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2015_11
13
(Fri)13:56

1章 第7話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第7話 【雨宿り】

意図的に描いてない表現が多々あります。
そこは読者に自由に想像してほしくてあえて描いてません。
自分の思う最高に楽しい図で想像して読んでくださいませ。

続きを読むからどうぞー。











【雨宿り】






ゴーレム戦から3日経ち、傷ついた者達は徐々に再生してゆく
しかし、損傷の激しい者達はまだ意識を取り戻していなく
一行はまだ数日はここで野営を余儀無くされていた

傷ついた仲間を連れての戦闘となれば損害は大きくなる可能性が高い
そのため、時間は掛かってしまうが、仲間が治るまで待ってから先へ進む事とした
いつどこで戦闘になるか分からない未知の世界だからだ

今日の天気は雨

特にやる事もなく暇を持て余している、ハーフブリードの面々がいる
5人はテントの中に揃っており、各々自由に過ごしていた

「雨やだなー」

サラが入口の布の隙間から外の様子を覗き、まだ雨が降っているのを確認している
ハーフキャットの二人は雨が苦手なのだ
というより、水に濡れる事を嫌う傾向がある
何故かお風呂は大好きなのだが、それはそれ、これはこれ、だそうだ

女性の多いハーフブリードにとっては雨は嫌なものである
彼女等も女の子であり女性だ、湿度により広がる髪は気になるし
カビなども気になってしまう
そして、雨はシルトにとっても嫌なものだった
彼はいつも一人だけ外で寝ているのだ
雨具を羽織り、雨により体温が奪われながらも外で見張りをしながら休む
そんな彼が雨を好きになれる理由が無かった

雨の話で盛り上がっていると

「火山に行った時も雨だったよね」

ジーンが1ヶ月ほど前の話を始める
あったねー、とその時の話で盛り上がり始める彼等だった












雨が降っている
一行はナーテアを出て、ラーズへの街道を馬で駆けていた
今回の馬もアーガ家が用意したものであり、それなりの価値がありそうな馬たちだ
ミラだけは白馬じゃない事に不満そうだったが我慢してもらった
馬の速度に応じて雨が頬に当たり、ピチピチと音を立て、僅かに痛みが走る
雨足はどんどん強くなり、目をあけるのが困難になってきていた

『どこかで雨を凌がないか!』

ガゼムがこの大雨の中でも皆に聞こえるように怒鳴るように言う
それにロイが同じように答える

『この先に大きな宿がある!そこまで飛ばそう!』

聞こえてない者がいないか確認するため一同の顔を見て、全員が頷くのを確認する
確認を終えた彼は馬を蹴り、速度を上げた
それに続き、各々置いてかれないように速度を上げてゆく
雨が顔中に当たり、その激しさに顔をしかめるが速度は落とさない
もうすぐ暖かい場所で休めるのだ、文句を言う者はいなかった

その時

前方100メートル辺りに人影らしきものが見える
視界が悪く、こんな近くになるまで見えなかったのだ
先頭のロイが手で速度を落とせの合図を出し、僅かにだが緊張が走る
街道というのは比較的安全なのだ
しかし、盗賊や魔物が出る事も希にだがある
対象との距離が80メートルになる頃、それが何であるのか理解する

『オーガだ!』

その数、16体
オーガは群れをなす魔物で、力だけは凄まじい
その姿は醜悪で、身体中にイボのような出来物があり
浅黒い肌は一度も洗った事がないように汚れており、悪臭を放つ
その顔は四角く、下顎が発達し、眼は黄色く黒目は無い
その身には動物から剥いだであろう皮を鞣す事なく生皮のまま巻きつけていた
身長は2メートル前後が多く、その手には岩や丸太を持っている
人型ではあるが、知性も無く、破壊と殺戮のみをばら蒔く存在なので魔物とされていた
ちなみに、人をも食べる魔物だ

「なんで街道にこんな数が・・・」

ロイが疑問を口にするが誰も答えない
そして、彼は指示を出す

『各個撃破で行こう!魔法使いや遠距離の者はここから支援を頼む!』

ガゼムとダリルは大盾しか持っていないので後方待機で魔法使い達を守る役目だ

オーガはそれほど驚異の魔物ではない
冒険者で言うと4等級が2~3人いれば倒せるだろうか
3等級であれば、確実ではないがおそらく1人でも勝てるだろう
しかし、16体という数は異常である
オーガが群れをなす魔物と言っても、その数は普通5体程度である
この異常事態だ、用心に越した事はない

近接武器の者達は馬を蹴り、速度を上げ、一気に距離を詰める
既に抜刀しており、準備は万端だ
残り30メートルのところで1体のオーガが気づき、ガァァァと雄叫びをあげた
それに反応し、16体全てがこちらを向き、次々に雄叫びをあげ
オーガは横へと広がり、彼等に向かい走り出す

『突撃ー!!』

ロイの合図で馬を駆ける者達が、オオオオォ!と声を上げ武器を掲げる

ロイの斧はオーガのこめかみを捉え、めり込む
クガネの一撃はオーガの首元をかすり、通り過ぎた後にオーガの首が弾け飛ぶ
カイルの槍はオーガの喉元を鋭く貫く
エインの研ぎ澄まされた突きはオーガの目に刺さり貫通する
ミラの三段突きはオーガの片目と耳と眉間にほぼ同時に刺さる
アズルの大斧がオーガの頭を割り、そのまま裂くように顎まで振り下ろされる
リヨンのメイスがオーガの頭にめり込み、そこにサイガとイルガが左右から斬りつける
サラは上半身を逸らすだけで丸太を避け、そのまま水平に剣を振り喉を深く斬る

シルトは集団の中で僅かに馬を止める
彼はオーガ2体に挟まれていたが、盾も構えず止まっている
そして一歩前に出たオーガに鋭い突きで喉元を貫き、すぐに剣を逆手に持ちかえる
もう1体が振り下ろした岩をその背に背負う盾で受け
そのまま脇の横から背後のオーガの胸を貫いた

そして一同は馬を走らせ距離を取り、踵を返す

あっという間にオーガが10体減った
一瞬で半数以上がやられた事により、オーガが僅かに怯えるが
1体が雄叫びを上げ、それに続き他のオーガが雄叫びを上げ始める
その時、ヒュッという風を切る音が聞こえた気がした
最初に雄叫びを上げたオーガの眉間には矢が刺さり、どしゃっと水音を立てて倒れる
ガリアが放った強弓の矢だ
同時に放ったイシュタールの矢はオーガの持つ丸太に阻まれていた

更に魔法が飛んでくる
まずエンビ・ルルラノによる水の魔法がオーガの腹部を貫き
ブロス・ラジリーフの風の魔法がオーガの首を跳ねる
地の巫女マルロの地の魔法がオーガの胸に大穴を空け
火の巫女イエルの溶岩魔法がオーガを丸焼きにする

残りは1体

「サラ、馬を降りて盾なしの片手でやってみな」

シルトがそんな事を言う
これは冒険の中でよくやっているサラへの修行の1つだ
それほど危険の無い状況になると
シルトはよくこういった条件をつけてサラにやらせるのだ

「うん、わかった」

サラはそれに即答し、そんな様子を他の面々が見守っていた
皆、ハーフブリードの実力を見てみたいのだ
しかも不動のシルトの弟子であるサラの剣技が見れるのだ、こんなチャンスはない
しかし、盾使いである彼女が盾なしで、更に片手というのはキツいのではないか?
そう思う者達が多かった、しかし、それは杞憂に終わる

馬を降り、手綱と盾をシルトに預け、歩き出す
オーガは仲間が全員やられた事により怯えていたが
一人の女が歩いてくるのに醜い笑みを浮かべる
そして彼女目掛けて走り出す、その刹那
視界から彼女が消えた、オーガは辺りを見渡すが彼女はいない
そして突然足首から激痛が走る

『ガアアアアアアア!!』

叫び声を上げ、下を見た時、オーガは恐怖する
自身の足首が両方斬られ、更に女はすでに次の一撃を振りかぶっていたからだ
ほぼ真上に突き上げられた剣はオーガの喉から顎に刺さり、絶命する
剣を抜き、剣を振る事で血を払う
一連の動きで彼女の着る真紅のコートがひらひらと舞い、まるで炎が揺らめくようであった

そして彼女はシルトの元へと歩いてくる
戻ったサラに歓声が上がる
サイガとイルガは小さく拍手をしていた

「流石は紅焔(こうえん)と呼ばれるだけはある」

彼女、サラ・ヘレネスは"紅焔のサラ"という通り名がある
その名の由来は彼女の着る真紅のコートからであり
舞うように戦う彼女はまるで炎のようで、いつしかそれが彼女の通り名となっていった
ちなみにハーフブリードの他のメンバーにも通り名はあるが、それは後に語ろう

見事だった、と褒めちぎるロイ達に照れて俯くサラだった
しかし、シルトの顔にいつものユルさはない

「サラ、今のじゃ危ないよ
 オーガが目で追えなかったからいいけど
 あれじゃ上から叩き潰されてもおかしくない」

普段より低めのシルトの声にすぐに顔を上げて、真剣な表情で話を聞く

「ごめん、気をつける」

そう言い、サラはシルトから盾と手綱を受け取った
シルトの言葉に何人かは厳しすぎないか?という声を上げているが
先ほどのシルトの戦いや、先日熱弁していたロイの話を思い出し
俺達とは別の次元の話をしているんだなと納得した




それから半刻ほどし、目的の宿に到着する
ここはラーズ国領内にある大きな旅宿"火竜の喉笛亭"である
近くには活火山があり、それを火竜に見立ててつけた名前だ
3階建ての1階は食堂となっており、席が30ほどはある
部屋数は25にもなり、宿としてはかなり大きい場所だ
ここがラーズ首都への街道にあるため、これほど大きい宿でも客に困らないのだ
内装はそれほど豪華ではないが、木の作りが暖かみがあり
大雨に打たれた彼等にとってはとても落ち着く宿だった

彼等は宿に入って早々、冷え切った身体を暖炉で温める者や
酒だ酒~と注文する者など様々だ
そんな中、部屋をとるためにロイが受付へと向かう

「24人だが泊まれるだろうか」

受付にいた初老の男に声をかける
小奇麗な格好をしており、髪は短く清潔にしている
口髭と顎髭を生やし、バーのマスターといった雰囲気を醸し出していた

「いらっしゃいませ、24名様ですね?少々お待ちください」

カウンターの向こう側で宿泊名簿に目を通し、男はロイに笑顔を向ける

「何部屋のご予定でしょうか?」

ロイは一瞬悩み、すぐに答えを導き出す

「男女は別の部屋で、人数分のベッドがあれば何部屋でも構わない」

かしこまりました、と男は言い、再び宿泊名簿に目を通し
あれこれと計算を始める
そんな光景をじっと待っていたロイの足元に少女が来て
マントをちょいちょいと引っ張る、ラピだ

「ロイさんロイさん、私達は5人部屋ね」

「む?シルト殿も一緒で構わないのか?」

「うん、いいよー」

「そうか・・・だそうだ、主人」

その話を聞いていた宿屋の主人は笑顔で首を縦に振り、再び宿泊名簿へと目を移す
男はハーフブリードを知っていた
いや、むしろラーズで知らぬ者はいないだろう
それに彼等はこの宿を何度か使った事があったのだ
彼等が泊まる時はいつも全員同じ部屋で、6人部屋を借りている

「おまたせしました」

男が鍵を用意し戻ってくる

「6人部屋を3つ、4人部屋を2つでよろしいですか?」

「あぁ、構わない」

そう言い、ロイは鍵を受け取る

「合計で1金貨1銀貨8銅貨になりますが、今回は1金貨で結構ですよ」

男からの提案に彼はすぐに答える

「いや、そのまま支払おう」

男は少し驚くが、かしこまりましたと頭を下げる
ロイが断った理由は、今回の旅の資金は各国から大量に出されているからだ
各国の意地の見せ合いというくだらない理由で必要以上に用意されたのである
そして、彼は自国の宿に貢献したかった
民が潤うのは国を守る彼にとっても嬉しい事なのだ

しばらくして部屋分けが済み、それぞれが自室へと向かう
4人部屋でクガネと一緒になったガリアとリヨンとエンビは不満そうだった
巫女3人とミラは一緒の部屋になり、残りは6人部屋を使う事となった




巫女3人とミラの部屋は4人部屋であまり広くはなかった
内装は可もなく不可もなく、一般的な宿といった具合だ
椅子は無く、直径40センチほどの小さなテーブルが各ベッドの横に1つずつあるだけだ
窓は1ヶ所、入口と反対側に60センチ四方の窓が1つだけある
ベッドはシングル用で少し狭いが、ふかふかとしており寝心地は悪くはない

「粗末な宿ですわね・・・テントよりは良いですが・・・」

ミラがベッドの弾力を手で確かめながら愚痴をこぼす
彼女の隣はリリム、リリムの向かいにマルロ、マルロの隣はイエルが使う事となった

「そうですか?すごく良いところだと思いますよ」

不思議そうな顔でリリムがその愚痴に素直に答える
これが初めての長旅である彼女にとって、ただの宿でも胸躍るものなのだ

「ひさしぶりのお布団なので私は嬉しいです」

マルロがベッドに座り、そのままポンポンと跳ねている
それを見たリリムも真似をし、弾力を楽しんでるようだ
弾む二人を見たイエルがちょっと待ちなと口を挟む

「そんなんじゃ男なんて落とせやしないよ」

きょとんとした顔でイエルを見る二人に彼女は続ける

「もっとお淑やかに、お上品にするんだよ」

おー、と二人の歓声が上がり、イエルがミラに顔を向ける

「彼女を見てごらん、完璧な振る舞いじゃないか」

スッと手で布団のシワを伸ばし、そこへ音も立てず浅く座り
顎を少し引き、背筋はピンと伸び、両膝をつけ、つま先は揃えられ
その太ももに添えるように両手を置いていた

3人が食い入るように視線を送っている
イエルから突然話題を振られ戸惑い、ミラの顔は僅かに上気する

「あれが淑女ってもんさね」

おおー、という歓声が上がり、マルロは小さく手を叩いている
実際ミラの立ち振る舞いはいつでも優雅で気品溢れるものだった
同性であるリリムから見てもそれは美しいもので、密かに憧れていた

バツが悪そうにしているミラは反撃と言わんばかりに、リリムに狙いを絞る

「ふふ、死の巫女様はエインにお熱なのかしら?」

微笑を浮かべ、意地悪に聞く
そんなミラの奇襲にリリムの顔は茹でタコのように赤く染まり
手をぶんぶんと振り回しながら言う

「そ、そ、そんなことは!」

その態度にミラは片側の口角を僅かに上げ追撃する

「ふふ、そうかしら?どなたが見ても明らかかと思いましたのに」

そう言い、イエルとマルロへと視線を向ける
イエルはニヤニヤと笑い、マルロは苦笑を浮かべていた
二人の態度にリリムはがっくりと肩を落とす

「・・・バ、バレているのですね」

当然と言いたそうにミラが見下ろす
そこでリリムがハッとしたように顔を上げる

「あ!・・・え、あの・・・エインも気づいてるのですか?」

「それはないわね」

ミラの即答だった
リリムにホッとしたような少しばかり寂しいような複雑な気持ちが込み上げてくる
それと同時にミラはエインをどう思っているのかが気になった
これだけの美人で、さらに大貴族の令嬢、自分じゃ到底敵わない存在だ
もし彼女がエインを・・・そう考え出すと不安で心が落ちてゆくのが分かった

「あの・・・ミラさんは・・・・エインをどう思っているのですか?」

聞いてしまった、我慢できなかった
口に出して後悔した、答えが怖かったのだ
もしミラがエインを・・・再びその考えが頭を巡り、気持ちが落ちていく
そんなリリムの質問に目を見開き、ミラは硬直する

・・・沈黙、微妙な重い空気が流れた

ミラにとって確かにエインはお気に入りだ
自分に媚びへつらう事も無く、他国の兵が恐るほどの剣技、そして見た目も悪くない
真っ直ぐで正義感の塊の彼に悪い点はあまり思い浮かばない
しかし、恋愛感情となると話は別だ
大貴族の令嬢であるミラに言い寄る男性は多いが、その誘いを1度も受けた事はなかった
今はまだ色恋に関して興味がないのだ
何より、エインとは身分が違いすぎる、そんな発想すらなかったのが本音だ
そんな事を考えていると、時間が経ってしまい、微妙な空気になってしまった

「わ、わたくしは彼自身に興味はありませんわ」

リリムはバッと顔を上げる、その眼には涙を溜めていた
そんな彼女の表情に若干引きつつ、ミラは苦笑する

「良かったぁ・・・はぁぁ~」

全身の力が抜け、ベッドに倒れ込む
何がそんなに良かったのか理解できないミラは苦笑を浮かべたままだった




ハーフブリードの部屋は6人部屋であり
ベッド以外にも少々スペースのあるゆったりとした部屋だった
空いたスペースには向かい合うように椅子が二つあり
その中央には四角いテーブルがある
テーブルの横には少し大きめの窓があり、火山が一望できた
入口から入って右側のベッドにサラ、その隣はラピ
左側はシルト、ジーン、シャルルの順だ
空いたベッドにはそれぞれの荷物が積まれ、埋まっていた

「シルさんもたまにはベットで寝ないとねー」

ラピが言う、そんな彼女に「ありがと」と乾いた笑みを浮かべていた
彼女等は宿に泊まる時だけはシルトと同室になる
いや、正確には屋根のあるとこなら、だろうか
彼等の本拠地はラーズ首都であり、首都には家を1つ持っている
そこは元々シルトの家であり、ハーフブリード結成前から所持している家だ
結成前から2等級だった彼はそれなりに収入があったので広い部屋を借りていた
そこにシャルルとサラ、後にジーン、最後にラピが住むようになる
広いと言っても5人が住むには狭く、ベッドの数も足りる訳が無い
サラとラピは客室のベッドを1つずつ使い
シャルルとジーンは寝室のダブルベッドに一緒に寝ている
シルトはというと居間のソファで寝起きしているのだ
そんな彼等にとってチームとは家族に近い存在なのかもしれない

「それじゃシルさん、着替えるから一旦・・・」

ジーンが入口の扉に視線を送りながらシルトに出て行けと促す

「了解了解、ちょっとぷらぷらしてくるわ」

シルトはタオルを1枚頭から被り、片手を上げ、部屋を去っていく
彼が出て行ってから少し間をおき、彼女等は着替えだした

「雨すごいねー」

窓を眺めていたシャルルが着ていた服を干し、身体を拭きながら言う

「もー、またびしょ濡れだよー」

サラは頭をぷるぷると横に振り、濡れた髪から雫が飛んでいる

「早くやむといいね」

ラピが窓の外の火山を眺めている、大雨によりほとんど見えないが・・・
肩のドラゴンの子供が小さくピィと鳴き声をあげる
そんなドラゴンの頭を撫で、ポケットから餌である干し肉を取り出した
肉を眼にしてピィピィと催促するドラゴンに目を細めて少しずつ餌あげる

「ここって温泉あったよね?」

ジーンが独り言のように皆に聞く
それにはシャルルが答えた

「あるよ!おっきいお風呂!!」

「それじゃ、後で皆で行こうか」

うんうん、と全員が頷いていた
冷えた身体には最高だろうと心躍らせる彼女達であった




ロイとガゼムが食堂で今後について話し合っていた
彼等はこの旅で出会い、部下を束ねる者という似たものを感じたのかすぐに意気投合した
少々酒も入り、気分も良くなり、楽しげな感じに話している
そこに他の宿泊客の会話が聞こえてくる

「また出たらしいぞ」

「あれか、岩を喰らう化け物ってやつか」

「あぁ、ものすごいデカかったとか聞いたぞ」

「ん?俺が聞いたのはそんなに大きくないって話だったが?」

「そうなのか、噂程度だからなぁ・・・違う魔物を言ってるのかもな」

会話の内容が気になり、ロイが席を立つ
それにガゼムも続いた

「なぁ、今の話を詳しく聞かせてくれないか」

ロイは一杯奢るからと大ジョッキを彼等の席へドンと置く
それに気分を良くした宿泊客は口を開く

「人に聞いた話なんだがな、どうやら火山の麓まで化け物が降りて来てるらしいんだ」

ロイとガゼムが目を合わし無言で頷く
これから行く予定の火山に関する魔物の話だ、聞いて損はないだろう

「どんな化け物か特徴とか詳しく教えてもらえると助かる」

そこで宿泊客は彼等の出立ちを舐めるように見つめる
ロイの鎧の胸にある紋章を見て、目の色を変えた

「これはこれは、軍の方でしたか、それがですね・・・・
 私も全然詳しくはなくて、岩のような肌の大型の魔物とか
 白い鱗に覆われた中型の魔物で岩を喰らうとか、話がごちゃごちゃなんですよ」

「ふむ、目撃された場所はどの辺りになる」

「ここから火山に向かって、薬草が生えてるとこ辺りとも
 山の中腹とも、これもまた色々な話がありまして・・・正確には・・・・」

協力感謝する、とロイは彼等に敬礼をし元の席へ戻る
ガゼムも続き、席につくなり口を開く

「情報が曖昧すぎるな、それに複数の魔物の話のようにも思える」

二人で唸る、先ほどまでほろ酔い気分だったが既に酔いは覚めている
しばしあれこれ話し、結局行かないと分からんだろうと話はまとまった
そこに一人の男が通る、シルトだ
彼は足を止める事なく薄ら笑いで軽く頭を下げ、通り過ぎていく

「あんな男がな・・・」

ガゼムの口から洩れた言葉にロイが頷く

「俺も最初はそう思っていた、噂も尾ひれがついただけだろうと」

だがそれは間違いだったと彼は続ける
そんな彼の真剣な表情にガゼムは先ほどの戦闘を思い出す
馬上という自由の効かない状況でも彼の防御は完璧だった
あの背中の盾で防ぐ前、彼はすでに剣を逆手に持ち替えていたのだ
それをロイやガゼムは眼にしていた
全ては計算通りなのだろうなと二人で納得する

「能ある鷹は・・・というやつか」

二人はシルトの背中を目で追っていた
そこである事に気づく、彼はなぜ武装してるんだ?と




噂のシルトが向かった先、それは外だった
宿の入口の屋根がついてる部分に出る、そこに待っていた人物に手を上げ
待っていた人物は深く頭を下げる・・・・エインだ

「遅くなってごめんね、話って何かな」

シルトが悪びれた様子もなく言う
その言葉にエインは頭を上げ、力強く鋭い眼で答える

「お手合せ願います!」

「うん、いいよ」

彼の即答にエインは少し驚くが、彼が武装してきたのを見てニヤける
こっちの意図はバレバレという事か・・・と

シルトはエインが話があると言って来た時に気づいていた
彼の真剣な眼差し、置かれた状況、それ等でおおよそだが想像がついた
そんな真っ直ぐな彼に答えてやりたかったのだ

「んじゃ、どこでやる?」

普段と変わらぬ緩い感じで聞いてくる、この緩さが底が知れないのだ
不動と言われる彼の性格はその真逆で、とても柔らかく掴みどころが無い
柔と剛、両方が合わさったような人物なのだ

「では、この建物の横側では如何でしょうか」

「うん、良いけど、雨は君の不利になるよ?」

確かに泥濘ではエインの瞬発力は衰えるだろう
それに加え、剣は滑りやすくなり盾での受け流しはしやすくなる
しかし、彼は今がいいのだ
リリムを守ると誓ったからには力が欲しかった
生きる伝説とも言える1等級冒険者との手合わせがどれほどの経験になるか
勝敗など関係なく、エインはそれを望んでいた

「構いません、お願いします!」

わかった、とだけ言い、シルトが歩き出す
それにエインは続き、彼の背中を見る
そこには身体の半分以上は隠せるであろうラージシールド
ミスリル製であるそれには魔法が付与されており、淡い光を放っている
そして彼の腰に下げられたブロードソード、それもミスリル製だ
魔法が掛かっているのかは分からないが
刀身の分厚さ的におそらく自分のミスリルロングソード以上の価値はある
何よりも目を引くのがその黒い鎧だ
闇すら飲み込みそうな黒で、光沢がなく、光を反射していない
素材はなんだ?皆目見当もつかない・・・しかし普通の鎧である理由が無い
相手は1等級冒険者なのだから



しばらく歩き、宿屋の横側へと移動し、3メートルほど距離を取る
大雨の中、二人の男が向かい合い、武器を抜いた
その剣は雨を浴び、光を反射する
エインは重心を低くした突きの構え、切っ先と目線を合わせ、シルトを睨む
シルトは右手のラージシールドを前面に構え、左手のブロードソードは盾に隠す

エインは動けずいた
張り詰めた空気が辺りに漂い、1秒が1分にも感じるほど重い
雨が降っている・・・・二人の向かい合った男達にぶつかり、弾け、大地に落ちていく
大粒の雨がシルトの顔に、いや、瞼に当たり、一瞬その目が閉じられる

それをエインは見逃さなかった

大地を蹴る、泥となった大地は大きく形を変え、飛び散る
最初の一歩目から最高速度近くまで達した鋭い突進
そこから全身のバネを使い、常人の域を超えた速度の剣撃を放つ
そう、彼が疾雷と言われる由縁の突きが繰り出された

キィィィィン!!

逸らされた・・・初見の相手には避けられた事や防がれた事はなかった突きが、だ
彼の突きはシルトの左肩目掛けて繰り出されており
一瞬の隙ができた今なら確実に当たったと思っていた
しかしそこに盾が滑り込み、当たる直前にその盾は僅かに傾けられ
彼の放った突きは盾にぶつかり、そのまま流される
体勢の崩れたエインのみぞおちに鈍痛が走る
そこにはシルトのブロードソードの柄がめり込んでいた
その場で崩れ落ち、げほげほとむせる

「大丈夫か~い」

いつもの緩い喋り方で聞いてくる
何とか呼吸を整え、はい!と答え、再び距離を取り構える

強い

圧倒的だ、今のが柄ではなく刀身だったら俺は死んでいた
天候や足場もあるがそんなの些細な問題に思えるほどの壁を感じた
エインは震えた、それは恐怖からではない、嬉しいのだ
これほどの相手とは戦った事がない、この経験がどれほど有意義か
それを思うとエインは震えずにはいられなかった

『もう1回お願いします!!』

エインは気合いを入れ、重心を低くする


甲高い金属音が響き、室内に居た数名が窓の外を見る
そこには崩れ落ちたエインとその横に立つシルトが見えた

「おい!疾雷と不動がやりあってるぞ!!」

その声に一斉に窓辺に人が集まる
食堂にいたロイとガゼムも先ほどの金属音に窓から様子を伺っていた

「これは・・・見逃す訳にはいかないな」

ガゼムが彼等から目も離さず頷き、ごくりと唾を飲み込む



エインは頭の中で何度もシミュレートする
いくら考えても彼に剣が届く想像ができない
ギリッと歯に力を込め、そんな迷いは捨て去る
当たって砕けるのみ、彼の中にはそれだけになった

シルトは彼の突きを甘く見ていた
初撃の突き、それは恐ろしいものだったのだ
今まで見た事もないような速度の突き、更に一瞬の隙を逃さない洞察力
エインは間違いなく2等級の中でも上位、もしくは1等級に匹敵するであろう人物だ

こんな人物が埋もれているんだなとシルトは嬉しく思った
彼が貴族でなければチームに誘いたいほどだ
そして彼から迷いが消えたのを確認する
先ほど受けた盾からの衝撃を思い出し、彼の眉間にシワが寄る
次の一撃はさっきのよりも早いだろうな、そう思うとシルトは楽しくなってきていた
自然と笑みがこぼれ、右手に持つ盾に力を込める
そして、彼の中に湧き上がる不思議な力に命令を下す
"城壁防御"と彼は心の中でそう呟く・・・それは彼の鎧への命令であった

彼の鎧はラルアースに唯一存在するアーティファクト防具
その存在は誰も知らない、ハーフブリードのメンバーすら知らないのだ
一般的にアーティファクトとは武器しか存在してないと思われている
使われている金属は現在では製造不能で、古代の遺産しか存在していない
そして、それは作られた当時でも希少金属であり
武器くらいしか作れなかったのだ

それが全身を覆う鎧としてここに存在している

"常闇のフルプレートメイル"その能力は大きく分けて2つだ
1つは"城壁防御"それは地の魔法を利用した特殊効果で
重量を操り、鎧を軽くしたり重くしたりできる能力だ
もう1つの能力はオートで発動される"力の流動"
全身を覆う鎧に受けた衝撃を一定量だが足の裏、大地へと流す水の魔法の特殊効果だ

城壁防御は癖のある能力で、使いこなせる人は少ないだろう
シルトのようにガード主体の人には便利だろうが
ただ防ぐだけのガゼムやダリルのような人物が使ってもあまり意味は無い
重みにより動かなくなると言ってもダメージは受けるのだ
更に重みを増せば避ける事は困難にもなる
シルトのように高い受け流しの技術が無ければ宝の持ち腐れである
彼はこの鎧を使いこなし、そして圧倒的防御力を得た
それがシルトが不動と言われる由縁である

シルトの鎧が重くなり、その身体は僅かに地面にめり込む
傍から見れば重心を少し下げた程度にしか気づかれないだろう
実際エインもその効果には気づいていなかった

二人はしばらく動かなかった
防御主体のシルトはカウンター狙いで動くはずがないだろう
エインには突きしかない、下手に攻めればまた受け流され、カウンターを食らうだろう
長い時間の睨み合いが続き、雨は増す一方だった・・・


その均衡を崩したのはシルトだった
ずずずと足を滑らせるように泥を押し退け進んできたのだ
シルトから動くとは思っていなかったエインは焦る
どうする、攻めるか、それとも引くか、迷ってしまった

"城壁防御解除"シルトは心の中で呟く
その瞬間鎧から重さは消え、着ている事すら忘れるほどになる
そして一気に踏み込んだ
盾を前に出し、エインの視界を遮り、盾の影から剣を構える

彼が踏み込んできたのには驚いた
フルプレートの身体からは想像できない速度で迫る彼は盾を前面に構え
視界からシルトが完全に消える
ヤバい、エインはそう思った瞬間後ろに退くが盾は目の前まで迫っていた
体勢が崩され、盾を剣で受ける事しかできなかった

ギギギギッ

受けた剣が盾により横に流され視界が開ける
そこに見えたのは自分へと向いた切っ先と、緩さなど一切感じさせない彼の顔だった
彼の目に浮かぶのは殺意、それだけだった
必死に剣を自身に引き寄せるが間に合う訳がない

やられる

エインがそう思った瞬間、シルトの剣はピタッと止まる
喉元3センチ辺りで停止し、ゆっくり下げられた

「ほい、これで2勝ね」

またあの緩い雰囲気へと戻り、笑みを浮かべている
先程までの殺気が嘘のようだ
全身冷汗まみれであっけにとられていたエインに彼は言う

「君は僕の防御を気にしすぎて待ちに転じすぎた
 君はその突きこそ最大の武器でしょ?相手が動くほど待ったら勝てないよ」

その通りだった、ぐうの音も出ない

「もう1回だけやってみようか、君の本気を見せてよ」

『はい!!』

エインは片手で拳を作り、自身の額を殴る
再び距離を取り、重心を下げた
シルトはゆっくりと歩いて戻り、振り向き、構える

「いつでもいいよ」

そう言い、彼はラージシールドで半身を隠し、今度は下段に剣を構える
エインは何も考えず突っ込んだ
突きである、それしか彼にはないのだ
突きは彼の盾に阻まれ、流される
それはエインも分かっていた、だから今度はそれでは終わらない
流されたエインは彼の盾に肩から突っ込み、全体重とかけたタックルをする
そこから体勢が悪かろうと多少でも揺らいだシルトへ突きを繰り出すつもりだった

が、彼は動かない

岩壁にでもタックルをしたような衝撃が彼に走り、一瞬脳が揺れる
しかしエインは諦めない、無理矢理身体を捻り、剣を振るう
その剣はシルトが構えていた左手の剣に阻まれる

キンッ!

弾かれてもなお力を込め、無理矢理引き戻し、剣を振るう

キンッ!

弾かれる、そこでエインは体勢を立て直し、片足を半歩だけ後ろへ引く
そこに追撃しようとしたシルトは驚嘆する
その半歩という僅かな助走で彼はとんでもない速度の突きを繰り出したのだ
こいつマジか!シルトは心底嬉しかった
これほどの強者とやれる事の喜びや興奮は久々だった
その突きをギリギリ頭を横に逸らす事でかわし
大盾でエインの顔や身体ごと吹き飛ばす
鼻血が吹き出し、背中から地面に叩きつけられたエインは呼吸ができなくなる
しかし諦めてはいない、倒れた彼にトドメを刺しに来たシルトに向け、寝たまま突きを放つ
それは簡単に盾に阻まれ、彼の目の前まで剣が迫り、そして止まった

「おつかれさん」

シルトが笑顔で言う
大地に剣を刺し、エインに手を差し伸べる
それを掴み起き上がる時には雨は上がっていた

『ありがとうございました!』

鼻血と泥まみれのエインは深く頭を下げ大声でお礼を言う
そんな彼の態度にシルトは満面の笑みで答える

「こちらこそありがとう、すごく楽しかったよ」

二人は握手をし、お互いを称え合う
戦いを終えた彼等に宿の中から大歓声と盛大な拍手が送られた




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