2016_04
07
(Thu)14:25

3章 第7話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第7話 【裏と表】

遅くなってしまって申し訳ない・・・アムリタ編すっごい悩んでます!
でもやっと方向性が決まったので普段のペースに戻れるといいなー。

では、続きを読むからどうぞー。









【裏と表】






鳥が飛んでいる、自由に大空を駆けていた
時には屋根で休み、時には餌を求めて滑空する
この雪に覆われた大地で餌となる虫はあまり存在していない
だが、この鳥は知っている、どこに餌があるのかを
いつものように滑空し、一直線に餌へと落ちてゆく
それはダヌの路地裏、雪の壁に持たれかかるようにして横たわる男の元へ

男は既に息絶えていた

ゾンビとしての機能も失い、もはや動く事すら叶わない
男の身体には蛆が沸き、肉が腐り落ち、白い骨が見えていた
鳥は男の頭皮がずり落ちた頭蓋骨に乗り、餌となる蛆を啄む

これがダヌという街の現状だ
死者を労働力として使う反面、腐敗が進み、使えなくなった死体は放置される傾向があった
この国の民は比較的裕福だが、それは死者の労働によるものが大きい
その死者が動かなく、使えなくなった時、処理できるほど裕福な者は少なかった

ゾンビ1体の値段、それは埋葬費と大差はない
そのため、使い捨て感覚で死者達は路地裏などに捨てられていた

千鳥足の男が一人、そのダヌの路地裏を歩いていた
本来であれば艶のある綺麗な金髪はボサボサになっている
小汚い、それが相応しい言葉だろう
死体を避けるようにフラフラと歩き、時折壁にもたれ掛かり嘔吐物を地面へと吐き出す
元は高かったであろう服には汚れが目立ち、お世辞にも綺麗とは言えない状態だ
顔立ちは整っているのに、嘔吐物と酒の臭いが入り混じった酷い悪臭を放ち
何日も風呂に入っていなそうな薄汚れた服装もあり、彼に近寄る人物はいなかった

この今にも倒れそうな男の名前は"ルーゼンバーグ・アインシュタット・リ・アムリタ"
アムリタの名を持つこの男の正体は聖アムリタの第二皇子である
双子の兄"レンブラン・ノイシュタット・リ・アムリタ"と
彼等の姉である"マリアンヌ・フュンシュタット・リ・アムリタ"に王位継承権を譲り
彼は毎日飲んだくれ、女を買い、堕落した人生を送っていた

貴族達からは影でバカ皇子と呼ばれ蔑まれている
しかし、彼は民からは好かれており、"ルア"という愛称で呼ばれるほどであった
何故このような人物が民から好かれるのであろうか、それには理由が2つある

1つは羽振りがいい事だ
金に糸目はつけず、毎夜毎夜豪遊の日々を送っている
そして、それは個人で楽しむのではなく、その場にいた者も巻き込むのだ
彼に奢ってもらった者は数知れず、いい金づるとして人気があった

そして、もう1つの理由は・・・

ルアは歪む視界の中で先程通って来た道を見る、死体を避けた辺りだ
ぐるぐる回る世界で見落としてしまっていた、彼にとって大切な事を・・・
両手で自身の頬をパンッと強く叩き、酔を覚ます
だらしなかった顔は引き締まり、綺麗な青い瞳が月の明かりを反射して輝いていた
彼の歩みはしっかりとしたものとなり、真っ直ぐに死体へと向かっている
死体の前で膝をつき、彼は頭を垂れる

「気づくのが遅れてすまない」

ルアは蛆の湧いた死体を平然と背負い、しっかりとした歩みで歩いて行く
汚物のような臭いが鼻を刺激するが、そんな事は一切気にせず彼は歩いていた
腐った肉が服を汚し、蛆が潰れシミを作る
しかし、彼は一切気にしていない、そのために普段から汚い格好をしているのだから

「もう少しだけ辛抱してくれ」

喋るはずのない死体に向かって彼は独り言を呟く
その時、石畳の一部が破損しており、躓いてしまった
危うく死体を落としそうになるが足に力を込めて何とか踏ん張る
踏ん張った時に死体のこめかみに突き刺さるボルトが彼の頬に当たった

「っ・・・こんなもの!」

ルアは片手でボルトを掴み、勢いよく引き抜いた
それを投げ捨て、すぐに背負う死体を両手で落ちないように固定する
再び死体を背負ったまま歩き始めたルアは小さな声で呟く

「・・・・すまない」

その独り言は路地裏に吸い込まれるようにかき消えていった・・・





いつからだろうか、こんな生活をしているのは
おそらくあの日からだ、あの日見た兄の眼・・・あれで僕の生き方は決まった

兄レンブラン・ノイシュタット・リ・アムリタは野心の強い男だ
それは幼少期からそうであり、幼い頃から兄はその片鱗を見せていた

「レノ、もうやめようよ」

「うっさいな、嫌なら帰れよ」

幼い頃、二人で城を抜け出し街へ行こうとした事があった
その時、僕は反対したんだ

「父上に怒られるよ」

「父上がなんだ!これは俺の人生だ!」

僕の静止を振り払い、兄は城壁を登っていく
そんな兄を僕は見上げる事しか出来なかった

「・・・あっ」

壁を登る途中でレノは足を踏み外し落下する
僕は咄嗟に身を挺してレノを受け止めた
激しい痛みが身体中に走るが、レノが無事だった事が嬉しかった

「良かった、怪我はない?」

「・・・・・ちっ」

レノは不機嫌そうに城へと戻って行った
その後ろに金魚の糞のように無言で着いてく事しか僕には出来なかった

その日の午後、兄を受け止めた時に出来たアザが見つかり
父であるアムリタ王ヴァーテンベルグ・ヌルシュタット・リ・アムリタに呼び出される
父王の部屋に行くとレノも呼び出されていた

「遅くなりました、父上」

「よい、そこへ座れ」

「はい」

先に座っていたレノの隣の席へと腰を下ろし、父の顔色を伺う
父はシワも多く、怒っているのかどうかが分かりにくい
表情を読み取ろうとジロジロ見ていると、父はゆっくりとだが口を開いた

「城を抜け出そうとしたらしいな」

「・・・・」

「・・・・はい」

「ルア、怪我はどうだ」

「はい、大丈夫です」

「そうか・・・事の詳細を話せ」

「はい・・・」

僕が正直に全て話すと、レノの表情は見る見るうちに苛立ちが現わになっていった

「そうか、ルアはよくやったな、二人が無事で良かった」

「ありがとうございます」

「・・・・」

「もういい、部屋に戻りなさい」

父王は背中を向ける
僕達兄弟は席を立ち、出口へと向かった
その時、父が言った一言で今後の人生が決まったと言ってもいい

「・・・・王の器はルアかもしれんな」

とても小さな声で僕にはハッキリとは聞こえなかった
だが、その言葉は兄の耳にはしっかりと聞こえ、その表情は鬼のものへと変わり果てた
部屋を出てからというもの、兄は肩を震わせ俯いている

「レノ・・・大丈夫?」

『うるさい!俺に触るな!!』

その時の兄の眼は忘れない、その眼は兄弟に向けるものではなかった
殺意、嫉妬、妬み、それらの感情を隠しもせず真っ直ぐに向けていた
僕はその眼を見た時から生き方を決めた






随分懐かしい夢を見た
幼かったあの頃、僕等はまだ一緒に遊んだりしていた、それが今じゃ・・・・
ルアは鼻で笑い起き上がる
寝ぼけた頭で辺りを見渡すと同じベッドに知らない女が2人いた

「そうか、昨日は・・・・」

ここは宿屋の一室だ
昨晩、ルアは死体を弔い、その足で酒場へ向かった
浴びるように酒を飲み、その店にいた女を二人買い、宿屋で寝たのだ

「おい」

寝ている二人の女性を揺さぶり起こす

「帰ってくれないか」

不機嫌そうに女達は部屋を後にし、静寂の訪れた部屋で1つため息を洩らす
彼は女は買うが行為がしたい訳ではない、寂しさを埋めたいだけなのだ
浴びるように飲む酒も嫌な事を忘れたいからであり、酒が好きという訳ではなかった

「何やってんだかな・・・」

ルアには城にも街にも居場所は無かった
友と呼べる相手はいない、恋人と呼べる相手もいない
家族とは何年会話していないだろうか
自ら望んでこうなったとは言え、その寂しさは彼を押し潰しそうになっていた

パンッ!

両手で顔を強く叩き、ネガティブな思考を頭から追いやり
薄汚れた服を着てルアは部屋を後にする
宿屋の主人に片手を上げ挨拶をし、ダヌの街へと繰り出した

雪がこんこんと降り、昨日作った足跡は消えている
汚れを知らない真っ白な地面を靴で汚し、ルアは路地へと歩を進めた
まだ日は高いが目的地は酒場だ・・・この日課は続けなくてはならない
バカであり続けなくてはならない、自分に王位継承の意思が無い事を知らしめるためにも

道を歩けば死者が目に付く、それがダヌの街だ
ルアにとってはその光景は耐え難いものだった

彼の母親である王妃は8年ほど前に他界している
母はとても綺麗な女性だった
足のつけ根まであろう長い金髪、空のような青い瞳、雪のような白い肌
陽射しのように暖かな心・・・誰もが憧れる女性だった
しかし、母は病に倒れ、日に日にその美しさは失われていく
薬の副作用で髪は抜け、目の下には濃いくまがあり、頬はこけ、肌は荒れていた
衰弱してゆく母を見るのは辛かった

いつしかルアは母の部屋には近寄らず、避けるようになる
彼は侍女が何かを伝えにくる度に母の死の知らせかと恐るようにもなっていた

そして、ついにその日は来る

いつものようにレノと遊んでいると侍女から母の死を知らされる
恐れていた割に、いざその時が来ると少しだけホッとしたような気持ちにもなる
見えない恐怖から解放され、心が停止したのかもしれない
だが、母の遺体を目の当たりにし、彼の止まっていた心は動き出す
ルアは後悔した、何で避けてしまったのか、もっと会いに行けば良かった
辛くても、もう会えないよりはいい・・・彼は心底後悔したのだ
涙が溢れ、手が震え、激しい後悔が彼の胸を切り裂く

久しぶりに見た母はまるで別人のようになっていた
だが、苦痛に歪んでいた表情は穏やかなものとなり
本当に僅かだが以前の美しさが戻った気がした
不謹慎かもしれないが、その死に顔は美しいと思えたのだ

後日、母は丁重に弔われた
大きな葬儀が執り行われ、大勢の国民が涙を流した

そう、死とは悲しいものなのだ
死者は弔われるべきであり
あのように死体を弄ぶような行為は許されていいはずがない
そのため、ルアは死者を使う政策に反対していた
いや、正確には反対はしていない
父や兄の決めている事に反対するなど彼には出来ない
だから彼は人知れず死体を弔っているのだ

「ううっ・・・・今日も寒いな、早く一杯やりたい」

小走りに酒場への道を進むと、珍しい人が目に入る・・・生者だ
街中で生者を見かけるなんて珍しい事もあるもんだと思っていると
その中の二人に見覚えのない耳と尻尾が見える
なんだあれは、半亜人なのか?しかし見た事がない種族だな
ルアが物珍しそうにハーフキャットであるシャルルとサラを見ていると
その視線に気づいた二人がルアを睨む
しまった、ジロジロ見るのは失礼だったかな、ここは退散するとしよう
そそくさと横を通り過ぎようとすると、黒い鎧の男が声をかけてくる

「すみませ~ん、街の人ですか?」

「そうですけど、そちらさんは?」

「あ、旅の者です、道を聞きたいのですけどいいっすかね」

「はいはい、どこをお探しで?」

ルアは会話をしながら目の前の黒い鎧の男を観察する
見た事もない材質の鎧、光すら吸い込まれそうな黒
腰から下げている剣はミスリルか?
後ろにいる女性達の服装もかなり高価な物ばかりだ、名のある武人なのだろうか
だが、武人特有の堅さのようなものがない
少し興味を惹かれる人達だった

「金の換金所を知りたいのですが、ありますかね?」

「はい、ありますよ」

「おお、助かったー!」

黒い鎧の男が後ろにいる女性達に親指を立てて見せている
女性達から歓声が上がり、どうやら喜んでいるようだ
見たところ何の集団なのかさっぱり分からない
半亜人が二人、黒い鎧の男、眼鏡の美人、小さい女の子・・・何か訳ありかな?

「案内しようか?」

「おお!助かります!雪でどこにあるのやら・・・ははは」

笑顔の男は頭を掻いている
あの笑顔に心は無い、これがこの男の処世術なのだろう
当たり障りのないやり取りで上手く立ち回ろうとする人間のやる事だ
ルアは人の顔色を伺って生きてきた
そのため、こういった事を見抜くのは得意だった

「旅の人、名前を伺っても?」

「あ、僕はシルトです、あっちがサラ、シャルル、ジーンさん、ラピ」

「僕はルア、短い間だけどよろしく」

「走っていたようだけど、ルアさんは急ぎの用とかじゃなかったんですか?」

旅の者相手なら少し気分が楽になる、バカを演じなくていいからだ
だがボロを出してしまってはここまでの苦労が水の泡
気を引き締めて彼は道化を演じる

「いや、酒場で一杯やろうと思っててね・・・ほら、寒いだろ?」

身振り手振りをしながら彼は語る

「あはは、昼間からっすか」

「この雪じゃ酒を飲むくらいしかやる事もないしね」

ルアに案内され、一行は換金所へと辿り着く
換金はすんなりといき、外で待つルアと合流した

「助かりました」

「気にしないでくれ、どうせ暇だったからね」

「あ、そう言えば1つ聞いても?」

「ん?なんだい」

「先日、知人と待ち合わせをしたんですが
 いくら待っても彼等が来なかったんですよ、この辺りに宿屋って何軒ありますかね?」

「確か3軒かな・・・君等はどこに泊まったんだい?」

「僕らは雪の華亭ですね」

「なるほど、なら残るは白夜亭と安らかな眠り亭か」

「穏やかじゃない名前ですね・・・」

「あはは!確かにな!」

ルアが笑いながら先導する、案内してくれるらしい
そんなルアの片手には酒が握られており、待ってる間に購入したようだった
歩きながら酒を飲み、顔が赤く染まっていく
美味そうに飲む彼をラピが羨ましそうにじーっと見ていた
それに気づいたルアがラピを見て言う

「ん?お嬢さん飲みたいのかい?」

「うん!」

「ははは、お嬢さんにはまだ早いだろう」

「えー」

「ルアさん、ラピは71歳っすよ」

「はぁっ!?」

ルアが素っ頓狂な声を上げ、目を丸くしてラピを見ている
こんな少女が・・・ん?何か違和感がある、なんだ
そこでルアは気づいた、ラピという少女の違和感が何かを
しかし、導き出された答えに彼は戸惑う、有り得ないからだ
伝説の類いのものだぞ?本当に実在するのか?
だが、疑いようがない事実が目の前にあった

「その長い耳・・・ま、まさかと思うのだが・・・お嬢さんの種族は?」

「ん?エルフだよ?」

『エルフ!?』

普通に肯定されてしまった・・・なんて事だ
今、目の前に伝説とも言える存在が平然と立っている
この事実には流石のルアも動揺を隠せない

「エ、エルフとは、あのエルフなのかい?」

「他のエルフがいるのー?」

「いや、いる事はいるのだが・・・貴女はダークエルフではないのだね?」

「ダーク?私は普通のエルフだよ」

「そう・・・か・・・普通のか・・・」

ルアが考え込んでいる、その表情は真剣そのものだ
出会ってからというもの、彼は軽い雰囲気の男だった
それがどうだ、今の彼は気品すら感じられる立ち姿だ

「失礼を承知で伺いたい、君達はどこから来たのですか」

「えっとー、南の森の奥にあるラルアースからだよー?」

「っ!?」

ルアの目が見開かれる、手には汗をかき、僅かにだが震えがくる
神の聖域から来ただと?そしてエルフだと?なんの冗談だ
普通ならそう思っていただろう、しかし目の前にいる存在を否定する事など出来ない
今、自分はとんでもない人達と出会ってしまったのだと彼は気づいた

「そ、そうか、ラルアースからか、遠路遥々大変だったでしょう」

何とか普通を装ってはいるが動揺が隠しきれない





実はこの時、1人の男が遠くからラピとルアのやり取りを見ていた
男の名はフィリップ・フォン・ホーエンハイム
20代半ばの青年で、薬品を買いにダヌを訪れていた科学者だ

「エルフ・・・・嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だろ!?」

フィリップはラピの姿を見て興奮していく
その興奮の仕方は尋常ではない

「凄い凄い凄い凄い!凄いぞ!!本物だ!」

あの長い耳、白い髪、間違いない
ダークエルフなんていう汚れた存在とは全く違う
あれこそ神に最も近き存在、エルフだ!
あぁ・・・なんて美しい存在なんだ、尊い・・・・

「彼女さえいれば私の研究は100年は進む・・・!」

震える足でラピの元へと走ろうとする
ラピ達は移動をしているが走れば追いつけなくはないだろう
しかし、足が震え上手く走れずフィリップは転んでしまう
起き上がるとそこには死者が引く荷車があり、視界が遮られてしまう

『どけっ!邪魔だ!』

死者に言葉は届かず、ゆっくりとした足取りで進んでいるだけだ
チッ、と舌打ちをしたフィリップは回り込み、荷車を避けて通る
先程までラピ達がいた場所には誰もおらず、急いで追いかけるが見失ってしまった

「くそっ!くそっ!くそっ!なんて事だ!」

ダヌの街はそれなりに広い、そして死者が溢れた街だ
生者は少ないので目立つと言えば目立つが
この大きな街で特定の1人を探すのは骨が折れる
しかし、そんな労力など気にせず、彼は5日もラピを探し続ける事となる
結局再会する事はなく、彼は諦め、ダヌを後にしたのだった




ルアとハーフブリード達は宿を2軒回り、エイン達が泊まっていないのを確認した
困り果てたシルトが頭を掻いていると、ジーンが耳打ちしてくる

「シルさん、彼・・・ルアさんだけど」

「ん?どったの?」

「彼の襟見てみな」

「襟・・・」

ボサボサの髪と汚れで見えにくいが何かの紋章があるのが分かる
金の刺繍で鉄十字と、左右にケイトウの花が描かれている
アムリタの紋章であるケイトウ、王族を現す鉄十字
それらを踏まえ導き出される答えは1つ、彼が王族という事だ

「分からない?ルアさんはアムリタの王族だよ」

「そうなの!?」

「うん、間違いないと思う」

「あんな人がねぇ・・・」

「ね、彼使えるんじゃないかな?エイン君達を探すのに」

「ん?どゆこと?」

「貴族街とか私達じゃ入れないでしょ?」

「あぁ、なるほど・・・」

そんな会話をしていると、シャルルが1人の少女を発見する・・・ワンちゃんだ
ワンちゃんは辺りをキョロキョロを見渡し、何かを探しているようだった

『ワンちゃーん!』

シャルルの大声に気づいたワンちゃんはとことこと小走りで近寄ってくる
深いお辞儀をしたワンちゃんは笑顔を向けてきた・・・目は笑っていないが

「こんにちは、です」

「こんにちはー!」

「こんにちは、ワンちゃん」

「何か探してたの?」

「あ、いえ、あの、はい・・・です」

「ん~?」

「お友達を・・・・シャルルさん達を探してました、です」

その瞬間シャルルはワンちゃんを力強く抱き締め、頬ずりする

「もぉー!可愛いなー!!」

「や、やめてください、です」

「あはは!ワンちゃんったらー!」

「や、やめ・・・あっ」

ボトッ・・・

ワンちゃんの右腕がボトりと落ちた
誰もが息を飲み、場が一瞬で凍りつく

沈黙・・・・

無言で腕を拾い上げ、ワンちゃんはそれを右腕の袖に入れていく
不自然に腕を持ったままだ、おそらく離すと落ちてしまうのだろう

「は、ははは・・・て、手品です!」

『それは嘘だろ!?』

シルトがツッコミを入れると再びワンちゃんの右腕が落ちる

沈黙・・・・

再び無言で拾い上げ、服へと入れていく

「ほ、ほらー、もとどーり、です」

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

一行は疑いの眼差しでワンちゃんを見ていた
しばしの沈黙が流れた後、ワンちゃんが口を開いた

「すみません・・・どなたか縫っていただけませんか?」

「縫う?」

「はい・・・腕を・・・」

「お、おう・・・縫い物ならシャルルが得意かな」

「え!私!?」

「お願いします、です」

「・・・・・うん、わかった・・・」

ワンちゃんがその場で服を脱ごうとしたのを必死に止め
彼等は一旦雪の華亭へと戻った
客室でワンちゃんに脱いでもらい、その白い肌が現わになる
身体中の至るところに縫い痕があり、痛々しい姿だった

「それじゃ、腕押さえててね」

「はい、です」

ワンちゃんの肩と腕を少し太めの糸で縫っていく
肉に刺さる針の感触がとても不快で、シャルルはその度に顔をしかめていた

「うぅ・・・・お、終わったよ」

「ありがとうございます、です!」

ワンちゃんが繋がった腕をぐるぐると回して感覚を確かめる
その後、頭のボルトをギリギリと勢いよく回し、ワンちゃんの口元は緩んだ

「縫うだけで動いちゃうんだね、不思議だな」

「おとーさんのおかげです」

ワンちゃんが小さな胸に手を当てて、その奥に秘めるものを目を瞑り感じ取る
ジーンはその様子を見て理解した
この子を作った人がこの膨大な魔力の素を用意したんだ、と
そして、それをこの子の胸の中に埋め込んだんだ、と

「ねぇワンちゃん、おとーさんの研究資料とかってまだあるのかな?」

「・・・・何故です」

「ちょっと興味があって」

「・・・・・ダメです、見せません、です」

「そっか・・・残念」

あるって事ね
ジーンは密かに計画の変更をした



宿から出た一行は二手に分かれる事となった
ワンちゃんと遊ぶためにシャルル、ラピ、ジーンが彼女と共にダヌの街へ消える
シルトとサラはルアに事情を説明し、貴族街へと案内してもらう事となった
ジーンの予想は的中し、ルアは王族である事を案外あっさり認めた

「にしてもさっきの少女は何者ですか」

「ワンちゃん?」

「はい、あんなゾンビは見た事がない」

「へぇ、やっぱ珍しいんだ、ワンちゃんみたいのは」

「本当にゾンビなのか疑いたくなるほどですよ・・・」

「僕らも最初は生者かと思ったねぇ」

「うんうん」

ルアは手に持つ酒を勢いよく飲み干し、空き瓶をそのへんの木箱に置く
千鳥足になった彼は市街地と貴族街を隔てる巨大な壁の前へと向かっていた
しばらくして門へと辿り着き、門兵の男がルアを見るや大慌てで門を開ける
そして、最敬礼で彼を待った

「本当に王子様なんだね?」

「飲んだくれてるだけの皇子だけどな」

「それでも助かります、ありがとう」

サラがお辞儀をすると、ルアの表情が固まる
お礼なんて言われた事がこの数年無かったからだ
いつも厄介がられ、いてもいなくてもいい存在であり続けたからだ
そんな自分がお礼を言われるなんて思ってもいなかった
だが、この状況はマズイのではないか?善行をしていいのだろうか?
ルアは頭の中で高速で様々な事を考えていく
まぁ、この程度なら王位継承には関わらないだろう
酒の入った頭ではその程度の答えしか導き出せなかった

「行きましょう」

ルアがフラフラと先頭を歩き、その後をシルトとサラが続く
貴族街にいる生者達、貴婦人達はルアを見るや眉間にシワを寄せ、嫌悪感を現わにしていた
貴婦人達はひそひそと内緒話を始める
耳のいいサラにだけはその声が聞こえていた

また飲んだくれて・・・本当にバカな皇子・・・

王妃様が亡くなってからああみたいよ・・・

お兄様を見習ってほしいものですわね・・・

それにあの汚い格好、王家のする身なりではありませんわよ・・・

早く死ねばいいのに・・・アムリタの恥が・・・

そんな話を言われてる事など知らぬルアは平然とフラフラと歩いて行く
仮にこの言葉が聞こえていたとしても、彼は平然と歩いていただろうが

ルアは貴婦人達に見せつけるように、腰から酒瓶を取り出し、それを一気に煽る

『かぁーーー!うめぇーーーー!』

突然大声を出してルアは千鳥足で歩いて行く
その声に貴族達は驚き、一瞬話し声が止むが、再びルアの悪口が始まった
サラは聞いていたくない言葉の数々に俯いて歩く
すると、わざと聞こえるくらいの声量で1人の貴婦人が言った

「新しい娼婦かしらね、見なさいあの耳と尻尾を
 ついには亜人に手を出しているのかしら、みっともない」

刹那、シルトが貴婦人との距離を一瞬で詰めた
顔を5センチほどの距離で止め、睨みつける
突然の事に貴婦人は震え、微動だに出来なかった

「あんた、撤回しろ」

「は、はい?」

「今の言葉は撤回しろ」

「な、なぜわたくしが撤回などしなくてはなりませんの!」

「そうか・・・」

シルトは腰のミスリルブロードソードを抜刀し、貴婦人の喉元に突きつける
すると、近くにいた貴婦人達から悲鳴が上がった

「撤回しろ」

彼の目は本気だ、完全に殺す気だ
それを察したルアが止めに入ろうとすると
それよりも先にサラがシルトのマントを掴んで止めていた

「シルトさん・・・いいから・・・」

「よくない、撤回しろ」

『シルトさん!』

珍しくサラが怒鳴り声を上げ、それに驚いたシルトは剣を下げた

「もういいから・・・ね」

「・・・・」

シルトは黙って剣を鞘へとしまい、再び貴婦人を睨みつける

「彼女を悪く言う奴は誰だろうと殺す、分かったな」

「は、はひぃ」

貴婦人は腰が抜け、ガクガクと震えていた
股ぐらから湯気が上がっている、恐怖のあまり漏らしてしまったのだろう

再び歩き出したシルトはいつもの緩い表情に戻り、サラに笑顔を向けている
その彼を見てルアは思った
さっきの殺意の塊、あれが本来の彼なのかもしれないな・・・
それと、フルプレートの動きとは思えないほど早かった
このシルトという男はかなりできる・・・それだけは分かった
エルフといい、神の聖域から来た事といい、彼等は普通ではなさそうだな
あまり深入りしない方が賢明か・・・



少しして一行が王城への門へ辿り着く
それぞれの想いや思惑を胸に秘め、複雑に絡み合い
アムリタという国が大きく動き出す



死者が徘徊するこの街で、生者は醜く生きていた



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