2017_06
20
(Tue)08:52

4章 第18話

オリジナル小説 『カタクリズム』
4章 第18話 【祝歌】

久々の更新!
次回から4章のもう1つの目玉の話に入ります!

では、続きを読むからどうぞー。








【祝歌】






リリム達は瓦礫の山に阻まれ進む事が出来ずにいた
単に瓦礫を破壊するのは簡単だ
しかし、周囲には野次馬が増えており、下手に壊すと危険なのである
先程も壊れた塀の破片が小さな男の子に当たりそうになり
マルロが壁を作り出し防いだところだった

『危険ですから下がってくださーい!』

リリムの可憐な声が響くが、逆効果なのか人集りは増す一方だった

「アタシはジーン探してくるね」

「私も行こうか?」

すぐにでも飛び出しそうなシャルルを心配して
サラも同行しようとするが、彼女は首を横に振る

「サラは壁が崩れた時に怪我人が出ないように助けてあげて」

「・・・わかった」

人混みをかき分けシャルルは姿を消した
彼女の後ろ姿を見送り、サラは瓦礫の山を眺める
すると、その山を登ろうとする者がいた・・・アシュだ

「アシュちゃん危ないわよ、いつ崩れるか」

「こんなの余裕だろ」

プララーの心配などお構いなしにアシュは瓦礫の山に手をかける

「アシュちゃんがって意味じゃないわよ、周りを見なさい」

すでに野次馬は数百人を超えており
瓦礫を手に取り、何があったんだと話している者もいた

「チッ」

アシュが舌打ちをし瓦礫に背を向ける

「入れるとこがないか見てくら」

そう言い残してアシュは歩いて行く
自然と彼を追いかけるようにプララーも動き出していた

・・・・・

・・・



タイセイを中心に赤い霧は広がってゆく

タイセイ1

霧からは鉄臭さが漂い、その臭いを知る彼等は気づく

これは"血"だ

タイセイの身体から放出される霧状の血が辺りを包み込んでいたのだ
その異様な光景に息を飲む・・・だが、止まっていても解決するわけではない
戦うしかないのだ

「行くぞ!」

オエングスが先頭を走り、二人も後に続く
盾を前面へと構えたままオエングスは距離を詰め
下段からの斬り上げを放つ・・・が、それは中ほどで止まった

「馬鹿な・・・素手で、だと・・・」

ギ・・・ギギ・・・

オエングスの神器モラルタは素手で掴まれ、その動きを止めていた

「ガガガ、ガハハハ!いいいいいぞ!もももっとだ!」

タイセイの目は正気とは思えないそれであり
その言葉も人間から少しずつ遠ざかってゆく・・・

「化物め!」

即座にモラルタを手放し、腰にある短剣の神器ベガルタを抜く

「神器解放!ベガルタよ、その力を示せ!」

ベガルタから黄金の光が溢れる頃
エインの疾雷の突きとシルトの急所を狙った突きが同時に放たれる
タイセイはモラルタをエインに投げつけ、それにより疾雷の突きは軌道を変える

とった!!

シルトはそう確信した、彼の狙いは心臓あるのみである
タイセイはエインの突きを対処した、それは正しい
彼の突きの方が早く、そして鋭い、あの銀の腕から放たれる威力は侮れないだろう
だが、同時に放たれていたシルトの攻撃は完全にノーガードだ
シルトは城壁防御を発動し、この1撃に全腕力と体重を乗せた
切っ先がタイセイの胸まで残り3センチ

ゴッ!

シルトの目線では何が起きたのか理解する事は不可能だった
突如視界は左に逸れて行き、目の前にいたはずのタイセイは遥か遠くに離れてゆく
身体には浮遊感があり、自分が浮いている事に気づいた
遅れて強烈な痛みがシルトを襲う

「・・ぐっ!かはっ」

数回バウンドしてから止まった彼は右腕の感覚が一切ない事に気づき
目だけで自分の右腕を見ると、盾を掴んでいた手は指の4本が上を向き
二の腕は無いはずの関節があるかのように曲がっている
右側の肋も折れ、呼吸が出来ない

「ごふっ」

大量の血を吐き出し、やっと呼吸が出来るようになった
ゲホゲホとむせ返りながらも"敵"の方へと目を向ける

「げほっ・・・・な、なにが・・・げほげほっ・・・あった・・・」

目だけでは見えにくく、頭を向けようとするが動かなかった
足を動かそうとするが一切反応してくれない

「くそっ・・・」

自分の足がどうなっているのか確認しようとするが
頭が動かず見る事が出来なかった
シルトは動く事を諦め、必死に目だけで状況を確認しようとする
彼の目には、赤い霧の中の黄金の光が強まるのだけが見えていた・・・

その頃、エインは投げつけられたモラルタを弾き
1歩後ろに大きく飛び退き、助走を取ってから再び突きの体勢に入った
それと同時にオエングスのベガルタの一撃が放たれる

『魔猪の雄叫び!ソォクォッ!!』

眩い黄金の光に包まれた刀身が45センチほどの短剣がタイセイに迫っていた
だが、その一撃はタイセイの持つ黄金の棒によりいとも簡単に弾かれる
大地へと深く突き刺さったベガルタの周りの地面が陥没し、細かい砂利が宙を舞う

「くっ!」

即座に引き抜こうとするが、ベガルタは根本まで深く突き刺さっており
オエングスの力では引き抜く事は叶わなかった

そこへタイセイの左の拳が迫る
ほんの一瞬だが反応が遅れたが、オエングスは盾でそれを防いだ・・・はずだった
彼の持つ鋼鉄とミスリルの合金の大盾は大きく歪み
オエングスの身体にぶち当たり、彼の身体を後方へと吹き飛ばす
揺れる視界の中、オエングスは確信する
これは人間の勝てる相手ではない、と・・・

何とか立ち上がる事が出来たオエングスは目にした
エインの突きが素手で掴まれ、ピクリとも動く事が出来ずにいる彼の姿を・・・

駄目だ、神の勇者となる彼だけは失ってはいけない
この生命に代えても、彼だけは守らねばいけない

動け!動け!と自身の膝を叩き、奮い立たせようとしていると
エインは風斬りの長剣ごと放り投げられ、それは真っ直ぐこちらへと向かっていた
先程の攻撃で大きく歪み、もはや使い物にならない大盾を投げ捨て
オエングスは両手でエインの身体を受け止める

ズシッ

軽装とは言え、エインの体格で装備を含めたらかなりの重さになる
それが10メートル近く飛んできたのだ、それをキャッチした時の衝撃は凄まじい
オエングスはエインを抱えたまま数回転し、何とか衝撃を受け流す

「くっ・・・・だ、大丈夫ですか」

「えぇ、助かりました・・・ですが・・・右肩がやられました」

エインは銀の右腕はだらんと力なく垂れており、肩が外れているようだった
この状況では治してやっている時間も無い

くっ・・・どうする・・・・そうだ、シルト殿は!

オエングスは辺りを見渡し、シルトを見つけると顔から血の気が失せてゆく
彼の腕はあらぬ方向に曲がり、大量の血を吐き出し、立つ事も出来ぬ様子だった
かろうじて目だけはこちらを向いているので生きているようだが

不味い、この状況を打破する方法が判らない・・・

・・・・・

・・・



オエングスがサルメールの屋敷を訪れていたのは理由がある
エイン達を追う前にアムリタで得た情報によると
彼等の向かったと思われる国、ヒッタイトとメンフィスは開戦間近なのだそうだ
戦の理由は水不足、そしてその原因はリスティのサルメールという商人との事だ
この情報は水の巫女から聞いたものなので信憑性はあるだろう

サルメールは両国の水源である元を断った
彼は商人、戦とは商人にとって最も稼げる時なのだ
その時をサルメールは自ら作り出したにすぎない
大勢が死ぬと解っていて、だ

それを知ったオエングスは許せなかった
そのため、エイン達と合流する前に戦争を回避出来ないかとリスティを訪れたのだ
だが、戦争は予想より早く始まり、オエングスの思惑は失敗したと言えるだろう

オエングスという男は強者と戦う事は好むが、基本的には争いは好まない
自分の奪い合いで醜い殺し合いを幾度も見てきたせいだ
そのため、彼はサルメールを脅したりする事なく、話し合いで解決しようとしていた
だが、水源を元に戻すよう何度も言ったが聞き入れてもらえなかった
それでも彼はまともに相手にされなくてもこの屋敷に連日通っていたのだ

そんな時だ、異様な気配を感じ取り、外に出てみれば彼等がいるではないか
しかもその相手は人と思えぬ力を有していた
苦戦している、それは明白だった・・・そして彼は走った



1年ほど前に神託で神の使徒に選ばれたあの日
神は言った、いずれ現れる勇者を導けと
本来であれば勇者になるのは自分だったそうだ
しかし、私には時間が無いらしい・・・だから1年も前から使徒に選ばれ
その力を蓄え、それを本当の勇者に託す、その役目を担ったのだ

全ては神の勇者のために

正直悔しかった、何故自分は物語の主人公になれないのだろう、と
団長のような・・・父上のような英雄になりたかった
そのために剣を鍛え続けた、結果的にそれなりに名の知られた存在にはなれた
でも、父上のような英雄にはなれなかった

父上はその戦績で近隣諸国で知らぬ者などいない
青の大鷲は常勝無敗の騎士団だった
そんな父に憧れ、羨ましく思い、妬ましくもあった

そんなある日、私に神の啓示が届いた
信じられなかった、自分が神に選ばれた勇者なのだと思った

だが、現実はそんな甘くなかった

何故自分には時間が無いのかは分からない
悔しかった・・・・何故自分じゃないんだ、と何度思ったか分からない
だが、私が何故こんなにも悔しいのか、勇者という英雄に憧れたのか
その理由だけは分かっていた

マリアンヌ・・・彼女の隣に居たかったのだ

奴隷だった自分には過ぎた存在である、アムリタの姫君
彼女の隣にいるには英雄になるしかなかった
誰もが羨む彼女の隣にいるのは私もそうならねばいけなかった

勇者になれず、英雄になれず、私は心は腐りかけた
そんなある日、マリアが言ってくれたのだ

「オーグス、貴方は私の、私だけの英雄です」

私は間違っていた
彼女に釣り合うようにと、世間の評価を得る事に必死になっていた
私は間違っていた
彼女が求めていたのはそんな下らないものではなかったのだ
私は間違っていた
彼女に認めてもらえればそれで良かったのだ

・・・・・

・・・



「・・・・私は間違っていた、か」

オエングスはゆっくりと立ち上がり
こちらへと歩いてくる人外の力を持つタイセイを見る

「ヴァンレン卿、私は貴公のためにこの場にいる
 それは私自身が望んだ事だ
 貴公はその眼でしっかり見ていてくれ、私の覚悟を」

「・・・?」

エインはオエングスが何を言いたいのか分からず、ただその背を見ていた
彼の背になびく真紅のマントがふわっと風を受け踊る
その背からはビリビリと痺れるような殺気を感じていた

『来い!モラルタ!ベガルタ!』

オエングスが両手を広げ叫ぶ
すると、大地深く突き刺さっていたベガルタは高速でオエングスの左手に飛んでくる
遠くへと弾き飛ばされていたモラルタもまた、オエングスの右手に収まる
異変を感じたタイセイの足が止まった

『この背の薔薇に誓い、お前を屠る!』

モラルタは赤く赤く輝き、ベガルタは黄金に輝く

『神器解放!モラルタ、ベガルタよ、今こそ真の姿を現せっ!!』

モラルタの赤い光が2つに分かれ離れてゆく
ベガルタからも黄金の光が2つに分かれ離れていった
それは彼の頭上で輝き、ゆっくりと形を変えてゆく
2つの光から現れたのは赤槍と黄槍、それは宙空で浮いていた

『神器解放!ゲイ・ボー!ゲイ・ジャルグ!』

彼が叫ぶと、宙に浮かぶ2本の槍は輝き出す

「なっ・・・神器が4本・・・っ?!」

エインは目を疑っていた
それは遠くから見ているシルトも同じだった
彼等は神器の強さはマナの一件でその身に刻まれている
それを4本も所有しているこの男、オエングスに震えた

オエングスの髪は淡く光を放ち、その目もまた輝いている
彼の両手にある2本の剣と、彼の頭上に浮かぶ2本の槍もまた輝いていた

黄短槍ゲイ・ボー、赤槍ゲイ・ジャルグ
黄短剣ベガルタ、赤剣モラルタ

4本の神器は強く強く輝きを増していった

これが神の使徒になるという事・・・か
オエングスはそんな事を考えていた

彼は心の中から溢れてくる言葉を口から吐き出し
そして、言葉に神器は応えてくれる
ごく自然に、最初からそうであったかのように

受け入れてしまえは簡単な事だった
私は勇者を導きし者、分かっていた事じゃないか
最初からこうしていれば良かったのだ
ほんの少し後悔と、開放感が彼を包んでいた

タイセイの足は止まっていた
もはや自我など無いに等しいが、本能で分かるのだ
目の前にいる存在は人智を遥かに超えている者だ、と

ある程度以上の力の差は見ただけで分かるのだ
それは長い長い年月を鍛えてきたタイセイだから分かるのかもしれない
だが、今はそんな事はどうでも良かった

「うぎぎ・・・ごご・・・うでじいぞ・・・」

タイセイは歯をむき出しにし、笑っていた
筋肉は更に膨張し、血管から血が吹き出している
それは霧となり、辺りは更に赤く赤く染まっていく

右手に持つ黄金の棒を高く掲げ、口を大きく開く
棒は30センチほどに縮み、タイセイはそれを飲み込んでいった
喉が鳴り、一瞬間を置いてからタイセイの身体に変化が起きる

吹き出していた血は止まり、傷口は瞬時に塞がる
そして、彼の右腕は一瞬魚が跳ねるような動きをし、ピタリと止まり
右拳から黄金の突起が伸び、まるで黄金のナックルのようだった

「ここここの、いぢげぎに」

タイセイは右拳をゆっくりと下げて構えた
彼の足元の地面がバコッと音を立てて少しへこみ
どれほどの力が集まっているのか想像も出来なかった
だが、そんなタイセイを前にしてもオエングスの口角は上がっていた

彼は今嬉しいのだ
自身の役目を理解し、受け入れた事
そして、その覚悟に神器が応えてくれた事
神にやっと認められた、その喜びに震えそうだった

「ならば、私もそれに応えよう」

オエングスの黒目が十字になり、その瞬間彼を中心に強烈な波動が広がる

『その身に刻め、我が名を・・・我が名はオエングス・オディナ!』

オエングスが走り出す、その瞬発力は人間のそれではなかった
彼の蹴り上げた大地は爆裂し、弾丸のごとく大地を駆けた
それに合わせ、タイセイも動く

『がああああああああああああああああああああっ!!!』
『神獣の祝歌!ディオ・ヒィノ!!』

タイセイの右の拳の一撃はオエングスのベガルタの突きとぶつかり合い
激しい音を上げ、タイセイの拳を貫き、ベガルタは根本まで突き刺さり
その瞬間、タイセイの右腕は吹き飛ぶ

まだオエングスの激流のごとき攻撃が終わっていない

右下段から左上段へのモラルタでの斬り上げが放たれ
タイセイの右脇腹から左肩口までが両断される
2本の剣を手放したオエングスの両手には即座に2本の槍が収まり、この連撃は続く

左手に握られた黄短槍ゲイ・ボーの突きはタイセイの腹部を貫き
彼の上半身と下半身は別れを告げる
間を置かず右手に握られし赤槍ゲイ・ジャルグによる突きが放たれた

「みみ、み、ごとっ!」

タイセイは歯茎まで見える満面の笑みを浮かべる
刹那、ゲイ・ジャルグの一撃がタイセイの頭を吹き飛ばし、塵と化した

エインは開いた口を閉じる事も忘れ
美しく、破壊的なその光景に魅入っていた

戦闘が終わると2本の槍は光になり、2本の剣に吸い込まれていった
それを鞘へと収め、オエングスは残ったタイセイの下半身を見ていた

「今なら分かる・・・お前は神になれなかった者なのだな」

タイセイは人を超えた
始まりは空腹から魔物の肉を喰らった事だった
本来なら死ぬはずの猛毒であるそれを耐え抜き
彼は人外の力を手に入れてしまった
そして、長い長い年月を生き
数々の魔物や人を喰らい、徐々に力を蓄えていった

だが、彼は信仰というものを集める事が出来なかった
それがたとえ恐怖であろうと、畏怖の念とは信仰になりえるのだ
だが、彼はそれを得られなかった
そのため彼は半神にすらなれず、ただの獣となった
半神のなりかけ、化物の成れの果て、それがタイセイという人物である

タイセイの下半身はまだピクピクと痙攣している
それを哀れに思ったオエングスはモラルタを抜いた

「半神にすらなれず、憐れな男だ・・・せめてもの手向けだ」

モラルタが赤く輝き、ヒュッと風を切る音をさせ一振りすると
タイセイの下半身があった大地がバコッと大きな音を立て陥没し
彼の下半身は跡形もなく消滅していた

静かに納刀し、オエングスはマントをなびかせエインの元へと歩き出す
エインの前に来たオエングスは跪き、呆けている彼の顔を覗き込む

「肩は大丈夫ですか」

「え、えぇ」

ハッと我に返り、意識した途端に右肩の痛みが強くなった気がしてしまう

「・・・っ」

眉間にシワを寄せるエインを見てオエングスは苦笑した

「大丈夫ではないじゃないか、少し待っていてください」

オエングスは辺りを見渡し、瓦礫を見る

「これはすごいな、まるで瓦礫の向こう側が見えてるみたいだ」

彼には感じる事が出来ていた、その先にいる皆の事が・・・
自身の変化に戸惑いながらも、彼は目的の人物を発見し、エインに微笑みかける

「もうすぐヴァンレン卿の仲間が来るから待っていてください」

「えぇ・・・」

「私はシルト殿を見てくるからじっとしていてくださいね」

「はい」

シルトの元へと向かうオエングスの背を見て
エインの左手は強く握られていた

凄い、今まで見た強者なんてモノじゃない、全く別次元の強さだ
まさに神の御業という言葉がぴったりだと思えた
俺もああなりたい・・・そう、俺もああなりたいんだ
今は失敗ばかりで失ってばかりだけど、あの高みに届けば・・・

エインは決意をし、オエングスの背を見ていた

・・・・・

・・・



しばらくしてからアシュとプララーが壁の中、敷地内に侵入して来る
プララーは即シルトの治療を開始し、アシュは門に向かい、それを開けていた
リリム達が入って来た頃にはジーンとシャルルも戻り
一行がシルトを囲むように集まり、オエングスが事の顛末を語っていた

シャルルとラピがプララーと代わり、シルトの治療は一気に進む
しばしの療養が必要だが、命に別状は無いようだった
エインの肩はプララーが担当し、すぐに治療は終えた

騒ぎが収まり、野次馬が散っていた頃
屋敷からサルメールが姿を現した
アシュによって捕まったサルメールは彼等の元へと引きずられてくる

「おい、てめぇがサルメールなんだよなぁ?あぁん?」

アシュが顔を近づけて睨みつけていると、その頭をガシっと掴まれ引き剥がされる

「誰だ!やめろこらっ!」

「ダ・メ・よ、アシュちゃん☆」

ミシミシと音が聞こえてきそうなほどの力が込められ
アシュが必死にプララーの手を剥がそうとするが叶わず、痛みで暴れ回る
その様子を見て苦笑したオエングスが一歩前へと出る

「サルメール殿、話を聞いてはもらえないだろうか」

「ひっ!!」

サルメールは怯えきっていた
屋敷から彼等の戦闘をずっと見ていたのだ
あの人智を超えた化物同士の戦いを・・・

「わ、わわ、わかった、わかったから頼む!命だけはっ!!」

サルメールは土下座をしながら震えている

「え?いいのですか?」

オエングスは彼の突然の変化に驚いていた
連日通っても全く相手にされなかったのが何故急に・・・?

「も、もちろんだ!二度とこのような真似はしないっ!約束する!」

「有難う御座います、そうしていただけると助かります」

オエングスは微笑み、何故か分からないが解決した事を喜んでおいた

・・・・・

・・・



エイン達は宿で1泊してからヒッタイトへと戻る事となった
オエングスもエイン達に同行する事になり
ハーフブリードはシルトの傷が癒えてからメンフィスへ向かう事となり
再び彼等は別れる事となった

その帰り道、砂漠をプルツェで移動中に突如声が響いた

《・・・・神の勇者よ・・・》

その場にいた全員がビクッと肩を震わせ、慌ててプルツェを止める
巫女達はプルツェを降り、膝をついて祈るような体勢になった
エイン達も続き、全員が膝をつく

《・・・エイン・トール・ヴァンレン・・・貴方は失敗をしましたね・・・》

「・・・・」

エインは心当たりがありすぎてどれの事か分からなかった
手をギュッと強く握りしめ、歯を噛み締めて神の言葉を待つ

《・・・上辺の言葉に騙され、無益な争いをし、神の使徒を失いました・・・》

その言葉でどれを指しているのか理解した
ヒッタイトの元老院達に騙されたのだ
あのオアシスは元々メンフィスのものという事実を最近知った
自分達が手を貸したヒッタイトは侵略者だった
そして、途方もない数の人が死に、バテン団長も・・・・

《・・・貴方には無理だった・・・のかもしれませんね・・・》

神のその言葉は胸をえぐられた
エインがギリっと歯を強く噛み締めていると、その横で立ち上がる人がいた

『神よ!それは違います!人は失敗するものです
 エインだって人です!時には失敗もあります
 それに、あれは私達全員の責任です!エインだけのせいにしないでください!』

神に口ごたえをするなど無礼極まりない行為だ
だが、それをしたのは死の巫女リリム・ケルトだった

《・・・死の巫女よ・・・彼を庇いたいのですね・・・・》

『違います!私は彼を信じているのです!
 確かに今回の事は失敗してしまいました・・・
 ですが、失敗は人を強くします、そこから何かを得ればいいのです!』

ここまで必死なリリムを見たことがあっただろうか
何故自分のためにそこまで・・・

『神よ、どうか今一度彼に試練を与えてください
 私達はそれを全力で手助けします、もう二度と同じ失敗は致しません!』

リリムは額から大量の汗を流しながら必死に神に訴えていた
彼女は巫女達の中でも一際強い信仰心を持っている
そんな彼女が神に反論しているのだ、それがどれほどの覚悟が必要か
今のエインには分からなかった

《・・・・・・勇者よ・・・》

「・・・はい」

エインは震える拳をぐっと握り締め、顔を上げた
これはリリムがくれた勇気だ

《・・・・次はありませんよ・・・わかりますね・・・》

『はいっ!』

これはリリムがくれた最後のチャンスだ
このチャンスを絶対に掴み取ってみせる
それが彼女に出来る唯一の恩返しだ

《・・・先代の水の巫女の言葉に従いなさい・・・》

先代の巫女、マナが残した言葉
北東の3つの高い山、そこに眠る聖剣・・・

『はい!』

エインは天を見上げてから横にいるリリムを見る
視線に気づいたリリムがエインを見て微笑む
その笑顔に救われた気分になり、エインも笑顔になれた
それと同時に決意する、彼女だけは何があっても守りきる、と

《・・・・オエングス・オディナよ・・・》

「はっ!」

《・・・よくぞ力を使いこなしました・・・その力・・・わかっていますね・・・》

「はっ!この力、勇者のために」

《・・・・急ぎなさい・・・》

「はっ!」

オエングスは顔を上げず、神の言葉を心に刻む
私は彼を導く者、彼のためにこの力はあるのだ、と

神の気配は消え、緊張が解けた一行は大きなため息を洩らす
そして、ゆっくりと旅は再開された

・・・・・

・・・



タイセイとの戦いから1週間ほどが経ち、シルトの傷は完治していた

「シャルルもラピもありがとね」

「うん、もう無理しちゃダメだよ」

「そうだよー、何でも治せるわけじゃないんだぞー」

常闇の鎧を身に着けたシルトは身体に異常が無いか調べながら鈍った身体をほぐす
その様子を見て、サラは心配そうな顔をしていた

「ん?大丈夫だって、心配すんな」

シルトがサラの頭を撫でようと手を伸ばすと
サラはササッと距離を取り、若干身構える

「ありゃ・・・」

親離れってやつかね・・・少し寂しいもんだな
そんな事を考え、空いてしまった手で頭を掻く

「それじゃ、メンフィスに帰りますか」

「そうだね、常闇の外套貰わないと」

ジーンがメガネをクイッと上げると怪しく光る、その顔は邪悪だった
皆が若干引きつつ、メンフィスに向けて歩き出した
その道中でサラがシルトに声をかける

「シルトさん」

「ん?」

「・・・・なんでもない」

「なんだそりゃ」

「なんでもない」

サラの複雑な表情が気になり、彼女の頭をポンッと1回叩く

「何でもないってのは何かあるって事だよ
 本当に何でもないヤツはそもそも声をかけてこないもんだぞ」

「・・・・」

「言いたい事は我慢するな、家族っしょ」

「・・・・うん、わかった」

サラが立ち止まり、シルトの顔を見上げる
その表情は普段の無表情な彼女とは思えないような、真剣なものだった

「どったの」

「もう無茶しないで、シルトさんがいないと・・・・・・困る」

そう言うとサラは俯き、尻尾は力なく垂れ下がる

「・・・そっか、ごめんな」

目の前にある彼女の頭を優しく撫で、シルトは微笑んだ

「約束する、いなくならないよ」

「・・・ホント?」

顔を上げたサラの目は潤んでいた

「ホントホント、僕が嘘ついた事ある?」

「・・・・・・ある」

あれぇ~?あったか?なんて言いながらシルトがとぼけた顔をしていた
その顔が少しおかしくて、サラも笑みが溢れた

「嘘ついたらヤダよ?」

「分かってるって・・・そだ、じゃあこうしよう」

シルトが左手を差し出すと、その手は小指だけが立っていた

「ゆびきり?」

「うん、ほら、サラも」

「・・ん」

サラがゆっくりと手を伸ばし、弱々しく小指を立てると
シルトはぐいっと指を絡ませた

「ゆびきりげんまん、嘘ついたら・・・殴ってよし!」

「ふふっ、なにそれ」

「針飲むよりかは現実的だろ」

「そうだけど、なにそれ、ふふ」

二人は笑っていた
その様子をシャルルとラピが物陰からじっと見て、ニヤニヤとしている
それに気づいたサラは顔が一気に上気するのを感じ
シルトに見られないよう横を向き歩き出す
その尻尾と耳は慌ただしく動いていた

「・・・・・」

シルトは少し沈んだ表情をしてからその後に続いた





数日後、彼等はメンフィスへと戻る
昼前に到着した彼等をバステト達は盛大な宴で迎え
昼過ぎ、もうすぐ陽が落ち始める頃、常闇の外套の授与が行われた
そして彼等はもうすぐ知る事となる


常識を超える真の闇を・・・・


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