2017_07
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(Mon)13:43

番外編Ⅱ 第2話

オリジナル小説 『カタクリズム』
番外編Ⅱ 第2話 【一騎当千】

ホントは2話でシウさんの話終わりだったんだけど、予定より長くなってます!w
終わりそうになかったので次の話にも少しだけ引っ張りまーす。

では続きを読むからどうぞー。







【一騎当千】






神器とは所持するだけでその者の身体能力を向上させ
内なる魔力を増加させ、超人的な力を発揮出来る代物である

しかし、それではあくまで所持しているだけにすぎない

神器とはそれ単体で神と同等の力を秘めているのである
龍脈より生まれし星の結晶、それが神器の材料だ
それは星の命である魔力が凝固したものであり
秘める魔力量は四神にも匹敵するのだ

更に、神器は龍脈より魔力を供給され続けている
半永久的に魔力が枯渇する事は無いのだ
神器を使いこなすという事は、その者は神にも等しい存在になるという事である

では、どうすれば神器を使いこなせるのだろうか?と疑問に思うだろう
それには幾つか段階があるため、1つずつ説明しよう

所持するだけの状態では人間の限界に近い力を出せる程度だろう
その所持する者が神に選ばれし者だったらどうだろうか
神の使徒である場合は人間の限界を超える事が可能になる

だが、神の使徒として覚醒していなければその力は10分の1も引き出せはしない
地方の英雄にはなれるかもしれないが、神話に残るような伝説にはなれはしないのだ

では次に、神の使徒として覚醒せし者が神器を使うとどうなるか
答えは先にも言った通り単純だ、"神にも等しい力を得る"である

オエングス・オディナを例に挙げてみよう

彼は1年以上前から神に選ばれ神器ベガルタとモラルタを所持していた
元々彼は剣や盾の才に溢れた青年だったが、神器の力により人間の限界を超えていた
真っ当な人間なら彼に勝つ事は不可能に近いだろう

だが、人間の限界であるシルトとは互角だった、それは何故か

シルトは相手の動きを見て真似る事に特化している男だ
異常な動体視力、反射神経、状況判断能力、どれも人間の限界に達している
更に剣と盾に関しては右に出る者がいないほどの技量を持っている
これがオエングスとの決定的な差である

オエングスは確かに天才と呼べる男だ
しかし、シルトほど剣と盾の道を極めていないのである
身体能力や魔力が人間の限界を超えていても、使いこなす事が出来ていなかったのだ

しかし、今のオエングスは違う
タイセイ戦の最中、彼はついに神の使徒として覚醒を果たした
すなわち、彼は神にも等しい力を得た、という事だ
現状ではシルトに勝ち目は万に一つも無いだろう

さて、ここからが本題だ

1等級冒険者"月華のシウ"は神器を使いこなせるのか、である
扱いに慣れる程度なら1等級である彼女ならすぐに出来るだろう
だが、彼女はそうではなかった・・・彼女は既に使いこなしているのだ

そう、彼女は既に神の使徒として覚醒しているのである

いつ?そう思うだろう
それは"最初から"としか言いようがない
シウは神に選ばれる以前から人間の限界を超えていたのだ

彼女は半亜人、ハーフキャットである
元々人間ではないため、人間の限界など既に超えていた
神に選ばれると同時に彼女は神の使徒として覚醒を果たしたのだ

彼女の中には2つの魔力がある
人間としての魔力とウェアキャットとしての魔力だ
2つの魔力が合わさる事なく彼女の中で共存していた
それは本来ならあり得ない事である

同じハーフキャットであるサラとシャルルを例に挙げてみよう

彼女達の魔力は人間とウェアキャットの魔力が融合し
独特な性質だが1つの魔力として存在しているのである
これがハーフキャットという半亜人では"普通"なのだ
では、何故シウの魔力は2つ存在しているのか、これには理由がある

彼女は本当は双子だったからだ

まだ胎児として形を成す前に彼女の双子の片割れは亡くなっている
そして、双子の魂は溶け合い、2つの魔力は共存した

人間とウェアキャットの子が必ずしもハーフキャットになる訳ではないのである
彼女は本来ならば人間として産まれるはずだった
そして、亡くなった片割れはウェアキャットとして産まれるはずだったのだ
2つの魂が溶け合い、2つの魔力を持つ1つの命が誕生した
彼女本人も知らないが、彼女は最初から1人ではないのだ

この特異性が彼女の異常な強さの秘密である

神の使徒として覚醒するが、神器の無かった彼女は秘める力を解放出来ずにいた
それが神器アプラマスを手に入れた事により一気に解放されたのである

神器を手に入れて約1ヶ月
シウはもはや神の領域に踏み込んでいる
彼女の才能によるところが大きいが、それでもこの速度は異常である
だが、それが"月華のシウ"なのかもしれない

さぁ、長くなってしまったが、そろそろ彼女の物語を語ろう
人類は知ることがなかった物語を、悪魔にとっては伝説となる物語を・・・

・・・・・

・・・



「さ、始めようか」

ぞろぞろと湧き出る悪魔の大軍は1000を優に超え
シウを包囲するように集まってきていた
彼女はその大軍を見渡し、ある2体の悪魔に狙いを定める

まず1体目は1番巨大な悪魔だ
一つ眼のその悪魔はサイクロプスによく似ているが遥かに大きく
20メートル近くはあるだろうか
小柄なシウなど手の平に収まってしまうかもしれない
巨大な悪魔は全身から蒸気を吹き出しながら彼女を握り潰そうと手を伸ばした

シウ悪魔戦

動じない彼女は神器アプラマスを構えて光の弦を引く

「神器解放、アプラマス、よろしく」

至って冷静に、淡々と彼女は神器を解放する
すると光の矢が出現し、その先端は見えない風に覆われていた
だが、風は見えずともその高音はハッキリと聴こえている

キィィィィィィィィンッ・・・・

シウは鋭い目つきで巨大な悪魔を睨み、その大きな眼に矢を放った
光の矢は光速で飛んで行き、まるで光の筋が弓から伸びるようだった
光は巨大な悪魔の大きな眼を貫き、同時にその巨大な頭は炸裂する
赤黒い血の雨が降り注ぎ、頭部を失ったその巨体は後ろへと倒れてゆく

ズズゥン・・・・

たったその1撃で悪魔達の足は止まった
今死んだ巨大な悪魔の名は"ポリュペーモス"という
悪魔階級第4位の中位悪魔である

この場にいた悪魔の大半が第6位以下の下位悪魔に分類される
悪魔階級第6位とはバルバトスやプルスラスと同じである
第4位とはアモンの第5位を超える存在であり
人間では到底勝てる存在ではないのだ

ポリュペーモスの直属の部下に当たる悪魔も大量におり
自分達の主が瞬殺された事により、その足は止まっていた

だが、シウは眉一つ動かさずに次の1撃を放った
次の狙いは2本の長い角が生え、口はこめかみ辺りまで裂けている女の悪魔だ
悪魔王ベルゼビュートの元にいたあの悪魔である

女の悪魔の名は"フルーレティ"または"フラウロス"という
悪魔階級第2位に位置する悪魔である
あのサタナキアと同格の6体しかいない上位悪魔なのだ

この悪魔が2つの名を持つ理由は後々語るとしよう

シウの放った矢は一瞬で女悪魔を捉え、彼女の胸を貫く
・・・・が、その裂けた口は微笑んでいた

「あはぁん・・・気持ち・・いい」

頬を赤く染め、その悪魔は身悶える
ぶるぶるっと身体を震わせ、手足がぴんと伸び、軽い痙攣を起こす

その様子を見ていたシウにも動揺が走る
胸部を貫いたのだ、20センチ近い大穴が開いている
だが、奴はまるで・・・感じているようではないか

シウは嫌悪感を抱き、再び矢を放つ
その矢は光速で飛んで行き、再び女悪魔を貫くと思われたが
光の矢は途中で勢いが削がれ、地面に落下していた

「っ!?」

流石のシウもこれには驚いた
光の速さで飛んで行く矢を凍らせ地に落とすなど想像していなかったからだ
そして、矢から女悪魔へと視線を戻すと
既に胸の大穴は無くなっており、服の大穴も綺麗に戻っているではないか

「・・・これが悪魔ってやつね・・ちょっと舐めてたかな」

シウは距離を取りながら次に備えたが
女悪魔は首を振り、手に持つ何かの皮でできた扇子で口元を隠し
独特なくねくねとした動きをしながら女悪魔は言った

「待ってくんなまし、わっちは貴女に用はござりんせん」

「・・・・」

シウは弓を構えたまま黙って聞いていた
あの動きが気持ち悪く、若干の苛立ちを感じながら・・・

「主様の命令がありんす、口惜しいでありんすが、戯れはここまでにしんしょう」

そう言って後ろを向いた女悪魔の後頭部目掛けてシウは容赦なく矢を放った
これほどの強敵を倒さない理由がない、放おっておけば自分が危険だからだ

しかし、矢は女悪魔の手前で見えない壁にぶつかる
上位悪魔なら当然持っている魔法障壁である
その6枚の障壁を1枚も破ることは出来ずに光の矢は弾け飛んでいた

「ごきげんよう」

何事も無かったかのようにその女悪魔は霧のようになり消えて行った
彼女の退場により、辺りの悪魔達から動揺が走る
ここにいる全ての悪魔が知っていたのだ、彼女が第2位階級である上位悪魔だと・・・

上位悪魔という後ろ盾を失った下位から中位悪魔達は
目の前にいる第4位階級すら1撃で屠る存在に、その足が前へ進む事を拒んでいた

「逃げちゃった・・・ま、いっか」

ふぅ、と軽いため息を洩らし、シウは懐から日時計を取り出す
その動作に辺りの悪魔達はビクッと反応し身構えていた

さっきの女悪魔を逃したのは痛いけど、コイツ等放おって追えないしね
あの女悪魔は彼等に任せよう・・・多分大丈夫でしょ
さてと、残り時間は・・・21時間ってところか
ここから21時間休憩なしとか、わたし働きすぎじゃない?

はぁ、と大きなため息を洩らし、日時計を懐にしまい
辺りを見渡す・・・悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、嫌になるほど悪魔がいる
先程の女悪魔のような強者はいなそうではあるが
数が数である、油断は出来ない

動揺し、動きの止まっている悪魔達との距離を見て
瞳を閉じ、すーっと大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した

「神気解放」

シウがそう呟くと、彼女の髪は淡く光だし
開かれたその瞳の黒目は十字になり、手に持つ神器に様々な色の光が集う
その瞬間、彼女を中心に見えない波動が波紋のように広がってゆく

神気解放、それはまだオエングスすら使えぬ領域
先代の水の巫女であるマナ・マクリールが禁呪発動時に使用した事があるものだ
文字の通り、神の気、神の魔力を内から解放し
周囲の魔力を微量ずつ吸収してゆく神業(みわざ)である

神器を覚醒させた事により、四神クラスの力を得ている状態で
神気まで発動させると、瞬間的に四神をも超える力を有する事が出来る
しかし、その負担は大きく、長時間の使用は命に関わる
神の魔力に人類の魂では持たないのだ
短時間使用するだけで何かしらの後遺症が出てもおかしくはない
人の身にはそれほどの負荷が掛かる奇跡とも言える力なのだ

だが、シウには2つの魂・・・いや、魔力が存在する
彼女のその特異性により神気解放という神業を行使しても
短時間であれば後遺症といった症状が出る事は無い

何度か試したからシウは知っているのだ
しかし、流石のシウでもこれを連続で使い続ける事は出来ない
だから1撃だけに乗せて使う事にしたのだ

攻撃対象は全方位の悪魔の大軍、その数おおよそ1000

彼女の耳がピクピクと動き、敵の位置を正確に把握してゆく
その十字になった瞳でぐるりと見渡し、全ての敵の致命傷になりえる部位を見る
まさに狙いを定めたのだ、1000という数を同時に
そして、彼女は神器アプラマスを天に向け構えた

「第七凶星(マレフィクスイータ)」

1本の強く輝く光の矢は天高く上って行き、暗雲垂れ込める空へと消える
悪魔達は天を見上げ、これから何が起こるのか恐れていた

矢の吸い込まれていった分厚い雲の7箇所から光が洩れ始め
まるで漆黒の夜空に浮かぶ七つ星のようだった

七つ星、それはこの世界において重要な意味を持つ星々である
季節に関係なく輝くその星々は旅人には方位を確認するために必要な星だ
そのため、七つ星を神聖視する者もいるほどである

だが、それと同時に災いの星という一面も持っている

連なる七つの星の最後に数えられる"第七凶星"
普段はこの星だけ光が弱く、六つの星しか見える事はない
しかし、極稀にこの第七凶星が強く輝く日がある
その日は必ず災いが起こると言われており、凶星と呼ばれているのだ

第七凶星、シウはこの技にその名をつけた
それは、この技を目にした者にとってこれほどの災いは無いであろうから

あえて不吉の象徴たる第七凶星の名をつけたのには他にも理由がある
それは、このマレフィクスイータは技であり魔法だからだ
魔法とはその事象を具現化するために
自分がイメージしやすい言葉を使わなくてはならない

シウにとって一番嫌な出来事、それはこの第七凶星が輝く事である
彼女がこの技を編み出した時、空に光る七つの星のような輝きに
過去に見た第七凶星を思い起こされる

それは忘れもしない過去の記憶・・・

・・・・・

・・・



窓の無い地下では今が朝なのか夜なのかも分からない
ここには僅かなロウソクの明かりがあるだけだ
暗く、臭く、生きる気力の無い人達しかいない嫌な場所

わたしはもうすぐ11歳になる
後1年もしない内に醜い男達の相手をさせられるだろう

子供のわたし達は客が使った部屋の掃除をやらされていた
精液や愛液で汚れたシーツならまだいい
時には糞尿やら嘔吐物まで掃除させられるのだ
正直わたしはこの仕事が嫌で嫌で堪らなかった

でもこの仕事で良い点が1つだけある、それは窓の外を少しだけ見れる事だ
外の世界・・・見ることしか出来ない遠い世界
ガラス1枚向こう側は夢の世界なのだ

いつも通り掃除をしながら窓の外を眺めていると
いつもと違う1点に気づいた・・・

「あれ?・・・1つ星が多い」

いつ見ても空に輝く六つの星があった
わたしはその星は神様なんだと思っていたんだ
いつも空からわたし達を見下ろし、何もしてくれない神様
そんな神様が今日は一人多かった

一際輝く七つ目の星に目を奪われていると
見張りの男が部屋に入ってくるなり、わたしを蹴飛ばす

『おい!サボってんじゃねぇガキがっ!』

蹴られた背中が痛くてむせ返り、よろよろと立ち上がろうとすると
男は再び蹴りを入れ、倒れたわたしを何度も何度も蹴った

『俺が働いてるのに何故お前がサボってんだぁ?あぁん?!』

「ごめんなさい、ごめんなさい」

何度も謝るが、蹴る事は止めてくれなかった

『さっさと片付けろっ!』

最後に思いっきり蹴られ、わたしは部屋の隅まで転がる
男は部屋を出て行き、舌打ちをしながら扉を閉めた

「・・・・・」

しばらく立ち上がる事すら出来なかったわたしは
冷たい床に顔をつけながら、窓の外の空を見ていた

「う・・・・くっ・・・・はぁはぁ・・・・やっぱ星が1つ多い」

何となくわたしはあの星が嫌だった
あんな神様が顔を見せるからわたしは仕事が遅れてしまったんだ
だからアイツ等に蹴られるんだ

近くにあったテーブルを掴み、何とか立ち上がり
フラフラとした足取りで掃除を再開した
だが、この部屋を片付ければ終わりという訳ではない
まだ掃除が終わっていない部屋が1部屋あるのだ
その部屋はまだ客が使用中で、中から絶叫とも言える仲間の悲鳴が聞こえていた

もうすぐ終わるから先にこの部屋を片付けろ
それが男の言った命令だった
わたしは何とか部屋の掃除を終わらせ廊下に出る
すると、ちょうど客が部屋から出てくるところだった
客は手触りの良さそうなハンカチで顔や口元を拭きながら現れた

「最高だったよ」

「へへ、まいど」

出てきた客はとても高そうな服を着ており
普段の客とは完全に別格なのが見て分かった
それは見張りの男の媚びへつらう態度からも明らかだった

「おい、掃除しとけ」

見張りの男はわたしにそう命令し、再び客に媚びを売る
男と客が出口の方へと消え、わたしは使われたばかりの部屋へと向かった

「・・・・?」

扉のノブに手をかけた時、嗅いだことのないニオイがした
なんだろう?と思いながらも、またサボっていると蹴られては堪らないので
扉を開け、部屋に入る

「・・・・・・・あ」

中には仲間"だった"者がまだいた
いや・・・仲間だった者がそこにある、と言った方がいいかもしれない
彼女はパッと見て分かるくらいに死んでいた

「・・ココシュカ?」

彼女の名はココシュカと言う、わたしより5歳上の年長組だ
わたしの呼びかけに彼女は応えてくれない
そんな事は分かってる、見れば分かるんだ
でも呼ばずにはいられなかったんだ

恐る恐るココシュカに近寄ると、わたしの目は彼女の片方の目と合った
もう片方の目は無く、その腹部は裂かれ、腕や太股の肉も削がれている
よく見れば頬の肉も削がれており、胸も両方無かった

「う・・おぇぇぇぇっ」

思わず吐いてしまう
数時間前まで普通に話していたココシュカを知っている
それがなんで、なんでこんな姿になっているの?
涙が溢れ、現実を受け入れたくなくて、頭を振ると
視界の隅に見知らぬ物があった

「・・・・・・・え?」

"それ"をよく見ると何かの器具のようだった
初めて見る"それ"に恐る恐る近寄ってみると
この独特なニオイの発生源がこれなんだと気づく


その上にはココシュカの片胸が乗っていた


鼻をつくこのニオイは彼女の胸が焦げるニオイだった
そう、これは物を焼く器具だ
中にはまだ火のくすぶる薪が見え、その上に鉄の網が敷かれている
網の上には彼女の胸が置いてあり、火で炙られ焦げていた

「・・・なんで・・・こんなヒドいこと・・・」

そして、シウは気づいてしまった
器具の横にあるテーブルにあった物で全て察してしまった

「うそっ・・・うそっ!」

テーブルにあったのは数枚の平皿とナイフとフォーク
その皿には焼かれた彼女の肉が残されており、わたしは全て理解した

これが人間のする事なの!?嘘でしょ??
だって・・・だって・・・・そんな・・・・食べるだなんて・・・

再び吐き気がし、胃の中に残っていた僅かな胃液を吐き出す
ゲホゲホと喉に残った胃液を吐き出し、何とか呼吸を整える
喉や食道から痛みが来るが、今は気にならなかった
そんな些細な事よりも、今は考えなきゃいけない事がある

このままここにいればわたしも食べられてしまうかもしれない

そう考えるだけで全身から嫌な汗が吹き出し
空っぽの胃から何かが出ようとしてくる

「うっ・・・はぁはぁ・・・」

ダメだ、ここにいちゃダメだ
ここにいるとわたしは殺される・・・・逃げなきゃ、そうだ、逃げなきゃ!

シウはおぞましい物が乗っているテーブルへと近づき
それを使って彼女を食べたであろうナイフとフォークを手に取り
ココシュカだったモノに目を向ける

「・・・・・」

わたしは特別ココシュカと仲が良かったわけじゃない
でも、彼女は年長組で、子供のわたし達をいつも庇ってくれていた
何度かカビの生えたパンの切れ端を貰った事もあったかもしれない
具なんて入っていないスープを分けて貰った事もあったかもしれない
子供なんかより遥かに食べなきゃいけないはずなのに・・・

「ココシュカ・・・・わたしは行くね」

彼女の残された片目を閉じさせ、シーツをかけてやる
そして、扉の横に身を潜め、手に握るナイフとフォークに力を込めた

しばらくすると見張りの男が戻ってくる足音がし
シウは入り口から死角になる位置に移動し、息を止めじっとその時を待った

「おい!またサボってねぇだろう・・・な?」

男が室内を見渡し、わたしを探す
でも無駄だ、お前にわたしは見つけられない
今わたしがいるのはお前の頭上なのだから

シウはフォークを天井に深く突き刺し、それを掴んで待っていた
握力はギリギリだったが、狙い通り男は気づいていない

『おいっ!』

シウが叫び、びくっと肩を震わせた男は真上を見上げる
その瞬間シウは天井を蹴り一気に落下し
手に持つナイフは男の目に深く突き刺さった

「ぐぎゃ」

ナイフは根本まで刺さり、男は絶命して倒れた
シウは男の腰にある鉈を奪い、更に鍵を奪い
部屋の入口から廊下の様子を伺った

彼女の大きな猫耳がぴくぴくと細かく動き音を探るが
幸い、まだ気づかれてはいないようだった

シウは右手に痛みを感じ、鉈で男の服を破りそれを手に巻いた
先程ナイフを突き刺した時に痛めたのだ

部屋から顔を出し、廊下の様子を伺う
地下室の方向から複数の男の声が聞こえ、戻る事は難しいと判断し
一人で逃げる事を決め、足音すらさせず廊下を突き進み
いつも客が出て行く扉の前まで来て、耳を押し当てる

「・・・・・・」

この扉の向こう側に男が3人いる
でも出口は多分ここしかない、窓には鉄格子がついていたからだ
殺れるだろうか・・・不安で吐き気が来るが今は我慢した

覚悟を決めたわたしは男から奪った鍵で扉を開け、全力で走った
わたしに気づいた男が驚いた顔をしていたが、その喉を鉈で斬ってやった
呼吸が出来なくて少し暴れてたが、大量の血が吹き出し
倒れそうだったから身体を支えて音がしないように寝かした

今殺した男から手斧を奪って、小さなナイフも2本奪った
男のベルトを外して自分に巻き、手斧やナイフを差し込む
少し動きにくいけど武器は必要だ

再び足音もさせず廊下を進み、2人目の男を発見した
私は全力で手斧を投げつけ、斧はくるくると回転して飛んでいく
でも、斧は刃が逆向きの時に男に当たってしまった

『痛ぇっ!』

男は後頭部をさすりながら振り向く
わたしは全力で距離を詰め、鉈を男の下腹に突き刺し、一気に振り上げた

『やああああっ!!』

自分を励ますように叫び、最後まで振り抜いた
すると、男の腹は裂け、臓物がはみ出し、ガクガクと震えながら倒れる

いける!わたしでも勝てる!

どうして早くこうしなかったんだろうと考えながら
さっきハズした手斧を腰に差し、何かないか死体を漁っていると
金貨の入った袋があった、多分これはお金というやつなんだろう
前に見張りから聞いた事がある、世界は金が全てなんだ、と
わたしはそれを懐にしまい、立ち上がる

『おい!お前なにやってんだっ!!』

わたしは戦闘の興奮で辺りの警戒を怠っていた
3人目に見つかってしまい、男は高い音のする笛を吹く

ピーーーーーーーーーーーーーーーッ!

まずい、男達が集まってきちゃう
わたしはベルトに差していた2本のナイフを投げつける
男は腕でそれを防ぐ、一応2本とも刺さったが深手ではない
むしろ、相手を怒らせてしまう結果となった

『このガキ、殺してやるっ!』

わたしの背の2倍はありそうな男は腰から鉈を抜き
ゆっくりと距離を詰めてくる

「・・・・・」

わたしは黙ったまま隙を伺っていた
それを諦めたと思った男はニヤけはじめ、わたしを見下してくる

「へっ、ガキが調子こきやがって・・・あ~あ、どうしてくれんだよ」

わたしの背後にある死体を見て男は言った
だが、わたしはこの時を待っていたのだ
男の視線がわたしから逸れるその瞬間を待っていた

「ココシュカを・・・肉を焦がす炎よ」

わたしはありったけの憎しみを込めて唱えた
左手には直径15cmほどの火球が出現し、男の足は止まる
そう、私は魔法が使えるんだよ
火球を男へと投げつけ、同時にわたしも走る

男は火球にビビり、避ける事はできず、少しばかり服に火がつく
火に怯えて暴れる男を殺すのは簡単だった
まず膝の裏を斬りつけ立てなくし、そのまま奴の喉を斬り裂いた

返り血を拭きながら息を整え、1番大きな扉の鍵を開ける
そして、わたしは館から初めて外に出た

最初に感じたのは"風"だった
初めて感じたそれはとても気持ちよくて、胸いっぱいに吸い込んだ

「すごい・・・いい匂い」

森の匂い、土の匂い、夜の匂い、それらが胸いっぱいに広がる
嬉しさと感動のあまり目に涙が溢れそうになるが
視界の隅で人影が4つ見え、わたしは走り出す

闇夜に紛れるように森を走るが
追っ手から放たれる矢が右肩と腰辺りに刺さり、意識が飛びそうになる
唇を噛む事で何とか意識を保ち、わたしは走り続けた

どれだけ走ったか分からない
もう足が動かない、息も続かない、意識も朦朧としている

もう・・・走れない・・・・

まだ遠くから男達の声が聞こえている
ダメだ、ここで止まっちゃダメだ、捕まったら殺される
そう思った瞬間、わたしの身体はふわっと宙に浮く

「あ・・・」

浮いたと思っていたわたしの身体は落ちていただけだった
わたしは崖から落下し、下に流れていた川に落ちる
全身の力が入らない、川に落ちた衝撃で武器も落としてしまった

もうダメだ、わたしは限界だ・・・・

諦めかけたその時、川の流れに身を任せながら空を見ていた
そこに浮かぶのは七つの星、一際輝くいつもはいない七人目の神様

「君のせいだぞ・・・今日は最悪だ」

そして、わたしは意識を失った

・・・・・

・・・



「第七凶星(マレフィクスイータ)」

1本の光り輝く矢は天に上り、空へと消える
分厚い雲から七つの光が漏れ、悪魔達は空を見上げていた

シウはその光を眺め、嫌な記憶を呼び起こされる
この力はわたしにとって最悪であり、最強の力

「本物の恐怖を教えてあげるよ」

シウがニッと歯を見せ微笑むと同時に
空に輝く七つの光から無情の光の雨が降る

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

第七凶星

辺り一帯は光の矢の雨が降り注ぎ
1000を超える悪魔達は次々に撃ち抜かれる

『痛でええええええよおおお!』

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

そこら中から悪魔の叫び声が響き渡る
逃げる事など許されず、光の雨は容赦なく身体を貫く

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

『に、逃げろおおおおおおお!!』

悪魔が叫ぶが、その叫びは無意味だ
逃げ場など無いのだから

『た、たた、助けてくれえええええ!』

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

光の矢は止むことを知らぬように約5分間も降り続け
止んだ時には立っている者はシウ以外いなかった

ゆっくりと雲は晴れてゆく・・・・

シウを中心に分厚く覆っていた雲は晴れ
まるでスポットライトを浴びているかのように彼女は立っていた

「ふぅ・・・」

シウは神気を解除し、首をポキポキっと鳴らす
辺りを見渡し、生き残りがいないか確認してから彼女は腰を下ろした

「やっぱ1発が限界かニャ~・・・痛たた」

1000を超える死体の山の中央で、光を浴びて空を見上げる
そんな彼女の姿を遥か遠くから見ている悪魔達がいた

「神の使徒め・・・忌々しいですねぇ」

「しかし、凄まじい力であったな」

「えぇそうですねぇ、例の水使いと同等くらいでしょうか」

「どうだろうな、それ以上にも思えるが・・・」

「貴様、アレに勝てますかねぇ?」

「さぁな、やってみぬ事には分からぬ」

「流石の貴様でも断言はできませぬか、ケケケ」

「我が王に迫る力を感じた、おヌシもぬかるでないぞ」

「判っていますとも、ケケケ」

・・・・・

・・・



1000の悪魔を倒し、休憩していたシウは今は移動している
彼女が向かったのは魔界と現世の狭間、大地が茶から紫に変わる場所だ
そこで彼女は座り、悪魔達を待っていた

「後16時間・・・ってとこかニャ?」

日時計を見ているが、曇っているので正確な時間が分からない

「ま、いっか、始まるまで頑張るしかないニャ~♪」

荷物袋から保存食を取り出し、適当に口に放り込んでゆく
干し芋の3つ目を食べようとしていた所でお客が来たようだ

「思ったより早かったニャァ・・・お仕事お仕事っと」

よっと声を出して立ち上がったシウはお尻をパンパンと払い
軽い準備運動をしてから神器アプラマスを手にする

彼女の前に広がる魔界から、悪魔の大軍が再び姿を現していた
その数は増える一方で、1000や2000なんてものではない
中には強い魔力を持つ者も混ざっており、流石のシウも嫌な汗が流れる

「ちょっと本気出しすぎじゃないかニャ~・・・」

だが、引くわけにはいかないシウは覚悟を決め、気合いを入れた

『やっちゃるかー!』

これから16時間続く死闘を語る者は人も悪魔もいない




神のみぞ知る英雄の物語



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