2016_05
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(Tue)21:36

3章 第16話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第16話 【支配者】

前回に引き続き、ずっと温めていたネタを大放出!
いやぁスッキリスッキリ(´∀`)

では、続きを読むからどうぞー。









【支配者】







アムリタ城の上空に渦巻いていた"何か"は大地に降り立ち
今、彼等の目の前で人の姿になっていた
赤黒い影の集合体とも言えるモヤモヤと不確かな人型は確かにこちらを見ていた

クーの異変に気づいたハーフブリードが"それ"を目にした時
彼等の瞳を絶望という言葉が支配した
ハーフブリードはその人型に見覚えがあった
それは忘れる事など出来ない苦い思い出・・・サタナキアのそれと酷似していたのだ
頭には捻れた角が2本、背中には12枚の蝙蝠のような翼
サタナキアは8枚の翼だったが、枚数の違いはあれど酷似していた

『ジーン!悪魔は呼ばないって言ったよね!?』

「呼んでないよ」

「じゃあ・・・何なの・・・あれは・・・」

ジーンは目を凝らして"それ"を見ようとするが見る事は出来ない
彼女は先程の死の精霊タナトスを召喚した時にその両目から光を失っていた
だが、ジーンにはもう1つ世界を見る方法がある・・・・魔力だ
彼女は魔力の流れだけで世界を見ていた
視力を失った事により、以前よりも鮮明に正確に魔力を見る事ができた
そして、彼女の目に映る世界は暗闇の中に輝く様々な光だった

自分の傍らで輝く2つの光、片方はシャルルだろうか、優しい淡い青の光だ
もう片方は形からしてラピだろう、薄い黄緑色の光は頭から糸が伸びているようにも見える
そこから目を動かし前を見ると2つの光が見える
2つとも赤い光だ、烈火のごとく輝く小柄な方がサラだろう
もう片方はそれほど強い光ではないが手に持つ長い棒状の物が凄まじい光を放っている
おそらくクーの持つゲイボルグだろう
そこでジーンはある事に気づく・・・シルさんはどこだろ?と
彼女の眼にはシルトが映らない、魔力が無いとでも言うのだろうか
普通であれば有り得ない、どんな人でも内に魔力は秘めている
よく目を凝らすが、ジーンにシルトを見る事は出来なかった

そして、ジーンの瞳には極端に強い光を放つ2つの光が見えている
1つは目の前に立ち塞がる12枚の翼の人型だ
もう1つは自分の鞄に入っている心臓である、両方同じ光の色で紫である

「なんだろ・・・翼からしてサタナキアの親戚とか?」

『なんで悪魔がいるの!』

「ひー!またあんなのと戦うのー!?」

「いや、もう無理、マジで無理・・・」

「私ももう・・・」

「・・・くっ」

クーは悩んでいた、ゲイボルグの力を使うかを
目の前にいる赤黒い影のような存在は見ただけで解るほどの強敵だ
スカーと対面しているかのような錯覚さえ覚える、それほど絶対的な差があるのだ
だが、クーはスカーと約束をしている・・・生きろと
槍の力を使うなとも言われているが、槍を使って生きろとも言われている
だからクーなりに死なない範囲で使う事にしたのだ
しかし、今の状態で槍を使えば間違いなく死ぬだろう
それは神として崇めているスカーに対する裏切りになってしまう
そのため、クーは悩んでいた

「やるしかないん・・・だろっ!」

シルトが先陣を切り、影へと突っ込んで行く
サラがそれに続き、クーも二人を追った

シルトがミスリルブロードソードを上段に構え全力で振るう
影は避ける事もなく、静かにこちらを見ていた

とった!

すると、シルトの剣は影をすり抜け空を切る

「なっ!」

シルトがすっぽ抜けたように体勢を崩し転がる頃
後ろにいたサラの横一閃の斬撃が放たれる・・・が、これもまたすり抜ける

「えっ?」

サラもバランスを崩し、くるりと1回転半して止まった
最後にクーが鋭い突きを放つが、それは地面の芝へと深く突き刺さる
3人は即座に距離を取り、赤黒い影を睨みつける
相変わらず動かない影は、じっとジーン達の方を見ていた

「攻撃当たんないんだけど」

「うん、どうすればいいの」

「ってか、これ何なの?何もしてこないけど」

「・・・・・」

クーはまだ悩んでいた、師を裏切るかどうか
だが、仮に槍の力を使ったとしてもこの敵に当たるのだろうかという不安が残る
そのため、彼は力を使えずにいた

その時、影は動き出す

顔だけをシルトへと向け、首を傾げる
眼や口など無いのだが笑っているようにも見えた
刹那、シルトの身体が後方へと吹き飛ばされる

「がっ・・・・はっ!」

口から大量の血を吐き出し、10メートル近く転がっていく
止まったシルトはピクリとも動かない

『シルトさんっ!』

サラが叫ぶと、影はサラの方へとギョロリと顔を向けた
刹那、サラの身体は宙を舞う

「・・・・っ!」

4メートルほど浮いたサラの身体はそのまま地面へと叩きつけられ
口から大量の血を吐き出し、手足の感覚は無くなる

続いて影はクーを見る
クーは咄嗟に身を守るような構えになるが、その瞬間後方へと吹き飛び
シルトと同じように10メートルほど転がり動かなくなった

影が動き出してたった6秒である
シルト、サラ、クーの3名はピクリとも動かなくなっていた

『サラっ!シルさんっ!』

シャルルの悲痛の叫びが虚しくこだまする
ラピは恐怖のあまりガタガタと震えるだけだった
肩のウェールズも震えており、ラピに寄り添うように縮こまっている

この場で動ける者はいなかった
シルト、サラ、クーはもはや戦闘不能だ
シャルルは風樹魔法の使いすぎで魔力は限りなく0に近く、まともに歩く事もできないだろう
それはラピも同じだった、これまで何度も回復魔法を使い、妖精も使っていたのだ
そして、ジーンはタナトスを呼び出すために魔力をほとんど使い果たしている


     絶望


全員の心が絶望に支配されていく
諦めかけたその時、ジーンの心にあの声が響く


女・・・どうした・・・・諦めるのか?

だって、もう無理じゃない・・・攻撃も効かない、魔力もない、どうすればいいのよ!

くっくっく・・・その絶望は心地よいが・・・それでは困るな

困る・・・?

あぁ・・やっと見つけた肉体だ・・・死なれては困るのだよ

肉体?私を乗っ取るつもり?

そのつもりだったがな・・・お前等は見ていて飽きない・・・奪うのは簡単だがそれは勿体無い

じゃあどうするの

お前に力をやろう・・・

力・・・?

そう・・・力だ・・・全てを支配する力・・・我、アスタロトの力をな!

アスタロト!?アナタはあの悪魔王アスタロトなの?!

くくっ・・・驚いたか女よ・・・・さぁ、力が欲しいなら我を喰らえ

え?喰らう?何を?

お前が持っているであろう?・・・我が心臓を

えー・・・あれ食べるの・・・

何を嫌がっておる!力が手に入るのだぞ!?

解ったよ・・・はぁ


ジーンが立ち上がり、数歩前へと出る
そして、鞄から心臓を取り出しギュッと握り締めた
手からドクッドクッと脈打つ鼓動が伝わってくる

『ジーン!何するつもり!』

シャルルがジーンの行動が気になり声を荒げる
だが、そんなシャルルにジーンが向ける顔は笑顔だった
その笑顔が別れを告げているようで、シャルルの目には自然と涙が溢れる

『ダメ!絶対ダメっ!!』

シャルルは必死に身体を動かそうとするが魔力が枯渇し思うように動けない

『バカジーンっ!やめろおおおおおおおおおおお!』

シャルルが必死に手を伸ばすほんの少し先で、ジーンが心臓を口元へと運んだ
そして、彼女は瞳を閉じて脈打つ心臓を貪り喰らう
口の周りを血で汚し、飲み込みにくいが我慢して喉の奥、胃の中へと流し込む
一心不乱に心臓を食べ続け、最後の欠片を飲み込む・・・・ゴクンッ

「あ・・・・あ・・・・」

シャルルの言葉にならない声が洩れ、涙は地面にポロポロと落ちる
何故かは解らないがシャルルには悲しかった
その隣でラピは状況が理解できず慌てている

それから少しの間、静寂が支配する
赤黒い影は黙ってジーンを見ていた



ドクンッ!



ジーンの身体が跳ね、僅かにだが足が地面から離れ、身体は浮き上がる
彼女を中心に見えない力の波動が放出され
芝がなびき、ジーンの髪はバサバサと舞い上がり
彼女の前髪と横の一部が白く変色していく
力の波動により彼女の服の帯が解け、胸がはだける
ゆっくりと開かれた瞳は元のこげ茶色ではなく、真紅に染まっていた
ジーンが地面へと音も立てず降り立ち、彼女は微笑んだ
その口に見える犬歯は少し伸び、牙のようになっている

その時、シャルルとラピは感じ取っていた、ジーンの放つ膨大な魔力を
それは人のそれではない、言うなれば神の領域
四神と対峙した時ですらこれほどの魔力は感じなかった
それすらも凌駕する膨大な魔力を、目の前のジーンから感じていた

「うそ・・・でしょ・・・ジーン」

「ど、どうなったの・・・なんでジーンさんがあんな魔力、なんで」

二人が動揺し、立ち上がる事も出来ずジーンを見上げていると
彼女は振り向き、その真紅の瞳で二人を見つめた
見慣れているはずのジーンの顔がまるで別人のように感じられ、二人は息を飲んだ
だが、そんな彼女が向けた笑顔は二人の知るジーンだった
すぐに影へと顔を向けたジーンは肩を震わせる

「ふふっ・・・なにこれ、笑っちゃう」

ジーン覚醒

自身の両手を見てジーンは笑い出す
溢れ出る膨大な魔力、それを所持している事実
求めていたものを遥かに超える力がこの手にある
今なら何でも出来る気さえしてくる
魔力が足りなく出来なかった術式、新たな可能性の探求
何でも出来るような確信めいたものが彼女の中に疼く
そして、赤黒い影へと顔を向けて目を細めた

「そう、アナタは私の影なのね」

ジーンの目の前にいる赤黒い影、それはアスタロトの影とも言えるものだった
アスタロトは神話戦争で神々に倒されるが死んではいなかったのだ
悪魔王ともなると滅ぼす事は不可能に近い
そのため、彼の魔力の源たる心臓を取り出し、この地に封印する事とした
悪魔王の神にも匹敵する魔力を封印するには大規模な封印術が必要であり
そのために用意されたのがこの地を囲む3重の魔法壁だ
巫女達が力を合わせ、長い年月をかけて完成させたのがこの壁だ
アムリタは壁を城壁として利用したが、本来この壁は封印のための巨大な魔法陣なのだ

悪魔王アスタロトを世に出さぬよう封印を守護する神の使徒
それがアムリタ王家の始まりである
数千年という時を経て、それは神話となり
王家は封印を守護するという役目すら忘れてしまう
理由も解らずこの地に留まり、この地を守り続けていた

アスタロトが巫女達に封印されてから約6000年後
皮肉にもその封印を破壊したのは二人の巫女だった
地の巫女マルロと火の巫女イエルによる究極融合魔法ファゴ・メティオール
普通であれば破壊など不可能なこの壁の封印式を破壊してしまったのだ

封印の弱まったアスタロトは辺りの様子を探った
そして見つけたのだ、自身の肉体になりうる存在・・・ジーンを
アスタロトの肉体たりうるには幾つか条件があった

1つはエルフの血が入っている事
エルフとは神に最も近い種族であると言われているのだ
しかし、ここで1つ疑問が生じるだろう
純粋なエルフであるラピの方がいいのでは?と

この疑問には2つ目の条件が答えてくれる

2つ目の条件は他種族の血が混じっている事だ
ハーフエルフとはエルフよりも魔力や寿命では劣っている
しかし、エルフには無い欲というものが強いのだ
欲とは力である、それは悪魔であるアスタロトには必須と言ってもいい
特に欲深い人間とのハーフであるジーンは、この条件にぴったりだった
だが、ここでまた1つの疑問が生じるだろう
ハーフエルフなら誰でもいいのか?と

この疑問には3つ目の条件が答えてくれる

3つ目の条件とは・・・悪魔と繋がる資質を持つ者だ
普通のハーフエルフでは精霊や悪魔などと繋がりはなく召喚はできない
だが、ジーンは1度悪魔を召喚した事もあるので条件は満たしていた

偶然にもこの3つの条件を満たした人物が
これまた偶然にも封印の解けたこの場に居合わせる
そんな奇跡にも近い現象がこのアムリタで起こっていた
それはまるで必然であるかのように・・・

ジーンはアスタロトに誘導され、6000年間一度も開く事のなかった扉を開けてしまう
その時、部屋に6000年間蓄積されていた膨大な魔力が溢れ出て
辺りの死者に影響を与えるだけでなく
魔力は集まり、世界に触れ、ある種の意思を持った
それはアスタロトの魔力より生まれし意思、アスタロトの影である

「丁度いいわね、アナタには私の実験台になってもらおうかしら」

ジーンの真紅の瞳が爛々と燃え盛る
彼女はゆっくりと歩きながら影へと近づいて行く
これから発動する人の領域に無い魔法を想像し、彼女の口元は緩んでいた
両手を大きく広げ、ふわっと5センチほど浮き上がったジーンは呟く

「顕現せよ、異界の門」

彼女の髪や手から赤と紫の雷がバチバチと放たれ青々しい芝をえぐる
えぐられた地面は異様な動きをしはじめ、次第に迫り上がっていった

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

シャルルとラピの目の前に幾つもの門が出現する
それはあのサタナキアが現れた門と同じ物であり、太い鎖が巻きつけられていた
門の数は40、まるでアスタロトの影を取り囲むかのように円陣を組んで出現した

「ジーン・・・・」

「あわわわ、どうなっちゃうのー」

「私にもわかんないよ・・・わかんないよ・・・」

「うぅ」

ジーンの服がバサバサと揺れ、真紅の瞳で全ての門が出現したのを確認する
両手をパンッと合わせると、門に巻き付く鎖は一斉に断ち切れる

ガチャンッ!!・・・・・ギギギギギギギギ・・・・ガコンッ

鎖は地面に落ち、ゆっくりと全ての門が開いていく
全開になった門の中は黒と銀の斑な世界が広がっている
ジーンが両手を合わせ指を動かし始める、まるで何かの印でも結んでいるように

「我、アスタロトの名において命ずる・・・現れよ、我が眷属達よ」

彼女が両手を広げると、無数の赤と紫の雷が放たれ門へと向かう
40本の雷は門の中へと入り、ジーンの表情はニヤリと邪悪に歪む
クンッと両手で雷を引っ張るようにすると、門の中からは大量の悪魔達が姿を現した

ドロドロに溶けたスライムのような悪魔、蛇やムカデのような悪魔
巨大な獣のような悪魔、紫色の肌を持つ美しい女性のような悪魔
ねじ曲がった角や蝙蝠の翼を持つ悪魔、顔だけが巨大でそこから大量の足の生える悪魔
様々な獣が融合したような姿の悪魔、タコのような触手の生えた悪魔
長い舌をだらしなくぶら下げた悪魔、竜のような姿の悪魔など
1体として同じ者などいない多種多様な悪魔達がぞろぞろと姿を現した

「ネビロス、サーガタナス」

「「はっ!」」
「ハッ!」

ネビロスと呼ばれた悪魔がジーンの背後で膝をつく
彼の悪魔は真紅のローブを着ており、眼はまるでルビーのように紅い
肌は青白く、動かぬ口から洩れる声は二重に聞こえてくる
左手には人の右手のような物を持っていた
ネビロスはアスタロトの眷属の頂点に位置する悪魔である
三大悪魔王に仕える六体の上位悪魔の中でも最上位の力を誇っていた
最も悪魔王に近い悪魔、それがネビロスだ

サーガタナスと呼ばれた悪魔もジーンの背後で座る
彼の悪魔は四足の獣で、3メートル近い巨体で長毛の犬のようだった
その眼はネビロスと同じくルビーのように紅く、口からは涎を垂らしている
身体中には大蛇が巻きついており、それもまた彼の悪魔の一部であった
サーガタナスもまた三大悪魔王に仕える六体の上位悪魔の一体である
その力は同じ六体の上位悪魔であるサタナキアと同等と言われている

アスタロトの支配する40の悪魔は全て中位以上の悪魔達である
その悪魔達全てに眷属がおり、その数は膨大だ

「私は名をジーン・ヴァルターと改めた、皆に伝えておきなさい」

「「はっ!」」
「ハッ!」

「それと・・・"あれ"を始末しなさい」

ジーンは顎をしゃくりアスタロトの影を指す

「「御心のままに」」
「御意!」

ネビロスが立ち上がり、真紅のローブをなびかせ言う

『魔宴(サバト)を始める!』

ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲォ!!

悪魔達の雄叫びがこだまし、空気が震える
シャルルとラピは恐怖のあまり震え、瞬きすら忘れるほどだった
悪魔達の歓喜の叫びに呼応するようにアスタロトの影も動き出していた

そこからは地獄というものが具現化したかのような光景だった
無数の化物達がアスタロトの影に群がり、一斉に襲い掛かる
アスタロトの影の攻撃により腕や足が吹き飛ばされ、血は舞い、芝は汚されてゆく
しかし、その程度で悪魔達は止まらない
半身となろうとも襲い掛かり、アスタロトの影へと喰らいつく
そう、悪魔達はこの影を喰らっているのだ
その地獄のような光景をジーンは笑いながら見ていた
まるでおもちゃで遊ぶ子供のように・・・・

徐々に影は喰われていき、残り少ない時

『ネビロス!サーガタナス!彼女達を守れ!』

ジーンの命令でネビロスは後方へと飛び退き、シャルルとラピの前へと降り立つ
サーガタナスはその姿が消え、シルト、サラ、クーの元へワープしたように現れ
3人を1箇所へと集め、その前に立ち塞がった
刹那、アスタロトの影はとてつもない力を全方位に放出した
地面はえぐれ、巨大なクレーターが作り出される
それにより悪魔達の大半は吹き飛ばされた

直撃を受けたかに見えたジーンの前には肉眼で見えるほどの魔法障壁が発生していた
その数は12枚、1枚1枚がサタナキアの障壁など比べ物にならないほど強力である
だが、その障壁は2枚破られる・・・それほどの威力だったのだ

ネビロスとサーガタナスも魔法障壁を張っており
シャルル、ラピ、シルト、サラ、クーにアスタロトの影の放った波動は届いていない

「ふふっ・・・笑っちゃう、この障壁ってあれでも平気なんだ」

マナの魔法障壁に嫉妬していたのが嘘のようだった
今手に入れたこの力は巫女など比較にならない領域にある
ジーンの中にその実感が湧き上がっていった

「もう十分かな、ネビロス、サーガタナス・・・終わらせなさい」

「「はっ!」」

ネビロスがふわっと浮き上がり左手に持つ人間の右手のようなものを掲げる

「「魔器ハンド・オブ・グローリー」」

ネビロスの持つ手が燃え盛り、突如アスタロトの影も炎に包まれる
すると、アスタロトの影は悶え苦しみ、のたうち回る
先程まで腕を喰われようと痛みなど無いようだった影は苦痛に悶えていた
影はネビロスへと顔を向ける、だがネビロスはそれを知っていたかのように先に動いていた
刹那、ネビロスが居た場所の先にある城壁は爆音と土煙を上げ崩壊する

ネビロスが数回ほど影の攻撃を先読みするようにかわした頃
突如、アスタロトの影の背後に1体の獣が姿を現す、サーガタナスだ
その巨大な口で影の胴体に喰らいつき、身体中に巻き付く大蛇も影に喰らいつく

ネビロスは影の前に降り立ち、動く事の無かった口が大きく開かれる
開かれた口の中は釜のように燃え盛っていた
この炎は普通の炎ではない、この世のものでない黒い炎である
顔が変形するほどの大口を開けたネビロスは影の頭にかぶりつく
ゴクリッと喉が音を鳴らし頭を丸呑みにした

その1撃でついにアスタロトの影は飛散し、消えてゆく・・・・・

「眷属達よ、戻りなさい」

無傷の悪魔や半身しか残っていない悪魔
全ての悪魔達は各々出て来た門へと戻って行く
その身が門へと入ると門は閉じ、地面へと埋まっていく
そうして全ての門が消え、先程までの地獄絵図が嘘のように辺りは静まり返る

ジーンがゆっくりとシャルルとラピの方へと向き
彼女にしては珍しくVサインをして歯を見せ笑った
まるでシャルルの真似のようなその姿に、シャルルは泣きながら笑顔になる
ラピもその姿に安心し、震えが治まった時、ジーンの身体に異変が起こる


ドクンッ!!


ジーンの身体が跳ね、仰向けに寝そべるように宙に浮く
そして、はだけたその両胸の中央がボコッと迫り上がる
鈍い音を立て、彼女の胸から腹は内側から裂け、肋や腸が飛び出し、血が吹き出す

「がふっ」

口から目から胸から腹から血が溢れ、地面を赤く染めてゆく

『ジーン!!』

シャルルが這うようにジーンの元へと進んで行く

「あわわわわ」

ラピは気が動転し、パニックを起こしていた
ジーンの身体はゆっくりと地面に降りるが、ドクドクと溢れる血は止まらない

「かっ・・・かはっ・・・・」

喉から溢れる血で喋る事すら出来ないジーンは意識が遠退いてゆく感覚に襲われていた
ジーンの元まで必死に這って行ったシャルルは状態を見て絶望する
胸部から腹部が裂けている、まるで中から炸裂したように、だ
開いた胸部の中央少し右側には力強く脈打つあの心臓が動いている
・・・・この傷と出血量では助からない
人の状態を見抜くのが得意なシャルルには瞬時にそれが解ってしまった
今も生きていて意識が残っている事の方が驚きなくらいだった

「ジーンの・・・バカ・・・・っ」

ジーンの頭を抱え、大粒の涙をポロポロと零し、彼女の血まみれの顔を濡らす

「約束したじゃん、悪魔は呼ばないって、約束したじゃん」

「かはっ・・・げほげほっ」

ジーンの吐き出す大量の血がシャルルの服を赤く染める

「バカ・・・・バカ・・・・・」

シャルルがジーンの頭を強く抱き締める
彼女の大きな胸に顔をうずめ、ジーンは少しだけホッとしたような気分になっていた
すると、ジーンの身体に更なる異変が訪れる

ベキッ!バキッ!・・・・ペキッペキッ

内側から折れ、花が開くように広がっていた肋が音を立てて動き始めていた

「なに・・・・これ・・・・」

「かはっ!・・・・・・・」

ジーンが大量に血を吐き出し、気を失う

『ジーン!・・・ジーン!起きろ!バカジーン!!』

シャルルが号泣し悲痛の叫びが響くが、ジーンは目が開く事はなかった
その代わり、彼女の胸部では骨がペキペキと音を立てながら元の姿に戻ろうとしている
シャルルはその異様な光景とジーンの安らかな顔を見ながら涙を流していた

ラピがハイハイのようにシャルルとジーンの元へと行き
血まみれのジーンを見て大粒の涙を流す
だが、その身体に起こっている異様な現象に気づき・・・恐怖した

それは有り得ないからだ

ラピも生の魔法使いである、魔法で治せる限界くらいは知っている
だが、目の前で起こっている現象はその比ではない
これはまるで生の巫女の究極魔法である人体再生のレベルなのだ
いや、それ以上と言ってもいい

内側から炸裂した胸と腹は閉じていき、傷口すら消えてゆく
血は集まってゆき、ジーンの中へと戻って行く
映画を逆再生でもしたかのようなその光景に、シャルルとラピは目を疑っていた

「何が起きてるの・・・」

「わかんない・・・でもジーンは大丈夫そう」

「良かった・・・・のかな?」

「うん・・・・サラとシルさん達も助けないと・・・ラピ、魔力残ってる?」

「ううん、もう初級も使えそうにないよ」

「私もだ・・・どうしよう」

二人が困り果てていると、遠くの方から何かを引きずるような音が聞こえてくる

ズズッ・・・・ズズッ・・・・・・

そちらの方へと目を向けると、200メートルほど先に動く物体があった
灰色と赤と肌色の塊、よく解らないがそれが地面を這って近寄って来る
次第にそれが何なのか理解したシャルルは恐怖する

「どうしよ!まだゾンビがいたみたい!」

「えええー!?ど、どど、どうしよー!」

二人にはもう立ち上がる力すら残っていない
シルト、サラ、ジーン、クーの四名は重傷で気を失っている
シャルルとラピが慌てるが解決策が浮かばなかった
そうこうしている内に肉塊のようなゾンビが近寄って来る
動きこそ遅いが、後数分もすればここまで到達するだろう
その時の対抗手段が今の彼女達には何1つ無かった

『誰か!誰か助けてー!』

『助けてーーーー!』

二人の大声が虚しく響く、この辺りに人影など無かった・・・かに思えたその時
3本の光が流星のごとく空に3本の道を刻む

タタタッ!

それは肉塊を貫き、ゾンビは溶け、ただの腐肉と化した

『だ、誰?!』

辺りをキョロキョロと見渡すが人などいない
ラピも辺りを見渡していると、ある影に気づく
崩壊した城門の隅に太陽と重なるように立つ、独特なシルエットがあった

『あーーーーーーーーーーーーーっ!』

ラピが指を差して叫ぶと、シャルルもそれに気づく

「やっほー、元気にしてた?」

ゆるい感じで手を振るその人物は・・・・

『『シウさーーーーーーーーーーんっ!』』

「よっ・・・と」

シウが城門から飛び降り、シャルル達の元へと駆け寄る

「あらら、元気そうじゃないね」

「あはは、確かに」

疲れきった顔で苦笑するシャルルの頭を撫で、シウは微笑む

「私が来たからにはもう安心するといいニャ」

その笑顔に安堵し、シャルルとラピの緊張の糸が切れ
魔力的にも精神的にも限界だった二人は気を失った





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