2016_11
16
(Wed)15:38

4章 第2話

オリジナル小説 『カタクリズム』
4章 第2話 【爪痕】

やっと新しい話ですね・・・遅くなってごめんね!
これからまったり書いてくのでよろしくでーっす!

では、続きを読むからどうぞー。









【爪痕】





サァァと風で葉が鳴り、気持ちの良い風が頬を撫でる
徐々に辺りが明るくなり、薄紫色の空は青く澄み渡ってゆく
凛とした冷たい空気が眠気を覚まし
まだ誰も知らない新しい1日が始まろうとしていた


ここはアムリタの南東、国境付近にある深い森の中


無数の魔獣が生息するこの森は普通であれば人は近寄らない
人類では生きてゆく事の出来ない世界、それが魔の領域である
この世界には魔の領域は幾つも存在する
いや、むしろ世界の大半はそれだと言った方が正しいだろう
人間などごく一部の地域に密集し、壁を築き
身を寄せ合って生きているに過ぎないのだ

しかし、世界には例外というものが必ず存在する
たった1人でこの魔の領域に住み
魔獣達すら恐れて近寄る事の無い存在がいる
"それ"が本当に人であるなら、人は"それ"を"英雄"と呼ぶだろう

だが、それは人などではない

人にそのような力は有りはしないからだ
では、"それ"が人でない場合、人は"それ"を何と呼ぶだろうか
時に人はそれを"神"と呼び、時に人はそれを"魔"と呼ぶ
人は想像を超える力を敬うか恐れるのだ

この森に住むのは"神"か"魔"か
その相反する曖昧な存在である者・・・スカー・サハ
彼女は幾千の時を生き、時にこう呼ばれていた・・・・"半神"と
神になり損ねた者、魔に墜ちた者
そういった畏怖の念が込められた呼び名である"半神"
彼女は遥か遠い昔にそう呼ばれていた時代があった

そんな彼女が半神と呼ばれなくなって4000年以上は経つだろうか
突如、身を隠した彼女は次第に歴史から消え去り
人々の記憶からも消えていった
今では彼女を知る者などこの世界にごく僅かしかいない

しかし、1日で彼女を知る者が一気に増えていた
それはエイン達一行が彼女と出会ったからだ

そして、スカーは現在エインに対して左手を前に出して構えている
右手は腰に回し、使わないという意思を明確に示している
その手には何も武器は握られておらず、手刀だけで相手をするようだ

彼女の拘束具のような独特な服が朝日を浴びて艶めき
その妖艶さを増して見せている
足首近くまである長い黒髪が、気持ちの良い朝の風に揺らめき
満月のような黄金の瞳は真っ直ぐにエインを捉えていた

「・・・・・お待たせしました」

「では、行くぞ」

「はいっ!」

エインが抜刀し、切っ先を向けて重心を下げてゆく
刹那、スカーの身体は視界から消え失せる

「っ!」

この場にいた誰もが驚いた
誰一人彼女の動きを見えなかったからだ
あらゆる方向から空気を切るような高い音が鳴り
皆がキョロキョロと辺りを見渡している
だが、誰一人として彼女の姿を捉える事は出来なかった

キンッ!!

突如、金属音が鳴り響き、皆が音の鳴った方へと顔を向ける
そこには、スカーの爪をロングソードで防ぐエインの姿があった

ギギ・・・・ギギギッ・・・

爪とロングソードが擦れ、小さな火花が散る

「バカバカしい、お前さんはこの程度か?」

スカーがそう言うと同時にロングソードに伝わっていた圧力は消え
彼女の姿も忽然と消えていた
そして、彼女の声が四方八方から聞こえてくる

「お前さんごとき、人差し指だけで十分じゃ」

エインは左手の握力が弱まっている事に気づく
先程の鍔迫り合いで麻痺してしまったのだ
それほどの圧力が剣を通してエインを襲っていた
エインは銀の右手に剣を持ち換え、より一層身を低くして待ち構える

目に頼るな、あれは目で追えるレベルじゃない
空気だ、空気の流れを感じるんだ
この右腕なら間に合う、大丈夫だ、焦るな、落ち着け

エインが集中し、空気を切る高音が鳴り響き
緊張感はピークに達しようとしていた・・・・その時

パキンッ!!・・・・・トスッ

エインには何が起こったのは全く解らなかった
一瞬、ほんの一瞬だが手に衝撃が伝わり、気がつけば剣は折られていた
折れた切っ先は空中で回転し、地面へと落ちて突き刺さっている
その間、エインは微動だに出来なかった

宣言通り、彼女は人差し指しか使っていなかった
その人差し指の爪でエインの剣を折り、そのまま彼の喉元に突き立てていた

「話にならんようじゃの」

「・・・・」

指をつつつっと這わせ、エインの顔を上へと向けさせる

「わらわのバカ弟子の方が幾分マシのようじゃの」

スカーが指をピッと払い、エインは解放され大きく息を吐き出す
呼吸を止めていた事すら気づけないほどに彼は動揺していた

「お前さん、名はエインと言ったか?」

「・・・はい」

「神の勇者とは何たるかを知る事からじゃの」

「知る・・・とは、どういう意味でしょうか」

「己が内にある神との繋がりを感じ、信じ、手繰り寄せる
 その程度の事も出来んとは思わんかったがの
 お前さん今まで何をしてたのじゃ?」

「・・・返す言葉もありません」

エインは俯き、折れた・・・いや、切断された剣に目をやる
スチールが歪んですらいない、紙でも切ったかのような切り口だ
彼女は宣言通り人差し指だけでそれをやってのけた
その瞬間を気づく事すら出来なかった自分との圧倒的実力差
それを噛み締め、エインは拳に力が入っていた

「まぁよい、旅を続けるならその鍛錬も忘れるでないぞ」

「はいっ!」

そして、スカーが小屋へと向かいながら皆に言う

「ここでわらわに会った事は口外するでないぞ?
 場合によってはお前さん達を殺さねばならんからの」

今見せられた圧倒的実力差に、口答え出来る者などいるはずもなかった
エイン達は旅の支度を済ませ静かに旅を再開するのだった





スカーの小屋から出立して1日ほど経った夕暮れ
雨が激しさを増し、体温を奪ってゆく

「これ以上進むのは危険だ、今日はここまでにしよう」

バテンの提案で一行が野営の準備を始めていると・・・

ドンッ!!

突如、上へと跳ねるような感覚が全員を襲う

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「な、なんだっ!?」

「地震?!」

大地は大きく揺れ、木々は波打つように揺らめき、巨木すら倒れてゆく

「こ、こんな大きな地震は初めてですわっ」

ミラは必死に大木にしがみついている、そうでもしていないと立っていられないのだ
イエルはマルロを抱え「大丈夫だよ」と声をかけ続けている
まるで自分に言い聞かせるように・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

「弱くなってきたな・・・」

「皆大丈夫だろうか」

エインが一人一人を見ながら声をかけてゆく
全員の無事が確認できたが、皆明らかに不安そうだった

「今のが本震とは限りません、十分注意して行きましょう」

地の巫女が言うのだ、注意して損は無いだろう
しかし、言った本人であるマルロがどうも腑に落ちない様子だった

「マルロ、何か気になるのかい」

「はい・・・先程の地震、あの規模であれば大地の魔力を感じるはずなんです」

「それが無かったと?」

「はい・・・・まるで自然災害じゃないような・・・・」

「あんなバカデカい地震を誰かが起こしたってのかい?
 そんなのマルロ、アンタ以外誰が出来るって言うんだい」

イエルは笑いながら言う

「わ、私でも無理ですよ!」

「地の巫女で無理なものを誰が出来るって言うんだい」

「そう・・・なんですかね・・・」

不安は残るが野営準備の途中だったので再開し
その日は眠れぬ夜を過ごすのだった
だが、その後は小さな地震しかなく、マルロの心配は外れる事となった



翌日、森を抜けるとそこには草原が広がっていた
しかし、草原はそれほど続かず、1日も進むと不毛の大地、荒野へと姿を変える
ごく僅かに緑もあるが、それも次第に姿を消し、完全に土色の世界となってゆく
山も丘も無い平坦な荒野は途方もなく広く
風に砂が巻き上げられ視界を遮る

荒野に入って6日、森にあった川で汲んでおいた水は底が見え始める
だが、この荒野に終わりは見えず、一行の心を不安の二文字が支配していった

「動物や魔獣すらいないな・・・」

ふぅ、という大きな息を吐き出しながらバテンが辺りを見渡す

「それに陽射しも強くなってきたわねぇ」

プララーが右手を額に当て、陽射しを遮りながら空を見上げると
その横にいるアシュが大地に唾を吐き捨て、愚痴を洩らす

「ったく、どこまで続くんだよ、あっちぃしよー!」

アシュはフード付きのローブを脱ぎ捨て、服をパタパタと揺らす
汗で濡れた鍛え上げられた胸板がチラチラと姿を現し
強烈な陽射しを浴びてきらめく

「アシュちゃん、上は着ておいた方がいいわよ?」

「んでだよ、このクソあちぃのに着てられっかよ」

「日焼けすると後が辛いわよぉ」

プララーが頭から羽織っているフード付きのローブをひらひらと揺らしながら言うと
アシュは舌打ちをしてローブを羽織った
そんな素直な彼の姿を見てプララー微笑むのだった

「そろそろ休憩にしましょう」

先頭を歩くエインが振り向いて皆に言う

「こんな荒野の真ん中じゃ休めるところがありませんわ」

ミラが頬を伝う汗を拭いながら辺りを見渡している
しかし、日陰になる場所は一切なく
吹く風は熱風で、とても生物の生きていける環境ではなかった

「あの・・・私にまかせてください」

マルロが皆から少し離れ、両手で荒れ果てた大地に触れる

「堅牢なる大地の鎧よ」

彼女がそう口ずさむと、次の瞬間彼女を囲むように土の壁が形成されてゆく
あっという間に完成したそれは、ちょっとした小屋のようでもあった
いや、小屋というより土で出来たかまくらと言った方がいいだろうか
ドーム状の土壁で出来たかまくらである
直径は6メートルほどはあり、中はそれなりに広い

「助かるわ~ん☆」

「さんきゅー、マルロさま!」

プララーとアシュが真っ先に入って行き
それに続くように全員が土のかまくらへと入ってゆく

「陽射しは防げるけど暑いのには変わりないわね・・・」

プララーがだらだらと流れる汗を拭きながら手で顔を仰ぐ
すると、マルロがちょこちょこと歩き回り
彼女が触れた部分の土壁に穴が空いてゆく
途端に風が通り、この土のかまくらの快適度が上がってゆく

「どうですか?」

「ありがと~☆マルロちゃんは優しいのねぇ」

マルロは赤くなり、下を向いてもじもじとしていた


室内の温度が一気に下がった事により、暑さで鈍っていた頭も僅かに冴えてくる
今後の計画を練る為にも状況を把握しておく必要があった

「皆、水はどの程度残っているだろうか」

エインが自身の水筒を出しながら言うと、皆も自分の水筒を取り出す
ちゃぽちゃぽと揺らして中を確認し、全員もう残り少ない事が分かった

「このままではマズイな・・・」

エインが目を瞑って考えている時
隣にいるリリムはマルロが作った穴から外を眺めていた
そして、突然大声を発する

『あっ!!』

全員がビクッとし、リリムへと視線が集まる

「見てください!あれ!」

リリムが指差す方向、壁の穴の先
そこには無限に広がるような荒野と、雲一つない青空しか無いように思えた
しかし、その澄み切った青空の一部がキラリと光る

「ん・・・何か光ったな」

エインが目を細めて見るが何が光ったかまでは分からない
空に浮かぶ光はキラキラと煌きながら徐々に近づいてくる

「あれは・・・水か?」

バテンが独り言のように呟く

「水が欲しすぎて頭おかしくなったんじゃねーの、だんちょー」

アシュが笑っていると、隣にいるプララーの目つきが鋭くなる

「ううん、アシュちゃん、あれは水よ」

「はぁ!?」

嘘だろ?とアシュも再び穴を覗き込む
すると、そこには確かに水らしきものが宙に浮き、移動してくるのが見えた

「・・・冗談だろ、俺ら暑さで頭おかしくなったのか?」

一行が呆然と空を眺めていると、次第に水は近づき
ハッキリと水である事が確認できた
それと同時に、水の上に1人の少女がいる事も・・・

「あれは・・・マナさん?」

リリムが疑問形で言うと、イエルやマルロが頷く
そう、この空を翔る水の正体は水の巫女マナ・マクリールだ
何故彼女がこんな場所に?という疑問はあるが
水不足で困っていた彼等にとってこれほどの救いはなかった

「これもまた運命というものなのかしらね」

ミラがエインに微笑んで外へと出る
彼女の笑顔にリリムは「むぅ~」と難しい顔をしていたが
そんな二人の変化に気づく事はなくエインもまた外へと出るのだった

『マナさ~~~~~~~んっ!』

リリムがまるで何かの鬱憤を晴らすかのように大声を上げ彼女を呼ぶ
すると、それに気づいたマナが徐々に降下を始める
次第にマナの姿がハッキリと見えるようになり
ミラが男性陣に対し口を開く

「貴方達は後ろを向いていなさいっ!」

男性陣もその言葉の意味は理解出来ていたので素直に従う事にした

何故ミラがこんな事を言ったのか、それはマナの服装のせいである
ネネモリで会った頃のマナは不思議なデザインのローブを着ていたが
今のマナは白いノースリーブのシャツに赤いミニスカートだ
相変わらず寝癖が激しいボサボサの髪だが、爽やかな印象にはなっていた

しかし、この格好のマナを下から見上げると・・・そう、丸見えなのである

「やっほ~、何してんの~?ピクニック?」

5メートルほどの高さになった頃に薄い平面の水から飛び降り、綺麗に着地する
頭を掻きながらヘラヘラと笑い馬鹿な事を言うマナに小さなため息が洩れるが
この状況で出会えた事は奇跡にも近い幸運と言えるだろう
ミラは我慢して作り笑いをして彼女に言う

「神託の旅の途中ですわ」

「へぇ、そうなんだ、それじゃ」

マナが再び平面の水を空中に出現させ、それに飛び乗ろうとすると
ミラが彼女の襟首をガシっと掴む

「ぐげっ」

急に首が締まりマナの情けない声が洩れ、皆が苦笑する

「待ってくださいまし」

「なんなのよ~、めんどくさいな~」

マナは首をさすりながら涙目で本音をぶちまける

「め、面倒って・・・おほんっ、まぁいいですわ
 マナさん、わたくし達は水不足で困ってますの、助けて頂けると助かるのですけど」

ミラが引き攣った顔で言うと、マナは手をぽんっと叩いて笑顔になる

「あ、そういうこと、いいよ~、水筒出して並んでね~」

各自荷物の中から水筒を取り出し整列する
マナは一人一人の水筒に水の魔法をかけ一杯にしてゆく

「おおっ!助かったぜ!水の巫女さまっ!」

アシュがバンバンとマナの肩を叩いてから水を一気に飲み始める

「ふっふっふ、マナちゃんの出したての聖水だぞ、嬉しいだろっ」

マナがニヤニヤとしながら言うと、アシュは水を吹き出し、小さな虹ができる

「て、てめぇ、何て言い方しやがんだっ!」

「え~?何が~?巫女の水だよ?聖水じゃ~ん」

ニタニタとするマナにアシュはぐぬぬと拳を握っている

「折角あげた聖水を吹き出しちゃって勿体無いな~、また入れたげるから貸して」

「お、おう、さんきゅーな」

アシュが差し出した水筒を受け取ったマナの右手が僅かに光り
水筒が水で満たされてゆく

「はい、マナちゃんの出したての・・「それはもういいからっ!」

アシュがマナから水筒を奪い、ケッと後ろを向いてしまう
その姿にマナは大笑いをしていた



一行に水を配り終えたマナは満足気に頷く

「それじゃあたしは行くよ?もういいよね?」

「えぇ、助かりましたわ、有難う御座います」

ミラが丁寧にお辞儀をすると、マナはニカッと笑って水に飛び乗る

「この先、大きな大地の裂け目があるから気をつけてね~」

「裂け目?ですか」

「うん、まるで世界が裂けたみたいになってるよ・・・」

そう言うマナの表情はとても暗く、普段の彼女からは想像できないほどだった
彼女が何を思っているのかは解らないが
放って置けなかったリリムがマナの元へと歩み寄り、彼女の背中を撫でる

「ありがと、優しいね、死の巫女さんは」

潤んでいた瞳をぐしぐしとこすり、マナは笑顔に戻る
その笑顔でリリムも自然と笑顔になっていた

「それじゃ、あたしは行くね!またね~!」

マナが一気に上昇して行くと、ミラが男性陣をキッと睨み、男性陣は目を逸らす
見る見るうちにマナの姿は小さくなり、水が太陽光を反射する煌きだけになる
それも次第に見えなくなり、彼女は空へと消えて行った



エイン達一行がマナの言っていた大地の裂け目に着いたのは
彼女と別れてから3日後の事だった

エイン達の想像を遥かに超える大きさの崖が続いている
これがマナの言う大地の裂け目なのだろう
見渡す限りそれは続き、対岸とこちら側を完全に隔てている

「何て大きさだ・・・幅はそれほど無いのに、終わりが見えないな」

この裂け目は対岸との距離は10メートルほどしかない
しかし、どこまで行ってもこの裂け目は続いている
1日かけて裂け目に沿って移動してみたがそれは変わらず
一行に疲労の二文字がよぎっていた

「どうする?渡るか?」

「どうやって渡んだよ」

「そうねぇ、ジャンプって訳にはいかないわよねぇ」

ドラスリア騎士団の3人がそんな会話をしていると
エインが崖の淵まで行き、下を覗き込む
下から吹き上げる風が彼の前髪を揺らし、目を細めた

「流石にこれは難しいか」

エインのそんな独り言に、隣に来たリリムが反応する

「渡る方法があるのですか?」

「・・・無い事もない・・だが、危険ではある」

そう言いながらエインは銀の右腕を擦る
それを見て理解したリリムは皆に提案するのだった

「あの、皆さん」

彼女の声に皆が顔を向ける

「エインの腕のフックを使って渡ろうかと思います」

「確かにそれなら渡れるでしょうね
 でも、肝心のフックを固定する場所が無くてよ?」

「はい、それは今から探すのですけど・・・」

リリムは裂け目を見渡す
荒れ果てた大地は砂が覆っており、フックを刺せるような場所は見当たらない
そう、彼等は荒野を越え、砂漠へと踏み込んでいたのだ
裂け目にはさらさらと砂が流れ落ちていた



それから半日ほど裂け目に沿って歩いている
延々と続く裂け目に嫌になって来た頃、ついに人工物が目に入る

「あれは・・・橋かしら?落ちているようだけど・・・」

「そのようですね、行ってみましょう!」

マルロがやっとこの状況が打破された事に喜びを隠せず走り出す
そんな彼女の後ろを「しょうがないねぇ」とイエルが着いて行くのだった

一行は壊れた橋に着く
橋を繋ぐロープは切れ、足場となっていた鉄板は無残にぶら下がっている
辺りを見渡し、フックが刺さりそうな所を探していると、対岸に人影が見えた

『すみませーん』

マルロの呼ぶ声に13メートルほど離れた対岸物陰から人影が姿を現す

『お?何だおめぇら』

現れた人物は40過ぎの体格の良い職人風の男だった
さながら硬い鉱石のような重々しさのある、ぎっちりと中身の詰まった肉体だ
頭にはねじりハチマキをしており
日焼けした肌は汗でテカテカときらめき、たくましい口髭を生やしている
腰には金づちやノコギリなどが刺さった道具袋を下げていた

『この辺りに丈夫な岩とか柱みたいなものはありませんかー?』

男はしばし考え込み、ドカドカとガニ股で歩き始め
残骸と化している橋の跡に立つ2本の柱をバシバシと叩き、歯を見せて笑った

『こいつは丈夫なんてもんじゃねーぞ!なんせオレっちがブッ刺したからなっ!』

それを聞いた一同はエインを見て頷く
そして、エインは声を上げ、男に警告をした

『すみません!今からそちらにフックを撃ち込みます!離れててください!』

『お?フック?何する気だ、あんちゃん』

エインは右腕の上腕部にある留め金に指をかけて外し、そこにある蓋をスライドさせて開く
次に腰にあるポーチから火の紋章が描かれた八つの連なった筒を取り出し
開いた上腕部へと八連筒の端の1つを装填した
続いてエインは手首より少し上の前腕部にある小さなくぼみに指をかけ
そのまま指を引くと前腕部の一部が迫り上がり、カチンッと音を立てて止まる
迫り上がった部分の先端には小さな穴が空いている

何やら準備を始めた金髪の青年を見ながら男は察する
職人風の男は早足にその場を離れ、物陰から様子を伺う事にした

バシュッ!!

金髪の青年の銀色の右腕からフック状の物が発射され
それには鋼鉄とミスリルが練りこまれたワイヤーが繋がっていた
フックは深々と柱に刺さり、貫通する
貫通したフックは一度大きく開き、抜けないようにガッチリと固定された
数度引っ張り、強度を確認したエインは自分達側にある柱にもフックを射出した
フックは柱を貫通し、開いて止まる
2本の柱を繋ぐワイヤーはピンと張り、引っ張っても微動だにしないほどだった

「よし、行けそうだな」

右手を下に向け、銀の腕が音を鳴らす

カチャンッ!

すると、1つの筒が煙を上げながら飛び出し
代わりに1つの筒が腕の中へと入ってゆく

バシュッ!

エインが再び対岸の柱を撃ち抜き、更に自分達側にある柱にもフックを撃つ
合計4本の柱が2本ずつワイヤーで繋がっている状態となった

『おお、おおおおお!あんちゃんすげぇもん持ってんなっ!!!』

男が物陰から興奮した様子で出てきた

『あれか?あれ、なんだ、どこだったか、どっかの国の"機械"ってやつか?』

男は興奮気味に身振り手振りで言うが要領を得ない

『いえ、ただの義手ですよ』

そんな男にエインは冷静に真面目に答えていた

2本のワイヤーは高さ1メートルほどの位置に張られており
ワイヤーの間隔は約1メートル50
この幅では両方のワイヤーを掴んでという訳にはいかなそうだ
エインは一行の顔を見て、マルロで視線を止める
9歳のマルロ様には厳しいか・・・そんな事を考えていると
対岸にいる男が声を上げる

『あんちゃん達、ここを渡りたいんだろう?』

『はいっ』

『へへっ、あんちゃんがナイスなワイヤー張ってくれたからな、ちょっと待ってろっ!』

そう言うと男は物陰に置いてあった金属板やら色々を取り出し
何やら作業を始める・・・そのスピードたるや、まさに職人技だった
あっという間に台車のようなものが完成し

「ふんっ!!」

男の力こぶが膨らみ、重そうな台車を持ち上げた
少しフラつきながらも台車を2本のワイヤーにソっと乗せ
バランスや滑り具合を調べている

「よし、悪くねぇ出来だ」

満足気に頷いた男は腕を組んで白い歯を見せ笑った

『これで渡れんだろっ』

そう言うと男は台車を軽くひと押しする
台車はスルーっと音も無くワイヤー上を滑って行き、見事に対岸まで届いた
驚いた一行がその台車を調べると、車輪部分に溝があり
滑車のような作りになっているのが見て取れた

「最初は誰が乗るんだい」

「見た感じ大丈夫そうですけど・・・」

マルロは多少不安そうな表情をしていた
それもそうだ、この裂け目の崖下は暗く、どの程度の深さがあるかも分からないのだ
フックは完全に固定され、台車も滑らかに動いていたが
人一人の重さが加わって大丈夫という保証はない
皆が少なからず不安を感じている中、後ろで大人しくしていたアシュが口を開いた

「へっ!俺が行くぜっ!」

鼻を親指で1回擦り、へへっと笑っている

「大丈夫だとは思うけど、暴れるんじゃないわよ?」

プララーが心配そうに声をかけるが、大丈夫大丈夫!と台車へと歩を進める
皆が台車までの道を空けた時、アシュはニヤリとして突然走り出す

『いっちばーーーーーーーーんっ!!』

アシュが猛ダッシュをしてその勢いのまま台車へとダイブする
彼を乗せた台車は勢いよくワイヤーを滑って行き、対岸の柱にぶつかり停止する
その勢いで対岸へと落下した彼はゴロゴロと数回転していた

「はぁ・・・言わんこっちゃないわねぇ」

プララーが呆れるような仕草で大きなため息を洩らし
隣のバテンがやれやれと頭を掻く

「ドラスリアの騎士にこんなのがいるだなんて・・・恥ですわ」

ミラは顔に手を当て頭を軽く振る

対岸のアシュが起き上がると職人風の男にこっぴどく叱られ、正座させられていた
その姿を見たプララーが大笑いしたのは言うまでもない

「と、とりあえず大丈夫そうじゃないかい、次はあたしが行こうかね」

対岸の台車が職人風の男に押され、こちら側まで滑って来る
イエルが次に乗り、マルロ、ミラ、リリム、プララー、バテンと続き
最後にエインが乗り、スカーに切断されたロングソードで柱を押して対岸まで到着する

「助かりました」

「いいって事よ!あんたらのおかげでやっと橋の復旧が進みそうだ!」

「この裂け目は最近できたのですか?」

エインの何気ない問いに男の表情は一気に曇り
男は近場にあった木箱に座り語りだす

「あぁ・・・あれは10日くらい前だったかな・・・・
 実はな、この橋はたった3メートルほどのものだったんだ
 以前からここには裂け目があってな
 幅3~4メートル、全長も50メートル程度しかなかった
 それが今じゃこの有様だ・・・あの地震が起きてからな」

10日前の地震、スカーのいた森の中であった大地震の事だろう

「ありゃあ地獄だった、大地が裂け、大勢が落ちていった
 ・・・・・この辺りだけで何百死んだか分からんぞ」

男の目が潤み、僅かにながら鼻声になっていく

「そういや、地震が起きる少し前に東の方で巨大な竜巻を見たって奴がいたな」

「竜巻?ですか」

「あぁ、関係あるかはわからねぇが
 眉唾な噂じゃ、その竜巻の中心に白い人影を見たとか何とか・・・うさんくせぇがな」

がっはっは、と笑ってはいるが空元気といった雰囲気だった

「ったく、異常気象ってやつなのかねぇ
 こちとら修理の仕事が増えるから悪くはねぇがな
 人が死ぬのは勘弁だ、仕事が減っちまう」

よっ、と立ち上がった男は尻をバンバンと簡単に払い
エイン達に向けて頭を下げる

「改めて礼を言う、本当に助かった」

「いえ、こちらこそ助かりました」

「あんたらヒッタイトに行くんだろ?案内するぜっ」

「ヒッタイト?」

「あ?違うのか?じゃあメンフィスか?」

「いえ、この辺りの地理には疎くて・・・」

「そういう事か!ならヒッタイトに来い!
 本来なら水はねぇが、今ならなんと伝説の水の巫女様がいるんだよ!」

飲み放題だぜ、と男は歯を見せ笑う

「マナさんが・・・行ってみますか?」

リリムがエインに聞くと彼は頷いた

「それではヒッタイトまでの案内をお願いします」

「おうっ!着いてきなっ!」




こうして一行は水の巫女マナ・マクリールのいるヒッタイトへと向かうのだった
道中のマルロは沈んだ表情のままで、時々立ち止まっては東を眺めていた・・・



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