごしに覗き込む

「3金貨と2銀貨だってさ」

「んー!もう一声!!」

「ははは、敵いませんねぇ」

そう言う店主は再び算盤を弾き、それを見せながら言う

「3金貨でいかがですか?」

「買った!!」

「ははは、毎度ありがとうございます、英雄様は買い物も強いと見えますなぁ」

「ふふふ♪」

「それではこちらでご自宅まで送りましょうか?」

「お願いしまーす」

「では、衣装箪笥はこちらになります・・・」

店主が手で促し、二人はそれに続く
少し薄暗い一角に衣装箪笥が3種類だけ並んでいた

「うーん・・・どれがいいかなぁ・・・」

「デザインを選ぶか、収納量を選ぶか?」

「そうだね、どっちがいいかな?」

「私なら収納量かな」

「私ならデザイン!」

「シャルルはそうだよね」

「もち!見た目は大事!」

「ならもう決まってるんじゃない?」

「そうだね、これにする!」

3つの中で一番可愛らしい、花が彫られた箪笥を選んだ

「そちらは8金貨と6銀貨になりますが」

「う・・・ジーン、どうしよ、足りない」

小声でジーンに言うと、ジーンは一歩店主へと近づいた

「こちらも勉強してもらえますか?」

「えぇ、もちろんでございます」

「じゃあ6金貨で」

「6ですか!?それはちょっと・・・」

店主が汗を拭いながら困った顔で言う

「ジーン、お店の人困ってるよ」

ジーンに耳打ちするが、ジーンが首を横に振る

「6金貨で」

「いや、6金貨はちょっと厳しいですね・・・」

「そう、なら別の店にしましょ、さっきのテーブルも無しで」

「え?!」

シャルルの尻尾がピーンと立ち、驚いてるのが分かる

「ま、待ってください!」

店主が慌てて出口を塞ぐようにジーンの横へと立った

「6金貨は流石に厳しいので、6金貨と8銀貨ではいかがでしょう・・・」

「買います、ありがと」

ジーンが店主に微笑み、店主はやられた・・・と肩を落とす
箪笥も後で届けて貰える手筈となり、二人は店を出た

「ジーンやるー!帰ろうとした時はびっくりしたけど!」

「ふふ、わざとありえない値段を言ったのよ、それで妥協させて下げさせたの」

「なるほど!やるなー♪」

上機嫌になったシャルルは軽い足取りで先を歩く
後ろに続いていたジーンは本屋が目に入る
引き寄せられるように本屋へと足が伸び、それに気づかないシャルルは先へと行ってしまう

「・・・でさ~、ねぇ聞いてる?」

振り向いたシャルルの後ろにジーンはいなかった

「んにゃろ・・・どこいった」

辺りをキョロキョロと見渡すと、視界の隅に本屋を見つける
あれか!シャルルは小走りで本屋へと行くと、案の定ジーンが本を読んでいた

「ジーン!!」

「ん?シャルル、本屋は静かにしないとダメだよ?」

「くぅーーーー!!腹立つーーー!!」

地団駄を踏み、シャルルがプイっと後ろを向く

「ジーンのバカ!ハゲろ!!」

シャルルは捨て台詞を残して去って行く
何怒ってるんだろ?とジーンは考えるがすぐにやめる
そして、再び本の世界へと入っていくのだった・・・・






シャルルが凄い剣幕で帰宅し、腹立つー!と声を上げている
おそらくジーンさんと喧嘩したんだろう、シルトのその予想は的中していた
シャルルの怒涛の愚痴が吐き出され、シルトとサラはそれを聞いて相槌を打つ

「そっか、そりゃジーンさんが悪いわ」

「でしょ!!」

「でも本屋は静かに、だよ」

「う・・・うん」

シャルルがしょんぼりした所で二人の顔をキョロキョロと見る

「二人は何してたの?」

「ん?僕は何も」

「私は武具の手入れしてたよ」

「その後は?」

「ん~、思い出話くらいかな?」

「うんうん」

「思い出話?いつの?」

「僕らが出会ってすぐの頃だよ」

「懐かしー!私もするー!」

シャルルがぴょんぴょんと跳ね、席へと着く
サラが紅茶を淹れ、皆に振る舞い、再び思い出話を続けるのだった・・・







幼かったサラはシルトから戦い方を学び、半年という時間が経過する
そして、ついに冒険者になったサラはシャルルと「チェシャ」というチームを組む
短時間の護衛、下水に現れたゴブリン退治など、比較的簡単な依頼を受けている
それでも今までシャルルがしてきた雑用に比べたら収入は上がっていた
貧乏なのは相も変わらずだが・・・

その日は商人が取引相手の店へ向かう際の護衛を引き受けていた
ハーフキャットの少女2人という護衛に商人は一抹の不安を感じる
そこで、商人が別で雇っている用心棒を使ってシャルルとサラを試す事にした

「軽く手合わせしてみなさい、それで雇うか決めよう」

「もし、私たちが勝ったらこの人より高く雇ってくれますか?」

「ははははは!いいだろう、精々頑張りなさい」

シャルルとサラは目を合わせ大きく頷く
サラは剣を鞘に収めたまま構える
この剣はシルトに冒険者になったお祝いとして買って貰った鉄小剣(アイアンショートソード)だ
まだ幼い彼女に合った長さの剣で、大人であれば短剣の分類に入るだろうか
お祝いとして貰った鉄小盾(アイアンスモールシールド)も構え、用心棒の男を見る
用心棒は30くらいの線の細い男だった、その右手には鉄刀(アイアンカタナ)を持っている
この男は冒険者で言うと3~4等級と言ったところの実力しかない
だが、男は冒険者ですらなかった
希にいるのだ、こういう冒険者というシステムを使わず直接仕事を受けている輩が
そういった人種は冒険者達から嫌われ、真っ当な仕事は回ってこないと言われている
この商人は何かやましい事があるのかもしれない、男を見て思った感想はそれだった

「サラ、気をつけて」

「うん」

シャルルが枯れ木のような杖を構え、サラの後ろに隠れるように立つ
サラは左手で盾を構え、右手の剣はその盾へと隠す、シルトお得意の戦法だ
たくさん練習したこの技なら!サラは武器を持つ手に力を込める

「ガキが、なめるなよ」

用心棒は刀を抜き、上段に構えてじりじりと寄ってくる
普段の練習で使ってる木刀ではない真剣・・・それはサラもシャルルも経験の無い相手だった
サラは殺し合いはするつもりがなかったので抜刀していない
だが、目の前の男は自分達を殺すつもりで来るだろう
男の目を見たサラは昔を思い出す・・・そう、あの娼館で見た男達の目を
その瞬間、サラの心は恐怖に支配される
膝はガタガタと震え、歯はガチガチと音を立てる

『サラ!シルさんに教えてもらった自分を信じて!!』

シャルルが後ろで声を張り上げる
その声で我に返り、サラは再び武器を持つ手に力を込めた

「うん、ありがと」

じりじりと寄って来ていた用心棒の男が一気に間合いを詰める
サラは左手の小盾を上段に構え、待ち構えた
男の上段からの振り下ろしが小盾を捉え、キィィィンッ!という金属音が響く
そして、サラは身体を右へ流し、盾を左へと傾ける
刀は小盾の表面で滑り、その勢いのまま地面へとぶつかる
刹那、小盾の裏から現れたサラの突きが男の脇腹へとめり込む
男は膝をついてゲホゲホとむせていた

「続けますか」

幼いサラの声に用心棒の男は顔を歪める

「くそっ!」

男は立ち上がり、今度は刀を横へと構える
そして、一気に間合いを詰め、全力で刀を振るった

「死ねっ!くそガキがっ!!」

横からの全力の払い斬りをサラは左の盾で受ける

キィンッ!

受け流そうと試みるが、サラの身体は宙に浮く

「・・え」

サラはまだ幼すぎたのだ
体重も軽く、大の大人の一撃を受けれるほど重さが無かった
サラの身体は2メートル近く飛び、岩壁へと叩きつけられる

「うっ」

頭を岩壁にぶつけ、視界が揺れる
シャルルが駆け寄り、魔法を唱えようとするが、背後に用心棒の男が迫っていた
それを歪む視界の中捉えたサラはシャルルをどかし、剣と盾の両方でそれを受ける
上段からの振り下ろしは先ほどの払い斬り並の力が込められており
ふらつくサラに防げるものではなかった
力任せに振られた上段斬りでサラは再び岩壁へと叩きつけられる

「くっ」

痛みで片目が閉じられ、残った片目で何とか相手を見ていると
男は鬼気迫る表情で向かって来ていた

『死ねええええ!!』

シャルルがサラの前に立ち塞がり、両手を広げてギュッと眼を瞑る
そこに商人の大声が響いた

『そこまで!!』

用心棒の男がピタっと止まり、商人を睨みつける

「余計な仕事を増やさないでください」

「チッ・・・・運が良かったな、ガキが」

「そこの二人、思ったよりやりますね」

品定めするような視線を向け、商人はニヤリと笑う

「いいでしょう、雇いましょう」

こうして二人は雇われ、何事もなく仕事は終わり、普段より多い報酬を得た
帰り道で何か美味しいものでも買おうか
などと話ながら帰宅すると家の前にシルトが立っていた

「あれ?シルさんはやいね」

「今日は早く終わってね」

「そっかー、今日すごかったんだよー!」

シャルルのサラ自慢が始まり、それをシルトは笑顔で聞いている
サラは少し恥ずかしそうにしていたが、シルトに褒められ嬉しそうにしていた

「じゃあお祝いに、僕がご飯作ってあげよう」

「おおー!」

「やったー!」

以前、約束したシルトがご飯を振舞うという話は数ヶ月前に果たされている
その時、彼女達は今まで食べた事が無い美味しい料理の数々を口にした
中でもシャルルは肉と米を気に入り、サラは野菜の美味しさに目覚めていた

「にーく!にーく!こーめ!こーめ!」

「はいはい、少し待ってね」

既に買ってきていた食材をキッチンに並べ、手際よく調理してゆく
その光景を後ろから眺めている二人の尻尾はフリフリと揺れていた
しばらくしてから料理が出来上がり、3人で美味しいご飯を食べた
その日は稽古をせずにシルトは帰り、彼を見送った二人は部屋へと戻る

「シルさんホントいい人だよね」

「うん」

「お父さんってああいう感じなのかなぁ」

「そう・・・なのかな?」

「サラはシルさんどう思うの?」

「え・・・なんだろう・・・お父さんとかとはちがう気がする」

「そっか、サラはシルさん大好きだもんね」

「ん?うん」

「にしし、それじゃ寝よっか」

「うん」

灯りを消して、二人は手を繋いで一緒の布団に入って寝るのだった・・・






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