2015_11
17
(Tue)13:07

1章 第8話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第8話 【トヒル火山】

今回は、みんな頑張ってるかも~?
あまり出番の無かった人に活躍させたいですね。
ついでに、今回の魔物は完全オリジナルです。
いつもは神話やら何やらから取ってるんですけどねー。

では、続きを読むからどうぞー。








【トヒル火山】








二人の戦いが終わり、宿に入る頃、再び雨は降り始めていた
今、宿の食堂では皆からエインが称えられている

「いいものを見せてもらった、感謝する」

ロイは軽く頭を下げ、その手に持つ酒をエインへと振舞う
エインはあまり酒は得意ではないのだが、無下にもできず一気に飲み干した
喉に焼けるような熱さが通り、しばらくして胃の中から体中が熱くなってくる
男達はいい肴を見つけたと言わんばかりに
先ほどの戦いについてあれこれと話し、酒の飲み、騒ぎ立てていた


そんな食堂の一角で宿泊客の女と話していた人物、イエルだ

「魔物の住処が変わってるのかい?」

「えぇ、そうみたいなんですよ」

「それはいつ頃からだい?」

「1週間くらい前からですかねぇ?・・・如何されたのですか?」

イエルは考えていた、宿へ来る前に遭遇したオーガ16体を
本来オーガとは5体程度で群れる魔物だ
それが16体、変だとは思っていたが、今の話を聞くと納得できた
縄張りから追い出され、群れるしかなかったのだ
では、オーガを追い出した魔物とは?火山にいるという化け物か?
しかしオーガが火山に生息しているなど聞いた事もない、森などが奴等の住処なのだ
森から追い出される・・・原因はアレか
イエルが考えをまとめた頃、心配そうに顔を覗き込む宿泊客の女が見えた

「大丈夫ですか?巫女様」

「えぇ、大丈夫さ、ちょっと考え事をしちまってね」

すまないが席を外すね、と言い、イエルは騒いでいる男どもの元へと足を進める
目的の人物まで真っ直ぐ足を進め
楽しそうに先ほどの戦いについて熱弁する二人の前へと行く

「ちょっといいかい」

話に夢中になり、イエルが向かってきた事すら気づいてなかった二人は驚き
彼女へと視線を向ける

「ロイ少佐、ガゼム、あんたらに話がある」

「如何なされました、巫女様」

ガゼムは立ち上がり、敬礼をしようとするがそれを手で制され再び座る
ただ事ではない雰囲気を感じ、ロイはほろ酔い気分の頭を覚醒させ、彼女の話に集中する

「ここへ来る時に出くわしたオーガの事なんだよ、1つ分かった事がある」

ほう、と二人が唸り、イエルの言葉を待つ

「オーガ達は森を追われたんだ・・・・虫にね」

ロイとガゼムは目を見開き、彼女を見つめる

「虫が増え続けてるのは知ってるね?
 それによって魔物達の縄張りが変わっちまってるのさ
 弱い魔物なんかは住処を追われ、群れ、街道などにも出てきちまう」

なるほど、と二人は頷き、思考する

「本国ではもう対策は練られてるはずだが、思ったよりも侵攻が早いのかもな」

ロイが顎に手をやり、目を瞑り考え込む
そんな彼にイエルは続ける

「火山の化け物ってのが麓まで降りてきてんのも関係あるかもしれないね」

「それは・・・ありそうですね」

どんちゃん騒ぎの中、3人は無言になり、ひたすら頭を回転させている
どうするべきか、そう悩んでいた時に横から声が掛かった

「横で聞いてましたけど・・・時間が無さそうですね」

3人は声のする方へと顔を向け、そこに立つ女性に小さく頷く
彼等の横に立つ女性、リリムがここいいですか?と空いてる席へと腰をかけ、話を続けた

「虫の驚異は死の消失後、ネネモリでは一番の問題になっていました」

ネネモリは大森林に飲み込まれるようにある
森と共存し、その水や木々の恵みにあやかり、発展していった国である
エルフの用いるお香により、魔物を遠ざけ、虫を遠ざけてきた
それも最近では効果が弱まってきていたのだ
数が増えすぎ、効かなくなってきたのである
国総出で虫の駆除に明け暮れている、しかし虫も死なない、いずれ再生してしまう
なので、その死骸を埋めるなどして対処してきた
それもいつまで持つかは分からない・・・ゆっくりだがラルアースは滅亡に向かっているのだ
虫の支配する世界、それは人類など餌でしかない世界
食われ、再生し、食われ、再生する、そんな地獄が待っているのだ

「虫の繁殖力は人類の比ではありません、この旅は急がねばなりませんね」

「そうさね、大雨だからと言って休んでる場合じゃないね」

ロイとガゼムも頷き、二人は席を立つ
リリムとイエルはそれを見送り、そのまま二人で彼等の行動を目で追う
彼等は食堂の中央辺りに行き、声を張り上げる

『すまない、みんな聞いてくれ』

大騒ぎだった食堂は一瞬で静寂が支配する
中央の彼等に視線が集まり、楽しんでたのに何事だ?と小言が聞こえる

「今、得た情報によると、虫の驚異が思った以上の速度で侵攻しているようだ」

それを聞いた一同からどよめきが起こる

「この旅にはあまり時間が無いかもしれん
 よって、明朝には天候に関係なく火山へと向かう事とする」

各々準備するように、そう言い解散を命じた
食堂からは先程までの騒ぎは消え去り、不安の混じったどよめきが続いていた







翌朝、彼等は宿を出立する
辺りの山脈の中に一際目を引く霊峰トヒル火山へと向かう
天気は雨、多少強いが風が無いのがまだ救いだろう
彼等は雨合羽を羽織り、雨対策はしてきているが
顔に当たる雨や、雨による体温の低下で楽な移動ではなかった
何とか馬で小一時間ほど駆け、火山の麓まで辿り着く

「ここからは歩きだな」

ロイ・ホロウ少佐はトヒル火山を見上る
雨により山頂は見えず、どの程度の高さなのかすら分からない
辺りに木々は少なく、岩場が大半を占めている
道という道は無く、険しい道のりになることが予想できた
僅かに生えている木々の中で太めの木を選び
そこなら馬達が雨宿りできそうなので縄で木へとつなぐ

一行は道とも言えない山道を登り始める
火の聖域までのルートは、まず山頂まで登り、山頂から火口へと降りる事となる
人類が踏み込んではいけない領域だ
霊峰トヒルは活火山である、現在も噴火している最中なのだ
噴火中の山の噴火口に入るなど自殺行為以外の何物でもない
しかし、彼等には時間は無い、何があっても行かなければいけないのだ

「足場が悪いから気をつけてください」

「ありがとうございますっ」

エインはリリムの手を取り、引っ張り上げる
山など慣れないリリムにとって、この山道は険しいものだった
それは誰もがそうだったかもしれない
草木はほとんど生えておらず、岩ばかりの世界
あちこちの岩の隙間からは蒸気が上がり、傾斜のキツい足場は雨により滑りやすく
一歩踏み外せばどこまで落ちていくか分からない恐怖を感じさせた

かなりの時間をかけて登り、そろそろ山の中腹は過ぎただろう
火口が近いせいか蒸し暑く、霧も出ていて、雨と相まって視界はかなり悪い
おおよそ15メートル先程度しか見渡せないだろうか

『視界が悪すぎる、誰か辺りに休める所は見えないか!』

ロイが全員に聞こえるように声を張り上げる
雨足は弱まってきてはいるが、この視界では危険だ
ここまで魔物には出くわしていないが、噂の魔物が出ないとも限らない
それに、数時間の強行軍で来ている、そろそろ休息は必要だ

「・・・・・何だあれ?」

辺りを見渡していた教会守護隊カイル・リムシブが指を差す
その霧の先に、更に濃い白いものが見えた

「・・・・なんだ?よく見えないな」

目をこらそうとした瞬間、霧よりも濃い白い何かがスッと消える

『何かいるぞ!!』

カイルが叫び、全員が一斉に辺りを警戒する
エインは抜刀し、リリムを手で守るように後ろへと隠す
リリムの後ろはメイス使いリヨン・スッケルスが守っている

・・・・ギ・・・

何かが聞こえた気がした
音がどの方向から聞こえたか分からず、キョロキョロと辺りを見渡す

・・・・・・ギ・・・・

先ほどよりも僅かに聞き取れた
何かの鳴き声だろうか、まだ音が小さく聞き取りにくい
その時


ギャギャアァ!


真後ろの物凄く近い距離から鳴き声がし、エインの心臓はバクンと跳ね上がる
直ぐさま後ろを向くと、そこで目にしたのは身を挺してリリムを庇うリヨンだった
リリムの顔から血の気が引き、リヨンへと手を伸ばそうとしている
そんなリリムの肩を引っ張り、自身の後ろへと隠した

「ぐっ・・・あ゙・・・・」

リヨンが言葉にならない声を上げ、その手に握るメイスを落とす
腕はぶらんと力なく垂れ下がり、膝の力が抜け僅かに身体が下がる
その首元には鋭く太い牙が貫通し、血が流れていた

リヨンに噛み付いていた生物
それは前屈みで二足歩行の白い鱗のトカゲとでも言おうか
下顎が異常に発達し巨大化しており、下顎からは太い牙が2本生えている
眼は黄色く、縦に黒い線が入っており、大きく丸い
腕は細く、手は小さく、脚は太く、足には鋭い鉤爪が生えている
長い尻尾は水平になっており、それでバランスを取っているようだ
頭から尻尾まではおおよそ3メートル、高さは2メートルは無いだろう

エインはその場から突きを放つが一瞬の差で避けられる
白い鱗の魔物は一瞬で霧に消え、見失った
鋭く太い牙から解放されたリヨンは崩れ落ち、びくんびくんと痙攣している
その喉元と鎖骨下部には大穴が空いており、出血がひどい

『誰か回復を!!』

エインは辺りを警戒したまま叫ぶ
その声に生の魔法使いエール・ボア・エンジュが駆け寄る

「根源たる生の灯火を」

エールの手が青い炎に包まれ、リヨンの大穴へと押し当てられる
が、血は止まらない
次々と血が溢れ、次第にリヨンの痙攣が治まっていく

「根源たる生の灯火を!!」

エールの魔法が続く・・・が、リヨンは動かなくなっていた

「くそおおお!!」

彼は大地を殴り、その拳には僅かに血が滲む
そんな光景を見ていたロイは彼の肩に手を置き

「戦闘が終わったら彼を連れて下山してくれ、下で治療を続けるんだ」

そう言い、ロイは大斧使いアズル・ルゴスを呼ぶ

「彼を下まで運ぶのを頼んでいいか」

「おう」

彼は心よく受けてくれる
アズルとリヨンは酒飲み友達なのだ
そんな友の変わり果てた姿を目にし、アズルの手には力が入る

「スッケルス待ってろ、とっとと終わらせてやる」

アズルの眼には復讐の炎が燃えているようだった
そんな彼にロイは、力み過ぎるなよ、と釘を刺す
それに頷く事で応え、アズルは大斧を上段に構える

『こっちにいます!』

隊列の最前列にいた神殿盾騎士団ダリル・ロッヂが叫ぶ
彼は盾を前面に構え、大地に刺し、いつでもこい!と気合いを入れる
しかし、隊列の後方で声が上がる

『こっちに4匹いるよー!』

しんがりを務めているのはハーフブリード、その中の一人ラピ・ララノアだ

「なに!1匹ではないのか!」

そこに更なる絶望が降り注ぐ

『右上からも来るぞ!3匹だ!』

隊の中程のカイルも声を上げる

ここは急な斜面、雨により崩れやすく、滑りやすい
道幅はおおよそ2メートルくらいだろうか
左側は足を滑らせればどこまで落ちるのか分からない
右側は急斜面すぎて上がる事はできない
濃い霧により視界は15メートルほどだ
そして、雨はしとしとと降り続けていた

前方には1匹、右上には3匹、後方には4匹、左は崖、完全に囲まれている

『撤退戦だ!!前方を突破する!山頂まで走れ!』

ロイが大声で指示を出し、前方の白い鱗の魔物・ホワイトファングに斧を投げつける
その斧はひらりとかわされ、しかし、道は開かれる

『行けーーーー!』

行け行け行け!と叫びながら皆を前へ通す
斧を避けたホワイトファングが隊を襲おうとするが
中程にいたカイルの牽制により、また下がる
最後尾のハーフブリードが見えた頃、ロイも走り出し

「シルト殿!しんがりをお願い致す!」

「了解です」

シルトはそう言い、走る速度を僅かに落としながらサラに目で指示を出し
それに気づいたサラは無言で頷き、速度を落としながらシルトのすぐ前を走る
後ろではギャアギャアと複数の鳴き声が響き、追って来ているのが分かる

「3・2・1で振り向くよ」

そんなシルトの声に顔すら向けず、サラは頷く
しばらく走り、山頂が見え始めた

「3・2・1!」

振り向き様にシルトはラージシールドを前に出し、大地に刺す
その右後方でサラも盾を構え壁になる

ギャギャアギャアァ!

激しい鳴き声と共にシルトの大盾に衝撃が走る
ホワイトファングが突っ込んできたのだ
その衝撃は腕に伝わり、鎧に伝わり、足へと流れ、大地へ逃げて行く
常闇のフルプレートメイルの効果によるものだ
それでも相殺しきれなかった衝撃がシルトを襲い、大盾を持つ右腕が悲鳴を上げる
シルトは盾を右へ流し、体勢を崩したホワイトファングがサラの前へと出る
彼女はそのホワイトファングを更に右へと受け流す、そう崖に、だ

ギャギャアアァ・・・・

1体のホワイトファングは崖から転落し、その鳴き声が遠ざかって行く
その光景を見た他のホワイトファングは止まり、距離を保った
そう、奴等は知性の高い魔物なのだ
基本は群れをなし、統率の取れた動きをする
そして奴等はその牙で岩を砕き捕食する
その歯は2本の牙以外は全て平らで、岩をすり潰す事に特化しているのだ
岩から僅かずつだが栄養を摂り、そして皮膚を硬質化していく

増援で現れた個体の中には、鱗が白から茶色へと変色している奴もいた
その鱗は形を変え、岩のようにも見える
体格が大きい個体ほどそのように変化してるところを見ると
成長する過程で変わっていくのだろうと予想できた

「サラ、ゆっくり下がるよ」

「うん」

じりじりと二人は後退していく、ホワイトファングの群れから目を離さずに
山頂は目の前だ、そこは少しひらけており、戦うには丁度いい
最前の集団が山頂に辿り着き、次々と仲間達が駆け込む
シルトとサラ以外全員が揃った時、ラピは聖獣召喚の詠唱を始める
魔導書を開き、その指先は淡く輝き、中空に何かを綴るように動かす

「カントより・・・・おいでませっ!」

両手を広げた瞬間に足元に魔法陣が現れ、それが彼女を通り抜け
中空に停止し、高速回転を始める
魔法陣は黒い穴を中空に作り、そこから銀色の狼のような生物がぬっと現れる
雷をまとい、その狼は唸り声を上げ、ラピを見る

「エペタム、いっけー!」

エペタムと呼ばれた聖獣、雷をまとった銀色の狼はラピの指差す二人へと走り出す
サラの背後の中空に停止し、ウォォンと遠吠えをし
狼の身体から雷が二人へと落ちる
それと同時に二人の体内から尋常ではない力が湧き出る
それを確認したラピがエペタムに再び指示を出す

「おいで!エペタム!」

主人の声に反応し、エペタムは大急ぎでラピの元へと走り、すぐに辿り着く
そんなエペタムを目を細めながら撫で、バイバイと小さく呟き、手を振る
その瞬間エペタムのいた場所は空間が捻れたようになり
狼の身体はぐにゃりと形を変え、渦へと飲み込まれ消えてゆく

「まだまだ行くよっ!」

ラピは魔導書をパラパラとめくり、お目当てのページを見つけ出す
再び指が淡く光り、不思議な文字らしきものを綴る

「モシリより・・・・おいでませっ!」

両手を上げ、今度はラピの頭上に魔法陣が現れる
それが彼女を通り、大地についた途端、彼女の前方へと地を滑り動いて行く
そこで魔法陣は僅かに大きくなり、回転し、また黒い穴をあける
穴よりぬっと現れたのは真っ白の鹿のような獣だった
その額には角が1本だけ生えており、目も何もかも白い
しかし、身体中に細い線で真っ赤な呪術的な模様が走っていた
その鹿はラピを見、静かに命令を待っている

「シンユク、いっけー!」

ラピはサラの背中を指差し、シンユク(聖獣)が恐ろしい早さで駆け出す
ほんの数秒でサラの背後に辿り着き、ぶるると頭を振る
シンユクの額にある一本角からサラへと光がのび、彼女を光が包んでゆく
その瞬間、サラの視界に移る世界が全てゆっくりになる
自分以外の何もかもが遅い世界
サラは自分だけ世界から孤立してしまったのではと錯覚するほどだ
これがシンユクの能力、加速の能力だ
思考、反射神経、動体視力、それらが大幅に加速する
常人以上の身体能力を持つサラにはぴったりの支援魔法だ

「シンユク!おいで!」

ラピは再び聖獣を呼び戻し、バイバイと小さく呟き、手を振る
シンユクは歪み、渦へと消えてゆく

「最後にもういっ・・・・っ!」

ゲホッゲホッと大きな咳をする、口の中には鉄の味が広がった

「もう一回!!」

ラピの眼に力がこもる
その横でシャルルがラピに回復魔法を詠唱し始める

「生の木漏れ日よ」

天から光が降り注ぎ、ラピの身体を包む
身体が暖かくなり、肺からくる痛みが和らいでいく
シャルルに笑顔を向け、ラピは本をめくり、中空に文字を綴る

「クンネチュプより・・・・おいでませっ!」

両手を広げ、足元に魔法陣が現れ、彼女を通り抜け、遥か上空まで上がってゆく
そこで回転を始め、黒い穴をあける
そこから飛び立ったのは真っ黒な梟のような獣だった
その瞳は黄金で大きく、額には輝く満月の模様が第三の眼のように浮かび上がっている
獣はラピの頭に降り立ち、彼女を見下ろす

「クンネレ、いっけー!」

シルトとサラを指差し、クンネレという聖獣が飛び立つ
そしてラピは膝から崩れ落ち、ゲホゲホとむせている
シャルルが彼女の元へ駆け寄り、背中に手を当て回復魔法を流し込んだ

クンネレは上空まで上昇し、一気に二人へと滑空する
二人の間を通り過ぎた瞬間、羽が舞い散り、彼等の視界から霧が消えた
上昇していったクンネレが歪み、渦へと消えて行く
これがクンネレの能力、どんなに視界が悪い状況でも見通しがよくなる効果だ
二人までしかかけられないという難点があるが

支援魔法を大量に受けた二人は、ホワイトファングの群れを完全に防ぎ切っていた

最前列にいたガゼムとダリルは重装備のせいか、ぜぃぜぃと息を切らしており
山頂にある大岩に寄りかかり、少しでも体力を回復させようとする

その時

ゴゴゴゴゴゴゴッ!岩壁が動く

「な、なんだ!?」

ガゼムの声が裏返り、素っ頓狂な声を上げる
ダリルは体勢を崩し、転がる
山頂にいた全員が目にしたのは先ほどまで岩壁だった物


"それ"は振り向いた


異常に発達した下顎、そこからそそり立つ2本の太い牙
下顎の幅は1メートルはあるだろうか、牙の長さは60センチ近くある
太く長い牙以外の歯は全て平らになっている
眼は大きく、丸く、黄色く、縦に黒い線が走っている
皮膚は岩にしか見えなく、茶色や焦げ茶色など斑な色になっており
その背中には大量の鉄鉱石がめり込むように埋まっている
手は体格の割りには小さく、その足には図太い鉤爪が見える
尻尾は水平を維持しており、その太さは尻尾の先まで1メートルはある
頭から尻尾までは6メートル以上はあるだろうか
高さは3メートルは優に超えていた
巨大な魔獣、その名はゴトビキと言った

「な・・・・バカな!」

ガゼムが恐怖と驚愕の表情でわなわなと震えていた時
その後ろにいたサイガとイルガが直ぐ様行動に移る
ゴトビキの顔の左右に回り、両目を同時に攻撃する
サイガはそのスチールカタナで右目を狙い
イルガはそのスチールサイスにより左目を狙う
それをゴトビキは頭を高速で上げる事で回避し
同時に尻尾が大地にどごんっと叩きつけられる
例えるならシーソーのような感じだった

サイガとイルガは目標を失った事で空振る
何とかお互いの武器が当たらないようにしたが、そのせいで身体がもろにぶつかった
苦痛に顔を歪ませるが、失った目標を目で追う

それは真上にあった

異常に発達した下顎、その下部分は岩盤のようになっており
頭上に見えるそれは大岩が降ってきているようにも思えるほどだ

そして、それは降って来た

どごんっ!!爆音を轟かせ、サイガとイルガは下敷きになる
その身体は大地にめり込み、もはや動く気配はなかった

『全員距離を取れ!!』

ガゼムはダリルを引っ張り起こし、大盾を前面に構えながら下がる
それを見て、マルロとイエルは同時に詠唱を始める

「大地の戒めを!」
「溶焔の宝玉よ!」

マルロの地の魔法によりゴトビキの左足が大地に包まれる
そして、イエルの溶岩魔法により右足が溶岩に包まれる
それに続き、エンビ・ルルラノが水の魔法を詠唱する

「清浄なる水の戯れよ」

エンビの杖から拳くらいの水の玉がいくつも放たれ
イエルの作り出した溶岩にぶつかり、水分が蒸発しジュワーと音を上げる
溶岩は僅かに冷え、少しだが固まっていく

ゴトビキが動かなくなった足に驚き、暴れ、振りほどこうとする
マルロとイエルは目を合わせ頷き、マルロは杖に、イエルは宝玉に力を込める

「「はああああああああぁ!」」

二人の声が共鳴する
左足の拘束は更に外側から大地が迫り上がり、より強固となっていく
右足は溶岩がどんどん増え、足のつけ根まで覆うほどになり、次々と溢れて出ている

ゴトビキが動けなくなったのを確認したロイが走り出し
魔獣の足元を身を屈め通りすぎる
ロイを顎で叩き潰そうとするが、僅かに届かない

『みんな!火口までは15メートルほどだ!コイツを落とそう!』

俺が囮になる!と続け、ロイは背中の弓を取り出し、矢筒から1本矢を引き抜く
弓を引き絞り、狙いを定める・・・・狙いは眼だ
ゴトビキは暴れ、狙いが定まらない

「くそっ、大人しくしろっ!」

これがイシュタールやガリアなら狙えたかもしれない
だがロイは色々な武器が使える代わりに、1つ1つはそれほどでもないのだ
そこに風の魔法使い、ブロス・ラジリーフが詠唱を始める

「飛翔する風よ!」

これは風の魔法の中でも高位の魔法、人を数メートル飛ばす事ができる魔法だ
着地に難アリという難点はあるが、上を取るという点では使い勝手はいい
彼の魔法はアズルにかけられ、彼が跳躍する・・・その高さ5メートル

『行くぞ!ゥオラァァァァッ!!』

ドゴォンッ!
アズルの大斧がゴトビキの脳天に叩きつけられ、数センチほどめり込む
その衝撃でゴトビキの顎が大地に当たり、再びサイガとイルガが潰される
一瞬閉じられた瞳はすぐに開き、そこをロイは狙っていた
放たれた矢は一直線にゴトビキの右目に刺さり、赤い血が吹き出す
目が潰された事により今まで以上に暴れ、頭上にいたアズルは振り落とされる

「ぐっ」

アズルは大地に叩きつけられ、苦痛の声が洩れる
そこにシャルルが一瞬で駆け寄り、すぐに回復魔法を唱えた

「癒しの息吹よ」

ふぅっと緑の息を吹きかけ、アズルは身体から痛みが消えてゆくのが分かる

「猫の嬢ちゃん、あんがとよ!」

シャルルはにししと歯を見せて笑い、親指を立てて応えた
その背後、数メートル先でジーンが魔導書を開く
彼女の魔導書はラピから譲り受けたエルフの秘術書
本来であれば聖獣を召喚するための魔法陣や式が記されている
彼女はそれを応用し、世界の理の1つである元素にアクセスする
目を瞑り、彼女は集中する・・・・彼女だけが感じる事ができる感覚
精霊との繋がり、それを感じ取り、ジーンの目が開かれる

「・・・・おいで、グノーム」

指をパチンと鳴らし、その音が繰り返されるように反響する
大地がボコッと20センチほど迫り上がり、爆発する
そこから飛び出したのは40センチほどの老人のような生物だった
白く長い髭を生やし、頭には三角の尖った帽子をかぶり
その身体は逞しく見えるが、小さいので迫力はない
しかし、その両腕だけは異常に発達しているのが見て分かる

「行け、グノーム」

ジーンがグノームに指示を出すと、小人の老人は歩き始める
とぼとぼと・・・歩幅が狭いのもあり、かなり遅い
その頃、ゴトビキが拘束を振りほどき、地団駄を踏む
そして矢を放ったロイへと狙いを定めたところだ

「チッ、動きだしたか・・・さて、どうするかな」

実はロイはあまり考えていなかった
作戦を説明してる暇がなく、自分がやるしかないと思って走り出したのだ
冷や汗のようなものが頬を伝う
ゆっくりと後ろへ下がりながら、どうするかと頭を回転させるが思い浮かばない

ガコッ

岩の崩れる音がし、一瞬背後を見る・・・そこはすでに火口だった
急な傾斜となっており、その下は一部岩盤があるが
他はほとんどマグマが剥き出しになっている
物凄い熱風が顔を撫で、その表情は歪む

「おいおい、絶体絶命じゃないか」

ロイはニヤリと笑い、正面から迫ってくるゴトビキを睨みつける
ゴトビキはロイの手前2メートルのとこで止まる
この巨大な魔獣は知性が高い、火口が危ないと知っているのだ
二人の睨み合いはしばらく続いた



一方その頃、シルトとサラは・・・
ホワイトファング達を防ぎ、2体ほど崖下へと落としていた
山頂での戦闘の音が鳴り響いた時、ホワイトファング達は止まり
そして一斉に逃げ出した

「行っちゃったね」

「んだね、とりあえず上行こうか」

「うんうん」

シルトがサラにさっきの受け流しは良かったと褒めたり
あのタイミングならこうした方が良かったなど話しながら山頂へとゆっくり歩く



ロイとゴトビキの睨み合いは続いていた
皆は、尻尾がゆらゆらとしている事により近づけずにいた
その尻尾の遥か下、大地すれすれの所を歩く者がいた・・・グノームである
とぼとぼと歩き、ゆっくりだがゴトビキに近づいている
そんな小さき存在には全く気づかないロイとゴトビキだった

「くそ・・・どうする、動けないぞ・・・くそっ!」

ロイが置かれた状況の精神的重圧からイライラしだす
その時、ゴトビキが一歩踏み出す

「っ!」

ロイが条件反射で半歩下がる・・・が、そこは火口への入口だ
これ以上下がれないと思い出し、弓を引き絞る


その時、大きな変化が起こった


ゴトビキが暴れ出す
ロイは何が起こったのか理解できなかった
僅かにだがゴトビキの右足が宙に浮いてる気がする
そこに注目してみると、小さな老人がゴトビキの足を持ち上げていた

「はぁ!?」

なんだこれは、ロイは目を疑った
あの巨体の魔獣の足を、40センチ足らずの老人が持ち上げているのだ
そしてぐらついたゴトビキがケンケンするように片足で飛びながら迫り来る
あっけにとられていると、巨体が不意に加速する

ロイにはそれが避けられなかった

ゴトビキの巨体はグノームという小さな老人の精霊により投げ飛ばされ
ロイを巻き込み、火口へと落ちてゆく
状況を理解した彼は火口を見て、岩盤の場所に狙いをつける
空中でゴトビキの身体を蹴り、自身を岩盤の方へと向きを変える
ゴトビキはそのままマグマへと落ち、もがき苦しみ、沈んでゆく
ロイは岩盤に叩きつけられ吐血する

「ぐはっ」

そこでロイの意識は途絶えた




スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック