2017_08
04
(Fri)10:41

ナラビカミ 後輩 其の1

オリジナル小説 【ナラビカミ 後輩 其の一】

今回から各キャラの短編です。
とりあえず今回の話が終わるまでカタクリズムは停止して一気に行きます!

では続きを読むからどうぞー。




ナラビカミ【後輩:其の一】





5月21日。

雨城先輩の失踪から10日ほどが経っていた。
俺達は何事も無かったかのように"普段"の生活へと戻り、
毎日飽きもせず学校に通っている。
だが、再び訪れた俺達の退屈な生活に新たな風が吹く事となる。

それは、ある年下の女の子との出会いだ。

この学校に彼女を知らない男子はいないと断言出来る。
彼女は圧倒的に"可愛い"のだ。
「可愛いは作れる」、何処の誰だか知らんが、
そんなアホらしい事を言った人がいたらしい…が、
彼女はまさに、それを体現する存在と言える紛うことなき美少女だ。

ある一点を除いては…。

・・・・・

・・・



「空ちゃん、どうしたの?」

下校時間になるというのに廊下でぼーっとしていた俺を心配してか、
海未が俺を見上げて声をかけてくる。

「んや、なんでもねぇよ」

本当に何でもない…雨城先輩の件とは無関係だ。
俺はただこの夕暮れの色が好きなだけで、それを眺めていただけなんだ。
でも、海未はそうは思ってくれないだろうな。

「…ホントに?」

ほらな、やっぱり心配してくる。
違うんだ海未…俺は、そんなに優しい男じゃないんだ…。

「あぁ、ホントだよ。腹減っただけだ、早く帰ろうぜ」

俺はそう言い、少しばかり強引に歩き出した。
この何でもないようで、ボタンを掛け違ったような違和感の日々。
それがどうしても耐えられなく、日常に戻りたかった。

「うん」

海未は小走りに俺の横に並び、下駄箱までの道を一緒に歩く。
1階に降りた時、赤いジャージの少女が大量の紙の束を抱えていた。
紙束は何かの資料だろうか、それは彼女の顔を隠すほどで、
その足取りは泥酔したサラリーマンのようにとても危なっかしい。

「空ちゃん…」

俺の裾を掴む海未が言わんとしている事は分かっている。
俺は黙って頷き、鞄を海未に手渡して彼女に近づいて行く。

「大変そうだな、手伝おうか?」

声をかけられた事により俺に気づいた彼女は紙束の山から顔を覗かせる。
その顔を見た瞬間、俺の胸がドキッと大きく跳ねた。

「あ、助かりますぅ~♪わたしって力無いじゃないですかぁ~?」

いや、それは知らんけどな。
手に持つ紙束を半分持とうとすると、
彼女は背伸びをして「んっ」と声を上げ紙束を全て俺の手の上に乗せる。

「うおっ!」

予想していなかった重量に一瞬フラつくが、
俺はわりと身体を鍛えている方なので即座に安定させる。

「ありがとうございますぅ~♪せ~んぱいっ」

後輩ちゃん

彼女は1つ下の女の子でこの学校で1番の有名人とも言えるだろう。
名前は「小泉 ツク(こいずみ つく)」、世に言う学校のアイドルというやつだ。

「気にしないでくれ、ところで何処まで運べばいいんだ?」

正直俺は全く興味無いんだが、やたら男子からは人気が高い。
だが、こう間近で見てみると…確かに見た目は芸能人かと思うほど可愛いな。
そんな事を考えていると、小泉ツクは頬に人差し指を当てながら、
俺にずずいっと近寄り、上目遣いで目を潤ませ言う。

「職員室です、せ・ん・ぱ・い」

いちいち言い方が色っぽいというか、なんというか…。
これはあれか、この子は俺を誘っているのか?

健全な男子高校生を舐めるなよ?

挨拶されただけでドキッとするし、髪を結う姿を見ただけでときめくし、
ボディタッチなんてしてきた日には夜中は大変なんだぞ?
それが美少女からなら尚更な!!

そこで俺は気づく…なるほど、これが彼女の人気の理由か、と。

「それじゃ行くか」

俺は彼女に対してドキッとはしたが、理由に気づき、一気に冷静になった。
そんな俺の態度に小泉ツクは若干不満そうに着いてくる。
俺達の後ろから海未がちょこちょこと着いてくると、
それに気づいた小泉ツクが明らかに不快そうな顔を海未に向けた。

「何なんですか」

その声は先程までの猫なで声とは別人かと思うほど冷たく、
同じ女の子からここまで違う声が出るのかと恐怖するレベルだった。
明らかな敵意を向けられた海未はビクッと肩を震わせ硬直した。

「海未、下駄箱で待っててくれていいぞ」

すかさずフォローを入れると海未はぎこちない笑顔になり、
「わかったー」とだけ言い残し、
てこてこと小走りに下駄箱へと向かっていった。

おそらく小泉ツクが苦手なのだろう。
海未はどちらかというと気の弱い子だ。
一方、小泉ツクは男に全力で媚びるスタイルで、
女子には敵意剥き出しという極端な性格だ。
海未が得意な相手な訳もなく、そそくさと逃げたのは正解だろう。

「あの人ってぇ、先輩の彼女さんですかぁ~?」

「違う違う、隣に住んでる幼馴染ってやつだ」

「へぇ~♪」

なんですか、その嬉しそうな顔は、俺をときめかせたいんですか。
それは「わたしが彼女になってあげましょうかぁ?」ってやつですか。
ダメだ、いちいちこの子は誘っている気がしていかん。

職員室まで紙束を届けた俺達は廊下に出る。

「ありがとうございました、せ~んぱいっ♪」

いちいち上目遣いするのやめてもらっていいですか。

「あぁ、それじゃ俺は行くから」

「はい。あの…また頼っても…いいですか?」

その上目遣いをやめたらな…。

「あぁ」

俺は少しだけ早足でその場を去った。
小泉ツク、一言で言うなら「あざとい子」だ。
分かってはいる、それが彼女の狙いという事も。
だが…だが!健全な男の子には結構効くんだよ!!

下駄箱で海未と合流した俺は彼女から鞄を受け取り、一緒に下校する。
その帰り道で海未はぎこちない笑顔で聞いてきた。

「あの子…小泉さんだよね?」

「そうだな」

「可愛かったね」

「そうだな」

「…空ちゃんも小泉さん…好きなの?」

「ぶっ!」

思わず吹き出した、発想がぶっ飛び過ぎだ。

「どうしてそうなった」

「えー…だって、小泉さん可愛いし、男の子から人気あるんでしょ?」

確かに人気はあるが…お前は分かっていないな。
お前も小泉ツクに負けず劣らずの容姿を持っているんだぞ?
チビだけどな。

「人気はあるみたいだけどな、俺は興味ねぇよ」

「そう…なんだ」

その後は他愛もない会話をしながら帰宅した。

・・・・・

・・・



5月22日。

翌朝、海未を起こしに行くと、いつもより寝起きの悪い彼女が顔を出す。

「おーい、ちゃんと起きてるかー?」

「う~ん、だいりょ~ぶ~」

こりゃダメだな、二度寝フラグだ。

「海未、ちゃんと起きてこないともう飴やらないからな」

「えっ!やだっ!!」

一瞬で覚醒したようだ、作戦は成功だ。

「ちゃんと起きろよ~」

俺はそう言い残し、ボロ屋へと戻って行く。
朝食や朝の支度を済ませ、海未が来るのを待っていた。

「・・・・・」

いつもならそろそろ来るはずなんだが…。

「・・・・・」

遅くないか?

「・・・・・」

おかしい、まさか二度寝したのか?
俺は鞄を手に玄関へと向かい、建付けの悪い扉を開く。

「わっ!」

すると目の前に海未が立っており、今まさに扉を開けようとしていた。

「おぉ、悪い」

「ううん…それじゃ、一緒に…行こ?」

俺を見上げながら海未は言う。
まるで昨日の小泉ツクのようだったが、不思議と俺の胸はドキッとしない。
幼馴染だからな、もう見慣れている光景なんだ。
海未は小さいからいつでも俺を見上げているしな。

「あぁ、遅刻しちまう、急ごう」

学校までの道をいつも通り並んで歩いていると、
どうも海未の様子がおかしい。
何がおかしいかと言うと、やたら髪をいじっている。
だが、見たところ髪を切った気配もないし、寝癖も見当たらない。

「お前、なにしてんの?」

「え?!べ、別に?」

明らかに慌ててるじゃないか、それで「別に」は通じないぞ?

「今日の髪が気に入らないのか?」

「ん~…そういうのじゃないんだけど…」

煮え切らない海未に若干の苛立ちを覚え、
俺はその髪をわしゃわしゃとこねくり回す。

「わ~、や~め~て~」

海未は必死に抵抗するが、無駄な努力はするもんじゃないぞ。

「いつもと変わらん、いつも通り綺麗な髪だよ」

頭から手を放し、ぽんぽんっと2度手を置いてから歩き出す。
海未はしばらく俯いてから、鞄から櫛を取り出し、
髪を解かしながら俺の横を歩いていた。

「危ないぞ、待っててやるから歩きながらやるな」

「うん、ありがと~」

しばらくして海未の髪は綺麗に整い、櫛を鞄にしまう。

「どう…かな?」

「バッチリだ、シャンプーのCMのモデルみたいだぞ」

「それは言い過ぎだよ~」

顔を真っ赤にして反論する海未は可愛らしく、
その表情に俺の鼓動は早くなる。

こうして俺達はいつも通り学校に向かった。

・・・・・

・・・



「……‥は………‥ったけど……………ないよ、私……気にしないで………」

これは夢、それは分かっている。
でも不思議なんだ、寒い…とても寒いんだ。
まるで雪が溶けるように意識は溶けてゆき、俺は目覚める。
目覚めは最悪だ、身体は冷たく、だるい。

どうやら俺は教室で眠っていたらしい。
今は放課後か…外がオレンジ色に染まっている。

「帰る…か」

のろのろと立ち上がり、ゆっくりと下駄箱へ向かう。
今日は海未とは帰らない、あいつは舞の練習があるからだ。
俺は日課である海未との下校という行事が乱されるのを、
心のどこかで嫌がっていた。

「ま、しゃーないよな」

そんな独り言をごちり、靴に履き替えていると、
下駄箱の隅からゆるいパーマの明るい髪色をした少女が顔を覗かせる。

「せ~んぱいっ♪」

「ん?あぁ、小泉ツクか、どうした」

「わたしの名前知ってたんですねぇ~」

「あ…あぁ、お前有名だからな」

「そうなんですかぁ~?」

そう言いながらも満更でも無さそうに微笑む。

「昨日聞き忘れちゃったんですけど、先輩ってなんてお名前なんですかぁ~?」

「俺か?俺は"尾野 空"だよ」

「空先輩か…覚えました~♪」

「ちなみに昨日いたチビっ子は"大多良 海未"な」

「あ、そっちはいいんで」

分かりやすいなぁコイツ。
しかし、よくこの性格で人気が出るもんだ。
見た目は確かに良いが…それを言ったら海未だって人気出そうじゃないか?
…もしかして…俺が知らないだけで人気あるのか…?

「先輩、ちょっとお願いがあるんですよぉ~」

「ん、なんだ?」

「わたしって忙しいじゃないですかぁ~?」

いや、知らないからね。

「代わりにこれお願いできます?」

うるうると目を輝かせながら上目遣いに小泉ツクは言う。
彼女の言う"これ"とは体育で使ったであろうハードルだった。

「それお前の仕事なんじゃねーの?」

「そうなんですけど~、わたしって忙しいじゃないですかぁ~?」

いや、知らないからね。

「手伝ってくれると助かるな~、なんて」

「なんで俺」

「先輩くらいしか頼れる人がいないんですよぉ…」

何この破壊力、怖い。
もじもじしないで、上目遣いやめて、目を潤ませないで!!

「ったく、面倒だな…分かった、手伝ってやる」

「ホントですかぁ~?ありがとうございます~♪」

そう言い、小泉ツクは行こうとするが、俺はそれを許さない。

「何しれっと行こうとしてる、
 お前を手伝うとは言ったが、全部俺一人でやるとは言っていないぞ」

「えーーー、わたし忙しいんですよ~?」

「知らん、ほら、お前も持て」

「・・・・はぁい」

渋々了承した小泉ツクはジャージの袖を伸ばしてハードルに手をかける。
萌え袖ってやつか?ここまであざといとある意味すごいな。
こうして俺達はハードルを体育倉庫まで片付けに向かう。



そして俺は知る事になる、学校一の美少女の現実を……。



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