2016_03
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(Tue)12:49

2章 第19話

オリジナル小説 『カタクリズム』
2章 第19話 【ハーフブリード】其の七

今回でハーフブリード編は一応終わりです。
次話で3章へと繋がる話が始まります!

では、続きを読むからどうぞー。







【ハーフブリード】其の七







今回の依頼も難なくこなし、ハーフブリードは帰路に着く
依頼内容はサイクロプス1体の討伐、報酬は40金貨となっていた
2等級としては難易度はそれなりに高い方である
しかし、彼等ハーフブリードにとっては敵ではなかった
報酬の割に楽な仕事で皆の気分は上々だ

討伐ついでにジーンが見つけた薬草も手に入れた
この薬草が生えるために必要な条件がある、それは魔物の死体だ
寿命を迎えたり殺された魔物の死体が腐敗し土へと帰る
その時、大地には魔物の持つ魔力が吸収され独自の草木を育てる
こうしてこの薬草は生えるのだ
そのため、魔物のいる危険地域にしか群生しない稀少な薬草である
この薬草の効能は優秀で、様々な薬に使われていた
入手難易度が高い割には需要が高く、そのため高額での取引が行われていた

そんな臨時収入もあり、彼等の気分はすこぶる良い

「こんな草がそんなに高いんだ」

シルトが採りたての薬草の束を手に言う
そんな彼にジーンは淡々と答えた

「うん、その1束で5金貨くらいになるよ」

「5金貨!?すごいね」

「薬学も勉強した方がいいかな?」

「そっちは私が勉強してるから、シャルルは生の魔法を極めればいいよ」

「うーん・・・わかった!」

今回手に入れたのは薬草8束、結構な量である
3束をシルトの荷物袋に詰め込み、各々1束ずつ袋に入れている

「ジーンさんは物知りだよねー」

「そういうラピだってあの薬草は知ってたでしょ?」

「うん、エルフは薬草には詳しいから」

「みんなすごいなー、私は剣しか使えないからなぁ」

サラが薬草を眺めながら呟くと

「それ言ったら僕だって剣しか使えない奴だから」

シルトが苦笑いで言う

「シルトさんは剣も盾の技術も一流でしょ、私はまだまだだから・・・」

「サラも剣はもう一流じゃないかな、盾はまだまだだけどね」

「そうなのかなぁ」

「そうだよ」

サラは自分が強いという自覚があまりにも無い
自信というものが無いと言ってもいい
よく言えば謙虚なのだが、前衛として、盾役としてはあまり良い傾向ではなかった
それをシルトは少しばかり気にしていた

「サラはもうちょい自信持っていいよ、異名だってあるんだし」

「焔炎かぁ、名前負けしちゃってる気がする・・・」

「そんな事ないっしょ、ね?」

ジーンを見てシルトが言う

「うん、シルさんほどじゃないにしても十分強いと思うよ?」

彼女は正直な答えしか言わない、だからジーンを見て言ったのだ
それはサラも知っている、ジーンは本当に良いものしか褒めないと

「そっか、ありがと」

サラは少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、僅かに微笑んだ

色々な雑談をしながら皆は歩く
いつもより少し軽い足取りで、どこか浮ついたような雰囲気で
そんな一行がラーズ首都への帰り道を3時間ほど進んだ頃、事件は起きた







ここはラーズ首都、ラーズ軍本部作戦会議室

軍総帥ドゥヴェルグ・アーグ・トールキンをはじめ
ラーズ国冒険者組合長ヒューズ・ウォール
警ら隊局長ノルマン・ポリティア
ラーズ上院議員など、各機関の代表が集まっていた

「して、詳細は」

ドゥヴェルグの低い声が会議室に響き、空気を重くしてゆく
冒険者組合長ヒューズが立ち上がり、書面に目を滑らせながら発言する

「はい、何が原因かまでは分かりませんが
 どうやら首都から10キロほど先の街道まで降りて来たようですね」

「それは確かか?」

「はい、襲われた商人の護衛をしていた2等級冒険者が1名生還しております」

「・・・ふむ」

ドゥヴェルグの眉間にシワが寄る

「その後、2等級冒険者"アイアンテイル"と"銀の樹"の2チームを向かわせました」

「・・・・」

「結果はお分かりの事かと思いますが、誰1人帰ってきませんでした」

それを聞いた警ら隊局長ノルマン・ポリティアが手を上げる

「怪我などして帰りが遅れてるだけという線は?」

「それはありません、早馬で確認したところ、彼等の死体を発見しております」

「では、2等級の有名チームが2組いても勝てないほどなのか・・・」

「そうなりますね、如何いたしましょう?」

ヒューズはドゥヴェルグの顔色を伺いながら言う
ドゥヴェルグは大きなため息を吐き出し、背後に立てかけてある青い槍へと目を向ける

「・・・わしが行くか」

『なりません!』

上院議員の1人が立ち上がり、大声を上げた

「総帥はご自身の立場を理解してください!貴方は前線に立つべきではない!」

「しかし、このままでは犠牲が増える一方ぞ」

「確かに総帥は圧倒的にお強い、それは誰もが認めるでしょう
 かの有名な1等級冒険者、月華のシウにも遅れを取らぬでしょう
 しかし!今は総帥というお立場なのです!貴方が倒れては国が傾く!」

「ふむ・・・・ではどうする、代案を言え」

「それは・・・・」

議員は黙り、席についた
再び大きなため息を洩らし、ドゥヴェルグは沈黙する
議員の言う事も分かるのだ、自分が好き勝手していい立場ではないと
しかし自分が行かねば犠牲者が増える、だから自分が行くべきだと判断したのだ
だが、そうワガママを言える立場でもない
ここは議員を立てて折れる方がいいのだろう、政治とはそういうものだ

「軍を動かしては?」

黙り込んだ議員の横に座っていた別の議員が提案する

「犠牲を出して数で押せと?」

「・・・・はい、それが最善策かと思われます
 所詮は生き物、いずれ疲れます・・・数で押せば必ず勝てるでしょう」

チッ・・・心の中で舌打ちをする
そんな事は分かっている、分かっているからこそ選ぶ事ができんのだ
何人の兵が死ぬと思っている、自分の決めた作戦1つでその兵に死ねと言うようなものだぞ
その重みを分かって言っているのか、コイツは
苛立つ心を必死に抑えながら、ドゥヴェルグは深く息を吐き出す

「・・・・他の案はないか」

ドゥヴェルグが全員を顔を一人一人見ると皆が視線を逸らす
再び深いため息を洩らし、ドゥヴェルグは決意する

「分かった、軍を動かそう・・・2000でいいか」

「過剰なくらいかと思います」

「第3大隊長ヘヴィレイン中将を呼べ、奴なら犠牲を少なく勝利を収めてくれようぞ」

こうして会議は終わり、ドゥヴェルグは自身の決めた作戦の重みを胸に刻むのだった






今、ハーフブリードの前方30メートルほどの位置には1匹の獣がいる
それは空のような青い毛なみを持ち、雲のように白いたてがみを持つ獣
目は赤く血走っており、鋭い牙が生え、ふさふさの太い尻尾が生えている
口から尻尾までは4メートルはあるだろうか
この青い四足歩行の獣の名はフェンリスヴォルフ、通称フェンリルという
巨大な狼の姿をした獣は、じっとハーフブリード達を睨みつけていた

「なにあれ」

シャルルが指差して言う

「狼かな?デカくない?」

シルトが盾を構えながら言うと、ジーンがすぐに答える

「フェンリルだね・・・何でこんなところにいるんだろ・・・・」

「フェンリル?」

「正式名称はフェンリスヴォルフ、氷の魔法を使う魔獣だよ」

「え?魔法使うの!?ってか魔法で氷なんて出せんの?」

「うん、水と風の融合魔法だよ」

「マジか・・・魔法使うだけでも驚きなのに、融合魔法とかデタラメだな」

シルトは右手に持つ盾に力を込める

「フェンリルって可愛いなぁ」

「「「「え?」」」」ラピ以外の全員がハモった

「エペタムみたいで可愛くない?」

「あんなデカくなけりゃね・・・」

「そうかなー、乗ってみたいけどなー」

「乗ったら凍傷になるよ?」

「え!そんな冷たいの!?」

「うん」

「じゃあダメかー、残念だなー」

ラピが本当に残念そうにしてるのをシルトは苦笑する
気を引き締めてフェンリルを睨みつけながらサラへと指示を出した

「あまり前には出ないでね」

「うん、分かってる」

サラは緊張しているようだ
本能的に分かるのだろう、この魔獣は強いと

「ジーンさん、弱点とか使う魔法とか教えて」

「あまり詳しくはないけど・・・確か魔法障壁を持ってるはず」

「何それ」

「えっと、魔法で壁みたいのを作って攻撃を防ぐ感じかな」

「マジか・・・じゃ剣は効かないって事?」

「そうなるね」

「お手上げじゃん・・・」

「そうでもないよ?それと、使う魔法は氷系としか知らない」

「作戦は?」

「私が精霊をぶつけて障壁を破るから、シルさんとサラでトドメをお願い」

「いけるの?」

「うん、新しい精霊ならいけるかも」

「了解、任せた・・・・・ラピ、お願い」

「ほいさ!」

ラピが本を開き、光る指先で中空に文字を綴る

「カントより・・・・おいでませっ!」

両手を上げると、魔法陣が足元に発生し、それがラピの身体をすり抜けてゆく
魔法陣は中空で高速に回転し、そこは黒い穴へと変わる
黒い穴から銀色の狼が姿を現し、身体から雷を放っている

グルルル・・・

「二人に!」

ラピがシルトとサラを指差し、銀色の狼エペタムが二人の元へと中空を駆ける
彼等の背中に雷を落とし、二人は体内から湧き上がる力を確認する

「いつもありがと、助かる」

「ラピありがとー」

「いえいえー」

「それじゃ、ジーンさんお願い」

「了解」

ジーンの正面に立っていたシルトとサラは離れ、距離を取る
今ジーンとフェンリルの間を阻むものはない
フェンリルがグルルと唸り、重心を下げると・・・

「・・・来なさい、サラマンダー」

ジーンが指をパチンっと鳴らし、それは反響し数回響いていく
そしてシルトとサラの間に小さな火が出現した
それは数センチ程度の小さな火だ
ボンッと1度破裂するように一気に膨れ上がり、一瞬で4メートルにもなる火球へと姿を変える
途端に辺りには強烈な熱風が吹き荒れた

「あっつっ!」

シルトが勢いよく飛び退き、サラは不思議そうな顔をしている
そう、サラは魔法のコートのおかげでさほど熱くないのだ
念のためサラも数歩離れて行った

「・・・くっ」

ジーンがその熱に顔を歪ませている
その肌はどんどん赤く腫れ上がり、全身が火傷をしているのが目に見える

「深く静かな川の流れのように」

シャルルがジーンの背後から回復魔法をかけた
それにより少しだけジーンの感じる痛みが和らぐ
しかし、ジーンは動く事はできない、召喚が完了するまでは動けないのだ
途中で動けば召喚は中途半端な状態になり、集まった魔力は飛散してしまう

火球はどんどん膨れ上がり、一瞬たりとも同じ姿を維持していない
徐々に形を成していき、それが巨大なトカゲだと皆が認識した
サラマンダーは6メートルほどある業火のトカゲである
それが姿を現し、やっとジーンが後方へ倒れ込むように下がる

10メートル近く離れていたシルトですら熱で顔が焼けるようだった
サラは8メートルほどしか離れておらず、あまり熱を感じていない
ラピとシャルルがジーンの火傷を治療し始めるが
想像以上にジーンの火傷は酷かった
皮膚は焼け爛れ、ずるりと剥けている

「バカジーン!なんてもの呼び出すの!!」

「・・・っ」

ジーンは言葉を返す事さえ出来なかった

「ホントバカ!・・・根源たる生の灯火よ」

「癒しの息吹よ」

シャルルに続き、ラピも回復魔法をかけ続ける
僅かに回復した事により、ジーンが腕を動かし喉を指差して訴えている

「喉を治せばいいのね?」

コクコクと2度頷き、シャルルが生の灯火を喉へと直接充てがう
激しい痛みが走るが、やっと息が吸えるようになる

「・・・ぷはっ・・・サラマンダー・・・行けっ」

ジーンが何とか片目だけ開き、フェンリルを睨んで枯れた声で命令を下す
やっと指示を受けたサラマンダーは走り出す
それを見てフェンリルはウォォォォンと吠える
フェンリルの身体の周りに先端の尖った氷柱が8本出現し、それがサラマンダーへと飛んでゆく
サラマンダーはそんなものは気にせず突っ込み、8本全て命中するが
氷柱はサラマンダーの身体に触れる前に蒸発していた
焦ったフェンリルは次の魔法を使う

ガオオオオォッ!

口を大きく開き、その口から吹雪のようなものが吐き出された
それは地面を凍らせ真っ直ぐにサラマンダーへと向かうが
やはりサラマンダーはそんなものは気にせず突っ込んで行った
ほんの僅かにサラマンダーが縮んだようにも見えるが、効果はほぼ無いと言っていい

物凄い勢いでサラマンダーがフェンリルへと突撃する
2つの魔法が効かない事で、フェンリルは逃げようとするがもう遅い
フェンリルの身体が横へと向いた時、サラマンダーの身体がぶち当たり、そして弾け飛んだ
巨大な火柱が上がる・・・・15メートル近い高さだ
ゴオオオオオという轟音と共に、フェンリルを包む障壁がパリンパリンと音を立てて割れてゆく
それを見たシルトとサラはお互い目を合わせ、無言で頷いて駆け出した

キャンッ!

フェンリルが子犬のような声をあげると
その身を守っていた障壁は全て剥がれ、業火をもろに受ける
しかし、フェンリルの毛皮は火の耐性も高い
サラマンダーの作り上げた火の柱は姿を消し、身体中から煙が上がるフェンリルが姿を現す
燃える事はなかったが、相当なダメージは与えられたようだ
フラつくフェンリルをシルトとサラが同時に挟み撃ちにしていた

ドスッ!ドスッ!

2本の剣がフェンリルの喉元へと深く突き刺さる

『はあああぁ!!』

『やああああぁ!』

シルトとサラが剣を深く突き刺し、それが貫通する頃にはフェンリルは絶命していた

「ふぅ・・・・念のため」

シルトが剣を抜いて、フェンリルの頭へと剣を押し当てる
そして体重を乗せ、心の中で唱える・・・城壁と
ザンッ!と剣はフェンリルの頭蓋骨を砕き、大地へと貫通する
城壁解除・・・そう念じてからシルトは剣を抜いた


フェンリルを倒したがジーンの火傷は酷く、今もラピとシャルルの治療が続いている
シルトとサラはフェンリルの死体をどうするか話し合っていた

「この毛皮高そうじゃない?」

「うん、結構なりそうな気がする」

「剥ぐか、牙も高いかもな」

「うんうん」

シルトがナイフを突き立て、なるべく傷をつけないよう念入りに皮を剥いでいると
遠くの方から大部隊が押し寄せてくるのが目に入る

「なんだろあれ、戦争でもあるのかな」

「さぁ?」

「ま、いっか、続きやっちゃおう」

毛皮を2割程度剥いだ頃に大部隊は彼等の目の前で停止する
何事だとハーフブリード達が身構えていると、一人の老人が前に出た

「わしはラーズ軍、第3大隊長、ヘヴィレイン中将と申す」

「はぁ・・・」

毛皮を剥ぐ作業を一旦止め、シルトが立ち上がり、中将の前へと歩を進める
中将はシルトの後ろで死体と化したフェンリルを目にし
その後、少し離れた位置で治療が続けられているジーンに目をやる

「ふむ・・・・お主等がソレを倒したのか?」

「そうですよ、あげませんよ」

「ほっほっほ、取りはせん、安心せよ」

ヘヴィレイン中将は自身の白く長いヒゲを触りながら笑う
じゃあ何でそんな大部隊を止まらせてまで声をかけてきたんだ?
シルトは疑いの眼差しで目の前の老骨の兵を見る・・・が、いまいち読めない人物だった

「本当にお主達だけで倒したのか?」

何が言いたいんだこのジイさんは、シルトが更に警戒しながら慎重に言葉を選ぶ

「そうですよ、僕らだけで倒しました」

「ほほほ、そうかそうか、相分かった」

そう言うと、中将は後ろを向き、先程までの柔らかな笑顔ではなくなる

『帰還する!』

老人とは思えないほどの大声を出し、兵達に命令を下す
一斉に動き出した兵達は寸分の狂いも無い動きで首都への道を引き返して行った
それを呆然と見送ったハーフブリード達は怪訝そうな顔になる

「何だったんだ、ありゃ」

「なんだろね・・・私達何かしたのかな?」

「さぁ、よくわからんね・・・サラ、続きやっちゃおう」

「うん」

二人はフェンリルの毛皮を剥ぐ作業に戻り、ラピとシャルルはジーンの治療を続けている
ジーンの状態は相当酷く、今はまだ動かしていい状態ではない
シャルルが高位魔法を連続で使用しなければ命すら落としていただろう
ラピの補助があればこそ、ジーンは一命を取りとめたとも言える

「ジーン、もうこんな無茶なのやめてね」

シャルルは額に大粒の汗をかきながらジーンを見て言う
汗により前髪は額に張り付き、くせっ毛の彼女の髪はくるりと丸まっている
そんな彼女の姿を見て、ジーンは苦痛を我慢しながら笑顔を向けた

「ごめんね、ありがとう」

「バカ・・・」

シャルルが再度高位回復魔法の使用に入ると、ラピがそれに続く
ラピが施している魔法は痛みを緩和する魔法だ
傷は魔法で何とか癒せるが、痛みを抑えない事には命の危険が付き纏う
そのため、ラピは途切れる事なく痛みを緩和する魔法を連続で使用していた
ラピの額にも大粒の汗が光り、その傍らでウェールズが心配そうに見上げている

「ジーンさん、もう少しがんばってね」

「ありがとう、ラピ・・・」

爛れ落ちた皮膚の再生は済んでいる
後は再生した皮膚を定着させる必要があるのだ
それが済めば一段落できる、そしたら首都まで連れて帰る事ができるだろう
強烈な熱風を吸い込んだ事により、喉や肺も傷んでいたが
苦しいだろうが、そちらの治療は帰ってからになるだろう
現状では魔力が足りなすぎる、それほど高位魔法を使っていた

シルトとサラが毛皮を剥ぎ終え、フェンリルの大きな牙を抜いた頃
ジーンの治療も一段落し、一行は帰路に着く
思うように動けないジーンをシルトが背負い
フェンリルの大きな毛皮はサラが担いでいる
足取りはゆっくりになったが、日が暮れる前には首都へと着く事ができた

自宅にてジーンの治療が再開される、それは一晩中続き
翌朝にはジーンの火傷はほぼ完治していた

「痕が残らなくて良かったね!」

「シャルルとラピのおかげだよ、ありがとう」

「いいよー、仲間なんだしー」

「そうだよ!助け合うのが仲間だよ!」

「そうだね、ありがとう」

3人が笑い合っていると、サラがお茶を淹れて寝室へと入ってくる

「みんなお疲れさま」

一人一人にお茶を手渡し、皆がその温かさに包まれる

「ありがとー、あったまる~」

「温かいもの飲んだら眠くなってきたー、わたしは先に寝るよー」

ラピがフラフラと自室へと戻って行く

「私も寝とくね、ジーンは大人しくしてなよ!」

「わかってるよ、ありがとね」

シャルルはジーンが横になっているベッドに入り、横になる
数秒で寝息を立て始める彼女を見て、ジーンの頬は緩んでいた

「それじゃ私はシルトさんと毛皮とか売ってくるね」

「うん、サラもありがとう」

「私は何もしてないよー、それじゃ」

サラが寝室を後にし、ジーンも目を瞑る
今回の精霊は今までのウォーターウンディーネ、シルフィーヌ、グノームと比べると
圧倒的に攻撃力の高い精霊だった
しかし、毎回これでは使えない・・・どうするかを考えていた
そんな事を考えていると、シャルルの寝言が耳に入る

「・・・・バカジーン」

ジーンはくすっと小さく笑い、今は考えるのを止めた
そして、眠るシャルルの方を向きながら、目を閉じるのだった


シルトとサラはフェンリルの毛皮と牙、薬草を8束持ち
それを金に換金しに行っていた

薬草はジーンの予想通り8束で40金貨になり
フェンリルの牙は12金貨、毛皮は何と600金貨にもなった
これは状態が良かったのもある、そして1頭丸ごと分だったのも大きいだろう
フェンリルの毛皮には完全氷結耐性と僅かな火耐性がある
この毛皮で作られたコートなどは魔法の武具にも劣らない性能になるのだ
フェンリルを倒せる者が希なのと、元々の数が少ない事もあり、高額で取引されていた

帰りに冒険者組合で先日の依頼の報告を済ませ、報酬を受け取る
一気に小金持ちになったシルトは頬を緩ませていた

「シルトさん、顔緩みっぱなしだよ」

「え?そう?」

「うん、ちょっと気持ち悪い」

「まじか、でも臨時収入凄かったからな、しゃーないしゃーない」

普段なら凹んでいそうな言葉は、今のシルトには効かなかった
それほど浮かれているのだ

「明日、みんなで買い物に行こう、新しい装備買ったりさ」

「うん」

「今夜は栄養のつく物でも作ってやるかな」

「それがいいね、何か買ってく?」

「そだね、市場でも行こか」

「うん」

二人は食材を求め、市場へと向かって行った・・・





その頃、ラーズ軍本部作戦会議室では・・・





「書簡は目を通したが、念のため口頭での報告を頼む」

ドゥヴェルグがヘヴィレイン中将を睨みつけながら低い声で言う
すると、中将は目を細めて話しだした

「ほほ、なぁに、わしが行った時には終わっておりましたわい」

「それは真なのか?」

「間違いありませんぞ、あの者等にはそれだけの実力がある」

「あの者等とは?」

「あれが最近よく聞くハーフブリードでしょうな」

「ほぅ・・・そやつ等は有名なのか」

ドゥヴェルグは冒険者についてはそれほど詳しくはない
多忙な毎日に追われ、そんな事を気にしている時間が無いからだ
そこで、冒険者組合長ヒューズ・ウォールが立ち上がる

「はい、2等級冒険者ですが、その実力は頭1つ出てるとも言われております」

「はっ、亜人風情が」

議員の一人がヒューズの言葉に茶々を入れる

「亜人とはどういう事ぞ」

亜人という単語にドゥヴェルグが反応する
彼は亜人が嫌いという訳ではない
だが、ラーズにとって亜人とは驚異の存在なのだ

「はい、ハーフブリードなるチームには、ハーフキャットが2名ほどいるのです」

「ほぅ・・・ハーフキャットか」

「はい、しかし彼等の実力は間違いないものです」

「どうだかな!本当は別の誰かが倒したフェンリルの死体を漁っていただけではないのか」

先程茶々を入れた議員が再び茶々を入れてくる

「死体漁りが趣味とはまっこと亜人らしいではないか」

醜い笑顔を浮かべて、議員は笑う

「お言葉ですが議員、フェンリルの毛皮はとても高価な物です
 それを残して立ち去る者がいますでしょうか?彼等が倒したのは明白かと思われます」

「ふんっ」

「それに、ヘヴィレイン中将の報告を疑うという事でよろしいのですか?」

「そ、そういう訳ではない!」

慌てる議員を見て、ヒューズはやれやれと肩を落とす
文句が言いたいだけの老害が、そんな言葉が浮かぶが口にする事はない

「話を戻そう」

ドゥヴェルグの一言で会議室の空気が一変する

「今回の議題は彼等をどう評価するかという事だ、組合長はどう考えている」

「はっ、私個人の意見としましては
 彼等ハーフブリードを、ラーズ国で初の1等級に推薦致します」

『何を馬鹿な事を!!』

先の議員が再び食らいつく、どれだけ亜人嫌いなのだろうか

「奴等は亜人だぞ?そんな奴等が我が国の顔となる1等級など任せられるものか!」

「しかし、彼等の功績は1等級にこそ相応しいと私は進言致します」

議員の言葉など無視をして、ヒューズはドゥヴェルグに頭を下げる

「ふむ・・・1等級か・・・現状、ラルアースにあるのはネネモリのだけぞ?」

「はい、ネネモリの"月華のシウ"率いる"月光"のみとなっております」

「他の者の意見も聞きたい、局長・・お前はどうだ」

ドゥヴェルグが警ら隊局長ノルマン・ポリティアに話を振った
ノルマンは立ち上がり、一礼してから発言する

「私個人の意見としては反対です、国の顔たる1等級が半亜人というのは如何なものかと」

「して、個人でない場合はどうか」

「はっ!警ら隊としてならば賛成です、1等級のいる国では重大犯罪は減りますので」

「なるほど、次は上院議員達の意見を頼む」

茶々を入れてきた議員ではない人物が立ち上がった

「ワシの意見は反対じゃ、他国に示しがつかん」

「ふむ」

「民衆は英雄を求めるもの、しかし亜人嫌いは多いのも事実」

立ち上がった議員は隣にいる茶々を入れた議員を見て笑う

「なるほど」

「最終的な判断は総帥にお任せしますがの」

そう言って議員は席に座った
結局それか、ドゥヴェルグは深いため息を洩らした
こいつ等は自身の責任にしたくないのだ

「では、総帥であるわしが決定を下す、それでいいな?」

「はい、如何様にも」

「私も構いません」

皆が頷き、ドゥヴェルグは一息置いてから口を開いた

「ハーフブリードを1等級とする」

『馬鹿な!!』

茶々を入れた議員が大声を上げた
その隣の議員も目を丸くして固まっている

「では聞こう、奴等以外で1チームでフェンリルを殺れるチームがあるか?」

「いいえ、私の知る限り"月光"以外有り得ません」

ヒューズは即答した
冒険者達を管理している彼が言うのだ、それは間違いないだろう

「しかし!亜人ですぞ!」

再びあの議員が文句を言うが、ドゥヴェルグは鋭い視線を向け黙らせる

「奴等ならラーズを代表する冒険者となろう、これにて閉会とする!」





ハーフブリードが1等級に選ばれた、そのニュースは数時間でラーズ中に広がった
街はお祭り騒ぎのようになり、当の本人達であるハーフブリードはその騒ぎで知る事となる
自分達が国内初の1等級冒険者に選ばれた事を・・・

「え?まじで僕らが1等級?なんで?」

「さぁ・・・何かしたっけ?」

「わたしも全然わかんない・・・」

「でも1等級だよー!いいことだー!」

「うんうん」

「私は思い当たる節はあるよ」

ジーンは冷静にそう言うが、内心嬉しくて飛び跳ねたい気持ちでいっぱいだった
彼女は待っていたのだこの瞬間を、シルトを選んだ時からずっと

「え、何?」

「フェンリル倒したでしょ?あれじゃないかな」

「そうなの?そんなヤバい魔獣だったの?」

「うん、あのフェンリルに2等級の"銀の樹"と"アイアンテイル"が殺されたらしいよ」

「まじか・・・」

「とにかくお祝いだー!」

シャルルが太陽のような笑顔で飛び跳ねる

「お祝いだー!酒だー!」

ラピも飛び跳ね、二人で手を繋いでくるくると回っている

「すごい事になったね・・・1等級かぁ」

サラはまだ実感が無いようで、他人事のように言っていた

「はは、すごいね、1等級だよ1等級!僕ら強いんだな!!」

シルトは徐々に興奮し始め、声が大きくなっていった

「ふふふ、やったね」

ジーンが普段見せない満面の笑みで喜んでいる

その日は夜通し飲んで食って歌って躍っていた
それから1週間ほど街はお祭りのようになり、便乗した商店がセールをしたり
彼等が街を歩けば皆がお祝いの言葉を送り、プレゼントを送った



こうして彼等ハーフブリードはラルアースで2組目の
ラーズ国初の1等級冒険者となった




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