2017_05
18
(Thu)08:50

ナラビカミ 序章

オリジナル小説 【ナラビカミ 序章 誘い】

多分、おそらく、きっと短編予定です。
カタクリズムが全く進まないので息抜きに書いてみてまする。

では、続きを読むからどうぞー。







ナラビカミ【序章:誘い】





「始まり…忘れちゃ……後悔はして……なら…いいよ」

・・・・・

・・・



カーテンの隙間から入る春の暖かい陽射しが顔を照らし、その眩しさに目が覚める。
先程まで泥沼の底に居るような重さが身体の自由を奪っていたが、
目が覚めてしまえばどうという事はない。

「…朝、か」

何か夢を見ていた気がするが思い出す事が出来ない。
確か赤い雪が降っていたような…そこで夢は抜け落ちてゆく。

「ダメだ、消えた」

消えてしまった夢を追い求めても時間の無駄だ。
ふとした時に思い出すかもしれない、そう思って身体を起こす。
だが、俺の身体は冷え切っていた。

「寒っ」

身体はぶるっと震え、両手で腕を擦った。
寝起きはいつもこうだ。
俺は何故か寝ると極端に体温が下がってゆく。

医者が言うにはおそらく低血圧だろうとの事だが、正確な原因は解っていない。
精密検査もしてみたが、結局医者もお手上げの状態だった。

「…ま、命に別状はないらしいし、すぐに体温は戻るからいっか」

誰に言うわけでもなく独り言ちる。

今は午前5時半。

俺はいつもこの時間に起きる事にしている。
両親は早くに他界し、親戚の家をたらい回しにされ、
今の保護者である遠い親戚夫婦は俺にボロ家(倉庫として使われていた)を与え、
月に3万円だけを送って寄こすという放任っぷりだ。
そのため、俺は朝から朝飯と昼の弁当を作らねばいかんのだ。

コーヒーメーカーのスイッチを入れてから、
軽くシャワーを浴びながら歯を磨く。
出た頃には出来上がっている熱々のコーヒーを一杯飲み、ほっとため息を洩らした。

別にシャワーなど浴びなくとも体温は戻るのだが、
なんとなく習慣になっているので毎朝浴びる事にしていた。
汗が引いた頃に制服へと着替える。

昨晩タイマーをセットした炊飯器が動き出し、俺は料理を始める。
大根と玉ねぎの味噌汁を作り、目玉焼きを作る。
毎日飽きもせず繰り返す簡単な朝食だ。
ついでに卵焼きも作り、自然解凍で食える冷凍食品と共に弁当箱に詰める。
後は米が炊きあがれば朝の面倒事は終わりだ…いや、もう1つあったか。

玄関でサンダルを履き、外へと出てゆく。
向かいの家の婆さんが会釈をするのでそれを返し、そのまま隣の家へと向かった。

『おーい、起きてるかー?』

隣の家の二階の窓に向かい大声を上げる。

午前6時55分。

大声を出すには微妙な時間だが、
ご近所さんにもこればっかりは勘弁してもらっている。
むしろご近所さんはこの毎朝の光景を微笑ましく見ているようだが…。

そんな事を考えていると二階の窓がガラッと開き、
眠そうな目を擦りながら黒髪の少女が顔を出す。

「空ちゃん、おはよぉ~」

空ちゃんというのは俺の事だ。
俺の名は【尾野 空(おの そら)】という。
ちなみにこの眠そうな声の少女は【大多良 海未(たたら うみ)】である。

見た目こそ良いのだが、普段はのんびり屋で何事も要領の悪い女の子だ。
海未が失敗する度に俺が手を貸して何とかしてきた。
ようは尻拭いってやつだ…ま、俺も好きでやってるんだけどな。

海未は俺とは遠い親戚にあたるらしく、妹のような存在と言っていい。
と言っても同い年なんだけどな?というか、誕生日まで同じなのだ。

今の保護者に引き取られてから6年、
家が隣りなのもあり、海未といる時間が一番多かった気がする。
小・中・高と同じ学校に通っているのもあって、俺達はいつでも一緒にいた。

「ちゃんと起きろよ?」

「うん、大丈夫だよ~。もうばっちり起きたから」

Vサインを向けて笑う海未の笑顔はとても可愛いものだが…。

「お前、寝癖直してから降りて来いよ?すごい事になってるぞ」

『えぇっ!?』

海未が素っ頓狂な声を上げ慌てて身を隠す。
少ししてから二階の部屋から情けない声が響いた。

「…ああああぁ、空ちゃんにこんな頭見られた…もうお嫁に行けないよ~」

いや、俺に見られても嫁には行けるだろう。
さて…海未も起こしたし、俺は朝食でも食うか。
毎朝の日課を終えた俺は踵を返しボロ家へと戻る。

建付けの悪い玄関の扉から家に入り、
狭い廊下を通ってダイニングキッチンへと移動した。
ダイニングキッチンなんていう横文字が似合う家ではないけどな…。
台所に小さなテーブルがあり、そこで飯を食ってるだけだ。

炊飯器がピーピーと音を鳴らし、米が炊き上がる。
細やかな朝食を済ませ、弁当箱に熱々の炊きたてご飯を詰め込む。
この熱で冷凍食品が自然解凍され、昼には美味しくいただけるって寸法だ。
いやぁ、ニチ○イ様様である。

食後のコーヒーを飲んで一息ついていると、
音の割れたインターホンが鳴り響く。

ぷぃぃぃんふぉぉぉんっ

『今行くから待っててくれ』

大声で返し、マグカップを水につけて、コーヒーメーカーの電源を切る。
火がついていないか、鍵を閉め忘れていないかチェックし、
学校指定の鞄を手に取り、玄関へと向かった。

「悪い、おまたせ」

「ううん、それじゃ行こっ」

外で待っていた海未は先程とは別人のように真っ直ぐで綺麗な髪をしていた。
彼女の黒髪はとても深い黒で、僅かに青みを帯びている。
濡烏(ぬれがらす)と呼ばれるとても綺麗な髪をしている。

大多良海未1

海未は歳の割には背が低いが、その髪はとても長い。
彼女の臀部が隠れるほどと言えば伝わるだろうか。

「よくあの寝癖直ったな」

二人並んで高校へと向かう。

「もう、その話は言わないでよ~」

ここはドがつく田舎町だ。
バスが日に2本しかないという事で察してくれ。

通学路の大半は森の中を通る事になる。
高校までの道のりはさほど遠くはないが、森は薄暗く、
都会から田舎に変質者がわざわざ来るなんて噂もあり、海未と二人で通学している。

見た目だけは良いからな、こいつは。
身体がちっこいから襲われたら抵抗なんて出来ないだろう。
しかもこんな森の中じゃ助けなんて呼んでも来やしない。
のんびりしてるところもあり、俺は心配なのだ。

一応程度に舗装されている道を進み、森を抜けると、
遠くから笛や太鼓のような音が聴こえてくる。

「お?もうそんな時期か」

「うん、来月が"国生み祭"だよ」

「今年は海未が踊りやるんだっけか」

「う…踊りじゃなくて"舞"ね」

海未の表情が曇る。
彼女は人前で踊る事が恥ずかしいらしい。

毎年ある国生み祭では1人の舞姫が選ばれる事になっている。
それはこの町の産まれの16歳の少女と決まっていた。
で、今年は16歳になったばかりの海未が選ばれたという訳だ。

舞姫とは、白装束に身を包み、太鼓や笛の音に合わせて舞う巫女の事である。
国生み祭とは、この地の二柱の神を称える祭。
その最後に舞姫が神へと舞を捧げ、祭は終わる。

「楽しみにしてるから頑張れ」

「…うぅ、わかった」

彼女の綺麗な黒髪の頭をポンポンと撫でると、
海未は僅かに頬を赤らめ、満足気に微笑むのだった。

・・・・・

・・・



「始まり…忘れちゃ……後悔はして……なら…いいよ」

赤い雪が降っている。
徐々に空は夜の闇が支配してゆき、赤と紫の世界が広がっている。

赤い雪なんてあるんだな。
そんな事を思いながら俺は辺りを見渡そうとする…が、身体が思うように動かない。

なんだこれ?おかしいな、どうして…。

そこまで考えて俺は気づいた、声すら出ないのだ。
まるで自分の身体じゃないみたいな感覚。
その感覚は恐ろしく、身体が動くのであれば震えていただろう。

助けてくれ、誰か、誰か、助けてくれっ!

必死に助けを呼ぼうとするが、声は出ない。
かろうじて目だけは動かす事が出来る。
俺は視線を右へとずらして行き、視界の隅に1人の少女を見つけ……。

・・・・・

・・・



パーンッ!

「痛っ!何しやが……」

条件反射で出た言葉を途中で止める。
今の状況を瞬時に理解したからだ。

「尾野、授業中に寝るとは何してやがる?」

筋肉ムキムキの赤ジャージの教師、女子バレー部顧問の渡辺が顔を覗き込んでいた。
通称赤ゴリと呼ばれるこの男は、男にだけは厳しいと評判の教師だ。

「…すみませんでした」

渡辺こと赤ゴリは歴史の授業を教えている。
前は結構頭の良い大学で講師をしていたらしいが、
今はこんな田舎の高校教師をやっている。
何が良くてこんな田舎に来たのやら…。

「次はないと思えよ、尾野」

教科書で頭を2回叩かれ、赤ゴリは授業を再開する。
くっそ、今に見てろ赤ゴリめ。
奴を貶める作戦を練り始めた時、教室の扉が開いた。
クラスの皆が扉に注目し、そこに立つ美しい脚線美の女性に目が行く。

女性の名は【速見 楓(はやみ かえで)】。
この高校の養護教諭、ようは保健室の先生だ。
男子からの人気の高い、海未とは正反対の大人の色気たっぷりの女性である。
ちなみに胸がデカいのが男子人気を加速させている要因だ。

「渡辺先生、失礼します」

「はいはい、速見先生どうなさったのですか」

鼻の下をだらしなく伸ばし、赤ゴリが駆け寄る。

「尾野くんはいますか?尾野空くん」

突然自分の名前が呼ばれて驚いていると、
俺を見つけた速見先生は赤ゴリをするりとかわし、早足で俺の元まで来る。

「大多良さんが…ちょっと来て」

「は?」

速見先生は俺の腕を掴み、急ぎ足で教室を出る。
俺は引っ張られるように保健室まで連れて行かれ、
状況を飲み込めずにいた。

保健室のベッドに横たわる海未の顔色は青白く、
誰が見ても体調が悪いのが明らかだった。

「海未っ!」

俺は彼女に駆け寄り、その手を握る。

「冷たっ…なんだこれ」

背筋がゾッとする…何か嫌な感じがする。

「せ、先生…海未は…」

「………」

何も言わず俯く速見先生から視線を動かし、海未の顔を覗き込む。
顔には血色というものが感じられない気がした。
その顔色が、手の冷たさが、恐怖と不安となり心を埋め尽くしてゆく。

「海未…嘘だろ…」

涙で視界が歪む。
その瞬間、握る手がピクリと反応した。

「海未っ!!先生、海未が!」

海未が反応した事を速見先生に伝えると。

「えぇ、ただ寝ているだけよ、静かにしなさい」

彼女は当然の事のようにそう言った。

「は?」

どういう事だ?なら何故先生はあんなに慌てて俺を連れて来た?
海未の低体温はなんなんだ?それに顔色も…。
そこで1つの答えが降ってくる。



「俺と…同じなのか?」



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