2015_11
05
(Thu)20:56

1章 第4話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第4話 【聖域への道】其の一

回想が増えていきます。
ちょっと時系列が分かりにくかったらごめんなさい。

では続きを読むからどうぞ。











【聖域への道】其の一






始まりを思い出していたミラの耳に呻き声が届く
エインがまた苦しみだしたのだ
全身から汗が吹き出し、苦痛に顔を歪ませ、辺りを掻き毟る
ミラは急いで立ち上がり、生の魔法使いを探すためにテントを飛び出した

『ハーフブリードの方々!』

初めて聞いたであろうミラの大声にその場にいた全員が彼女を驚愕の目で見る
それはハーフブリードの面々もそうだった
驚きのあまり呼ばれたのも忘れ、へ?という顔でぼーっと見てしまっていた

『何をしていますの!早く!エインが!』

状況を理解した生の魔法使いの3名はゴーレムの残骸漁りを止め
厳選してあったミスリル鉱石を革袋に入れ、大急ぎで簡易テントへと向かう

ちなみにシルトとサラは残骸漁りを再開している
ハーフブリードが守銭奴のように見える人もいるだろう
だが、彼らは後ろ盾が一切無い冒険者という存在だ
自分達で稼ぎ、装備を整え、旅の食糧や消耗品を用意しなくてはならない
装備を整えるというのは生存率を上げるという事に直結するからだ
冒険者は死と隣り合わせの仕事だ、金に固執するのは当然と言えるだろう
1等級ともなると下手な貴族より遥かに稼いではいるが
彼らはそれに見合った装備を整えている、その額は尋常ではない
そして、1等級ともなると難易度の高い、危険度の高い仕事が主な内容だ
そんな彼等にとってこのミスリルの塊を漁る行為はとても重要なのである

さて、話を戻そう


「うぅ・・・ああああ!」

テントの外にまで叫び声が響く
テントに入ってきたジーンがミラに水を換えてきてと指示を出し
それに続きシャルル、ラピがテントへと入って来る
彼女達と入れ替わりにミラが外へと出た
ジーンがエインの左腕側へと座る
その隣にラピが座り、反対側の右腕側へはシャルルが座った
回復ならシャルルが一番得意だからである
二人は邪魔にならないよう反対側を陣取ったのだ

「癒しの息吹よ」

シャルルはエインの右腕辺りにふぅ~っと息をかける
ほのかに緑色の息がエインの身体に降り注ぎ、彼の苦痛の表情が若干和らぐ
反対側ではジーンの手が淡く光り、エインの頭部に当てられており
ラピも同じように手が淡く光り、エインの心臓部に当てられている

「根源たる生の灯火よ」

シャルルは立て続けに回復魔法を発動させる
その手には青い炎が宿り、切断された二の腕に押し当てられる

「・・うぅ」

彼が一瞬苦痛に顔を歪ませるが
直ぐに力が抜けたように落ち着きを取り戻した

「良かった、もう大丈夫そうね」

シャルルは満面の笑みを浮かべ、額の汗を腕で拭う
ジーンとラピも軽く汗ばみ、ほっと一息ついていた
そこへミラが戻り、落ち着きを取り戻したエインを見て安堵し
肩の力が抜けて頬は緩んだ

「今はもう大丈夫だよ!また苦しむと思うからすぐに呼んでねっ」

「ありがとうございます、助かりました」

ミラは真剣な表情に戻り丁寧にお辞儀をする、それを見て3人は再び驚かされた
ミラが頭を下げる・・・それも平民である彼女等に、だ
何が彼女をここまで変えたのだろう?
ジーンは一瞬考えたが直ぐに辞めた、あまり興味が無いからだ
そんなミラを見て、シャルルとラピはニコニコ・・・ニヤニヤとも言えるが・・・していた

「またねー♪」

シャルルがひらひらと手を振り、ハーフブリードの面々が去っていく
彼女達を見送り、テント内には静寂が戻った
ミラはエインの右腕側に座り、入れ替えてきた水でハンカチを濡らし、キツく絞る
顔や首や胸などの汗を拭き、ハンカチを洗い、また拭く
数度繰り返し、最後に彼の額に乗せ、ふぅ~っとため息をついた
落ち着きを取り戻したエインは深い眠りにつき、すやすやと寝息をたてている
そんな寝顔に彼女も安堵し、再びこれまでの旅を思い出すのだった・・・・









一同はナーテアの出口まで来ていた
門を抜け、道の横に寄り円陣を組むように集まっている
一通り自己紹介は終わり、今後の事について話し合うところだ

「神の聖域の場所は分かっているんですよね?」

メイス使いのリヨン・スッケルスが皆に聞こえるように問いかける
リヨンの前髪は短く真っ直ぐに切り揃えられ
そのまま頭を一周するように綺麗に苅られている
キノコのような頭と言えば分かりやすいだろうか
彼の持つメイスは60センチほどの棒状で、先端には大きなスチールの塊がついている
無骨なデザインだが極めて実用的である
彼は死の神への信仰が厚く、その巫女であるリリムをも崇拝していた
今回の旅に同行できる事を心から喜び、リリムを命をかけて守る所存だ

「あぁ、それは今から説明しよう」

神殿盾騎士団長ガゼム・アン・ダイトが口を開く

「まず、水の聖域だが、ここより西・・これはカナランとドラスリアの間にある
 どちらかと言えばカナラン寄りの場所だ
 しかし、海岸沿いの洞窟の入口付近には魔獣ケートゥスが巣くっている
 聖域はその洞窟を通らないと行けないらしいのだ」

「ケートゥス?」

カナランの教会守護隊カイル・リムシブがなんだそれは?という顔で聞いてくる
彼は元々カナランの者ではなく、傭兵や冒険者を経て教会守護隊へと入った身だ
さらさらの金髪が風になびき、キラキラと光を放っている
青い瞳は薄めで、色白なのもあって全体的に淡い色合いの人物だ
顔立ちはそれなりに美形、まぁまぁイケメンと言ったところか
実戦経験の豊富な槍使いで、腕前だけで現在の地位まで上り詰めた男だ
彼の持つ刃先がミスリルの槍が淡く光を放っている

「ケートゥスとは簡単に言えば魚とトカゲを足したような奴だ
 大きさは8メートルくらいだったか、こいつは陸まで上がってくるぞ
 顔は狼のようで鋭い牙を持っているそうだ」

そりゃおっかない、とカイルは驚くようなジェスチャーをする

「・・・続けさせてもらうぞ、次は風の聖域だが・・」

「それは私から言わせてください」

ネネモリの死の巫女リリム・ケルトが一歩前へ出る

「頼みます」

ガゼムは軽く会釈をし、リリムに任せる事にした

「はい、それでは風の聖域ですが、ここより北・・ネネモリにあります
 ドラスリアとの国境付近になりますが、大森林のかなり奥になります
 この付近は魔物も多く、奥へ行けば行くほど危険な魔物が増えると思います」

リリムのよく通る声は心地よく、ガゼムの説明より遥かに聞き取りやすかった
もっと聞いていたいと思うほどの美しい声だがそれは叶わない

「感謝する、それでは次は火と地の聖域についてだが」

数名の男達からチッと小さな舌打ちが聞こえた気がするがガゼムは続ける

「これはラーズの南北にある、火の聖域が北で、地の聖域が南だ
 火の聖域付近には岩を喰らう化け物が住んでいると聞く
 地の聖域付近だが・・・亜人どもが支配している地域だ
 そして、最後に生と死の聖域だが・・・実はまだ発見されていない」

「そうか・・しかし、かなりバラけているな」

ロイ・ホロウ少佐が話に加わる

「生と死の聖域が分からぬ以上、どこかの聖域へ行かねばならないだろう」

「ここからだと風の聖域か、水の聖域が近いか」

ガゼムとロイが色々話し合っているが中々進まない
それにしびれを切らしたシルトが口を挟む

「片方に行って収穫無しだったら時間を大幅に無駄にしてしまう
 ここは隊を分けてみませんか?」

一同が彼に注目し、それでは集まった意味が・・・といった声が洩れる
そんな声は無視をし、シルトは続けた

「寄せ集めの隊が機能するまでは時間が掛かります
 それなら多少分けた方がやりやすくはないですかね」

「それは一理あるな」

ロイが頷く、ガゼムも同意のようだ
それに続き、皆同意を示した
確かに時間のあまりない旅ではある
迫る虫の驚異、そして食糧難、問題は山積みだ
それに連携の取れていない集団ほど脆いものはないのも事実だった

「それでは2カ国ずつ、12人で分けるか?」

「あー・・・それなんですけど、僕たち元々チームなので
 ロイさん入れて6人は別行動ってダメですかね?」

「それでは君達との連携が取れないでないか」

「僕らはそういうの慣れてますので、合わせられると思いますよ」

シルトの自信溢れる言葉には説得力があった
1等級冒険者、それはそう簡単になれるものではない
彼等の所属するラーズには1等級冒険者は彼等ハーフブリードしか存在していない
他の国にも1等級はほとんどいない、というかもう1組しかいないのだ

「こう言ってるが、皆はどうだろうか」

ガゼムが皆の意見を求める

「私はいいと思いますよ」

リリムが口を開いた
先ほど舌打ちした男達の目が輝く

「彼等からは並々ならぬ力を感じます、それは信用していいと思います」

彼女の心地よい言葉は皆の同意を得た

「それではハーフブリードの方々、それとロイ少佐
 そちらは6名という事でよろしいですかな?」

「あぁ、構わない」

ロイは頷き、ハーフブリードの面々を見る
彼はラーズより2つの命令が下されていた
1つは今回の旅に出る事、そしてもう1つはハーフブリードのお目付け役だ
彼等が支払った額に見合った働きをするか監視する役目である
ロイ自身、彼等の実力は噂で知っているだけで見た事はない
噂とは尾ひれが付くものだ、大げさに語られているのだろう、そう彼は思っていた

「あー・・・もう1つだけいいですか?」

シルトがすみませんとペコペコしながら前に出る
まだ何かあるのか、とガゼムは小さいため息をし、顎で促す

「僕ら6人なんで、水の方もらっていいですかね?」

一瞬皆が、何故?といった顔をする
しかし、リリムはその意味を理解していた

「はい、その方がいいと思います・・大森林は6人では少し危険に思います」

カイルは先ほど聞いた魔獣ケートゥスを思い出す
あれよりヤバいのか~、ハズレ引いたかな~と心の中で愚痴った

「ネネモリの巫女がそう言うのなら」

ガゼム達は頷く
ハーフブリードの面々は、やった!海だ!海!シルさんよくやった!と喜んでいた
大丈夫なのか、こいつら・・・そう思った者は少なくないはずだ

「・・・・それでは、終わり次第ナーテアに集合という事でよろしいかな」

ワイワイ騒いでいたハーフブリードに冷たい視線が集まる

「あ、はい、了解です」

また、すみませんすみませんとシルトはペコペコする
死の巫女リリムはああ言ったが、本当に大丈夫なんだろうか
一同に一抹の不安が残った


こうして隊は18人と6人という二つに分かれ、北と西へと進み出す






深い森の中を北へ向かう一団がいる
ドラスリア、カナラン、ネネモリの一行だ

森の中は薄暗い、しかし陽の光が全く届いていない訳ではない
僅かにある木々の隙間から光の筋が走り、幻想的な光景を作り出していた
冷たく張り詰めたような空気がこの幻想的な森を神聖なものにすら感じさせる
草木は生い茂り、足場も悪く、一行は思うように進めずにいた

「・・・あっ」

リリムが躓き、態勢を崩すとその腰をふわっと抱える者がいた、エインである

「っと、大丈夫ですか」

爽やかな笑顔に木々の隙間からの光が当たり、開かれた力強い瞳は青く輝いて見えた
そんなエインに見惚れ、何も言えず動けずいると、彼は困ったように頬を掻いた

「は、はい!ありがとうございますっ!」

慌ててリリムは離れ、その顔は赤く染まる
そんな彼女に釣られ、エインも軽く頬を染め、また困ったように頬を掻く
そこへリヨンが駆け寄ってきた

「巫女様!大丈夫ですか!」

その大声にびっくりしたリリムはひゃっと声を上げ、リヨンに顔を向ける

「だ、大丈夫ですよ、彼が・・・えっと」

名前を覚えていないようだったので自ら名乗る事にした

「俺・・・自分は、エイン・トール・ヴァンレンと申します」

「すみません、エインさん・・・本当にありがとう
 彼が支えてくれたので怪我はありません」

リヨンはエインを舐めるように見ている
そんな視線は気づかず、エインは通り道にある倒れていた大木の枝を折り

「それでは参りましょう・・・足元に気をつけて」

大木の上に乗り、振り返り、彼女へ笑顔を向け、手を差し出した
その笑顔にまたリリムはドキっとする
不思議な想いが胸にこみ上げてくるが、まだその気持ちが何なのかは分からなかった

「はい」

そんな言葉しか返せない自分にモヤモヤするが、差し出された手を握った
ひょいっと持ち上げられ、大木の上へと乗る
呼吸が届くような位置になり、リリムの顔は真っ赤に染まった
彼の鎧が目の前にあり、少し目線を上げればあの笑顔があるのだ

「先に降りますので、少し待ってくださいね」

彼は優しくそう言い、飛び降りる
彼がいなくなった事により、冷たい空気が顔を冷ました気がした
そして彼はまた手を差し出す、今度は両手だった

「え?」

リリムが不思議そうにしていると、腰からふわっと持ち上げられる
そのまま静かに降ろされ、きょとんとした顔をしてしまう

「さぁ、参りましょう・・・えっと」

後頭部を掻きながら彼は困ったような顔をする
どうしたのかとリリムは戸惑うが、すぐに気がついた

「ああ!わ、私はリリム・ケルトです!死の巫女やってます!」

巫女やってますってなんだろう、自分で言った言葉に疑問を感じ
何言ってるんだー!とわたわたしていた

「ははは、死の巫女様は可愛らしい御方なのですね」

エインは目を細め、満面の笑みを向けてくる
恥ずかしくて赤面していたリリムはまたドキッと胸が疼くのを感じる
そしてある事に気づいてしまった

「か、か、かわ!かわいい!?」

大慌てである
言葉の通り、リリムは手足をバタバタさせ、慌てている

「あ、いや、これは失礼しました・・・巫女様には失礼でしたね」

エインは深く頭を下げる

「あー!あー!頭を上げてくださいー!」

更に慌てるリリムに、エインは困ったような顔をし、また頬を掻いていた

「ちょ、ちょっと待ってください!・・・すぅー・・・・ふぅ」

リリムが自分の胸を撫で、深呼吸する
ようやく落ち着いてきたところでエインの顔を見て口を開いた

「私の事はリリムで構いません
 それと失礼なんて事はありません、すごく・・・嬉しいです」

自分のできる最高の笑顔をエインに返した
彼女は気づいてしまったのだ、出会ってほんの僅かの時間だが
名前を知ったのも今さっきだが、これはもう否定しようがなかった

彼女は彼に一目惚れをしてしまったのだ

これはリリムが男慣れしていないとかそういう事ではない
むしろ巫女であるリリムの周りには護衛など男の方が多いくらいだ
ネネモリでの生活は皆と友達のようで、男女問わず彼女は人気者だった
死の巫女であるため一部から恐れられてはいたが
そこは彼女の人柄で一部に抑えられている
明るく、元気で、優しく、可愛さと美しさが両立した不完全さが更に魅力を増し
彼女に告白してくる男達は後を絶たないほどだったのだ
しかし、彼女は一度も告白に首を縦に振った事はない
単純に好みでなかっただけだ
それが何という事だろう、こんなにもあっけなく惚れてしまうとは
元来それが一目惚れというものなのかもしれない

そんな彼女の笑顔に僅かに頬を染め、エインは笑顔で返す

「それでは、リリム・・・自分・・俺のこともエインで構いませんよ」

「はいっ、エインっ」

二人は笑顔になり、歩み出す
そんな二人だけの空間を睨むように見つめるリヨンだった




少し先を進む男がいる、クガネである
彼は先頭集団の後方に位置づけ、面倒臭そうに歩いている
今回彼が同行した理由、それは今までの罪が帳消しになるという魅力的なものだった
今までに犯した罪は窃盗、殺人、器物破損などなど挙げればキリが無い
特に窃盗と殺人の数が多く極刑は免れないはずだった
それが帳消しになるのだ、多少面倒でも行くしかあるまい
心の中で舌打ちをし、先頭集団に目を向ける
どいつも使えなそうなやつばかりだ
先頭のアイツは多少はマシか・・・肉壁としてだが
アイツとは神殿盾騎士団長ガゼム・アン・ダイトである
クガネがそんな事を考えていた時、木々がざわりと音を立てる

「・・・おい、止まれ」

クガネのそんな言葉に先頭集団が止まる
ガゼムが何だ?と聞いてきているが無視をし、辺りを警戒していた
しばしの沈黙・・・・再びざわりと音がする、が皆は特に何も発見できなかった
風じゃないのか?と皆が口々にしているがクガネは見逃さなかった

「客のお出ましだぞ」

クガネの言葉が皆の耳に届いた刹那、木の上から黒い影が一瞬だけ姿を現す
早すぎて何かは分からないが、ザザザと葉を鳴らし、木の上を移動しているようだ
音は全方向から聴こえ、どこだ!?複数いるのか?何がいる!と口々にしている
そして、突然音が止む・・・・静寂、薄氷のような空気が辺りに充満した
些細な事で崩壊しそうなそんな空気だ
静けさが恐怖を煽り、空気は冷たいが汗すら出てくる
そこへ後続集団が合流し、異常に気づき、即座に戦闘態勢に入った

「・・・・がっ!!」

声がした方向、後続集団の隅へ全員が目を向ける、が・・そこには誰もいなかった
何だ?何が起きた?誰かいたのか?そんな声が洩れた時、二人が口を開く

「イシュタール」

「消えた」

サイガとイルガである

「・・・消えた?どういう事だ!!」

斧使いの戦士アズル・ルゴスが声を荒げる

「うーん、消えた」

「パッて消えた」

アズルは舌打ちする、全く要領を得ない
しかし、辺りを見渡しても確かにイシュタールの姿は無い
この双子の言う事は事実なのだろう

「とにかく上だ!上に気をつけろ!!」

アズルは叫び、一同は上へと顔を向ける
再び静寂・・・それほど長い時間では無いが恐怖が時間を長く感じさせている
そして、至る所からザザザザザと葉が鳴り、周囲をぐるぐると見渡した

「くそっ!どうなってやがる!何が起きている!」

ガゼムの声が森に響き、再び静寂に包まれる

「・・・・うげっ」

声がする方へと全員の目が向けられる
その刹那、黒い影が木の上へと一瞬で消えていく

『ナーガだ!!』

エインが叫び、それが木の隙間から音もなくゆっくりと姿を現した

ナーガとは巨大な蛇である
太さは70センチ~1メートルほどあり、全長は20メートルとも言われている
首の付け根は笠のように広がり、それはまるでコブラのようである
蛇との決定的な違い、それは人間のような上半身と腕がある事だ
その顔は醜悪で、口は人でいう耳まで裂け、その瞳は蛇のそれだ
牙には猛毒を持ち、自己再生能力に優れているとても厄介な相手だ

シャシャシャと独特な鳴き声がし、その口にはネネモリのガリア・ケルヌンを咥えていた
彼の胸には深く牙が刺さり痙攣している
傷口からは白い液体が溢れている、毒だろう
見る見るうちに彼の顔や腕の皮膚がただれ、ずるりと剥け落ちる
そして彼はゴミのように捨てられ、ピクリとも動かなくなった

ナーガは再び木の上に姿を消し、ザザザザと辺りの木々が揺れ葉が鳴り始める

『円陣隊形!!』

ガゼムが叫ぶ、しかしそれに反応した者は少なかった
寄せ集めの集団にそれを求めるのが無理があったのだ
ガゼムが「くそっ!」と汚い言葉を吐くと再び静寂が訪れる

「くるぞ!」

アズルが声を上げ、全員が身を低くし、臨戦態勢に入る
ザザッ!葉が鳴り響き、ナーガが木の上から滑るように身を乗り出した

「・・・きゃっ!」

それを見たマルロが叫ぶと同時に数人の横を何かが駆け抜ける、クガネだ
ナーガがマルロ目掛けてその身を地上に近づけた刹那
クガネはダガーを放ち、それがナーガの右腕に刺さる
そして・・・刺さった位置はボンッと爆発し、ナーガの右腕が引きちぎれた

「シャーーーーーーー!」

ナーガの威嚇のような叫びが響き、再び木の上へと消えてゆく
落ちてきたダガーを空中で掴み、クガネは身を低くし構えた

「チッ・・・仕留め損なったか」

マルロは恐怖のあまり腰が抜け、その場に座り込んでいた

「ガキの出る幕じゃないと言っただろう」

こちらを見ずにまた失礼な事を言うクガネにむすっとするが
足腰に力が入らず立つ事もできない自分が恥ずかしくて言い返せなかった


エインは切っ先に目線を合わせ、剣と共に身体も動かし辺りを見渡している
ライフルのスコープを覗くような感じである
その後ろ、背中合わせにミラもレイピアを中段に構え、辺り・・主に上を警戒している

ザザザザ、葉が鳴る・・・そして静寂が訪れた

ミラの目には見えた、"それ"が向かってくるのが

「はあああああああっ!!」

ミラの神速の三段突きが炸裂しダダダッと音を上げ
ナーガの右頬、右目、右の笠のような部分にほぼ同時に当たる

「シャーーーーー!!」

ナーガは叫ぶ、だが今度は引かなかった
そのままミラに襲い掛かろうとした、その時
背後のエインがミラの腰の左横から現れる
恐ろしく低い姿勢からの斜め上への鋭い突き
それはナーガの人間のような胴体に深く突き刺さった
ナーガは一瞬怯むがミラへと襲い掛かろうとする・・・が、それは叶わない
尻尾側の方で痛みが走ったせいだ
一瞬でナーガは木の上へ戻り、エインの突き刺していた剣は勢いよく抜けた

尻尾側を攻撃したのはネネモリの水の魔法使い、エルフのエンビ・ルルラノだ
水の魔法により作り出された槍を放ち、それがナーガの尻尾側に深く刺さったのだ

再びザザザザと木々が鳴り、あらゆる方向から音が聴こえる
そして・・・

『ジャジャジャジャジャジャジャジャジャー!』

今までと違う、一際大きい鳴き声を発し、辺りの空気が変わる
それを聴いたリリムはよく通る声で叫んだ

『皆さん危険です!仲間を呼んでいます!!』

全員が警戒を強める
その頃マルロはやっと立ち上がり、隣に立つクガネを少し睨み
ふふん、見てなさい!と勝ち誇った顔をしていた
そんなマルロに気づかぬクガネは視覚、聴覚をフルに使い辺りを伺っていた
そして、真横で始まる出来事に目を丸くする事となる



「母なる大地よ!!」



その言葉と同時にマルロを中心に彼女の腰辺りから
直径3メートルにもなろう魔法陣が出現し
下から来る風とは違う力の波動が彼女の法衣や、そのおかっぱの青髪を揺らす
クガネすら知らぬ魔法だ
このガキ何をする気だ?その様子を息を飲んでじっと伺っていた

マルロが右手に持つ黒曜石の杖が激しく黄金色の光を放ち、薄暗い森を照らす
彼女の左腕は前へ突き出され、左手の人差し指の先端が黄金色に強く輝く
その指を這わせ何かの文字を綴り、何かをブツブツと唱え始めた

「我、大地の目なり・・・我、大地の耳なり・・・我、大地の手足なり・・・」

こんな規模の魔法をクガネは知らない
真横で起こっている現象に僅かながら恐怖した、あのクガネがである

『地の巫女様を守れ!巨石魔法だ!!』

そう大声で叫んだのはガゼムだった
彼女の魔法陣の周りを数人が囲み、全員がマルロに背を向け外側を向く
巨石魔法?なんだそれは?よく分からないまま隣にいたクガネも円陣に加わる


『ジャジャジャジャジャジャジャジャー!』


ナーガの鳴き声が更に大きくなり、遠くの木々がゆさゆさと揺れる
そう、もう1体のナーガがやってきたのだ
2体目のナーガは地を這い、1体目のナーガは木の上から仲間を見つけ目を細める
地を這うナーガはこの足場を恐ろしい速さで滑るように移動して来ていた
そして、あっという間に1体目のナーガがいる木の下まで来る
2体は絡まるようにその蛇肌をこすり合わせ、ゆっくりとほどけていく
1体目のナーガの頬や笠の傷はすでに癒えていて
目と腹部の傷の緑色の血は止まっていた
ナーガ2体との距離は25メートルといったところだ

『全員、地の巫女様を死守しろ!!』

ガゼムの怒鳴り声が響き、円陣は崩れ、前方(ナーガ側)へと集まる
マルロはまだ詠唱をしていた
その額には大量に汗をかき、鼻からは血が流れ、目には涙が浮かぶ
そして・・・マルロは左手を下から上へと一閃し、ついに詠唱を終える


『大地よ!その力を今!ここに示せ!!』


マルロが叫んだ後、彼女の周りに出現していた魔法陣は拡散し消える
その後、彼女の盾になっている彼等の
前方15メートルほどの地面がゴゴゴと迫り上がり始める
それはどんどん迫り上がり、辺りの木々がメキメキと音を立て倒れ、飲み込まれてゆく
それを見た彼等は無意識に数歩下がり、マルロの前方を開けてしまう
大地はえぐれて行き、直径は15メートル近く
深さ10メートル近い陥没したクレーターのような地形が生まれた
そして大地は集まり、木々を飲み込み
その形を卵型のように変え、5メートルほど浮き上がった

所々巻き込まれた木が飛び出してはいるが、まさに巨石であった

クガネは驚愕し、恐怖した
こんなガキからこんなものが作り出されるのか?!人間のできる芸当じゃないぞ!
侮っていた、この小さな身体を
鼻血を流し、苦しいのか片目を瞑り
倒れそうな身体を杖で支えてる小さい存在を目にし
少しばかりニヤけてしまうクガネだった


ナーガ達は焦っていた
目の前で起こった現象を理解出来ず、ただ見ていた
シャー!シャー!と威嚇する声だけ出し、動こうとはしなかった
それがナーガの最大のミスである

巨石は空中で回転し、細くなっている方がナーガを見据える
その刹那、空中に浮かぶ大地はナーガ目掛けて飛んで行った
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・大気が震え、木々がバキバキと押し倒されてゆく
それをナーガは見ていた・・・いや、見ている事しか出来なかった
理解の範疇を超えていたのだ

大地が揺れ、木々が倒れ、その巨石はナーガを巻き込み
一直線に30メートル近く大地をえぐる
草木一本残らない丸裸の大地が姿を現し、木々が倒れた事により陽の光が降り注ぐ
この時、ナーガ達は潰れ、ただの肉片と化していた


陽の光が射した頃、マルロはふっと力が抜けたように倒れ込む
それを見ていたクガネは咄嗟にその身体を抱く
軽かった、本当に小さい存在だった・・・彼は先ほど巨石が通った道とマルロを見比べる
もはや意識のない少女はただの子供にしか見えなかった
しかし、クガネの中でマルロという存在の認識を改める必要があった

「やるじゃねぇか」

クガネのそんな呟きを聞き取れた者がいただろうか




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