2017_01
09
(Mon)14:46

4章 第6話

オリジナル小説 『カタクリズム』
4章 第6話 【喧嘩】

いよいよ始まります、ガチ喧嘩!
書いてて楽しかったので、楽しんでくれたら嬉しいでっす。

では、続きを読むからどうぞー。








【喧嘩】






まだ日は高く、空を見上げたジーンは目を細める
手で陽射しを防ぎ、目的の場所を探す・・・それはすぐに見つける事ができた

王宮の側面に出来た大穴から外へと出た二人は
建物の少ない拓けた一角へと歩を進めていた
それを追いかけるようにサラ、シャルル、ラピも続き
メンフィス女王バステト、ナビィ、近衛兵達も続いている
終始無言で歩き続け、先頭を歩いていたジーンの歩みが止まる
それに合わせシルトも立ち止まり、その他の皆も歩を止めた

真夏のような陽射しが燦々と降り注ぐ
炎天の中、二人は向かい合い、睨み合っていた

喧嘩

何とも言えない緊張感が走る・・・この時、ナビィは考えていた
先程のジーンの力を知っていて尚シルトは戦おうとしている
あれに勝算があるとでも言うのか?
見たところただの剣士である彼に勝てる要素があるとは思えなかった
ただ1つを除いては・・・それは常闇の力である

ナビィの知る限り、常闇には常軌を逸した能力が秘められている
女王の外套がまさにそれだ
それに匹敵する能力を持った鎧と盾ならばあるいは・・・

だが、ジーンという女、あれの力はそんな生半可な領域ではない
あの膨大な魔力、それは伝承などに出てくる神や悪魔のそれだった
あんな化物に人が太刀打ち出来るのだろうか?
どうしてもそのイメージが沸かない
しかし、あのシルトという男はあの化物がいるチームのリーダーだ
もしかするとそれ以上の力を持っているのかもしれない

自分はとんでもない化物達を国に招き入れてしまったのではないか
そう考えると一気に恐ろしくなってゆく

「手加減しないよ」

睨み合いを続けていたジーンが口を開いた

「喧嘩だぞ?手加減してどうするよ」

シルトは左手のミスリルブロードソードを握り直し、力を込める
彼の眼光は鋭く、普段の温厚さなど微塵も感じることはできない
それは対峙するジーンもそうだった

「とめなくていいの・・・?」

ラピが恐る恐る聞いてみる
不安そうな彼女を察してか、頭の上のウェールズもしゅんっとしていた

「止めたいけど、私達じゃ止められないと思う」

サラは二人から目を離さないままそう言う

「うん、ジーンもシルさんも普通じゃないから・・・あんな顔見た事ない」

シャルルはシルトが怒った時を思い出していた
幼い頃の私達の悪戯を叱った時
ハーフキャットである事をからかっていた男達を蹴散らした時
他にも数は多くないが何度かあった彼が怒った姿を思い出す
しかし、今のシルトの表情はどれとも違うものだった

「シャルル・・・」

無意識に拳を力強く握り締めていた彼女の手にサラが手を重ねる
二人は目を合わせてから手を繋ぎ、サラはラピにも手を差し出す
三人は手を繋ぎ、二人に視線を戻した

「ジーンさんが本気で怒ってるの初めてかもね」

「あれは怒ってるのかなぁ・・・私にはそんな感じしないよ」

シャルルはジーンが怒っているようには見えていなかった
何と表現したらいいのか迷うが、一言で言うなら"譲れない"そんな感じがしていた

「そうなの?」

「うん」

「どっちが勝つかな?・・・って、あ、ごめ」

ラピがそう発言してから不謹慎だったかと思い慌てて訂正しようとするが

「ジーンじゃないかな」

シャルルが即答する

「あんな魔力に勝てる人間がいるとは思えないよ
 いくらシルさんが強くても流石に勝てないと思う」

そう言われてラピは再びジーンを見る
肉眼でも確認出来るほどの濃密な魔力が彼女から溢れ出ているのがハッキリと解る
確かにそれは人間の勝てる領域にいないと思えるものだった

「私はシルトさんだと思う」

サラの握る手に少し力が入る
自分の師であり、憧れである人が負けると言われて少し腹が立ったのだ

「シルトさんが負けるとこなんて想像できないもん」

それは願いにも似た感情だった
サラにだってジーンの膨大な魔力は嫌と言うほど解る
以前対峙した神にも似たその魔力量に
人間であるシルトが勝てる想像なんて出来ない
だが、それ以上にあのシルトが負けるところなんて想像できない
いや、したくなかったのだ

「どちらが勝つかより、喧嘩が終わったらすぐに治すよ」

「うん」

シャルルとラピは念のため回復の準備をしておく
サラは何も出来ず、見守るだけしか出来ないことに歯を噛み締めていた


息を飲むことすら躊躇してしまいそうな緊張感の中
ついに、二人の喧嘩が始まった


先に動いたのはシルトだった
彼は城壁を解除し、全速力でジーンへと向かって行く
フルプレートであるはずの彼の動きの早さにメンフィスの者達は驚く
あれでは軽装の剣士のようではないか、と

ジーンは両手を広げ、2枚の障壁を広域に展開し
どの方向から攻められても防げるようにするためだ

彼女には12枚の障壁が存在している
正面に6枚、左右に2枚ずつ、後方に2枚
この正面の中から2枚を薄く伸ばすように広げ、正面の広域をカバーしたのだ

障壁の動きに合わせ彼女の足元の砂が僅かに押し退けられ形が変わってゆく
それを見逃さなかったシルトは急速に方向転換を行う
ほぼ直角に右に曲がり、1歩進んでからくるりと左回りに1回転しながら左へと曲がる
まるで風のように素早い動きだった

障壁が見えているかのようなその動きにジーンは一瞬焦る
側面には2枚の障壁しか展開していない
破られるとは思っていないが、念のため障壁の1枚を正面から側面に移動させた

ギィィィィィィッ!!

回転しながらの下段からの斬り上げがジーンの障壁に当たり火花を散らす

「チッ!」

舌打ちをし、即座に剣を引き、突きに切り替える

ギギギギィィッ!

しかし鋭い突きは障壁に阻まれ通る事はなかった
即座に飛び退き、再び距離を取る

シルトの視線がそこら中に動き、隙という隙を探っている
初めてシルトと本気で戦っているジーンは独特な高揚感を覚えていた
見て知ってはいたが実際に戦うのとは全然違うものだ

広域に広げた障壁を完璧にかわし
その内側に入ると同時に遠心力を込めた重い一撃
障壁が無ければあれで即死だっただろう、かわす余裕なんて一切無かった
だが、今の自分にはこの魔法障壁がある
何人も通さないこの壁を破れる者などいない自信があった
先程の二撃を防ぎ、ジーンの自信は確信へと変わっていた

「汚ねぇな、それ」

思わず愚痴がこぼれてしまう
だが、シルトは確認が取れたので安堵していた
自分の剣であの障壁を破る事は出来ない、それが知りたかったのだ

「でしょ?シルさんじゃ私には勝てないよ」

ジーンの余裕すらある声が届く
その声に若干イラつくが、シルトもニヤけながら返す

「それなら殺す気で行っても平気そうだな」

真顔に戻った彼の空気が一変する
"殺気"の塊とも思えるその視線に流石のジーンも手が汗ばむ
あれで本気じゃなかったんだ・・・実際に経験してみないと判らないものね
こんなのとやり合えたオェングスさんは凄いな、とそんな事を考えていた

・・・・・

・・・



「・・・あの男は何者なのですか」

バステトが近衛兵達に聞くが答えられる者などいるはずもなかった

「彼等のチームのリーダーと聞いております」

ナビィは知る限りの情報で答える

「傭兵団なのですか?」

「はい、冒険者と名乗っておりましたが似たようなものかと思います」

ある程度は報告で聞いてはいた
彼等が聖域であるラルアースから来た事
アムリタの内乱で活躍したという事
そして、常闇の鎧と盾を所有しているという事

「近衛隊長ナビィ、貴女で勝てますか?」

この国で最強なのは近衛隊長ラスール・ナビィなのだ
彼女で勝てないのであれば、この国に彼等に勝てる者などいないだろう

「いえ、ジーンなる者には歯が立ちません
 先程の剣捌きや動きを見る限り、シルト殿にも勝てるとは思えません」

「そうですか・・・」

なんとなく予想はしていたが、こうもハッキリと言われると落胆は隠せなかった
そこでバステトの視界に3人の女の子達が映る

「あの者達も同じくらい強いのですか?」

「青髪の半亜人と白髪の幼子は解りませんが、ピンク髪の半亜人だけは解ります」

ナビィは旅の道中を思い出す
それは日課のように毎晩繰り返されていた事である
サラは鍛錬ため素振りをし、最後にシルトと剣を合わせていた
二人の稽古はレベルが高く、手合わせとは思えないほどだった
だが、サラはこれでも軽い稽古だと汗一つ流さず言っていたのを覚えている

「おそらく私と互角か、それ以上かと思われます」

「なるほど・・・チームですものね、全員強いのでしょう」

バステトは認めたくない事実を口に出して自分を納得させる
敵対した場合、常闇を取り返す事は不可能に近いでしょう
ここは是が非でもジーン殿に勝っていただくしか無さそうですね・・・

「ナビィ、耳を貸しなさい」

「はっ!」

・・・・・

・・・



シルトは再び剣を握り直し、右手の盾を持つ手にも力を込める
チャンスは1度だ、それ以外に勝てる方法は無いだろう
なんとしてでも彼女達を止めないといけない
戦争なんて行ったら、いつ命を落としてもおかしくないのだから・・・
それだけは許せない、あの子達を失う事だけは許せない


    例えジーンさんを傷つけてでも


ジーンはゾクッと背筋に悪寒を感じる
シルトの空気が更に重いものへと変わったせいだ
その時、彼女の中から声が響く

・・面白い人間だ

・・シルさんが?

・・あぁ、まるで奴のようだ

・・奴?誰のこと?

・・なに、昔の話だ、ちょうどあんな人間がいてな
 我ら悪魔も手を焼いたものだ

・・へぇ

・・くくっ、あの鎧と盾、それにあの人間、面白くなりそうだ

何やら一人で納得しているアスタロトは放っておき
ジーンはシルトとの戦いに集中する
それと同時にシルトが動き出していた

さっきより早い!
広域障壁を左右に展開し、前方の幅10メートル近くを覆う
仮にこれが破られても正面にはまだ4枚ある
更に、メンフィス兵を倒した時と同じように左右の1枚ずつを両手に移動し
攻撃の準備もしている、これで一気に決めるつもりなのだ

重心が低く、前へ行く事しか考えていないような全力疾走だ
この広域障壁があれば少なくとも勢いを殺す事は出来る
後はこの拳を叩き込めばいい、それで気を失わせれば勝ちだ

全力で一直線に走るシルトは剣を前に突き出すように構える
中央突破、それしか考えていなかった
砂という足場に少し足を取られるが、走れないほどじゃない
いや、不思議とこの砂は動きやすいとも言える
まるで常闇の鎧が地面を硬くしているようなそんな感覚すらある

いける!

シルトは全力を込めた突きを放つ
それは2枚の広域障壁の接点を的確に突き刺した

ビシッ!!

2枚の広域障壁にヒビが入る
ミスリルブロードソードは広域障壁に30センチほど突き刺さり
ジーンの正面にある障壁にぶつかり、止まっていた

ギギギッ

今だ!

ジーンは瞬時に距離を詰め、それに押されるようにシルトの剣が押し戻される
広域障壁が左右に開き、ジーンは右の拳を振りかぶった
だが、既にシルトは常闇の盾を構えて待っていた

「ッ!!」

まずい、そう思った刹那、ジーンの身体は後方へと吹き飛ばされる
15メートルほど吹き飛ばされたジーンは後方の障壁により無傷で停止した

常闇の盾の反射か、シルさんもう完全に使いこなしてるんだ
油断した、シルトという人物を舐めていた

・・・・・

・・・



『何が起こった!』

近衛兵の1人がそう叫ぶ
それもそうだ、彼女達からしてみれば何が起きたなど解るはずもない
あのバケモノの一撃をまるで跳ね返したかのような光景に目を疑っていた

「あれが・・・常闇の力・・・・」

バステトの手は震えていた
彼は本当に戦争を終わらせる力を持っているかもしれない
欲しい!彼が欲しい!心底そう思うのだった

「ナビィ!」

「はっ!」

バステトが合図をし、ナビィが円月輪(チャクラム)を構える

「万物を焼き尽くす炎よ」

彼女がそう唱えると両手にある円月輪が発火する

「はぁっ!」

それをシルト目掛けて放つ
シュンシュンと空気を切る音が鳴り響く
燃え盛る円月輪が弧を描きながらシルトの手と足へと迫っていた

・・・・・

・・・



後方へ吹き飛んだジーンを追うようにシルトも駆け出していた
狙い通り止まったところにジーンは攻撃を入れてきた
後はこのまま押し切れば・・・・っ!

キィンッ! キィンッ!

円月輪の気配を察知したシルトは常闇の盾で叩き落す

『邪魔をするなぁっ!!』

『邪魔をするなっ!!』

シルトとジーンが同時に叫び、その声が響き渡る
二人の気迫に思わずナビィは2歩後ずさる

シルトは円月輪を弾いても尚止まる事を知らず
勢いは落ちぬままジーンとの距離を詰める

ジーンは着地した衝撃で舞い上がっていた砂埃が落ち着いた頃
シルトが円月輪を弾いており思わず叫んでいた
そして、投げた本人であるナビィを一瞬睨んでいた
だが、それは失敗だった

ガッ!ギィィィィッ!!

既にシルトは目の前におり、上段からの振り下ろしを放っていた
反応が遅れたジーンは前方の障壁を操作する

そこからシルトの猛攻が始まった

ありとあらゆる方向からの目にも留まらぬ連撃
その1つ1つが初撃の斬り上げよりも重いもので
破られるとは思えないが障壁を操作し、防御せずにはいられなかった

こんなのどうやって防いでたの、あのオェングスって人は!

そんな愚痴を心の中で吐き出し
必死に剣撃を目で追っていると、一瞬彼の剣が姿を消す
盾だ、常闇の盾で視界を遮られたのだ
そして、盾の上部から滑り込ませるように鋭い突きが現れる

間に合わないっ!

ギィィィィィィィッ!!

完全に反応が遅れていた
操作していた障壁は間に合わず、オートで張っている2枚に突きはぶつかる
だが、彼の突きでは特に分厚いその2枚にはヒビすら入れる事は出来なかった

ジーンは悔しかった、自分の操作、技量では追いつけなかった事が
そして、彼女は条件反射で力を込める

『はぁっ!!』

それは魔力の篭った攻撃、魔力の波動とも言えるものだった
咄嗟に盾でガードしたシルトは勢いよく後方へと吹き飛ばされる

「ぐっ!」

サタナキアの波動を受けた時のような痛みが全身を襲う
だが、彼は空中で身体をひねり、受身を取って着地した
吹き飛んだ距離は15メートル近くにもなっていた

「・・・ごふっ」

ジーンが大量の血を吐き出し、膝をつく
シルトは全身が悲鳴を上げるが立ち上がろうと剣を杖のようにしている
だが、この好機を逃すまいとジーンは障壁を操作する
両手を後方に構え、その両手の障壁を放つ

ボゥンッ!

地面が巨大な両手の形にへこみ、砂埃が舞い上がる
彼女はその勢いを利用し、シルトとの15メートルの距離を一気に詰めた
そして、拳を振りかぶる

『あー!参った!参った!僕の負けだよ!』

シルトが尻餅をつき、その場に座り込む
だが、ジーンは止まる事は出来ず、その右の拳はシルトの左頬をかすめる
それと同時にシルトの後方で砂が炸裂し、砂埃が舞い上がる

「げほげほっ・・・ちょ、負けたって言ってんじゃん」

「げほっ・・・ごめ・・・げほげほっ」

徐々に砂埃が晴れ、二人が向かい合って座っている姿が目に入る
砂まみれの二人が微笑み合い、涙目で笑っていた

・・・・・

・・・



喧嘩を終えた二人をシャルルとラピが治療しながら怒っている

「だいたいシルさんが悪いんだよ!なんで皆の気持ち考えないの!?」

「ごめんごめん」

「ってか、ジーンもやりすぎなんだよ!バッカじゃないの!」

「ごめんね」

そう言いながらも治療を続けているシャルルに感謝しながら
仲間想いの彼女の小言を二人は聞いていた

「それはそうと、ジーンさん」

急にシルトが真顔になり、シャルルの小言も止まる

「うん?」

「行くからには絶対みんなを守ってよ、誰か死んだら僕は許さないから」

「任せて」

「信じるよ」

ジーンが珍しく親指を立ててニッと微笑む
だが、彼女のダメージはシルトのものより酷く、治療に時間が掛かっていた

「みんなも生存優先だからね?約束してよ?」

「うん」

「ほーい!」

「わかってるって!」

先程までの緊張感など何処へやらといった雰囲気が流れていた
その空気にシルトの残っていた怒りも治まってゆく
代わりに彼は決意する、この子達を必ず守ろう、と

「ってか、喉渇いてしょうがないよ、そこの井戸から水持ってきて」

シルトが軋む身体をひねって井戸を指差す
サラが急いで井戸に駆け寄り、桶に入っていた水を丸ごと持って来る

「はい、シルトさん」

「さんきゅー」

「あ、私も欲しい、喉渇いちゃった」

シルトが桶のままぐびぐびと飲み始め
ぷはぁ~っと大きく息を吐き出して、それをジーンへと手渡す

「ぬるいけど生き返るわ~」

「ありがと、ホントぬるいね」

ジーンも喉が潤い、一息つけたようだ
そして、ハーフブリードが談笑を始めた頃
バステト率いるメンフィスの者達が近づいてくる
その中にいるナビィにシルトとジーンは鋭い視線を向けていた

「先程は申し訳ありませんでした」

ナビィが深く頭を下げる

「何してくれてんの?」

「アナタ達は死にたいの?」

シルトとジーンは怒りを隠しもせず言う
すると、バステトが両膝をついて額を地面へとつける

「ワタクシの命令によるものです、罰するなら私を」

シルトとジーンは目を合わせ、困ったように頬を掻き
しょうがない、といった感じでため息をつく

「解りました、もう頭上げてください
 さっきも言いましたけど王のする事じゃないっすよ」

「有難う御座います」

バステトは表を上げるが立ち上がる気はないようだった
そんな彼女にジーンが口を開く

「バステト様、条件は覚えてますよね?」

「はい、参戦して頂き、戦争を終わらせていただければシルト殿の常闇は諦めます」

「違うでしょ?」

「はい?」

ジーンの言葉の意味が解らず首を傾げる

「私は"常闇は私達の物"そう言いましたよね?」

「はい、ですから・・・」

「バステト様、アナタの"それ"も常闇じゃないのかしら」

ジーンは満面の笑みで言う
その笑顔が邪悪なものに感じられるのはハーフブリードだけだろう

「ジーン、それはずるい」

「流石ジーンさん、えぐいね」

「うん、ひどい気がする」

「ジーンさん頭いいなー!」

彼女の言う意味を理解したバステトは慌てて配下達に目を向けるが
彼女達は目を合わせようとしなかった
ハメられた!そう思った時には既に遅かったのだ

「わ、ワタクシも王です、二言はあ、ありませんっ!」

完全に引き攣った笑顔になっているバステトを前に
ジーンがパチンッと指を鳴らし喜ぶ
ずーんと沈むバステトと対照的なジーンの絵が面白く
ハーフブリード達は笑っていた

・・・・・

・・・



翌日にはオアシスへと旅立つ事となり
その日の夜は王宮の客間へと案内された

「ふかふかのベッドだ~♪」

ラピがベッドの上でぽよんぽよんと跳ねている
それに釣られるようにシャルルも飛び跳ね
サラも控えめではあるがぽよんぽよんと弾んで遊んでいた

「シルトさん大丈夫かな?」

「大丈夫じゃないかな、あれは魔法じゃ治せないしな~」

「なんでジーンさんは平気なんだろう?」

「私は悪魔だし?」

「なるほどなー」

皆で噂していると部屋の扉が開く
そこに立っていたのは腹部を押さえ、ゲッソリとしたシルトだった

「シルトさん大丈夫?」

「ダメかもしれん・・・」

「まさか水にあたるとはね、あれだけ強くても下痢に勝てないとか、ぷっ」

シャルルが笑いを堪えるのに必死だ
ラピは完全に笑っている
その横でジーンの肩も震えていた

「マジしんどいんですけど、これ・・・うっ」

「大丈夫?お薬飲んで」

サラは荷物袋から胃薬を出し、一度沸騰させた水を手渡す

「ありがと・・・」

ごくごくっと喉を鳴らして流し込む
すると、シルトは再び腹痛に襲われた

「ぬおっ!行ってくるっ!」

フラフラとお手洗いへと戻って行く

「大変そうだなー」

「だね、ちょっと可哀相かも」

「シャルル、どうにか出来ないの?」

「生の魔法じゃどうしようもないの、ごめんねサラ」

シャルルの耳と尻尾がしょぼんと垂れ下がり、サラは頭を横に振る

水あたり、こういった病気などは極小のウィルスが原因なものが主だ
いくら生の魔法が肉体を治療できても
原因がどこにあるか判らないものはどうしようもない
仮に位置が特定できたとしても、そんな小さなものに的確に魔力を送る事は困難なのだ
そのため、基本的に病気の類は魔法では治せないのである

ガチャ・・・

「・・・ただいま」

「おかえりー」

「大丈夫ー?」

「シルトさん、ここ座って」

サラがシルトに肩を貸し、彼のベッドへと案内する
本当ならシルトだけ別室の予定だったのだが
今の彼は水あたりで弱っているので看病ついでに同室にしたのである

「シルさん無理するなー」

「うんうん、寝てなー」

「明日行ける?大丈夫?」

「サラは心配しすぎ、大丈夫だよ」

と、シルトは精一杯の笑顔を作るが、腹痛と嘔吐感で維持できない



その日はすぐに寝ることとなるが
シルトは夜中に何度も起き、お手洗いとベッドを行き来していた
翌朝、まだ本調子ではないが出立する事となった

「くっそ・・・気合入れないとな」

ギュルルルッ

「ぬおっ」

シルトが大急ぎで砂丘の向こう側へと走ってゆく
その後姿を見ながら皆が大丈夫なのかな・・・と心配していた

道中でジーンはナビィに魔法のいろはを教えていた
シャルルやラピも魔法兵達に教えて回っている
これは先日のナビィの魔法を見たジーンが言い出した事である

彼女達、新世界の住民はこの世界に六神がいることは知っている
だが、その存在を間違えて認識しているのだ
例えば火の神の事を炎の神といった感じで、である
たったそれだけの違いだが、これは魔法にとっては大差なのだ
魔法とは信仰心と知識により使える種類や威力が決まってゆく
使える回数や上位魔法を使うには魔力量が関係するのだ
基本すら知らなかった彼女等に正しい使い方を教えるだけで
ナビィ達の魔法の威力は3倍近くに跳ね上がった

特にナビィの才は大したもので
基本が出来ていたのもあるが、たった数時間で上級10章の火の魔法を発動した
これは彼女がこの新世界では魔力量が多い事もあるが
何よりも異常なまでに信仰心が強いおかげでもあった

・・・・・

・・・



昼過ぎには目的地であるオアシスへと到着する
メンフィス軍は約2万、その大半がただの農民である
12匹いるヒッポグリフ部隊が主力となっていた
ヒッポグリフにはナビィの一族が乗っており、魔法に特化した部隊だ
この主力部隊がヒッタイトを幾度も退けてきたメンフィスの切り札である

そして、日が暮れる前にはヒッタイト軍の姿が見えてくる

「おいおい、めちゃめちゃいるじゃん」




その数およそ5万



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