2016_05
06
(Fri)16:52

3章 第15話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第15話 【無情の風】

やっと長いこと温めてたネタを放出できました!
戦闘は激化してってますねぇ、どうなっちゃうんでしょ?
@4~5話でアムリタ編も終わりですが、楽しんでくださいまし!

では、続きを読むからどうぞー。





【無情の風】






戴冠式まで残り1時間50分、アムリタ城内

近衛騎士団と青の大鷲の激戦は続いていた
徐々にだが青の大鷲が押しており、1人、また1人と近衛騎士団は倒れてゆく
これは実戦経験の差だ、場数を踏んできた青の大鷲達の連携は完璧であり
剣術の技量だけ高い近衛騎士団ではこの差は埋める事は出来なかった
だが、元々の人数の差がある・・・そのため青の大鷲は苦戦を強いられていた

混沌となる戦場の隅に1体の化け物と対峙している二人がいる、エインとオエングスだ
レンブランの命令でZEROは暴れ出し、その人類を超える身体能力に苦戦している

ガンッ!

オエングスが盾に全体重を掛けてZEROの拳を防ぐと
エインは振り上げられた腕の下に潜り込み、腋の下を斬りつける
だが、ZEROから血は出ず、一瞬でその深手は塞がってしまう

「これでは埒が明かないな・・・」

何度もZEROに戦いを止めるよう呼びかけるが彼は一向に答える気配は無い
レンブランの言っていた"遊び"というものがそれほど恐ろしいのだろう
やむを得ず戦闘を開始した二人の剣にいつもの勢いは無かった
だが、手を抜けるような相手ではない
直撃すれば頭など吹き飛ぶであろう拳のラッシュ
その巨体に似つかわしくないスピード、無限のスタミナ
痛覚がない事による無茶な攻撃、それを補助する超再生能力
どれをとっても手など抜けるはずは無かった
しかし、二人の剣は僅かにだが鈍ってしまう、ZEROの本心を聞いてしまったから・・・

『ZERO!止めるんだ!俺達が争う理由がない!』

「・・・・・・」

『俺達はレンブランを倒しに来ただけだ!頼む!邪魔をしないでくれ!』

「・・・・・すまねぇ・・・すまねぇ」

ZEROの目から涙がこぼれるが、彼はその大きな拳を振り上げ振るう
ブオンッブオンッ!と拳が空を切る音が続くと、再びレンブランは声を上げる

『さっさとしないかグズめっ!』

「ひっ・・・」

ZEROの動きが一瞬止まるが、動き出した彼はまるで荒れ狂う大海のようだった
拳のラッシュは一瞬たりとも止まらない
無理矢理な方向転換により足が耐えられなくなり、鈍い音を立てて折れるが
そんな事はお構いなしに拳を振るい続ける
瞬時に足も再生し、この無茶な動きを継続させてゆく

「ぐっ!」

オエングスが盾で防ぎきれなくなり、吹き飛ばされる
すかさずエインがフォローに入るが、そこへ台風のような拳が振るわれた
もはや避けられる距離ではない・・・・その時、エインは剣を左手に持ち変える

ガッ!

「・・・っ!」

オエングスは信じられない光景を目の当たりにする
エイン・トール・ヴァンレンという男は、あの拳を片手で止めたのだ
彼の右腕にある"銀の腕"で・・・・

「ぬっ・・・お、おめぇ、すげぇな」

「っ・・・・それは君もだろう?おかげで肩が外れそうだったぞ」

「お、おで・・・楽しいって感じでる・・おで、お、おめぇ好きだ」

「それは嬉しいな、俺も君が気に入っていたところだ」

「ほんとか、ほんとだべか?お、おで達、友達なれるだか?」

「なれるとも、君が望むならば」

「そ、そっかぁ・・・・そっかぁ・・・・・ありがどなぁ、あ、ありがどなぁ」

ZEROは大粒の涙をボロボロと零し、両膝をついてその大きな手で顔を覆った
しばらく彼が泣き止む事はなく、この混沌とした戦場に大きな泣き声が響いていた

「チッ・・・・使えない傀儡(くぐつ)め!
 やはり自我など要らんようだな、後でレヴィに消させるか」

レンブランがそんな悪巧みを洩らしている時、事件は起きる

『がああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!』

突如、ZEROが吠える
その声の大きさたるや、その場にいた全ての者が止まるほどだった
窓ガラスは割れ、ビリビリと肌で感じるほどの咆哮
何が彼をそうさせたのか、それはこの場にいた誰もが解っていた

風・・・いや、風とは違う力が吹き抜けていった
それは泥のようにまとわりつくような、ねっとりとした感覚
生暖かいその波動が一瞬で通り過ぎて行ったのだ
リリムやプララーには即座に解った、それが魔力であると・・・

「な、なに・・・これ・・・・」

リリムの膝は震え出し、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡している

「なんて魔力・・・何が起きてるのかしら・・・」

プララーは魔力を見る力は弱いのだがハッキリと感じられた
尋常ならざる魔力の波動、それが発生した原因が気になった
こんなものを起こせる存在が人であるはずがないから・・・・

『エイン!気をつけてください!』

リリムが叫ぶとエインは無言で頷き、ZEROから数歩遠ざかる
体勢を立て直したオエングスはエインの横に並ぶ
オエングスは右手に持つモラルタが妙な音を発している事に気がついた

フィィィィィィィ・・・・・

なんだ?なんだこの感覚は・・・警告?
オエングスは何だかは解らないが、先程の魔力が危険なものという事だけは解った

『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』

ZEROの雄叫びはまだ続いている
彼は白目をむき、口の隅には泡が出ている
ビクッビクッと身体が痙攣を始める頃・・・・咆哮は止んでいた

「どうなった・・・」

敵味方、その場にいた誰もが剣を止め、ZEROに注目していた

そして変化は始まる

突然、ZEROの筋肉が膨張し、その巨体は更に大きなものへとなっていく
身体中に血管が浮き上がり、僅かに湯気が上がっている

『なんだなんだこれは!レヴィめ、何か隠してやがったな!』

レンブランがZEROの変化に興奮気味だ
だが、その考えが見当違いである事をすぐに知る事となる

静まり返った城内で突如大理石の地面が炸裂し土煙を上げる
ZEROの巨体が瞬時に姿を消し、レンブランの左後方で爆音がする

ドゴーンッ!

音がした方向・・・何かが通りすぎた方へとゆっくりと顔を向けると
そこには消えたはずのZEROがおり
近衛騎士団4名と青の大鷲2名の原型を留めていない肉塊があった

「へ・・・ひっ!」

レンブランは尻餅をついて後退る
ZEROはそんなレンブランを気に留める事もなく、近くで動いている近衛兵を襲い始めた
それからは戦闘と呼べるものではなかった・・・これは一方的な虐殺
近衛騎士団の大半と青の大鷲の大半は引きちぎられ、潰され、喰われた
人間を1人食う度にZEROの巨体は膨れ上がる
今では6メートル近くある天井にも届きそうなほど巨大化していた

青の大鷲団長ディムナ・マックールは撤退命令を下すが、逃げられる者などいなかった
恐怖により足はもつれ、判断は遅れ、目を離す事ができず逃げそびれる
次々に甲冑を着込んだ騎士達が引きちぎられてゆく・・・まさに地獄だった

エインやオエングスが呼びかけるが反応はなく
二人でZEROの足を斬りつけるが倒れる前に再生されてしまう

リリムが破壊魔法の玉を放ち、その足に大穴を空けるが即座に肉で塞がれる
ならば!と、破壊の玉を薄く薄く伸ばし、ピザのように広げていく
円形状に広げた破壊魔法を操り、数度避けられるが何とか右足に当てる事が出来た
右足は切断され、ZEROは一瞬よろめくが、切断面から手のようなものが伸び
足と身体を繋ぎ止める、そして即座に傷口は塞がっていった

現在この場にいる生存者はエイン、リリム、ミラ、バテン、プララー、アシュ
オエングス、ディムナ、カナラン神殿騎士団2名、青の大鷲6名、近衛騎士団4名
マリアンヌ、ルーゼンバーグ、レンブランである

しかし、生存者など時間の問題でしかなかった
ZEROは暴れ、城の柱を壊し、壁や地面を壊し、人を壊し続けている
人を捕食し吸収するだけではなく、その身に瓦礫すらも吸収していく
もはや原型は止めておらず、あちこちに手足が生え、瓦礫が飛び出していた

完全な化け物と化したZEROを見上げながらエインは思う・・・・友であるならば・・・・
その時、一瞬だがZEROの動きが止まり、エインと目が合った
白目をむいてはいるが、彼の目からは涙が溢れ、小さく口が動いている


こ   ろ   し   て   く   れ


口パクで、ZEROはハッキリとそう言った
エインは目を潤ませながら頷き、左手に剣を構える
その隣にオエングスが並び、モラルタを掲げた

『神器解放!モラルタよ、その力を示せ!』

モラルタから赤い光が溢れ出すと同時にミラが叫ぶ

『エイン!"あれ"を使いなさい!』

ZEROから目を離さぬままエインは頷き、銀の右腕に手を伸ばした・・・







戴冠式まで残り1時間40分、城門前

不穏な空気を感じたハーフブリードは宝物庫探しを諦め
城外へと出たところで立ち止まっている
澄み渡る青空だったはずがいつの間にか陰り
辺りは草色に染まり、まるで別の世界にでも来たかのような錯覚に襲われる
だが、それだけではない・・・アムリタ城上空にはどす黒い"何か"が渦巻いている
雲ではない、何かとても嫌なものが渦巻いていた

しかし、そんな異常な空を気にしている者はここにはいない
眼前に広がる光景がそれを許してくれないからだ
彼等の前に広がる光景・・・それは死者の軍勢だった

「なんで・・・倒したはずじゃないの?」

「くっそ、どうなってんのこれ」

「突破できるかな・・・」

「ひー、無理だよー」

「もしかして・・・さっきの部屋の魔力の放出が原因・・・?」

ジーンの推測は当たっていた
心臓のあった部屋から放出された魔力は壁をすり抜け
辺り一帯に拡散し、様々なものに影響を与えた・・・・

1つが空だ、この草色の不気味な空はその影響である
城上空に渦巻く"何か"もそれが原因だ

影響は死者にも及んだ
水の巫女マナ・マクリールの究極魔法で粉砕されたはずの死者達は
先程の魔力の風を受け、意思でも宿ったかのように合成魔法金属のボルトに骨片が集まり
無様な形ではあるが身体を形成していった
その数おおよそ1000、元の数よりは大幅に減ってはいるが恐ろしい数だった
そして、エイン達の対峙しているZEROを狂わせたのもこれだ

ゾンビ達は合成魔法金属であるボルトが刺さっている
このボルトは周囲の魔力を微量だが吸収する
作ったヴィクターですら知らなかった機能があるのだ

普段、世界に漂っている魔力など極々僅かである
そのため、微量を吸収しようと誤差でしかなく、気づくことは難しい
だが、心臓の部屋から放出された高密度の魔力は通常時の数十万倍に及ぶ
普段の空気中の魔力が100として、1を吸収しても誤差だが
それが空気中の魔力が1000万になったらどうだろうか
微量といっても吸収量は10万という膨大な量になってしまうのだ
そして、1000体もの死者を蘇らせる結果となった

大量の死者達は痛みを嘆くかのような呻き声を上げながら徘徊している
そう、彼等は呻き声とはいえ喋っているのだ
1000人もの呻き声が合わさり、大きなうねりとなり
まるでこの国そのものが嘆いてるかのようだった

地獄の釜の蓋でも開いたかのような光景にハーフブリードは立ち尽くしていた
すると、1体のゾンビがこちらに気づく

『あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!』

1体が叫ぶと一斉に1000体のゾンビがハーフブリードに向かってくる

「ちょ、ちょ、まずいって!」

「シルさん逃げる?」

「いや、無理でしょ!どこに逃げんのよこれ」

「どうしよ・・・」

「ひー、もうやだー!」

皆が動揺しパニックになっている時、ジーンにはある声が聞こえていた
心臓の部屋辺りから聞こえ始めた不思議な声
彼女はその不思議な声と会話をしていた

女・・・精霊が使えるな・・・・

サラマンダーとかなら使えるわよ

なんだ、そんな陳腐なものしか呼べんのか・・・くだらん・・・

アナタ誰なの?

そんな事は後でもよかろう?今は時間がない・・・お前にいい事を教えてやろう・・・

いい事?

そう・・・力だ・・・・そんなカスみたいな精霊ではなく、もっと上の力が欲しいだろう?

・・・・・うん、どうすればいいの

素直だな、気に入ったぞ・・・・ならば・・・・


会話を終えたジーンは声を上げる

『落ち着いて!活路はある!』

突然のジーンの大声に皆が彼女を見る
彼女は早口で簡単に作戦を説明し始めた

「シャルルは風樹魔法で壁を作って
 発動までシルさんとサラでシャルルを守って
 ラピはディナ・シーを展開、少しでも動き鈍らせて
 私が詠唱を終えるまで何とか耐えて、じゃないと皆死ぬ!」

「「「「了解!」」」」

こういう時の彼等は息が合う
何の躊躇いもなく即座に自分のすべき事を始める
だが、シャルルだけはジーンに一言あった

「悪魔だけは呼ばないでよ?」

「解ってる、安心して」

そういうジーンの表情は自信に満ちたような、余裕のある顔つきだった
最近のジーンはどこか心に余裕の無いような、焦っているような時が多かった
それがどうしたというのか、前のジーンに戻っている
何があったのかは解らないが、シャルルは少しだけ安堵し杖を構えた

「・・・大いなる風よ!」

シャルルの詠唱が始まり、シルトとサラが前方5メートル辺りに陣取る
ラピはディナ・シーに回復魔法を渡し、更に"領域"を展開する
これにより領域の効果は強まり、中に入る死者達の動きは目に見えて遅くなっていた
シャルルの後ろでジーンは意識を集中するように目を瞑る

シルトとサラが戦闘に入ると同時に、城の東側から1人の男が走ってくる
白銀の甲冑は大半が破壊され、満身創痍という言葉がぴったりの男
アムリタ聖騎士団"赤の獅子"団長クー・セタンタだ

『助太刀致す!』

『助かる!』

クー、シルト、サラの順で並び、次々に襲い掛かるゾンビを食い止める
だが、ゾンビ達は以前までの力とは比べ物にならないほど強くなっていた

「くっそ、こんな強かったか!?」

「防ぐだけで手が痺れちゃう・・・」

サラの右手にディナ・シーの銀の粒子が降り注ぎ、手の痺れは即座に消え失せる

「一体何が起こっているのだ、アムリタはどうなってしまう・・・っ!」

ディナ・シーの領域に入った事によりクーの動きは良くなっていた
全身ボロボロだった傷は徐々に癒え、領域の強化魔法により感覚は研ぎ澄まされる

「これが妖精か・・・頼もしいものだな」

中空をくるくると飛び回る花のような可愛らしい小さな女の子を一瞥し
クーは何故かスカーの事を思い出し、鼻で笑う
あの自由な感じが似ているのかもしれないな

それからしばらくの間、3人はシャルルを守るため防戦に徹する
シルトは常闇の盾で敵を食い止め、クーは槍でなぎ払い、サラはスピードで翻弄する
彼等のスタミナも限界に達しそうな時・・・

「・・・・何人(なんぴと)も拒む風よ・・・っ!」

シャルルの詠唱が完了し、彼女を中心に竜巻が発生し始める

『みんな!来て!』

全員がシャルルに近寄り、竜巻の内側へと入って行った
シルト達が下がる時に追って来たゾンビ達はクーが鋭い突きで倒している

シャルルの杖から白い雷が枝のように生え、竜巻に突き刺さっていく
その度に竜巻は大きく分厚くなっていき、勢いを増していく
シルト、サラ、クーは尻餅をついて肩で息をしていた
短時間でこれほど疲れるというのは、それほどゾンビ達の力が強いのだ
ラピが残り少ない魔力で3人を癒し、ディナ・シーは魔力切れで消えてしまう

・・・これで支配する方法は解ったな?・・・・さぁ・・・・我に続け・・・

そして、ずっと目を瞑っていたジーンは目を見開き詠唱を始めた


『示す、奇しくも覚醒せし息吹、必然の終焉を見届ける者よ』

ジーンの北側上空に巨石とも言える岩石が突如顕現する

『汝、堅牢なる身を以って灰燼(かいじん)と化した大地へと降り立ち礎とならん』

巨石は圧縮されていき、10センチほどの黄色い小さな珠へと姿を変えた

『示す、始まりと終わりが混淆(こんこう)せし時 暗涙の雨を降らす者よ』

東側上空に直径2メートルほどの水の玉が流水のごとく顕現する

『汝、輪廻の環より流麗なる恵みを齎(もたら)さん』

水の玉は圧縮されるように小さくなり、青い珠へと姿を変える

『示す、優厳二心のつれなき者よ』

西側上空には緑色の風が球状に渦巻き顕現する

『汝、神風の如く天を押し上げ岩を起こし茫漠(ぼうばく)たる黒雲を風靡(ふうび)せん』

風は圧縮され、密度を高めていく・・・そして小さな緑色の珠へと変わる

『示す、絶望に堕ち希望を灯す者よ』

南側上空に直径2メートルほどの轟々と揺らめく赤い炎の玉が顕現する

『汝、炎帝より赫(あか)く光焔たる剣を以って万物を黒く染め上げん』

赤い炎は圧縮されるように小さくなり、赤い珠へと姿を変えた

『告げる、我は闇を纏い、深淵を覗く者
 四恩の摂理 万象の理を顕示せん、踊れ、舞え、狂え
 恐怖を知るは愚者、絶望を知るは賢者、花紅柳綠(かこうりゅうりょく)の調』

4つの珠はジーンの元へと集まり、彼女の周りを回り始める

『今此処に無情の風を奏する』

ジーンが天高く腕を上げ、天を指差すと4つの珠は勢いよく天へと昇る
それと同時にシャルルの魔力は限界を迎え、風樹魔法が消失した

『現れよ!タナトス!』

天に昇った4つ珠がぶつかり、激しい音を立てて空がヒビ割れる
この場にいた全員が世界から悲鳴のようなものが聞こえた気がした
そして、ヒビからヌッと出てきたのは骸のような手だった

その場にいた全ての者が天を仰ぐ・・・それは死者達もそうであった

空のヒビから現れた手はヒビこじ開けていき、徐々にその姿を現す
タナトスと呼ばれし者、死を司る精霊、それはボロボロの漆黒のローブを身に纏い
袖から覗かせる手は骸のようであり、顔は影になっていて見る事はできない
タナトスが現れた途端、辺りの空気は一変する

ダヌという街は魔法の壁に囲まれ、城に近づくにつれ暖かくなっていく
そのため城の周りには芝が生え、緑が生い茂っているのだ

だが、今は違う
タナトスという存在が現れた瞬間から吐く息は白くなり、芝には急速に霜が降りて行く

「何か凄いの呼んだな・・・」

空を見上げながらシルトが言う、彼は背中に冷たいものを感じていた

「だ、大丈夫かな?」

サラが心配そうに言うが

「大丈夫だよ、ジーンは安心してって言ってた」

シャルルは自信たっぷりに答える

「おー!」

先程まで恐れていたラピが途端に元気になった

「な、何だあれは・・・・あんな化物を人が呼べるのか?」

クーは額に嫌な汗をかきながら空を見上げている

「あ、クーさんは知らなかったね、うちのジーンさんは精霊を呼べるのよ」

「精霊・・・あれがそうなのか・・・想像していたものより・・・その、何というか、邪悪だな」

「んー、いつものは違うんだけどね?なんだろね、あれ」

ゆっくりとタナトスは降りてくる
そして、音も立てずハーフブリードとクーの前に降り立った
上空にいた事により気づかなかったが、この精霊はとてつもなく大きかった

「でかっ・・・」

「門より大きいね」

「うひー、おっきいなー」

そう、タナトスは城門より遥かに巨大だ
20メートル近くあるその身体でハーフブリード達の壁となっている
しかし、タナトスの漆黒のローブの足元部分はボロボロで
そこら中に隙間があり、ゾンビ達が見えるほどだった
だが、タナトスの足は見えない・・・気になったシャルルがローブの中を覗き込むが
中は完全なる闇で何も見る事は叶わなかった

ジーンは天を指差す手をゆっくりと下げる
その眼はどこか虚ろで、ここではない何処かを見ているようでもあったが
表情はとても穏やかで、慈愛に満ちているようでもあった

「・・・・・狂え」

彼女が呟くと、タナトスが動き出す
ゆっくりと両手を地面につけ、頭を地面すれすれまで下げる
ゾンビ達はタナトスを恐れ、逃げ出していた
ハーフブリード達はゾンビ達に恐怖という感情があった事にも驚きだったが
今はこの巨大な死の精霊タナトスが何をするのか見逃すまいとしていた

タナトスの闇で見えない口から煙が吐き出される
煙はゆっくりと確実に広がって行き、城壁にぶち当たる

『ぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!』

煙を浴びたゾンビは絶叫を上げ凄まじい形相で崩れ落ち、跡形も残さず塵と化す
煙を浴びた壁は崩壊し、砂と化す

「ちょー!待って!これ僕ら大丈夫なの!?」

「大丈夫!」

自信たっぷりにシャルルは言う、何の根拠が・・・とも思うが
彼女の自信に満ちた顔や、穏やかなジーンの表情を見て信じる事にした

タナトスの死の吐息は広がって行き
辺り全ての者や物に等しく死を与えていく
1000体ものゾンビはあっという間に煙に巻かれ、土へと帰る
その時の絶叫はダヌの街全土に響き渡っていた
城壁は横100メートル近くが砂と化し、貴族街の一部も砂漠と化した
そしてタナトスの吐息は止まり、次第にその姿は薄くなっていき、消えてゆく

皆が唖然として固まっていると、その後ろでジーンが倒れる

「けほっ、けほっ」

ジーンは少量だが吐血し、顔色は悪かった
シャルルとラピが残り少ない魔力で治療をするが、初級の魔法程度しか使えない
シルトとサラも心配そうにジーンに声をかけている横で
クーは目の前に広がる、にわかには信じがたい光景を眺めていた

「・・・・巫女でなくともこれほどの事が人間に出来るというのか」

圧倒的な力を目にし、自身の小ささ、人間の可能性を感じるクーだった




しかし、世界は彼等を休ませてはくれない
天に渦巻く"何か"がしゅるしゅると糸を垂らすように降りてくる
"それ"は彼等の前方50メートルほどの位置、城門があった場所に降り立った

最初に気づいたのは、そちらを眺めていたクーだった
クーは全身の毛が逆立つような感覚に襲われ
"それ"から目が離せず、声すら出せずにいた

"それ"は徐々に人のような形を取り始めた
霧でもかかったような、ハッキリとした姿ではない人
赤黒く、顔すらない"それ"は確かにこちらを見ていた・・・・




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