2016_06
21
(Tue)05:31

番外編 第3話

オリジナル小説 『カタクリズム』
番外編 第3話 【残滓】

今回で番外編は終わりです。
これでしばらく休みますが、必ず続きは書きます。
気長に待って頂けると嬉しいでっす!

では、続きを読むからどうぞー。








【残滓】






日が沈む前、世界はオレンジ色に染まり、1日の終わりを告げる
仕事を切り上げ家路に着く者、晩飯の準備を始める者
夜の仕事の準備をする者、酒場で一杯やって帰る者
懸命に生きる様々な人生が入り乱れた世界
どうしようもなく醜く、どうしようもなく美しい世界・・・

誰もが当たり前のように生き、当たり前のように死に
日は昇り、沈み、翌日が訪れる
そんな当たり前の日々を人々は生きている


生きる意味、誰もが1度は考えた事があるだろう
しかし、本当に生きる意味というものはあるのだろうか?
意図せずとも気がつけば生を受ける
そして、与えられた環境で育ち、生きてゆく
それに意味はあるのだろうか?
いや、ここはあえて無いと言っておこう
人は何となくで生きているのだ

それは何故か?・・・・死にたくないからである

生きる事に意味などない、それは当たり前の事だからだ
では何故人は死にたくないのか・・・怖いからだ
その先に待つ"恐怖"から逃げたいだけなのだ

死は全ての命に平等に与えられる、それは絶対である
この世に生を受けたものには必ず死が待っている
その絶対的な死に人々は恐怖するのだ

幸せになりたい、これも考えた事がある人は多いだろう
少しひねくれた考え方になるが、これもまた恐怖から逃げたいからではないだろうか
誰も望んで不幸になろうとは思わない、それは辛いからだ
その辛さという恐怖から逃げたい
そう思うから人は幸せになりたいのではないだろうか

それは悪い事ではない、むしろ良い事だろう
幸せを望むことは生きる上では大事なことだ
しかし、幸せを望めば望むほど、人は不幸になるものである
それは求める幸せの基準が上がってしまうせいだ
そのため、些細な幸せなどでは満足出来ず幸福感を感じられなくなってしまう
この矛盾を抱えたまま人は生きていかねばならない


では、"テンソン・クルアーン"この男の場合はどうだろうか


テンソンという男はその日その日を何となく生きていた
物心ついた頃から剣を握り、生きるために命を奪って生きてきた
それは自分が死にたくないからだ

人より優れた剣の才を持ち、人より優れた身体能力を持っていた
他者から見れば、それだけでも彼は幸せだっただろう
その力は望んでも得られない者が多い
それを手にしていたテンソンは幸せと言えるだろう
しかし、彼は幸福感など感じてはいなかった
彼にとっての幸福とは、それとは全く違うものだったためだ

辛さが人によって感じ方が違うように
人によって幸せと感じるものは全く違うのだ

テンソン・クルアーンの幸せとは、スピカという1人の女性と出会えた事である
彼の人生で初めて恋をした、それはとても激しい初恋だった
一目惚れだった、だが彼はそれからスピカという人間を知り
更に想いを募らせていったのだ

どんなに富や名声を得ようと得られなかった幸福がそこにはあった
そして、いつの日かテンソンの中で大きな変化が起こる
それは彼にとっては当たり前の事だったのかもしれない
彼にとってスピカという女性は"自分の命よりも大事"な存在へとなったのだ

さて、少し話を戻そう

人は死にたくないから生きると先程言ったと思う
では、このテンソン・クルアーンという男はどうなのだろうか
自分の命よりも大事なものが存在する場合、その法則は崩れるのではないだろうか

大半の人は自分が一番大事である
家族より、恋人より、友達よりも自分が大事な人が大半だ
どう着飾っていても綺麗事を並べていても大半の人はそうなのである
だが、ごく稀に自分の命よりも優先すべき存在を見つける者が現れる
それがテンソン・クルアーンという男だ
テンソンは絶対的な死への恐怖にも勝る存在と出会えたのである
それがスピカという1人の村娘だ

彼は死への恐怖よりも愛するスピカを死に至らしめた災厄への憎悪が凌駕した
そして、自身の死を悟った彼はこう思ったのだ
"大好きな人と逝けるなら・・・幸せかもな"と・・・・

彼は死の恐怖に勝ち、幸せを見つけたのである

そんな彼を誰が不幸と言えようか
幸か不幸かを決めるのは他人ではない、当人だけなのだ
不幸は他者から与えられる場合が多いが
幸せというものは与えられるものではない、自身が得るものである
よって、彼の事を不幸と思うのはアナタの身勝手なのだ


さて、そろそろ本題に入ろう


今回のお話は、当事者だろうと他者であろうと不幸と思える出来事だ
いや、正確には当事者達は"不幸"を感じる事は無かったかもしれない
その暇すら無かったのだから・・・・それでは始めよう



これはある国の物語である



北の外れにある美しい国"ウェヌス"
極寒の地にあるこの国は本来であればその寒さで貧しい国だったであろう
しかし、ウェヌスには1人の神の子と呼ばれる少女がいた
彼女の名は"サルノ・カンパネア"、12歳の少女だった

彼女が産まれるまでウェヌスは貧しい国だった
1年の大半は雪に覆われ、氷に閉ざされ、飢えと寒さに苦しんでいた
だが、ほんの僅かでも作物は育ち、魚も取れた
この極寒の地には危険な魔獣が少なく、その驚異からは避けられたのだ

そして、サルノという少女が生を受ける
誰が意図した訳でもなく彼女は生を受けた
それは奇跡だったのかもしれない
少なくともウェヌスの誰もがこの子を奇跡と呼んだ

サルノには生まれつき魔法の才があった
彼女は言葉を喋る前から魔法を使っており
その内に秘める魔力は常人の域ではなかった
そう、まるで巫女のように・・・・

しかし、サルノは巫女ではない
更に、正確に言えば彼女は魔法使いですらないのだ
彼女が使っていたのは"召喚"・・・そう、ジーンと同じ精霊使いなのだ
生まれつき"繋がり"を持っていた彼女は
遥か遠い先祖にエルフの血が混じっていたのである

物心つく前のサルノは不完全な召喚しか出来ず
火の魔法のようなものを発生させていた
不完全とは言え、その威力は大人の魔法を遥かに凌駕する
この頃から彼女は神童と呼ばれていた

そして、サルノが4歳になった頃、彼女は完全な召喚を成功させる
彼女の唯一にして最強の炎の精霊"ヴェスヴィオ"である
ヴェスヴィオ、それは空に浮かぶ目のような精霊だ
直径40メートルもあり、召喚時には上空500メートルほどの位置に顕現する
まるで太陽のように輝き、大地を照らすのだ

ヴェスヴィオの熱で辺り一帯の雪や氷は溶け
春でも訪れたようにぽかぽかとしてくる
この精霊がウェヌスに豊かさと暖かさをもたらしたのである

そして、この精霊は召喚してから命令を与えない場合、2週間も存在し続ける
たった1度の召喚で2週間もの間
ヴェスヴィオを中心に半径2キロほど範囲は温暖な地域となるのだ

だが、ヴェスヴィオの本当の力はこんな優しいものではない
一度サルノが命令を下すと、ヴェスヴィオの輝きは増し
光は収束していき、天から・・・ヴェスヴィオの巨大な目から光が放たれるのだ
ヴィスヴィオの光は大地を焼き、辺りは焦土と化す
しかし、このレーザーのような光を使うとヴェスヴィオは消滅してしまう
サルノの魔力では2~3日に1度しか召喚出来ず
国を豊かにする事を優先したウェヌスは、この力を軍事利用はしなかった

4歳から精霊を使い続けたサルノは国で神の子と呼ばれ
ウェヌスは暖かな地域となり、豊富な作物が育った
彼女とその家族は王宮に住まい、贅沢の限りをして過ごす
それでも尚余りある富をこの国にもたらしていたのだから・・・


そんな彼女が12歳になる頃


ウェヌスという国は1年中温暖な気候に恵まれ
国民の生活は豊かになり、飢えや寒さに恐る事は無くなっていた
しかし、それはサルノの力に依存した脆いものである
国はサルノに精霊を使い続けさせ、彼女もまたその力を行使し続けた
それがどんな結果を生むとも知らずに・・・

その日も穏やかな始まりだった
サルノは澄んだ空気を吸い込んで目を開ける
まだ少しばかり眠気はあるが、今日は起きなくてはいけない日だ
普段の彼女なら昼まで寝ていたとしても誰も咎めはしない
この国、ウェヌスにとって彼女は神と同等なのだから・・・

目をこすり、布団から出たサルノは雪解け水で顔を洗う
刺さるような冷たさが肌に伝わるが、おかげで眠気はどこかへ飛んでいった
「よしっ」と気合を入れて寝間着を脱ぎ捨て、未成熟な肌が現わになる
この極寒の地ウェヌスで裸になるなど寒そうだがそうでもない
それは天に輝く炎の精霊ヴェスヴィオのおかげだ

サルノは上からすっぽりと羽織る1枚の祭服を身に纏い
その上に肩衣(オモフォル)を羽織り、髪をとかす
彼女の銀で出来た鏡は少し曇ってはいるが、王宮にある中では1番綺麗なものだ
これは王より授かった鏡、彼女の功績を称え贈られた品の1つである

鏡台の前にちょこんと座ったサルノは胸まである茶髪を馬の毛のブラシでとかし
太い三つ編みを編んでゆく、それを脳天付近で纏め上げ
その上から金の簪(かんざし)を刺して髪を止める
鏡に映る自分を見て満足気に頷いたサルノは立ち上がり
まだ眠っている両親に挨拶をしてから部屋を出るのだった

王宮の中に住むサルノはただっ広い石で出来た回廊を歩く
中庭では兵士達が朝の訓練をしており
彼女に気づいた兵達は手を止め、彼女に敬礼をする
それには軽く手を上げて返し、歩を進めた
彼女が見えなくなると兵達は訓練に戻り、再び朝の活気が訪れる

慌ただしく駆け回る侍女達を横目にサルノは王宮の奥へと進んでゆく
目的地である王の間の巨大な扉の前に辿り着き
そこを守る近衛兵を一瞥して扉を開けさせた

『炎の巫女サルノ・カンパネア様の御入室ー!』

近衛兵が大きな声を上げ、彼女の役職と名前を読み上げる
炎の巫女・・・そう彼女は呼ばれていた
しかし、彼女は本当の神の巫女ではない
ウェヌスという国が勝手に呼んでいるだけに過ぎないのだ

巨大な扉は開き、赤い絨毯が一直線に敷かれている
その先には1つの大きな椅子、玉座があり
そこに腰掛ける者こそがウェヌスの王"シヤーウテール・シャムティモイ"
美と富を重んじる華やかな王だ

その服は金で出来た糸を使い、頭上に乗る王冠には無数の宝石が埋め込まれている
年齢は40手前の男だが、誰が見ても彼を40手前とは思わないだろう
それほど若く見える王なのだ
シャムティモイはありとあらゆる美容法を試している
眉唾な噂でも若返ると聞けば、どんな手段を使ってもそれを手に入れるのだ

まだ早朝という事もあり、王へ謁見する者が少ないせいか
王の傍らには侍女が2人おり、彼の爪を綺麗に研いでいた

「サルノ様、如何なされた」

先に口を開いたのはシャムティモイ王だった
王である彼が、平民だったサルノに"様"をつけて呼ぶのは些か変ではあるが
この国にもたらした彼女の功績を考えればそれも頷けよう

「今日は召喚の儀があります」

召喚の儀、それはヴェスヴィオを召喚する日という事だ
前回ヴェスヴィオを召喚したのは10日ほど前になる
召喚されたヴェスヴィオは次第に力が弱まり、14日掛けて消えるのだ
よって、消える前に再召喚をするのが恒例となっていた

「そうであったか!
 王たる者が国の大事を忘れるとはいかんな
 すまなかった、サルノ様よ・・・どうか許してほしい」

王であるシャムティモイが頭を下げる
爪を研いでいた二人の侍女は慌てて離れ、膝をついて頭を伏せた

「いいえ、いいのです、これは私のつとめですから」

そう言い、サルノは笑顔を見せる
その笑顔で王の心はパッと明るくなり、張り詰めていた空気は少し軽くなる

「それでは、私はこれで・・・王よ、失礼します」

祭服の端を摘み、軽く会釈をしてから王の間を後にする
サルノの去った後の王の間には独特の緊張感が残る
伝説に出てくる巫女と思わしき力を有した少女に
国が媚びへつらわないといけないのだ
彼女の気分次第でこの国は栄えるか滅びるか、それが決まってしまうのだから・・・


王の間を出たサルノはその足で王宮を出る
近衛兵の2人が護衛として彼女に付き従い
王宮を出て右へ曲がってすぐにある炎の神殿へと歩を進めた

炎の神殿とはサルノのために作られた神殿である
真新しいその建物は純白の石で作られており
床は人の姿が映るほど綺麗に磨かれていた
幾つもの柱が並び、最奥には目をモチーフにした石像が鎮座している
言うまでもないが、この石像はヴェスヴィオを模した物だ

神殿には複数の神官達がいるが、彼等は何をする訳でもない
サルノの世話係といったところだ
神官達はサルノと同じ祭服を着ているが、肩衣は着けていない
これは炎の巫女という階級を現すものだからである

近衛兵は神殿の入口で立ち止まる
彼等はこの神殿に入ってはいけないからだ
この神殿に入る事を許されているのは一部の者だけである
それは巫女であるサルノ、そして王たるシャムティモイ
それと、この神殿の管理と巫女の世話を担当している神官達だけである

サルノは近衛を置いて神殿へと入って行き
神殿に入ると神官達が彼女に付き従う
こうどこにでも誰かが着いてくるのは少々ウザったい気もするが
こんな生活が何年も続いていると慣れてしまうものである

サルノが右手を差し出すと、すかさず神官が透明な液体の入ったコップを渡す
このコップの中身は水だ・・・しかし、ただの水ではない
厚い氷の奥底、数万年前の氷を溶かした水なのだ
その稀少な水を彼女はぐびぐびっと一気に飲み干す
これは儀式の前に必ずやる事の1つだった

飲み終えた彼女がコップを持った右手を差し出すと
すぐさま神官がそれを受け取り、足音を立てずに下がってゆく
そして、彼女は両手を前へと伸ばす
すると、横に控えていた神官が両手で大切そうに彼女の手に錫杖を乗せた
ずしっと重みが手に伝わり、それを力強く握り締める
錫杖を右手に持ち、磨き上げられた石畳をカツンッ!と鳴らした

「召喚の儀をはじめます」

彼女の言葉で神官達が一斉に下がる
それからゆっくりとサルノは歩を進め、目の石像へと近づいてゆく
石像の前まで来てから上を見上げると
そこは吹き抜けになっており、空を見る事ができる
そして、その空には巨大な目が浮いていた・・・ヴェスヴィオである

錫杖を1度シャンッ!と鳴らすと、ヴェスヴィオの形はぐにゃりと歪み
あっという間にその姿は消えてゆく
途端に暖かさは失われ、肌に刺さるような冷たい空気が流れ込む
その空気を肌で感じ、サルノは再び錫杖を鳴らした

シャンッ!

「炎の神よ、我に力を与えたもう・・・」

そこで目を瞑り、内に秘める魔力を解放してゆく
それを"繋がり"に流し込み、ヴェスヴィオを感じ取る

「おいでなさい、ヴェスヴィオ!」

シャンッ!

錫杖の音色が響くと、彼女の回りで火花がパチパチと弾け
天を見上げるサルノの視線がある一点に集中する
その空がぐにゃりと渦を巻くように歪んでゆく
すると、空に目が現出する

おぉぉ・・・・

街の何処かからか、そんな声が聞こえてきた気がした
この時、国民の大半は空を見上げていた
急激に寒くなった時に召喚の日だと気づいた者が多いのだ
毎度の事ではあるが、ありがたいこの力を見ようと天を仰いでいるのである

ヴェスヴィオの目が輝き、暖かさが街を包む
肌でそれを感じたサルノは微笑んだ

錫杖を神官へと手渡し、サルノは神殿を後にする
入口で神官と近衛兵が交代するように入れ替わろうとした時、事は起きた

『ば、ばけものめっ!!』

それは小さな男の子だった
6歳くらいのこの少年は手に持つ石を全力でサルノに投げつけた
そんな事を1度もされた事が無かったサルノは心底驚く
当たりはしなかったが、条件反射でつい力が入ってしまった

「っ!」

彼女が条件反射で放った魔力はヴェスヴィオに届き
それは"命令"へと形を変える

キュィィィィン・・・・

上方から高い音が鳴り響く
空を見上げた誰もがそれを目にして恐怖した
ヴェスヴィオの巨大な目に、光が収束していくからだ

『ダ、ダメぇぇぇぇっ!!』

サルノが叫び、ヴェスヴィオに命令を送る
しかし、収束された光は既に止められない量になっていた
サルノは咄嗟に判断する、向きを変えればっ!と
ヴェスヴィオへと手をかざし、魔力を込めて操作する・・・

おねがい!間にあってっ!

上空500メートルに浮かぶ巨大な目がぐるりと回転する
その瞬間、ヴェスヴィオから光は放たれ
ウェヌスの街の外れを焼き払い、氷の大地を溶かしながら上へと向く

ピシッ!

その時、ウェヌスにいる誰もが聞いた音があった
何かがひび割れたような、とても嫌な予感のする音を・・・・

ヴェスヴィオの光はギリギリのところで向きを変え
被害はそれほど大きくはなかった
少年はすぐに取り押さえられ、何故そんな事をしたのか尋問されていた

少年が答えた内容はとても単純で馬鹿らしいものだった
度胸試し、それだけである
子供達の間でもサルノは神のような存在だ
そんな彼女に石を投げる度胸があるか、というくだらない遊びだ
そのくだらない遊びで街の外れは火の海と化し
氷の大地に深い溝が形成されてしまったのだが・・・・

少年は拘束され、翌日処刑となった
神の子たる彼女に石を投げるという行為は何よりも罪が重いのだ
両親は泣き喚き、息子の命乞いをしたがそれは叶わなかった
この国にとってサルノという少女がどれほど大事か
今回の被害がどれほどの損失か、そして・・・今回の犠牲者が何人いると思うのか
それ等を考えても少年1人の命で許すのは優しいくらいだった

少年が処刑され、街の復興が始まる
暴発したヴェスヴィオは消滅し、再召喚まで3日は掛かる
冷え切った街全体に重い空気が漂っており
豊かで華やかだったウェヌスを暗い影が覆ったようだった
そして、その感覚は現実のものとなる・・・・

始まりはヴェスヴィオの暴走事故から3日後だ
再召喚されたヴェスヴィオの影響でウェヌスは暖かくなり
民達の心にあった暗い影は消えたかに思えた・・・だが
作物が枯れ、動物や虫が次々に死んでいった
そして、翌日には人が死にはじめる
それは留まる事を知らず、ウェヌスという国を飲み込もうとしていた

事故から6日目、死者は既に1万を超えていた
全身に出来物ができて腫れ上がり、紫色に変色してゆく奇病
感染した場合、1日以内に必ず死に至る
そのため、感染者は即殺され焼かれたが、感染は止まる事を知らなかった

それもそうだ、この病は空気感染なのである
爆発的に広がり、たった3日で1万の命を奪ったこの病は"黒紫病"と名付けられた
だが、病名などどうでもいい事である
この名を知る者は既にこの世にいないのだから

病は人から人だけではなく
物から人へ、人から物へ、人から動物へ、動物から人へと広がっていった
もはや止める手立てはなく、誰もが絶望していた


6日目の陽が落ちる頃
世界はオレンジ色に染まり、1日の終わりを告げる
家に篭もり窓を締切る者、この地を離れようと荷造りする者
感染した家族を弔う者、神にすがり天を仰ぐ者
懸命に生きる様々な人生が入り乱れた世界
どうしようもなく醜く、どうしようもなく美しい世界がそこにはあった

サルノ一家やシャムティモイ王など
王宮に住まう者達は城門を閉ざし、民を救う事を放棄していた
おびただしい数の民が城門を叩くが、その門は開く事はなかった

誰もが絶望し、誰もが神に助けを望んだ時
その願いは聞き遂げられた

オレンジ色に染まっていた空に突如黒い点が出現する
次第に点は大きくなり、それは黒い闇のようなものに変わる
10メートルほどまで大きくなった闇は、ゆらゆらとウェヌス上空に漂っていた
誰もが思った、新しい召喚か?と
だが、次の瞬間にはそれが間違いだと気づく事になる

闇がゆらりと揺らめくと、更に上空に浮かぶヴェスヴィオが震えだす
そして、ヴェスヴィオは一瞬で消滅させられていた・・・

《・・・・我の邪魔はさせん・・・・》

その声は脳内に直接響く
この時、ウェヌスの誰もがこの声を聞いていた

《・・・我は死の神・・・・汝らを・・・世界を救いに来た・・・・》

少しの間、誰もが動けなかったが
一人が叫ぶと同時にウェヌスの全国民が立ち上がり歓声を上げた

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!

《・・・・・安らかに眠れ・・・・》

神がそう言った瞬間
ウェヌスの全てのものは等しく死を与えられた
人、家畜、草木、花、水、空気、光、病・・・・
全ては死に絶え、辺りは闇に飲まれた

闇はウェヌスという国を丸ごと覆い
直径120キロメートルの地域は完全なる闇に飲まれた
約半年間、この闇は消える事はなく
一度でもそれに触れると全ての命は奪われた


絶対不可侵領域


ウェヌスという国はその日一夜にしてこの世から消滅した
それと同時にある事件が世界を襲う・・・誰も何も死ぬことが無くなったのだ
そう、"死の概念"の消失である

半年後、世界に死の概念が戻り
ウェヌスを覆っていた闇は消え、人類は恐怖した
そこに広がっていたのは"無"だったからだ

何も無かった、大地も氷も水も人も草木も、何も
巨大な大穴があり、底すら見えなかったのだ
そして、その大穴に踏み込んだ者は全て等しく死が与えられた
上空を通過しようとした鳥すらも死に絶えるのだ

ここは以前と変わらぬ絶対不可侵領域のままだった・・・





さて、何故この病が起こったのかは前回言った通り"災厄"の影響だ
魔界で魔素を吸収し続け、力を蓄えていった
その時、世界に出来た歪みから彼の力が溢れ出てしまう

その歪みを作ったのはサルノ・カンパネアである
いや、彼女だけのせいではないだろう
この場合はウェヌスの者達全ての責任と言えるだろうか

精霊を呼び続けた彼女達は、徐々に徐々に世界に影響を与えた
それは精霊界との"繋がり"を濃くしていったのである
現世と精霊界を隔てる壁に亀裂が入り、魔界にいる災厄の力が届いてしまった

この災厄の残滓(ざんし)とも言える力は姿を変え、病となる
これを止めるために死の神は力を使い果たしたのだ

そして神々は気づく
災厄が現世に復活しようとしている事を・・・




運命が動き出した瞬間である



今回の話はどうだっただろうか
果たしてウェヌスの人達は本当に不幸だったのだろうか?
彼等は神の救いを目にし、幸せに逝けたとも言えるだろう
しかし、結果だけを見れば不幸としか言い様が無いのも事実だ

アナタはどう感じて、どう思ったか、それが重要なのだ
・・・・今思い描いた答え、その答えは正しいが間違いでもある

この世界をどう受け取るか、全ては自分次第ということなのだ



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C.O.M.M.E.N.T

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