2017_03
06
(Mon)20:40

4章 第12話

オリジナル小説 『カタクリズム』
4章 第12話 【誤算】

しばらく忙しそうなので更新遅れまーす。

では、続きを読むからどうぞー。







【誤算】





黄昏時、辺りは茜色に染まり
徐々に夜の闇が空を侵食してゆく空の下
ヒッタイトとメンフィスの戦争は佳境を迎えていた

戦況はヒッタイトの優勢
これは3倍という数の差や、民兵と傭兵という実力差からも明白だ
しかし、メンフィスは時間を稼ぐため方陣を作る

方陣とは縦横を同じ列数にした正方形の陣形だ
縦横に並べる列の数により三方陣、四方陣と名称が変わってゆく
全方向からの攻撃に対応でき、自軍が射線に入らない事もあり
防御面で優れた陣形である

メンフィスは小隊ごとに八方陣を作る
外周を大盾持ちの大柄な男達で固め、中央に遠距離攻撃の出来る弓兵を集め
敵を近寄らせないよう矢を放ち続けている
討ち漏らした敵は大盾で止め、二列目にいる長槍部隊で排除していた

この陣形に個々の技量はさほど関係が無い
与えられたたった1つの役目をこなせば良いだけなのだ
そのため、ヒッタイト優勢だった戦況は変わり、膠着状態となっていた

だが、これは本隊の話である
最前線である戦場は乱戦となっており、もはや陣形など存在していない
徐々にメンフィス兵は減り、撤退を始めているが
逃げる訳にはいかない者がいた・・・シルトだ

彼は二人のハーフキャットを救うため必死に戦っている
思うように動かぬ身体に苛立ちながら
目の前にいるエイン・トール・ヴァンレンの息の根を止めようと
城壁防御を使用し、全体重をかけて剣を突き立てていた

「いい加減死ねよ」

「くっ・・・」

ミスリルブロードソードを銀の腕で掴み
なんとか止めているが、この状態が続けばいずれは押し切られる
しかし、この状況を打破する方法が無く、ただ耐える事しか出来ずにいた
絶体絶命・・・そう思った時、予期していなかった事が起こる

シルトが引いたのだ

何故彼が引いたのか理解出来ず、エインは呆然としていた
だが、それは一瞬で明確になる

ゴォォォンッ!!

シルトが振り向き様に常闇の盾を構え
重心を低く構えると同時に、銅鑼のような重く低い音が響いた
そして、不動と呼ばれる彼の身体が後方に3メートル近く押されてゆく

彼を押しているのは1本の棒だった

先端は赤く、丸みがあり
その全体は金色に輝く、傷一つないとても綺麗な棒だ
黄金とも違う金属で出来たその棒が、あの"不動"を動かした

『見事ッ!!』

しわがれた大声が響き渡る
金の棒の持ち主、袈裟のような服を着た初老の男性
ヒッタイト最高の冒険者と謳われるタイセイその人だ
以前見た気怠そうな表情ではなく、今は喜びが表情に出ており
その笑顔は狂気すら感じるほどの不気味さを放っていた

「痛っ・・・てぇな」

シルトが右手を振りながら愚痴をこぼす
何度も拳を作り、異常が無いか確認を取っているようだった
たった1撃でそれほどの衝撃だったのだろう

『お主、できるな!』

「は?何なんだよ、このじいさん」

シルトがエインに目をやりながら言うと
彼が答える前に棒の持ち主が自ら主張した

「わしの名はタイセイ、ただの殺し合い好きだ」

シルトを押し退けた棒は一瞬で縮み、2メートル50ほどになる
それを地面に突き立て、タイセイは歯を見せニヤける
その歯は鋭く、まるで獣のような印象を受けた

あの棒、伸び縮みするのか・・・アーティファクトか?
太さも変わると思っておいた方がいいだろうな
シルトは突如現れたこの敵の分析を始めていた

「タイセイ・・・さん、総長である貴方が何故前線に」

エインが聞くがタイセイの耳には届いている気配はなかった
タイセイの目には眼前のシルト以外映っていない

「じいさん、アンタがヒッタイトの大将なのか」

手の痺れがなくなり、構え直したシルトは問う

「いかにも」

タイセイは一言で返し、棒を握る拳に力が入る

「お主、名を何と言う」

「シルト」

「ほぅ・・・覚えたぞ」

タイセイの歓喜していた
それはまるで子供のようにも見え、狂人のようにも見える
おそらく後者であろうその表情で彼は言う

「200年・・・200年ぶりだ、わしの一撃を受け、生きている者は」

「は?」

200年?何言ってんだ、このじいさんは
見たところ人間だ、200年など生きれる訳がない
それともこっちの世界には見た目は人間の長寿種でもいるのか?

「長き日々、数多の戦場を渡り歩いた・・・
 久しいこの高揚感・・・嬉しい、嬉しいぞ!シルト!」

「そりゃどうも、でアンタ大将なんだよな?
 って事はアンタを殺せばこの戦争はこっちの勝ちってわけだ」

ぽんぽんぺいん

シルトはエインの様子を伺いながら構える
エインの銀の腕は動きが鈍くなっており、左腕は負傷している
警戒だけしておけば何とか反応は出来るだろう
それよりも目の前にいる敵の総大将であるこの男を殺した方がいい
だが、先程の尋常ならざる一撃から楽な相手ではないのは明白だった

「いかにも、かかって来るがよい、わしを楽しませろ」

そう言い、タイセイの空気が変わる
ゆっくりと構え、彼は手で来いと合図を出す

城壁解除

シルトが全速力で走り出し、一気に距離を詰める
フルプレートと思えないその速度にタイセイはニヤりとした

初撃は左上段から振り下ろし、それは棒により防がれる
タイセイは防ぐと同時に棒を回しカウンターを入れた
だが、それをシルトが常闇の盾で防ぎ、打ち合いが始まった

キンッ!ゴンッ!キンッ!ゴッ!

一撃一撃が信じられないほど重く、握力は奪われてゆく
このままじゃマズい、そう判断したシルトは引こうとするが
そこに強烈な突きが放たれた

ゴォォォォンッ!

何とか常闇の盾で防ぐが、威力が強すぎて受け流す事は出来なかった
凄まじい衝撃が全身を襲い、バランスを崩す
そのまま後方へと2回転して止まり
即座に盾を構えるが追撃は無かった

「シルト、お前ナメているのか?このわしを」

「そりゃ無理だ、手を抜ける相手じゃないだろ」

「そうか・・・此奴が邪魔、という事か」

その瞬間タイセイの棒が伸び、エインの胸部のプレートにめり込む

「がっ・・・はっ」

エインの身体は何回転もして吹き飛んでゆく
停止した彼はぴくりともせず、気を失ったようだ

「これでこの戦いに集中できよう」

「おいおい、仲間じゃないのかよ」

「ははっ!わしに仲間などおらぬわ!」

その一言でシルトは理解する
この男はヒッタイトなんてどうでもいいのだ
ただ戦場を求めてここに来た、それだけの男なのだと

「仲間とは弱者のためのもの、わしには必要無きもの」

「アンタが強いのは認めるが、それには同意できないね」

「ふっ、くだらん
 これ以上の言葉は不要・・・・参る!」

シルトはシャルルの作り出した竜巻が消えたのを目にして
それ以降は目の前の敵に集中する事にした
今から相手するこの男は一瞬の油断も許されないからだ

「もう少しだけ頑張っててくれ・・・」

シルトの願いにも似た言葉がこぼれた

・・・・・

・・・



風樹魔法の作り出した巨大な竜巻の中央にシャルル、サラ、バテンがいる
風と砂の壁に阻まれプララーとアシュは近寄れずにいた

竜巻の中、バテンはサラを離すまいと必死に力を込めている
彼女を離せばこの戦いに勝機は無い
見たところこの竜巻は防御魔法のようだ、殺傷力は無いだろう
だが、見たことも無い魔法に僅かに嫌な汗が流れる

バテンにとってハーフキャットとは亜人の仲間であり
一部の者がそういった者たちを性奴隷にしているのは知っている
そういった知識でしか知らない種族だ
好きも嫌いも無かったと言えるだろう

そもそも半亜人は数が少ないのだ
ドラスリアに半亜人は片手で数えられる程度しかいない
その僅かな半亜人も貴族のくだらないお遊びで飼われているにすぎない
自分には関係の無い存在、そう思っていた

この旅に参加し、ハーフキャットの戦いぶりを数度は見た
恐ろしいまでの身体能力、反射神経、バランス感覚
常人が極限まで鍛え上げても手に入るか判らぬ領域を彼女達は有していた

バテンは女だからと手加減する男ではない
戦場で出会えば男女など些細な問題でしかないのだ
だから油断などしていない、する気もない

それがどうだ、この有り様は・・・全く情けない
自身の満身創痍な姿に呆れた笑いがこぼれる
今の自分はこの少女を抑える事しか出来ないのだ
この手を緩めれば次は無いだろう、そう思い、彼は腕に力を込め続ける

「痛っ・・・」

バテンの太い腕で圧迫され、サラは腕と盾に挟まれ呼吸がしにくく
骨の軋む感覚、肉が引っ張られる感覚、それらが襲い
苦痛から顔を歪ませ身悶えるが、この腕はピクリともしなかった

「シャルルっ」

風樹魔法を発動中のシャルルは視線だけをサラへと向ける
そこには苦しむ彼女の姿があり
どうにかしてやりたいが今は動く訳にはいかなかった

「もう少しだけ待ってて!」

シャルルは杖を突き立て、少量の魔力を込めて手を離す
杖に込められた魔力が風樹魔法を維持している状態だ
彼女は指輪の鎖を指でなぞり、再び魔力を練り始める

「双生の芽生え、花舞い散らす風木よ」

シャルルの両手に淡い緑の風が渦巻く

「双生の芽吹き、草木踊る風木よ」

それは次第に加速してゆき、勢いを増してゆく

「リーガベント・ジェメ!!」

彼女の新たな風樹魔法が発動すると同時に巨大な竜巻は崩壊してゆく
杖に込めた魔力が切れたのだ
だが、新たな竜巻がシャルルの両腕を包み込むように発生していた

「おっし!できた!!」

旅の途中で幾度となく練習し、風樹魔法の制御にも慣れてきていた
その過程で新たな魔法を発見した、小規模の風樹魔法リーガベントである
ベントアルボのような大魔力は必要とせず、少量の魔力で済むため
使い勝手が良いだろうという事で練習していた魔法である

だが、彼女は魔法の天才ではない、努力の天才なのだ
何度も何度も失敗を続け、成功したらその感覚を忘れないよう練習し
繰り返し身体に記憶に刻んでいったのである
その成果により、この危機的状況で成功という結果をもたらした

更に彼女はこの状況でもう1つ成功している事がある
それはリーガベントを2つ作り出した事だ
二重詠唱、高位魔法使いでも難しいとされる魔法の同時発動だ

同じ魔法の二重詠唱は同じ呪文を使ってはいけないという法則がある
それは同じイメージだと1つしか発動出来ないからだ
そのため、似ているが違う呪文を詠唱したのである

今回は同じ魔法を2回発動させたため、多少難易度は落ちるが
同時に2つの魔法を発動させるのは魔力コントロールが非常に難しいのである
では、何故魔法の天才でない彼女がこれを成功出来たのか
それは"アーティファクト装備"によるところが大きい

彼女の発動している風樹魔法はそもそも生と風の融合魔法だ
融合魔法はそれ単体だけでも高難易度の分類に入るものだが
その1番難しい部分をアーティファクト装備が補助してくれているのだ
あの指輪は彼女が思っている以上に優秀なのである

「っ!」

バテンはシャルルの両腕を見て目を丸くする
先程までの防御魔法とは違う
小型だがあの形状は攻撃魔法の類だ、そう直感で分かった
だが、この腕を解く訳にはいかない!

「ふんっ!!」

腋の傷口が開き血が吹き出すが、バテンは更に力を込める

「かは・・・っ」

サラは強烈な締め付けで完全に呼吸は出来なくなり
ゆっくりと意識が薄れていく感覚に包まれる
だが、その少し心地良い感覚はすぐに終わりを告げた

『さっ、せっ、るっ、かあああああああああああっ!!!』

シャルルが竜巻が発生する両腕を二人の隙間に差し込む
右手はサラの盾に、左手はバテンの鎧に押し付けるようにし
彼女は両腕に魔力を込める、すると腕から白い雷の枝が生え
小型竜巻に刺さると、その威力は劇的に変化していった
刹那、バテンとサラの身体は左右に吹き飛ばされる

「ぐぅっ!!」

バテンがゴロゴロと回転してゆく
サラは仰向けのまま砂の上を滑ってゆき、砂にめり込んで止まる

「げほげほっ」

やっと呼吸の出来たサラはむせるが、何とか呼吸を正す
リーガベントが押し当てられたミスリルの盾の表面は僅かに削り取られていた
それを見て少しゾッとする

砂埃が風に流され、シャルルの近くで急速に向きを変える
彼女の両腕の竜巻が放つ風が砂埃を地面へと叩きつけていた
リーガベントは腕から竜巻が生えている状態だ
そのため、風向きは彼女の肩から手の方向に向かうのである

6メートル近く転がったバテンは意識を失う
彼のスチールプレートの胸部は大きくえぐられ
中に着ているチェインシャツが姿を見せていた

ゴオオオオオォ・・・・

リーガ・ベント

暴風が鳴り、砂が舞い上がり、淡い青髪の少女の身体が浮き上がる
その光景を見た者は後に語った「伝承の嵐神のようだった」と・・・

「ちょっと今度は何よアレ~」

プララーのふざけた声がアシュの耳にも入るが答えられるはずもなかった
アシュ自身も信じたくない光景だったからだ

「あの桃猫だけでも厄介だってのに、なんだありゃ
 1等級ってのはどこまでふざけてやがんだよ・・・くそっ!」

勝てない、ハッキリと分かった、実感しちまった
もうこっちはズタボロだ、なのにあっちはヤバそうなのが追加だ
団長が吹き飛ばされて動きやしねぇ、間違いなくヤツにやられたんだろ
桃色の方も立ち上がって来てる、こりゃもう詰んだな

アシュが諦めかけた時、暴風の音に混ざり声が届く

「お・・・し・・たわ!」

声の方に目をやるとそこには青い衣と鮮やかな鎧に身を包む
金髪の令嬢、ミラ・ウル・ラシュフォードの姿が見えた
更に、その横には長い黒髪が風になびき、手で抑えている美しい女性
この戦場で最強に最も近い存在、死の巫女リリム・ケルトもいた

「ははっ・・・ナイスタイミングだぜ、ミラさまぁっ!!」

いける!死の巫女がいりゃいけるかもしれねぇ!

「敵は・・・あの方達なのですか?」

リリムが複雑な表情をして目を細める

「あぁ、猫二匹だ、俺たちはもうダメだ、後は頼む」

アシュはまともに立っている事すら厳しい状態だった
プララーの治療を受けたとは言え応急処置でしかない
援軍が来たという安堵感から一気に力が抜け尻もちをついていた

あれ?エインは?とリリムが辺りを見渡すと
少し離れた位置に彼が倒れているのが目に入る

「エインっ!」

リリムが駆け寄ろうとするが、ミラがそれを止める

「今は目の前の敵に集中なさいっ!
 彼なら大丈夫ですわ、神の勇者ですわよ、信用なさい」

後ろ髪を引かれる思いだがリリムは黙ってそれに従う
状況を確認したいミラはプララーに声をかけた

「アナタは動けるのかしら」

「えぇ、大丈夫よん」

「団長は・・・駄目そうですわね」

「そうね・・・生きてはいると思うけど・・・」

「相手は紅焔と蒼天ですか、よく持ちこたえてくれました」

二人の強さを知っているミラだからこそ現状は賞賛に値するのが解った
プララーからハーフキャットの二人が不殺を貫こうとしている事を聞き
その自由さがハーフブリードらしいと少し笑ってしまった
だが、これはとても良い情報だった

紅焔には剣の技量、身体能力は間違いなく勝てないだろう
だが、それが不殺だとしたらどうだろうか
こちらはどこを狙ってもよくて、相手は手足しか狙えない
相手の狙う位置が絞られているというのは大きな差となり得る

わたくしの戦い方なら・・・

「リリムさん、貴女はあの竜巻娘を何とかしてくださいまし
 わたくしとプララーで紅焔を止めてみせますわ」

「わかりました、無理はしないでくださいね」

「わかっていますわ」

無理をしないで済む相手では無いのは・・・

「行きますわよ!」

皆が頷き、一斉に走り出す
ミラとプララーは一直線にサラへと向かい
リリムは距離を取って詠唱を始めようとしていた

だが、サラとシャルルもただ見ている理由がない
サラは大地を蹴り、爆発にも似た砂煙を上げ、一気に跳躍する
恐ろしい速さに軽い恐怖を感じるが、これは想定内だった
ミラはレイピアを構え、待ち受ける

キンッ・・・ギギギギ・・・

サラの一撃をレイピアで受け、するりと受け流す
レイピアは受け流しが基本戦術の1つなのだ
剣の天才と言われたミラにそれが出来ないはずがなかった

体勢を崩されたサラは一旦距離を取ろうと大地を蹴る瞬間
ミラの高速の三段突きが放たれる

ドドドッ!

それはほぼ同時に3発が肩をかすめ、熱くなるような痛みを感じる

「浅かったわね・・・次こそは!」

ミラが再び右半身だけを向ける独特な構えを取る
それを見てサラは理解した
この人は対人に慣れてる、油断したら殺される
これに頼るしかない、かな・・・

サラは太ももに巻いているベルトに挿しておいた筒を1本取り出す
それを魔法剣にセットし、柄の上部を勢い良く叩く

ガチャンッ!

魔法筒が装填された事により剣に魔力が供給されてゆく
排気口となっている小さな穴から煙が吹き出し、キュポンッと筒が飛び出す
そして、刃が僅かに震え出し、風が吹いた

「・・・・あの剣はなんですの?」

ミラがサラから目を離さないままプララーに聞く
だが、プララーも初めて見たのだ、答えられる訳もない

「わからないけど・・・魔力を感じるわ、気をつけてねん」

「魔力・・・アーティファクトの類なのかしら・・・」

だとしたら厄介だ、アーティファクトとはそれ1つで
戦況をひっくり返してしまうほどの力を秘めている

「不味そうですわね・・・」

ミラの頬に冷たい汗が1滴流れていった

・・・・・

・・・



それと同時刻、リリムとシャルルの戦いも始まっていた
と言ってもこの二人の場合は戦いとも言えない状況なのだが・・・

「待てええええっ!」

「ひぃ~!」

シャルルがリーガベントを操り、半分浮くように移動し
その速度はそれなりに早く、リリムの詠唱が間に合わないのだ
その結果、二人は追いかけっこのような状況になっている

しかし、森で鍛えられたリリムの足はかなり早い
シャルルがリーガベントを使わなければ追いつけるだろうが
それでは攻撃手段が無いと言っていい
そのため、魔法を維持しながらのフワフワとした移動をしていた
このままじゃ埒が明かない、そう思ったシャルルは両腕に魔力を込める

ゴオオオオオオオッ!

途端に竜巻は大きくなってゆき、シャルルの身体は中空へと浮き上がる

「おぉぉぉ!」

飛びすぎた事によりバランスを保とうと必死に暴れていると
たった2秒程度だが隙ができてしまった

「滅びの理りよ」

精神を集中し、杖に魔力を込め、呪文を唱え終え
リリムの手の先に黒い珠が出現する、破壊魔法である
彼女が珠を操作し、それはシャルル目掛けて動き出した

まだ完全に制御できている訳ではないが
リーガベントを横へ向け急速回避をする
だが、破壊の珠はシャルルを追尾し、徐々にだが追いつかれていた

まるで先程の立場が逆転したかのように
リリムの破壊魔法が追い、シャルルが逃げるという追いかけっこが始まった

「ひぃー!!待って待って、ちょ、待って!」

シャルルが半泣きで必死に嘆願するがリリムは手を止めない
その瞬間、シャルルの集中力が切れた事が原因で片腕のリーガベントが消滅する
大きくバランスを崩し、顔面から砂に叩きつけられ
口に入った砂をペッペッと吐き出していると
魔力が迫っているのを感知した

「あっ・・・」

振り向くとそこには黒い珠が迫っていた
もはやこの体勢では避ける事は出来ない
あの珠に触れればどうなるかは知っている
色々な感情や記憶が溢れ、目からは涙が溢れてきた

ゴッ・・・

シャルルの目の前、50センチほどの位置に見えない何かがあった
言うなれば見えない壁だろうか
破壊の珠は見えない壁に当たり、潰れるように形を変え
前に進めないようだった

「へ・・・?」

シャルルが目の前で止まっている破壊魔法から目が離せないでいると
遠くから歩いてくる膨大な魔力に気がつく

『ジーンっ!!』

彼女は100メートル近く離れているが
障壁を操作し、シャルルの手前に展開したのだ
そこからジーンは障壁を使い、一気に跳躍してくる
ものすごい砂煙が上がり、一瞬でシャルルの元へと辿り着いたジーンは
彼女の頭を撫で、少しだけ微笑む

「おまたせ」

「遅いよ!バカジーン!」

シャルルが嬉しそうに耳をピクピク動かし
尻尾を振りながら怒っているのを見て
ジーンはクスクスと笑い、すぐに正面を見据える
油断してはいけない相手がすぐそこにいるのだから・・・

「・・・・1つ聞いてもいいですか」

リリムが口を開いた、それにはジーンも驚く

「どうぞ」

「その魔力は何なのでしょうか?
 ・・・・何と言いますか、とても禍々しいものを感じます」

リリムの全身から汗が吹き出す、これは嫌悪感と恐怖からだ

「ただの悪魔ですよ」

「え?」

「私、アムリタで悪魔になっちゃったみたいなの」

「あくま・・・・あの悪魔ですか?」

「みたいね」

リリムは考え込む、悪魔とは絵本などで出てくるアレだ
神話戦争で戦った相手と聞いた
目の前の"元素のジーン"はそれになったと言う
信じがたい事だが、ファゴ・メティオールを弾いたあの力
それは揺るぎようのない事実だ

「ただの悪魔に巫女二人の融合魔法を止められるのですか?」

素直に疑問をぶつけてみる、これは純粋な好奇心でもあるが
これから戦うであろう敵を知りたいという思いでもあった

「悪魔王アスタロト、それが今の私
 ハーフブリードのジーン・ヴァルターでもあるけどね」

「悪魔王・・・」

記憶の中からその単語を引き出す
青の大鷲団長のディムナから聞いた話にそんなのが出てきた
四神をも上回る存在、悪魔王
それが今の彼女・・・納得など出来ないが、事実は変わらない

「なるほど・・・もう1つだけ聞きます」

「どうぞ?」

「貴女は敵なのですか?」

「今は、ね・・・・シルさんと約束もしたから」

彼女達を守る、その約束は守る
ジーンは彼女達を戦場に引っ張り出したからには果たすつもりだった

「解りました、なら全力を出します
 死にたくなければ引いてください」

リリムはそう言って杖を砂へと突き立てる
そして、彼女の両手に膨大な魔力が集まってゆく
だが、ジーンにとっては大した事はないと言ってもいい

「止めたほうがいいと思うけど?
 いくら死の巫女でも私の障壁は破れないよ」

「そのようですね」

そしてリリムは詠唱を始めた

「大空、大気、大地、異なる3つの大いなる存在を私は否定する・・・・」

ジーンは背後で砂を払っているシャルルをチラっと見て言った

「急いで逃げて、何かマズいの来そう」

「わかった、サラの援護に行くね!頑張れ!」

シャルルの魔力が遠ざかるの感じながら、ジーンは障壁を操作する
今彼女が攻撃しない理由があった
それは死の巫女の全力とやらを防げるのか試したいからだ
そんな事を考えていると、心の中で声がする

・・おい、あれを詠唱させるな

・・え?

・・急げっ!

珍しくアスタロトが声を荒げる
だが、その警告も少しばかり遅かった

「死の安らぎを・・・・滅びよ」

リリムの目から光が消え、彼女がふぅっと息を吹きかける
すると、何も起きてないように見えるが
ジーンの魔力だけを見る眼にはハッキリと映っていた
濃厚な死の魔力が辺りを包んでゆくのが・・・

障壁を全方位に展開し、守りに徹する
が、ジーンの視界がぐらっと揺らいだ

「・・・・・・」

声を発しようとしたが声が出ない
そこで彼女は気づく、空気が無いのだ
刹那、全方位からとてつもない圧力みたいなものを感じる
まるで途端に海の底に移動させられたような、全身に水圧が掛かるような
そんな力が彼女を圧迫していった

・・だから言ったであろう、愚か者め

・・なんなのこれ、キツい

・・近辺の空気を殺したんだろう

頭では理解した、でもどう対処すればいいのよ
こんな無茶苦茶が出来るなんて、巫女を侮っていた
酸素の足りない頭では冷静な判断が出来ない
そこでジーンは無茶苦茶してみようと思った
障壁を適当に操作しまくり、辺りの空気を撹拌(かくはん)する

だが、いくらやっても空気は無いままだった
それもそうだ、障壁は空気は通してしまうのだから
そして、リリムの作り出した"結界"に触れた空気は死滅するのだから

酸素の限界に達しそうになり、意識が朦朧としてゆく中
ジーンは閃く・・・・ここだ!

彼女は全障壁で足元の砂を思いっきり吹き飛ばす
大爆発が起き、砂煙は40メートル近くまで上がる
巨大なクレーターを作り出し、ドーム状の結界の下を通り抜け
外に出て大きく息を吸い込んだ

「すぅぅぅぅ~~~・・・・・はぁ~~~~」

本当に死ぬかと思った
死の巫女をナメてはいけないわね、教訓教訓
呼吸を整えながら学んだ事を胸に刻んでいると
砂煙の中から無数の魔力の珠が向かってきているのが見えた

「不意打ちのつもりだったんだろうけど・・・残念」

ジーンの眼には魔力がハッキリと見える
視界の悪さなど関係ないのだ
12枚の障壁を操作し、1つ1つを対処していった

「ええ・・・これでもダメなの・・・」

リリムは正直焦っていた
この流れで止められないならもう究極魔法しかない
だが、1対1で使うには究極魔法は時間が掛かり過ぎる
どうするべきか必死に悪魔王の攻略法を探していた

・・・・・

・・・



サラの魔法剣に風が集まってゆき、高音が鳴り響く
耳障りな音だが今はそうも言っていられない
軽く剣を振ってみるが重さは変わっていないようだった
だが、剣を振り抜くと触れていないはずの地面に亀裂が入る

「これなら・・・」

サラが体勢を低く構え、ミラを見据える
大地を強く蹴り、膨大な砂を巻き上げながら跳躍した
ミラは右半身をサラに向け、左手は背中の腰辺りに回し
レイピアの切っ先を彼女の剣に合わせて動かしていた

サラは全速力で駆け抜け、通り過ぎ様にミラの手首を狙う
だが、それはミラのレイピアに防がれるが
勢いが強すぎてミラには受け流す事は出来なかった

ずざざざーっと滑りながら止まったサラは再び構える
が、彼女の顔は真っ青に染まった
その表情を不思議に思いながらミラは再び構えようとする、と
剣の切っ先は地面へと向いていた・・・・
右手首がほとんど斬られ、薄皮一枚で垂れ下がっている状態なのに気づいた

「あ・・・・あぁ・・・・・いやあああああああああああああっ!!」

ミラが大粒の涙を流しながらしゃがみ込む
すると、右手首と右脇腹から大量の血が吹き出し
彼女の青い衣と砂を赤黒く染めてゆく

「ご、ごめ・・・ごめんなさい・・・私、そんなつもりじゃ・・・」

サラの目にも涙が溢れ、頭をふるふると横に振っている
耳や尻尾は力なく垂れ下がり、膝はガクガクと笑い出す

「シャ、シャルル・・・シャルルーーーーっ!!』

サラが叫ぶと、返答は予想よりも近くから聞こえた

「任せてっ!」

即座にリーガベントを解除し、両手に生の灯火を発動する
そのままミラへと駆け寄り、彼女の右腕を元の位置に戻して押し当てた

『あああああああああああああっ・・・・・くっ』

激痛から叫んでしまうが、左腕を噛む事で堪えた

『そこのオカマ!早く手伝え!生の魔法使いでしょっ!』

シャルルがプララーを見もせず怒鳴ると
その気迫に押され、プララーもミラの治療を始める

「ご、ごめんなさい・・・」

サラが深く頭を下げる
ポタポタと涙が地面に落ち、砂の色が変わる
その光景を見て、ミラは小さく笑った

「不思議な人達ですわね・・・うっ・・・貴女達は・・・」

「喋るなっ!」

シャルルが怒るが、ミラは話すのをやめる気はないようだった

「先程まで殺し合っていた相手を迷いもせず治療しようだなんて・・・
 本当に・・・げほっ・・・・本当に不思議な方達ですわね」

プララーは普段しない内部の治療を始めるが思うようにいかず
あぐねいていると、シャルルが怒鳴った

「何してんの!死んじゃうでしょ!!こっちやって!」

プララーに右手首を任せ、シャルルは右脇腹に移る

「ごめんなさい・・・・私、こんなつもりじゃ・・・剣が・・・魔法かけたら・・・」

「サラもうっさい!気が散る!」

シャルルに怒られ、サラはしょんぼりとその場にへたり込む
溢れる涙は止められず、ただただ泣いていた

・・・・・

・・・



激動の最前線の裏で、メンフィス本隊では儀式が進んでいた
ナビィの祈りは続いており、彼女の描いた魔法陣は輝き出す

澄み渡っていたはず空にはいつの間にか雲が渦巻き
それはナビィの遥か頭上でゆっくりと回転を始め

その中央には小さな穴が開く

穴から光がもれ、雲により薄暗くなった中
ナビィだけが照らされている状態になる
それがどことなく神聖な光景に見え、メンフィス兵は息を飲んだ

「・・・・・来る」

ナビィは立ち上がり、空を見上げた・・・・



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