2016_04
29
(Fri)21:04

3章 第13話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第13話 【極魔石】

さぁ、アムリタ編も後半突入って感じですね。
予定では19話くらい?までを考えています!

では、続きを読むからどうぞー。









【極魔石】






戴冠式当日、マリアンヌ姫私室前

マリアンヌ姫を助けに来たオエングスは3メートルはあろうゾンビと対峙していた
このゾンビは緑の蛇団長レヴィ・コナハトが改良した物で
制御を可能とするために備え付けているリミッターを外してある個体だ
そして、新たに生成された魔石から魔力を流し込み
3つの死体を融合し1体の化け物を作り上げた
だが、それは合成魔法金属のボルト1本では制御できず
頭、両腕、両脚、胸部の6箇所にボルトを埋め込んでいる

この合成ゾンビにはまだ問題点がある
普通のゾンビであれば主の音声での命令が可能なのだ
しかし、強力過ぎる力により音声による制御は出来ず
主たる者がその身体に魔石を埋め込み、魔力を直接流し込む事で制御していた

魔石を生者の身体に埋め込む・・・その行為は禁忌とされている
人は本来、その身に持った魔力以上は耐えられないよう出来ている
魔道具などは触媒となる物自体がその負担を受け、使用すると崩壊する事が多い
そのため、人体への影響はごく僅かで済むという訳だ
だが、魔石を身体に埋め込む場合は違う
体内に直接魔力を取り込む行為は多大な死の危険性を含んでいるのだ

では、何故に宰相たるボツダム・アーヘンがこの魔石を額に埋め込んだのか
それには大きく分けて2つの理由がある
1つは、魔石を発明したヴィクターの技術を手に入れたレヴィが
手元にある魔石をその技術を流用して改良したためだ
1つは、レヴィ自身がその魔石を自身の身体に複数埋め込んだ事にある
ならば1つくらいなら・・・と、ボツダムも"力"を手に入れる事を選んだのだ

「ひひひっ、ドローロよ、奴等ををを、殺せっ!」

ドローロと呼ばれた合成ゾンビはボツダムの命令で動き出す
先程オエングスに切り落とされた腕を拾い上げ
元あった場所へと押し付ける・・・すると、接合部から煙が上がり
一瞬でそれはくっつき、指が動き出した

「っ!・・・なんて再生力だ」

オエングスは一瞬だけドローロの背後の地面に突き刺さる神器モラルタに目をやり
ドローロとの距離をゆっくりと詰めていく

『ぐぉ・・がああああああああああぉ!!』

ドローロが叫び、ずしんずしんと音を立てながら走り出す
動きはさほど早くはない、しかしその巨体だ
1歩1歩が常人の比ではない距離を移動する
そして、異常に伸びた腕、その長さだけで2メートル近くはあるだろう
対して、オエングスが手にするのは神器ベガルタ、刃渡り45センチほどの短剣だ
リーチの差がありすぎる、それは戦いにおいて絶対的な差とも言えた

ドローロが腕を振り上げ、天井のシャンデリアが破壊される
ガシャーンッ!と音を立て、シャンデリアが落下した時
ドローロの腕は振り下ろされ、オエングスは大盾でそれを防ぐ

「ぐっ!」

想像以上の圧力が大盾から伝わってくる
だが、耐えられないほどではない、あの魔猪(まじし)に比べたら・・・
必死に足を踏ん張り、ドローロの拳を止めた彼はベガルタの下段からの斬り上げを放つ
それはドローロの右手首をとらえ、右手は宙に舞った
そのままオエングスは一気に距離を詰め、黄金に輝くベガルタで突きを放つ

『魔猪の雄叫び!ソォクォッ!!』

ドゴォォォッ!

刀身が見えなくなるほど深く突き刺さった胸は陥没し
3メートルはある巨体が宙に浮く
ドローロはそのまま後ろへと吹き飛び、背後にいたボツダムを巻き込み、壁にぶち当たる
押しつぶされる形となったボツダムは口から泡を吹き出し、白目を向いていた

しかし、ドローロはゆっくりとだが再生を始めている
それを見逃さなかったオエングスは直ぐ様地面に刺さるモラルタを引き抜き
陥没した胸から顔を出す紫の石に狙いを定める

一閃

的確に石だけを斬り裂き、ドローロの再生は止まる
醜いその身体はドロドロと溶け出し、腐臭をばら撒くだけの存在と化した

「汚らわしい手で彼女に触った罰だ」

剣を振り、鞘に納めたオエングスは姫の元へと歩み寄る

「オーグスッ!」

マリアが立ち上がり、オエングスの元へと走ると、震える彼女の足はもつれてしまう
倒れかけたマリアの身体をオエングスがふわりと優しく包み込んだ

「お怪我はありませんか、姫」

「はい・・・」

「・・・・・マリア・・」

「・・・オーグス・・・・・」

マリアの腰にはオエングスの手が回っており、二人の身体は密着してる状態だ
まるでダンスでも始めそうな二人は見つめ合い
世界に二人だけにでもなったような時間が過ぎていく
だが、そんな時間もすぐに終わりを告げる

「・・・・お、おのれ・・・ひひっ」

ドローロと壁に挟まれ気を失っていたボツダムが目を覚ましたようだ
すぐに身体を離し、オエングスはマリアの盾になるように立つ
先程まであった温もりが消え、少しばかり寂しさを感じているマリアは
その寂しさを少しばかりの怒りに変え、ボツダムへと向ける

しかし、オエングスは腰に差すモラルタにかけていた手を離し
振り向き、マリアに笑顔を向け言う

「参りましょう」

何故彼が敵に背を向けるような事をするのか理解出来なかった
不安になりボツダムへと目を向けると、彼の額の魔石は二つに割れていた

「あ・・・ひっ・・・あひ?・・・ぐげ・・・ごごっ」

もはや言葉すら喋れないボツダムの頭は膨張していく
目が離せなかったマリアの視界はオエングスがマントで遮り
マントの向こうから何かが破裂するような音が聞こえ、ボツダムの声は止む

「さぁ、参りましょう」

「・・・はい」

ボツダムの死体がマリアの死角になるようにオエングスが動き
彼女をエスコートするようにその場を離れて行った





戴冠式まで残り3時間、玉座の間

現在、玉座の間には大勢の貴族達が集っている
貴族等は前日から城に泊まり、徐々にだが玉座の間に集まりつつあった

もっぱらの話題は先程の揺れと轟音についてだ
敵襲か?もう戦争が始まったのか?ここは安全なのか?
戴冠式用の花火の事故でもあったのか?と不安な様子だった

「揺れも気になるが、私はどちらが王になるのかが気になりますな」

「どちらとは?まさかバカ皇子が選ばれるとでも?」

「言葉が過ぎますぞ、男爵」

「おっと、今のは無かった事に・・・はははは」

「はははは」

そんなくだらない会話をしながら、戴冠式を待つ貴族達であった
玉座の間の隅にバカな貴族達を横目で見る褐色の女性がいる
彼女は顔の大半を隠しており、黒い瞳くらいしか見る事はできない
頭には金細工が施されたターバンのようなものを巻いている
そんな彼女が身にまとう白いフード付きのローブには黒い狐の紋章が刻まれていた





同時刻、緑の蛇宿舎前

ハーフブリード達は城の裏口を探していた
オエングスから場所は聞いているため、探すというよりも向かっているだけなのだが
こそこそと緑の蛇宿舎前を通り抜けていると、サラがある物を見つける

「みんな待って、あれって・・・」

彼女が指差す方向にあったのは・・・・腕だった
腕の切断面には見覚えのある糸が見え、シャルルが猛ダッシュで駆け寄る
その腕を手に取ったシャルルは辺りをキョロキョロと見渡し
目に涙を溜めながら振り向く

「ワンちゃん何かあったのかも・・・」

「あの力を狙った奴等かもね」

「どうしよう、ワンちゃん探さないと」

「うん、捕まってたら助けてあげないと」

「僕らの友達に手を出した事を後悔させてやろう」

「おー!」

シャルルは大事そうにその腕を抱き締め立ち上がる
逆にジーンはしゃがみ込み、地面に生える芝を調べていた

「足跡がない・・・多分その腕は飛んできたか投げ捨てられたんだと思うよ」

「飛んできた?どこから?」

「二択かな、城か、そこの建物か」

サラが城を見上げるが、こちら側の壁には窓らしきものは見当たらない

「お城の方は窓がないかも?」

「じゃ、こっちで決まりだね」

ジーンが緑の蛇の宿舎を指差し、皆は頷く
ハーフブリード達が息を潜めて宿舎内の様子を伺うが、中に人の気配は無かった
騎士団の宿舎が無人?そんな事あるのか?
怪訝な念を持ちつつも彼等は窓から侵入して行く・・・

「シャルル、サラ、人の気配する?」

「うーん・・・私には聞こえないかな?」

「うん、私も」

「そっか、他のとこに連れてかれたのかな・・・」

「あ!大勢こっちに向かって来てるよ!外からだけど・・・」

「外?」

壁に身を隠しながら窓の外の様子を伺うと
城門の方から赤いマントの一団が近寄って来るのが目に入る

「赤の獅子か、どっちについたのかな・・・」

「味方だと思うよ」

「どうして?」

「仮に敵ならエイン君達が見逃すと思う?」

「あぁ・・・ま、そっか」

「多分、緑の蛇を説得に来たんじゃないかな」

「なるほどね」

「どうすればいいー?」

「んじゃ、ラピはディナ・シーにこの建物周辺を見てきてもらって」

「りょうかーい」

「僕とジーンさんは上見てくるわ、シャルルとサラとラピは1階をお願い」

「「「はーい」」」

「気をつけてね」

「シルさん達もねー!」

二手に分かれ宿舎内を捜索するが、ワンちゃんを見つける事は出来なかった
彼等の捜索が終わる頃、赤の獅子達も到着し、入口で出会す

「貴様等は、ハーフブリードと言ったか」

「ども」

「ここで何をしている」

「友達が誘拐されたみたいなんでね、調べてたとこだよ」

「緑の蛇に、なのか?」

「そそ、これが証拠」

シルトがシャルルの持つ腕を指差すと、それを見たクーの眉間にシワが寄る

「どういう事だ、腕が証拠とは」

「これはワンちゃんの腕で間違いない
 彼女はゾンビだと思う、身体はね、でも心は人間なんだ」

「心のあるゾンビ・・・まさかTheOneか?」

「お?知ってるんだ」

「あぁ、数十年前に聞いた程度だがな、実在しているとは・・・
 だが、それで合点がいった、その子を誘拐したのは緑の蛇で間違いないだろう」

「ここには居なかったけどね」

「そうか、となると城内か・・・」

その時、シャルルとサラの耳がピクピクと動き、二人が叫ぶ

『何かいるっ!屋根の上!20以上!』

『突然現れた!気をつけて!』

ハーフブリードと赤の獅子達は宿舎から少し離れて上を見上げると
宿舎の屋根でゆらゆらと動き出す一団がいる
中には奇声を上げているものまでいる・・・奴等は全て死者だった
奴等は先程までただの動かぬ死体だったのだろう
だからハーフキャットの二人でも気づけなかったのだ

「ゾンビが喋るだと?気をつけろ!こいつ等は普通じゃない」

普通ではないのは声だけではない、全ての個体が3メートル級の巨体だ
先のオエングスが倒した個体と同じ改良型の合成ゾンビ・ドローロモデルである

ドローロ達が次々と屋根から飛び降り
ズシンッ!ズシンッ!という大きな音と振動を立てて着地した
奴等の両足は芝生にめり込み、その重さを垣間見る
しかし、ドローロの中には足があらぬ方向へと折れ曲がり
体勢を崩して倒れ込む個体までいた

それもそうだ、あの巨体で6メートル近い場所から飛び降りれば折れても不思議ではない
だが、奴等には痛覚というものはなく、加えて驚異の再生能力を有している
そのため、多少の無茶など気にしてもいないのだ

ドローロの数は25体
対してハーフブリードが5名、赤の獅子はクーを入れても13名である

「団体さんご到着ってか、ったく何なんだこの国は」

シルトが愚痴をこぼしながら駆け出す
サラがその後に続き、赤の獅子達もそれに続いた
その中、走り出した一団を飛び越える人物がいる、本当に文字通り飛び越えたのだ
アムリタ聖騎士団・赤の獅子団長クー・セタンタ、その人である

彼は助走をつけて槍を地面に突き刺し、まるで棒高跳びのように槍を軸に跳躍する
クーの身体は赤の獅子12名の頭上を越え、シルトとサラの頭上をも越える
跳躍が頂点に達した時、クーは狙いを定め、槍を突き出した
勢いと落下速度を利用して急降下して行き、槍はドローロの顔面を捉えて貫通する
直ぐ様それを引き抜き、貫いた頭を踏み台に次のドローロへと飛び移った

クーはドローロからドローロへと次々に飛び移り、頭だけを破壊していく
その動きは鮮やかで、止まる事を知らないようだった
クーの活躍に鼓舞された赤の獅子達は勢いづき
次々にドローロの手足を切り落としていく

シルトとサラも負けておらず
シルトは盾で受け流すと同時にドローロの脇に剣を当て、そのまま一気に振り抜く
肩口から腕が切断され、赤黒い血が吹き出し、芝を汚す
サラは尋常ならざるスピードで走り回り、ドローロの足首のみを切り裂いていく
芝に張り付くような低姿勢のまま駆け、剣を突き立て、方向を変え
ズザザーっと足でブレーキをかけながら曲がって行く

ドローロ達の動きはかなり鈍かった
彼等は知らないが、オエングスが戦ったドローロはもっと動きが良いのだ
何故ドローロの動きが鈍いのか、それには理由がある
ラピ・ララノアというエルフの力、妖精ディナ・シーの力のおかげである

ディナ・シーは空中で高速回転し、光の輪を創り出す
そこから七色の光と銀の粒子が降り注ぎ
それに触れたドローロの身体からは煙が上がる

「ディナ・シー!がんばれー!」

ラピの応援によりディナ・シーの力が増していく
銀の粒子の濃度が増し、辺りはキラキラと輝いて見えた
そして、ドローロの動きは更に鈍っていく・・・・

シャルルは王の墓のドラゴンゾンビ戦で生の魔法が有効なのを知っている
彼女は杖の先端に生の灯火を集め、それでドローロをひっぱたいていた
叩かれた部分は灰となり、腕や足は崩れていく

ジーンは精霊を呼ぶべきか悩んでいた
だが、ここで呼んでは仲間に被害が出てしまう可能性が高い・・・そんな事はもう嫌だった
そのため、彼女は久々に生の魔法を使い
逃げながら拳と足で数発叩き込むという戦法を取っていた

戦闘開始から僅か7分、全てのドローロは地に伏していた

「ふぅ、片付いたかな」

「おつかれー!」

「みんな怪我はない?」

「大丈夫だよー」

「うん、ちょっと足が痛いくらいかな?」

「サラは力加減覚えようね!そこ座って、治すよ!」

「うん、ありがとう」

一息ついているハーフブリード達をクーと赤の獅子達は見ていた
これがラルアースの民か・・・と
一人一人の戦闘能力が恐ろしいほど高く、全員が英雄クラスの実力を持っている
アムリタはとんでもない相手と戦争をしようとしていた事に気づき
背筋に冷たいものを感じる者が多かった
しかし、仲間となると別だ、これほど頼もしい者達はいない
赤の獅子の士気は高まり、この戦は勝てる、という確信に近いものを感じていた

そんな彼等の元に、城から1人の男がゆっくりと向かってくる

「あの距離では上手く操れんな、失敗だ失敗」

緑の蛇の紋章を背負った男の名はレヴィ・コナハト
アムリタ聖騎士団"緑の蛇"の団長だ

「レヴィ、貴様・・・どの面下げて俺の前に現れた」

クーは怒りを現わにし、ゲイボルグをレヴィへと向ける
そんなクーの怒りなど無視してレヴィは呆れるように肩をすくめる

「敵に寝返った君が言う事かい?クー・セタンタ団長」

『逆賊は貴様であろう!』

「待ってくれ、おかしいではないか、私達はアムリタに忠義を誓ったのだよな?」

「うむ」

「では何故にアムリタに牙を剥く」

「逆賊レンブランが王を、ヴァーテンベルグ王を暗殺したからだ」

「はて?その証拠はあるのかい」

「マリアンヌ姫直筆の文がある、嘘だと言うならば王に会わせよ!言い逃れは出来ぬぞ!」

「チッ・・・まぁいい、そこまで知っているならば仕方あるまい
 貴様等には実験台のネズミにでもなってもらうぞ・・・・くくくっ」

『本性を現したな!外道が!』

クーがゲイボルグを構え、走り出そうとすると
レヴィが指をパチンッと1回鳴らす・・・すると、城の中から少女を担ぐドローロが現れた

『ワンちゃんっ!』

シャルルの叫び声が響くが、ワンちゃんは動く気配はなかった

「クー・セタンタよ、これが何か解るか?」

「TheOneだとでも言うのか」

「せ~ぃか~い、おめでとぅ」

馬鹿にしたような言い方にクーの怒りは臨界点を突破しそうだ

「おっとおっと、待ってくれよ、クー・セタンタ
 これに入っている魔石、極魔石というのだがね
 これをここで砕くとどうなると思う?・・・くくくっ」

「どういう事だ」

「くくっ、この魔石は桁違いだ、その膨大な魔力が炸裂すれば
 この城など吹き飛ぶかもしれんぞ?いいのか?お前の守ろうという国が滅ぶぞ?」

「チッ・・・何が目的だ」

「そこで大人しく見ていろ、面白いものを見せてやる」

レヴィがワンちゃんを担ぐドローロを呼び
彼女の身体はレヴィの前へと降ろされた

「極魔石とは実に面白くてな、こんな使い方も出来るのだよ」

レヴィが両手をワンちゃんの開いた胸に向けると
彼の両手の平、胸、腹から紫の光が漏れ出す

「貴様・・・まさか魔石を」

「そのまさかだよ、クー・セタンタ
 私は人間を超越した存在、魔石人間・・・魔人とでも言おうか?くくくっ」

レヴィの両手、胸、腹には魔石が埋め込まれており
胸の魔石だけ一際強い光を放っていた
ワンちゃんの極魔石から溢れる緑の光はレヴィの魔石に吸収されていく・・・

「胸の魔石は先日作ったものでな、私の最高傑作なのだよ
 な~に、いい物ができたら見せびらかしたいだろう?自慢させてくれ」

レヴィの魔石の光が強まると、気を失っていたワンちゃんの表情が苦痛に歪む
その瞬間、ワンちゃんの身体はレヴィの前から忽然と姿を消した

『なっ!どこへ行った!?』

10メートルほど離れた位置でワンちゃんを抱えるサラが芝をまき散らしながら止まった

「話が長い」

サラはそれだけ言うとワンちゃんをそっと下ろし、抜刀する

「ナイス!サラ!」

ハーフブリード達がワンちゃんの元へと駆け寄り、盾になるように陣取る
レヴィは赤の獅子とハーフブリードに挟まれる形となった

「レヴィよ、2対18だぞ?投降するならば命は助けてやろう」

「投降?この私がぁ?くくっ、はーっはっはっはっは!
 人間ごときがこの私に、魔人に勝てるとでも思っているのか?とんだお笑い種(ぐさ)だ!」

レヴィは両手を広げ、次第に紫の光が強まっていく
彼の着る緑の蛇の紋章が入ったローブがバサバサと揺れ
魔石の光に照らされたレヴィの顔は邪悪に歪んでいた

「少々力が足りないが貴様等ごときには十分だろう・・・ドローロ達よ、奴等を殺せ!」

レヴィの合図で倒したはずのドローロ達が一斉に起き上がる
肉片が集まり、傷を塞ぎ、切断された腕は腰や足にくっつき
もはや人の形ですらない"それ"は化け物という言葉が一番合っていた
ドローロの中には起き上がれない個体もおり、それは別のドローロに吸収され
最終的に起き上がったドローロの数は14体となった

これは極魔石より魔力を吸収したレヴィの力だった
本来のスペックを超える力を引き出し、異常なまでの再生力を与える
だが、そんな力を使って無事な訳はない
この戦いがどちらに転ぼうと、ドローロ達は肉塊と化す事が決まっていた・・・

そして、ワンちゃんを担いできたドローロと合わせ、15体のドローロが動き出す

『ハーフブリード殿!雑魚を頼む!俺はレヴィを殺る!』

「へいへい、やっぱ逃げるわけにはいかないよね・・・」

「雑魚だけ数体やればいいんじゃないかな?
 ワンちゃんも助けたし、宝物庫探しを続行しよう」

「うん、とにかくワンちゃんを安全なところに運ばないと・・・」

「サラ、お願いできる?」

「うん」

サラがワンちゃんを抱き上げようとすると、ワンちゃんが目を覚ました

「待ってください、です」

「あ、ワンちゃん、気がついた?大丈夫?」

「はい、です・・・それより、待ってください、です」

少女は胸元を隠しながら恥じらう
以前、腕を縫った時は外で服を脱ごうとしたりと恥じらいという感情が無さそうだったのだが
どうやら彼女にとって魔石を見られる事は恥ずかしい事のようだった
そんな彼女にシルトがそっとマントで包む

「後で返してね、それ1枚しかないから」

「はい・・・ありがとう、です」

マントで身を包み、ワンちゃんは立ち上がった

「わたしはやる事があるです、今帰る訳にはいかない、です」

「やる事?」

「はい、です・・・・とっても大事なことです」

「手伝おうか?」

「いえ、わたしの問題なので、大丈夫です」

「そっか・・・とりあえず、コイツ等だけでも倒しますか」

既に戦闘は始まっていた
ドローロ達は先程までの鈍い動きではなく、それなりの早さになっていた
そして、融合した個体は複数の手足で同時に攻撃を繰り出し
流石の聖騎士達もそれには手を焼いていた

「わたしが・・・止めます、です」

ワンちゃんは両手を胸に当て、祈るように目を瞑る
マントごしにでも解るくらいの緑の光が溢れ出す
すると、ドローロ達の動きが一斉に停止した

「チャンスだ!行くよ!」

シルトが走り出し、サラが追い抜き、シャルルとジーンも後を追う
ラピはディナ・シーに命令を下し、再び七色の光と銀の粒子の"領域"を創り出した

それからは激戦となる
ワンちゃんの力で止められる時間は僅か数秒であり
すぐに動き出したドローロ達との戦闘に入った
だが、その数秒の間に4体のドローロは地に伏している
そして、ジーンは気づいた・・・ドローロの胸から漏れる光に

『胸に魔石がある!それを壊して!』

ジーンの叫び声を聞いたレヴィがチッという舌打ちをしたのがこの読みの裏付けとなった
地に伏したドローロの胸を赤の獅子達が一斉に突き、魔石を割る
すると、ドローロはどろどろと溶け出し、ただの肉塊へと変貌した

『いけるぞ!』

苦戦していた赤の獅子達の士気が戻り、一気に形勢を逆転し始める
1体、また1体とドローロを葬る一方、赤の獅子達も1人、また1人と倒れていった・・・
赤の獅子が残り6名になる頃、ドローロは残り4体まで減っていた

「後は任せてください、僕らだけでやれます」

シルトが赤の獅子の前に出て盾を構えると
その隣にサラが並び、左右反転したように二人は構える

『シャルル!援護を!』

『わかってる!』

後方でシャルルの詠唱が始まると、シルトとサラは目を合わせて頷き合う

「行くよ、サラ」

「うん」

シルトが4体のドローロに突っ込み、最初の1体の拳を盾で受け流す
すると、シルトの後ろにいたサラが体勢の崩れたドローロの胸に突きを放ち、魔石を割る
シルトはそのまま2体目のドローロの振り上げた腕を斬り落とす
そのドローロの両膝をサラが横一直線に斬り、ドローロが膝から崩れ落ちる
そこへシルトの突きが放たれ、2体目の魔石も砕かれた

3体目と4体目は同時に襲って来る

左のドローロの一撃を正面から常闇の盾で受け、シルトは念じる・・・反射、と
力は跳ね返り、ドローロの腕が吹き飛ぶ
そのままシルトは常闇の盾で突っ込み、城壁を発動したタックルをかます
ドローロが傾き、上に乗っかるように倒れ込むシルトは剣を胸に突き立て
全体重を乗せる・・・・剣はドローロを貫き、芝にまで達していた

サラは右のドローロの大振りの1撃を身を屈める事でかわし
下から突き上げるような突きを放つ、だがその1撃は浅く、魔石まで届かない
再びドローロの拳が上からサラ目掛けて放たれる
しかし、既にサラはそこにはいなかった
ドローロの股下をすり抜け、背後に回り、2メートルほど離れている
ズザザーと滑りながら止まったサラはドローロ目掛けて飛び
その勢いのまま背中へと剣を突き立てた
勢い余って柄まで剣が突き刺さり、魔石を貫通する
そして、サラの勢いは止まらず、ドローロの背中にぶち当たってしまった

「痛たた・・・」

鼻を押さえるサラは涙目になっている
そこへシャルルの回復魔法が飛んできて、すぐに痛みは消えた

「ありがと、シャルル」

「にししっ!」

Vサインを送るシャルルは大きな胸を張り、歯を見せ笑っていた

まさに一瞬だった、あっという間に4体のドローロを片付けた
彼等はこれ以外にも6体のドローロを葬っている、15体いた内の10体を、だ
赤の獅子達は実力の違いを実感する・・・悔しさ、憧れ、そういった感情が渦巻いていた

ディナ・シーが創り出す"領域"が消え、ラピの頭の上へと戻って行く

「ディナ・シーもおつかれさまー」

妖精の頬を指の背で撫でると、ディナ・シーはキャッキャと喜んでいた
ラピの肩にいるウェールズがヤキモチを焼き、ラピの髪を甘噛みする

「こらー!やめなさーい」

ラピの三つ編みがボロボロになり、彼女は髪を編み直していた

その後、ハーフブリード達はそそくさとその場を離れ、城の中へと消えて行く
城の裏口まではワンちゃんと共に行くが、彼女は方向が違うという理由で別れる事となった
シャルルやラピが一緒に行くと聞かなかったが
理由は解らないが、それはワンちゃんが断固として拒否したのだ





ドローロが片付き、ハーフブリード達が去った後
睨み合っていたクーとレヴィが動き出す
赤と緑、2つの聖騎士団、団長同士の本気の殺し合いが今始まった・・・



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