2016_03
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(Sun)19:56

3章 第4話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第4話 【聖騎士】

いやー、いいキャラになってきたかなー?
楽しくなってきましたなー。

では、続きを読むからどうぞー。








【聖騎士】







アムリタ聖騎士団兵舎

夜深けだと言うのに中庭の方が騒がしい、その音で彼は夢の世界から帰ってくる
彼の名はオエングス・オディナ、アムリタ聖騎士団"青の大鷲"の一人である
剣の実力ならば青の大鷲の中で彼の右に出るものはいない
そんな彼が団長になっていないのは、彼が尊敬する男が団長の座に就いているからだ

団長の名はディムナ・マックール、三代前のアムリタ王の孫娘の子である
家柄も確かだが、ディムナは聖騎士団員からの人望が厚い
彼は家柄や身分を気にする事なく、団員の命を最優先に考える男だ
そして、彼の状況判断能力は並外れており、幾度も死線を越えてきている
ディムナを含めてたった42人しかいない聖騎士団"青の大鷲"だが
彼の指揮の元、青の大鷲は誰一人犠牲を出す事もなく連戦連勝を続けていた

オエングスはそんなディムナを尊敬している
しかし、尊敬している理由はそれだけではない

オエングスという男は元は奴隷の子だった
幼い頃からその美しい容姿で、買い手に困らぬほど彼を求める者がいた
彼が6歳の時、オエングスの所有権を持っていた奴隷商人が別の奴隷商人に殺される
その後、その商人も襲われ、彼をめぐって殺し合いが続いた
彼が10歳になる頃・・・・ついに聖騎士団が動いた
1人の少年をめぐって何人もの犠牲者が出た事により、国が黙っていられなくなったのだ
国から命令を受けた聖騎士団、それがディムナ率いる青の大鷲である
オエングスはディムナに助けられ、彼の元に引き取られた
そして、彼から剣を学び、知識を学び、18になった時に聖騎士になった
彼にとってディムナという人物は父とも呼べる人物なのだ

オエングスは今年で27になる
彼は数々の武功を挙げ、勲章という勲章は総ナメにしている
アムリタだけに留まらず、近隣の国でも彼の名は知れ渡り
青の狼、100年の一人の天才、神が使した天使、など数々の異名がある
大げさなようにも感じるだろうが、実はそんな事はない
実際に彼は神の使い、使者なのだ
1年ほど前に神から神託を受け、彼は一人で邪悪な魔獣を倒している
魔獣の名はカリュドーン、巨大な猪の姿をした魔獣だ
その魔猪の体内から出てきた神剣を手に入れ、彼は本当の意味での神の使者となった

神剣2本である
1つはモラルタ(大なる激情)、そしてもう1つがベガルタ(小なる激情)である
モラルタは赤い刀身のロングソードだ
ベガルタは黄色い刀身のショートソードである
彼は普段はモラルタを使い、希にベガルタを使う事もあった

オエングスが騒がしい中庭を窓から覗き込み、彼は目にする
顔が隠れるフードを被った3人の使者の姿を
彼等のローブにはアムリタの紋章である、ケイトウという赤い花の紋章が描かれている

「国からの使者か・・・こんな時間になんだ」

オエングスは着替えてから1階にある広間へと降りる
そこには先ほどの使者3名と団長であるディムナ・マックールの姿があった

「団長、何かあったのですか」

「あぁ、オエングスか・・・それがな・・・」

ディムナが彼に説明をしようとすると、使者の一人が口を開く

「我々はこれで・・・」

「相分かった」

一人の使者の口元が醜く歪み、そして3人の使者は馬で去って行った
その後ろ姿を見送った後、ディムナが口を開く

「王命が下った」

「こんな時間に王命ですか」

「あぁ、例の聖域へ向かわせた5000の軍が全滅したらしい」

「神々の聖域・・・だから行くなと言ったのに・・・くそっ」

オエングスは先の進軍に反対だったのだ
しかし、大臣を始めとする一派がそれを押し通した
最終的には王が決めた事なのだ、彼等に反対する権利など無いに等しいのだが
神の使者であるオエングスにとっては聖域を死者達で汚す事を嫌悪していた

「オエングスよ、我等は魔の森の警護にあたる」

魔の森とはラルアースとの堺にある大森林の事である
誰も踏み込んではいけない領域、一度踏み込めば二度と帰れぬ森
そのため、アムリタの人々は大森林を魔の森と呼んでいた

「聖域の入口を、ですか」

「あぁ、あちらから何か出て来ないとも限らんからな」

「・・・仮に誰かが出てきたら、それは神の使者である可能性が高いと思います」

「それは神から言われたのか?」

「いえ、ただの勘です」

「そうか・・・お前が言うならそうなのかもしれないな・・・」

ディムナは顎に手を当て考える、そして1つの答えを導き出した

「王命では何も通すなとの事だが」

「はい」

「この国には決闘決議というものがあるのを知っているか?」

「はい、存じております」

「お前が決闘して敗れたとなれば、誰も反対できる者などおらん」

「と言いますと?」

「なに、簡単な事だ、お前が剣を交え、相手を見極めれば良い
 お前の言う神の使者だと感じたのならば剣を引けばいい
 もし、そうでないと判断したのであれば切り捨てればいい、それだけだ」

「はい」

オエングスは深く頭を下げる
ディムナは彼の肩に手を置き、表を上げさせた

「信じているぞ、オーグス」

「はい、父上」

聖騎士団"青の大鷲"は深夜に身支度を済ませ
日の出の前に魔の森の入口へと向かった
昼頃に森の中へと入って行き、42人を広範囲に配置した
彼等が見張りについてから2日目の事である・・・森の中からそれは現れた
人間と亜人の集団である、男が14人、女が10人
中には子供もおり、紋章が違う騎士団までいる、まるで統一性の無い集団だった

「では、行って来ます」

「任せたぞ、オエングスよ」

「はっ!」

オエングスがモラルタを抜刀し、赤い刀身が怪しく煌く
上部が磨り減ったような独特な形の大盾を構え、彼は出来る限りの大声で言う

『我はアムリタの聖騎士が一人、名はオエングス・オディナ!』

オェングス

人間と亜人の集団が歩みを止め、注目が集まるのを感じる
その中の1人、漆黒の鎧を着た男と目が合った
その瞬間オエングスは感じ取る、奴は強い、と
奴と剣を交えれば分かるかもしれない、もし本当に神の使者であるならば・・・

『ここより先は我が祖国、聖アムリタの地!通りたくば掟に従い、決闘をせよ!』






エイン達一行は話し合いをしている
内容は簡単だ、誰が代表としてオエングスと名乗る人物と決闘するかだ
先ほどの返答で、争う意思は無いと宣言したが、それを受け入れてはもらえなかった
となれば戦う他ないという訳だ

真っ先にシャチが決闘を受けると名乗り出たがそれは全員一致で却下された
理由は1つ、相手が間違いなく死ぬからだ
殺してしまっては話し合いなど出来ようはずもない
ヒミカにも反対された事により、シャチはムゥと唸って黙ってしまった

ドラスリア王国騎士団であるアシュも名乗り出るが、それはバテンが止めた
バテンはオエングスを見て判断したのだ、アシュでは絶対に勝てない、と

そして、満場一致で一人が選ばれる
ハーフブリードのリーダーにして不動の異名を持つ男、シルトだ
最初は渋っていたが、オエングスを見た時から高鳴る胸の鼓動に後押しされ
彼はこの役目を引き受けた

シルトもオエングスを見た時から奴は強いと確信していた
そして、戦ってみたいとも思っていた
しかし、彼の持つ剣、赤い刀身のロングソードがどうにも気になる
剣が揺らめく度に赤い光が残り、剣の軌跡を辿っている
あれはヤバい、それだけは分かっていた

「アーティファクトだろうな・・・」

「多分そうだね、気をつけて」

ジーンが遠目でオエングスの剣を見ている
流石にこの距離では魔力の流れまでは掴めないが
溢れ出る魔力量が尋常ではないのはハッキリと分かっていた

「シルトさん、気をつけて・・・」

「シルさん、あんなイケメンやっつけちゃえ!」

「やっちゃえー!」

「ほいほい、やってみますよーっと」

シルトはゆるい雰囲気でふらふらと前に出る
だが、彼の心臓ばバクバクと脈打っていた
僅かにだが手が震える、これは武者震いというやつだろうか
近づけば近づくほど、奴の持つ剣の赤い光が恐怖の対象へと変わって行く
こりゃまずったかな・・・そんな事を考えながらオエングスの前へと立った

「貴公が来ると思っていた」

オエングスの声はよく通る綺麗で落ち着きのある声をしていた
見た目だけじゃなく声までいいのか、これだから二枚目は・・・

「ちょっと聞いていいっすか」

「なんだ」

「この決闘、命のやり取りまでするの?」

「ふっ・・・決闘だぞ?それは致し方あるまい」

「さいですか・・・はぁ」

シルトが目を瞑り大きなため息を洩らす
そして、目を見開いた瞬間から彼の表情から緩さというものが消えた

「それが本当のお前か・・・楽しめそうだ」

「そりゃどうも」

シルトがミスリルブロードソードを抜刀し、常闇の盾を構える
すると、オエングスの表情が大きく揺らいだ

「待て、お前その紋章・・・メンフィスの者なのか?」

「メンフィス?何それ」

「いや、違うならいい・・・・ふふ、お前に興味が湧いてきたぞ」

「あ、僕はそっちの趣味はないんで、ごめんなさいね」

『そういう意味ではないっ!!』

オエングスが大声を上げ、荒い息で怒りを現わにしている

「ですよねー」

その後、少しの間を置き、彼等の間に沈黙が流れる
二人は構えたまま一切動かなくなり、既に10分は経過していた

「動きませんね・・・」

リリムが心配そうにシルトを見ていた
その横でエインが二人の決闘を逃すまいと、瞬きすら惜しむように凝視している

「動けないんだろう、現に彼等の構えは一寸の隙も無い」

「そうなのですか・・・」

「流石シルト殿だ、また腕を上げたと見える」

エインが少年のように目をキラキラとさせている
その横顔を見てリリムは少しだけ笑い、再びシルトへと目を向ける
エインとリリムの横でドラスリア騎士団の3名が小声で話していた

「あれが不動ちゃんね・・・本当に動かないけどぉ~」

あはは、とプララーが笑っている
しかし、その顔は笑ってなどいなかった
全く動かないように見えて、二人はジリジリと動いていたのだ
その動きを彼は見逃していなかった
シルトが足を1ミリ動かせば、オエングスは瞬時に1ミリ引く
オエングスが剣を1ミリ動かせば、シルトが盾を1ミリ動かす
そんなやり取りが10分以上続いていた
なんて神経の使う決闘・・・私には到底無理な芸当だわ
強さの次元が違うっていうのはこういうのなのね・・・羨ましいわぁ
プララーは二人の男の睨み合いを見て、身悶えている
あっちの彼も可愛いけど、やっぱエインちゃんよねぇ
彼の思考はどんどん道を逸れていた・・・

「チッ・・・」

アシュは舌打ちをする
彼が立候補したのをバテンに止められたからだ
そして、代わりに立っている男、シルトを睨んでいる
確かに強い、この決闘は自分では何も出来ず負けていたかもしれない
それが分かるからこそ、アシュは悔しかった

「ったく、化けもんか、こいつ等は」

その愚痴を聞いたバテンが口を開いた

「よく見ておけ、これほどの戦い、そうは見れんぞ」

「チッ・・・わーったよ」

シルトの後方側にはハーフブリード達がいる
サラとシャルルは手を繋ぎ、シルトの背中を見ていた
ジーンは相手であるオエングスの剣をその材質、構造、魔力を逃すまいと見ている
ラピは不安からか、ジーンの服の裾にしがみつき、唇を噛み締めていた

「大丈夫・・・シルさんなら勝ってくれる・・・」

「うん、シルトさんに勝てる剣士なんていないよ」

「だよね!大丈夫だよね!」

「あの剣だけは気を付けないと危ないかも」

「そうなの?魔力ヤバいの?」

「うん、さっきから見てるけど、あの剣から出てる魔力量は魔道具の比じゃないよ」

「ひぇー」

ラピがあわあわとし始めると、肩に乗るウェールズがギャアと吠える
ウェールズは先ほどからずっとオエングスの剣を凝視していた
まるで親でも殺されたかのような眼差しで・・・

「ジーン、あの剣ってアーティファクト・・・だよね?」

「多分・・・もしくはそれ以上か・・・サタナキア達が使ってた魔器ってのに近いかも」

「え!?悪魔なの?」

「いや、違うよ・・・そうじゃなくて、魔力量が近いってだけ」

「なるほど」

シャルルの手を握るサラの手に力が込められる
今の話を聞いて不安になったようだ
シャルルも握り返し、サラを見て無言で頷く
サラもシャルルを見て頷き、シルトの背中へと目を移した


そして、ついに2人が動き出す


先に動いたのはオエングスだ
彼が踏み出し、右手のモラルタを上段へと構える
シルトは赤い軌跡を残しながら振り下ろされた一撃を常闇の盾で防ぎ
彼の力を右へと受け流した
だが、彼の身体はそこで止まり、即座に上部の磨り減った大盾を構える
上手い、体制を崩させてはくれないか・・・シルトが左手のブロードソードを横から払い
それはオエングスの大盾によって阻まれる
ここまでは読み通りだ、シルトは今だ!と常闇の盾での突進を食らわした
もちろん、当たる瞬間に城壁を発動し、衝撃を倍増させている

「ぐっ!」

これにはオエングスも堪らず一歩後退してしまう
そこへシルトの追撃が放たれる、ブロードソードでの下段からの斬り上げだ
オエングスはそれをモラルタで受け、剣と剣がぶつかり合い、火花が散った

キィィィンッ!

それからというもの、二人の止まらぬ攻防が始まる
シルトが盾で防ぎ、カウンターにブロードソードを放つ
それをオエングスは盾で防ぎ、カウンターにモラルタを放つ
目にも止まらぬ攻防が続き、金属と金属のぶつかり合う音だけが森に響いていた

キィンッ!キィィンッ!・・・・ガッ!キィィンッ!・・・キンッ!キンッ!

二人ともフルプレートだというのに恐ろしい速さの剣撃の嵐だった
そして、それを完璧に防ぎ合っている

「これが本気のシルトさん・・・すごい・・・」

サラは目の前で起こっている次元の違う戦いに魅入られていた

「だめだー、私じゃ目で追えないー」

ラピがうわーっと頭を抱えている

「ラピ、安心して、私にも見えないから」

ジーンは自分の肩を抱き、震えを押さえ込む
自分が求めた最高の盾、シルトという人物は想像以上だった
この数年間近くで見てきたが、目の前で行われている決闘は今まで以上だ
サタナキアやアモン戦での彼の戦いぶりも人間離れしていたが
相手が人間だとその強さに実感が湧いてくる
しかし、それに付いて来ているあの男、オエングスも人間離れしている
外の世界にはこんな強者がたくさんいるのかな
ジーンはこれから行くであろう世界に対し、警戒を強めるのだった

「ははっ・・・なんだこりゃ、ふざけんな」

アシュから乾いた笑いがこぼれる
シルトとオエングスの決闘は先ほどまでの静から動へと変わった
構えだけで次元が違うのが分かるほどだったが
いざ戦いを見てハッキリと分かった、次元が違うなんてもんじゃない
アイツ等は人間なのか?そう疑いたくなるほどの違いを見せつけられていた

「本当に凄いわね・・・噂以上ね」

プララーからもふざけた雰囲気は消えている

「これは俺でも足元にも及ばんな・・・」

バテンはドラスリア騎士団では最強と言ってもいい
だが、そのバテンですらこの決闘のレベルには手が届かなかった

「凄い・・・目で追うのがやっとだ」

エインは興奮のあまり息遣いが荒くなってきている
彼の銀の腕は無意識に剣を振るような動きをしていた

「エイン、腕が」

「っ!すまない」

リリムに言われて気づき、エインは自分の銀の腕を左手で掴む
こんな戦いを見せられては身体が疼いてしょうがないのだ
何とか律する事ができ、エインは再び彼等の激闘へと目を向ける

キィンッ!・・・キンッ!ギギギギ・・・・キンッ!

つばぜり合いを終え、二人の距離が僅かに開いた
両者ともフゥと大きな息を吐き、お互いの目を見て同時に口角を上げる

「これほどとは・・・貴公は素晴らしい」

「そりゃどーも、あんたも強いな」

二人が笑い合う、それは奇妙な光景にも見えただろう
この二人は今現在殺し合っているのだから
両者とも、この殺し合いという試合を楽しんでいた

「では、そろそろ私も本気を出させてもらおう」

オエングスは心底楽しんでいた
この男、シルトは間違いなく神の使者だろう、しかし
既に頭から剣を引くという選択肢は消え、どこまで本気を出せるのかワクワクしていた
オエングスはモラルタを胸につけるように構え、目を閉じる



『神器解放!』



彼がそう言うと、モラルタから赤い光が溢れ出る

「モラルタよ、その力を示せ!」

剣から風が発生しているかのように彼の髪やマントがバサバサとなびき
赤い光が森を照らし、一瞬赤い世界へと変わるが
瞬時にその光はモラルタへと戻って行き、赤い刀身が更に深い赤へと変わって行く
それを見たジーンが叫んだ

『シルさん!その剣はダメ!』

ジーンの眼鏡には魔力を見る能力を上げる効果がある
元々彼女は魔力の流れを見る事に長けているが、眼鏡の効果でよりハッキリと見えるのだ
そのジーンが見た光景、それは赤い竜の形をした魔力だった
オエングスの背後に4メートル近い赤い竜の顔が浮かび上がり
その眼光はシルトの心臓を捉えていた

辺りの空気は一変する
ひどくまとわりつくような重い空気に
巫女達はその重さが魔力なのが分かっていた

「なんていう膨大な魔力・・・私達巫女よりも上かもしれない・・・」

膨大な魔力の波にリリムの顔が歪む
近くの木々からは生物達が一斉に逃げ出して行った
ひどく怯えるリリムを初めて見たエインは、オエングスへと目を戻す
自分には魔力を感じる事はあまりできないが、あの剣から感じる威圧感のようなものは分かる
あれには近づいてはいけない、本能がそう教えてくれるような気がしていた

「なに・・・これ・・・・」

マルロは腰が抜け、ぺたんと地面に座り込む
慌ててイエルが彼女の肩を抱き、オエングスの剣を睨みつけた
イエルには見えていないがマルロには見えていた、赤い竜の魔力が
その竜の怒りとも憎しみとも言える激情が、彼女に押し寄せていた

「おいおいおい・・・なんだそれ、汚ねぇ」

シルトが明らかに危険な存在となった剣を見て愚痴を吐く
それにはオエングスは笑って返した

「貴公には本気を出してみたくなったのだ、悪く思わないでくれ」

こりゃヤバいな、食らえば1発アウトか
サタナキアの波動よりヤバいんじゃないの、これ
後ろは・・・ダメだ、皆がいる・・・・やるしかないか
シルトは覚悟を決め、右手の常闇の盾を持つ手に力を込める

「死んでくれるなよ」

オエングスがモラルタを上段に構え、一気に駆け出した
何が死ぬなだ!お前が殺そうとしてんじゃないか!
シルトは心の中で愚痴を吐きながら常闇の盾を上段へと構える

『赤竜の咆哮!コレレーゴ!』

モラルタが通る軌跡の空間が歪む、大気すら斬っているのだ
その瞬間、シルトは心の中で唱える・・・反射、と

バィィンッ!・・・・・キンッ!

一瞬常闇の盾の前に大きな魔法陣が出現し、オエングスの剣が一瞬止まる
その後、彼の剣は常闇の盾に当たり、金属音が響いた
そして、一瞬遅れてオエングスの後方の木々の上部が跡形もなく消し飛ぶ

ゴッ!

そんな音が響くと同時に、木々の上部が消滅し、森に光が入った

「な・・・・なに・・・」

オエングスのモラルタを持つ右手がぷるぷると震えている
少しして、木々が消えた先、空にある雲に大穴が空いた

シルトが赤い光が弱まったモラルタを常闇の盾で弾き
右手のブロードソードで突きを放つ

「くらえっ!」

それを間一髪のところで大盾で防ぎ、ブロードソードは逸らされていく
チッ、シルトが舌打ちをして、そのまま常闇の盾で体当たりをした

ガッ!!

盾と盾がぶつかり合い、二人が押し合う形になる

「貴公!今何をした!!」

「教えないね!自分で考えな!」

「・・・ならばっ!!」

ギギギギッ・・・

オエングスが大盾を下へとずらしていき、シルトとオエングスの目が合う
すると、オエングスの盾の上部から滑り込むようにモラルタが現れた
それは盾の上部を削るように、無理矢理差し込むようにしての突きだ

「っ!」

シルトがそれを頭を逸らす事でかわすが、口の横から頬にかけてかすり傷ができる
奴の盾の上部が削れてたのはこのせいかっ!なんて奴だ!
直ぐ様シルトは常闇の盾で彼の身体を押し、距離を取った

「これも効かぬとは・・・貴公が初めてだ」

「あんためちゃくちゃ強いな」

「それは貴公もであろう」

ふっ、と小さく笑い、オエングスがモラルタを鞘へとしまう

「私の負けだ」

「ん?認めちゃうの?」

「いや、元より貴公の命を奪うつもりはなかったのだ」

嘘こけ、さっき本気で殺そうとしたくせに

「貴公等、神の使者ではないのか」

「ん?・・・神託は受けてるけど」

「やはりそうか!」

オエングスの表情がパッと明るくなる

「はぁ・・・」

よくわからん奴、それがシルトのオエングスに対する感想だ

その後、聖騎士団"青の大鷲"団長であるディムナ・マックールと話し合い
エイン達一行はアムリタへと招待される事となった
しかし、国での行動には制限を付けさせてもらうという約束の上で、だが

先ほどの決闘の話題で持ち切りの聖騎士団達からシルトが色々と質問攻めを受け
逆にオエングスにはドラスリア王国騎士団とカナラン神殿騎士団達が話しかけている
聖騎士団長ディムナと王国騎士団長バテンが話し合い、お互いの現状を確認し合っていた

そして、リリム達が巫女である事を知った彼等は膝をつき、頭を垂れた
彼等の世界では巫女とは神にも等しい存在なのだ
初めて巫女を目にした聖騎士団員は数名涙するほどだった

「オエングスよ、お前の言う通りだったな」

「はい、彼等こそ世界が必要とする神の使者、そして巫女です」

「これから国が荒れるかもしれん、心しておけ」

「はっ!」

こうしてエイン達一行と聖騎士"青の大鷲"は聖アムリタを目指す事となった
シルトとオエングスが決闘した地から3日ほど歩いた場所にあるという首都を目指して
一行は歩を進める事となったが・・・徐々に気温が下がって行き
森を抜ける頃には辺り一面銀世界となっていた

雪というものを目にした事があるラルアースの民はほとんどいない
それが見渡す限り広がっているのだ、まさに新世界に来たという実感が湧いてくる
しかし、そんな感動を感じてない人物達がいる・・・ハーフキャットの二人だ

「寒い・・・無理・・・・死ぬ」

シャルルがガチガチと歯を鳴らし、声も震えている
その横にいるサラもまた同じように震えていた

「こんなに寒いとは思わなかった・・・・ううっ」

「アムリタに着いたらコートでも買おう、多分暖かいの売ってるっしょ」

「うん・・・お願い、耐えられない」

「ラピは平気なの?」

「うん、私は厚着してきたから!ジーンさんも平気なの?」

「うん、魔力で壁作ってるから」

「そんな事できるの!?」

シャルルが食いつく、ジーンの肩を持ちゆさゆさと揺さぶる

「できるけど、難しいよ?」

ジーンは以前にサタナキアの魔法障壁を見て、真似てみたのだ
サタナキアのような強固な壁ではないが、多少の寒さや熱なら防げる障壁は作る事が出来た

「いいから教えて!死んじゃう!!」

「えっと、まず・・・」

ジーンがシャルルにあれこれ教えている
その横で、サラが羨ましそうに見ていた
そんなサラの肩にふわっとマントがかけられる

「使いな」

「え?いいの?」

「うん、僕はこの鎧のおかげで余裕だから」

「ありがとう・・・」

冷えて赤くなっていたサラの顔が更に赤くなっていく
そのマントを大事そうにギュッと掴み、包まれるように歩くのだった

「おお!ちょっと寒くなくなってきた!」

シャルルが中途半端だが魔法障壁を発生させたようだ

「良かったね」

ジーンが微笑み、シャルルがにしっと歯を見せ笑う・・・が、やっぱり寒くて震え出す

「シャルルはだらしないな~、このくらい余裕だよ~」

水の巫女マナ・マクリールはこの寒さの中、比較的薄着だが平然としている

「いや、無理だから・・・ホント無理だから・・・」

「あはは!なっさけないな~」

マナは元気一杯に歩いてく、なんで平気なの?シャルルが不思議に思っているが
ジーンは魔力の流れを見て気づいていた
彼女は自分より強固な魔法障壁を3重に張っている事を
まだジーンですら1枚がやっとなのだ、それを遥かに強いものを3枚も・・・
巫女という存在に、魔力量に、ジーンは少しばかり嫉妬するのだった




その後、彼等がアムリタに着いたのは4日後だった
不慣れな雪道に足を取られ、思ったより進めなかったのだ
そして、エイン達は本当の意味での別世界を知る・・・
アムリタという国はラルアースに存在するどの国とも全く違う国だった

そこで待ち受ける試練、事件、出会い
彼等はまだ何も知らない




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