2016_05
29
(Sun)11:37

3章 第19話

オリジナル小説 『カタクリズム』
3章 第19話 【弔歌】

ちょっと散らかった感あるけどいっか・・・。
とりあえず、死者の国編は一旦終了です!
3章はもうちょっとだけ続きますのでお楽しみください!

追記、シルトのマントを返し忘れていたので3行だけ追加

では、続きを読むからどうぞー。








【弔歌】






至る所で立ち話をする者がおり、ダヌの街は喧騒としている
新王レンブランが即位した翌日には死者の回収が始まったせいであった
反対する者も多かったが、ルアは自分の意見を押し切ったのだ

「しかし陛下!緑の蛇を失った今だからこそ戦力は!」

貴族の一人が王へと不満をぶつけていた
この男は前王ヴァーテンベルグの時に軍事関連を任されていた者だ

「その緑の蛇が国家転覆に利用したのが死者だ
 自国の民に害する可能性のある存在を俺は許す気はない」

「しかしっ!」

「死者の命令系統を敵に奪われてみろ
 今度こそアムリタは滅ぶぞ、解るか?
 今、この国にはそれに耐えうる余力が残っていないのだ」

「では、今後の戦争はどうなさるおつもりですか」

「アムリタは自衛以外での戦争を禁ずる
 もう無駄な戦争などしないのだよ・・・そんな事より国を立て直すのが先決だ」

「なんと・・・」

男は力無く膝をつき、それでは私の家が・・・などと呟いている
貴族達からは哀れみの目を向けられるが、誰一人手を差し伸べる者はいなかった

「この国に存在するゾンビは全て回収、火葬する
 これは王命である、皆によく伝えるよう頼むぞ、ディムナ」

「はっ!」

こうして新王レンブランとしての初仕事が始まる
国に存在するゾンビを全て集め、ダヌの街の外へと移動させる計画だ
民達には死者を引き渡す代わりに過剰なほどの金が与えられ
反対する者はほとんどいなかった


ダヌの街に存在した死者の数・・・約20000
まさかこれほどいたとは予想しておらず、ルアは困りきっていた
火葬するにも穴を掘るだけで大仕事だ
何ヶ月掛かるのだろうか・・・それに掛かる費用は・・・などと計算していると
1人の女性が歩いて来る、それに気づいたディムナがルアに耳打ちする

「・・・陛下、巫女様が」

「おお、これはリリム様!」

「陛下、様はやめてください、私はそんなに偉くありませんよ」

「我等には神にも等しい存在なのですよ」

「私など・・・神の足元にも及びません」

そう言い、両手を組んで祈りを始める巫女を見つめ
改めて神の偉大さを胸に刻むルアだった

「ははっ、ご謙遜を・・・して、何用ですかな?何分忙しい身がゆえ・・・」

「はい、この数の死者、火葬するにも大変かと思いまして」

「何か案が?」

「私は死の巫女です」

「存じております」

「死の神の命により、死者には安寧を与えねばなりません」

「リリム様が弔うという意味でしょうか」

「はい」

リリムの目にはとても力強いものを感じられた
その表情にやられたのではないが、ルアは彼女に任せる事にした

「ありがとう、お願いします」

その一言だけは新王レンブランとしてではなく、ルアとしての言葉だった



ダヌの街の外、東へ2キロの地点
大雪原へと集められた2万の死者達は黙って立っていた
元より彼等は喋る事など出来ないのだが・・・
雪が音を食べてしまったのかと思うほど、辺りは異常なまでに無音だった

今、この大雪原には2万の死者とリリムしかいない
誰一人近寄ってはならない、それは死の巫女からの警告だ
近寄る者全てに死が与えられます、そう断言した彼女の目には光は無かった
それを聞いた者は唾を飲み込み、黙ってそれに従った

現在、リリムは2万の死者達の中央に位置している
風も無く、雪も降っておらず、とても気持ちの良い昼だ
気温は低いが陽の光は暖かく、ぽかぽかとしていた
彼女を囲むように死者達は集められ、2万の視線はリリムに集まっている
そして・・・リリムは弔歌を唱える



勇敢なる魂よ
汝は気高く勇気に満ち溢れ、心の底から偽りなく
重々しい悲しみと共に、安らぎへと導かん

勇敢なる魂よ
汝は気高く勇気に満ち溢れ、心の底から偽りなく
その目蓋を閉じ、永遠なる至福の刻へと導かん

右へ左へ、ゆらゆらと、命は流れ、落ちゆく
天を流れる命の川のごとく
その儚さゆえ、眩い光のごとき

我は死を与えし者、我は安寧を与えし者

揺蕩う魂よ、我は誘わん
汝は気高く勇気に満ち溢れし者
逡巡せし魂よ、天元へと参らん

眠れ、眠れ、眠れ



リリムの歌声が響き渡り、無音の白銀の世界は彩られてゆく
大声で歌っていないにも関わらず不思議と彼女の歌声はよく通る
この大雪原に集められた2万の死者達はその歌声に魅せられていた
彼等には意識など無い、だが彼女の歌声は魂そのものに響くのだ

魂は弔歌に導かれ、その肉体を離れ、天へと昇る
雪や大地・・・空気すら死に至り、魂の離れた肉体は灰と化す
雪は消え、大地は砂と化し、空気は無くなる
少し間を置いてから、リリムに集まるように風が起こる
死した空気の穴を埋めようと、辺りの空気が集まってきたのだ
その風により灰は舞い上がり、リリムを飲み込むように渦巻く
そして、灰は天へと昇り、ゆっくりと大地へと落ちていった
まるで火山灰のように世界を灰色に汚してゆく

その中央に立つリリムの頬に一筋の涙が流れた・・・

大雪原より2キロ離れたダヌの街を囲む壁の上は見物客で賑わっている
何とも不思議な光景に、誰もが息を飲み、静かに見守っていた
ある者は涙し、ある者は感謝し、ある者は興奮し、ある者は恐怖した

巫女という存在が実在した事実、そして圧倒的な力
市街地と貴族街を隔てる壁は破壊され、貴族街には甚大な被害が出ている
それを目の当たりにした民や貴族は巫女を恐れた
風化しかけていた神という存在を改めて認識させるには充分だった




後日、エイン達一行が街の復興を手伝っていると・・・

《・・・・巫女よ、我が巫女よ・・・》

突如、死の神の声が彼等の頭の中に響く
直ぐに片膝をつき、天を祈るように目を閉じたリリムに続き
復興作業を進めていた民達も彼女の真似をしていた
民達の心の中に深く刻まれたからだ、巫女という絶対的な存在が・・・

エインやミラ、マルロにイエル、アシュやプララー
そしてオエングスが自然とリリムの元へと集まって来る

《・・・理から外れし魂に眠りを・・・よくやった・・・》

「はい、我が神よ」

リリムが何かと話してる事に辺りの者は驚くが
エイン達も黙って膝をついている事が辺りの者の動きを止めた

《・・・・これより・・・我等神々の試練を与える・・・・エイン・トール・ヴァンレンよ・・・》

「はっ!」

《・・・お前に問う・・・・死は救いか・・・》

「・・・・お答えしかねます」

エインは答えられなかった
ZEROを救う方法が死しか無かったのは事実だが
助ける手段が無かったのかずっと迷っていたからだ

《・・・・よい・・・》

死の神がそこまで言うと、別の神の声が響く

《・・・貴方に試練を与えます・・・・神々の勇者としての試練を・・・》

この優しい慈愛に満ちた声は生の神だ

「・・・勇者ですか?」

《・・・そう、貴方は今、私達の勇者に選ばれました・・・》

「は、はいっ!」

エインの手は僅かに震えている、鼓動が煩いくらい鳴っている
何かの間違いではないのか、一瞬そう思ってしまうほどだった

《・・・これより・・・六神の試練をこなし・・世界を知ってもらいます・・・》

《・・・・お前は死が救いか答えられなかった・・・それは正しい・・・》

《・・・エイン・トール・ヴァンレン・・・南東を目指しなさい・・・》

《・・・・その地でお前に最初の試練を与えよう・・・》

「はっ!」

《・・・他の者は・・・彼を支えなさい・・・そして・・共に世界を知りなさい・・・》

《・・・・神の使徒として・・・来るべき災厄に備えよ・・・》

皆、黙ってそれに頷いていた
その中に1人、ミラだけはエインを見ていた
本当の勇者になってしまうだなんて・・・ふふ
貴方なら出来ますわ、わたくしも全力で支えます・・・わたくしの勇者エイン

《・・・オエングス・オディナよ・・・》

「はっ!」

《・・・貴方の剣は目覚めていません・・・わかりますか?・・・》

「・・・・はい、二つの激情を抑えられずにいます」

《・・・力で抑えようとしてはいけません・・・貴方の愛に従いなさい・・・》

「愛・・・ですか」

《・・・その時・・・貴方は真の使徒と至るでしょう・・・》

「はっ!」

愛・・・オエングスは1人の女性を思い出す
マリアンヌ・フュンシュタット・リ・アムリタ
彼が心から愛し、敬う女性だ
彼女に従えという事なのか・・・?

《・・・・エイン・トール・ヴァンレンよ・・・世界を知れ・・・》

《・・・災厄に備えなさい・・・》

そして、神の気配は消えた
彼等はゆっくりと立ち上がり、民達もまたそれに続いた
何が起こったのかさっぱりだが、神というフレーズを聞き
只事ではないのは理解していた
民達は後ろ髪を引かれる思いで作業へと戻ってゆく

エインを囲むように皆が集まり重い沈黙が流れていた
その沈黙を破ったのはエインだった

「皆、これからもよろしく頼む」

「もちろんです、私はエインの傍を離れません」

リリムは即答するが、言って気づく
とても恥ずかしい事を言ってしまった事に
あわあわとし始める彼女をミラやプララーやイエルが笑い
マルロは顔を真っ赤にしていた

「ふふ・・・エイン、貴方は真の勇者になってしまうのですわね」

「いえ、まだ試練を受けるというだけですよ」

「わたくしは分かっていましたわ、こうなる事は」

ミラは胸を張って自慢げに言う

「何故ですか?」

「貴方は何時でもわたくしの勇者でしたもの」

誇るように言うミラの言葉には一切の迷いが無かった

「ちょ、ちょ、ちょっ!ミラさんっ!」

大慌てなのはリリムだ
彼女の慌て振りに我に返ったミラは顔を真っ赤に染めて反論する

「ち、違いますわよ!そういう意味ではなくてよ!」

そんなやり取りを不思議そうに見つめるエインだった
そのエインを見て、プララーは大きなため息を洩らし、ぼそっと呟く

「リリムちゃん苦労しそうねぇ・・・」

こうして、彼等の新たな目的地が決まった
目指すは南東、勇者の試練をこなし、世界を知る事
一行の胸には熱い決意の炎が燃えていた




一方ハーフブリードは・・・安らかな眠り亭という宿屋に泊まっている
重傷のシルトとサラがいるのにこんな店名の場所には泊まりたくなかったのだが
雪の華亭と白夜亭は満室だったため仕方なくここにしたのだ
だが、泊まってみると以前行った雪の華亭よりも快適で
とてもいい宿だった・・・店名以外は

ジーンの致命傷とも言えた傷は勝手に治り、彼女は完治していた
だが、彼女は3日も目を覚まさず、何度もうなされていた
起きた彼女はケロっとしており、何事も無かったかのように普段通りである
目が赤く、前髪の一部が白く、歯が少し鋭く、耳が少し伸びた以外は・・・

失われたはずの視力、だが彼女は何不自由なく生活を送っている
不思議に思ったシャルルが聞いてみたが、魔力で全部見えるんだそうだ
魔力にも色が光の強さがあるようで、それで困らない程度には見えるらしい

「でも、不思議とシルさんだけは見えにくいんだよね」

「シルさん魔力無いの?」

「うーん・・・0では無いけど、限りなく0に近いかな?」

「机とかは見えるんだよね?物より魔力低いって事?」

「うん」

「あはは!シルさんどんだけ魔力ないの!」

シャルルがツボったようで爆笑している
だが、その笑いも長くは続かなかった
急に真剣な顔になったシャルルはジーンを真っ直ぐ見つめて言う

「身体は平気なの?」

「うん、大丈夫だよ」

「約束破ったよね」

「そうだね」

「なんで」

「そうするしか無かったから・・・」

ジーンは俯く

「でも約束したよね?」

「うん・・・それでも、誰も失いたくなかった
 もう・・・ロイさんの時みたいのは嫌だったの」

そう言うジーンの頬には涙が流れる
シャルルはそれを指ですくい、彼女の頭にぽんぽんと手を乗せた

「そっか・・・頑張ったね」

「・・・怒らないの?」

「それ言われたら怒れないでしょ
 私がジーンの立場でも同じ事をしたかもしれないし」

「・・・ありがと」

「でも、もうホントに無茶はやめてね?あんなのもう見たくないよ」

「うん、それについては考えてる
 今のままじゃ、この魔力に肉体が持たないみたいで悪魔は使えないと思う」

「うん」

「それと・・・精霊の繋がりがぷっつり切れちゃったの」

「え?」

「以前は感じられた繋がりが今は無いんだ
 アスタロトの方法で精霊生贄にして上位精霊呼んだから嫌われちゃったかな」

「ふーん、自業自得だね」

「だね、また力失っちゃったな」

そういうジーンは少し寂しそうだった
その頭にチョップをかまし、シャルルはニカっと微笑んだ

「また探せばいいじゃん、ジーンなら出来るでしょ!」

「頑張るね」

「頑張れ!」

二人は微笑み合い、シャルルは踵を返す

「サラとシルさん見てくるねー」

「うん、手伝えなくてごめんね」

「生の魔法使えないんだから仕方ないじゃん、私に任せなさーい!」

「ありがと」

ジーンは生の魔法すら使えなくなっていた
いや、厳密に言うと使えなくはないのだ
使うとその両手が火傷のように膨れ上がり、逆にダメージを負ってしまう
それは肉体が悪魔化している証拠でもあった
今のジーンは精霊魔法、生の魔法、悪魔召喚、どれも使えない状態だった
しかし、無意識で魔法障壁を展開しており
その12枚の障壁を利用して何か出来ないか考えていた・・・


シルトとサラはそこら中の骨が折れ、正直助かったのが奇跡なくらいだった
4日連続で途切れる事なく生の魔法での治療が続けられており
未だに目を覚ましていなかった

「ふぅ~、流石に疲れたニャ~」

弓使い・月華のシウは元魔法使いである
彼女は元々は風の魔法使いだったが、今はどの神も信仰していない
そのため、初級程度ならどの魔法でも使う事ができる
そんな彼女は治療をずっと手伝ってくれていた
シャルルとラピが交代で休憩を取り、それをシウが手伝う
4日もそんな状態が続いているため、疲労が蓄積されていた

「シウさんありがとー、無理しないでいいよー」

ラピがシルトに魔法をかけながら言う
サラの方にはディナ・シーを使って治療を続けている
シウは主にサラの治療をしており、ディナ・シーの補助といった感じだ

「もうちょっとやれるニャ!終わったらご飯食べる~」

「私もお腹すいたなー」

ラピの横でウェールズがギャアギャアと鳴いている
どうやらウェールズもお腹が空いているようだ

「・・・・飯作ってやれなくてごめんな」

「あ!シルさん起きたの!?」

「ん、さっきね」

「良かったぁ、死んじゃうかと思ったよー」

「ははっ・・痛てて・・・で、あの後どうなったの」

「色々あったよー、今は安静に!後で説明するからー」

「了解・・・も・・・ちょい・・・・寝る・・わ・・・」

そう言い寝息を立て始めたシルトの寝顔を見て、ラピは少し安堵する
連日の魔法の酷使により上位魔法は使えずにいたが
ゆっくりとだが確実に完治に向かっている事が実感できた

「よーし、がんばるぞー!」

気合を入れ直したラピが手に魔力を込める
その姿を見てシウも魔力を込め始めるのだった
しばらくしてラピとシャルルが入れ替わる頃、サラも目を覚ます

「ん・・・・痛っ」

「あ!サラ!」

「良かったー」

「大丈夫かニャ?」

シウがサラの顔を覗き込む

「あれ、シウさん?なんで・・・」

「助けに来たニャ!」

「ありがとう・・・痛っ・・指も動かせないや」

「今は大人しくしてなっ!治るものも治らなくなっちゃうよ!」

「うん・・・シルトさんは?」

「隣で寝てるよー」

「そっか、良かった・・・」

目だけを動かし、隣のベッドに眠るシルトの寝顔を見る
聴覚の優れているサラには彼の寝息が聞こえ、安堵する

「シャルル・・・寝返り打たせてもらっていい?」

「うん!痛いけど我慢してね」

シャルルがサラの身体をシルトの方へと向ける

「痛っ・・・うぅ、思ったより痛いけど、ありがと」

「あはは!すぐ治してあげるからね!」

サラはしっかりとシルトの顔が見れた事で口元が緩む
少しでも身体を動かすと全身に痛みが走るが
それでも彼女はシルトの顔を見ていたかった

「お邪魔かニャ?」

シルトとサラの間に立っていたシウがササッと移動し、ベッドの反対側へと回る

「これはあれかニャ?サラにゃんは彼の事を?」

「シウさん、しーっ!」

「ち、違うよ、そんなんじゃな・・・いと思う」

サラの中で大きな変化が起きていた
シルトの事を家族と思っている・・・だが、それ以上の感情がある事に気づき始めていた
認めたくはなかった、その想いは感じてはいけないものだと思っていた
でも、彼女の中でその感情は日に日に大きくなっている
もう目を逸らす事すら出来ないほどに・・・・

「早くくっついちゃえばいいのにー」

「ええっ!・・・って痛っ」

「はーい、この話はやめー!サラは大人しく寝てなさい!」

「うん」

二人が完治するまでには、それから10日ほど掛かった
その間にある出来事が起きる・・・・




ここはダヌの街外れ、ヴィクター・ディオダディの家である
半分廃墟と化したこの家には数日前まで1人の少女が住んでいた
少女の名前はTheOne、通称ワンちゃん、本名メアリー・ディオダディである
近所では少女の霊が出るともっぱらの噂で、誰も近寄る者などいない
極希に肝試しと称して若者が夜に訪れる程度であった
その若者もワンちゃんの姿を見て悲鳴を上げてしっぽを巻いて逃げる
しかし、それは以前の話だ・・・今は無人となったこの家に複数の訪問者がいた

訪れたのはエイン、リリム、オエングス、ジーンと葬儀屋達だ
この面子でジーンがいるのは不自然だろうが
彼女にはここに来る理由があった
リリムからワンちゃんの死を知らされ、それをシャルル達には秘密にし
彼女は一人、ワンちゃんの葬儀に出席したのだ

葬儀屋達がヴィクターの墓の左右に穴を掘っている
ワンちゃん用の小さな穴とZERO用の大きな穴を・・・
そこへ柩をゆっくりと下ろし、上から土をかけてゆく
祈りの言葉が唱えられ、リリムは両膝をついて目を閉じる

「約束は果たしましたよ」

彼女の目からは涙が溢れ、魂が救われる事を祈った
その光景をエインとオエングスは黙って見ており
二人はZEROという短い間ではあったが友となった人を見送っていた

ジーンはワンちゃんの墓を見つめている
彼女は自ら死を望んだという、その気持ちがジーンには解った
あの力は必ず利用しようとする者が出てくる
死者を操る邪法、それは世界を根底から崩しかねない力だからだ
だが、そこで1つ気になった事があった
ワンちゃんの製作者、父親であるヴィクターは如何にしてその方法を見つけたのか
それを知るために葬儀に参列したと言えなくもなかった

一通り葬儀が終わり、解散となる時
リリムが黒い布束を渡してきた

「これは?」

「ワンちゃんが身につけていたのですが・・・シルトさんのではないですか?」

「ありがと、渡しておきますね」

マントを受け取ったジーンはヴィクターの家の中へと向かう

「ジーンさんどちらへ?」

「ここ取り壊しちゃうんでしょ?形見に何か無いかと思って」

「そうでしたか、ワンちゃんも喜ぶと思います」

お先に失礼します、とエイン達は去って行く
それを横目で見たジーンは家へと入って行った

中は膨大な量の本と研究資料、そして・・ぬいぐるみが並んでいた
このぬいぐるみの山はワンちゃんが40年かけて作り続けた物である
犬、猫、鳥、狸、狐、馬、様々な動物のぬいぐるみが並んでいた
そして、作りかけの物が1つ・・・それは人の形のようにも見えた

研究資料に軽く目を通していると脳内で声が響く

・・・女、面白い物があるぞ

「面白い物?」

よく見てみろ・・・その魔眼でな・・・

そう言われてジーンは真紅の瞳で室内をぐるりと見渡す
すると、1つの本棚の後ろからどす黒い光のようなものが見えた

「あれの事?」

・・・あぁ、そうだ

ジーンが本棚を横へ押し、その後ろに隠されていた1冊の本を拾い上げる
古代文字で書かれたそれは全く読めない

「何これ」

・・・・・・・・死者の書だ

「死者の書?これでゾンビ作ったって事?」

そうなるな・・・・元々は我等魔族の物だがな

「へぇ、そうなんだ、ならアスタロト、貴方なら読めるの?」

もちろんだとも・・・だが内容を知ってどうする?

「使える力なら使おうかな、って」

くだらん・・・我の魔力をそのようなゴミに使う気はない・・・

「そう?使えそうだけどな・・・一応持って帰ろう」

その後もジーンは家を物色し、花の髪飾りを3つ見つける
おそらくワンちゃんの物だろう、それを持ち、家を出た
家を出ると一人の女性がジーンを待っていた

「女、その手に持つ本を置いていけ」

ターバンのようなものを顔に巻きつけた褐色の女性、ラスール・ナビィである
彼女は腰に下げるシミターのような剣に手を伸ばしている

「何ですかいきなり、失礼でしょ」

「それは我が国の物、80年近く前に盗まれたのだ」

「その証拠は?」

「本の一番後ろを開け、黒い狐の紋様があろう」

ジーンは言われるがまま本を開く
最後のページを開くと確かに黒い狐が描かれていた

「それが我が国・・・・メンフィスの紋章である」

そう言い、ナビィは背中を向け
フード付きの白いローブに描かれる黒い狐の紋章を見せた

「なるほど、確かに貴女の国の物みたいね」

「解ったなら渡していただこう」

「・・・・」

ジーンが悩んでいると、再びアスタロトの声が響く

そんなものくれてやれ・・・我等には必要ないものだ

「勿体無いじゃん、使えるかもしれないし」

女・・・もっといい魔法を嫌というほど教えてやる・・・
そんなくだらん本に頼らずともな・・・・

「うーん・・・」

ジーンの独り言に怪訝な表情のナビィはある事に気づく
この女、例の常闇の鎧と盾を持つ者の仲間と風貌が一致するのだ

「女、もしや黒い鎧の男の仲間か?」

「ん?そうだけど?」

「そうか、丁度いい・・・その本を返して頂ければ我が国で最大限にもてなそう」

「んー・・・・解った、これは返す」

悪い条件ではなかった
アスタロトはもっといい魔法を教えてくれると言うし
国家でのおもてなしともなれば相当の価値はあるだろう

「で、メンフィス?ってどこなの」

「ここより南に位置する砂漠の国だ」

「へぇ、砂漠ね」

「そちらの都合が良い時に迎えに上がろう」

「高待遇だね?そこまで大事なの?その本」

「国宝だからな、それと我が国の紋章が刻まれし盾を持つ者がいるのであろう?」

「うん、シルさんだね」

「そのシルさんとやらを我が国に迎えたい
 もちろん、そなた等も最大限の歓迎は約束しよう」

「解った、交渉成立」

「感謝する」

ジーンは死者の書を手渡し、ナビィと別れる

数日後、シルトとサラが完治した日の昼の事である
水の巫女マナ・マクリールが別れの挨拶に安らかな眠り亭を訪れた

「ちわー、シャルルいるー?」

「マナー!」

「「いぇーい」」

二人はハイタッチを交わし、太陽のような笑顔で微笑み合う
そこへジーンが現れると、マナは盛大に吹き出した

「ブーーーーッ!」

大量の唾がシャルルの顔面にヒットし、ジト目になる

「マナ・・・」

「あぁ!ごめんごめん!わざとじゃないんだよ!」

「ひどいよぉ」

シャルルのしょぼくれている顔を綺麗なタオルで拭きながら
マナはジーンを睨むように見てから言う

「ごめんって!・・・・っていうか、ジーンだっけ、君すごい事になったね・・・」

「ん?わかるの?」

「わかるよ、そりゃもちろん」

「おかしいな、障壁で魔力は閉じ込めてるんだけど」

「あたしの予想とはだいぶ違うけど、まぁ安定してそうだし・・・いいのかな」

ジーンを見ながらぶつぶつと何かを言っている

「ジーン、君は多分歴史を変える鍵になる・・・頑張ってね!」

「?・・・う、うん」

何の事だかさっぱりなジーンは適当に返事をしていた

「みんな元気そーだし、良かった良かった!
 それじゃあたしは用事があるからもう行くね、また会おー!」

「マナ、またねー!」

「またねー!」

嵐のように去って行く水の巫女を見送り、ジーンはナビィに連絡を取る
翌日、ナビィが安らかな眠り亭を訪れ
そして、彼等6人は砂漠の国メンフィスへと出立するのだった





その頃、ダヌの街に行かなかったシャチとヒミカは深い森の中を歩いていた
数多の魔物の群れをシャチの拳が砕き、彼の通った後には死体が山を作っていた

シャチとヒミカは亜人が人間に嫌われるのを知っている
エイン達やハーフブリード達が特別であって
一般的には受け入れ難い存在なのを十分理解していた
そのため、彼等は人里には近寄らず、雪原を越えた後は深い森を進んでいた

彼等に与えられた神託は複数ある
その内の1つ、東へ向かう事・・・深い深い森の先
双子岩のその先で眠る神の器、そこを目指していた

「ヒミカ、大丈夫カ」

「ウン、マダ平気」

15時間は歩き続けているがヒミカにとってはまだ余裕がある
もちろんシャチにとっても余裕だが、これはワータイガーという種族のおかげだ
彼等の身体能力は人間の比ではない

「雨ガ降リソウダ、急ゴウ」

「ウン」

二人のワータイガーは深い森をひたすら進んでいた



そして、世界は変革の時を迎える



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