2016_02
13
(Sat)15:54

2章 第15話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第15話 【ハーフブリード】其の三

いよいよ2章も後半ですねぇ、早いなぁ
既に3章の細かい設定もどんどん作ってます!お楽しみ?

では、続きを読むからどうぞー。









【ハーフブリード】其の三






ジーンはシャルルが怒った後も本屋で立ち読みを続けていた
今、彼女が読んでいるのは『属性融合の危険性』という本だ
属性を合わせると起こり得る魔力の暴走を実際の事例を加えて記載されている
一流の魔法使いなら2属性を合わせる程度なら暴走の危険性は低いだろう
だがそれが3属性になると途端に暴走率は跳ね上がる
それは魔力コントロールが難しいからだ
絶妙なバランスで魔力を均等化しないといけない
イメージで言うと、先端の尖った三角錐の上に平らのお盆を乗せてバランスを取り
その上に分銅を乗せていく感覚だ
どれだけバランスを取るのが難しいか解るだろうか
1ミリのズレで簡単に崩壊してしまう、そんな脆い状態なのだ

精霊とは違う存在、悪魔の召喚には成功した
しかし、その制御は出来ない、現状では不可能と言ってもいいだろう
低級悪魔ならあるいは、という事もあるが
先日のサタナキアの例があるので、ジーンは悪魔の力を使う気にはなれなかった

そんな事を考えていると、シャルルの怒った顔が脳裏をよぎる
彼女の怒りはもっともだ、危うく仲間を死なせるところだったのだ
結果的にはラーズの市民や軍から1万を超える犠牲者を出してしまっている
惨劇を引き越してしまった罪の重さを考えると、ジーンの胸はズキッと痛くなる

多大な危険性を含む悪魔の力は封印し
ジーンは精霊を2体同時に呼べるようになった事により生まれた新たな可能性
属性融合について学んでいるところだった

「でも魔法と精霊は違うし、融合はできないのかな・・・・」

ペラっとページをめくり、次の項目を読もうとすると

「ごほっ、うんんっ」

わざとらしい咳払いが聞こえてくる
目を向けると本屋の店主がジーンを睨み、何度も咳払いをしていた
おそらく立ち読みをするなという事だろう
そんなに長時間読んでたかな?ジーンは目を地面へと向ける
影は伸び、陽が落ち始めているのが分かる
結構読んでたみたいね、集中しすぎて気づかなかった
本を棚に戻し、店を出る

「あれ?シャルルがいない」

簡単に辺りを見渡すが、シャルルの姿は見当たらない

「ま、いっか」

多分先に帰ったんだろうと思い、さっさと帰路に就く
途中で見知らぬ男に声をかけられるが適当にあしらう、いつもの事だ
世の中の男は女が一人で歩いているとすぐに声をかけたがる
どうせ目的は身体なのだろう、くだらない
下半身でしか物事を考えられない人間に興味はなかった
そんな時間があるなら研究の1つでもしたい、それがジーンの本音だ
これ以上絡まれるのは面倒だと思い、自宅へと向かう足を早める


家に着き、玄関のドアに手をかけると中から僅かに笑い声が聞こえてくる
扉を開け中へと入ると、笑い声は止み、3人の目線がジーンへと向けられた
やっぱり帰ってた、ジーンはシャルルを見てそう思う

「ただい『やっと帰って来たかジーン!!』・・・・・ま」

「「おかえりー」」

はぁ・・・1つ息を吐き出し、肩を落とす
また何か怒ってるのか、この子は何でいつも怒ってるんだろう?
そんな事を考えているとシャルルが大きな足音を立てて寄ってくる

「普通買い物中に立ち読みする!?しかもこんな時間まで!!」

私がいたのに!と彼女は顔を真っ赤にして怒っている
あぁ、それで怒ってたんだ、とジーンは納得し謝る事にした

「ごめんね、属性融合の面白い本があってつい」

「ついじゃないよ!放置された私の身にもなれー!」

「ホントごめん、今度何か奢るから」

「釜飯」

「ん?」

「釜飯で手を打つって言ってるの!」

「釜飯ね、分かった」

「うん!じゃあ許す!」

にししとシャルルが笑い、テーブルへと戻って行く
それにジーンも続き、一緒にテーブルを囲む

「ところで、私が帰って来た時に何を笑ってたの?」

「ん、思い出話をしててね」

ソファでくつろぐシルトが言う

「なるほど」

「丁度ハーフブリードが結成したとこまで話してたから、ジーンさんも加わる?」

サラがお茶を淹れながら聞いてくる

「予定もないし、そうしようかな?」

こうしてジーンを加えた4人は彼等の出会いを思い出す・・・・







シルトとシャルルとサラが家族になり、ハーフブリードが結成されてから1年の月日が流れる
3等級として活躍する3人は様々な依頼をこなし
シャルルとサラはメキメキと力をつけていた
シルトとの実力差を感じた二人は尋常ならざる努力をしたのだ

シャルルはお金を貯め、本を書い、文字を勉強し、魔術書も買った
一般的に使われている魔法には大きく分けて下級・中級・上級の3つがある
それぞれ1~10章に分かれており、その段階で使える魔法が増えていく
ハーフブリードを結成した当初のシャルルは下級5章程度の魔法しか使えなかったが
今のシャルルは中級4章までの魔法を会得していた
1年でこれほど急速に成長していく者はほぼいないと言ってもいい
それに、彼女はほんの2年前まで魔法の基礎すら知らない状態だったのだ
たった2年で中級4章というのは異常なまでの速度である
才能にもよるが、一般的には中級4章までは6~10年という時間を必要とする
シャルルは仕事が終わると本を読み、勉強を続け、生の神信仰も熱心にこなした
その絶え間無い努力が形となって現れたのである

サラはシルトの本当の実力を目の当たりにして
是が非でも近づきたい、足を引っ張りたくない、隣に並びたいと願った
シルトに嘆願し、今までのゆるい稽古ではなく、もっと厳しい修行を望む
それ以外にも、自主的に身体を鍛え、自分に合ったトレーニングへと改良していく
毎朝、皆が起きる前に起床し、走り込み
脚力をつけるため、普段からつま先だけで生活をする
どう足掻いてもシルトのような力は無い、同じ動きをしていても無理が生じる
そこでサラはパワーよりもスピードを鍛えようと決めた
シルトには無い部分、サラだから出来る身軽な動き、それを重点的に鍛えたのだ
もちろん筋力トレーニングも忘れてはいないが
その結果、サラは幼いながらも3等級で十分通じる実力は手に入れている

シルトが二人の努力を見て、彼女達に力を貸したくなり
彼女達が成長できるよう、実戦を経験できるよう、それに合った依頼ばかりを受けている
報酬はそれほど高くないものが多かったが、生活に困るような事はなかった

そんな生活が続き、今日も依頼を終えて帰宅する最中の出来事である

「サラの一撃凄かったねー!」

「そだね、あの斬り上げは良かったよ」

「ホント?ありがと」

3人が並んで自宅への細道を進んでいると

「アナタ達がハーフブリードよね?」

「「「え?」」」

とても綺麗な女性がそこにいた
年齢は二十前後だろうか、顔立ちは整っており、すらっとしたスレンダーな女性だ
どこか知的な雰囲気のする彼女は細道の壁に寄りかかるように立っていた

「はぁ・・・そうですけど、何か用ですか?」

コツコツとブーツを鳴らしてゆっくりと近寄ってくる
そして、シャルルを見て鼻で笑う

「アナタ、生の魔法はどこまで使えるの?」

「え、中級4章ですけど・・・」

女性は再び鼻で笑う、その態度にシャルルはイラっとした

「何なんですか!」

「アナタみたいな使えない魔法使いに、そんな立派な盾は必要ない」

「は?」

「その歳で中級4章なんて遅すぎる、私がアナタくらいの頃は10章には入ってたわ」

「・・・・」

シャルルは黙る、自分の遅れを気にしていたからだ
一般的に見ればシャルルの成長速度は異常と言えるだろう
だが、魔法のいろはを覚えるのが遅すぎた事は気にしていた
そして、シルトという3等級どころか、2等級にすら収まらない人物と組んでいる事で
自分の実力が足りないのを嫌というほど実感していたのだ

女性はサラの前に立ち、品定めするように見つめる
サラは人にまじまじと見られる事に不慣れで、苦手だった
目を逸らすサラを、女性は鼻で笑う

「細い手足、貧弱な身体ね・・・それで盾として機能するの?」

「・・・・」

サラは黙る、一番気にしているところを突かれたからだ
技量はついてきているが、身体がまだついてきていない、それが現状だった
今はまだ、ハーフキャットという持って生まれた身体能力で何とかしてる状態だったのだ
悔しくて悔しくて、サラは何も言えなかった

「ちょっと、何なんっすか、あんたは」

シルトが割って入り、二人を背中に隠すように立ち塞がる

「私はジーン・ヴァルター、2等級冒険者で生の魔法使いよ」

「ジーンってあの・・・有名人が何用っすかね」

ジーンは有名だった、彼女は才能に溢れた人物だ
たった14歳で中級までの生の魔法を全て会得し
19歳の頃には上級9章までの魔法を会得したと聞く
上級9章ともなると、宮廷魔導師などの最高位の魔法使いしか使えないレベルだ

「私をハーフブリードに入れなさい」

『はぁ!?』

突然わけわからん事を言う奴だ、ハッキリ言うと第一印象は最悪である
シャルルは敵意を剥き出しに、サラは怯えてシルトの背に隠れている

「仲間を馬鹿にするような人は必要ないです、他を当たってください」

シルトが二人を連れて行こうとすると

「本当にそれでいいのかしら」

ジーンが薄ら笑いを浮かべ言う

「何がですか」

「不動の人、ちょっといい?」

ジーンがちょいちょいと指を動かし、彼を呼ぶ
シルトは二人の頭を撫でて、少し待っててね、と声をかけてジーンの元へと向かった

「何っすか」

若干不機嫌に言うと、ジーンは裏のある笑顔をする

「私を入れる価値はあるよ」

「なんでっすか」

「あの子、青い髪の子、あの子が怪我した時、誰が治すの?」

「・・・・」

「アナタでも絶対守りきれるはずはないわよね?」

「・・・・そうですね」

「私は上級9章まで使える、その価値は分かるよね?」

「まぁ、一応は」

「あの子が瀕死の重症を負った場合、私がいれば助けられる、いなければ死ぬ、それだけ」

「・・・・」

シルトは悩む、その事は前から考えていた事だ
生の魔法使いはチームにおいて最重要とも言えるポジションだ
それが1人しかいない場合、その生の魔法使いが怪我を負った場合の対処ができない
それは以前から気になっていた部分ではあるのだ

「それと・・・」

ジーンの眼がシルトを見つめ、どことなく邪悪な笑みを浮かべる

「あの子達はアレを知っているの?」

「アレ?」

「アナタが裏でやってる事よ」

「・・・何の話っすかね」

シルトは一瞬ドキッとした、その一瞬をジーンは見逃さなかった

「奴隷商人達を殺したでしょ?」

「・・・・チッ」

シルトの反応にジーンはニヤリとする
実は確証は無かったのだ、状況証拠のみでカマをかけてみたのである
ここまで行けば後ひと押し、そしてジーンは追い打ちをかける

「これを公表してもいいの?あの子達の表彰は破棄にならないかしら?」

勝った、ジーンは確信する

「・・・・あんた、性格悪いな」

「ふふっ・・・後は分かるよね」

「チッ・・・分かったよ、二人を説得してくる」

頭を掻きながらシルトが二人の元へと行く
その背中を見送りながら、ジーンはホッとする
実は怖かったのだ、これは賭けだった
数十数百という悪党を暗殺している彼を脅すのは命懸けだった
今更になって背筋に冷たいものを感じる

「二人とも、ちょっと聞いて」

シルトがしゃがみ、二人の顔を見て言う

「ん?」

「何」

シャルルはすこぶる不機嫌だ
シルトは1つ息を吐き出し、言葉を続ける

「あの人をハーフブリードに入れようと思う」

「え・・・」

『はぁっ!?』

「まぁまぁ、聞いて」

『なんで!やだ!!』

シャルルが怒鳴る、尻尾が膨らみ、毛が逆だっている

「聞いて、よく聞いてね」

「わかった、何」

「もしね、シャルルが大怪我した場合、誰がシャルルを治す?」

「・・・・」

「その状況でサラが大怪我したら?」

「・・・・」

「無理だよね、死ぬよね」

「・・・・うん」

「あの人はね、生の魔法を上級9章まで会得してるんだ」

「上級9章・・・・すごい」

「うん、だから必要な力だと思うんだ」

「それはわかる・・・わかるけど・・・・私は反対!」

「サラが死んでもいいの?」

「・・・・・やだ」

シャルルの目に涙が光る
シルトが頭を撫で、ごめんごめん、と謝り言葉を続ける

「それとね、シャルルには必要な人だと思うよ」

「なんで?」

「あの人の技術を盗みな、それはシャルルの力になる」

「盗む?」

「うん、あの人は天才と呼ばれてる生の魔法使い
 そんな人を間近で見る機会なんて滅多にないよ、それは凄い経験になると思う」

「・・・・うん」

シャルルは自分以外の生の魔法使いをあまり知らない
参考にできる者がいない状態では偏った考え方しか生まない
それをシャルルは気にしていた

「あのむかつく人を見返してやれ!」

「うん!」

シャルルの目に強い意思が灯る

「サラも納得してくれる?」

「・・・うーん、シルトさんが言うなら私はそれでいいと思う」

「ありがと」

頭を撫でるとサラは目を細めて微笑む
シルトが立ち上がり、ジーンへと目を向けて1度頷く
ジーンが歩いてきて、手を差し出す

「これからよろしく」

その手を握り、軽い握手を交わした
こうしてジーンがハーフブリードに加わる事となる



ジーンはハーフブリードに入る前は別の2等級チームに入っていた
しかし、彼女と肩を並べられる人など1人も存在しなかった
そこで目をつけたのが不動のシルトだ
だが、彼はずっとソロで活動しており、チームを組む気配が無かった
そのため、ジーンは半ば諦めていたのだが、最近彼がチーム組んだという噂を聞いた
調べてみると組んだ相手というのは3等級に成り立ての幼い二人
ハーフキャットという人外扱いされる二人と組んだというのだ
正直、ジーンにはそれが理解できなかった
何故彼ほどの実力者がそんな使えない奴等と、それがジーンの感想である
だが、彼の盾としての技量は2等級の中でもぶっちぎりだ
最初はシャルルとサラが3等級の仕事で命を落とすと踏んでいた
しかし、一向にその気配はなく、彼等はチームを組んだままだった

ジーンは考える、現在の2等級チームを捨て、彼等の元へ行くかどうか
現在のチームは2等級でも中堅程度である
悪くはないが、自分と対等な人は誰一人いない
何よりも思う事は、盾がよくないと命の危険がある事である
そのため、ジーンはシルトを欲していた
多少収入は減るが、彼と組んでいれば安全面は飛躍的に良くなるだろう
そして、彼と組んでいれば近いうちに2等級になれるはずだ
そうなれば収入面の問題も解消される
メリットとデメリット、それを考え、ジーンはハーフブリードに入る事を決めた

それからジーンは彼等の事を徹底的に調べる
シャルルがまだ駆け出しの生の魔法使いである事
サラがやっと3等級程度の実力しかない事
そして、シルトの裏の部分・・・・色々な情報を集め、ジーンは計画を練る
こうしてジーンは賭けに出たのだ、シルトを脅すという形で



「ここがアナタ達の家?」

「元は僕の家だけどね」

「なかなかいいところね」

「そりゃどうも」

現在はハーフブリードの家の居間にいる
ジーンが居間を歩き回り、客室の扉を開け、中を見渡す
少しして扉を閉め、シルトの寝室へと向かう
しばらく中を見渡し、何かを納得したように頷いた

「ここがいいわね」

ジーンがシルトの元へ歩いてきて言う

「寝室を私の部屋にするわ」

「は?」

「あの部屋くらいしか実験器具を置けないから」

「いやいやいや、あそこは僕が寝てるとこだし」

この女は何を言い出してるんだ、とシルトは思う
しかし、ジーンはそんな事お構いなしに続ける

「それじゃ居間に置いてもいいの?」

「いや、それも困るけど」

「じゃ、やっぱりあの部屋をもらうね」

「待って待って、僕の寝るとこないじゃん」

「それじゃ、一緒に寝る?」

『はぁっ!?』

シルトが素っ頓狂な声を上げる
シャルルの顔は引きつり、サラの耳はピクピクと動く

「流石にそれは・・・」

「じゃあもらうね」

そう言うと、ジーンは寝室へと入って行く
残されたシルトは肩を落とし、そこへサラが寄ってくる
無言でシルトを見つめ、その表情には感情というものが感じられない
敢えて言うなら冷め切った目をしていた

「一緒に寝ないんだ?」

「寝ないよ!」

「へー」

サラはそれだけ言って客室へと入って行った
シャルルがサラの後を追い掛け、居間にはシルトだけになる

「何なの・・・まじで」

ジーンさんが嫌いなのは分かるけど僕に当たらないでくれと思うが
引き入れたのは自分なのを思い出し、大きなため息を洩らす
幸せいっぱいだった我が家の空気が、ジーンの加入により一気に重くなっていた

その日の夜、シルトは居間のソファで横になる
毛布を持って来るのを忘れたシルトは寒さに身を震わせる
今更毛布を取りに寝室へは入れない、若く綺麗な女性が寝ているのだ
そんな事をして、もしシャルルやサラに見られたら・・・そう思うとシルトは身震いした
諦めて寝る事にして、シルトは縮こまって目を瞑る
しばらくして睡魔は訪れ、彼は夢の中へと旅立った

深夜、水を飲もうと起きたサラは、ソファで縮こまって寝るシルトを見つける
そんな彼を見ると、寝る前まで感じていた謎の苛立ちは和らぎ
サラは客室へと引き返し、毛布を手に居間へと戻り、毛布を彼の身体にかけた
暖かくなり顔がニヤけるシルトの寝顔を眺めていると、無意識に彼の頭を撫でいた
くせっ毛のふわっとした髪質が手に伝わってくる

「ふわふわしてる・・・初めて触った」

サラは笑顔になり、しばらくその感触を楽しんでいた
水を飲んだサラは自室に戻り、布団に入る
シルトの寝顔を思い出して、頬が緩むのを感じる
先ほどまで彼の髪に触れていた手をギュッと握り、サラは眠るのだった

翌日、ジーンが自宅を引き払い、本や実験器具の数々を寝室へと運び込む
たった1日で寝室は変わり果て、さながら研究室とも言える部屋が完成した
こうして、ジーンが家にやってきた日からシルトのソファ生活が始まる



ジーンが加入してから1ヶ月ほど経ったある依頼での出来事である

今回の依頼は3等級としては難易度の高い、ホブゴブリンの討伐である
ホブゴブリンとはゴブリンより大柄で1メートル50センチほどある
ゴブリンより知恵も力もあり、下級魔法を使う個体までいる
醜悪な顔で酷い臭いを放つ浅黒い肌の魔物だ
そして、何より厄介なのは群れる事だ
少なくとも4匹以上でいる事が一般的で、場合によっては20を超えるグループもある
今回の依頼は正確な情報がなく、ホブゴブリンの数は4~6とされていた
トヒル火山の麓、火竜の喉笛亭を超え、その先にあるホブゴブリンの集落へと向かう
最近この辺りに住み着いてしまい、宿屋の主人が困り果て、依頼をしたのだ

「そろそろホブゴブリンの集落だから気をつけてね」

「はーい!」

「うん」

「分かってる」

ジーンの返答にシャルルがイラッとする
あれから1ヶ月が経つが、二人の関係は悪化する一方だった
サラはジーンを恐れ、目すら合わそうとしていない
今まで幸せだったハーフブリードは見る影もなく、ギスギスとした空気が漂っていた

「僕が4匹持つから、残り2匹いるならサラはそれ持って」

「うん、やってみる」

「私はサラに付くね!」

「それじゃ私はシルさんに」

回復の分担が決まり、一行はホブゴブリンの集落へとそっと忍び寄る
ボロボロのテントが3つ、その中央に焚き火の跡が見える
ホブゴブリンの姿は見当たらず、息を潜めて待つ事となった
しばらくして、シャルルとサラの耳がピクピクと動き出す

「来た」

「うん、数は4・・・かな」

ジーンは二人を見て思う
ハーフキャットは耳がいい、そういう点は使えるのよね、と

「それじゃ僕が持つね、サラはバックアップ、増援に気をつけて」

「うん」

シルトとジーンが駆け出し、ホブゴブリンとの距離を一気に詰める
二人の存在に気づいたホブゴブリンは、雄叫びをあげ、武器を抜く
ゴブリンとは違い、奴等は武器すら持っているのだ
どこで拾ってきたのか分からないが、ひん曲がった剣やら、折れて短くなった槍など
お粗末な物だが、殺傷力は十分にあるため、注意しなくてはならない

その時、1匹のホブゴブリンが魔法を詠唱する

「ジーンさん!」

「分かってる!」

シルトが盾を前へと構え、そのまま突っ込んで行く
ジーンは立ち止まり、魔法の詠唱を始めた
ホブゴブリンの聞き取れない言葉が響き、魔法が放たれる
小さな火球が矢のように飛んで来る、これは火の下級魔法である
シルトはそれをラージシールドで防ぎ、炎が飛散する
それと同時にジーンの魔法が届く

「癒しの風よ」

先ほど魔法を防いだ時に火がかすった耳の軽い火傷が治る
ジーンは念のため魔法に合わせて詠唱していたのだ
シルトはそのままホブゴブリンの群れへと突っ込み、1匹目の胸を剣で貫いた
直ぐ様剣を抜き、2匹目、3匹目の攻撃をその大盾で防ぐ
カウンターで2匹目、3匹目を倒し、残るは魔法使いのホブゴブリンのみだ

その頃、シャルルとサラは2匹のホブゴブリンを発見していた

「サラ、気をつけて」

「うん」

サラは背丈も少し大きくなり、今はスチールソードとアイアンカイトシールドを装備している
ゆっくりを距離を詰め、1匹目のホブゴブリンに上段から斬りつける
それはホブゴブリンのボロボロの手斧に阻まれ、金属音が鳴り響く
体勢が崩れたサラに、もう1匹のホブゴブリンが短い槍を放った
身体を捻って何とかかわし、手斧のホブゴブリンへと1撃を食らわせようとする
しかし、崩れた体勢からの1撃は空を斬り、サラは大きく体勢が崩れる

まずい

サラがそう感じた瞬間、右腹部に熱い感覚が走る

「いっ・・・たっ!」

遅れて激痛が走り、腹部を見ると汚い短い槍が刺さっていた

『サラ!!』

シャルルが叫び、慌てて魔法を詠唱する

サラは槍を持つホブゴブリンの喉元に剣を突き刺し、1匹は絶命する
腹部に槍が刺さったまま、手斧のホブゴブリンへと目を向けた
視界は霞む、頭はぐわんぐわんと揺れる、痛い、痛い、痛い
でもやらなくちゃ、シャルルがやられちゃう
サラは剣を持つ手に力を込め、走り出す

「昼下がりの暖かな陽射しのように!」

シャルルの魔法が届くが、サラの傷は塞がらない、痛みも和らいでる気配はなかった
しかし、サラは死に物狂いでホブゴブリンに斬りかかる
1撃目は弾かれる、だが構わず2撃目、3撃目と放ち
ついにそれはホブゴブリンの頭蓋骨へとめり込む
白目を向き、ピクピクと痙攣するホブゴブリンはそのまま前へと倒れ込み
サラは大きく肩で息をして、横向きで倒れ込む

『サラっ!!』

シャルルが駆け寄り、魔法を使う

「えっと・・・えっと・・暖かな、じゃない、昼下がりの暖かな陽射しのように!」

腹部に当てて魔法を唱えるが、サラの苦痛に歪む表情に変化はない
槍を抜いた傷口からは血が溢れ、サラの服を、地面を赤く染めていく

「なんで!・・止まってっ!!」

再び魔法を唱えようとすると

『どいてっ!』

突然シャルルは突き飛ばされ、泥で服が汚れる

「根源たる生の灯火よ」

先ほどまで自分がいた場所にはジーンがいた
彼女は手際よく迅速に処置をしていく・・・その光景は美しくも見えた
シャルルは自分の魔法じゃどうする事もできず、慌てて対処も遅れていた
歴然たる差がそこにはあった

「ふぅ・・・・ひとまず大丈夫なはず」

ジーンが額の汗を拭う
サラの腹部の傷は塞がり、血は止まっていた

「ねぇ、シャルル」

ジーンが鋭い目線でシャルルを見る、その目がシャルルは怖かった

「な・・・なに」

「サラを殺す気?」

「違っ!」

「私が来なければ死んでいたかもしれないんだよ?」

「・・・・」

「生の魔法使いは冷静に判断してチームを守らないといけない」

「・・・・うん」

「今のアナタは生の魔法使いとして最低よ」

「・・・・ぐすっ」

「泣いても命は救えない」

「・・・ずずっ・・・うん・・・わかってる」

「次はこんな事が無いように頼むわよ」

「・・・ぐすっ・・・・うぅっ・・・・・うん・・」

気を失っているサラの身体をシルトが抱き上げ
シャルルはシルトのマントに顔を埋め、声を殺して泣いていた

「帰ろう」

夕日が沈みかけているオレンジ色の空にキラキラと光る星が見え隠れする
1つの星が流れた、地平線の向こうで紫に染まる空で
涙目でそれを見たシャルルは誓う、もうこんな失敗はしない
もっと勉強して、もっと努力して、誰も死なせないくらいの生の魔法使いになる
シルトの腕の中で眠るサラの顔を見て、シャルルは決意するのだった






スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック