2016_03
04
(Fri)13:41

3章 第1話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第1話 【神託】

ヒーハー(゚∀゚)勢いで書いてる感満載
でも楽しいからおっけー!

では、続きを読むからどうぞー。










【神託】






1ヶ月ほど前の話になる


ミラ・ウル・ラシュフォードはラーズ首都からネネモリへと向かっていた
手にしているのは大きな木箱、それを大事そうに抱えて馬車に乗っている
この木箱には彼女が考案、設計、デザインをし
ラルアース最高の技師であるディーアン・キュクロープスが作り上げた逸品が入っている
ディーアンはドワーフ族で、彼の作る武具はどれも一級品だ
年老いてはいるが、腕は衰えておらず、むしろ今が絶頂期とも言える物を作り出している
名剣と呼ばれる類いの剣や、魔剣と恐れられるほどの切れ味を誇る武器など
彼の作った作品は、どれも有名になる物ばかりだった

ラシュフォード家の家宝であるオリハルコンライトアーマーすら溶かして作らせた逸品
それを彼に届けるため、彼女は馬車に揺られてネネモリへと向かっている
ネネモリの首都であるイオマンテが近づくにつれ、ミラの頬は緩んでいく

「これを見たら、彼はどんな顔をするかしら・・・」

木箱を優しくさすり、イオマンテの方角に目をやる
巨大な森が視界に入るが、所々木々が枯れているのが気になった

「また何か起きているのかしら・・・」

一抹の不安を抱きながら、ミラはネネモリの大森林にある首都イオマンテに辿り着く
馬車はイオマンテの最奥の方で止まり、そこからは徒歩での移動にした
いきなり訪れて驚かせてやりたいのだ
そんな悪戯心でゆっくりと静かに歩を進める

「あれ?ミラ様?」

後方からとても聞き慣れた声がし、ミラはビクッと肩を揺らす
この声はミラが今一番会いたくなかった相手だ

「あら、エイン、久しぶりね」

平然を装い、微笑を浮かべて振り向いたつもりが、若干引きつった顔になっていた
もう!なんでこんな所にいるのよ!驚かせようとしたのに!
そんな愚痴を心の中で吐きながら、ミラは表情を正す

「お久しぶりです、どうなされたのですか?」

エインは本当に不思議そうにミラの顔を見ている
その目を見てミラは思うのだった
そう、この彼こそラルアースの英雄と呼ばれるべき人
ミラの目線がエインの両腕へと動く
エインの右腕は二の腕から先が無く、左手は親指以外の4本の指が無い
こんなにも痛々しい姿になってまで彼は世界を救ったのだ
それに比べて私は・・・

「丁度良かったですわ、貴方に会いに来たのよ」

「自分にですか?」

「いいから家に案内なさい、それともこのわたくしに立ち話をさせる気かしら?」

「はい、失礼しました」

そう言ってエインは深く頭を下げる
そんなつもりじゃなかったのに・・・なんで上手く言えないんだろう
ミラはそんな自分に少し苛立ちながら、彼の後に続いて足を進めていた

二人がエインの家まで来ると、そこにはリリムの姿があった

「わっ!ミラさん!どうしたんですか?」

ミラの姿を発見したリリムは驚き、片手を口に当てている

「こんにちは、死の巫女リリム・ケルトさん」

「あ、こ、こんにちは!」

慌てて挨拶をし頭を下げると、抱えていた果物がボロボロと落ちる

「あああぁ!」

あわあわと果物を拾う死の巫女を見て、ミラの頬が緩む
この子はおっちょこちょいなのかしら?
ある意味、堅物のエインとお似合いなのかもしれないわね

ふふ、と小さく笑うミラを見て、エインは少し違和感を覚える
ミラ様もあの旅で変わったんだな、と彼女への認識を改めた

「リリム、大丈夫かい」

エインが片膝をついてリリムに優しく声をかける
両腕が無いので手伝う事が出来ないのが歯痒いが、せめて声くらいかけようと思ったのだ
そんなエインの姿を見て、ミラは言う

「エイン、今貴方は何も出来ないですわよね」

「え?・・・・はい」

エインの表情が一気に曇る

「ミラさんそんな言い方は!」

リリムがミラに食い下がるがそれをミラがよしとしなかった

「いいから聞きなさい!」

「・・・・」

その一言でリリムは発言権を無くした

「落とした果物すら拾う事ができない、貴方はそのままでいいのかしら?」

「・・・・」

ミラの言葉はエインの胸をえぐる

「いいのかしら?」

ミラは再び聞く、酷な事を言っているのは分かっている
だが、聞かねばならないのだ

「・・・・今の自分にはこれくらいしか」

「本当にそれで満足なのかしら?」

『満足などしていません!出来るなら!!』

エインが声を荒げる、その声に一瞬驚くが、ミラは微笑んだ

「そう、ならばわたくしが貴方に力を授けますわ」

「力・・・?」

「人を守る力、助ける力、救う力、貴方はそれを持っていますわ
 でも、今の貴方にはそれができない、それは何故?腕が無いからでしょう?」

「・・・・・」

エインは俯き、黙り込む
一言一言を伝える度にミラの胸も痛むが、これは必要な事なのだ
彼が本心からこの力を望まない限り、この力は彼のものにはならない

「貴方は再びその力を手に入れたいのではなくて?」

「・・・出来るなら・・・どんな苦痛でも我慢できます」

「言ったわね、今の言葉、忘れてはいけませんことよ」

「・・・?」

ミラがエインの元へと足を進め、脇に抱えている木箱を彼の前へと下ろす
そして、ゆっくりと木箱を開けた

「これは・・・」

「これが貴方の新しい力、新しい腕ですわ」

ミラが持って来たのはオリハルコンとミスリルで出来た義手だった
これには複数の魔法が込められており、装着者の意思で動かす事ができる
しかし、それができるようになるまで激しい苦痛を味わうという欠点があるのだ
この義手に魔法を込めたのは地の巫女マルロ・ノル・ドルラード
火の巫女イエル・エフ・リートの二人である、そして・・・・

「死の巫女リリムさん」

「は、はい!」

突然呼ばれた事にリリムは驚くが、ミラの真剣な表情に気を引き締める

「この義手はまだ完成していませんの」

「そうなんですか・・・」

「えぇ、貴女が力を込めるまでは」

「え!?」

「劣化という物体の死を抑制してくださいませんこと?」

「なるほど・・・わかりました!お受け致します!」

リリムが大切そうに義手を受け取る
右腕用の義手を持ち上げると、下には左手用の小さな義手も入っていた
そちらはミスリルだけで出来ており、右腕のような細工は施されていない

「そちらは急遽追加した物ですから、剣を握るくらいしか出来ませんわ」

「・・・・本当によろしいのですか」

エインを見ると、ボロボロと涙を流して義手を見ていた
そこにあるのは希望の光、彼の望んでいたものが目の前にあるのだ

「もちろんですわ、貴方のために作ったものですから」

「有難う御座います・・・有難う御座います!」

エインが泣きじゃくると、リリムが自分の服の裾で彼の涙を拭う
二人のやり取りを見ていると、ミラの心は温かくなってゆく
作って良かったと心からそう思えたのだった


その後、10日ほどかけてリリムが義手に魔力を込め、義手に3つ目の魔法が掛かる
1つ目はマルロによる硬化の魔法、2つ目はイエルによる熱耐性の魔法
3つ目がリリムによる劣化防止の魔法だ
3つの属性を合わせる事は現代の技術では不可能とされていた

オリハルコンという特殊な魔法金属があったからなのもあるだろう
オリハルコン部分に2つの魔法を込め、ミスリル部分に1つの魔法を込めるという
その発想がこの3属性を成功させていた
これはミラの発案である、ディーアンが聞いた時には耳を疑ったものだ
魔法同士が干渉し合わないよう、色々な技術が試された
そして出来上がったのがこの義手だ

今、その義手はエイン・トール・ヴァンレンの右腕にある
義手との接触部分には針のような物があり、それをエインの腕に刺す形で装備する
これは神経と繋ぐためだ、この時に激痛が全身を走る
そして、そこから魔力が義手へと流れ込み、その時にも激痛が走る
その痛みは全身を引き裂かれるような痛みだった
エインは何度も気絶し、何度も挑んだ
そして、彼はついに手に入れた・・・新しい右腕を
しっかりとベルトで義手は固定され、完全に彼の腕として機能している

右手でギュッと拳を作って、思うように動くのを確認する
よし、もう痛みもない、完全に自分のものにできた
エインが銀色になった自身の右腕を見て微笑む

「ものにできたようですわね」

「はい、本当に有難う御座います」

「ラシュフォードの家宝を溶かしてまで作った物ですわよ、それ以上の働きをなさい!」

「はい!」

こうしてエインは銀色の右腕と薄紫色の左手を手に入れた
彼は再び剣を握る事ができるようになり、今は新しい手や腕に慣れるのに必死だ
ミラは実家へと帰り、エインはリリムのもとで厳しい特訓の日々を送っている




そして1ヶ月の月日が流れる




マルロ・ノル・ドルラードは巫女の仕事を行い
合間に戦争孤児達7人が住む家へと通い、パンやミルクを届けていた

今日も巫女の仕事は大忙しだ
死の概念を取り戻してからというもの、地の神殿を訪れる者は絶えない
世界を救った幼い地の巫女、それだけでも客を寄せるには十分の効果があった
更に、マルロは今までの暗く近寄りがたい雰囲気は無くなり
今では笑顔を振りまき、率先して巡礼者達に話しかけるほどだ
そんな彼女の元へとご利益を求める人が集うのは至極当然の事だろう

「地の神の加護があらんことを」

特に魔法的な効果がある訳ではない祈りの言葉を唱える
それだけで巡礼者達は救われるのだ
マルロが巡礼者達の頭に手を置き、1人1人に祈りを捧げる
それが終わった巡礼者は喜びのあまり興奮気味になるほどだ
今まではこんな祈りの意味など無いと思っていた
だが、自分がそうすれば喜ぶ人がいる
それはマルロにとってやり甲斐のある仕事へと変わっていた

「マルロ様、お食事のご用意ができました」

「はい、今行きます」

マルロが司祭の方へと歩を進めようとすると、突如脳内に声が響く

《・・・・巫女よ・・・お聞きなさい・・・》

ビクッと立ち止まるマルロに怪訝そうな顔を向ける司祭達
彼女達にはマルロには聞こえた声、神の声が聞こえないのだ

「はい、我が神よ」

マルロが膝をつき、手を合わせ目を瞑る
その行動で察したのか、司祭達もマルロに続く

《・・・・災いが迫っています・・・・心しなさい・・・》

「・・・・はい」

災いという言葉にマルロの眉がぴくりと動く
また先のような事が起きるのか、そう思うと心が痛むのだった

《・・・・北を目指しなさい・・・そこで貴女は知るでしょう・・・世界の理を・・・》

「理・・・ですか」

《・・・・貴女の求めるものにも出逢えましょう・・・》

「・・・?」

求めるもの?私が求めるものなんて1つしかない
でもそれは叶わないと知っている、心が壊れそうになるけど受け入れたのだ

《・・・災いはすぐそこまで迫っています・・・・急ぎなさい・・・》

「はい、御心のままに」

マルロが目を開き、ゆっくりと立ち上がる
服の擦れる音に気づき、司祭達も目を開いた
そして、マルロの元へと駆け寄る

「マルロ様、まさか神託が」

「はい、地の神からお言葉を頂きました」

おお、という歓声が上がる
神託が下った事を知らせるため、司祭達が慌ただしく駆け回る

この日、マルロの平穏な日々は終わりを告げた
戦争孤児達の世話を地の司祭達に任せるが、後ろ髪を引かれる思いだった
しかし、神からの言葉を無視する事など出来ない
そして、神が言った気になる一言「貴女の求めるものにも出逢えましょう」
これがマルロを突き動かしていた、北へ北へと・・・

同日、イエル・エフ・リートの元へも火の神より神託が下る
内容はマルロが聞いたものとほとんど同じものだった
その日の夕暮れに二人のもとにジーン・ヴァルターからの手紙が届く
どうやら彼女達にも神託が下ったようだ
シャチやヒミカとも合流している事も書かれており
自分達も合流すべきだと二人は判断した

翌日の早朝には彼女達は出立する
カナランの大司教エレアザル・オシニスが二人の巫女の出発を祝い
神殿騎士団の護衛が8名ほど付き、ネネモリへと向かう
様々な思いを胸に・・・







ラシュフォード家、ミラの私室・・・暖かな昼下がりの事である
ミラが午後のティータイムを楽しんでいると、突如脳内に声が響く

《・・・・人よ・・・・世界を愛する人の子よ・・・》

突然の事に紅茶をこぼしそうになるが
ミラは辺りをキョロキョロと見渡してから状況を理解する
この声は・・・生の神?

《・・・・災いが迫っています・・・準備をなさい・・・》

『神よ!わたくしは何をすればよろしいのですか!』

誰もいない天井へとミラは叫ぶ

《・・・北へ向かいなさい・・・・新たな大地・・・そこで試練を受けなさい・・・》

「試練・・・?」

《・・・・神の器たる力を手に入れ・・・・神の勇者を支えなさい・・・》

「はい、それがわたくしの使命ならば」

ミラは片膝をついて目を閉じ頭を垂れる
そして神の声は聞こえなくなった

神の勇者、それが誰の事なのかは分からなかった
しかし、ミラには確信にも近いものがある、それがエイン・トール・ヴァンレンであると

彼女は侍女達に大急ぎで旅の準備をさせると
ミラの母親、サイネ・ウル・ラシュフォードと出会す
会いたくない相手に出会ってしまった、こんなタイミングで・・・
ミラが歯をギリっと噛み締めると、ミラの母、サイネが顎を少し上げて言う

「ミラさん、またお出かけですの?」

「はい、お母様・・・先程、生の神から神託が」

『黙らっしゃい!!』

「・・・・・」

こうなった母は誰にも止められない、何を言っても聞かないのだ
ミラは黙って母の言葉を右から左へと聞き流す

「だいたい、いい歳にもなってフラフラフラフラと
 貴女のお姉様達をご覧なさい!貴女の歳にはとっくに名家へとお嫁に行きましたのよ!」

「・・・・・申し訳ありません、お母様」

「剣だなんだと許してきましたが、もう許しません!」

「・・・・・申し訳ありません、お母様」

「縁談を決めてきましたわ!断る事は許さなくてよ!」

「・・・・・申し訳あり・・・・え!?」

「今夜、先方が我が家へ来ます、そんな格好をしてないで準備なさい」

「待ってくださいお母様!わたくしはそんな話は」

『黙らっしゃい!!』

「・・・・・」

「いいから準備なさい、失礼のないように!」

「・・・・はい、お母様」

ミラはトボトボと自室へと戻り、侍女達が華やかなドレスを用意する
ミラは両手を広げて立っているだけでドレスが着せられてゆく
まるで小さな女の子が遊ぶ人形のようだ

今の自分を客観的に見て、ミラは自身を嘲笑う
情けない、まるで成長していないのですわね
尊者だ何だと持て囃され、世間では英雄と謳われ、いい気になっていたのかもしれない
結局ラシュフォードという家には逆らえない、そんな現実を目の当たりにしていた


夜になり、1台の大きな馬車がラシュフォード邸の前に止まる
そこから降りて来たのは名家クシュタード家の長男、ウェイル・レ・クシュタードだ
ドラスリア貴族の中でも10本の指には入る名家であるクシュタード家の次期当主
美形な顔立ち、ツヤのある綺麗な金髪、透き通るような青い瞳
すらっと高い身長、そして宮廷剣術大会優勝者という経歴も持っている
非の打ち所のない男とも言える
そんな彼との縁談は本来であれば断る理由などないに等しい

しかし、ミラは全くその気にはなれなかった

別にウェイル卿を嫌いという訳ではない
女性であるならば多少なりとも惹かれるであろう容姿や権力を持っている
それに彼には浮ついた噂も一切ない、完璧とも言える男だ
だが、ミラはこの男に興味が無かったのだ

ウェイル卿がラシュフォード邸を訪れ、食事会が開かれる
15メートルはあろう長いテーブルがあり
その隅の方でミラとウェイル卿が向かい合って座っていた
食卓には銀の食器が並び、燭台は金で出来ている
シルクのような滑らかなテーブルクロスがかけられ
背もたれの高いふかふかな椅子が並んでいる

「噂以上にお美しい」

とても優雅な喋り方をする人、それが第一印象だ
好印象と言えるだろう、しかしミラは早くこのくだらない食事を終えたかった

「ありがとう御座います」

冷めた態度で返事をして、相手を怒らせ終わらせようとする
しかし、この男には全く効いていなかった
ウェイル卿は微笑み、その甘いマスクでミラを見つめる

「何か」

ミラが冷たい言い方で言うと、ウェイル卿は小さく笑った

「ははは、これは失礼、美しすぎて見とれていた」

「・・・・・」

手馴れている、ミラはそう感じた
すると、ウェイル卿が突然話題を切り替える

「単刀直入に言います」

「はい?」

「私と結婚していただきたい」

「お断り致します」

即答だった

「理由をお聞かせいただいても?」

「貴方を尊敬できません、それだけです」

これはミラの本心だ

「ははは、これはこれは、ますます気に入りました」

ウェイル卿は結婚を断られたというのに楽しそうに笑っている
そして、急に真面目な顔になり、彼は言う

「ミラさん、もしや心に決めた方でも?」

「いえ、おりませんわ」

「そうですか、では私にもまだチャンスはあると」

「それはどうでしょう?多分無いと思いますわよ」

「ではもう1つだけ聞かせていただきたい」

「はい」

「貴女の尊敬する人はいますか?」

「・・・・・・はい」

少し悩んだが、一人の男の顔が浮かんだので「はい」と答えてしまった

「それは誰だか教えてもらえますか?」

「・・・・」

「私の予想が当たっているなら頷くだけで結構です」

「・・・・」

「それは、エイン・トール・ヴァンレン卿ではないですか?」

ミラはコクと1度頷く

「なるほど、やはりそうでしたか」

「何故そう思ったのですか?」

ミラは不思議だった、この男は何故それが分かったのか

「単なる勘ですよ、貴女達は世界を救った英雄
 命を賭けた苦しくも長い旅を共にした仲間です」

「はい」

「そこで恋愛感情が生まれても何ら不思議ではない」

「はい?」

この男は何を言ってるのかしら
恋愛感情?わたくしがエインに?有り得ない
彼の事は尊敬こそしているが、色恋どうこうというのは一切考えてもいなかった

「では、どうでしょう」

「・・・・」

「私がヴァンレン卿と勝負をして勝ったら結婚していただくというのは」

「勝負・・・?」

「はい、こう見えても私は剣には自信がありまして・・・・っと、彼は腕を無くしたのでしたね」

この男、知ってて言ったな
ミラはウェイル卿という人物の評価を大きく下げる

「これは失敬失敬、ははは」

「いえ、失礼なんて事はありませんわ」

「はて?」

「いいですわ、その話乗りましたわ」

「これは異なことを、腕の無い者と戦えとおっしゃいますか」

「はい」

「それはあまりにもヴァンレン卿が不憫ではありませんか」

「ふふ、そうかしら?エインなら必ず勝つとわたくしは確信していますわ」

「ほぉ・・・・ならばミラさんを賭けた決闘ですね」

「そうなりますわね」

「約束、お忘れなきよう」

「はい」

「では後日、御一緒にヴァンレン卿のもとへと参りましょう」

「はい、お待ちしております」

こうして食事会は終わる
ミラはエインを巻き込んだ事に少し胸を痛めるが
今はそれしか彼等のもとへ行く方法が無いのだ
ミラの頭の中には、エインの敗北というものは1ミリも存在していなかった

翌日、ウェイル卿とミラの母サイネと共にエインのいるネネモリへと向かう
サイネはミラの言う男、エイン・トール・ヴァンレン卿を見定めるため同行している
3人は馬車に乗り、4日後にはネネモリの首都イオマンテへと到着する

馬車が止まり、サイネが馬車を降りると
とても綺麗とは言えない小さな家が2つ並んでいる
こんな場所に住んでいるというの?貴族が?サイネには信じられなかった
すると、片方の家から女の子が出てくる、リリムだ

「娘、ここにヴァンレン卿がいると聞いてきたのだけど」

「え?はい、いますよ」

口の聞き方というものを知らない田舎娘
それがサイネのリリムへの第一印象だ

「こんにちは、死の巫女リリム・ケルトさん」

サイネの後ろからミラが深いお辞儀をする

「なっ!この娘が死の巫女!?・・・あの黒い死神・・・」

サイネは田舎娘の正体を知り、2歩後ずさる
先の戦争で、この死の巫女が放った究極魔法により
ドラスリアの騎士団1000人以上が一瞬で命を奪われたのだ
その時についた異名、それが黒い死神リリム
彼女は国内外で化け物と恐れられていた

「こ、これは巫女様、失礼しました」

サイネが頭を下げる
ドラスリア1の貴族とは言え、社会的には巫女の方が立場は上なのだ
巫女とは神の使い、それは絶対的な存在である
そして、目の前にいるのは神の中でも最強と言われる死の神の巫女
機嫌を損ねたら殺されかねない、そう思い、悔しいが頭を下げている

「ああっ!いいですよ!頭を上げてください」

あわあわと慌てる彼女は黒い死神というイメージとは全く異なっていた

「ところでミラさん、こちらの方達は?」

ミラの前に立つサイネと、ミラの後ろに立つウェイルを見てリリムが言う
リリムと目の合ったウェイルはスススっと前へと出て、頭を下げる

「死の巫女様、お初にお目にかかります、ウェイル・レ・クシュタードと申します」

彼はリリムの手を取り、その甲にキスをする

「巫女様はお美しいのですね、驚きました」

「わわっ!ど、どうもです!」

リリムは慌てて手を離し、ペコペコと頭を下げる
そんなやり取りをしていると、エインが家から出て来た

「ミラ様、それにサイネ様も・・・・ウェイル卿まで・・・何事ですか?」

歩いて来るエインに目を向けたウェイル卿は目を疑う
腕がある・・・だと!何だあの銀色の腕は!
その疑問には意外にもサイネが答えを教えてくれた

「ミラさん・・・まさか、オリハルコンを彼にあげたのですか?」

「はい、お母様、彼にこそ相応しい物ですわ」

自信たっぷりにミラは言う
サイネはプルプルと震えているが、それ以上何も言わなかった

オリハルコンだと・・・あの腕がそうなのか?
見た感じ、普通の腕のように動いているようだが・・・どうなってやがるんだ
くそっ!俺の計画が狂うじゃないか!何のためにサイネ婦人まで連れて来たと思ってるんだ!
いや、待て、勝てばいいんだ、勝てば
奴が腕を無くしたのは間違いない、すると・・まだあの腕に慣れていないはず
疾雷だか何だか知らないが、この俺が負けるわけないじゃないか!

「ミラ様、何かあったのですか?」

エインがミラへと近寄ると、それを遮るようにウェイル卿が立ち塞がる

「待っていただきたい、ヴァンレン卿」

「はい」

「貴公に決闘を申し込みたいのだ」

「は?」

「私はミラさんと結婚をしたくてね
 だが、彼女は尊敬する者としか結婚しないと言うではないか」

「はぁ・・・」

「そして、彼女が唯一尊敬する人物、それが君なのだよ、ヴァンレン卿」

「え?そうなのですか?ミラ様」

エインは意外だった、ミラにそんな評価をされているとは思ってもいなかったからだ

「・・・・・そうですわよ」

ミラは耳まで真っ赤にして横を向いて言う

『そこで君と決闘をしたい、ミラさんを賭けて!』

ウェイル卿が言い切ると、一瞬辺りには静寂が訪れる
その静寂はリリムによって破られた

『えええええええええええええぇっ!?』

リリムの大声が森に響き、鳥が木から飛び立っていく

「ま、ま、待ってください、それどういう、ああいう事ですか
 えっと、なんだろ、ミラさんがエインと?あれ?何、結婚するって事ですか!?」

激しく動揺したリリムはもはや何を言っているのか分からない状態だ

「巫女様、待っていただきたい、それはこの決闘に私が負けたらであって・・・」

『エインが勝ったら結婚しちゃうんですか!?!』

「ふふ、彼が望むならそうなるのかしらね?」

ミラが悪戯っぽくリリムに言う
もちろんミラにその気はない、これはリリムをからかう冗談だ

『えええええええええええええぇっ!!?』

しかし、リリムにとっては冗談ではない
ただでさえミラには勝てる要素が思い浮かばず、激しく警戒しているのだ
彼のためにと家の宝であるオリハルコンすら差し出す
そこには恋愛感情は無いとミラは言っていたが
リリムはいつそうなってもおかしくはないと思っている
もし、仮にミラがその気になったら、自分に勝てる要素はあるのだろうか・・・
その不安は彼女が義手を持って来た日から強まっていたのだ

「待っていただきたい、自分はその話は初耳なんですが」

自分が蚊帳の外で話が進んでいる事に戸惑い、エインが間に入る

「あら、ごめんなさいね、そういう事だからウェイル卿と決闘してくれないかしら?」

「決闘は構いませんが、結婚はしませんよ」

「あら、そう?残念ですわ」

全然残念じゃなさそうにミラは悪戯っぽく言う

「俺はリリムを守ると決めているので」

「ふふ、貴方はそれでいいですわ・・・・ですってよ?リリムさん」

先ほどまで放心していたリリムは今度は顔を真っ赤にして俯いている
本当にこの子は見ていて飽きないわね

「ヴァンレン卿、決闘の準備を頼む」

「はい」

エインは家へと戻り、武器を手に戻って来る
そして、ウェイル卿とエインは10メートルほど離れて構え合う

「ミラさん、ウェイル卿が勝った時には約束は守りなさいね」

「はい、お母様」

「ヴァンレン卿が勝った場合はどうするのです」

「それは・・・エイン・・・・ヴァンレン卿にお任せします」

「分かりました、この決闘、しかと見届けなさい」

「はい、お母様」





3人が見守る中、エインとウェイル卿の決闘が始まろうとしていた・・・・





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