2017_02
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(Wed)08:24

4章 第11話

オリジナル小説 『カタクリズム』
4章 第11話 【水端】

水端(みずはな)ってタイトルは気に入ってたりします、すごくぴったり!
今回の挿絵は1ヶ月以上前に描いたものなので、
やっと出せて良かったーって感じです。

では、続きを読むからどうぞー。


【水端】





1つ、また1つと命の炎が消えてゆく
戦場では幾つもの命が簡単に消えてゆく
あっけなく、一瞬で、燃え尽きてゆく

この戦争が始まってから既に3万以上の命が燃え尽きていた
もはやヒッタイトの勝利は目前だが、引けぬメンフィスは抵抗を続けている
現在の戦力はヒッタイト約3万,メンフィス約1万である
3倍の差がつき、数の暴力による一方的な虐殺が始まろうとしていた

何が正義で何が悪かなどもはや関係は無い
生存競争、これは生きるか死ぬかの殺し合いなのだ
ただ目の前の"敵"を殺す、単純なこの考えが戦場を支配していった

道徳心、徳義心、良心
今この戦場でそういった想いを残している者は少ない
大混乱の最前線では、ほぼいないと言ってもいいだろう
この二人以外は・・・・

「夢見の恵風よ」

一人はシャルル・フォレスト、ハーフキャットの少女である
シルトに言われ後方に待機していたが
親友であり姉妹であり家族である少女の危機に駆けつけたのだ

シャルルの唱えた魔法が風となり少女を包み込む
この戦場で善良な想いを残すもう一人、サラ・ヘレネスだ
二人のハーフキャットの少女は混沌としているこの戦場で
未だ殺生を拒み、必死に足掻いていた

疲労が溜まり重くなっていた手足が軽くなってゆく
シャルルの魔法の効果によるものだ
乱れていた息も落ち着き、集中力も戻ってくる

バテンの振るう大剣が空を斬り、目の前の標的を見失う
刹那、左足首から激痛が走り、目をやると淡い桃色の髪が一瞬見える

「くっ」

片膝をつき、後方へ大剣を振るうがそれもまた空を斬る

「どこだっ!」

辺りを見渡すがサラの姿は見えない
砂煙は上がっていない、あの俊足でどこかへ行ったという訳では無さそうだ
しかし、視界に彼女の姿は無い、焦る気持ちを抑えようとしたその時
大剣を握る右腕を凄まじい衝撃が襲う
その衝撃に耐えきれず大剣は地面へと落ち、砂にめり込む
目だけをやると彼の大剣を踏み台にサラが跳躍していた

空中でくるりと回転し、尻尾を振る事で重心を制御し
サラはプララーへと一直線に滑空してゆく
プララーは即座に構え、タイミングを合わせたカウンターの蹴りを放つ

しかし、その蹴りは空を切る事となった

サラが尻尾を勢い良く振り軌道を変えたのだ
彼女は身体を捻りながら剣を振るい、プララーの左手首をかすめてゆく
痛みが走るがプララーは止まらなかった
先ほど放った回し蹴りの遠心力を利用した二連脚である

ガッ!ギギギッ

サラは盾でそれを防ぎ、斜めに逸し勢いを殺す
体勢が崩れたプララーはよろめき、それ以上の追撃は出来なかった

大地が弾け、砂が舞い上がると同時にサラの姿を見失う
だが、狙いは解っていた

『アシュちゃんっ!そっち行くわよっ!!』

叫ぶことで口の中に砂が入るがそんな事は気にしてなどいられない
ペッと唾を吐き出し、口を拭った左手首から痛みが走る

「っ・・・根源たる生の灯火よ」

自身の手首に青い炎を押し当てながらバテンの方へと走り出す
その時、金属のぶつかり合う音が響いた

キンッ!!

サラの鋭い一撃はアシュの右手首を狙っていた
しかし、それはアシュの槍で阻まれる
槍を傾け、サラの剣が下へと流される

「もらったっ!」

体勢の崩れたサラに鋭い突きを放つが
サラは前のめりになった身体をそのまま流れには逆らわず、自ら前へと力を込める
彼女の身体は前転するような体勢になり
そのまま踵による蹴りをアシュの顔面へと食らわす

「ぶっ!」

カウンターを食らったアシュは顔を軸に半円を描く
モロに顔に受け、彼の鼻は曲がり、大量の血が溢れて呼吸が難しくなる

「げほげほっ」

背中から落ちたアシュは喉に血が流れ込み噎せ返る
そんな彼の耳に小さな呟きが届く

「ごめんなさい」

大地は弾け、砂煙が上がる
その中へと消えて行った桃色の髪の少女の後ろ姿を見ながら
彼は悔しさから唇を噛み締めた


バテンの応急処置を終えたプララーは腰からナックルを取り出した

「攻めに出るわね」

「あぁ」

足の調子を確かめながらバテンも立ち上がり大剣を構える
二人の視線の先にいるのは淡い桃色の髪の少女、サラ・ヘレネスだ
紅焔と呼ばれる少女の実力は予想を遥かに超えていた

ドラスリア騎士団の彼等が弱い訳ではない
バテンは数多の戦場で武勲を挙げ続けている猛者であり
アシュやプララーもまた同じ戦場で生き抜いてきた強者なのだ
だが、超えられない壁というものは世界には幾つも存在する
その1つが今彼等が対峙している"紅焔のサラ"という少女である

腋からくる激痛と左足首からくる激痛に顔を歪めながら
バテンは1つの作戦を提案した

「俺が押さえ込む、お前が殺れ」

そう言い、彼は大剣を夕日を浴びてオレンジ色になった大地へと深く突き立てる
彼の言葉の意味を理解し、プララーは複雑な表情をしてから黙って頷いた

舞い上がった砂煙の中から淡い桃色の頭が姿を見せる
それは一直線にこちらへと向かっていた
バテンは両手を広げ、待ち構えながら思った

まったく嫌になる、こんなのを相手しなくてはならないとはな
一等級という奴は全員こうなのか?ラルアースに二組しか無いのも頷ける
まったく冗談じゃない、俺はこんな場所で死ぬ訳にはいかない
アイツ等の居場所になってやらねばいかんのだ
今はそんな甘い事を言ってられる場合ではない、か
もってくれよ、俺の身体

両手に拳を作り強く握る
腋からは強烈な痛みが走り、一瞬顔を歪めるが歯を食いしばり耐えた
手を大きく開き、向かってくる敵を睨みつけ、彼女の正面を陣取る

『来いっ!!』

サラは地面すれすれを飛ぶように移動している
待ち構えるバテンが見えていた彼女は地面に盾をこすりつけ軌道を変える
だが、バテンは即座に反応し、再び正面を陣取っていた

「っ!」

このままじゃぶつかる!そう思ったサラは咄嗟に盾で頭を守っていた
それと同時に激しい衝撃が全身を包み、ゴロゴロと転がってゆき
天地が解らなくなった時、自分が押さえ込まれている事に気がつく

「つ、捕まえたぞ・・・がはっ」

口から血を吐き出しながらバテンが言う
彼はサラを正面から盾を挟む形で抱き締めるように拘束していた
彼女の背に回された両手はガッチリと組まれており
サラが腕を動かそうとするが自分の2倍はある太い腕で封殺されている

「っ・・・・うっ・・・」

じたばたともがくが鍛え上げられた太い腕はびくともしない
更に拘束は強くなってゆき、圧力で呼吸は難しくなってゆく

『殺れっ!!』

バテンが叫ぶ
サラが後ろに目をやるとそこにはプララーが向かって来ていた
この時、サラは死が迫るのを感じていた
恐怖から膝は笑い、僅かに涙すら浮かべる
歯がガチガチと音を立て始めた時、彼女の髪がふわっと浮き始める

『ベント・アルボォォッ!!』

シャルルを中心に猛烈な風が渦巻く
彼女の杖から白い雷が生え、風に突き刺さる度に勢いが増していった

彼女の右手中指の薔薇の指輪と薬指の王冠の指輪が輝く
二つの指輪はチェーンで繋がっており
この鎖を通して異なる属性の魔力が行き来し溶け合い
融合された魔力を杖を媒体に放出していた

シャルルはそのまま走り出し、サラの元へと向かう
彼女が動く事で風樹魔法は崩壊しかけるが
次々と生える白い雷である程度の形は維持していた
そして、プララーよりも早く辿り着いたシャルルは魔力を開放する

「シャ、シャルル・・・うっ」

『サラは殺らせないっ!!』

彼女の作り出した竜巻が砂を巻き上げ、強大なうねりとなってゆく
それに阻まれプララーは近寄れずにいた
周囲にいた者は目を開けている事すら出来ず
戦場に突如発生した巨大な竜巻は両国の者の視線を集めていた

・・・・・

・・・



暴風吹き荒れる中、二人の男が剣を交えている
シルトは体調が優れず、思うように動かない身体に苛ついていた

「どうしました?貴方らしくもない、息が上がっていますよ」

対するエインの呼吸は整っており
冷静さも取り戻し、まさに万全の状態だ

「はぁはぁ・・・演技だよ・・・はぁはぁ、演技」

どう見ても演技には見えないが、少しでも強がって見せていた
それはシルトに余裕が無いからだ
先程よりも腹痛が増し、吐き気も断続的に押し寄せている
呼吸が乱れ、スタミナは残り少ない

そして、先程から吹き荒れるこの風だ
これは間違いなくシャルルの風樹魔法だろう
彼女がこれを使わなければいけない状況という訳だ
サラの身に何かあったのかもしれない

そう思うだけで心は乱され、焦ってゆく

しかし、本気になったエインは以前よりも遥かに強くなっていた
特にあの銀の腕から放たれる突きが危険だ
城壁防御を張り、盾で防いでも手が吹き飛ばされそうなほどの威力がある
以前より増しているのは威力だけではない
あの腕は人間の速度を遥かに超える反応をするのだ

ったく、あんな厄介なもん誰が作ったんだ
心の中で愚痴をこぼし、再び剣を盾に隠して構える

「ほら、どうしたよ・・・はぁはぁ・・・かかってこいって」

安い挑発だがエインはそれに乗る
彼自身もあまり時間を掛けたくないのだ
それはある約束を守るために、だ

「はぁっ!!」

エインの強烈な突きが放たれる
シルトは常闇の盾の反射を合わせようとするが
想像以上に早いこの突きに合わせるのは困難だった

エインも熟練の剣士である
毎回同じタイミングで突いてくる訳ではないのだ
一瞬のフェイント、そういった駆け引きを入れてくるので
シルトは未だにこの突きを反射出来ずにいた

ガンッ!

エインの突きを受け流そうとするが勢いが強すぎて流す事が出来ない
体勢の崩れたシルトはカウンターも入れられず
彼の振るう剣は砂ばかり舞い上げる防戦一方になっていた

「これが本物の突きです」

距離が開いた時にエインがそんな事を言う
その言葉に若干の苛立ちを感じるが否定は出来ない
確かに自分の猿真似の突きとは似て非なるものだ

あれは形だけ真似ても出来る代物じゃないって事か
そのためだけに鍛えた筋肉が成せる技なのかもしれない
なら再現できないのは納得がいく

「別に張り合っちゃいないさ」

これはシルトの本心だ
別に突きの勝負をしたかった訳ではない
今はいかに彼を突破するか、それだけを考えていた
そして、彼は密かに1つの策を続けていた

「・・・そろそろだといいんだが」

シルトは引きつったニヤけ面でエインに来いと合図を出す
明らかに圧されているはずのシルトから滲み出る自信に苛立ち
エインは重心を低く構え一気に駆け出す

ギィンッ!!

突きは再び盾に阻まれ、両者の体勢が崩れる
後ろに倒れ込むシルトはその状態でもなお剣を振るい
地面の砂を大量に巻き上げた

「先ほどから目眩ましですか、姑息な」

銀の腕で顔を防ぎ、腕を下ろそうとした時に彼は気づく

「やっと気づいたか?もう遅いけどな」

シルトは勝利を確信した
対するエインはいう事を聞かない銀の腕に動揺していた

「なっ、何が」

「ネタばらしといこうか・・・・砂だよ」

「・・・砂?」

「無意味に砂を巻き上げてたとでも思ってたのか?」

その程度防げない君じゃないだろう、とシルトは続けた
そう、彼はずっと狙っていたのだ、銀の腕の関節部分に砂が詰まるのを

「貴方はどこまで汚いんですかっ!!」

「は?知るかよ、勝ちゃいいんだよ」

シルトが走り始めるが、数歩のところで立ち止まり嘔吐する

「おぇ・・・ぺっ・・・はぁはぁ・・・くっそっ」

その隙にエインは左手で銀の腕を無理矢理動かす

ギギギギッ・・・・ガチンッ

腕が真っ直ぐ伸び、何とか動くようになるが
シルトは目の前に迫っており僅かに反応が遅れてしまった

ギィィィィィィッ!!

上段からの強烈な一撃は間一髪間に合った銀の腕で受けるが
そのまま無理矢理振り下ろされ、エインの左脇腹を切り裂く
それは中に着込んでいた鎖帷子によって防がれ致命傷にはならなかった

『はぁああああああああああっ!!』

エインは激痛など感じていないかのように反撃に出る
砂が詰まり動きの悪い銀の腕で突きを放った
その突きは常人なら回避など出来ないほどの速度と威力だ
しかし、砂による動きの劣化は確かに表れていた
その僅かな差がこの相手には大きな差となった

ブォンッ

全力の突きが盾に触れるかどうかのところで一瞬止まったように見えた
だが、それは止まった訳ではない
そう見えた瞬間にエインの右肩に凄まじい衝撃が走る

「ぐっ、うわああああっ!」

銀の腕はだらんと力なく垂れ下がる
常闇の盾の反射により突きの衝撃は全て跳ね返り
それはエインの右肩へと返り、彼の右肩は外れていた

その隙を逃すほどシルトという男は甘くはない

彼の目つきが変わり、確実に相手を殺すための突きを放つ
しかしエインもここで死ぬ訳にはいかないため
一か八か、足を前へと進めた

「っ!」

この状況で引かないだと?!
ここまで行けば今までの相手は詰みだった、頭おかしいのかコイツっ!
その異常なまでの強靭な精神にシルトは驚いていた
予想もしていなかった彼の行動に手元が狂い、突きはエインの頬をかすめる

エインはそのまま骨の外れている右肩でタックルを食らわす
城壁の発動していたシルトは微動だにしないがそれは狙い通りだった

ゴキンッ!

エインの右肩から嫌な音が響き、激しい痛みから顔が歪む、が
銀の腕は動き出す、それで十分だった
即座に剣を右手に持ち替え、シルトの一撃を剣で受ける

キンッ!ギギギギギギギギギ・・・・

鍔迫り合いとなり両者の肩が密着し、顔が近づく

「流石に・・・っ、強いですね」

「そりゃどーも・・・うっ、おえぇっ」

ツンとした嫌な臭いがエインの鼻に届く
ほとんど胃液だけだがマントが汚され不快になるが同時に思う事があった

「本当によくそんな身体で・・・普段の貴方とは殺りたくないものですね」

「普段だったら3手で終わらせられるんだけどな」

「今の俺はそんなもんですか」

「いや、言い過ぎた、4手かな」

「変わりませんよ」

ははっ、と押し合いながら二人が笑う
シルトはチラっとサラ達の方へと視線を動かし状況を確認する
エインもそれに釣られて一瞬だけ目をやり口を開いた

「早く行かないとハーフキャットが死にますよ」

「・・・お前、殺すぞ」

シルトの声色が急に変化しエインは少しばかり驚く
こんな安い挑発に乗るような男とは思っていなかったからだ
明らかに空気が変わった、どうやら触れてはいけない場所だったようだ
その瞬間、押し合っていた肩の圧力はふわっと消える

「っ!」

前のめりになったエインは目にする、シルトの殺意に満ちた目を
城壁を解除し、半歩引いたシルトはエインの剣を下へと払い
そのまま下段からの斬り上げを放つ
エインは上体を反らす事でギリギリ回避する事が出来たが
シルトの剣はピタリと止まり急激に軌道が変化する、上段からの突きだ

マズい、避けれないっ!

あまりにも早すぎたその突きにエインは無意識に左手で顔を庇う
シルトの突きはエインの左腕に深く突き刺さる
それで止まるような彼ではない
腕に刺さって止まった剣に体重かけ、押し込んでくる

「死ね」

シルトが城壁を発動して押し込もうとした時
エインは剣を捨て、銀の腕でシルトのミスリルブロードソードを掴んだ

ギ・・・ギギ・・・・

城壁は発動したが剣は僅かにしか動かなかった
銀の腕の力は人のそれではないためだ
両者の力は拮抗していた

・・・・・

・・・



最前線で激戦が繰り広げられている頃
メンフィス軍の中ほどにいるラピ・ララノアは
妖精ディナ・シーに魔力を渡し"領域"を展開していた

「ディナ・シー頑張って!」

妖精の小さな少女は銀の鱗粉を撒き散らしながら必死に飛び回る
虹のような光が辺りを包み、メンフィス軍からは歓声が上がっていた

ラピの支援によりメンフィスの民兵達は強化され
ヒッタイトの傭兵と互角近くに渡り合っていた
おかげで大きく傾いていた戦局は僅かにながら緩やかになっていた
しかし、3倍の差がある事に変わりはない
いくらラピが強化をしようとも数の暴力には抗えなかった

「うぅ、このままじゃまずいよ~」

先ほど治療を終えたジーンを見送り
今は全力でメンフィスを支援しているが
近くに仲間がいない事が不安で仕方なかった

アギャッ

そんな彼女を察してか、小さな友達のウェールズが吼える
この小さな竜は基本的に何を考えているのか判らないが
今、励まそうとしてくれている事だけは何となくだが理解できた

「ありがと、ウェールズ・・・任されたもんね、私がんばるよ」

ラピは本を開き、回復魔法の詠唱を始める
ウェールズはそんな彼女の足からよじ登り、定位置である頭の上を陣取る
そしてもう1回吼えるのだ

アギャッ!

・・・・・

・・・



前方に巨大な竜巻が発生し、それを目標に走っている二人がいた
一人は金髪碧眼の気品漂う女性、ミラ・ウル・ラシュフォードである
そして、もう一人は長い黒髪の死を司る巫女、リリム・ケルトだ

ミラはリリムを護衛するようにこの戦場を駆けている
といっても彼女がやれる事など殆ど無いと言っていい
近寄る者はリリムの破壊魔法によって無力化されているのだ

リリムは基本的に殺生は好まない
それに明確な理由がある場合、生きるためなら必要な事なので受け入れている

そもそも死の神信仰の教えにおいて、死とは解放なのだ
肉体からの解放、魂の解放、それは安らぎを得る1つの方法
決して恐ろしいだけのものではない、救いでもあるのだ、という教えである

だが、殺さなくてもいい者まで殺したい訳ではない
無益な殺生、それは死の神の教えに反する行為になってしまう
信仰心の厚い彼女にとってその教えは絶対なのだ

そのため、彼女は襲ってくる者の武器や手足などを攻撃し
その部分を滅ぼしているだけで殺してはいないのだ
結果的に死に至る原因になる場合はあるだろう、しかし
流石にそこまで考えていられるほど甘い状況ではないため
多少は止むを得ないと割り切っている
これは以前に参戦した戦争で学んだ事だ

彼女はネネモリとドラスリアの戦争に駆り出された事がある
その時、彼女は究極魔法を発動させ
たった一撃で二千を超える人間の命を奪ったのだ

初めて発動させた究極魔法は思いの外範囲が広く
自軍にも少数だが被害が出てしまった
それが原因で彼女は守ったはずの自国で石を投げられ、化物と罵られたのだ

彼女は後悔した、人を殺めてしまった事を、仲間を殺めてしまった事を
戦争なんて二度と行きたくない、そう思った
だが、彼女の思いとは裏腹に戦争は続いていた

巫女とは国にとって大事な戦力である
巫女の存在有無で戦局が大きく変わるからだ
そのため、戦争が起こる度、巫女は駆り出されるものなのだ

どうして巫女なんかになってしまったのだろう
そう思った事は1度や2度ではない、死の神を呪った事すらある
そんなある日、幼かった彼女に1人の青年が声をかける

「君のおかげで助かった命は数え切れない
 君はたくさんの命を救っているんだ、それは誇っていい事だよ」

「でも・・・みんな化物って」

「化物でもいいじゃないか、人を救う化物がいてもいいだろう?」

「でも・・・」

「正義なき力はただの暴力だ、力なき正義は無力だ
 君には力がある、なら必要なものは・・・判るかい?」

「正義?」

「そう、正しいと思った事をすればいいんだよ」

「わからないんです、何が正しいのですか?」

「それは君が決める事だよ、力には責任が伴うんだ」

「責任・・・巫女である責任?」

「そう、神が選んだのは君なんだ」

「でも私は望んでないっ!」

「君は優しいから、だから神も君を選んだんだよ」

「私は優しくなんか・・・」

「優しいよ、だって君は傷つき泣いているじゃないか」

「・・・・う・・・ううっ・・・」

「君は間違ってない、それは俺が保証するよ」

「・・・ずずっ・・・う、うぅ・・・うわぁぁんっ」

「やっぱり君は優しいね、だから・・は・・・・・」

遠い過去の記憶にはモヤがかかり、ハッキリとは思い出せない
でも、あの青年の言葉があったからこそ今の自分がある
出来る事を、正しいと思った事をして
巫女である事を誇りに思い、責任を果たす
それが今の私、死の巫女リリム・ケルトだ

あの時に決意した自分とは少し変わってしまったかもしれない
それはエインのせいであり、おかげである
今の彼女はその決意に自分磨きも加わっている
そんな彼女は今エインの元へと走っていた

「ミラさん、急ぎましょう」

「えぇ」

二人は竜巻を目指して戦場を駆ける

・・・・・

・・・



小高い丘から見下ろした光景にラスール・ナビィは下唇を噛み締めていた

「メンフィス軍の半分近くは殺されたか・・・」

赤い宝石を胸に力強い足取りで歩き始める
そして、声を大にして命令を下した

『ヒッポグリフ隊に伝令!少しでいい、時間を稼げっ!』

それに反応した兵が手旗信号で命令を伝える
ナビィは痛む右腕を押さえながら拓けた場所まで歩く
道中にいた兵を捕まえ、命令を下した

「私のヒッポグリフを連れてこい」

「しかし、隊長のヒッポグリフは・・・」

「解っている、死体を連れてこいと言っている」

「は、はっ!」

兵が数名を連れて走り去ると、ナビィは再び大声を上げる

『軍を下げ、防戦に徹しろ!極力被害を出すな!』

「はっ!」

拓けた場所に移動したナビィは自身の格好を見て鼻で笑う
今の彼女は破けたアラジンパンツから下着が見え
顔は隠しておらず、ターバンすら巻いていなかった

そう言えばバステト様が服を持ってきて下さってたな・・・悪い事したわね

そこまで考えてナビィは再び鼻で笑う
今更服なんてどうでもいいか、今はやるべき事をしなくては・・・

『これより儀式に入る!何人(なんぴと)も邪魔は許さぬ!
 何があろうとも、何人死のうともここを守り抜け!これは絶対だ!』

「「「「はっ!!」」」」

ナビィは赤い宝石を咥え、足で地面の砂に紋様を描いてく
しばらくして20メートル近い円形の魔法陣が描かれてゆき、その中央に立った
そこへヒッポグリフの死体が運ばれてくる
咥えていた赤い宝石を口にふくみ、彼女は祈りを捧げた

「至高なる存在よ、気高き魂よ、理を超えし者よ」

ナビィがしゃがみ、ヒッポグリフの死体に左手を突き刺し心臓をえぐり出し
魔法陣の中央へと静かに置く

「今までありがとう、友よ」

ナビィの目から涙が数滴零れ落ちる

「水と清潔な布を」

近くに待機していたナビィの一族の女性が足音も立てず近寄り
ナビィの左手のヒッポグリフの血を綺麗に拭き取り、手を水で清める

「下がれ、巻き込まれるぞ」

「はっ!」

女性が下がったのを確認してからナビィは祈りを続けた

「か弱き者、無力なる者、愚か者である私に力を」

赤い宝石を舌で動かし、再び咥える

「与えたまえ」

ガリッ!

宝石を噛み砕き、ゴクリと飲み込む
すると、彼女の褐色の肌が僅かに輝き始める

「我が血肉は御身のモノ、我が心は御身のモノ
 我、願わん、至高なる神の奇跡を
 我、願わん、気高き魂の咆哮を
 我、願わん、理を超えし力を
 愚かなる私を糧とし、御身が顕現せし事を」

彼女の肌に黄金の紋様が浮かび上がり
それは次第に輝きを増してゆき、彼女の瞳は黄金に染まる

ナビィ

「供物となるは我だけにあらず、ここに在る眷属を捧げん」

ナビィの足元にあったヒッポグリフの心臓は浮き上がる
それは空中で潰れ、不思議な事に血肉は跡形もなく消えてゆく



「尊き御身、スパルナよ、我が声に応えよ」


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