2015_11
19
(Thu)16:12

1章 第9話

オリジナル小説 『カタクリズム』
1章 第9話 【死】

今回は暗い話が多いかなぁ?
でも大事な話なのです。

では、続きをを読むからどうぞー。










【死】








気がつけば雨は止んでいた

巨大な魔獣ゴトビキは火口へと落ちた
共に落ちたロイを救出するため、ガゼム達は走り出す


一方、ハーフブリードの面々は・・・


「ジーン!ロイさん巻き込んでるじゃん!!」

シャルルが物凄い剣幕でジーンを問い詰めている
そんな彼女にジーンは冷めたような態度で言う

「これ以上被害を増やす訳にはいかないでしょ?」

「だからってロイさんを巻き込んでいい事にはならないでしょ!」

「私だって好きで巻き込んだ訳じゃないよ?
 確かにこの可能性は高かったけど、他に手段があった?」

シャルルは一瞬黙り込むが、顔を上気させ食い下がる

「そういう事を言ってるんじゃないの!
 仲間を傷つけたんだよ!?少しは反省しなよ!!」

ジーンはため息を洩らし、わかったよとだけ答えた
そんな態度にシャルルは怒りが込み上げ、眼には涙すら溜めている
そこへ山頂へと上がってきたシルトが小走りに駆け寄り、止めに入った

「まぁまぁ、とにかく落ち着いて」

シャルルの怒りは収まっていないが、シルトに言われ、多少冷静さを取り戻す
サラとラピが心配そうに見守っており
ジーンとの距離を取ったシャルルに二人は駆け寄る
それを見て後は二人に任せようと思い、ジーンに歩み寄る

「ジーンさん、何があったの?」

若干不機嫌そうなジーンは山頂で起きた事を事細かにシルトへと伝え
それを聞いたシルトは、なるほど、と頷いた

今回の戦闘は仲間同士での攻撃、フレンドリーファイア(同士討ち)が多発していた
まず、サイガとイルガ、彼等はお互いを攻撃しそうになり体勢を崩し
激しく衝突している、その結果があれだ
次に、アズルによるゴトビキの脳天への攻撃
これにより、サイガとイルガは再び潰される事となった
そして今しがた揉めていた件、ジーンの地の精霊グノームによる攻撃
ゴトビキを火口へと落とす事には成功したが、ロイを巻き込む結果となった

「あの子が怒るのは仕方ないよ」

「わかってはいるけどね、私はあれが最善だったと今も思うよ
 最悪死んでも再生する訳だし、全滅だけは避けないと」

「僕もそれが間違いだったとは思わない
 でも、シャルルが怒ってるのはそこじゃないんだよ
 あの子は心底優しいんだ、その気持ちは理解してあげて」

ジーンは黙り、何かを考えているようだった
そんな彼女にこれ以上言うつもりはなく、シルトはシャルルの元へと向かう

「大丈夫?」

ラピとサラになだめられていたシャルルが顔を上げる

「うん、少し落ち着いた・・・・ごめん」

シャルルの眼は少し赤くなっており、僅かに鼻声だ
おそらく泣いていたのだろう

「気にしないで、とにかく落ち着いたようで良かった」

少し話せる?とシャルルの表情を見ながらシルトが聞く
彼女は頷き、ラピとサラは半歩ほど離れてその様子を見守る

「シャルルの気持ちも分かるけど
 ジーンさんのやった事は間違いではないと思うよ」

「わかってる、わかってるけど・・・あの態度が許せなかった」

「そうだね、そこは僕からも言っておいたから安心して」

「わかった、納得はできないけど、シルさんが言うならもう言わない」

「良かった、それじゃロイさん助けに行こうか」

「うん!」

シャルルの目に輝きが戻り、勢いよく立ち上がる
一目散に火口へと向かうシャルルの後ろ姿に
もう大丈夫かな、と思うシルトだった



火口を見下ろし、熱量に顔をしかめながら数名がロイを呼んでいた
岩盤部分に横たわるロイはぴくりとも動かず、反応がない
クガネは辺りの岩にロープを結び、数回強く引っ張り、ほどけないか確認を取る
そのロープを火口へと放り、ロイを呼んでいる者達に無言で顎をしゃくる

「助かる」

ガゼムは大嫌いなクガネに頭を下げ、すぐにロープを取り、降りてゆく
そんな彼の行動にクガネは、ふん、と鼻を鳴らし、丁度良い高さの岩へと腰を下ろす
そこへマルロが駆け寄ってきた

「クガネさん優しいですね」

マルロはニコニコとしながらクガネの横へとやってくる

「・・・お前は何を言っているんだ?」

苦虫を噛み潰したような顔でマルロを見て言う

「ロイさんを助けようと手助けしてくれたじゃないですか」

マルロは満面の笑みでクガネの横に座り、上機嫌に言う
そんな少女を見て、深いため息が洩れる

「そんなつもりは毛頭ない、俺はさっさと下山したいだけだ」

ふふふ、とマルロは笑い、更に上機嫌になる
そんな少女に呆れ、クガネは片手で頭を抱え、数度振る
コイツはなんで嬉しそうなんだ、何故俺に絡む、全く意味が分からん
少女の思考が理解できず、頭を悩ませる
そんな彼等の目の前で、ロープを伝い、数名が火口へと降りてゆく

現在、火口へ降りたのは6名
ガゼム、エール、エンビ、カイル、イシュタール、ミラの順だ
物凄い熱さにミラの綺麗な顔が歪む
イシュタールはエンビに水の魔法を使うよう指示を出し
エンビが渋々それに応えている
先に降りたガゼムとエールがロイの状態を確認している
しばらくして、エールは首を横に振った

「くそっ!」

ガゼムが岩盤を殴り、岩と当たる篭手の金属音が鳴り響く
山頂でその光景を見たシャルルが俯き、涙がポロポロと地面に落ちる
唇は噛み締められ、その手は爪が平に刺さるくらい力強く握られていた
ラピとサラが駆け寄り、彼女を近場の岩に座らせ、背中をさすっている

火口からガゼムが大声を上げる

『ダリル!彼を引っ張りあげてくれ!』

動かなくなったロイを先ほどのロープで固定し、部下のダリルに命令を下す
ダリルとアズルがロープを引き、徐々にロイの身体は山頂へと向かう

エンビの水の魔法により、辺りの熱量は僅かにだが下がった気がする
その代わり蒸し暑さが増した気もするが

「もっと涼しくできないのかね」

イシュタールがエンビにバカな事を言う

「無茶言わないでください、ここは噴火口ですよ?」

エンビは腕を振り、辺りを見ろと促す
辺りは、一部の岩盤以外はマグマがゆっくりと蠢いている
人類が生存していく事のできない環境である
それを見て、イシュタールは小さく舌打ちをする

「ミラ様、しばしご辛抱下さい」

ミラに頭を下げ、チラッとミラの顔を伺う

「火の聖域は目の前です、この程度何でもありません」

涼しい顔でミラは辺りを見渡している
イシュタールは心の中で、チッ!小娘が!と再びミラを汚す妄想を繰り広げる
その頃、ロイの身体は山頂へ引き上げられた

ダリルはガゼムの指示により、ロイの身体を運び、下山する事となった
アズルは道中にいるリヨンを回収するため着いて行く
サイガとイルガはガリアとカイルが担当する事となった
エールが再生を早めるため、治療を施すために着いて行く事となる
念のため、護衛としてマルロとクガネも着いて行く事となった

残りのメンバーは火口へ降り、火の聖域へと向かう事となる
エイン、ミラ、イシュタール、ブロス、エンビ、ガゼム、リリム
ハーフブリードの面々、そして火の巫女イエルだ






下山組はクガネを先頭に進む
それにマルロが続き、ロイを背負うダリル、
サイガを背負うガリア、イルガを背負うカイルと続き
最後尾をアズルとエールが歩いていた
しばらくしてリヨンの姿が見え、アズルは小走りに駆け寄る

「スッケルス、遅くなってすまなかったな」

喉元と右鎖骨下部に大穴のあいたリヨンの身体をゆっくり起こし
しっかりと背負い、アズルは歩き出す
先頭のクガネと最後尾のエールは辺りをキョロキョロと警戒しながら
なるべく早足で山を降りて行く
運良く道中にホワイトファングに遭遇する事なく麓まで辿り着く
念のためクガネは辺りの見張りをしている
その横にマルロはちょこんと座り、彼の真似をし辺りを見渡している

「並べてくれますか」

エールが負傷者を背負う者達に指示を出す
ゆっくりと彼等が降ろされ、一列に並べられる

「状態を確認します」

エールは一人一人念入りに調べる
サイガとイルガの胸部から上は潰れ、頭蓋骨は陥没していた
リヨンは大穴が2つ、それ以外の外傷は無さそうだ
ロイは見た目は特に外傷はないが、鎧は歪んでいる
それを脱がしてみて分かった事があった、彼は内蔵が破裂したのだ

「これは、まずいですね・・・」

エールが自身の薄くなった頭を掻き毟るようにしている
そんな彼の様子が気になり、アズルが聞く

「何がまずいんだ?再生しないとでも言うのか?」

「いえ、違うます・・・再生するからまずいんです」

どういう事だ?とアズルが不思議そうな顔をしているとエールは話を続けた

「サイガくんとイルガくんは頭部が潰れているので問題ありません
 彼等は再生が終わるまで意識は取り戻さないでしょう
 しかし、リヨンさんとロイさんは別です
 頭部が無傷なんです・・・それは意識が先に覚醒するという事です」

「・・・つまり?」

「この状態で起きたらどうなりますか?こんな大怪我で」

アズルはしばらく考え込む、そこで気がついた
その表情にエールは無言で頷き、話を続ける

「そうです、彼等はその激痛にもがき苦しむ事になります
 場合によっては、その痛みで自我が崩壊してしまいます」

「・・・では、どうする」

「頭を・・・・・潰すしかありません」

「なっ!」

アズルがエールを殺気のこもった目で睨みつける
しかし、エールは怯まず続ける

「これはしなくてはなりません、でないと彼等は廃人になってしまいます!」

普段温厚な彼が声を上げた、その表情は真剣そのものだ
その強い意思にアズルは嘘は言ってないと確信する
しかし、友の頭を潰すだと?そんな事ができるか、と苛立ちを覚える

「皆さんは離れててください、私がやります」

そう言い、エールはリヨンの持ち物であるメイスを手に取る

「待て」

アズルが止める

「俺が・・・・・やる」

エールはアズルの目を見て、あえて厳しい事を言う

「貴方は友の頭を潰せるのですか?」

アズルは俯き黙った・・・悩んでいたのだ
本当にできるのか、と

「その覚悟がありますか?無いのであれば私がやります」

「待て!」

アズルは顔を上げず、手だけをエールへ向け、彼を止める
その手は僅かに震えていた

「俺が・・・やると言っている」

わかりました、とエールはその手にメイスを渡した
彼はそれを握り締め、メイスへと目を向ける
それは友が長年使ってきた武器、スチールメイスだ
長さ60センチほどで、先端には鋼鉄の塊が不格好だが付いている
そのメイスを見て、アズルの手に力が入る・・・しかし、震えは止まっていなかった
アズルは立ち上がり、リヨンの頭元へと歩を進める

どんっ

彼は自身の胸にメイスを叩きつけ、喝を入れる
手から震えは消えていた

「スッケスル、すまん」

クガネはマルロの目を手で覆う
アズルはメイスを振り上げ、リヨンの頭部へと力強く振り下ろした

ぐしゃっ

頭が半壊し、目が飛び出し、脳が流れ出る
リヨンの頭に当たり、その頭部を砕き、メイスは大地へと刺さる
アズルの手は激しく震える・・・その腕も肩も震えている
眼には涙が溢れ、すまん、すまん、と繰り返していた
その彼の肩に手を置き、エールは優しく微笑み

「貴方は彼を救ったのです」

そしてエールはメイスを彼から受け取り、ロイの元へと行く

「生の神よ、我が行いを許したまえ」

大きく振りかぶり、一気に振り下ろす

ぐしゃっ

「お前はあっちを見張ってろ」

クガネはマルロに後ろを向かせ、今起こった事を見せないようにする
彼なりの優しさだろうか、しかしマルロはあまり理解していなかった
クガネが自分に頼んでくるなんて珍しいので少し上機嫌に見張りを始める

その横でカイルが、うげぇ、と声を洩らしており
隣のガリアは目を逸している

エールは彼等に清潔な布をかける
その後、一人一人頭部以外の治療を始めるのだった






火口へ降りたエイン達は困り果てていた、足場が無いのである
一部は岩盤だが、その周りをマグマが川のように流れている
目的の火の聖域は既に肉眼で確認できていた
それは火のドームというべきか、炎の半球がマグマの川の向こう側に見える
その大きさは直径おおよそ50メートル、高さは30メートルにもなるだろうか
巨大な炎の半球は、この灼熱地獄のような世界であってもその存在を主張していた

「さて、どうしたものか」

ガゼムが眉間にシワを寄せ、考え込んでいる
そこでジーンが一歩前に出て発言した

「火の巫女様に溶岩で橋を作って頂き
 私が水の精霊で橋を固めるのはどうですか」

エンビさんにも手伝ってもらいますが、と彼女は言う
それにエンビは頷く事で応える
ガゼムはそれを確認し、イエルへと目線を向けると彼女も頷く事で応えた
そして腰のポーチから赤黒い玉を取り出し、頭上へ掲げる

「溶焔の宝玉よ!」

彼女の呼びかけに応じ、マグマと岩が集まり形を変えてゆく
ジーンは魔導書を開き、目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます
頭の中で繋がりのようなものを感じ、目を開く

「・・・・おいで、ウォーターウンディーネ」

パチンと指が鳴り、数回響く
この灼熱地獄に存在しないはずの水滴が集まり、どんどん大きくなっていく
それは直径3メートル以上にもなり、中空で炸裂する
中からは淡い水色の肌をし、透き通るような青の長髪をなびかせ
僅かに胸が膨らんだ3メートルほどの裸体の美しい女性が現れる
下半身は魚のそれで、尾ビレは透き通り、二つに分かれている
その鱗は光を反射し、七色のようにも見えた

イエルの作り出した溶岩は横幅2メートル、長さ26メートルもの橋になる
しかし、溶岩であるそれは人が歩けるものではない
そこにジーンがウンディーネに命令を下す

「橋を冷やせ」

ウンディーネはくるりと中空で泳ぐように回転し
両手を広げる・・・その両手には水の玉が生成され、巨大化していく
それはウンディーネ以上の大きさとなり、頭上で2つの水球が合わさり
さらに巨大なものへと変化していった

「おぉ、これが精霊か・・・」

ガゼムが食い入るように見ている
エンビは初めて見る精霊に驚き、つい本音を洩らす

「バカな・・・こんな奴が何故精霊を・・・
 伝説のハイエルフが使役する存在だぞ、人であるこんな小娘が・・・ありえない・・・」

ハイエルフとは、エルフの数千年の歴史上数人だけ現れた存在である
それはエルフ達の中でも伝説の存在であり、精霊を使役したと言われている
目の前に現れた水の精霊ウォーターウンディーネは
伝説のハイエルフが使役したと言われるそれと酷似していた

それの召喚者であるジーンをエンビは注意深く観察する・・・
セミロングのゆるくふわっとした茶髪で耳は見えない
瞳は焦げ茶で、肌は白人のようだ
服装はエスニック風で、肌の露出はそれなりに高い
しかし、凛としたような雰囲気も持ち合わせている
一体どこの人種なんだ・・・エンビには分からなかった
その時火口にぶわっと風が吹く

「・・・そういう事か」

エンビは片方の口角を上げ、ジーンを鋭い目線で睨んでいた

その頃、ウンディーネの作り上げた水球が10メートルにも達し、放たれる
それは空中で形を変え、橋を覆うように長方形へと変わり、そして真下に落ちる

ジュワアアアアアッ!

一気に水蒸気が上がり、視界が真っ白になり、その熱が全員を襲う
顔が焼けるように熱く、目は開けない
しばらくして視界がひらけ、水蒸気の熱は収まっていく
ウンディーネの姿はどこにもなく
そこには水を浴びて固まった溶岩の橋が完成していた

「おおお!これは素晴らしい!」

ガゼム達が歓声を上げる
そんな彼等にジーンは冷静に告げる

「急いで渡ってください、すぐに熱くて渡れなくなりますよ
 それとエンビさん、水の魔法をかけ続けてくださいね」

突然自分を見る彼女にエンビは目を逸らし、分かったと答える
この女、涼しい顔しやがって、その汚れた魂で自ら滅ぶといい
エンビは心の中で彼女へ罵声を浴びせ、水の魔法を詠唱する

「闇よりも深き大海のうねりよ」

エンビの魔法により橋に水がまかれ、シューっと音を上げ蒸発してゆく

「続けてください」

リリムがエンビにお願いする、それにエンビは頭を下げる
そして魔法を続けた

「皆、急いで渡ろう!」

エインが橋の手前で皆を手招きしている
皆がそれに反応し、駆け出す
全員が通ったのを確認してエインは最後尾を駆け出す
隊列はこうだ、先頭にガゼム、イシュタール、ミラ、ブロスと続き
イエル、ハーフブリードの面々、リリム、エンビ、エインの順になる

靴から焦げくさい臭いが漂い、足の裏に僅かな痛みを感じる
少しでも橋に足をつけていたく無い気持ちに駆られ、皆足を早める
途中でジーンが足がもつれそうになり、シャルルが肩を貸し、そのまま走る
そんなシャルルの行動に驚いたジーンが彼女を顔を見る
彼女は普段の笑顔はどこにもなく、真剣な表情のまま、黙ってジーンを運ぶ

ジーンは表情にこそ出していないが、自分で走れないほど衰弱していた
1日で精霊を2回召喚するという行為は自殺行為にも等しい
魔力が枯渇し、最悪の場合、死に至る可能性すらあるのだ

「・・・ありがとう」

常人では聞き取れないほど小さな声でジーンは呟いた
しかし横にいるのはハーフキャットであるシャルルだ、聞こえないはずはない
ジーンを見る事なく、ニッと口元だけ笑い、シャルルは走った
ちなみにラピはサラの背中の盾にしがみつくように張り付いている
ハーフブリードの面々が渡り切ったその瞬間、事件は起きる




突如現れたのは【闇】




リリムの背後に音もなく"それ"は現れ、徐々に広がってゆく
後方にいたエンビとエインには前方が真っ黒になったようにしか見えなく
無意識で足を止め、何が起きたのか全く理解できなかった
リリムは背後から感じる存在に気づき振り向くと
"それ"を目にした彼女は小さくヒッと声をあげ足を止める
それに気づいたハーフブリードの面々が彼女に顔を向け"それ"を目にする
彼女の後方に現れた闇は2メートルほどの影のような存在だった
空間がねじれ、そこから闇が漏れ出しているようなそんな気がしてくる姿だ

「・・・・まさか・・・・そんな!何故!!」

リリムの驚嘆の声が上がる
その声に最前の方にいた者達も事態に気づく

『何だ、何が起きている!リリム!大丈夫なのか!!』

エインとエンビは"それ"に触れてはいけない気がして、闇の前で止まっていた
そこから叫ぶがリリムの反応が無い
苛立つが、何故か"それ"だけは触れてはいけない気がしてくる

「くっ、何なんだこれは」

エインは底知れぬ恐怖が湧いてくるのを必死で抑えていた

「・・・・・良かった・・・ご無事だったのですね」

リリムは涙を流し、膝をつく、その膝は熱で火傷を起こすが気になどしない



そう、彼女の前に現れた存在は【死の神】だった



《・・・我が巫女よ・・・・お前を救いに来た・・・》

全員の脳内に直接声が響く
その声で一同は"それ"が神だと気づいた
その瞬間、闇は更に濃くなり、リリムを包む

「えっ」

リリムが驚き、一瞬で闇に飲まれてゆく
全員が動けず、ただその光景を見ている事しかできなかった
しばらくして闇が離れ、闇は上昇して行く
そこに残されたのは横たわるリリムの姿だった

「リリム!!」

エインは駆け寄り、彼女の上半身を起こす
いつも明るく、美しい顔からは生気が一切感じられない
恐る恐る彼女の首に指を当て、脈をみる・・・・が全く反応が無い
開かれた目は光を失い、瞳孔は開いている
外傷は無い、しかしこれはどう見ても・・・・

「そんな馬鹿な・・・・死んでる・・・だと・・・」

エインの洩らした言葉に全員が驚愕する
死の概念が消えたはずの世界で、彼女は一瞬で死んだと言うのだ
だが、目の前にいる"死の神"という存在ならそれが可能だろう
しかし、何故自身の巫女を、皆それを考えていた

《・・・・巫女は我が救い・・・連れて行く・・・》

突如リリムの身体が浮き上がり、中空へと登って行く
エインは離れてゆく彼女に震える手を伸ばすが届かない
そして彼女は闇に飲まれた

「リリム・・・・・リリムッ!!」

エインの悲痛の叫びが響き
その光景を見ていた女性陣は顔を逸らす



そして闇は消えた



ゴトッと風と水の宝玉が落下し、コロコロと転がり、エインに当たり、止まる
静寂が辺りを支配し、誰も動けずにいた
彼等の視線の中央にはエインが膝をつき、中空に手を伸ばしたまま
その目からは涙が溢れ、口は開いたまま止まっている
しばらくして、カチャカチャと鎧の擦れるような音が聞こえ始める
エインは震えていた

「あ・・・・あぁ・・・・あああああっ!」

上げられた手を大地に何度も叩きつけ
ガタガタと震え、言葉にならない声を上げ、宝玉を抱きかかえるようにうずくまる
皆はそんな彼を見ている事しかできず、ただ彼が落ち着くのを待っていた

しばらくして、シャルルとラピが彼に近寄り
回復魔法をかけていた
彼は灼熱の橋の上でうずくまっていたのだ、かなりの火傷を負っている
エインを引きずるように岩盤に移し、治療が続けられた

もう目の前には火の聖域の炎の半球がある
その距離5メートル、しかしその炎からは熱は感じられなかった
ここまでの聖域の例もあるので、触れようとする者はいないが
その時、突如炎の半球は消え、クリスタルの祭壇があらわになる

「なんだ!?まだ誰も神を呼んでないよな?」

ガゼムが皆の顔を見て確認を取っていると

《・・・・死の神・・帰ったか・・・・ふぅ・・・》

脳に直接声が届く
祭壇の中央、そこに浮く小さな純白の炎
大きさは10センチほどで、辺りの空間が歪んで見える
ゆらゆらと揺らめき、一瞬たりとも同じ形は維持していない
イエルは小走りに近寄り、膝をつき、こうべを垂れた

「火の神よ、お騒がせして申し訳ないね」

《・・・我の巫女よ・・・気にするな・・・我とて暇じゃ・・・》

「そ、そうでございますか」

イエルが苦笑を浮かべている
神が暇なのか?ガゼムは不思議に思うがあまり考えない事にする
彼の教わってきたものでは、火の神は男神で勇ましく豪傑な人物で描かれているのだ

《・・・さて・・・何用かの・・・》

「はい、実は「おじーちゃん!火の宝玉ちょーだい!」

イエルの言葉に重ねるように、先ほどまでエインの治療をしていたシャルルが言う
声の主を睨みつけるが、彼女は一切こちらを見る気配すらない
早くくれと言わんばかりに手を伸ばし、笑顔を神へと向けている
しばらくの静寂の後

《・・・なるほどなるほど・・・そういう事か・・・よかろう・・・持ってけ・・・》

眩い光が火の神から放たれ、目が眩む
光が収まる頃、真紅の宝玉が火の神の目の前に浮いていた
血とは違う赤、火とも言えない赤、その奥には黒き闇も存在している
溶焔の宝玉とは全く違う赤の宝玉
それはゆっくりとイエルの手に収まり、彼女はそれを胸に抱く
暖かさを感じ、目を瞑り、その感覚を味わう
そして彼女はニコッと微笑み、神へと頭を下げる

「ありがとうございます、火の神よ」

イエルは火の宝玉を胸に抱き、シャルルに目を向け、胸を張り、勝ち誇る
上げた手をどうしたものかと照れ笑いを浮かべながら、シャルルは頭を掻いていた

《・・・よいよい・・・それよりはよ帰れ・・・追い出すぞい・・・》

「ありがとうございます、それでは失礼させていただきます」

イエルは頭を下げ、皆に去るよう指示を出す
それに従い、一行はクリスタルの祭壇を出て、橋の手前まで引く
その瞬間、炎の柱が上がり、火の聖域は包まれた
しばらくして、炎は弱まり、ドーム状の半球の炎が姿を現す

エンビの水の魔法で橋を冷やしては進み、冷やしては進み
今度はゆっくりだが先ほどよりは足への負担は少なかった
渡りきった途端、鼻血まみれのエンビは倒れ込み、吐血する
魔力を使いすぎたのである・・・彼は意識を失い、息絶える

一行はロープを伝い、山頂へ上がる
残っていたラピがエンビをロープに結びつけ、彼に乗っかりロープを掴む
そして上にいる皆に合図を出し、引っ張り上げてもらった

あれからエインはずっと黙っていた
気になったシルトが声をかけたが反応はなかった
その両手に風と水の神の宝玉を握り締め、無言で歩いていた
一行は道中にホワイトファングなどに会う事もなく無事下山する


山の麓で先に下山した仲間達と合流し、お互い情報交換をする
ロイとリヨンの頭を潰した事に関しては仕方ない事だと納得するしかなかった
そして一同は頭を悩ませた
死の神を崇拝し、それと同等にリリムを崇拝していたリヨン
彼が目を覚ましたらどうなるか、想像するだけで気が滅入ってくる

シルトが馬を走らせ、一人宿まで戻り、馬車を借り受ける
そしてまた霊峰トヒルの麓まで戻り
負傷者を馬車に乗せ、一行はラーズ首都へと向かう事となる

今回の負傷者は5名、そして1名が死亡し離脱した
同士討ち、巫女の突然の死など問題は山積みだ
重い空気が支配したまま、彼等は補給や休息のため首都に向かうのであった




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