2017_01
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(Tue)16:52

4章 第8話

オリジナル小説 『カタクリズム』
4章 第8話 【大人しく見ていろ】

いよいよ開戦ですね!熱い展開にしていきたいなー。



続きを読むからどうぞー。





【大人しく見ていろ】





シルトとの話し合いを終えたエインはヒッタイト陣営に戻る
皆に交渉は決裂したことを伝え、最初の段取り通り戦闘準備に入った
浮かない表情のマルロには悪いがこれは戦争だ、甘いことばかりは言っていられない

「マルロ様、お願いします」

エインが彼女の背を押すようにその一言を言う

ヒッタイトにとって最大の脅威となり得るのはヒッポグリフ部隊だ
たった12匹しかいない魔獣だが、その12匹が脅威なのだ
この国は上空を翔けるあの魔獣を落とすほどの遠距離攻撃を有していないためである

初級程度の魔法を使える者はいるが、上空のヒッポグリフに命中させる事は難しい
更に、致命的なダメージを負わせるほどの威力を出せないのだ
そのため弓での攻撃が主となる、だが矢は上へ向けて撃つと威力が大幅に落ちる
ただでさえ硬いヒッポグリフの皮膚を貫くほどの威力は出せないでいた

一方、ヒッポグリフ隊はその全員が魔法使いで構成されている
彼女等は火の魔法使いだ、しかし初級魔法程度しか使えないため
いくら上空から撃ち放題とは言え殺傷能力はそれほど高くはない
では、何故ヒッポグリフ隊が脅威となり得るのか

それは足りない火力を"火薬"と"油"で補っているからである

油をたっぷり入れた壷を上空で爆破し火の雨を降らせたり
火薬の詰まった炸裂玉に着火して投下したり
魔法の低火力をそれらで補い、絶対的な制空権を利用した絨毯爆撃を行っているのだ
対処法の無いヒッタイトにとってこれほどの脅威はない
いくら数で勝ろうとも、このヒッポグリフをどうにかしなくては勝利は有り得ないのだ

そこで巫女の出番である
強力な魔法による遠距離攻撃でヒッポグリフを一気に殲滅しようという作戦だ
そして、それは開戦直後、ヒッポグリフが飛び立つ前が一番の狙い目である
同時にメンフィス軍も巻き込み、一石二鳥の作戦なのだ

その役目を担ったのがマルロとイエルである

死の巫女リリムの究極魔法では味方も巻き込むため彼女は除外されている
二人の巫女による広範囲魔法攻撃により出鼻を挫き
メンフィスの戦意を喪失させ、降伏させるのが狙いだ
しかし、相手にハーフブリードがいる事が判り、作戦は急遽変更される

「彼等がただ受けるとは思えません
 特にジーン・ヴァルターは様々な精霊を呼び出し、妨害してくるでしょう」

「それではどうするのかしら?」

「"究極融合魔法"・・・あれならば防ぎようはないと思います」

エインはアムリタで見た巨大な隕石を思い出す
人類の域にない破壊の力が無慈悲に壁や街をなぎ払うあの光景を・・・

「マルロ、またあれをやれるのかい」

イエルが彼女を心配そうに見つめながら言うと
まだ幼い少女は小さく、しかし力強く頷いた

「我等はどうすればよい」

バテンが背負う大剣に手をかけながら言う

「団長達はサラ・ヘレネスをお願いします
 彼女のスピードと剣技は脅威です、突破口を開かれる訳にはいきませんから
 シルト殿は自分が・・・俺がやります」

「了解した、任せてもらおう」

「あの嬢ちゃんが俺らの相手か・・・まぁ悪くねぇ」

アシュが記憶にあるサラの動きを思い出しながら槍を振るっている
その隣で槍を邪魔そうに見ながらプララーは言った

「あまり舐めてると痛い目みるわよん、アシュちゃん」

「んなことは判ってる、嫌ってほどにな」

普段の猪突猛進な雰囲気は無く、とても冷静な声にプララーは少し驚くが
彼が少しは成長したのだと微笑ましく思い、思わず笑みがこぼれていた
すると、それを見たアシュが眉間にシワを寄せる

「んだよ、気持ち悪ぃな」

「なんでもないわよ、頑張りなさいな」

プララーはまるで母親のような温かい声で言う

「言われるまでもねぇっ!」

その声にアシュはニカッと歯を見せ親指を立てた

「よし、行くぞ」

バテンは背中の大剣を抜き、引きずるながら歩き始めた
温厚を絵に描いたような彼の表情は見る見る内に変わり
例えるならば、野生の獣のような鋭さに変貌していた

・・・・・

・・・



上空に出現したファゴ・メティオールが空気を振動させながら突き進む
それを見たヒッタイトとメンフィスの人々は恐怖していた

「あれが人のなせるワザなのか?」

「巫女ってのはマジだったんだな・・・」

「神よ・・・」

「いける!いけるぞ!勝利は我等ヒッタイトに!!」

「じょ、冗談じゃない・・・逃げろっ!逃げろおおおおっ!!」

ヒッタイト側からは歓声が上がり、メンフィス側からは悲鳴が上がる
戦場は一気に熱を帯び、戦争が始まったのだと皆に実感させた


燃え盛る隕石が近づくにつれ、その大きさに膝が笑い始める

「巫女っていうのは本当にふざけてるわね・・・」

ジーンのそんな愚痴は余裕の無さから洩れていた
隕石の落下地点を計算し、ジーンは2枚の魔法障壁を後方に放ち
その衝撃を利用して一気に移動してゆく
高速移動で激しい衝撃が身体を襲うが、急がなくては間に合わない

彼女が後方に障壁を放つ度、爆発でも起こったかのような砂煙が上がり
刹那、彼女の身体は砂煙から現れ、高速で移動してゆく
その光景を見たメンフィスの者達は"あの化物"が何かをする気だ、と
この絶望的状況の中でも尚、淡い希望を抱く

『ヒッポグリフ隊は直ちに飛び立て!急げっ!!』

火薬などの準備をしていたナビィ率いるヒッポグリフ隊は大急ぎで魔獣に跨る

『バステト様!御乗り下さいっ!早く!!』

「は、はいっ!」

ナビィがバステトの手を取り、半ば無理矢理引き上げる
すぐに飛び立とうとする、だがヒッポグリフ達が言うことを聞いてはくれなかった
これは恐怖からだ、以前ウェールズに怯えた時と同様に
ヒッポグリフは"本能"で巫女の力に恐怖してしまったのだ
しかし、すぐに別の本能が働き始める・・・それは"生存本能"である
まだ兵が騎乗していなかったヒッポグリフまでも飛び立ち
12体の魔獣が空へと上り始める頃、巨大な隕石は目の前へと迫っていた

魔法障壁による衝撃を利用した移動を繰り返したジーンは
400メートルという距離を僅か8秒足らずで移動していた
時速にしておおよそ200キロという速度で移動してきた事になる

「これきっついわね・・・」

砂を巻き上げながら滑るように止まり、そんな愚痴をこぼして
彼女は両手を広げるように構える
舞い上がった砂埃が何かに押されるように形を変え
魔法障壁がそこにあるのが見て取れた

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

隕石が大地に近づくと激しい振動と音と熱が身体を震わせる
ジーンは障壁を動かし、背後に2枚、前方に広範囲のを2枚
残りに8枚は4枚ずつ両手に回し、彼女の紅い両目が怪しく輝く
その両目はまるで嵐のようになり始めたこの戦場で一際目立っていた

『来いっ!』

ジーンが自身に気合を入れるように声を発し
ついに彼女の魔法障壁に隕石が触れる

ギギギギギィ・・・・パリンッ!

「くっ・・」

パリンッ!

範囲を広げた2枚の障壁は難なく破壊され、分厚い8枚の障壁で受け止める

ピシッ・・・・・

1枚目にヒビが入る
瞬間ジーンの身体が後方へと押され吹き飛ばされそうになる
それを背後の2枚の障壁で止め、彼女の身体はミシミシと悲鳴を上げ始めた

「くっ・・・うっ・・!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオォ!

ギギギギギギギ・・・ピシッ・・・

2枚目にヒビが入る
彼女の足元の砂は吹き飛ばされて行き、徐々にクレーターが形成されてゆく

「ん~~~~~~っ!!」

想像以上の圧力が彼女の両手に、両足に、全身に襲い掛かってきていた
だが、唐突に右腕にかかる圧力がふわっと消える

「え?」

グシャッ・・・

ジーンの右腕が肘から真逆を向き、剥き出しとなった骨が視界に入る
血が噴出すがこの暴風の中では後方へと流されて行く

本来は魔法障壁とは本体にダメージの通らない防御だが
今のジーンはその障壁で隕石を押し返そうと力を込めている
そのため、その圧力に肉体が耐え切れず崩壊したのだ

「あ、ああっ・・・くぁっ!」

少し遅れて激痛が襲い、意識が飛びそうになる

『ア、アスタロトッ!何とかしろーーーーーっ!!』

彼女は心の中で言えばいい事を口に出す
そんな判断すら出来ないほど余裕が無いのだ

・・やれやれ、騒がしい女だ

悪魔の声が頭の中に響き、その瞬間彼女の腕は逆再生するように一瞬で元に戻る

・・しばらく手伝ってやろう、お前が死なれても困るからな

ジーンが再び両手で隕石を支える
4枚ずつ重ねられた左右の障壁の最前にある1枚ずつが割れ
一瞬ふわっと圧力が消え、瞬時に激しい衝撃が身体を襲う

ズンッ!

その瞬間、両腕があらぬ方向に曲がるが一瞬で腕は元に戻る
だが痛みは一瞬でもジーンを襲う、そのため彼女の表情は酷い有様だ

・・・・・

・・・



数十メートル先に隕石が迫った状態でメンフィスの者達は棒立ちになっていた
もはや動ける者など居なかった、それは諦めたからではない
その巨大な隕石を一人で支え、止めている者から目が離せないからだ

「ば、化物・・・」

「腕が・・どうなっているんだ、あれは」

誰に言ったわけでもない彼等の呟きが暴風の音で掻き消える
隕石の接近による暴風はその場から400メートルほど離れた位置にいる
ハーフブリード達にも届いていた

「っ・・・だ、大丈夫なのか、あれ」

砂が舞い上がり、まともに目を開けていられないが
仲間であるジーンが頑張っている姿を見ようと必死に目を開けていた

『ジーン!頑張れっ!!』

シャルルの大声が響き、それにサラとラピも続く

『『頑張れーーーっ!!』』

『押し負けたら只じゃおかないぞーーーーーっ!』

シャルルのそんな無茶苦茶な言葉は彼女には届いていないが
その想いが届いたかのように隕石がほんの僅かにだが浮き上がる

『『『『いっけーーーーーーーーっ!!』』』』

・・・・・

・・・



ジーンの両腕は何度も砕け、その度にアスタロトにより再生される
一瞬とは言え激痛が走り、瞬時にそれは消える
そんな繰り返しを何度かした頃、ジーンは心の中で悪魔に声をかける

・・アスタロト、このままじゃ私が持たない

・・ふむ、確かにこの威力は我の予想を遥かに超える
 では作戦を変えよう・・・少々癪に障るが、弾いて捨ててしまえ

・・弾く・・・無理だよ、これ以上は腕が上がらない

・・それでも我の器か?・・・やむを得ん、我と代われ

・・ちゃんと返してね、私の身体

・・解っている、そこで大人しく見ていろ

ジーンの紅い瞳が閉じられ、ふぅーっと大きく息を吐き出す
その瞬間、彼女を中心に全方位に激しい衝撃波が発生する
開かれた瞳は更に紅く紅く輝き、髪の一部が白く変色してゆく

≪肉体・・・くっくっく、久しい感覚だな≫

ジーンの声が周囲数百メートルにいる者達の脳内に響く
その声はジーンであるがジーンでない者の声、悪魔王アスタロトの声である

≪さて、小煩いコレをどうにかするか
 しかし、魔力を使わずとはなかなかに厄介だな≫

ジーン障壁1

アスタロトが両手の障壁を動かす
残る両手の障壁の6枚の内2枚で隕石を支え
4枚を後方へと下げる・・・それは2メートル置きに展開された
この時、ジーンはアスタロトは何をする気だろう?と魔力の瞳で眺めていた

一番後ろに配置された障壁が物凄い速度で前にある障壁にぶち当たり
押された障壁が更に前にある隕石を支えている障壁へとぶち当たる
そして、隕石はグッと持ち上がり始めた
再び4枚の障壁を後方へと下げ、玉突きのように障壁同士をぶつける
それが繰り返される度に隕石は徐々に持ち上がり
その勢いは弱まってきたように見えた

・・すごい・・・そんな使い方があるのね

・・まだまだ、この程度ではないぞ

アスタロトが指をくいっと動かすと、後方の4枚の障壁が変形してゆく
それはまるで杭のような形だった
4枚の障壁は1本の巨大な杭となり、アスタロトが右手を引いて構える
ぐっと拳を強く握り、ニタリと邪悪な笑みをした瞬間
隕石を支えていた2枚の障壁を左右へと動かし
開いた瞬間に右の拳を前へと突き出した

ドゴッ!!

拳の動きに連動するように巨大な杭は隕石に突き刺さる
その瞬間、左右にどかした隕石を支えていた2枚の障壁を杭へと叩きつける

ゴッ!

杭が深く突き刺さり、アスタロトはニヤリとする
再び指をくいっと動かし、叩きつけていた2枚の障壁の形を変える
まるで巨大な槌のようになったそれを両手で持ち、大きく振りかぶる

≪いくぞ≫

ゴーーーーーンッ!

勢いよく杭を叩くとジーンの両腕はへし折れ、槌の障壁は砕け散る
だがその一撃は隕石の軌道を大きく変える事となった
アスタロトにより叩かれた隕石は二つに割れ、左右に分かれてゆく
折れた腕を即座に再生し、再び障壁を操作し始める

≪ほらよ、返すぞ≫

杭だった障壁は姿を変え、2つの巨大な円柱となる
それを割れた2つの隕石へと激しく叩きつけた
同時にジーンの意識は肉体へと戻り、彼女は反射的に空を見上げる
障壁がぶつかり、隕石の側面が大きくへこみ
2つの隕石はゆっくり回転しながらヒッタイト側へと向かっていた

「・・・ははっ・・・跳ね返しちゃった」

ジーンが呆れたように呟く
今の彼女にはあそこまでの魔法障壁操作は出来ない
だが、アスタロトは初めて使った身体で難なくそれをしてしまった
自身の可能性を見たようで、ジーンは胸が高鳴っていた



割れた隕石は弧を描くように飛んで行き
ヒッタイト軍の手前で落下する・・・が、その勢いは止まらず
何度も跳ねながら転がって行った
そして、ヒッタイトの傭兵を1600人ほど巻き込む結果となった

燃え盛る巨石は止まっても尚燃えている
そして、戦場にしばしの静寂が訪れた・・・・

『お・・・おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

メンフィス側から歓声が上がる
まるで勝利でもしたかのような大歓声だ

『好機!ヒッポグリフ隊、私に続けっ!!』

中空に陣取っていたナビィが円月輪(チャクラム)を掲げ叫ぶ
ナビィの後に9体のヒッポグリフが続き、上昇してゆく
残り2体のヒッポグリフは先程逃げ出してしまっており
まだ戻ってきていない状態だった

「バステト様、しっかり掴まっていて下さい」

「はい、頼みます、ナビィ」

ヒッポグリフ隊がヒッタイト軍上空に移動する
矢の届くかどうかのギリギリの高度を維持し
各々が油がなみなみと入った壷を投下し始める

『彼等の教えを忘れるなっ!我等には火の神がついている!』

「「おおおおおっ!!」」

『放てっ!』

ナビィの合図で一斉に呪文を詠唱する
それは今までは初級の火の魔法だったものだ
だが、今の彼女達の魔法はラルアースと同等のモノである
元々才能のある者だけが集められたヒッポグリフ隊の面々は
この短期間で一気に魔法の威力を跳ね上げていったのだ
そんな彼女達から放たれる魔法は既に中級以上には達していた

火の雨が降る・・・今までの比ではない量の雨が降り注ぐ

中空で壷に当たり、炸裂し、引火した油は飛散する
それはヒッタイト軍の広範囲に降り注ぎ、戦場は一瞬で火の海と化した

『うわああああああ!』

そこら中から悲鳴が聞こえ、火だるまになった者は砂の上を転げ回る
たった10名のヒッポグリフ隊の攻撃は僅か1撃で400人以上の命を奪った

『炸裂用意!』

ナビィの合図で皆が火薬が詰まった炸裂玉を構える

『放てっ!』

魔法で小さな火を起こし、導火線に火をつけ3秒ほど待ってから下へと落とす
炸裂玉から伸びる導火線が勢いよく燃えてゆき
丁度地上に落ちる少し手前で玉の中へと火は入ってゆく
そして・・・・

ズドォォォンッ!!

爆音が鳴り響き、炸裂玉が弾け飛ぶ
中には直径3ミリ程度の極小の鉄の玉が詰められており
炸裂と同時に広範囲に爆散する
この1撃での犠牲者は1000を優に超えた
これがメンフィスが誇るヒッポグリフ隊の力である

前線は一気に混乱に陥り、ヒッタイト軍の陣形は崩れ始めていた・・・

・・・・・

・・・



「ど、どういう事だ!!何故あれほどの魔法が奴等には効かんっ!」

ヒッタイト軍の最奥にいた元老院の1人が声を荒げる
究極融合魔法には度肝を抜かれた
巫女というものを舐めすぎていた、予想を遥かに凌駕する魔法だった
もはや1人で1国を相手出来るのではないかと恐ろしくなったほどだった

しかし、その巫女が2人掛かりで放ったあのとんでもない魔法を
メンフィスの者は2つに割り、跳ね返しおった
冗談じゃない、そんな化物があの国にいるとでも言うのか?
有り得ない、こちらには伝説の巫女がいるんだぞ
それ以上の存在など居てたまるものかっ!

苛立ちと焦りと動揺により元老院の老人は顔を真っ赤にしていた
常軌を逸する事が起きすぎている、情報を処理し切れない
だが、こんな時こそ冷静でなくてはいけない
そう思い、彼は深呼吸をした

「まだ巫女は1人残っておる、それに勇者とやらもいる
 そうだ、まだこちらには切り札がこんなにもあるではないか」

老人は近くの者を呼び伝令を与える

「あのエインとやらに伝えろ、ヒッポグリフを何とかせよ、と」

「はっ!」

「行けっ」

兵は走って行き、それを見送った老人は大きなため息を洩らす

「ったく、使えん奴等じゃ」

・・・・・

・・・



ヒッタイト軍の前線が崩れた事により、メンフィスが進軍を始めた
その流れには逆らえず、ハーフブリードもまた移動を始めていた

「ジーンさん拾ってこ」

「うん、大丈夫だといいけど・・・」

「ジーンなら大丈夫大丈夫、ぱっかーんって隕石割ってたし!」

シャルルが身振り手振りでまるで自分の事のように大喜びしている

「ホントすごいよねー、ジーンさんもいよいよ人間辞めてきたなー」

さりげなくラピが失礼な事を言っているがスルーしておく

しばらく歩くと人だかりを見つける
その中央にはジーンがおり、メンフィス兵達から感謝されていた

「ちょっと通してね」

シルトが人ごみを割り、皆でジーンの元まで行く

「おつかれ」

「ジーンさん大丈夫?」

「よくやったぞー!ジーン!」

「おつかれさまー」

座り込んでいるジーンを囲み、彼女の偉業を労う

「最後は私じゃないんだけどね」

「どゆこと?」

「私じゃあのまま潰されてたと思う、でもアスタロトが助けてくれたの」

彼女は胸に手を当てながら目を瞑る
そして、心の中で感謝の言葉を贈るのだった

「悪魔王さん案外いい人だね?」

サラのそんな一言が妙にツボに入り、皆が笑い出す

「あはは、人ではないだろ」

「確かに、あはは」

だが、そんな中で1人だけ笑っていない者がいた

「ジーン、見せて」

シャルルだ、彼女はジーンの足を見せろと言っている

「うん・・・ちょっと立てないんだ」

彼女の足は変色している箇所が複数あり、数箇所の骨が折れているようだ

「これは治してもらえないの?」

「アスタロトにお願いしたんだけど無視されちゃった」

「そっか・・・ジーンには生の魔法じゃ逆効果だしなぁ・・・」

シャルルが困り、耳をいじっていると
彼女の背後からラピがひょこっと顔を出す

「ディナ・シーの鱗粉はダメだけど魔法ならどうだろう?」

「あれも生の魔法じゃないの?」

「うーん・・・・」

ラピが頭に指をぐりぐりとしながら考え込む

「多分違う・・と思う、多分」

「それじゃお願いしてみようかな、これじゃ困るしね」

「はーい!」

ラピが本を開き、ディナ・シーを召喚し始める
その光景を物珍しそうにメンフィスの者達は見ていた

「おいでませっ!」

光りからディナ・シーが現れ、ラピの頭上をくるくると回る
妖精を初めて見た者達から歓声が上がり、拍手すら起こる
まるで見世物小屋だ

「ディナ・シー、回復魔法使えるよね?」

ラピが聞くと妖精の少女は2回頭を縦に振る

「ジーンさんにかけてあげて」

ディナ・シーが飛ぶとキラキラと鱗粉が舞う
それはジーンの肌に触れると煙を上げた

「痛っ・・・」

ジーンがチクッとした痛みを感じ片目を瞑ると
ラピがディナ・シーに気をつけるように注意する
妖精の彼女はよく判らないようで、首を傾げてから魔法を発動させた
ジーンの身体が淡く光り、煙を上げていた箇所が瞬時に治った

「お?いけそうかも?」

「大丈夫かも、なんで平気なんだろ」

「妖精さんは私達が使う"魔法"とは違うのかもねー」

「鱗粉はダメなのに不思議だね」

ディナ・シーに指示を出し、足を重点的に治療する

「じゃ、ジーンさんはラピに任せるよ
 治療が終わり次第、ラピはディナ・シーで範囲強化お願い」

「いいよー」

ラピがディナ・シーに魔力を送りながら返事をする
最後にシルトはジーンの目を見て言う

「ジーンさん、約束まだ終わってないからね
 治ったらすぐに来て、まだその力が必要だから」

「うん、リリムさんだよね」

「そ、あれだけはジーンさん以外相手できないと思う」

「だろうね、なるべく急ぐから無理しないで」

複数の骨が折れて激痛が走っているだろう彼女はこちらの心配をしてくる
そんな彼女に無理をさせようとしている自分にシルトはイラつくが
それはそれ、これはこれ、と自分を無理矢理納得させていた

「ラピ、頼むね」

「ほーい」

シルト、サラ、シャルルが歩き出し、その背中を見送った・・・

・・・・・

・・・



その頃、エインの元には元老院からの伝令が伝わり
ヒッポグリフをどう対処するか話し合いが行われていた
こうしている間にもヒッポグリフ隊の絨毯爆撃は続いている
これ以上被害を増やさないためにも、早急に対処する必要があった

「しかし、あの高度は自分のフックショットでも届きませんよ」

「私なら届きますけど・・・難しいかもです」

リリムの破壊魔法には弱点がある、それが術中は完全に無防備になる事だ
この乱戦に発展し始めている戦場で無防備になるのは自殺行為に近い
いくら複数で守ろうともそれでは逆に目立ってしまい、的になるのがオチだろう

「エイン君、少しいいか」

バテンが手を上げて発言させてくれと主張している
彼の顔を見て頷くと、バテンから1つの作戦が提案された・・・

・・・



「・・・・・・・・・なるほど、それならいけるかもしれません」

「チャンスは1度か2度だ、しっかり頼むぞ」

バテンがエインの背中をバシバシと叩き、ガハハと笑い出す
この大柄の男は今さっきとんでもない作戦を提案してきた
下手をすれば自分が殺される作戦とも呼べないものだ
だが、現状を打開するには唯一にして最善かもしれない

「では、行きましょう」

エインが腰に下げる風斬りの長剣に手をかけて歩き出す
それに続くように皆も大混乱の最前線へと向かうのだった・・・




神の使徒同士である彼等の戦いは始まってしまった
まるで運命に流されるように、何者かに操られるように・・・


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