2016_04
26
(Tue)15:08

3章 第12話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第12話 【願いの始まり】

今回は少し短いです。
どこで切るか、ってのは毎度の事ですが悩みます。

では、続きを読むからどうぞー。









【願いの始まり】






戴冠式当日、城門内側

シャルルの風樹魔法により形成されていた風の壁は
先のマナの作り出した津波により打ち消されている
ハーフブリード達は壁を背に陣取っており
門から流れ込む鉄砲水のごとき水流の被害はさほど受けなかった
赤の獅子はその激流が直撃しており、その大半は押し流されている
シルトは門を覗き込み、貴族街から走ってくる一団を確認してから言う

「チャンスじゃないの、これ」

「だね、今の内に逃げよう」

「さっきのマナかな?」

「多分そうじゃないかなー」

「ウェールズ大丈夫?」

アギャッ!

ハーフブリード達が駆け出し、城の東側に回り込む
彼等の姿が消える頃、赤の獅子の一部が起き上がり始める
彼等は甲冑を着込んでいた事により、壁に叩きつけられてもなおその命があった
一部の者は打ちどころが悪く、動く気配すらないが・・・
何とか体制を立て直そうとしているとエイン達が門を抜けて入って来る

『敵、増援!・・・・なっ!』

赤の獅子の聖騎士が目にしたのは青いマントに大鷲の紋章
そして、その者が手にするケイトウの花が描かれた旗である
その男の名はディムナ・マックール、アムリタ聖騎士団"青の大鷲"の団長その人だ

『赤の獅子よ!聞けぇい!!』

ディムナの叫びが響き渡り、辺りはざわつくが
満身創痍の赤の獅子達はフラフラと立ち上がり姿勢を正す

『我はアムリタ聖騎士団"青の大鷲"が団長、ディムナ・マックール!』

その場にいた誰もが黙り、彼の言葉に耳を傾ける

『この戦は間違っている!貴様等は騙されているのだ!!』

再び辺りはざわつく、何を言っているんだ?どういう事だ?と

『我等は騙されていたのだ!レンブランとい・・・くっ!』

キンッ!!

ディムナに向けて1本の槍が放たれた、それは赤く煌く槍だった
ギリギリのところでその槍を防ぎ、それは彼の足元に突き刺さる

「今のを防ぐとは、腕は衰えていないようだな、ディムナ」

「クー・・・貴様」

城内からフラつく足取りで現れたのはクー・セタンタ、赤の獅子団長だった
彼は先程の水に押し流され、城内奥へと吹き飛ばされ、石柱にぶつかり停止した
数分意識を失っていたが、起きて戻ってみれば親友が反旗を翻しているではないか
クーは怒り、その手に持つ神槍ゲイボルグを放ったのだ

『血迷ったかっ!ディムナッ!!』

『血迷っているのはこの国だっ!クーよ!!』

『問答無用!忠義を忘れた逆賊があああああああ!!』

クーが走り出すと、ディムナは叫ぶ

『何人たりとも手出しは無用!!』

青と赤、二つの聖騎士団の団長の一騎討ち、これほど見たい試合はない
その場にいた聖騎士の誰もがそう思っていた
彼等は団長命令もあるが、それ以上にこの二人の決闘を見たかった

ディムナは足元に突き刺さるゲイボルグを引き抜き、クーへと放る
それをクーは空中で掴み取り、その勢いのままディムナへと突っ込んで行った
ディムナは馬上からクーを迎え撃つ

先に仕掛けたのはリーチで分(ぶ)があるクーだ
下から突き上げるような鋭い突き
ディムナは盾でいなし、上から剣を振り下ろす

馬上とそうでない者では大きな差がある
人は上を取られるというのは圧倒的に不利になるからだ
実力だけならディムナはクーには勝てない、それは間違いないだろう
だが、馬上であるならば或いは・・・

馬上からの斬撃を身体を逸らすだけでかわし
2撃目の突きを放つ、しかしそれもまた盾で防がれた
二人の攻防は加熱していき、金属同士のぶつかり合う音だけが辺りに響いていた

『何故アムリタに剣を向ける!ディムナァッ!!』

『我等はアムリタ正規軍だ!逆賊たるはレンブランである!』

キンッ!ギリッ!カーンッ!

『世迷言を!』

『えぇい、解らず屋めっ!』

ディムナの鋭い突きが頭上から襲い掛かる
クーはその突きを頭を逸らしかわそうとするがヘルムにかすり
彼のヘルムは吹き飛び、白髪交じりの長髪が現わになった

「・・・っ!」

「クーよ、槍を引け・・・・」

『できぬっ!!我が命はアムリタのために!』

『ならば!そのアムリタの王を暗殺した者がいるとしたら何とするっ!!』

「な・・・・に・・・・王が・・・」

「事実だ・・・・レンブラン皇子、いや、逆賊レンブランによるものだ」

「・・・話せ」

クーはゲイボルグを石畳へと叩きつけ、仁王立ちでディムナを見上げた
ディムナは馬から降り、マリアンヌ姫からの手紙の内容などを説明していく
クーの表情は次第に鬼の形相へと変わり、ゲイボルグを握る手からは血が流れていた

「真か、その話、その名に誓えるものか」

「もちろんだとも・・・それにお前は頭に血が上って気づいてないようだが・・・」

ディムナが横へとずれ、クーの視界にある人物が目に入る

「っ!・・・レンブラン・・・いや、まさかルーゼンバーグ皇子か!」

「そうだ、皇子が立ち上がってくださったのだ」

ルーゼンバーグ、いつも酒を飲み、女を買い、堕落した生活をしていた皇子
クーはこの皇子が嫌いだった、王族としての誇りはないのか、と
だが、目の前に立つ皇子は本当にあのルーゼンバーグなのか?
そう疑いたくなるほど、威厳というものが感じられた
クーは無意識に膝を折り、頭を垂れていた

「失礼しました、ルーゼンバーグ皇子」

「よい、これより赤の獅子は私の指揮下に入ってもらうがよいか」

「はっ!」

「よかった、助かるよ」

「勿体無き御言葉っ!」

やはりルーゼンバーグだ
この柔らかい空気、だが今までの彼ではない
信念、そう信念だ、今まで彼に無かった信念がある
クーは顔を上げ、皇子の顔を見た
その顔は逆光で見えにくいが、数十年前に見た顔とそっくりだった
ヴァーテンベルグ・ヌルシュタット・リ・アムリタ・・・先王の顔と・・・・

「我が槍は御身のために」

アムリタ聖騎士団"赤の獅子"はルアの指揮下に入り
緑の蛇の説得、それが出来ぬ場合は掃討を任せられる
青の大鷲はゾンビとの死闘で負傷者が多数出ており
先程のマナの起こした津波による赤の獅子の負傷者共々引き上げる事となった
残った少数の青の大鷲はディムナに付き従い
オエングスの向かったマリアンヌ姫奪還を手伝う手筈となった
エイン達もそれに同行し、一行は動き出す

「本物の生の魔法とは凄いものだな、助かった」

「いいのよぉ~ん☆渋いお・じ・さ・まは好みよぉ~ん♪」

「・・・・か、かたじけない」

ラルアースの民は変わっているのだな、それがクーの感じた印象だ
傷を癒してもらったクーはゲイボルグを強く握り締め
赤の獅子12名と共に緑の蛇宿舎がある東側へと向かうのだった





戴冠式当日、レンブラン私室

「"これ"がそうだと言うのか」

「左様で御座います、陛下」

「まだ陛下ではないぞ、ボツダムよ」

「これはこれは、先走ってしまいました、くくくっ」

「よい、もうすぐ・・・もうすぐだからな、ふっ」

コンコンッ

部屋をノックする音が鳴る

「入れ」

「失礼します!」

一人の近衛騎士団員が入室し、宰相ボツダムに1通の文を渡す
それに目を通したボツダムの額に僅かばかり汗がにじみ出ていた

「どうしたボツダムよ」

「はっ、それが・・・先程の揺れ、どうやら青の大鷲が反旗を翻した様子」

「ほぅ・・・あのディムナがな、気づいたか」

「そのようで、如何致しましょう?」

「丁度良いではないか、"これ"を使ってみよう
 常勝無敗の青の大鷲に勝てるならば戦力として申し分無かろう?」

「左様で御座いますね、くくくっ」

「おい、近衛、お前等は"これ"を使って青の大鷲を迎え撃て
 奴等は反逆者だ、一人として生きて帰すな、解ったな?」

「はっ!」

ズシンッ・・・・ズシンッ・・・・

近衛兵が"それ"を連れて部屋を出て行く
扉が閉まるの確認してからレンブランは口を開いた

「姉上はどうなっている」

「この後で逆賊の仕業という事で処分致します」

「抜かるなよ」

「お任せ下さい、へへへっ」

ゴマを擦りながらボツダムは部屋を後にする
私室に一人となったレンブランは大きなため息をしてベッドに腰掛けた

「もうすぐだ・・・もうすぐ俺は王になる・・・ふふ・・ふははははははっ!
 邪魔などさせるものか、逆らう者は皆殺しだ!ふははははははははっ!!」

彼の狂気に満ちた笑いが室内に響いていた






戴冠式当時、聖アムリタ城の一室

目を見張る絢爛豪華な装飾が施された室内にはほのかに甘い薔薇の香りがする
そこはまるでおとぎ話に出てくる夢のような部屋だった
この女性の誰もが憧れそうな部屋には、たった1人の女性が住んでいる
彼女の名はマリアンヌ・フュンシュタット・リ・アムリタ
数時間後に迫る戴冠式までは王位継承権第1位の人物だ
薔薇をイメージした豪華なドレスを着ており
この豪華絢爛な部屋にいるのが当然と思えるほど美しい女性である

「はぁ・・・・」

誰もが羨むような美貌、誰もが焦がれるような部屋にいながら
彼女は大きなため息を洩らす

ため息の理由は、弟であるレンブランの事だ
以前からレノの危険性には気づいていた
プライドが高く、他者を見下し、蹴落とす
自分が良ければ他はどうでもいい、そういう考えがレノには幼い頃からあった
他者への思いやりという気持ちが無いのだ
それは血を分けた兄弟や親族に対してもそうである
日に日にレノの攻撃性は強まり
そして、ついに超えてはいけない線を超えてしまう・・・・父上の暗殺だ

マリアがこれを知ったのは偶然だった
昼に父親である王と会食した時、王の咳き込む姿を目にし
心配になったマリアはその日の夜に父の寝室を訪れる
扉の前に立ち、ノックをしようとすると中から声がし、彼女は息を潜めた
すると、中から信じられない会話が聞こえてきたのだ

「・・・・このまま・・王の身体が持・・・い様子・・・如何致しま・・・」

「くそっ・・・こうな・・・は仕方あるま・・・計画を変・・だ」

「と、言い・・・と?」

「毒はそのまま・・・確実に殺せ、だが1日でも長く・・・るんだ
 仮に戴冠式に・・・合わずとも1週間やそ・・・なら隠蔽でき・・・」

「かしこ・・・・した」

手足は震え、背中には嫌な汗が流れ、両手で口を塞いでいた
そうしなければ今にも叫んでしまいそうで・・・
マリアは気づく、今自分のいる状況がどれだけ危険かを
慌てた彼女は両手で口を塞ぎながら早足でその場を去る
しかし、この時に彼女は大きなミスを犯した
ヒールで早足で去る事により大きな足音を鳴らした事だ
王の寝室から顔を覗かせたレノに後ろ姿を見られてしまう
自室に戻ったマリアは荒い息を整えていると
こんな遅くに部屋をノックする者がいた
恐る恐る扉を開くと、そこには歯を見せ笑うレノが立っていた
恐怖・・・・それがマリアの心を支配した

それからマリアは部屋に閉じ込められている
このおとぎ話に出て来るような美しい部屋には不釣合いな
堅く重い鎖によって部屋は閉ざされていた

扉を叩き、助けを呼ぼうとした事もあった
窓を開け、助けを呼ぼうとした事もあった
しかし、それらは全て失敗に終わっている

レノの厳命により、マリアの私室には誰も近寄れず
扉の前でどれだけ騒ごうが誰も来る事はない
窓は溶接され開く事すら出来なかった

唯一出入りしていたのは世話係の女が1人
女は耳が聞こえなく、マリアがどんなに伝えようとしても見る素振りすらしなかった
事務的に仕事をこなし、そそくさと部屋を出て行く

世話係の女が入って来る時に無理矢理逃げ出そうとした事もあった
だが、部屋の外にはレノ直属の近衛騎士団が2人おり、すぐに捕まってしまった

どうする事も出来ない彼女は絶望し諦めかけた時
ある男を言葉を思い出していた・・・その男とは、オエングス・オディナ
アムリタ聖騎士団"青の大鷲"の一人で、彼女の想い人である
立場が違いすぎるため、恋人にはなれていないが・・・



10年ほど前の事になる

マリアとオエングスは出会う、それは一国の姫と騎士見習いとして・・・
当時のマリアは14歳、オエングスは17歳だった
マリアが侍女達と城の庭を散歩していると
隅の方で剣の稽古をしているオエングスと目が合った
普段なら気にも止めなかっただろう
しかし、オエングスという男の美しさはマリアの見てきた何よりも美しかった
彼女がオエングスに見惚れていると侍女の一人が言う

「あの者は元奴隷だそうです」

「そう・・・なのですか、とても綺麗な方ね」

「そのせいであの者を巡って殺し合いが起き
 青の大鷲のディムナ様が引き取ったそうです」

「そうなんですね・・・あっ」

その時、マリアとオエングスは目が合い、二人の時間は止まる
オエングスは王族に対し膝を折る事すら忘れ、彼女に見惚れていた
そんなオエングスの頭をディムナが叩き、座らせる

「姫様、失礼しました」

ディムナが頭を下げ、オエングスの頭を無理矢理下げさせるが
マリアはそんな事よりオエングスの顔を見たかった

「構いません、表をあげて」

再び見えた彼の顔はやはり美しく
どんな宝石よりも、どんな美術品よりもマリアの心を惹きつけた

「貴方、お名前は?」

「はい、オエングス・オディナと申します」

とても綺麗な心の奥まですんなり通るような声・・・彼は神の作り出した奇跡ね

「そう、私はマリアンヌ・フュンシュタット・リ・アムリタです」

「はい、存じ上げております」

しかし、彼は一向に目を合わそうとしない
少しばかり顔を伏せ、地面を見ているようだった
そのため、その美しい顔がよく見えない
マリアはもっと彼の顔が見たかったのだ

「ねぇ、オエングス」

「はい」

「こちらを見なさい」

「っ!?」

驚いて顔をあげたオエングスは目にする
美しさと可愛らしさが見事に合わさった姫の笑顔を・・・
この時、既に二人は恋に落ちていたのかもしれない

それから時は進み・・・・

マリアが20歳になる頃、彼女に縁談の話が来る
マリアは結婚などしたくなかった、彼女はずっとオエングスが大好きなのだ
実はマリアは15の時から幾度となく縁談を断り続けている
今回の話の相手は5回目も断った相手なのだ
父であるヴァーテンベルグ王は娘の気持ちを尊重してくれていた
しかし、マリアはもう20歳、流石にこれ以上は・・・と再び縁談を持って来たのだ

これ以上断るのは難しかった
マリアは悩み、諦めかけていた

そんな時、マリアが庭の噴水でぼーっと城門の方を眺めていると
オエングスが一人で歩いて来るを目にする
いつ見ても美しい人・・・また見惚れていると、オエングスが会釈する

「ごきげんよう、オエングス」

「お元気そうで何よりです、マリアンヌ姫」

「まぁ!元気ではないのですよ」

悪戯っぽく頬を膨らませて言うと、オエングスは困った顔をして苦笑する
本当に元気無いんだけどなぁ・・・

「では、姫様にこの言葉を贈ります」

「あら、何かしら?」

「全ての事は願う事から始まります」

「願い、ですか」

「はい、願わなければ叶いません
 願いを叶えるための行動も始まりません、そういう事のようです」

「ようです?」

「お恥ずかしながら父の・・・ディムナ団長の受け売りです」

はにかむ彼の微笑みはとても可愛くて、気がつけばマリアの頬も緩んでいた・・・
その後、マリアは父に願いを伝え、縁談を白紙に戻してもらう
この頃からオエングスとマリアの距離は縮まり、密かに二人は恋の芽を育んでいく
叶わぬ願いと知りながらも・・・・願わずにはいられなかった




オエングスの言葉を思い出し、マリアは顔を2回叩き、机へと向かう
そして、1通の手紙をしたためる
愛しき想い人、オエングスに宛てたものだ
レノの事や父の事を簡単に書き記し封をする
書き終えたマリアは1つため息を洩らした
彼に初めて出す手紙がこんな内容だなんて・・・これが恋文だったらどれだけ良かった事か・・・

マリアはその手紙を手に、世話係の女が来るのを待った
後日、世話係の女が訪れ、食事を置き、ベッドシーツを替えている時
マリアはベッドに金貨を10枚置く
これには女も驚き、金貨とマリアの顔を交互に見ていた

マリアは指で貴女の物よ、と教え
2枚の紙と手紙を女の前に置いた
1枚の紙を開き、女に見るよう促す・・・紙にはこう書いてあった

もう1枚の紙と手紙を私の侍女ライネに渡す事
そうすれば金貨10枚は貴女の物、他言はしません、と

再びマリアを見た女は額に汗をかいていた
しかし、マリアは優しく微笑み、金貨を女の方へと押す
女はその金貨を靴下の中へと入れ、1枚の紙切れと手紙を服の中へと入れた
そして女は2度頷き、顔を伏せて部屋を後にする

それが一昨日の事だ

今日は戴冠式当日である、もう時間はない
おそらくレノは王となったら私を殺すだろう
そして、いずれルアの事も・・・それだけは避けなくてはならない
気持ちは焦るが今の自分にはどうする事もできない
手紙は無事届いたのだろうか、そんな不安が膨れ上がるが
実はその不安は先程解消された

凄まじい轟音と激しい揺れ
城の最上階の一番奥の方にある彼女の部屋ですらハッキリと解った
戦が始まったのだと、オエングスが動いてくれたのだと彼女は理解した
愛しいあの人を巻き込むのは心が痛んだが、今は彼しか頼れなかった
誰がレノの味方なのか解らなかったからだ

激しい揺れがあってからマリアは大急ぎで服を着替えている
動きやすいよう乗馬用の服に着替え
足のつけ根まである長く綺麗な金髪は三つ編みにしてまとめている
いつでも逃げれるよう準備は出来ていた

準備を済ませ、音に意識を集中して待っていると
誰かがこの部屋に近寄ってくる気配を感じ取る

オエングスなの?

淡い期待を込めながらマリアは扉に近づいて行く
足音は部屋の前で止まり、扉が小さく開き、鎖の鈍い音が鳴る
扉の隙間から外を覗き込もうとすると、突然その鎖は断ち切られた

パキンッ!

世話係の女が来る時は鎖の鍵を外して入ってくる
壊したという事は・・・・

「オエングスなのね!」

マリアが取っ手に手をかけると、扉は勢いよく開いた
開いた扉の向こう側にいたのはオエングスとは正反対の者
醜さというものを具現化したような醜悪な容姿の人物・・・いや、人だった者だった

「ぐ・・・ごご・・・ごげ・・」

言葉にならない声を洩らし"それ"はマリアを見下ろしていた
"これ"はゾンビである、しかし普通のゾンビではない
まず大きさが他のゾンビと比較にならないほど大きい
合成魔法金属で作られたボルトが身体中の至るところに突き刺さっていた
"それ"は3メートルはあろう巨体を屈め、涎を垂らしながらマリアを見下ろす

「ひっ・・・・」

マリアからも言葉にならない声が洩れ、彼女の腰は抜けてしまう
その場でぺたんと座り込み、ガタガタと震え出す
"それ"の後ろには1人の男が立っており、ケイトウの花が描かれたフードを被っていた

「あ、あぁ・・・助けて・・・助けて、オエングスッ」

男が前へと出てフードをずらし顔を晒す
その顔を見たマリアは知る事になる、この国に蔓延る闇の片鱗を・・・

「ボ、ボツダム宰相・・・その顔は・・・」

「ふひひっ、これですか?マリアンヌ姫
 これはですね、ひひっ、新たな力ですよ、このアムリタの、ひひっ」

宰相ボツダム・アーヘンの額には1つの石が怪しく煌めいていた
これは緑の蛇団長レヴィ・コナハトが作り出した改良魔石の1つ
この巨大なゾンビを操るために必要な魔石である
ボツダムはそれを額に埋め込み、この巨大なゾンビを手足のように動かしていた

「なんと愚かな・・・人である事を辞めるのですか!」

「何をおっしゃいます姫よ、ひひっ
 私は人間のままですとも、ひひひひいいひひひひひひいいひひっ」

壊れている、この男は何もかもが壊れている・・・ここにいてはいけない!
マリアは震える足で立ち上がり、ボツダムの横を通り抜けようとする・・・が
巨大なゾンビに掴まれ、その身体は宙に浮く

「うっ・・・・・た、助けて・・・オーグス・・・」

マリアは願った、心の底から愛しい彼の名前を呼んだ

『ぐがあああああああああああああっ!!』

突如ゾンビが叫び、マリアは痛みで閉じていた目を見開く
すると、身体は浮遊感に包まれ、刹那、痛みが走る

「痛っ・・・え?」

ゾンビに掴まれていたはずの彼女は地面に落ち
彼女の前にはそのゾンビの太い腕が転がっていた

『だ、誰だ!ひひっ』

ボツダムとマリアが同時に振り向くと
そこには絵画から出てきたような美しい男が駆けていた・・・願いは叶ったのだ
彼の右手から放たれた神器モラルタは巨大なゾンビの腕を切り落とし
大理石で出来た地面に突き刺さり、赤く輝いていた

『マリアッ!』

『オーグスッ!』

オエングスはマリアとゾンビの間に立ち塞がり、神器ベガルタを右手に持ち替える

「お、おのれ、オエングス!ひひいひいひっ」

「これは・・・外法に手を出したか、宰相閣下」

「ふひひっ、外法だろうとも、ひひっ、力は力!」

「ゲスめ・・・・神器解放!!ベガルタよ、その力を示せ!」

ベガルタが黄金色に輝き、黄色い残光が揺らめく

「姫、お下がりください」

「はい、気をつけて、オエングス」

マリアは彼の背中から目を離さず後ろへと下がって行く
それを気配で感じ取り、オエングスは左手に盾を右手にベガルタを構えた



『アムリタ聖騎士団"青の大鷲"が一人、オエングス・オディナ!推して参る!』



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C.O.M.M.E.N.T

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