2016_04
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(Wed)15:15

3章 第9話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第9話 【名前】

ついに物語は大きく動き出します!!
ふぉおおおおお!(゚∀゚)

続きを読むからどうぞー。







【名前】







エイン達一行が聖アムリタ城を訪れ、今現在は王の間で待たされていた
かれこれ30分は待たされているが一向に王は姿を現さない
痺れを切らしたクーが侍女に状況を聞きに行っている
すると、王の間の左奥の大きな扉がギギギと音を鳴らして開いた

そこから現れたのは綺麗な格好になったルアだった
しかし、ルアは先程エイン達を城へ通した後にダヌの街へと戻っている
不思議に思ったエインはその人物の動きを逃すまいと観察していた

足の運び方、身の振り方の違い、それらに違和感を覚え
本当に同じ人物なのか?という疑いすら湧いてくる

「レンブラン皇子」

ディムナとクーが膝を折り、頭を垂れてその人物の名前を言う
レンブラン・ノイシュタット・リ・アムリタ、そうルアの双子の兄だ
身長や体格、顔つきまでもルアに瓜二つの彼はもう1人の皇子であった

「よい、面をあげよ」

レンブラン皇子の声はルアと全く同じだった

「皇子、陛下は」

「父上は来ない」

「何故でありましょうか、他国・・・神の聖域よりの和平の使者でありますぞ」

クーは僅かな苛立ちを隠しつつ、レンブランへと問う
我が王は何をしているのだ、何故このような重要な場に姿を現さない
その疑問にはレンブランが即座に応える

「父上は病に伏した、しばらくの間は宰相であるボツダムが政は仕切る」

「や、病ですと!」

「王はご無事なのでございましょうか!」

二人の聖騎士団長の慌てる顔を見て、レンブランは鼻で笑う

「何、大した事はない、心配するな」

「そ・・そうでありますか・・・」

「そんな事より、使者とやらは何処か」

そんな事・・・だと・・・
ディムナとクーは震える拳を隠し、歯を噛み締める

「はい、わたくしで御座います、皇子」

「ほぅ・・・では、聞こうか」

レンブランはミラの身体を舐めるように見つめ
ゆっくりと歩き、玉座へと腰を下ろす

『なっ!皇子!』

「なんだ」

見下すような冷たい眼差しがディムナを捉える

「・・・・そこは王の玉座、皇子と言えども座ってはなりませぬ」

「今は有事である!・・・使者殿、続けよ」

ディムナは歯をギリっと噛み締め、一歩前へと出ようとするが
その肩をクーが掴み、彼は目を瞑ったまま首を横に振った

「はい、わたくしはドラスリア王国ラシュフォード家が三女
 ミラ・ウル・ラシュフォードと申します、お会い出来て光栄に御座います」

レンブランはミラの丁寧な挨拶を舐めるように見つめ、片肘をついて舌を這わす
その姿を見たミラは背筋に冷たいものを感じていた

「単刀直入に申し上げます、ラルアースへの進軍を即刻やめていただきたい」

「ほぅ・・・」

「ラルアースには4つの国が御座います
 我がドラスリア王国、カナラン、ラーズ、ネネモリ
 それらの国々は死者の軍勢に対し不快感を現わにしております」

レンブランはミラの話を聞きながら足を組む
その態度にミラの腸は煮えくり返りそうになるが、その感情は押し殺して続けた

「仮に進軍をお止めになるつもりが無い場合
 ラルアースにある4つの国々と事を構える覚悟をして頂きたい」

「くっくっく・・・和平の使者とは名ばかりよの、とんだ食わせものではないか」

レンブランが高笑い、そしてミラを睨みつける

「それは脅しと受け取ってよろしいか、ドラスリアの女よ」

「いえ、そのような事は御座いません、わたくし達は争う気などありませんわ」

沈黙・・・・長い沈黙だった
その間、ミラとレンブランの睨み合いは続いた
空気は張り詰め、まるで重さを得たかのように肌にまとわりつく

静まり返った王の間に突如扉を開ける大きな音が鳴り響く
扉を開いて入って来た人物、ふくよかなその男の名はボツダム・アーヘン
アムリタの宰相を任されている男だ

「ボツダムよ、遅いぞ」

レンブランがニヤけながら顎で来いと合図を送る
そそくさと小走りにレンブランの横へと陣取り
ボツダムは胡麻をするような手つきでレンブランに耳打ちをする
すると、レンブランは一瞬眉間にシワを寄せるが、すぐにニヤけ顔へと戻った

「ラシュフォード嬢、貴女の話に乗ってやってもよい」

「有難う御座います」

「だが、1つ条件を付けさせてもらおう」

「条件と言いますと?」

「ラルアースの民の死体を寄越せ」

『な!何をバカな事をっ!』

叫んでしまったのはエインだった
彼はここまで黙って話を聞いていた
レンブラン皇子の数々の失礼な態度、それらはまだ目を瞑っていた
だが、これには目を瞑る訳にはいかない

「一国の皇子にバカとは・・・・貴様、何様だ」

レンブランの目から光が消え、明確な不快感を現わにする

「し、失礼しました、ですが皇子よ、聞いていただきたい」

「・・・・続けよ」

「アムリタでは分かりかねますが
 ラルアースの民は死者を労働力や軍事力に利用するなど許されぬ行為なのです」

「で?だから何だと言うのだ
 貴様等は和平を結びたいのであろう?ならば譲歩するのが筋ではないか」

「しかし!」

エインが熱くなりかけると、隣にいたリリムが片手で制し、一歩前へと出た

「横から失礼致します、皇子」

「ふむ・・・名を聞こう」

レンブランの舐めるような視線がリリムの身体を這いずり回る
その視線を無視し、リリムは真っ直ぐな瞳を向け、口を開く

「私は死の巫女、リリム・ケルトと申します」

「ほぅ・・・貴女が死の巫女、巫女とは此の様に美しき者なのか」

「お褒めの言葉ありがとうございます
 私は死の巫女、死を司る神に使える者です
 ダヌの街で死者・・・ゾンビとおっしゃいましたか・・・を見てきました」

「続けよ」

「彼の者達は死の神に対する冒涜、神はお怒りになられております」

「・・・・」

「アムリタの方々はラルアースを神の聖域とおっしゃいます
 その神の聖域の民、神民を皇子はゾンビにするから差し出せとおっしゃいますか」

「そう申しておる」

「死の神を侮ってはいけません」

「ほぅ・・・」

リリムは胸に手をあて、目を瞑り、死の神との繋がりを感じ取る
そして目を見開き、彼女は言った

「これ以上死者の冒涜を続けるようならば、死の神の裁きが下るでしょう」

「くっ・・・・くっくっく・・・・はーっはっはっはっは!」

突然笑い出したレンブランに一同が驚き、皆が彼を見た
笑い終えたレンブランは狂気に満ちた表情へと変わり果て
歯を見せ笑いながらリリムを指差す

「死の巫女よ、この6000年、神が世界に介入した事などない
 やれるものならやってみるがいい・・・くくっ・・はーっはっはっはっは!」

話にならない、それがエインやリリムやミラの受けた印象だ
この皇子は狂っている、血に飢えている、争いを望んでいる
ここまで来たらもう答えは1つしかない
ミラは決意し、一歩前へと出た

「申し上げます、レンブラン皇子」

「なんだ」

「ラルアースの民をなめるな」

「っ!」

ミラの怒りに満ちた眼差しに、レンブランは僅かにたじろぐ

「わたくしの愛した地、ラルアース
 そこを汚す者をわたくしは許さない」

「では、祭を始めようではないか、生者と死者の戦いという祭を」

ふははははは!と高笑いするレンブランを残し、エイン達一行は王の間を後にした
城の外へと向かう一行には複雑な感情が渦巻いている
オエングスがエインの元へと歩み寄り、声をかけてきた

「ヴァンレン卿、悲しい事に我等はアムリタの聖騎士
 敵となれば剣を向けなければなりません・・・・たとえそれが間違っていようと・・・」

「戦争ですから仕方ありません、軍人とはそういったものですよ」

「本当に戦争など・・・くそっ」

オエングスが唇を噛み締め、その美しい顔立ちにシワが走る
ディムナとクーも今回の戦争に本心では反対だ
しかし、国が決めた事、それは従わねばならない、聖騎士として忠義を誓っているのだから

「ディムナ、俺は戦の準備に入る」

「分かった、俺は巫女様達を無事に街の外へと案内した後に合流する」

「頼むぞ」

「任せろ」

二人は拳を合わせ、微笑みあった
クーと別れてからしばらくして、城門辺りに差し掛かった頃
1人の侍女が大慌てで走ってくる

『オエングスさまーー!』

侍女はディムナに敬礼をする事もなくオエングスの元へと駆け寄り
1枚の手紙を彼に渡し、オエングスの耳元で小さく呟く

「マリアンヌ様からで御座います、急ぎとの事です」

侍女から手紙を受け取ったオエングスは無言で頷く
オエングスから離れた侍女は慌ててディムナに何度もぺこぺこと頭を下げていた
そして一行は城門を抜け、貴族街を抜け、市街地へと入る
その間、青の大鷲達がエイン達を守るように陣取り、重たい空気が流れていた



市街地でワンちゃんと遊び終えたシャルルとジーンとラピと合流し
一行はダヌの外へと足を運ぶ

「なんか凄い事になってんね」

「だね・・・どうなっちゃうのかなー」

「戦争だろうね、仕方ないよ」

「ワンちゃん平気かな・・・・」

「心配だね」

ハーフブリードがそんな会話をしている横でオエングスは先程の手紙を開封する
文面に目を這わせたオエングスの表情が見る見るうちに曇っていった

「どうした、オエングス」

ディムナが彼の変化に気がつき、近寄ってみると
オエングスの両手はガタガタと震え、その目には涙すら浮かべている

『どうしたのだ!オーグス!』

両肩を掴み、揺さぶって叫ぶ
すると、オエングスは両膝から崩れ落ち、俯いて呟いた




「王が・・・・崩御なされた・・・・・」




オエングスが読んだマリアンヌからの手紙には驚愕の事実が書かれていた
彼の読んだ手紙の内容とはこうだ



オーグス、助けてください
私は怖いのです、弟であるレンブランという男が・・・・
弟の暴挙は留まるところを知りません
そしてついに・・・ついに弟は超えてはいけない線を超えてしまいました
弟はその手で王を、父上を毒殺しました
明後日に迫る戴冠式までこの事実を隠そうとしています
今この事が明るみになれば、弟は王の座に就くことができません
この事実を知ってしまった私は弟に監禁されています
助けてください、オーグス
弟レンブランの暴挙を止めてください
もう一人の弟・・・ルアの事をお守りください
お願いばかりになってしまいましたね、ごめんなさい
ですが、どうか、どうかお願いします

親愛なるオーグスへ
                   マリアより


王の崩御、その事実は青の大鷲に衝撃を与えた
その死因がレンブラン皇子の仕業だとマリアンヌ姫直筆の手紙に記されている
ディムナは怒りに震え、青の大鷲の聖騎士達は涙した
そして、オエングスは何かを決意し立ち上がった

「待て、オーグス」

「止めないでください、父上」

「待てと言っている、一人で何が出来ると言うのだ!」

「しかし!これは反乱です!それにマリアが・・・マリアンヌ姫が!」

「だから落ち着けと言っている!」

ガッ!

ディムナの右拳がオエングスの左頬に入り、彼は2歩後ずさる
痛みで僅かながら冷静さを取り戻すが、悔しさや無力さに歯を噛み締めた

「オーグス、今は時ではない・・・分かるか?この事実を知っているのは俺達だけだ
 相手は近衛騎士団、赤の獅子、緑の蛇、死者の軍勢だ、このままでは勝ち目はない」

「では、どうするのですか!」

「ラルアースの方々よ」

ディムナが突然呼び、皆が彼を見た

「力を・・・お貸し頂きたい」

青の大鷲聖騎士団長であるディムナ・マックールが頭を下げる、深く深く頭を下げる
ディムナがこんなにも深く頭を下げる姿は王の前以外では見た事がなかった
オエングスもそれに続き、青の大鷲の全員が頭を下げた

「頭を上げてください、自分は元よりそのつもりです」

エインがオエングスの肩に手を置き、優しい笑顔を向けていた
彼の言葉にミラ、バテン、プララー、アシュ、巫女達は頷いている
しかし、ハーフブリード達はそうではなかった

「戦争、ですよね?」

「そうなりますわね」

「僕らは不参加でいいですかね、無駄死にはしたくないんで」

「1等級ともあろうお方が臆したのかしら?」

「いや、どう考えても人数足りないでしょ、相手何千いるんっすか」

「そうですわね、城内だけでも2000はいるんじゃないかしら」

「ほら、無理ですって、こっちなんて50人程度ですよ?素直にラルアースに援軍を・・・」

「それでは間に合いませんわ、あの下衆な皇子が王になってしまいますの」

「それはそうなんですけど・・・何か策があるんっすか?」

「それは・・・」

と、ミラが言葉に詰まると、エインが代わりに口を開く

「策はあります」

彼の言葉にその場の全員が注目した

「赤の獅子のクー殿は味方になってくれると思います
 どうですかディムナ殿、説得はできると思いますか?」

「もちろん可能だろう、あちらは反乱軍、こちらが正規軍なのだからな」

「では、勝てると思います」

「その根拠は?僕は仲間の命が最優先なんだよ、明確な根拠をくれ」

「はい、死者の軍勢は手合わせした事がありますが、戦力的には大した事がありません」

ふむ、とシルトは腰に手を当て彼の言葉を聞く

「問題は未知数な緑の蛇と近衛騎士団です
 その辺りの戦力はディムナ殿、どの程度か分かりますか?」

「緑の蛇は魔法使いや科学者がその大半だ
 戦力としてはさほどではないだろう
 だが、近衛騎士団は厄介だ、数こそ多くはないが1人1人が猛者なのだ」

「何とかなりそうですね、近衛は俺達が何とかします」

「おっしゃ!仕事だ!仕事!やっと暴れられるぜ!」

アシュが大喜びで槍を力強く握る、その様子を見てプララーは微笑んだ

「力みすぎるなよ」

そういうバテンもまた大剣を握る手に力が入っている

「赤の獅子、緑の蛇は青の大鷲の皆さんに任せてもよろしいでしょうか?」

「もちろん構わない、むしろそうして頂けると助かる」

「待ってください、私はマリアを・・・マリアンヌ姫をお助けしたい!」

「オーグス・・・・・ヴァンレン卿よ、俺からも頼む」

「はい、オエングス殿の力は姫のために」

「あの~・・・ちょっといいっすか」

シルトがペコペコとしながら間に入ってくる

「戦力的にいけるかもなのは分かったんですけど、どうやって入るので?」

そう、この街には3つの強固な門がある
城に近づくにつれその強固さは増していき、兵も多くなる
城門を破るとなると少なからず被害が出る
現状の人数で消耗戦は避けなければいけなかった

「自分は策があると言いましたよ」

エインが自信に満ちた笑顔でシルトに言う
彼のその表情にシルトは黙って聞く事にした

「作戦はこうです・・・」

それからエインの作戦が伝えられる
その作戦にはシルトも苦笑し、ジーンのお墨付きもあり参加する事とした
ハーフブリード達が参加を決意したのはミラのある言葉のせいでもあるのだが・・・

「戦が始まれば城内は混乱しますわ
 その混乱に乗じて宝物庫が荒らされようと誰も気がつかないと思いましてよ」

「ミラ様たまには良い事言うね」

「たまには余計ですわ!」

「それじゃ僕らはかく乱しつつ自由行動でいいんだよね?」

「はい、構いません」

「出来る限り暴れてくださいまし」

「了解了解」

ハーフブリード達がお宝お宝とはしゃいでいる横でマルロがジト目で彼等を見ていた
リリムやイエルも苦笑しており、相変わらずだな、といった感じだ

ミラは正直彼等の言動にはイラつく事もあるが、その実力が圧倒的なのは認めている
彼等の欲する物、それをチラつかせ、味方にすればこれほど頼もしいものはない
中でもジーン・ヴァルターの使う精霊魔法、それがこの戦では欲しかったのだ





着々と戦の準備が進んでいる頃・・・・1人の少女は窓の外を眺めていた
試作半生体"TheOne"、通称ワンちゃんだ
シャルル達と別れ、彼女は自宅である博士の家へと戻っていた


博士とは、TheOneを作った人物・・・ヴィクター・ディオダディ
ヴィクターは20歳の頃、それほど美しくはないがとても優しい妻をもらい
2年後に娘が産まれ、とても幸せな日々を過ごしていた
仕事は医療機器の製造、開発である
彼は100年の1人の天才と呼ばれ、数々の医療機器を発明していった
ヴィクターの代表的な発明は顕微鏡と体温計である
彼の発明は文明を数百年進めると言われているほどだった

順風満帆なヴィクターの人生に転機が訪れる

妻が病に倒れたのだ
その当時の医療技術ではどうする事も出来ず、妻はこの世を去った
残された幼い娘を育てながら、彼は仕事を続けた
娘だけが生きがいだった、だから彼には苦ではなかったのだ

それから5年の歳月が流れる
ヴィクターはある発明を完成させた
それは医学界に激震が走るような発明だった
しかし、彼はこの発明の危険性を恐れ、発表はしない方向で考えていた

そんなある日・・・愛娘が病に倒れる

それは妻と同じ病だった
あれから5年経った今でも、この病を治す手段は無い
ヴィクターは焦った、娘には時間がない
必死に、死に物狂いで治療法を探した・・・・しかし、そんなものは見つからなかった

そして、砂時計は終わりを告げる

愛娘の身体は冷たくなり、死後硬直が始まっていた
ヴィクターは娘の身体を大量の氷に入れ密封する
その後、彼は禁忌の発明に手を出す事となる・・・そう、先日完成したあの発明に・・・

それからというもの、ヴィクターは取り憑かれたように研究に没頭する
人との接点を経ち、部屋に篭もり、仕事を辞め、彼は研究だけをしていた

まず彼が行った研究はこれだ・・・・自身の寿命を延ばす
次に彼が行った研究はこれだ・・・・腐敗しない肉体を作る

この2つの研究にヴィクターは40年という時間を費やした
既にヴィクターの年齢は70近い、本来であれば死んでいる歳だ
だが、彼は1つの方法を編み出したのだ
それは魔石と呼ばれる人造魔力結晶体
その力を使い、彼は半永久的な肉体を手に入れた
いや、それは正確ではないか、彼の肉体は150年程度で朽ちるだろう

時間を手に入れたヴィクターはついに"それ"に手をつける
愛娘であるメアリー・ディオダディの死体だ
少女の身体は腐敗しないよう魔石によって守られていた
メアリーの死体に使われている魔石は腐敗を防ぐ物
それは仮の物でしかない、ヴィクターが計画している前段階に過ぎない

計画を次の段階へと進める・・・・愛娘メアリーの命の創造だ
動力となるのはもちろん魔石だ
魔石の力を効率よく伝達するため、1つの金属を創り出す
それはミスリル、銀、銅、鉛、ニッケル、塩素などなどを混合した金属
合成魔法金属、それをボルト状にし、脳を貫通するようにこめかみに突き刺す
この金属により魔石の魔力の伝達は著しく向上した

しかし、まだ足りなかった

失敗が続く、20年以上だ
ヴィクターはそれでも研究を辞めなかった
辞めるという選択肢すら無かったのだ
彼は狂気に堕ちていた、愛娘を蘇らせるという狂気に・・・

魔石の力が根本的に足りない事がネックだった
現状の魔石は戦場跡にあった死体で試した事がある
蘇った死体は歩き、命令を受け付けたが、自我というものは無かった
そのため、新たな魔石の製造へと着手する
新たな魔石、そのためにはどうしても必要な物があった

ヴィクターは研究の副産物で生まれた発明を売り
研究費を稼いでいたのでお金には困っていなかったが
それは"普通は"お金で買える物ではなかった
普通では手に入らない、しかし裏ではそれは売買されている

生きた人間、だ

脈打つ臓器、心臓が必要だったのだ
それも若い女の物でないといけない、メアリーと同年代のだ
この時、ヴィクターにはメアリーと同年代の
生きた少女の心臓を使う事に罪悪感や嫌悪感は一切無かった
どう手に入れるか、それだけを悩んでいた

人身売買がされているという街まで行った
遠出など久々な事だったが、彼には外を楽しむといった感情はもうなかった
一刻も早く帰り、メアリーが無事か確かめたかったのだ
その街でヴィクターは1人の奴隷の少女を買い取る
年齢はメアリーと同じ8歳だ
肌は褐色だが問題ない、大事なのは中身なのだから

大急ぎで家へと戻り、少女を薬で眠らせる
それは僅かに残った優しさではない、騒がれては厄介だからだ
開胸し、血管を糸で縛り、心臓を取り出す
その心臓を魔石の核となる小さな宝石が入った瓶へと入れ
そこへ、食塩水をなみなみと流し込む
更に、4つの属性の魔法陣が書かれたシートの上に置き
心臓と核の入った瓶を囲むように銀で出来た三角すいを設置した
瓶の中には様々な薬品や高価な魔物の血などが入れられていく
最後に瓶を密封し、蓋に貼ってある魔法陣に1滴だけ液体を垂らす
液体が付着した瞬間魔法陣がボンッと煙を上げ、その紙は燃え尽きる

できたか・・・・

煙がはれると瓶の中にあった心臓やら核やらは姿を消し、1つの石が残っていた
3センチほどの赤黒い小さな石、それこそ新たな人造魔力結晶体・魔石である
瓶から魔石を取り出し、魔力測定機にかける

287000フツ・・・・よし、成功だ

魔力測定機とは魔石の力を測定するためだけに彼が発明した機械である
今までの魔石は67000フツだったので、今回の魔石はおよそ4倍だ
予想以上の結果が出た事にヴィクターは数十年ぶりに笑顔を見せる

ついにこの時が来た
この魔石ならやれる、そうヴィクターは確信していた
メアリーの死体を解凍する・・・・何度も解凍冷凍を繰り返し、彼女の身体は傷ついていた
その度に傷口を縫って塞ぎ、今では縫い跡だらけだ

メアリーの胸を開き、心臓部分にぽっかりと空いた穴に魔石を入れる
すると、魔石から触手のようなものが生え、様々な臓器と連結していく
そして、ドクン・・・という鼓動のような音が響いた

胸を閉じ、観察する
まだ愛娘は目を覚まさない・・・・また失敗か、そう思った時である
何十年も前に見たメアリーの瞳が、自分を見ているではないか

「お・・・おおぉぉ・・・おぉぉ!メアリーよ!!」

問題は自我があるかどうか、だ
言語問題は少しあったが、どうやら言葉は話せるようだ
前に失敗した戦場跡の死体とは大違いの結果だ
しかし、記憶部分は抜け落ちているようだった
時間が掛かりすぎたためか、それは仕方ない事かと思った

「メアリーよ、わしがわかるかね」

「いえ、ももももも、もうしわけありませんです」

「そうか、まだ思い出せないか・・・」

それから1ヶ月、ヴィクターはメアリーと共に過ごした
言葉や知識を与え、身体を動かさせ、本を読ませる
そんな日々が続き・・・・1つの結論にたどり着いてしまう

「お前は・・・・メアリーではないのだな・・・・」

「おとーさん?」

ボロボロになったメアリーの服を着る、メアリーの顔と声の少女
しかし、中身である心や記憶は全くの別人だったのだ

「何でもない、今日からお前はメアリーではなく、試作半生体"TheOne"と名乗れ」

「はい、おとーさん」

「二度とメアリーと名乗るなよ、わかったな」

「はい、おとーさん」

「今日は身体を動かす日だろう?早く行って来なさい」

「はい、おとーさん」

TheOneが家を出て、こんこんと雪が降り注ぐ外へと走り去って行く
その姿を見送ったヴィクターは涙を流して膝をついた

「わしの人生は何だったのだ・・・これほど努力し、苦労しても
 この世は絶望しかわしに与えん・・・・いったい何のために生きてきたのだ」

ヴィクターはゆっくりと起き上がり、椅子を移動させた

3時間後、TheOneが日課である運動を終えて戻ってくる
家の扉を開けると、そこには普段と違う光景が広がっていた

「おとーさん?ななな、何をしているのです?」

しかし返事はなく、TheOneは父の元へと歩み寄る
父の身体を揺さぶり、彼の身体がゆらゆらと揺れ、天井辺りでロープが軋む音が響く

「おとーさん?眠っているのです?」

起こしては悪いと思い、TheOneはおとーさんを見上げたまま数日が過ぎる
おとーさんから糞尿が垂れ流れ、それを掃除し、再びおとーさんを見上げる
あれからおとーさんは一切返事をしない
1ヶ月が過ぎようとしていた頃、おとーさんに変化が起こる・・・肉が腐り落ちたのだ
寒い地域なため時間が掛かってしまったのである

「おとーさん・・・・・おとーさんは死んでしまったのです」

状況を理解したTheOneはヴィクターの遺体を下ろし、庭に埋葬する事にした
埋め終えてからTheOneは気づく、頬を伝う水分に

「おとーさん、これは何です?教えられてないです」

お墓の前でしゃがみ込み、TheOneは一人呟く

「私はどうしたらいいです、おとーさん・・・・おとーさん」

彼女はそこから数日動かなかった

それから彼女は街を歩いた
街には自分と同じようなボルトが刺さった人物が数名いた
話しかけるが返事はなく、不思議に思っていると1人の男が近寄ってくる

「お嬢ちゃん、ちょっといいかい」

「はい、なんです」

蛇のような男、それがTheOneの感じた第一印象だった
おとーさん以外と初めて喋った喜びを感じながら、TheOneは会話を続ける

「へへ、こいつは凄い、誰が作ったんだ」

「私です?私は試作半生体"TheOne"です
 私を作ったおとーさんはヴィクター・ディオダディです」

「ヴィクターの!なるほどなるほど、そういう訳か・・・あのゾンビは彼が作ったのだな」

「おとーさんのお知り合いです?」

「あぁそうとも、彼とは親友だよ」

「おとーさんは死んでしまいました、です」

「そうかそうか、それは残念だ、なら君は独りなのかい」

「はい、です」

「俺と来るかね、TheOneよ」

「・・・・・」

TheOneは悩んでいた、おとーさんからはなるべく人目につかぬよう生きろと教わっている
よく知りもしない人に着いて行っていいものだろうか、そう悩んでいた
すると、突然男はTheOneの腕を掴み引っ張る

「いいから来い!」

「っ!やめてください、です」

右腕が強く引っ張られ、肉が裂けていく音が鳴る

ブチブチッ

「あっ・・・」

「ひっ!」

TheOneの腕がもげ、気味悪がった男は腕を投げ捨てた
それを拾ったTheOneは大急ぎで腕を拾い走り出す
そう、彼女は逃げたのだ
男は追って来るが、TheOneの足は人間の比ではないほどに早い
彼女は逃げる・・・外は怖い、その記憶が脳裏に刻まれた瞬間だった
その後、彼女は数十年家の中に引き篭る

ヴィクターが溜め込んでいた本という本は何度も読み
毎日を退屈に過ごしていた・・・しかし、外への恐怖から彼女は家から出なかった

だが、そんな生活にも終わりは訪れる

雪が降っていた、おとーさんと最後に会話した日のようにこんこんと
何気なく、本当に何気なく外に出てみたくなった
それはおとーさんから言われていた身体を動かす日を思い出したからだろうか
定かではないが、彼女は無意識に外へと足を進ませていた

雪、真っ白な雪はまるで彼女の心のようだ
何の汚れも知らず、何も知らず、無垢な彼女のようだった

TheOneは道端に作られていた雪だるまが気になった
まるで人を模したようなそれに興味を惹かれ、彼女は作ってみようと思ったのだ
辺りに人がいない事を確認し、綺麗な雪を集めて作っていく
そう、おとーさんの雪像を・・・そして出会ったのがハーフブリード達だった


窓の外を眺めながら、初めて出来たお友達を思い出しワンちゃんの頬は緩む
今日も遊んでもらえた、明日も遊んでくれるかな、そんな思いを馳せている
外は怖いものと思い込んでいた
だが、出てみたらこんなにも素晴らしい世界だった

新しい名前もつけてもらった
本当はメアリーという名前を使いたい、だがそれはおとーさんに禁止されている
試作半生体"TheOne"、この名前はあまり好きではなかった
おとーさんが悲しそうな顔でつけたこの名前は好きにはなれなかった
そのため、笑顔でシャルルがつけてくれたワンちゃんという名前は
彼女にとって特別なものとなっていた

すると、窓の外に人影が見える
こんなボロ屋に珍しい・・・何の用だろう?
人が訪れるなど20年ぶりだろうか
前回訪れた人物は幼い子供が5人だった
彼等は度胸試しにお化け屋敷と言われているこの家を訪れた
そこでワンちゃんを見て、大慌てで逃げ出したのだ

人影は複数あった
それは家を取り囲むように移動していく
全員が黒いフードを被っているのが特徴的だった
その背には緑の蛇の紋章が刻まれている

ワンちゃんは外に出て話をしようと思った
外の世界は怖い人達ばかりではない事を知ったから

ガチャ・・・

玄関の扉を開け、彼女は外に出た





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