2016_04
20
(Wed)16:58

3章 第10話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第10話 【痛み】

最近フォールアウト4やってて更新遅れてます、ごめんなさい!

では続きを読むからどうぞー。








【痛み】







「ドリスケル隊は右翼より後方を囲め」

「我等が兄、レヴィのために」

「レヴィのために」

グラン・カラディンは部隊に指示を出し背中に隠し持つ槍に手を伸ばす
弟のドリスケル・カラディンが配置についたのを確認し、ハンドサインを送る
その時、目標の家の扉が開いた

ガチャ・・・・

玄関の扉から頭を出した少女は、鮮やかなピンク色のツインテールをフリフリと揺らし
感情を感じさせない瞳で辺りをチラチラと見ている

「あのぉ・・・お話がしたいです」

これは予想外だった、目標から接触を図ってきた
好都合、まさに好都合・・・・グランは茂みから姿を晒し、少女の前へと立つ

「こんにちは、お嬢ちゃん」

「こんにちは、です」

「そんなところに隠れてないで、出てきたらどうだい」

「あ、はい、です」

ワンちゃんが扉から外へと出て来ると、グランがハンドサインを送る
一斉に辺りに隠れていた部隊が動き出し、ザザザッと草木を鳴らす

「どうかしたです?」

「なんでもないよ、お嬢ちゃん
 それより、君は一人で住んでいるのかい」

「はい、です」

「ここは、ヴィクター・ディオダディ博士のお宅で間違いないかな?」

「はい、です・・・・おとーさんのお知り合いです?」

「あぁ、そうだとも、彼とは親友さ」

その返しは失言だった、それはあの時のレヴィと同じ返しだったからだ
ワンちゃんは警戒レベルを最大まで引き上げ、目を瞑り、辺りを調べる
彼女には辺り一帯の地形すら手に取るように分かる
そこで動く命ある者全ての鼓動すらも手に取るように・・・

「嘘・・・・です」

「チッ、やれっ!」

グランの合図で一斉に男達が草むらから飛び出し、ワンちゃんへと走って行く
男達の手には短い槍(ショートスピア)のような武器が握られており
明確な敵対の意思を表示していた

一人の男がワンちゃんへとショートスピアを振るう
それをワンちゃんはひらりとかわし、片足で大地を蹴る
すると大地は炸裂し、地面はえぐれ、男は体勢を崩して転んでしまった

全員の視界から少女が姿を消し、グランが上を見上げると、そこには少女が浮いていた
10メートル・・・一蹴りで10メートルの跳躍である
その姿にグランの額に冷たい汗が流れた

『上だ!』

グランが叫び、全員が少女を目視する
ワンちゃんがふわっと着地すると、男達は8~10メートルほど距離を取っていた
少女を囲むように15人の男達は立っている
先程転んでしまった男はワンちゃんの足元でガクガクと震えていた

「ドリスケル!例のあれをやるぞ!」

「応!」

カラディン兄弟の合図で15人の男達が一斉に懐からある物を取り出す
彼等の手には細いボルトのようなものが握られていた
それには見覚えがある、街を歩くゾンビ達に刺さっている物だ

グランが煙玉を投げ、ワンちゃんの視界を奪う
それと同時に15人の男達が同時にそのボルトを投げた
しかし、ボルトはワンちゃんを狙ったものではない
ボルトはワンちゃんから50センチほど離れた地面に刺さる
直径1メートルの円形状、ワンちゃんを取り囲むように15本のボルトが地面に刺さった
ドリスケルが懐から薄い紫色の石を取り出し、それをワンちゃん目掛けて投げつける

ワンちゃんには何が起こっているのか理解できていなかった
しかし、不味い状況なのはおおよそだが理解している
逃げよう、そう思って行動しようとすると・・・足が動かない
あれ?どうしてです?手も頭も動かない、どうしてです?
完全に動かないという訳ではない、しかしこの状況下で動きが鈍いという事は命取りだ
動揺、一瞬の隙、それらによりワンちゃんの行動は1つ1つ遅れていく
ドリスケルの放った紫の石をかわせる時間は既に無い

薄紫色の石、それは魔石だ
緑の蛇団長レヴィ・コナハトが作り上げた最高傑作
彼の40年の集大成とも言える魔石だった
魔石はワンちゃんの頭上で停止し、魔石から溢れる紫の雷がボルトへと落ちる
その様子はまるで雷の檻のようでもあった

『うっ・・きゃああああああああああああああああ!』

ワンちゃんの悲鳴が響く
彼女は"痛み"というものを感じていた
痛覚などない彼女にとってはそれは初めての事であり
その痛みは恐怖へと変わっていく

「い、いや、いや、やめてください、です」

彼女は膝をつき、両手で頭を守るようにその場でうずくまる

「助けて、助けて、おとーさん」

少女は泣いていた、痛みが、恐怖が心を支配していく
次第に魔石の力が弱まり、紫色の雷は止んでいく
ドリスケルが中空に浮かぶ魔石を掴み、それを懐にしまうと
うずくまり、ガクガクと震える少女のツインテールの片方を鷲掴みにする
そしてそのまま持ち上げ、少女の身体はだらりと宙に浮く

「いや・・・いや・・・助けて・・・」

ワンちゃんは恐怖で涙を流しながら助けを呼び続けていた

「おい、TheOne」

「いやっ!助けて!」

『おいっ!!』

「ひっ」

「もう痛いのは嫌だろう?なら大人しく着いてこい」

「・・・・はい、です」

ドリスケルが髪を離し、ワンちゃんは地面へと落下する
その後、ワンちゃんの両手には例のボルトと同じ素材でできた手枷がはめられ
グランとドリスケルのカラディン兄弟率いる緑の蛇に連行されて行った・・・






翌日・・・・明日に王の戴冠式が迫る昼下がり
オエングス・オディナは3台の巨大な荷馬車を連れて城へと向かっていた
其々の荷馬車には大きな木箱が幾つも乗せられており
1台の荷馬車を馬2頭で引かなくてはいけないほどの大荷物だ
これらの荷物には武器、甲冑、食糧"など"が入れられている

ダヌの街を取り囲む壁の外側にある青の大鷲聖騎士団兵舎
今の彼等はここで寝泊りをしている
王城の周りにある聖騎士団の宿舎は交代制で使っており
3つの聖騎士団のうち1つが城の防衛として駐留している
今は赤の獅子がそれであり、青の大鷲と緑の蛇は外を守っていた

そのため、オエングスは兵舎へ戻り、武器などを荷馬車に積み込み
それ等を城へと運び、戦争に備える手筈となっていた

「で、なんでこんな事になってんの?」

不満そうに言うシルトの声はどこか苦しそうでもある
こんな事というのは他でもない、彼等の居場所についてだ
ハーフブリード達は光が一切届かない真っ暗な密室に閉じ込められていた
室というのは間違いか、厳密に言えばここは密封された場所である
いや、場所というのもおかしな言い方だ
正確に言えばここは完全密封された木箱の中という事になるからだ
目立たない場所に空気穴はあいているが・・・

「解ってたとは言え、ちょっと狭いね」

「せ、狭い・・・ジーンもっと詰めて」

「無理だよ」

「うぅ、苦しい」

サラは体勢が厳しいのか、若干呼吸が苦しそうだ

「ほら、サラが苦しそうじゃん!シルさんもっと詰めて!」

「いやいや、無理っしょ」

「ウェールズ大丈夫?」

アギャアギャ!

「ちょっとどこ触ってんの!シルさん!」

「え?僕?触ってないよ」

「絶対今触ったから!シルさんのえっち!」

「はぁ!?こんな状況で、んな事するわけないっしょ!?」

こんな状況・・・・そう、彼等は1つの木箱に押し込められている
木箱は大きいとは言え大人が4人、(体型は)子供が1人入るには狭すぎる

「ほら!またお尻触った!」

「僕じゃないっての!」

アギャ?

「・・・・・」

「・・・・・」

「ウェールズじゃないの・・・」

「そうかも・・・ごめん」

アギャアギャ!

ウェールズがはしゃぎだし、狭い箱の中で暴れまわる

「ちょ、ウェールズ、落ち着け、痛たたた」

「ダメだよー、ウェールズー」

わーわー、きゃーきゃー、と騒がしい彼等の木箱にコンコンという音が響く
皆がビクッと身体を強ばらせ、箱の中は一瞬で静かになった

「ハーフブリードの方々、もう少し静かにしてもらわねば・・・」

外から曇った音でオエングスの声が聞こえる

「頼みます、もうすぐ城門です」

「「「「「はーい」」」」」

オエングスの気配が無くなり、ハーフブリード達は声を殺して話し出す

「ほら、シャルルのせいで怒られたじゃん」

「シルさんのせいでしょ」

「もう喧嘩しないの」

「そうだよ、見つかったら大変だよ」

「早く外出たいねー」

そんな会話をしているとお尻に伝わる振動が止む、荷馬車が停止したのだろう
ハーフブリード達は息を飲み、気配を消すことに集中した

『アムリタ聖騎士団"青の大鷲"が一人、オエングス・オディナ!』

赤の獅子の門兵達がオエングスの顔を見て門を開く
しかしまだ荷馬車は動き出さない、荷物のチェックが入っているようだ

「荷は武器、甲冑、食糧、でよろしいですか?」

「あぁ、ディムナ団長より頼まれたのだ」

「お疲れ様です」

一人の門兵とやり取りをしている間に他の兵が荷をチェックする
オエングスはなるべくそちらを気にしないようにしてはいるが
内心穏やかではいられない・・・その中の1つにハーフブリード達が入っているからだ




では、なぜ彼等ハーフブリードが木箱に押し込められる事となったか説明しよう
それには時間を少し戻さねばならない・・・事の発端は昨日である
昨日、エインが言い出した策、それが彼等を木箱へと押し込める事となった

「作戦はこうです・・・・これは自分が以前に城を落とした時の策なのですが
 単刀直入に言うと、ハーフブリードの方々は先行してもらい城に潜入していただきます」

「は?」

シルトの表情が一変し、不快感を現わにしている
だが、ジーンが手で制し、エインに続けるよう手で合図を送る

「まず、オエングス殿に荷を運んでいただきます
 戦争が始まるのです、武器や食糧など運ぶ物は多いでしょう」

「そうですね、普段ならそういう流れになります」

「そこで、その荷物にハーフブリードの方々を隠します」

「は?」

「シルさん、落ち着いて」

「いや、見つかったら殺されるじゃん」

「いいから、全部聞いてからにしよ」

「・・・・」

ジーンがエインを見て頷くと彼は話を続けた

「大きな木箱に彼等を隠し、大量に荷に紛れ込ませます
 そして、あの壁を越え、時が来たら中から門を開けていただきたいのです」

「なんで僕らなのよ」

「シルさん」

「これは可能性の問題なのですが
 仮に赤の獅子をこちらに引き入れられなかった場合です
 その場合、オエングス殿が窮地に立たされてしまいます
 それではマリアンヌ姫の奪還は叶わず、門の突破で疲弊し、我々は負けます」

「ふむふむ」

「潜入には少数でなければなりません
 少数で赤の獅子とやり合え、確実に門を開く事の出来る人物
 それは今この場にいる中ではハーフブリード以外有り得ないのです」

シルトは目を瞑り考え込んでいる
まだ彼を説得できるだけの要素が無いのだ

「ジーン殿の精霊魔法は以前見せていただき、その絶大な力は知っています」

「日に2回しか使えないけどね」

「十分です、仮に300の赤の獅子に囲まれようと
 ジーン殿の精霊があれば逃げる事くらいは容易いかと思います」

「まぁ、ジーンさんの精霊は容赦ないから出来るだろうけど・・・」

「ディムナ殿」

エインが突然ディムナを見て言う

「今回の戦、どれほどの覚悟がお有りか」

「覚悟とは」

「城を潰しても宜しいか」

「・・・・・構わん、城が壊れようと国は壊れん」

この青年、あの澄み切った瞳で何て恐ろしい事を言う
城を落とす策といい、肝の座り方といい、エイン・トール・ヴァンレン・・・侮れない男だな

「ジーン殿、時が来たら精霊を頼みます」

「それはいいけど、火の海にしちゃっていいの?」

「構いません、開門後は出来る限り大きな騒ぎを起こしていただきたい」

「解った、でも沢山死ぬよ?」

「これは戦です、やむを得ません」

「そっか、殺すなって言われたらどうしようかと思ってた、殺すのは簡単、任せて」

すると、しばらく黙っていたシルトが口を開く

「やれるってのはだいたいは分かった、でも決め手に欠ける
 僕らがやりたいと思える要素が無い、何かないの?それに見合う報酬は」

シルトの言う報酬についてエインが悩んでいると
ミラが1歩前へと出てシルトを見て言う

「戦が始まれば城内は混乱しますわ
 その混乱に乗じて宝物庫が荒らされようと誰も気がつかないと思いましてよ」

「ミラ様たまには良い事言うね」

シルトの表情が明るくなり、普段の緩さが戻ってきた

「たまには余計ですわ!」

ミラは顔を真っ赤にして反論している
その様子がおかしくて、数名が笑っていた

「それじゃ僕らはかく乱しつつ自由行動でいいんだよね?」

「はい、構いません」

「出来る限り暴れてくださいまし」

「了解了解」

突入後の作戦はディムナの案が採用される
ハーフブリードは門を開き、騒ぎを起こし場をかく乱
ディムナ率いる青の大鷲は赤の獅子の説得と緑の蛇の排除
ミラ、イエル、マルロ、カナラン神殿騎士団は不死の軍団を相手にする
エイン、リリム、ドラスリア王国騎士団はオエングスに加勢し
近衛騎士団の排除、マリアンヌ姫の奪還、レンブラン皇子の拘束が役目となった

そして、ディムナは1つ付け足す
今後のアムリタにとって最重要とも言える作戦を・・・・




こうして彼等ハーフブリードは木箱へと押し込められる事となったのだ
開門や陽動などやる事はあるが、彼等にとってはそんなものはオマケである
彼等の目的は1つ、宝物庫だ
国の宝、それはハーフブリードがどれほど冒険を繰り広げても出会えない宝の数々だろう
高鳴る胸を押さえ込み、今は鼓動すら聴こえないよう息を潜めていた

「荷は調べ終わりました、どうぞお通り下さい」

ゆっくりと巨大な荷馬車が動き出し、門を通り抜けて行く
そのまま城をぐるりと回り込み、城の北側へと行き
青の大鷲の兵舎前で停止した

馬車が止まった事で緊張の糸が切れたハーフブリード達は大きな息を1つ吐き出す
すると、誰かが近寄ってくる気配がし、再び息を潜めた

「着きました、そのまま時が来るまでお待ちください」

オエングスの声が聞こえ彼等は安堵した
どっと疲れが襲ってきて乾いた笑いが洩れる

「ここで合図聞こえますかね?」

「おそらくは大丈夫だろうと思います・・・が
 合図があったら念のため私がこちらに来ます」

「頼みます」

「では、これにて」

オエングスの気配が遠ざかり、ハーフブリード達は息を潜める
これからが大変だ、このままの体勢で半日以上耐えなくてはならない
少しでも休息が取れるよう、各々が楽な体勢になるよう話し合いながら位置を決めていく
普段は騒がしい彼等だが、見つかってはいけない状況や
戦争前の緊張感からか、口数も少なく、静かな時間が流れていった




その頃、エイン達はある場所を訪れていた
狭い路地に入り、まるで隠れ家のように目立たぬ場所にある酒場
独特な雰囲気と臭いの漂う場所だった
これで訪れる酒場は4軒目だ

ボロボロの入口の扉を開き、中へ入るともわっとした空気が肌にまとわりつく
それは外の寒さと中の暖かさの違いだけではない
換気など全くしていないような、よどんだ空気とでも言おうか
ミラは顔をしかめ、口にハンカチを当てていた

小奇麗な格好をし、武装した連中が入ってきたのだ
客の誰もが彼等に注目するが、睨むという行為のみで動く気配はない
場違いな奴等にはさっさと出て行ってもらいたいところだが
ここにいる連中は自ら他人に関わるような物好きは居なかった

「今度は当たりだといいのですけど・・・」

ミラが店内を見渡していると

「おい、入るなら入る、酒を飲むなら飲む
 でなければ帰ってくれ、他の客の迷惑だ」

カウンターに立つ店主と思わしき人物がエイン達に言う
その目は警戒しているようにも見える

「失礼しましたわ、人を探していますの」

「人探しだぁ?知らねえな」

「まだ誰を探しているとも言っていませんわ」

「・・・・チッ」

「ただで、とは言いません・・・こちらでいかがかしら?」

懐から金貨を1枚取り出しカウンターへと置く

「どこの金貨だ?初めて見たぞ」

店主はそれを手に取り疑いの眼差しで見ている
光に透かしたりもしているが意味があるのだろうか

「ラルアースにあるドラスリア王国の金貨ですわ」

「ラルアース?!あの魔の森の先にあるという場所か」

「そうですわ」

「ほぅ・・・」

店主がこれは金になると解り顔がニヤける

「で、誰を探してるんだ」

「ルーゼンバーグ・アインシュタット・リ・アムリタ」

「なんだ、ルアの知り合いか」

「あら、ご存知なので?」

「そりゃな、なにせ奴はここの常連だからな」

「今日はいませんの?」

「どうだったかなぁ・・・・」

すっとぼけるように店主は顎に手をやり、天井を見上げる
もっと金を寄越せという事なのだろう、その手は指が3本立てられていた
ミラは1つため息をし、懐に手を伸ばそうとする・・・が、エインがそれを止めた

「店主、1つ聞きたい、本当に居場所を知っているのか」

「あ?知ってるとも」

「では、ここにいる皆に問いたい、ルーゼンバーグ皇子は何処か」

「チッ」

「最初に教えてくれた者には酒を奢ろう」

今まで黙っていた客達が一斉に立ち上がり、ルアの居場所を同時に言う

「「「「「「「奴なら上だ!」」」」」」」

俺が先だ!いや俺だ!と騒ぎ始めるが、エインが銀の右腕をカウンターにドンっと叩きつける
その音で一瞬で静かになった店内で彼は言う

「店主、これで皆に酒を」

懐から金貨2枚を取り出し、カウンターへと置いた
客達が一斉に歓声を上げ、好き放題に酒を注文し始める
エイン達は店の奥にある階段を昇り、その先にある一室へと足を運んだ

コンコンッ

ノックをするが反応はなく、ドアノブを捻るが鍵が掛かっていた
もう1度ノックをするがやはり反応はない
仕方ない、今は時間が惜しい・・・エインは右腕に力を込めた

メキッ

鍵など無視をしてドアノブをねじ切る
ドアは力無く開き、中で居留守をしていたルアが飛び起きた

「な、なんだ!なんだ!」

「失礼します、皇子」

「あ、あんたはヴァンレン卿・・・だったか」

「はい、お迎えに参りました」

「迎え?どういう事ですか」

ルアが隣で寝ていた女に6シルバー渡し出て行くよう促す
女は何かを察し、半裸のまま慌てて部屋を出て行った

「ルーゼンバーグ皇子、お父上が崩御なされました」

「は?・・・・はぁ?何を言っているんだ、君は・・・言っていい冗談と・・・」

ルアは信じられないとでも言いたげな顔だったが
エインの真剣な表情に状況を理解する

「そうか・・・父上は安らかに逝けたのか」

目には涙を浮かべ、彼は優しい笑顔になった

「・・・・それが、そうでもなさそうなのです」

「どういう事だ!」

表情は一変し、ルアはエインを刺すような視線で睨みつける

「落ち着いて聞いていただきたい・・・・」

エインはマリアンヌからの手紙を一字一句違わず伝える
ルアの表情はみるみる変化し、絶望とも言える表情になっていた

「バカな・・・いくらレノでもそんな・・・・バカな」

「皇子、気をしっかり」

「いや、待ってくれ、解っている・・・・解っているが・・・・」

エインが嘘をついていないのは目を見れば解る
自分の洞察力には自信があるのだ

「今回のマリアンヌ姫救出、ご同行して頂きたい」

「何故僕なんだ」

「こちらが正規軍だという証拠が必要なのです」

『君は僕にレノと殺し合えと言うのか!』

彼は泣いていた、大粒の涙をボロボロと流し
綺麗な顔立ちは歪み、感情を現わにしていた

「・・・・・はい」

エインは目を伏せ答えた、解っていた、その返事が来る事など
解っているのだ、今がそんな場合ではない事も
だが、兄だぞ?双子の兄だぞ?その兄に剣を向けるなど・・・
ルアはずっと避けてきた、こうなる事を
しかし、結果はこれだ、今までの道化は全て無意味だった

痛い、痛い、痛い、痛い、心が痛い
もう嫌だ、何でこうなってしまう、僕はそんな事を望んでいない
どうして望まぬ方向ばかり行くんだ

絶望、虚無、それらの感情が心を埋め尽くしていく

何も考えたくない、何もしたくない、そう思い始めるまで時間は掛からなかった
ルアは無表情になり、黙り込み、人形のように成り果てる

パンッ!

突然乾いた音が響き、頬に熱を感じる
次第にじんじんと痛みが広がり、目を上げると金髪の少女が立っていた
ミラ・ウル・ラシュフォード、彼女は目に涙を溜めながら歯を食いしばっている

『貴方は!貴方は皇子です!立ちなさいっ!!』

ミラが彼の腕を引っ張り、無理矢理立たせる

『貴族は、王族はこのような時のためにあるのです!』

「・・・・・」

『王族としての責任を果たしなさい!その命で!』

ミラは自分を見ているようだった、過去の自分を
ミスリルゴーレム戦で全てを諦め、絶望し、涙を流す事しか出来なかった自分を
後悔した、激しい後悔をした、同じ道を歩んで欲しくなかった

「・・・・貴女は強いな」

「わたくしなんて弱いですわ、いつも助けられてばかりです」

涙を拭い、エインを見て優しく微笑む
ミラのそんな表情に少しばかりドキッとしたエインは目を逸らした

「僕はどうすればいい・・・」

「剣を持ち、立ち上がりなさいませ
 国のため、姉のため、そして自身のために」

「レノを・・・兄を殺すのか」

「王族として、国に害を成す者を見過ごしてはいけませんわ」

「レノが害なのか・・・・そうだな、父上を殺したのだからな・・・・」

「御父上の無念、姉上の命をお守り下さい、皇子」

「守る・・・か」

ルアは天井を見上げ、その頬に涙が1つ流れた
腕でぐしぐしと涙を拭い、彼の表情は引き締まる
その顔を見てエインやミラは微笑んだ

「僕は青の大鷲と合流する、君達も手伝ってくれるのだろう?」

「はい」

「ラルアースの民の協力に感謝する
 僕はこれより姉上・・・いや、王女マリアンヌ、そして王城を奪還する」

ルアは手櫛でボサボサの髪を整え服を正す
その眼には王族としての誇りが宿っているようだった

ルアは決意した、兄と戦う事を
しかし、青の大鷲と合流したルアはディムナのとんでもない作戦を聞かされる
固まったはずの決意が揺らぐが彼は力強く頷いた
青の大鷲全員がルアに頭を垂れ、膝をつく
彼等はルアの旗の元、これから王城へと攻め込むのだ
正規軍として逆賊たる反乱軍を殲滅するために・・・・




野望、思惑、誇り、不安、恐怖、様々な感情が入り乱れ
アムリタという国を大きな流れが飲み込んでいく



死を冒涜し続けるアムリタ、その闇の深淵を彼等はまだ知らない



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