2015_11
08
(Sun)09:32

1章 第5話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第5話 【聖域への道】其の二

途中ちょっと脱線しすぎました・・・orz
無理矢理戻したので時系列が分かりにくいと思います。
申し訳ない!許して!
しかも不完全燃焼感半端ない!!!

では続きを読むからどうぞー。











【聖域への道】其の二







マルロが気絶してから数時間後の事である
草木の残らない丸裸となった大地、巨石によりエグれた道に一同はいた
今日はここで野営する事となった
これだけの事が起きたのだ、近場の魔物は逃げただろう、そう判断したのである

巨石はマルロの魔法の効果が切れた時に崩れ去り、小高い丘のようになっていた
2体目のナーガは跡形もなく、辺りに緑の血と汚物を撒き散らしただけになっている
1体目のナーガは人間のような上半身が無くなり、腹部から下は残っていた
その腹部が僅かに膨らんでる事に気づいた者がいた、火の巫女イエルだ

「これ、もしかして・・・イシュタールかい?」

彼が忽然と姿を消してから数時間経つが一向に現れない
それはあの時ナーガに食われていたからであった

「そんじゃ、開いてみますか~」

教会守護隊のカイルが30センチほどの鉈を取り出し
しゃがみ込んでナーガの腹を切り開く
すると、ずるりと内容物が流れ出て
その中から半分近く溶けたイシュタールらしき人物が出てくる

「うげ、気持ちわりぃ~」

カイルは鼻をつまみながらイシュタールの身体を鉈でつつく
そんな光景を目にし、ミラが早足でカイルの元へと来た

「そこの生ゴミ」

ミラは仰け反るような雰囲気で見下ろしている
カイルはそんなミラに気づき、ニヤニヤしながら

「同郷を生ゴミはひどいんじゃないの~」

まだイシュタールを鉈でつつきながら、振り向き、ミラを見上げる

「ゴミはアナタよ?そんな事も分からないなんて、本当に畜生ね」

冷徹で冷酷な微笑を浮かべ、カイルを見下ろす
そんなミラの言葉にあっけにとられ、口を半開きにぼけーっと見ていると

「はっはっはっは!これは一本取られたね!」

イエルが豪快に笑いながら歩み寄り、カイルの背中をバシバシと叩く

「やっこさんまだ生きてるんだ、そんな扱いはやめてやんな」

イエルが子供を諭すように優しく肩に手を置きながらカイルに言い、彼は俯く
彼女の言葉で満足したのか、ミラは無言で去って行った
そんなミラの後ろ姿をイエルは笑顔で見送った



数人がテントを設営していた
小高い丘となった元巨石の近く、そこへテントを設営している
元巨石の上には見張りが二人立っている、サイガとイルガだ
背中合わせに立ち、キョロキョロと辺りを見渡している

リヨンはリリムを手伝おうと、金魚の糞のように後ろをついて回っていた
そんなリヨンに困り果てたように眉をひそめる彼女はある人物を発見する、エインだ
彼は薪を拾ってきたところのようで、それを置いて額の汗を拭いていた

「リヨンさん、私はちょっと用事ができたので失礼しますね」

リヨンを制し、ついてくるなという雰囲気を醸し出す
不満そうなリヨンの視線の先にエインを捉える・・・また奴か!
その予想は的中し、リリムは彼に駆け寄った

「エイン、何かお手伝いする事はありませんか?」

何が嬉しいのか分からないが満面の笑みの彼女を見て、無下にするのも気が引けた

「そうですね・・・では、乾いている薪と湿っている薪を分けてもらえますか?」

「はいっ、喜んで♪」

そんなに薪の選別が好きなんだろうか?エインはそんなバカな事を考える
彼は彼女の気持ちには気づいていない
というかエインはその手の事には鈍感なのだ

彼は見た目はそれなりによく、そして強い
数々の武功をあげ、低級貴族ながらその名は広まっている
そんな彼に言い寄ってくる女性がいない理由が無かった
だが、どうしてか彼はそれに気づけないのだ

彼の頭の中には武のみ

強くなる事こそ彼の生き甲斐で、それだけが喜びだったのだ
そして、その強くなりたいという想いは、皆を守りたいという感情から来ている
エイン・トール・ヴァンレンとは正義感の強い、真面目な男なのだ

鼻歌混じりに薪を選別してるリリムを見て
本当に薪の選別が好きなんだ、変わっている子だなぁとエインは本気で思っていた
そんなエインの後ろから鋭い視線を送り続けるリヨンであった



マルロは細かい刺繍が施された赤いマントの敷かれた上に横たわっている
神殿盾騎士団長ガゼムのマントだ
かなりの価値があるだろうそれを地面に敷いている
それは彼にとって巫女とは絶対者であり、崇めるべき存在だからだ
たかがマント、巫女様のためなら汚れようが何とも思わない、そういう男だ

そんなマルロの横に生の魔法使い、エール・ボア・エンジュが膝をついている
先ほどから幾度も回復魔法をかけていて、彼の全身は汗まみれだった
元々小太りで汗っかきなのもあるが、何度も魔法を行使し
肉体的、精神的疲労はピークになっていた
年齢にしては薄い頭にも大量の汗をかき、夕日を反射している
それほど回復魔法をかけなくてはいけないほどにマルロの身体は衰弱していた
巨石魔法・・・それは地の巫女のみが使える究極の魔法
その代償は大きく、使用すれば1日は昏睡状態になるほどである
そんな弱りきった小さな女の子を見て、エールは自身に喝を入れた

「癒しの光よ」

彼の手が淡く光り、マルロを包むように光が広がっていく、中級の回復魔法だ
そこで彼の鼻から血が流れる・・・魔力の使いすぎである
これ以上は危険だ、そう判断し、魔法を中断して大の字に寝転がり、袖で鼻を拭く
はぁはぁと肩で息をし、茜色に染まる空を眺めた

「はぁ・・・・酒、飲みたいなぁ」

願望を呟きながら彼は目を瞑る
そして、その数秒後・・・ガァー・・ゴォー・・と大きないびきをかいて寝ていた

その一部始終を眺めていた男がいる、クガネだ
彼はマルロという小さい存在から放たれた巨大な塊を思い出す
もしこいつと本気で殺りあったら勝てるだろうか、そんな事を考えていた
チッと舌打ちし、自身が勝てない可能性を頭から払う
その時、マルロの目尻に光るものが見えた・・・自然と足が動き、彼女の枕元まで来る
何泣いてやがる、あれだけの事をしておきながら
泣きたいのは奴ら・・・ナーガ・・・だろう、とクガネは僅かに笑っている
自然としゃがみ込み、その涙を指の背で拭っていた
無言で立ち上がり、似合わねぇことしたなと頭を掻きながら去って行った



陽が落ち、闇が世界を支配し、焚き火の灯りが一角を照らしている
エインは少し離れた位置の手頃な岩に座り、星を眺めていた
向かってくる人の気配がしたのでそちらに目をやる、リリムだ

「どうかしましたか?」

「いえ、エインは何をしてるのかと思って」

なるほど、とエインが納得し答える

「星を・・眺めていました」

星ですか?とエインの元まで来たリリムは腰を屈め、顔を覗き込んでくる

「えぇ」

エインはそれだけ返し、お尻だけ動かし一人分くらい横にズレる
空いた席にリリムは座り、肩と肩が僅かに触れる、そんな距離だ

「星が好きなのですか?」

「えぇ・・・戦場ではこれくらいしか綺麗なものがありませんから」

少し悲しそうに寂しそうに彼は答えた

「エインはたくさん戦ってきたのですね」

彼女は優しい笑顔を彼に向け、その聞き取りやすい美しい声で続ける

「でも、それだけ守ってきたものがあるのですね」

その言葉にエインの目は開かれる

「私は死の巫女です・・・たくさんの命を奪ってきました
 戦争にも出た事もあります・・・その時も大勢の方の命を奪いました」

彼女の懺悔ともとれる言葉が続く

「それでも私は後悔しません、大切なものを守れたのですから」

エインは彼女の言葉の重みが分かった
死の巫女がその力で倒した兵の数の噂は聞いている

「たまに化け物め!って石を投げられちゃったりしますけどね」

はにかみながらは言うリリムの眼は潤んでいた

「君は化け物なんかじゃない、
 人を傷つけた事に傷ついている、こんなにも優しいじゃないか」

エインが真剣な表情で真っ直ぐと彼女を見て言う

「君が化け物なら、俺は魔獣か何かだな」

リリムはクスっと笑い、そして二人で星を眺める

「ありがとう、エイン」

「いや、こちらこそ、ありがとう」

「え?」

「俺はずっと戦ってきた、それはいつも何かを守るためだった
 でも、それを理解してくれる人はほとんど・・・いや、いなかった」

「そう・・・なのでしょうね」

リリムは自身が体験してきた出来事を重ね、俯く

「だから、ありがとう」

エインはあの時の笑顔になる
そんな彼の笑顔を見て、彼女は自分の気持ちを再確認したのだった
と、そこに

「エイン!見張りの交代の時間よ」

ミラが歩いてくる

「申し訳ありません!今行きます!」

急いで立ち上がり、ミラの元へ駆け寄る彼の背中を見つめていた
ミラと目が合うが、つんっとそっぽを向かれ、私何かしたかな?とリリムは悩んだ


それから数日ここで野営となる
ナーガ戦の次の日の夕方頃、マルロの目が覚め
その3日後の昼頃、イシュタールとガリアの身体は再生し意識を取り戻す
ナーガ戦から5日目の早朝に一同は旅を再開した
目的地は目の前だった


大森林を進み続けた一行の目に不思議な光景が飛び込んでくる
突然木々が無くなり、直径200メートル近い草原が広がる
その中央には竜巻が発生しており、土砂などを巻き上げ、中は見えない
竜巻の直径は50メートルほどだろうか
高さは何メートルあるかすら分からないほど高い

クガネが試しに石を投げ込む
石は弾かれるかと思われたが、粉々に粉砕され、消えていった

「ここが聖域で間違いなさそうだな」

クガネの言葉に一同が頷いた

「どう突破するか、だな・・・」

ガゼムの言葉が竜巻に飲まれるようにかき消えた













エインの看病をしてるミラの頭はコクコクと揺らめいていた
自分が居眠りをしかけていた事に気づき、ハッと飛び起きる
エインの様子を伺う・・・大丈夫そうだ
安堵し、眠気によりふらふらとした足取りで
テントの端にある簡易ベッド(布を敷いただけ)に横になる
ずっと看病していて疲れたのだろう、そして彼女は眠りについた

そんな頃、ハーフブリードの面々はミスリルの厳選を終え
全員が自分達のテントへと集まっていた
テントはそれほど大きくはない、だがしっかりした作りではある
荷物を置いてるせいで寝れるのはせいぜい4人といったところだ
ちなみにシルトはいつも外で寝ている

「かなり純度が高いね」

ジーンが3センチほどの小さな虫眼鏡で皆が厳選したミスリルの塊を見ている
多分全部で金貨300枚ってところかな?と付け足した
予想より大きい額にシルトはニヤけ、満足そうに頷く

「これでサラのチェインシャツはミスリルにできるな」

「私の装備に使っていいの?」

サラは驚いて申し訳なさそうに言う

「もちろん良いんだよ!サラは前衛なんだし!」

それにはシャルルが笑顔で答えた

「そうだね、前衛が崩れちゃ後衛は何もできない
 だからサラの装備強化は最重要だと思うよ」

「うんうん、私もそれでいいと思うよー」

「みんな・・・ありがとう」

サラは笑顔になり、皆は気にするなーと笑い合い
他には何買うか、と金貨300枚という大金を手にし、話が盛り上がっている
そんな光景を見て、サラは今回の旅が始まった頃を思い出した・・・












ラーズ国の一団が馬で駆ける、ロイ少佐とハーフブリードの面々である
ドラスリア、カナラン、ネネモリの一行と別れてから1日が経つ
先頭はロイ、その後ろにサラとシャルルが並び
その後をジーンとラピが続く、そしてしんがりを走るのはシルトだ
馬はナーテアでアーガ家のを借り受け
ドラスリアとカナランの間に広がる大草原を駆け抜けている

まだ海岸まではかなりの距離がある、しばらく馬での移動になりそうだな
サラ・ヘレネスがそんな事を考えながら馬のタテガミを撫でる
彼女は実は馬に乗るのがあまり好きではない
馬が嫌いとかそういう事ではない、身体的な問題である

「おしり痛~い、尻尾が~」

隣のシャルルが愚痴をこぼす、
彼女もハーフキャットだからその辛さが理解できる
実際、彼女もお尻というか尻尾のつけ根から来る痛みは感じていた

「うん、ちょっと痛いね・・・擦れちゃったかなぁ」

そんなハーフキャット達の愚痴を聴いたロイが提案する

「ここまで強行軍で来ている、この辺りで少し休憩にしよう」

そう言い、手綱を引き徐々に馬の速度を緩めて停止する
それに習い皆も馬を止め、シャルルとサラはすぐに馬から降り
いたーいいたーいと騒いでいた
馬から降りたジーンが真っ直ぐシャルルに歩み寄り、低級回復魔法をかける

「このくらいでいいでしょ」

「ありがと!」

にししと笑うシャルルに、目を細めて返すジーンだった
少し遅れてサラにはラピが低級回復魔法をかけている

「ラピ、ありがとう」

「いいよー、気にしないでー」

そんな光景を見ていたロイがシルトへ話しかける

「ハーフキャットというのも大変なのだな」

「えぇ、彼女達は馬が苦手なんですよね
 それもあって、僕らの旅は基本徒歩なので」

「そうなのか、ならばここからは徒歩で行くか?」

「いえ、それじゃ遅くなりすぎちゃいますよ」

「ふむ、そう・・・だな」

ロイは頭を捻るが・・いい案は浮かばなかった
そもそも、ロイが初めてハーフキャットを見たのはつい最近なのだ
それはサラとシャルルである、彼女達に会うまでは見た事すらなかったのだ
それほどハーフキャットという存在は珍しく、一般的では無い
亜人であるウェアキャットと人間が恋をしなくて生まれない存在
本来であれば価値観や美的感覚の違いから生まれる訳がないのだ
人間は亜人を嫌う傾向がある、そしてそれは亜人側もそうである
では、何故彼女達の故郷ではハーフキャットが複数いるのか・・・


それは無理矢理作り出されたからである


ハーフキャットの見た目は美形になりやすい
更に猫耳や尻尾を好む人間が一部にいるのだ
それは性的な意味で、である
そう、彼女達ハーフキャットは元々性奴隷として作られた存在なのだ
捕まえてあるハーフキャットの雄と、奴隷である人間の女は無理矢理性交させられ
男のハーフキャットが産まれれば即座に殺し、女であれば育てられる
年頃になったら性奴隷として働かされ、そのまま一生を終える
それがハーフキャットという悲しい存在の"普通"なのだ

ハーフキャットの女の子は12歳になる頃から働かされる
それは彼女達の中では常識で、当たり前の事だ
その先に待つ地獄のような日々を想像し、そうなる前に彼女達は逃げ出した
それはまだシャルルが10歳、サラが9歳の時である

幼い頃から魔法の才があったシャルルは、その力を使い生活費を稼いだ
ハーフキャットという見た目から迫害を受けたりもした
しかし、シャルルはサラを守るため、生きるために必死に努力したのだ
11歳になる頃には冒険者として働き始め、雑用のような仕事だが何でもこなした
その頃、魔法の才の無かったサラは自身の無力さに落ち込んでいた
そんな日々が2年続いた頃
サラはいつものようにシャルルが仕事に行くのを見送り
掃除、洗濯を終え、食材を買いに出かけ・・・そこで酒に酔った男達に絡まれる

「おいおいおい、なんだその耳はよぉ」

「こいつ尻尾もあるぜ」

ギャハハと酒臭い息を吐きながら汚く笑う男達
こんな風に馬鹿にされるのは日常茶飯事だ
サラは彼等の注意が一瞬逸れた隙に逃げようとする・・・が、失敗する
腕を掴まれてしまったのだ

「おいおいおいおーい、嬢ちゃん逃げんなよ」

掴まれた腕に力が込められ痛みが走る

「っ・・・やめてください」

振り払おうとするが力の差は歴然だった

「こいつよく見たら結構可愛い顔してんじゃねぇか」

顎を持たれ顔を向けさせられ、酒臭い息が顔に当たり吐き気を催す
男達は醜く汚くその顔を歪ませる、その表情をサラは知っていた
故郷から逃げ出す前によく見た男達の表情のそれだからだ
この先を想像して、サラは目に涙を溜める

「おいおい、泣いてんじゃねぇよ、俺達悪い事なんてしてねぇよな~?」

醜い笑顔で仲間や辺りの通行人に同意を求める
通行人達は関わりたくなさそうに目も合わせず早足で去って行った

「・・・やめてくださいっ!」

我慢出来ずに涙が溢れ出してしまう

「チッ・・騒ぐんじゃねぇよ」

男に手で口を塞がれた、その時・・・ぼとっと何かが落ちた音がし
塞がれていた口が開放される
ぷはぁと息を吸い込み、下を見れば、目の前の男の手首から先が落ちていた

「へ・・・うへ?・・・・うあああああああああああああ!!』

自身の手が無くなった事に気づき叫ぶ
その手首からは血が吹き出し、仲間達が駆け寄って来た

「急いで神殿に行って治療してもらいな、その血の量はヤバいよ」

ヘルムのない真っ黒なフルプレートを着た男がいた
その左手の剣をボロ切れで拭き、剣を鞘へと収めている
そんな光景をサラは口を開けたまま眺めていた

「お前・・・・・不動のシルト!」

口々に彼、シルトの名前と通り名を言っている
彼はシルト、不動の名で知れ渡っている2等級冒険者だ
冒険者は本来チームを組んでいるのが当たり前だが、彼はいつも一人だった
他の冒険者チームを手伝ったり
一人で依頼をこなしたりして2等級まで上り詰めた男だ
2等級に単体でなるなど他に例は無い、そんな彼は有名な冒険者だった
そして通り名にもなる"不動"これは彼の持つ盾の技術によるものだ
一歩も動かず全ての攻撃をいなす、そしてカウンターの一撃で敵を屠る
それが彼が不動と言われた由縁である

酔っ払い達の顔が青ざめ、酔いはもう醒めたようだ
不動がなんで、そう言った彼等にシルトは笑顔で口をひらく

「なんでも何も、女の子虐めてたらそれは許されないよね?
 その程度で済んだのを感謝して欲しいくらいだなぁ・・・
 別にここで全員殺してもいいんだよ?」

元から細い目を糸のようにしてニコニコと笑顔で物騒な事を言う
異様とも言えるその笑顔に恐怖し、男たちは逃げて行った
それを見送り、シルトはサラへと向きを変える

「大丈夫かい?」

サラは口が開いたままなのに気づき、即座に口を閉じ、軽く頬を染め、頷く

「そっか、なら良かった」

先ほどまでの笑顔とは違う笑顔をサラに向け、シルトはくるりと背を向ける
行ってしまう、お礼を言わなきゃ、そう思うがサラの口は動かない

「このへんも物騒になったなぁ・・・」

シルトが独り言を言いながら歩き出したその時、彼のマントが掴まれる

「ん?」

振り返ったらそこにはサラが俯いていた

「どうした~?何かあった?」

優しく聞いてくる、その言葉に背中を押され、口を開く

「・・・あの・・・ありがとうございます」

「あ、いいよいいよ、気にしないで、人助けは趣味みたいなものだから」

少し照れくさそうにしながら彼は言う
そんな彼の態度に怖い人じゃなさそうだなと思い、警戒を緩めた
サラは人間の男性が怖いのだ
そんなサラを見て、シルトが思いついた事を言う

「買い物中?またアイツ等来たら厄介だし、付き合おうか?」

「え、いや、そんな・・・悪いです」

サラは俯く、シルトは困ったなぁと頭を掻いて考え込む
そこでサラは気がついた

彼は何故ハーフキャットの私にこんなに親切にしてくれるんだろう?と
人助けが趣味だから・・・人だから?そこまで考え、サラの考えはまとまった
そう、彼には私がハーフキャットとか関係ないのだ
私を人扱いしてくれてるんだ、そう思い、サラは嬉しかった
そんな考えを巡らせていたサラに、シルトから再び提案が飛んでくる

「じゃ、買い物くらいは付き合うよ、ホントにさっきの来たら危ないしね」

どこまでお人好しなんだろうとクスッとし、サラは答えた

「はい、お言葉に甘えちゃいます」

サラがやっと笑顔になった事により満足そうに頷くシルトだった
そして二人で歩きだし、市場へと向かう

「シルトさんは・・・冒険者なんですか?」

「うん、そうだよ」

サラは冒険者についてあまり詳しくない
シャルルからよく聞いてはいるが、彼女のやってる仕事は雑用ばかりだ
強者の話や、魔物の話など滅多に無い
先ほどの男達の反応を見るに、彼はそれなりに有名なのだろうと思っていた

「まぁ、ずっと一人でやってるんだけどね」

少しだけ寂しそうな表情になるシルトが気になり

「何故チームを組まないんですか?」

シルトが両手を頭の後ろにやり、考え込むように空を見上げて言う

「んー・・・気楽だからかなぁ」

そんなシルトの横顔は暗い表情が見えた気がした
まずい事聞いちゃったかな、話題変えなきゃ、サラは少しだけ焦っていた
シルトはそんなサラには気づかず、空を見たまま語りだす

「ま、色々あったんよ、それで今はずっと一人でやってる
 一人で2等級の仕事ともなるとキッツいけどねぇ」

はは、と笑いながら彼は言う

「え?2等級?・・・ええええええ!!」

サラが驚きの声を上げ、シルトもその声にびっくりする

「2等級って言ったらすごいじゃないですか!」

「うん、すごいね」

淡々と言う

「・・・・で、ですよね」

そんな彼に若干引きつつ
隣にいる男は物凄い人物なんだと改めてまじまじと見る
確かに装備は凄いと思う、先ほど抜いていた剣はおそらくミスリルだろうし
背負っている盾は大きく、とても頑丈そうに見える
ヘルムの無い真っ黒なフルプレートは何の素材かは分からないが
フルプレートというだけで多分高価な物だろうと予想がつく
2等級と言ったら冒険者の中でも最高峰の方だ
1等級なんてラルアースに1組しかいないと聞く
なので2等級が一般的には最高ランクなのだ
そこでサラは考えた、この出会いはチャンスなんじゃないかと
自分にできるかは分からない、でも彼なら私を人として扱ってくれる
そう確信し、サラは決心した

「シルトさん」

「ん?」

「私を弟子にしてください!」

「ん?弟子?僕の?」

サラの眼は真剣そのものだ
普段のゆるい空気は捨て、足を止め、サラの顔を見る

「んー・・・」

悩んでいるようだ、サラは答えを待つ

「うん、別にいいよ」

あっさりした返事だった
それに拍子抜けしたサラは安堵したと同時に、この人らしいなと少し微笑んだ
それから買い物を済ませ、借りている部屋へと送ってもらい
部屋の横、庭になる部分でシルトに剣の使い方を教わっている
そこへシャルルが帰ってきた

「ただいまー!ってあれ?」

部屋には誰もいなく、狭い部屋の窓から外を覗き込む
剣を持つサラと、その前にある椅子を反対から座るシルトを目にし、シャルルが固まり
それに気づいた二人が反応する

「あ、シャルル、おかえりー」

「ども、お邪魔してまーす」

シルトが椅子の背もたれに乗せていた片手を上げ、ゆるーく挨拶してくる

「え・・・?え?不動のシルト?なんで?」

目の前にいる2等級冒険者に困惑し、混乱していた
シャルルは4等級冒険者、最下位の冒険者だ
2等級、それは雲の上の存在とも言える、そんな人物が自分の家の庭にいるのだ

「今日、助けてもらっちゃって」

なるほど・・・とシャルルは納得し、あっという間に受け入れる
そしてもう1つの疑問を口にする

「で、なんでサラは剣なんて持ってるの?」

サラの手にする剣、それは木製のロングソード、ようは木刀だ

「シルトさんに剣と盾の使い方を教わる事にしたの」

「え?!」

シャルルの大きな眼が更に開かれる
この数年、サラは買い物以外ほとんど外に出なかった
人間不信からか人見知りが激しく、内気な子だったのだ
そのサラが出会ったその日に、しかも2等級冒険者の弟子になったと言う
それが驚かずにいられるだろうか
しかし、そんなサラの変化をシャルルは嬉しかった
やっと一歩踏み出せたんだ、そう思い頬が緩む

「良かったね!シルさんもよろしくね!!」

シャルルの明るい声が庭に響き、3人は笑顔になった
それからシャルルとサラは血のにじむような努力をし、日々成長していく
3人が出会った日から3年後、彼等は冒険者チームを結成する事となる




さて、話が逸れてしまったので戻そう




ロイがどうしたものかと考え込んでいると、シルトが口を開く

「大丈夫ですよ、見ててください」

そう言い、シルトはハーフキャットの二人を見ている
それに習いロイも彼女達へと視線を向けると

「もうちょっとクッション増やさないとダメだねー」

「うんうん、シャルルお願いしていい?」

「いいよ!任せて!」

胸を張り、胸をどんっと叩き、そのふくよかな胸が揺れる
そしてシャルルはにししと笑った
2~3歩歩いてしゃがみ込み、高さ10センチ程度の草へと両手を伸ばす

「深く静かな命の川よ」

シャルルの両手が彼女の髪色のような淡い水色に光り
草を照らした瞬間、辺りの草が一斉に伸び始める
これは草木の成長を促進する生の魔法である
シャルルとサラは伸びた草を毟り、集めた草を布袋に入れ、馬の鞍へと乗せる
ポンポンと叩き、大丈夫そうだねーと二人で笑い合う

「なるほど、生の魔法とは便利だな」

ロイは感心していた
それから1時間ほど休憩し、再び馬を走らせる
2日後、やっと海が見え、僅かにだが潮の香りが漂っていた

「海だー!海ー!」

シャルルがハイテンションに馬上で騒ぎ出す
それに続きラピも歓声をあげている
海を横目に眺めながら馬を走らせること1時間半
目的の海岸沿いの洞窟が見えてくる

「あれかな?」

ラピが指をさして言う、それにジーンが頷き、一同がそれを確認する


洞窟の手前100メートルほどで止まり、馬の鞍などを外し、野に放った
ラピはバイバーイと馬に手を振り、元気にやるんだよーと続けている
ここからは戦闘になる可能性が高い、馬は逃がしてあげようと決まったのだ
ロイは反対したが、彼等はそれを譲らなかった
困った奴らだとため息を洩らし、ロイが折れたのが先ほどの事だ

なぜハーフブリードが馬を放す事を譲らなかったのか、それはラピの一言からだった
ここまで乗せてきてくれたお馬さんが死ぬのは嫌だ、それに皆が同意したのだ
彼等は効率よりも優しさを捨てきれない、そんなチームだった

皆が装備を整え、荷物を持ち歩み出す
洞窟は海と隣接していて、入口には海水が入ってきている
洞窟内は暗く、入口からでは20メートル程度しか中は伺えない
膝下まで来ている海水をバシャバシャと掻き分けながら一行は進んでいた

洞窟の入口から30メートルくらい進んだだろうか
辺りは暗く、肉眼では先は見通せない
水位は下がり、足首辺りまでしか海水はきていない

「ラピ、灯りお願い」

「はいよー」

ラピが皮袋をごそごそと漁り、取り出したのは細長いクリスタルだった
そこに魔力を込めると淡く光り始め、次第に光が強くなっていく
15メートル近く先まで照らされ、洞窟の全体像が見えてくる
岩肌はヌメヌメと光を反射し、下は海水を含んだ砂場だ
所々に貝が落ちているくらいで、特に目立ったものはなかった
灯りをつけてから10メートルほど進んだ場所
入口から40メートルくらいのとこでシルトが手で止まれと合図を出す
全員が即座に武器を持ち、その様子をロイは驚いて見ていた
このチームの判断の速さに驚いたのである
訓練し、鍛え上げた軍隊のような機敏な動きに感心する
その時、奥でキラリと光るものが見えた気がした

「お出ましみたいだね」

「シルさん、外でやる?」

ジーンがここ狭くない?と続けている
確かに狭い、洞窟の横幅は6メートルほどだろうか
魔獣ケートゥスの体長は8メートル近くあるとガゼムは言っていた
ここでは避ける事は困難だろう、なら引くのが得策か、シルトはそう判断する

「しんがりは僕がやる、みんな全速力で外まで走って」

「「「「りょうかーい」」」」

「お、おう、分かった」

そして一同は走り出す、そしてロイは再度驚く事となる
シャルルとサラの足の早さにだ、圧倒的に早い、何だあの速度は
これがハーフキャットの身体能力というやつか、ロイは彼女等の認識を改める
ラピはあわあわしながら走っているが歩幅が狭いため遅れはじめている
それに気づいたロイがラピを拾い上げ、肩車をして走る
突然拾い上げられたラピは驚いていたが
肩車が気に入ったのか行け行けーとはしゃいでいた

ずりずりと引きずるような音が洞窟内に反響して彼等の耳に届く
バシャバシャと大きな音を立てながら大急ぎで走る、残りは10メートル
シャルルとサラは既に外で待機しており、来てるよー!と叫んでいる
残り8メートル、突然シルトが振り向き盾を前面に構える
それとほぼ同時にケートゥスの前足が振り下ろされた
爪が盾とぶつかりキィィィィという高音を上げる
洞窟内で反響し、耳鳴りがするほどの音になっていた
その音に反応しロイは振り返った、そしてそこで目にした光景は一生忘れないだろう
ケートゥスの攻撃をガードしたシルトは僅かに押されたが
一歩も動いていなかったのだ

「バカな・・・ありえるのか」

目の前にいるケートゥスという魔獣の頭は4メートル近い高さにある
そしてその腕は2メートルはあるだろうか
青い鱗が全身を覆い、鋭い牙が生え、長く赤い舌が口からだらしなく出ている
眼は黄色く光を反射し、指の間には水かきがあり、背中などにヒレもついている
狼のような顔というのも納得できる飢えた獣のような顔つきだった
そんな巨大な魔獣の一撃を防いで、彼は一歩も動いてないのだ
驚嘆し、足を止めていたロイに、頭の上から声が掛かる

「シルさんはいつもああだよー」

「いつもだと!?」

「うんうん、それより早く外に!」

ぺしぺしとヘルムを叩かれ催促される
忘れていたと言わんばかりに再び走り出す彼だった
後方での戦闘から目を離したくない気持ちが後ろ髪を引くが・・・

シルトはゆっくり後退しながら完全に防ぎ切っていた
時折キィィィィンという甲高い音がなり、その度にシャルルとサラが耳を塞ぐ
後4メートルで出口、そこまで下がったシルトが仲間に指示を出す

「ジーンさんは火の精霊お願い
 それとシャルルはジーンさんに継続回復を、それで一気にやっちゃおう」

攻撃を避け、防ぎ、指示を出しながら後ろ向きに歩いてくる
ロイはとんでもない誤解をしていた事に気づいた
彼は1等級冒険者、その噂は数多く知っている
どれも眉唾物で、尾ひれのついた噂話程度だと思っていた
だが、目の前の光景が既に眉唾物のそれだ

「くそ・・・全部事実だっていうのか」

自分との格の違いにわずかに恐怖し、そして尊敬した
そんな認識を改めたロイの目の前で更に眉唾物の現象が起こる

「・・・おいで、サラマンダー」

ジーンは指を1回だけパチンと鳴らし、その音がラップ音のように数回響く
ジーンの呼びかけに応じるように小さな、本当に小さな火が彼女の前にぽっと現れる
その大きさは3センチ程度だろう・・・こんなのが精霊なのか?とロイは思った
そして、その後の光景に彼は今まで生きてきた人生で一番大きく目を見開いた

3センチ程度の火は一回ポンっと爆発するように形を変えたと思った途端
ボンッと膨らんだ・・・その間、約1秒
その大きさは4メートルにもなった、恐ろしく巨大な火球が出現したのである
10メートル以上離れているロイですらその熱に顔をしかめてしまう
一瞬たりとも同じ形は維持せず、炎は形を変え続けている
一部が弾け、また膨らむ、一部が弾け、また膨らむ、どんどん大きくなっていく
その形は徐々に生物らしさを象っていく・・・数秒してそれは出現した

トカゲの形をした業火の塊とも言うべきそれ
火の精霊サラマンダーだ
全長は6メートル以上あり、その熱により近くに風景は歪み
サラマンダーの足元の海水は蒸発し、湯気を上げる

召喚者であるジーンは苦痛に顔を歪める
この精霊の弱点である、召喚者が熱によるダメージを負ってしまうのだ
そのためシャルルの継続回復が続いている

「シルさん!いけるよ!」

ジーンが苦痛に耐えながら叫ぶ
それを聞いたシルトは大きく後ろへと飛び退き、そのまま海の中へと入る
シルトしか見ていなかったケートゥスは
そこで初めて業火のトカゲを目にし、動きが止まる
サラマンダーとケートゥスの距離は15メートル
洞窟の壁が盾になり、ケートゥスまで熱は届いていなかったのだ
咄嗟にケートゥスは逃げようとした、しかしそれは時すでに遅し
狭い洞窟の入口付近、ケートゥスの巨体では方向転換できなかったのだ

「行け」

ジーンがそれだけ言い、座り込む
そこへシャルルはバシャバシャと駆け寄り、より強い回復魔法をかける

業火のトカゲは足を海水につける度にジュワーと湯気を上げながら走り出す
その動きは早かった、ケートゥスが入口でもたもたしている間に近寄り、ぶつかる
キュピィィィィ!!というケートゥスの悲鳴が響く
サラマンダーはケートゥスにぶつかると同時にぐにゃりと形を変え炎上した
洞窟の入口が炎の柱に飲み込まれ、ゴオオオオオオと言う低い音と熱風が届く
10秒ほどして炎の柱は爆裂し、消えていく


そこには消し炭と化したケートゥスだったものが残っていた


その青かった鱗は色を黒く変え、あちこちに火がくすぶっている
開かれた大きな口からは牙が見えるがそれもまた黒くなっていた
舌は焼け落ち、眼は溶けてなくなっている
焦げた臭いが辺りに漂い、僅かにだが肉の焼けた食欲のそそる匂いも混ざっていた

潜っていたシルトが海から半身を出し、終わった?と聞いている
サラが荷物袋からタオルを出し、シルトの方へと歩いて行く
シャルルはジーンの回復を続けていた

そしてラピは・・・・まだロイの上にいた

ぺちぺちと音を立ててロイのヘルムを叩き
そろそろおろしてーと喚いている

「おお、すまなかった、忘れていた」

「忘れてたとはなんだー!」

文句を言うラピを降ろし、ロイはハーフブリードを一人一人見ていく
彼等は疲れたーとか、余裕だったねーとか、口々に言っている
これが1等級か・・・ロイは再び自分の認識の甘さを改める


服を乾かしたり傷を癒したりなどに時間を取られ、再出発したのは3時間後だった
入口のケートゥスの死骸を砕きながら横を通り、奥へ奥へと進んで行く
思ったより洞窟は深くなく、300メートルほど行ったところで抜けた
そして、そこに待っていたのは水だった

目の前にあるのは水の塊、重力に反してドーム型の半円を維持している
水は青く綺麗だが中までは見通せない
大きさは直径50メートルほどだろうか、高さは25メートルほどある

「これが聖域?」

サラが素直な感想を言っている

「そうなんだろうな、こんなもの見た事がない」

ロイが答えた、彼の知識にもこんなものは無いようだ
全員がジーンへと目が行く

「私も知らないよ」

シャルルががっかりだよ!と文句を言っている

「さて、どうしたものかね・・・」

シルトはドーム型の水を眺め、目を細めた





スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック